説明

トロイダル型無段変速機

【課題】ローディングカム式の押圧装置の機能を損なうことなく、ローラとカム面との接触部に対して常に十分な潤滑油を供給することができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】保持器47の外周部の軸方向両端から、ローディンカム46と外側ディスク2のそれぞれの側に、軸方向に沿って、円筒部47aが設けられ、円筒部47aの内周面47bは、外側ディスク2の外周面2c及び前記ローディングカム46の外周面46cと重畳している。外側ディスク外周面2c及びローディングカム外周面46cのそれぞれの中央部に対向する、保持器47のそれぞれの内周面47b,47bには円周方向に延びる溝47c,47cが形成されており、それぞれの溝47c,47cにシールリング49,49を設けることにより、ローディングカム装置45の内部に潤滑油が密閉され、ローラ48を油密状態とする密閉部50が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル型無段変速機、特に各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速機として、図9および図10に略示するようなトロイダル型無段変速機を使用することが一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、入力軸1と同心に入力側ディスク2を支持し、入力軸1と同心に配置された出力軸3の端部に、出力側ディスク4を固定している。トロイダル型無段変速機を納めたケーシングの内側には、入力軸1並びに出力軸3に対し捻れの位置にある枢軸(傾転軸)5,5を中心として揺動するトラニオン6,6が設けられている。各トラニオン6,6には、パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、入力側および出力側の両ディスク2,4の間に挟持(転接)されている。
【0003】
入力側および出力側の両ディスク2,4の互いに対向する内周面2a,4aの断面はそれぞれ、枢軸5を中心とする円弧或いはこのような円弧に近い曲線を回転させて得られる凹面を成している。そして、球状の凸面に形成された各パワーローラ11,11の周面11a,11aが各内周面2a,4aに当接されている。
【0004】
入力軸1と入力側ディスク2との間には、ローディングカム式の押圧装置12が設けられている。この押圧装置12は、入力側ディスク2を出力側ディスク4に向けて弾性的に押圧している。また、押圧装置12は、入力軸1と共に回転するカム板13と、保持器14により保持された複数個(例えば4個)のローラ15とから構成されている。また、カム板13の片側面(図9および図10の左側面)には、周方向に亙って凹凸面(波状面)であるカム面16が形成され、入力側ディスク2の外側面(図9および図10の右側面)にも同様のカム面17が形成されている。そして、複数個のローラ15は、入力軸1に対して放射方向に延びる軸を中心に回転できるように、支持されている。
【0005】
このような構成のトロイダル型無段変速機においては、入力軸1を回転させると、その回転に伴ってカム板13が回転し、カム面16によって複数個のローラ15,15が、入力側ディスク2の外側面に設けられたカム面17に押圧される。この結果、入力側ディスク2が複数のパワーローラ11,11に押圧されると同時に、一対のカム面16,17と複数個のローラ15,15の転動面との押し付け合いに基づいて、入力側ディスク2が回転する。そして、この入力側ディスク2の回転が、各パワーローラ11,11を介して、出力側ディスク4に伝達され、この出力側ディスク4に固定された出力軸3が回転する。
【0006】
入力軸1と出力軸3との回転速度を変える場合であって、入力軸1と出力軸3との間で減速を行なう場合には、枢軸5,5を中心として各トラニオン6,6を揺動させ、各パワーローラ11,11の周面11a,11aが、図9に示すように、入力側ディスク2の内周面2aの中心寄り部分と出力側ディスク4の内周面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接するように、各変位軸9,9を傾斜させる。
【0007】
反対に、増速を行なう場合には、各トラニオン6,6を揺動させ、各パワーローラ11,11の周面11a,11aが、図10に示すように、入力側ディスク2の内周面2aの外周寄り部分と出力側ディスク4の内周面4aの中心寄り部分とにそれぞれ当接するように、各変位軸9,9を傾斜させる。各変位軸9,9の傾斜角度を図9と図10との中間にすれば、入力軸1と出力軸3との間で、中間の変速比が得られる。
【0008】
図11および図12には、より具体化されたダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機の一例が示されている。なお、図9および図10と共通する構成部材に関しては、以下、同一符号を付して、その詳細な説明または図示を省略する。
【0009】
これらの図に示すように、ケーシング101の内側には、入力軸200が回転自在に支持されている。入力軸200の両端寄り部分には、第1および第2の入力側ディスク2,2がそれぞれ、ボールスプライン96を介して支持されている。この場合、第1および第2の入力側ディスク2,2は、その内周面2a,2a同士を互いに対向させた状態で同心的に配置されるとともに、ケーシング101の内側で互いに同期して回転できる。
