説明

トロッカー用内針

【課題】トロッカー刺入時に、トロッカーの先端面の露出を防止でき得る内針を提供する。
【解決手段】患者の体内に手術具を導くトロッカー100内に、挿脱可能に挿通されるトロッカー用内針10は、針部36と被覆部38を備える。針部36は、トロッカー100が体内へ刺入する間は、前記トロッカー100の先端から突出して患者の体を切り進み、前記トロッカー100が体内に到達した後は、前記トロッカー100内を通って外部に取り出される。被覆部38は、前記針部36に接続され、前記トロッカー100の先端面を覆う形状と、前記トロッカー100内を通過可能な形状と、に変形可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロッカー内に、挿脱可能に挿通されるトロッカー用内針に関する。
【背景技術】
【0002】
手術の中には、内視鏡などの器具を患者の体腔内に挿入して行なうものがある。この場合、挿入器具の案内管としてトロッカーが広く知られている(例えば特許文献1など)。すなわち、管状のトロッカーの先端を、体腔内に刺し込んでおき、その後、器具を、このトロッカーを通して体腔内に導く。
【0003】
トロッカーを体腔内に刺し込む際には、トロッカーの内部に内針を挿入しておく。内針の先端には、体内を切り進む針部が設けられている。この針部を先端から突出させた状態で、トロッカーを体内に刺入させていく。トロッカーが、所望の位置まで刺入できれば、内針を、トロッカーを通して、外部に取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3180219号明細書
【特許文献2】特公昭61−525691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来の内針は、トロッカーを通過して外部に取り出される関係上、その外径が、トロッカーの内径よりも小さかった。そのため、トロッカーを体内に刺入させていく際、トロッカーの先端面は、どうしても、体内で露出した状態となっていた。トロッカー刺入時に、その先端面が、体内で露出している場合、次のような問題がある。まず、トロッカーの先端部は、刺入の際、滑らかに患者体内に刺入が可能なように内針と一体化するべく、ごく薄く加工されている。この部分は、上記理由から鋭利な形状とならざるを得ない。このため、手術中に患者臓器を傷つける恐れがあった。また、トロッカーのなかには、器具や内針が挿入される内管と、液体が流れる外管と、を備えた二重管構造のものがある。かかる構造のトロッカーにおいて、トロッカー刺入時に、その先端面が、体内で露出していると、外管に、脂肪や肉片が外管に詰まり、流体の円滑な吐出が妨げられる恐れもあった。なお、特許文献2には、体腔内に挿入される器具において、体腔内の液体を外部に排出するために当該液体を吸引するための排出孔の詰まりを、液体を逆流させる(排出孔から体腔内に液体を吐出)することで、解消する技術が開示されている。かかる技術によれば、詰まりという問題はある程度解消される。しかし、この技術では、詰まりを検知する機構などを別途設ける必要があり、器具全体が複雑化、大型化しやすいという問題があった。また、この特許文献2の技術では、トロッカーの先端面は露出されたままであり、患者の組織を傷つけるという問題は解決できない。
【0006】
つまり、従来、トロッカー刺入時に、その先端面が、体内で露出することを防止でき得る技術はなかった。そこで、本発明では、トロッカー刺入時に、トロッカーの先端面の露出を防止でき得る内針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトロッカー用内針は、患者の体内に手術具を導くトロッカー内に、挿脱可能に挿通されるトロッカー用内針であって、前記トロッカーが体内へ刺入する間は、前記トロッカーの先端から突出して患者の体を切り進み、前記トロッカーが体内に到達した後は、前記トロッカー内を通って外部に取り出される針部と、前記針部に接続された被覆部であって、前記トロッカーの先端面を覆う形状と、前記トロッカー内を通過可能な形状と、に変形可能な被覆部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
