説明

トレミー管を用いた土砂の投入方法および土砂の投入装置

【課題】投入土砂によるトレミー管の閉塞を防止しつつ、汚濁の拡散を抑制できるトレミー管を用いた土砂の投入方法および土砂の投入装置を提供する。
【解決手段】土砂Sを投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の大きな水Wを、吸引ポンプ5を用いて吸入管4を通じてくみ上げ、ホッパ3を通じてトレミー管2の上端から管内に注入しつつ、コンベヤベルト8で運搬した土砂Sを、ホッパ3からトレミー管2を通じて水底に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレミー管を用いた土砂の投入方法および土砂の投入装置に関し、さらに詳しくは、投入土砂によるトレミー管の閉塞を防止しつつ、汚濁の拡散を抑制できるトレミー管を用いた土砂の投入方法および土砂の投入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海等の水底に土砂を投入する際に、トレミー管を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1の第1図〜第4図)。トレミー管を通じて海底に土砂を投入する際には、管内で土砂が詰まって閉塞しないように、例えば、海面近傍(水深1m〜2m程度)からくみ上げた海水をトレミー管の上端から注入するようにしている。また、投入土砂により生じる汚濁の拡散を抑制するために、種々の提案がなされている。特許文献1では、トレミー管の下端の撒布口の周囲に濁水吸入口を設け、発生した濁水を濁水吸入口から吸入してトレミー管内に中途からノズルで噴出するようにしている(第5図〜第8図等参照)。
【0003】
ところで、水底の窪地に土砂を投入して埋め戻す際に、夏季よりも秋季に、汚濁が拡散し易いことが報告されている。そこで、本願発明者らは、この現象に注目し、汚濁拡散に対する水域の水の密度の影響を分析した。この分析で得た知見に基づいて、種々検討を重ねることにより、投入土砂によるトレミー管の閉塞を防止しつつ、投入土砂により生じる汚濁の拡散を抑制する手法を創作するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−119035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、投入土砂によるトレミー管の閉塞を防止しつつ、汚濁の拡散を抑制できるトレミー管を用いた土砂の投入方法および土砂の投入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のトレミー管を用いた土砂の投入方法は、土砂を投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を、トレミー管の上端から注入しつつ、トレミー管を通じて土砂を水底に投入することを特徴とする。
【0007】
本発明の土砂の投入装置は、土砂を投入する現場の水底近傍から水上に立設されるトレミー管と、この現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を、トレミー管の上端から注入させる注水手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トレミー管の上端から水を注入しつつ、土砂を投入することにより、トレミー管内での土砂の閉塞を防止することができる。しかも、土砂を投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を使用するので、水面近傍の水を使用した場合に比して水の密度が高いことが作用して、土砂投入した際に汚濁が拡散し難くなる。
【0009】
ここで、本発明の土砂の投入方法では、例えば、前記現場において、この現場の水面近傍よりも深い位置から水をくみ上げ、この水をトレミー管の上端から注入する。本発明の土砂の投入装置では、例えば、前記注水手段が、前記現場の水面近傍よりも深い位置から前記トレミー管の上方まで延びる吸入管と、この吸入管に接続される吸入ポンプとにより構成される。これにより、土砂を投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を、容易に確保することができる。
【0010】
また、本発明の土砂の投入方法では、例えば、前記現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を予め用意しておき、この水をトレミー管の上端から注入する。本発明の土砂の投入装置では、例えば、前記注水手段が、予め用意した前記現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクから前記トレミー管の上方まで延びる吸入管と、この吸入管に接続される吸入ポンプとにより構成される。これにより、土砂を投入する現場の水深(水底)に存在する水よりも密度の高い水を、トレミー管の中に注入することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の土砂の投入装置の実施形態を例示する説明図である。
【図2】土砂の投入装置の別の実施形態を例示する説明図である。
【図3】実験装置を示す説明図である。
【図4】実施例1の汚濁拡散状態を数値計算に基づいて示した説明図である。
【図5】実施例2の汚濁拡散状態を数値計算に基づいて示した説明図である。
【図6】比較例1の汚濁拡散状態を数値計算に基づいて示した説明図である。
【図7】比較例2の汚濁拡散状態を数値計算に基づいて示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のトレミー管を用いた土砂の投入方法およびその装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように本発明の土砂の投入装置1は、トレミー管2と、トレミー管2の上端から水Wをトレミー管2内に流入させる吸入管4および吸入ポンプ5で構成される注水手段とを備えている。