【0010】
入力軸200の中間部の周囲には、第1および第2の出力側ディスク4,4がスリーブ109を介して支持されている。スリーブ109の中間部の外周面には、出力歯車110が一体に設けられている。この出力歯車110は、入力軸200と同心的に配置されるとともに、入力軸200の外径よりも大きな内径を有している。また、出力歯車110は、一対の転がり軸受112を介して、ケーシング101内に設けられた支持壁111に回転自在に支持されている。
【0011】
第1および第2の出力側ディスク4,4は、スリーブ109の両端部にスプライン係合されている。この場合、出力側ディスク4,4は、それぞれの内周面4a,4aを互いに反対方向に向けた状態で配置されている。したがって、入力側ディスク2と出力側ディスク4は、その内周面2a,4a同士が互いに対向している。
【0012】
図12に示すように、ケーシング101の内側であって、出力側ディスク4,4の側方位置には、両ディスク4,4を両側から挟む状態で一対のヨーク113a,113bが支持されている。これら一対のヨーク113a,113bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン6の両端部に設けられた枢軸5を揺動自在に支持するため、ヨーク113a,113bの四隅には、円形の支持孔118が設けられるとともに、ヨーク113a,113bの幅方向の中央部には、円形の係止孔119が設けられている。
【0013】
一対のヨーク113a,113bは、ケーシング101の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト20a,20bにより、僅かに変位できるように支持されている。これらの支持ポスト20a,20bはそれぞれ、入力側ディスク2の内周面2aと出力側ディスク4の内周面4aとの間にある第1キャビティ21および第2キャビティ22にそれぞれ対向する状態で設けられている。なお、ポスト20aには、トラニオン6の傾転量を規制する傾転ストッパ150が設けられている。
【0014】
したがって、ヨーク113a,113bは、各支持ポスト20a,20bに支持された状態で、その一端部が第1キャビティ21の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ22の外周部分に対向している。
【0015】
第1および第2のキャビティ21,22は同一構造であるため、以下、第1キャビティ21のみについて説明する。
【0016】
第1キャビティ21には、一対のトラニオン6が設けられている。トラニオン6の両端部には同心的に枢軸5が設けられており、これらの枢軸5は一対のヨーク113a,113bの一端部に揺動且つ軸方向に変位自在に支持されている。すなわち、枢軸5は、ヨーク113a,113bの一端部に形成された支持孔118の内側に、ラジアルニードル軸受26によって支持されている。ラジアルニードル軸受26は、その外周面が球状凸面で且つその内周面が円筒面である外輪27と、複数本のニードル28とから構成されている。
【0017】
トラニオン6の中間部にはそれぞれ、円孔30が設けられている。また、各円孔30には変位軸31が支持されている。変位軸31はそれぞれ、互いに平行で且つ偏心した第1の軸部33と第2の軸部34とを有している。このうち、第1の軸部33は、円孔30の内側に、ラジアルニードル軸受35を介して支持されている。また、第2の軸部34の周囲には、別のラジアルニードル軸受38を介して、パワーローラ11が支持されている。
【0018】
なお、第1および第2キャビティ21,22毎に一対ずつ設けられた変位軸31は、第1および第2キャビティ21,22毎に、入力軸200に対して180度反対側に位置して設けられている。また、変位軸31の各第2の軸部34が各第1の軸部33に対して偏心している方向は、入力側ディスク2,2と出力側ディスク4,4の回転方向に関して同方向となっている。また、偏心方向は入力軸200の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、パワーローラ11は、入力軸200の長手方向に沿って僅かに変位できるように支持されている。その結果、トロイダル型無段変速機により伝達されるトルクの変動に基づく構成部材の弾性変形量の変動等に起因して、パワーローラ11が入力軸200の軸方向に変位する傾向となった場合でも、構成部材に無理な力が加わることがなく、その変位を吸収することができる。
【0019】
また、パワーローラ11の外周面とトラニオン6の中間部内周面との間には、パワーローラ11の外側面から順に、スラスト玉軸受39と、滑り軸受あるいはニードル軸受等のスラスト軸受40とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受39は、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11の回転を許容する。また、スラスト軸受40は、パワーローラ11からスラスト玉軸受39の外輪41に加わるスラスト荷重を支承しつつ、第2の軸部34および外輪41が第1の軸部33を中心に揺動することを許容する。
【0020】