好適な態様では、前記被覆部は、前記針部に接続しており、その最大外径が可変の筒状である。この場合、前記被覆部は、先端側に近づくほど小径となるべく側面が傾斜した筒状であって、前記トロッカー用内針は、さらに、前記筒状の被覆部の内部に当接しつつ、前記被覆部に対して軸方向に相対進退することで、前記被覆部の外径を可変する当接部を備える、ことが望ましい。また、記被覆部は、ゴム状弾性材料からなる筒状部材であり、前記トロッカー用内針は、さらに、前記被覆部の基端に当接しつつ前記被覆部に対して軸方向に相対進退することで、前記被覆部を径方向に屈曲または屈曲解除させる当接面を備える、ことも望ましい。さらに、前記被覆部は、周方向に隣接配置された複数の分割片で構成され、前記トロッカー用内針は、さらに、前記分割片同士の間に進入し、各分割片間の間隙を拡大することで、前記被覆部の外径を拡大する中子を備える、ことも望ましい。
【0009】
他の好適な態様では、前記被覆部は、少なくとも後端において収縮性を備えた筒状シートであって、その先端が前記針部に連結され、その後端が前記トロッカーの先端に被せられる筒状シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記トロッカーの先端面を覆う形状と、前記トロッカー内を通過可能な形状と、に変形可能な被覆部を備えているため、トロッカー刺入時に、トロッカーの先端部を内針で覆って先端の鋭利な部分の露出を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態である内針をトロッカーに組み付けた様子を示す図である。
【図2】内針の斜視図である。
【図3】内針の要部断面図である。
【図4】他の内針の要部断面図である。
【図5】(A)、(B)は、他の内針の要部の側面図および上面図であり、(C)は中子の斜視図である。
【図6】他の内針の要部断面図である。
【図7】他の内針の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるトロッカー用内針10を、トロッカー100に組み付けた様子を示す図である。図1においてトロッカー100は、断面図で図示し、内針10は側面図として図示している。なお、縮尺は、要部が見やすいように実際の縮尺とは変更してある。
【0013】
はじめにトロッカー100の構成について簡単に説明する。トロッカー100は、内視鏡などの器具を患者の体腔内に導くための管体である。トロッカー100は全体として略円筒形であり、その基端(図1における下側端部)には、比較的大径の基部110が設けられている。手術時において、術者は基部110を握り本体102を位置決めする。
【0014】
トロッカー100の本体102は、内視鏡や内針10が挿通される内管104と、当該内管104と同心円外側に配置される外管106と、を備えた二重管構造となっている。内管104は、基部110も含め本体102全体を貫通しており、両端が開放されている。この内管104と外管106との間には、断面略環状の環状流路108が形成されている。この環状流路108は、本体102の長手方向に延びる一対の仕切り壁によって、吐出流路108aと、吸引流路108bと、に分割されている。そして、吐出流路108aの先端は、還流液(たとえば生理用食塩水)が吐出される吐出口109aとして、吸引流路108bの先端は、還流液が吸引される吸引口109bとして機能する。また、吐出流路108aおよび吸引流路108bは、それぞれ、基端近傍において、径方向外側に屈曲し、液吸引源、液供給源(いずれも図示せず)に接続される。
【0015】
手術時には、この吐出流路108aの先端面から体腔内に新しい還流液が供給されるとともに、体腔内において血液等が混ざった還流液は吸引流路108bから吸引され、外部に排出される。そして、このように新しい還流液を供給しつつ、古い還流液とともに不要な血液を吸引することにより、内視鏡手術のための視野(術野)を常に確保することが可能となる。
【0016】
内針10は、このトロッカー100を体外から体腔内に刺入させる際に用いられる。内針10の先端には、先端が尖った傘状体12が設けられている。トロッカー100を体外から体内に刺入させる際には、トロッカー100の内管104内に、内針10を挿通し、この傘状体12をトロッカー100先端から突出させておく。そして、傘状体12で患者の体内を切り進みながら、トロッカー100を体内に刺入させる。
【0017】