【0014】
トレミー管2は、作業船9に設けられた保持部材7によって保持されて、土砂Sを投入する現場の水底近傍から水上に立設される。トレミー管2の上端にはホッパ3が設置されている。トレミー管2の大きさは、例えば、内径が1m〜5m程度、全長が7m〜25m程度、肉厚が10mm〜15mm程度である。
【0015】
この実施形態では、トレミー管2は、ストレートな円筒鋼管を用いているが、ストレート形状に限らず、下方がより拡径した形状等を用いることができる。また、トレミー管2は、伸縮タイプ、非伸縮タイプの両方を用いることができる。伸縮タイプの場合は、例えば、複数の管体をテレスコピック状に連結した構造にする。非伸縮タイプの場合は、単純な一本管、或いは、複数の管体を継ぎ足した構造にする。トレミー管2は単管に限らず、内管と外管とで構成される二重管を用いることもできる。
【0016】
吸入管4の下端は現場の水面近傍よりも深くて水底に接しない位置に配置されている。本願発明の水面近傍とは、水面から1〜2m程度の位置である。例えば、吸入管4の下端は水深Hの20%〜50%の水深h(=H×20%〜50%)よりも深くて水底に接しない位置に配置され、上端はホッパ3の上部開口に配置されている。このように吸入管4は、所定の水深位置からトレミー管2の上方まで延設されている。吸入ポンプ5は作業船9の船上に設置され、吸入管4の中途に設けられている。吸入管4は例えば、樹脂製の可撓性のあるパイプ等を用いる。
【0017】
ホッパ3に隣接して土砂投入手段となるコンベヤベルト8が設置されている。コンベヤベルト8はホッパ3を通じて、作業船9に積載された土砂Sをトレミー管2に投入する。土砂投入手段としてはその他に、バックホウのバケット等を用いることができる。
【0018】
この土砂の投入装置1を用いて水底に土砂Sを投入する方法は以下の手順となる。
【0019】
まず、コンベヤベルト8を用いて、土砂Sをホッパ3に投入する。この際に、吸入ポンプ5を稼働させて吸入管4を通じてホッパ3に水Wを注入する。即ち、注水手段によって、土砂Sを投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水Wを、トレミー管2の上端から管内に注入する。このようにして、高い密度の水W(水底に存在する水との密度差が小さい水W)を、トレミー管2の上端から注入しつつ、トレミー管2を通じて所定量の土砂Sを水底に投入する。海での施工では、現場の海面近傍に存在する海水よりも塩分濃度が高い水Wを、トレミー管2の中に注入しつつ土砂Sを水底に投入する。
【0020】
トレミー管2の中には水Wを注入しているので、粘性が高い土砂Sの場合は、この水Wによって、トレミー管2の内壁に土砂Sが付着することが防止される。また、一度に投入される土砂Sの量が過大であっても、この水Wによって、土砂Sの流れがトレミー管2の内壁との摩擦に妨げられることなく円滑になる。それ故、水Wの注入によって土砂Sがトレミー管2の中で詰まり難くなり、トレミー管2の閉塞を防止できる。
【0021】
さらに、トレミー管2に注入する水Wは、水面近傍の水と比較して高密度であり、水底の水との密度差が小さい。それ故、この水Wとともに投入される土砂Sは、トレミー管2の下端から開放されても水中を浮遊し難くなり、汚濁の拡散が抑制される。特に、上方への汚濁の拡がりは小さくなる。密度の高い水を使用するほど、汚濁の拡散を抑制するには有利になる。
【0022】
海では水深が深い程、海水の密度(塩分濃度)が高い傾向にある。また、夏季など、水温が高くなるほど水深方向で水の密度差が大きくなる。そこで、トレミー管2の管内に注入する水Wの密度を、土砂Sを投入する水底に存在する水の密度に近づけるために、吸入管4の下端は、好ましくは水深Hの50%、より好ましくは70%、さらに好ましくは90%よりも深い位置に配置するのがさらに好ましい。
【0023】
このように吸入管4を配置することで、水底に存在する水との密度差がより小さい水Wを、トレミー管2の中に注入することができる。即ち、海での施工では、水底に存在する海水との塩分濃度差がより小さい水Wをトレミー管2の中に注入できる。これにより、投入した土砂Sによる汚濁の拡散を一段と抑制することが可能になる。
【0024】
現場の水深Hに存在する水よりも密度が過大である水を使用すると、生態系などに悪影響が生じるおそれがある。そのため、理想的には、土砂Sを投入する水底に存在する水と同じ密度の水Wを、トレミー管2の上端から管内に注入する。
【0025】
図2に例示する土砂投入装置1の別の実施形態は、先の実施形態の注水手段のみを変更したものである。この注水手段は、吸入管4、吸入ポンプ5および貯留タンク6により構成されている。吸入管4の一端は貯留タンク6の内部に配置され、他端はホッパ3の上端開口に配置されている。貯留タンク6の設置場所は船内に限らず、船上にすることもできる。
【0026】
貯留タンク6には、土砂Sを投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水Wが貯留されている。この実施形態の場合、土砂Sを投入する現場の水面近傍に存在する水の密度を予め把握しておき、その密度よりも高い密度の水Wを貯留タンク6に貯留する。そして、貯留タンク6に貯留した水Wを、吸入管4を通じてトレミー管2の上端から管内に注入しつつ、トレミー管2を通じて土砂Sを水底に投入する。
【0027】
この実施形態では、土砂Sを投入する現場の水深Hに存在する水よりも高密度の水Wを、トレミー管2の中に注入することも可能になる。即ち、海での施工では、その水深Hに存在する海水よりも塩分濃度の高い水Wを利用することもできる。