トラニオン6の一端部にはそれぞれ、駆動ロッド42が結合されている。また、これらの駆動ロッド42の中間部外周面には、駆動ピストン43が固着されている。この駆動ピストン43は、駆動シリンダ44内に油密に嵌装されている。そして、駆動ピストン43がトラニオン5を軸方向に変位させるためのアクチュエータを構成している。
【0021】
図11に示すように、駆動軸310と一方の入力側ディスク2との間には、ローディングカム式の押圧装置45が設けられており、この押圧装置45によって、入力側ディスク2を出力側ディスク4に向け弾性的に押圧しつつ、この入力側ディスク2を回転駆動自在としている。また、この押圧装置45は、駆動軸310と共に回転するローディングカム(カム板)46と、保持器47により転動自在に保持された複数個(例えば4個)のローラ(転動体)48とから構成されている。ローディングカム46の片側面(図11の右側面)には、円周方向に亙る凹凸(波状部)であるカム面46aが形成され、入力側ディスク2の外側面(図11の左側面)にも、同様の形状を有するカム面2bが形成されている。なお、駆動軸310の端部とローディングカム46との間には、スラスト荷重を支承自在なアンギュラ型の玉軸受(アンギュラ軸受)210が介挿されている。また、ローディングカム46は、その爪部46bが駆動軸310の嵌合部310aと嵌合状態で結合している。
【0022】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の運転時、駆動310の回転は、押圧装置45を介して、一方の入力側ディスク2に伝えられ、この入力側ディスク2と他方の入力側ディスク2とが互いに同期して入力軸200と共に回転する。入力側ディスク2,2の回転は、パワーローラ11を介して、出力側ディスク4,4に伝えられる。出力側ディスク4,4の回転は、出力歯車110により取り出される。
【0023】
入力軸200と出力歯車110との間の回転速度比を変える場合には、制御弁(図示しない)の切換えに基づいて、第1および第2のキャビティ21,22に対応してそれぞれ一対ずつ設けられた駆動ピストン43を、各キャビティ21,22毎に互いに逆方向に同じ距離だけ変位させる。これらの駆動ピストン43の変位に伴って、一対ずつ合計4個のトラニオン6がそれぞれ逆方向に変位し、一方のパワーローラ11が下側に、他方のパワーローラ11が上側にそれぞれ変位する。その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと、入力側ディスク2,2の内周面2a,2a、出力側ディスク4,4の内周面4a,4aとの当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化する。そして、その力の向きの変化に伴って、トラニオン6がヨーク113a,113bに枢支された枢軸5を中心として逆方向に揺動する。この結果、パワーローラ11の周面と、入力側ディスク2,2、出力側ディスク4,4との当接位置が変化し、入力軸200と出力歯車110との間の回転速度比が変化する。
【0024】
ところで、このようなトロイダル型無段変速機における前記ローディングカム式の押圧装置45では、入力軸1が回転され、その回転に伴ってカム板13が回転し、カム面16によって複数個のローラ15,15が、入力側ディスク2の外側面に設けられたカム面17に押圧されている最中に、カム面2b,46aおよびローラ48の表面を十分に潤滑することが必要であるが、不十分であると、フレッチング摩耗等の損傷が発生する虞があった。
【0025】
このようなローディングカム式の押圧装置45のカム面2b,46aおよびローラ48のフレッチング摩耗等の損傷を防ぐために、ローディングカム装置45のローディングカム46と外側面にカム面を有するディスクとの間に、ローラ15を浸漬する油溜部を形成することが特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開平02−261950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、特許文献1に記載のトロイダル型無段変速機では、油溜部を形成する為に設けた環状の部材が、ローディングカム又はディスクに設けられており、環状の部材をディスクに設ける場合は、ディスクの外周部に、環状の部材を取り付けるための溝を加工し、環状の部材をディスクに固定することになり、環状の部材をローディングカムに設ける場合は、ローディングカムの外周部に、環状の部材を取り付けるための取り付け部を加工し、取り付け部に環状の部材をローディングカムに固定し、ディスクの外周部に、シールを取り付けるための溝を加工することになり、トロイダル型無段変速機の動作(変速)時に応力の高くなる部分に溝等を加工するため、その部分を基点に割れ等の問題が懸念される。また、トロイダル型無段変速機の動作時のローディングカム又はディスクの弾性変形により、環状の部材とそれに対向する部材との干渉等の問題が懸念される。
【0028】