ここで、患者の体内を切り進む際、傘状体12の最大外径がトロッカー100の外径より小さい場合、トロッカー100の先端面の一部が、患者の体内において露出することになる。換言すれば、この場合、トロッカー100の先端の周縁(角部)や、吐出口109a、吸引口109bは、患者の体組織に接触しながら、体内を進むことになる。この場合、トロッカー100の角部が、患者の体組織を傷つけるおそれがあった。また、吐出口109aや吸引口109bに、肉片や脂肪が詰まり、還流液の潤滑な吸引・吐出が妨げられる恐れもあった。
【0018】
かかる問題は、当然ながら、傘状体12の最大外径を、トロッカー100の外径より大きくすれば解決できる。しかし、その場合、トロッカー100を所望の位置まで刺入させた後、内針10を、トロッカー100から抜き取れないという問題が生じる。すなわち、トロッカー100の先端から傘状体12を突出させた状態で、患者の体内を切り進み、トロッカー100を所望の位置まで到達させれば、内針10を手前側に引っ張り、トロッカー100から抜き取らなければならない。しかし、傘状体12の最大外径が、トロッカー100の内管104の径より大きい場合には、内針10を抜き取る際に、当該傘状体12が、トロッカー100の先端に引っかかってしまい、取り出せなくなってしまう。
【0019】
こうした問題を解決するために、本実施形態の内針10は、傘状体12の最大外径を変更可能としている。以下、この内針10の構成について、図1〜図3を参照して説明する。図2は、内針10の斜視図であり、図3は、内針10の要部断面図である。
【0020】
内針10は、トロッカー100の内管104に挿通されるシャフト部14と、当該シャフト部14の先端に設けられる傘状体12、シャフト部14の基端に設けられる基端部16に大別される。
【0021】
基端部16には、基端側から順に、操作ダイヤル20と連結フランジ22が軸方向に並んでいる。連結フランジ22は、内針10とトロッカー100とを連結するための部材で、トロッカー100を体内に刺入させる際には、トロッカー100の基部110に連結される。操作ダイヤル20は、後述するネジ軸26を自転させるためのダイヤルである。この操作ダイヤル20には、ネジ軸26の後端が固着されており、当該操作ダイヤル20を回転操作することで、ネジ軸26も自転するようになっている。
【0022】
シャフト部14は、シャフト本体24、ネジ軸26、および、当接体28を備える。シャフト本体24は、その両端が開口された管体で、その内部にはネジ軸26が挿通されている。ネジ軸26は、その先端に雄ネジが形成された軸体である。ネジ軸26の基端は操作ダイヤル20が固着され、ネジ軸26の先端には傘状体12が螺合されている。
【0023】
当接体28は、傘状体12の内面に当接する部材である。この当接体28は、シャフト本体24に固着されており、シャフト本体24との相対的位置は不変となっている。当接体28の中央には、軸方向に伸びる貫通孔が形成されており、この貫通孔には、ネジ軸26が挿通されている。貫通孔はネジ軸26より、やや大径となっており、ネジ軸26は自由に自転できるようになっている。
【0024】
当接体28の軸方向中央には、フランジ30が設けられている。当接体28は、このフランジ30を境界として、シャフト本体24に挿通される挿通部32と、シャフト本体24の外部に突出する当接部34と、に区分される。当接部34は、断面略長方形である。この当接部34の先端は、傘状体12の内部にまで達しており、当接部34の外面は、傘状体12の内面に当接している。
【0025】
傘状体12は、内針10の主要部となる部位で、体内を切り進む針部36とトロッカーの先端面を覆う被覆部38とが一体成形された部材である。傘状体12は、その名称の通り、先端が尖り、基端側に向かうにつれ、徐々に大径に広がる傘状となっている。傘状体12の基端は、トロッカー100の先端面と略平行になっている。本実施形態では、その先端が斜めに切り取られた形状のトロッカー100を用いているため、傘状体12の基端面も、斜めに切り取られた形状となっている。ただし、当然ながら、その先端が水平に切り取られた形状のトロッカー100を用いてもよく、その場合、傘状体12の基端面も、水平に切り取られた形状とすればよい。また、後に詳説するように、この傘状体12は、その最大外径が、内管104の内径より小さい径から、トロッカー100の外径より大きい径まで変更可能となっている。
【0026】
トロッカー100を体内に刺入させる際、この傘状体12は、トロッカー100の先端から突出し、患者の体内を切り進む。傘状体12のうち、先端部分は、実際に体内を切り進む針部36として機能する部位である。この先端部分は、中実構成となっており、高い剛性を有している。そのため、体内を切り進む際にも、変形等の心配がない。傘状体12の内部には、この先端部分から基端側に突出するリブ40が設けられている。このリブ40の中央には、ネジ軸26の先端が螺合される雌ネジが形成されている。