【0028】
好ましくは水深Hの50%、より好ましくは70%、さらに好ましくは90%の水深に存在する水よりも密度の高い水Wを貯留タンク6に貯留して、上述した実施形態と同様に、土砂Sを投入する水底に存在する水との密度差がより小さい水Wを、トレミー管2の管内に注入できる構成にする。
【0029】
本発明は、例えば水深Hが5m〜30mの場合に適用することができる。また、海での施工に限らず河川湖沼などでの施工にも適用することができる。
【実施例】
【0030】
図3に示す上下2層(上層ULと下層DL)の密度構造を模擬できる実験装置10を用いて水理実験を行なった。実験装置10は、水を収容した水槽12に立設する鉛直管11を有し、鉛直管11の上端には、開閉バルブ14を介してリザーブタンク13が接続されている。そして、リザーブタンク13の濁水MWを水槽12の底面に投入し、汚濁の拡散状態を確認した。実験条件は表1に示すように、水槽12に収容した水の成層の有無と濁水MWの溶媒密度のみを異ならせて、4種類(実施例1および2、比較例1および2)について実験を行なった。
【0031】
水槽12は一辺が300mmの直方体であり、鉛直管11は、トレミー管を模擬したものであり、サイズが長さ300mm、内径24mm、図3に示すように下端を水槽12の底面から50mm上方に位置するように配置した。密度成層の最大密度差は、2kg/m3とし、実験中の水温変化は微小なものとして、塩分で水槽12に収容した水の密度を調整した。また、土砂を水槽12内の水に直接投入すると、微妙な条件の違いによって濁りの発生量が大きく変化するため、実験の再現性が高い濁水MWを投入することにした。濁りの粒子にはカオリン(最大粒径0.0750mm、粘土分77.6%、シルト分22.4%、土粒子密度ρ=2690kg/m3)を使用し、その溶媒には水槽12内の水と同じものを用いて密度1010kg/m3を作成した。
【0032】
実験は、開閉バルブ14を瞬時に開放することにより、4秒間で100cm3の濁水MWを連続的に投入した。濁水投入から38分50秒後(実験では300秒後に相当)の汚濁の拡散状態を図4〜7に示す。尚、図4〜図7は数値計算に基づいて汚濁の拡散状態を示したものであるが、実験結果と整合していることを確認しているので、実験結果として見做せるデータである。図4〜図7では色の濃い部分ほど濁水MWが多く分布していることを示している。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1および2、比較例1および2のすべて場合において、濁水投入初期には水槽12の底面を這うように濁りが拡がった。その後、実施例1、2では図4および図5に示すように、汚濁の拡散は底面に限定された。一方、比較例1および2では図6および図7に示すように、時間の経過とともに汚濁が徐々に上方にも拡散した。これらの結果により、濁水の溶媒と投入地点の水塊との密度差によって汚濁の拡散状態が異なり、密度差の小さい溶媒を用いた実施例1および2では、汚濁の拡散を抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 投入装置
2 トレミー管
2a 保持部材
3 ホッパ
4 吸入管
5 吸入ポンプ
6 貯留タンク
7 流入管
8 コンベヤベルト
9 作業船
10 実験装置
11 鉛直管
12 水槽
13 リザーブタンク
14 開閉バルブ
S 土砂
W 水
MW 濁水
UL 上層
DL 下層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂を投入する現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を、トレミー管の上端から注入しつつ、トレミー管を通じて土砂を水底に投入することを特徴とするトレミー管を用いた土砂の投入方法。
【請求項2】
前記現場において、この現場の水面近傍よりも深い位置から水をくみ上げ、この水をトレミー管の上端から注入する請求項1に記載のトレミー管を用いた土砂の投入方法。
【請求項3】
前記現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を予め用意しておき、この水をトレミー管の上端から注入する請求項1に記載のトレミー管を用いた土砂の投入方法。
【請求項4】
土砂を投入する現場の水底近傍から水上に立設されるトレミー管と、この現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を、トレミー管の上端から注入させる注水手段とを備えたことを特徴とする土砂の投入装置。
【請求項5】
前記注水手段が、前記現場の水面近傍よりも深い位置から前記トレミー管の上方まで延びる吸入管と、この吸入管に接続される吸入ポンプとにより構成される請求項4に記載の土砂の投入装置。
【請求項6】
前記注水手段が、予め用意した前記現場の水面近傍に存在する水よりも密度の高い水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクから前記トレミー管の上方まで延びる吸入管と、この吸入管に接続される吸入ポンプとにより構成される請求項4に記載の土砂の投入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−87581(P2012−87581A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236895(P2010−236895)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月5日 社団法人土木学会発行の「土木学会 平成22年度全国大会 第65回年次学術講演会講演概要集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】