本発明は、上記の様な事情に鑑みて、ローディングカム式の押圧装置の機能を損なうことなく、ローラとカム面との接触部に対して常に十分な潤滑油を供給することができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、エンジンからの回転力が入力される入力軸と、この入力軸に結合されて入力軸と一体で回転する外側ディスクと、この外側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して外側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける内側ディスクと、前記外側ディスクの背面に配置され且つ前記内側ディスクを軸方向へ押圧するローディングカム式の押圧装置とを備え、前記押圧装置は、ローディングカムと、このローディングカムのカム面と前記外側ディスクのカム面との間で保持器により転動自在に保持された転動体とを有して成るトロイダル型無段変速機であって、前記保持器は、前記ローディングカムの所定部位の外周に被嵌する環状の本体を有し、前記本体の外周には、前記外側ディスクの外周面及び前記ローディングカムの外周面と重畳する円筒部が設けられ、前記外側ディスクと前記ローディングカムと前記円筒部とにより潤滑油の密閉部が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、ローディングカムと外側ディスクとローディングカムのカム面と外側ディスクのカム面との間の転動体転を動自在に保持する保持器とにより潤滑油の密閉部が形成されているため、ローディングカム式の押圧装置の機能を損なうことなく、転動体とカム面との接触部に対して常に十分な潤滑油を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明する図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の変形例を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例を説明する図。
【図5】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例の組み立てを説明する図。
【図6】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例の組み立てを説明する図。
【図7】本発明の第1の実施の形態の第3の変形例を説明する図。
【図8】本発明の第1の実施の形態の第3の変形例の組み立てを説明する図。
【図9】従来から知られているトロイダル型無段変速機の基本的構成の最大減速時の状態を示す図。
【図10】従来から知られているトロイダル型無段変速機の基本的構成の最大増速時の状態を示す図。
【図11】従来の具体的構造の一例を示す図。
【図12】図11のB−B線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1〜2は、本発明の第1の実施の形態を示している。本発明の特徴は、ローディングカム式の押圧装置の転動体であるローラを潤滑油により浸漬状態にするために、保持器の形状を工夫した点にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図11〜図12と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0033】
図1は、ローディングカム式の押圧装置45およびその周辺部分を示している。この図1から分かるように、保持器47の外周部の軸方向両端から、ローディンカム46と外側ディスク2のそれぞれの側に、軸方向に沿って、円筒部47aが設けられている。また、円筒部47aの内周面47bは、外側ディスク2の外周面2c及び前記ローディングカム46の外周面46cと重畳している。外側ディスク外周面2c及びローディングカム外周面46cのそれぞれの中央部に対向する、保持器47のそれぞれの内周面47b,47bには円周方向に延びる溝47c,47cが形成されており、それぞれの溝47c,47cにシール部材としてOリング49,49が設けられている。これにより、ローディングカム装置45の内部に潤滑油が密閉され、ローラ48を油密状態とする密閉部50が形成される。また、シール部材としては、上記機能を有するシール部材であれば、Oリング49,49に替えて用いても構わない。
【0034】
また、図2は、拡大した保持器の外周部を示している。本発明では、ローディングカム式の押圧装置45の保持器円筒部47aのローディングカム側内周面47bをローディングカムの外周面46cによりガイドしている。そして、保持器47の円筒部47aと外側ディスク2との間の隙間Sdを、保持器47の円筒部47aとローディングカム46との間の隙間Scより大きくしてあり(Sc<Sd)、保持器47の円筒部47aと外側ディスク2との間の隙間Sdを、外側ディスク2が弾性変形したとしても、保持器47の円筒部47aと干渉しない程度の隙間としてある。
【0035】
以上のように、第1の実施の形態においては、保持器47と外側ディスク2とローディングカム46により形成された密閉部50が油溜りとなり、ローラ48とカム面2a,46aとの接触部に対して常に十分な潤滑油を供給することができる。また、油溜りにより発生する遠心油圧が、ローディングカム式の押圧装置45による軸力をアシストすることになり、ローディングカム式の押圧装置45のカムリードを大きく設定することができるため、ローディングカム式の押圧装置45を高寿命化及び小型化することができる。
【0036】