【0027】
傘状体12の先端部分以外の部分は、トロッカー100の先端面を覆う被覆部38として機能する。この被覆部38は、比較的、肉薄に形成された筒状となっている。被覆部38の側面は、軸方向に対して傾斜しており、被覆部38の径は、基端に近づくにつれ、大径となっている。この被覆部38の内部には、当接体28の当接部34が進入している。また、被覆部38には、基端から軸方向に伸びる略T字状の切り込み42が形成されている。この切り込み42は、180度対象の位置に一つずつ、合計二つ設けられている。かかる切り込み42を設けることで、被覆部38は、径方向への弾性変形しやすくなる。
【0028】
ここで、被覆部38の内面に当接している当接部34の断面形状は、既述した通り、略長方形である。被覆部38の断面形状は、この当接部34の長辺と同じ方向に長尺な略楕円形状となっている。さらに、この被覆部38の内面には、当接部34が当接している。この当接関係から、被覆部38(ひいては、傘状体12全体)は当接部34に対しての回転が規制され、軸方向への移動のみが許容されることになる。
【0029】
次に、以上のような構成の内針10において、傘状体12の最大外径が変更される原理について説明する。傘状体12の最大外径を変更する際には、操作ダイヤル20を操作して、ネジ軸26を自転させればよい。ネジ軸26の先端には、傘状体12が螺合されているが、この傘状体12は、当接部34との当接関係により、その回転が規制されている。その結果、ネジ軸26の自転に伴い、傘状体12は、軸方向にのみ移動することになる。換言すれば、ネジ軸26の自転に伴い、当接部34が被覆部38の内部に当接しつつ、被覆部38に対して軸方向に相対進退することになる。当接部34が、傘状体12の内面に当接しつつ先端側に相対移動すると、当該当接部34により被覆部38が外方向に押し広げられる。その結果、被覆部38側面の軸方向に対する傾斜角度が増加し、最大外径が拡大する方向に弾性変形する。一方、ネジ軸26が逆方向に自転し、当接部34が傘状体12の基端側に相対移動すると、この弾性変形が徐々に解除されていき、被覆部38側面の軸方向に対する傾斜角度が減少する。そして、結果として、傘状体12の最大外径が縮小する。つまり、本実施形態では、操作ダイヤル20を操作して、ネジ軸26を自転させることで、傘状体12の最大外径を変更することができるようになっている。
【0030】
かかる内針10を用いて、トロッカー100を体内に刺入させる際の流れについて説明する。既述した通り、トロッカー100を体内に刺入させる際には、予め、トロッカー100の内管104に内針10を挿通し、トロッカー100の先端から傘状体12を突出させておく必要がある。内針10をトロッカー100の内管104に挿通する際には、操作ダイヤル20を操作して、傘状体12を、当接部34から最も離れた位置に移動させておく。傘状体12を当接部34から離し、当接部34の先端を、傘状体12の基端側に位置させることで、傘状体12の最大外径が最も小さい状態、すなわち、内管104の内径より小さい状態になる。この状態になれば、内針10を、内管104の基端側から挿入する。
【0031】
傘状体12が、トロッカー100の先端から突出する位置まで、内針10が挿入できれば、続いて、傘状体12の最大外径を拡大する。すなわち、操作ダイヤル20を先ほどとは逆方向に回転し、傘状体12を、当接部34に近づく方向に移動させる。このとき、当接部34は、傘状体12を外方向に押し広げなら先端側に相対移動することになる。その結果、被覆部38側面の軸方向に対する傾斜角度が増加する。そして、被覆部38の基端における外径、すなわち、最大外径が拡大する。本実施形態では、傘状体12を当接部34に最も近づけたとき、傘状体12の最大外径が、図1に示すように、トロッカー100の外径より大きくなるようにしている。
【0032】
かかる状態になれば、トロッカー100の先端面は、傘状体12で、覆われ、隠されることになる。この状態になれば、内針10で患者の体内を切り進みながら、トロッカー100を患者の体内に刺入させていく。このとき、トロッカー100の先端面は、傘状体12で覆われ、隠されているため、トロッカー100の先端面が患者の体組織に接触する可能性が大幅に低下する。そして、結果として、トロッカー100の先端の角部が、患者の組織に当たって傷つくことが効果的に防止される。また、トロッカー100の先端に設けられた吸引口109bや吐出口109aに、肉片や脂肪などが詰まることも効果的に防止される。
【0033】
トロッカー100が所望の位置まで到達すれば、内針10を引き抜く。引き抜く際には、予め、操作ダイヤル20を回転操作し、傘状体12を、当接部34から離れる方向に移動させる。この移動に伴い、当接部34が、傘状体12の基端側に位置することになる。これにより、傘状体12の押し広げが解除されて、傘状体12の最大外径が、縮小する。そして、最終的に、傘状体12の最大外径が、トロッカー100の内管104の内径以下となれば、内針10全体を手前側に引っ張り、傘状体12を内管104に通して内針10を引き抜く。そして、その後は、内針10に変えて内視鏡をトロッカー100の内管104に挿通し、内視鏡手術等を行なえばよい。なお、内視鏡以外の手術具を内管104に挿通してもよい。
【0034】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態によれば、傘状体12、特に傘状体12のうち被覆部38が、内管104を通過可能な形状と、トロッカー100の先端面を覆う形状と、に変形する。その結果、トロッカー100を体内に刺入させる際に、当該トロッカー100の先端面が体内で露出することを防止しつつ、内針10を内管104に挿脱させることができる。
【0035】
なお、ここで説明した構成は、一例であり、内管104を通過可能な形状およびトロッカー100の先端面を覆う形状に変形する被覆部38、および、体内を切り進む針部36を備えているのであれば、他の形態であってもよい。
【0036】
例えば、図4に示すように、傘状体12を、ヒンジ接続された二つの傘片46a,46b(以下、両者を区別しない場合は「傘片46」と呼ぶ)で構成してもよい。各傘片46は、傘形状を縦に二つに分割したような形状をしている。一方の傘片46aの頂上近傍には軸孔48が形成されており、他方の傘片46bの頂上近傍にはヒンジ軸50が形成されている。
【0037】
他方の傘片46bのヒンジ軸50を、一方の傘片46aの軸孔48に挿通し、二つの傘片46を連結することにより、一つの傘状体12が形成されている。そして、二つの傘片46は、ヒンジ軸50を中心に、互いに回動自在となっている。そして、この二つの傘片46を、適宜、回動させることで、傘状体12の最大外径が調整される。
【0038】
なお、二つの傘片46を回動させる機構としては、種々の構成を採用することができる。例えば、図4に示すように、各傘片46の内側面に、軸方向に対して傾斜した方向に延びるカム溝52を形成し、二つのカム溝52に係合したカム体54を軸方向に進退させることで、二つの傘片46を回動させてもよい。また、別の機構として、二つの傘片46を互いに近づける方向に付勢するバネと、二つ傘片46の内側面に当接しつつ、軸方向に相対移動する当接体を設け、当接体を進退させることで二つの傘片46を回動させてもよい。いずれにしても、傘状体12をヒンジ結合された二つの傘片46で構成することにより、内管104を通過可能な形状およびトロッカー100の先端面を覆う形状に変形させることができる。なお、この形態では、傘状体12の先端部が、針部36に相当し、傘状体12の針部36以外の部分が、略筒状の被覆部38に相当する。
【0039】
また、別の形態として、図5に示すように、傘状体12およびシャフト部14を、根元において連結された複数の分割片60で構成してもよい。各分割片60は、傘状体12とシャフト部14とを、縦方向に四分割したような形状をしており、その根元(図示せず)において連結されている。この場合、図5(A)、図5(B)に示すように、各分割片60の間には、軸方向に延びる隙間62が存在することになる。かかる傘状体12の最大外径を拡大する際には、図5(C)に示すような、中子64を用いればよい。中子64の先端には、軸方向に延びる平板状の羽部66が、90度間隔で配置されており、上面視で、略十字状となっている。この中子64の羽部66を、各分割片60の間の隙間62に差し込んで、傘状体12の先端近傍まで進出させることで、各分割片60が外方向に押され、傘状体12の最大外径が拡大する。その結果、トロッカー100の先端面を覆うことが可能となる。また、中子64を、傘状体12から抜き取れば、弾性復元力により、各分割片60の間の隙間62を小さくする方向に各分割片60が移動し、傘状体12の最大外径が小さくなる。その結果、傘状体12が、トロッカー100の内管104内を通過可能となる。なお、この場合であっても、傘状体12の先端が、体内を切り進む針部36、その他の部分が略筒状の被覆部38に相当する。