また、ローディングカム式の押圧装置45の保持器47のローディングカム側円筒部47aの内周面47bをローディングカム46の外周面46cによりガイドすることにより、従来行われている保持器の内周面をそれに対向するローディングカムの外周面によりガイドすることを行なわなくてもよくなり、ローディングカムのガイド面を精度良く仕上げる必要がなくなり、加工工程の削減となり、コストを削減できる。
【0037】
図3は、本発明の第1の実施の形態の変形例を示している。図示のように、本変形例においては、シール部材であるOリング49,49の数を増やしてある。シール部材を増やすことで、より確実に潤滑油を密閉することができる。その他の効果については、第1の実施の形態と同様である。
【0038】
図4〜5は、本発明の第1の実施の形態の第2の変形例を示している。図示のように、本変形例においては、保持器47の環状の本体47dと円筒部47eとを別体としている。本変形例では、図5(a)>図5(b)>図5(c)の順のように、環状の本体47dの軸方向から円筒部47eをスライドさせて組み立てる。組み立てに際して、本体47dと円筒部47eは、圧入としても、溶着としてもよい。また、ローディングカム式の押圧装置45の組み立てに際しては、保持器47を組み立てたものを用いても、図6のように、本体47dのみによりローディングカム式の押圧装置45を組み立てた後に、円筒部47eを軸方向からスライドさせ組み込んでもよい。効果については、第1の実施の形態と同様である。
【0039】
図7〜8は、本発明の第1の実施の形態の第3の変形例を示している。図示のように、本変形例においても、第2の変形例と同様に、保持器47の環状の本体47dと円筒部47fとを別体としている。本変形例の場合は、環状の本体47dの径方向から円弧状に複数に分割した円筒部47fを嵌めて組み立てる。組み立てに際して、本体47dと円筒部47fは、圧入としても、溶着としてもよい。また、ローディングカム式の押圧装置45の組み立てに際しては、保持器47を組み立てたものを用いても、図8(a)>図8(b)の順のように、本体47dのみによりローディングカム式の押圧装置45を組み立てた後に、円筒部47fを径方向から嵌めて組み込んでもよい。効果については、第1の実施の形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などのハーフトロイダル型無段変速機やフルトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 入力軸
2 入力側ディスク
2a 周面
2b カム面
2c 外周面
3 出力軸
4 出力側ディスク
4a 周面
5 枢軸
6 トラニオン
9 変位軸
11 パワーローラ
11a 周面
12 押圧装置
13 カム板
14 保持器
15 ローラ
16 カム面
17 カム面
20a 支持ポスト
20b 支持ポスト
21 第1キャビティ
22 第2キャビティ
26 ラジアルニードル軸受
27 外輪
28 ニードル
30 円孔
31 変位軸
33 第1の軸部
34 第2の軸部
35 ラジアルニードル軸受
38 ラジアルニードル軸受
39 スラスト玉軸受
40 スラスト軸受
41 外輪
42 駆動ロッド
43 駆動ピストン
44 駆動シリンダ
45 ローディング式の押圧装置
46 ローディングカム
46a カム面
46b 爪部
46c 外周面
47 保持器
47a 円筒部
47b 内周面
47c 溝
47d 本体
47e 円筒部
47f 円筒部
48 ローラ
49 Oリング
50 密閉部
96 ボールスプライン
101 ケーシング
109 スリーブ
110 出力歯車
111 支持壁
112 転がり軸受
113a ヨーク
113b ヨーク
118 支持孔
119 係止孔
150 傾転ストッパ
200 入力軸
310 駆動軸
310a 嵌合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの回転力が入力される入力軸と、この入力軸に結合されて入力軸と一体で回転する外側ディスクと、この外側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して外側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける内側ディスクと、前記外側ディスクの背面に配置され且つ前記内側ディスクを軸方向へ押圧するローディングカム式の押圧装置とを備え、前記押圧装置は、ローディングカムと、このローディングカムのカム面と前記外側ディスクのカム面との間で保持器により転動自在に保持された転動体とを有して成るトロイダル型無段変速機において、
前記保持器は、前記ローディングカムの所定部位の外周に被嵌する環状の本体を有し、前記本体の外周には、前記外側ディスクの外周面及び前記ローディングカムの外周面と重畳する円筒部が設けられ、
前記外側ディスクと前記ローディングカムと前記円筒部とにより潤滑油の密閉部が形成されたことを特徴とするトロイダル型無段変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−100884(P2013−100884A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245695(P2011−245695)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】