【0040】
また、これまでは、針部36と被覆部38が一体化した例のみを挙げたが、針部36と被覆部38は、異なる材料からなる別部材としてもよい。例えば、図6に示すように、傘状体12を、先端が尖った針体70と、エラストマーなどのゴム状弾性材料からなる被覆体72と、で構成してもよい。被覆体72は、針体70の基端に固着されており、針体70とともに進退するようにしておく。
【0041】
そして、この場合、シャフト部14は、中空のシャフト本体24、当該シャフト本体24の先端に取り付けられる当接体28、および、シャフト本体24の内部に挿通された進退軸74で構成される。当接体28は、軸方向中央に設けられたフランジ30を境界として、シャフト部14の先端に挿通される挿通部32と、傘状体12の内部に進出して被覆部38の屈曲をガイドするガイド部76と、に区分される。当接体28のフランジ30の上面は、被覆体72が当接する当接面として機能する。ガイド部76は、図6に示すように、先端に近づくほど小径となるように傾斜しており、被覆体72の外方向への屈曲をガイドする。
【0042】
シャフト本体24の内部には、進退軸74が挿通されている。この進退軸74は、シャフト本体24および当接体28に対して進退自在となっている。進退軸74の先端には針体70が固着されており、針体70は、進退軸74とともに進退する。
【0043】
かかる構成の内針10において、傘状体12の最大外径を変更する場合には、進退軸74を進退させて、針体70および被覆体72を、シャフト部14および当接体28に対して進退させる。進退軸74の後退に伴い、針体70とフランジ30との間隙量が減少すれば、両者の間に位置する被覆体72の後端が、フランジ30の表面に押し付けられることになる。この押し付けにより、弾性材料からなる被覆体72は、径方向外側に屈曲変形する。そして、結果として、図6(B)に示すように、被覆体72の最大外径が拡大し、トロッカー100の先端面を覆うことができる。最大外径を内管104の内径以下に戻したい場合は、進退軸74を先端側に進出させ、被覆体72の押し付けを解除すればよい。押し付けが解除されれば、被覆体72は、屈曲変形する前の形状に弾性復元し、図6(A)の状態になる。
【0044】
なお、この被覆体72の径方向外側への屈曲変形を、確実に生じさせるためには、予め、被覆体72の基端に径方向外側へのクセをつけておいたり、被覆体72の内部に進入するガイド部76を基端側に近づくほど大径となる錐台形状としておいたりすることが望ましい。
【0045】
また、別の形態として、図7に示すように、被覆体72を、柔軟性を備え、種々の形状に変形可能な筒状シートで構成してもよい。この場合、被覆体72の先端は、針体70の後端に固着される。筒状シートである被覆体72は、少なくとも、その基端において、径方向に伸縮可能となっている。かかる被覆体72は、伸縮性のあるシート材料、例えば、ゴム状シートや、ストレッチ性のある布などで構成してもよいし、非伸縮性シート材料からなる筒状シートの基端に環状ゴムなどを取り付けて構成されてもよい。
【0046】
トロッカー100を体内に刺入させる際には、図7(A)に示すように、被覆体72の基端を、トロッカー100の先端外周に被せておく。この状態になれば、トロッカー100の先端面は、被覆体72により完全覆われ、隠される。そのため、体内を進む過程でても、当該トロッカー100先端面が体組織に当たることが防止され、結果として、体組織を不必要に傷つけたり、吐出口109a・吸引口109bが詰まったりすることが効果的に防止される。
【0047】
トロッカー100が所望の位置にまで到達すれば、シャフト部14を手前に引っ張り、内針10を引き抜けばよい。シャフト部14を手前に引っ張ると、内針10および当該内針10に固着された被覆体72も手前側に引っ張られることになる。この引っ張りにより、被覆体72は、トロッカー100先端から引き抜かれ、自由に変形可能となる。そして、図7(B)に示すように、被覆体72は、内管104を通過可能な形状に変形し、針体70とともに内管104を通って、外部に引き抜かれる。つまり、被覆体72を、筒状シートで構成する形態でも、トロッカー100の先端面が体内で露出するのを防止しつつ、内針10の挿脱が可能となる。
【0048】
また、さらに、別の形態として、針体70とトロッカー100先端面との間に設けた袋体で、被覆体72を構成してもよい。この場合、袋体には、流体(例えば水や空気)を供給または吸引する流体路を接続しておく。そして、トロッカー100の先端面を覆いたい場合には、被覆体72である袋体の内部に流体を供給し、被覆体72を膨張させればよい。また、内針10を、トロッカー100から引き抜きたい場合には、被覆体72から流体を吸引し、被覆体72を内管104の内径以下の大きさまで縮小すればよい。
【0049】
以上、これまで説明した内針を構成する材料は、腐食性が無く、生体適合性の材料があれば何でもよい。さらに、図1〜図5に示す内針の先端部(傘状体12)は、前記の条件の他に、高弾性の材料が必要となる。また、図6、図7の被覆体(ゴム状弾性材料)は弾性に富み、引裂強度の強いものが望ましい。
【0050】
また、これまでの説明では、手術中に、灌流液を吐出、吸引するトロッカー100に用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、トロッカー100のなかには、液体ではなく、気体を供給するものもある。かかるトロッカー100では、内針10や内視鏡が挿通される管体を備えているだけで、二重管構造とはなっていない。かかるトロッカー100においても、本実施形態の内針10を用いれば、トロッカー100の先端面で体組織を傷つける問題を効果的に防止できる。
【符号の説明】
【0051】
10 内針、12 傘状体、14 シャフト部、16 基端部、20 操作ダイヤル、22 連結フランジ、24 シャフト本体、26 ネジ軸、28 当接体、30 フランジ、36 針部、38 被覆部、46 傘片、60 分割片、64 中子、70 針体、72 被覆体、74 進退軸、76 ガイド部、100 トロッカー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内に手術具を導くトロッカー内に、挿脱可能に挿通されるトロッカー用内針であって、
前記トロッカーが体内へ刺入する間は、前記トロッカーの先端から突出して患者の体を切り進み、前記トロッカーが体内に到達した後は、前記トロッカー内を通って外部に取り出される針部と、
前記針部に接続された被覆部であって、前記トロッカーの先端面を覆う形状と、前記トロッカー内を通過可能な形状と、に変形可能な被覆部と、
を備えることを特徴とするトロッカー用内針。
【請求項2】
請求項1に記載のトロッカー用内針であって、
前記被覆部は、前記針部に接続しており、その最大外径が可変の筒状である、ことを特徴とするトロッカー用内針。
【請求項3】
請求項2に記載のトロッカー用内針であって、
前記被覆部は、先端側に近づくほど小径となるべく側面が傾斜した筒状であって、
前記トロッカー用内針は、さらに、前記筒状の被覆部の内部に当接しつつ、前記被覆部に対して軸方向に相対進退することで、前記被覆部の外径を可変する当接部を備える、
ことを特徴とするトロッカー用内針。
【請求項4】
請求項2に記載のトロッカー用内針であって、
前記被覆部は、ゴム状弾性材料からなる筒状部材であり、
前記トロッカー用内針は、さらに、前記被覆部の基端に当接しつつ前記被覆部に対して軸方向に相対進退することで、前記被覆部を径方向に屈曲または屈曲解除させる当接面を備える、
ことを特徴とするトロッカー用内針。
【請求項5】
請求項2に記載のトロッカー用内針であって、
前記被覆部は、周方向に隣接配置された複数の分割片を備え、
前記トロッカー用内針は、さらに、前記分割片同士の間に進入し、各分割片間の間隙を拡大することで、前記被覆部の外径を拡大する中子を備える、ことを特徴とするトロッカー用内針。
【請求項6】
請求項1に記載するトロッカー用内針であって、
前記被覆部は、少なくとも後端において収縮性を備えた筒状シートであって、その先端が前記針部に連結され、その後端が前記トロッカーの先端に被せられる筒状シートである、ことを特徴とするトロッカー用内針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75087(P2013−75087A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217669(P2011−217669)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】