トロポニンIの測定方法

【課題】従来のような一般的なアフィニティの抗体分子を用いたトロポニンIの測定では、高感度にトロポニンIを検出することが困難であるという課題があった。
【解決手段】トロポニンIの異なる部位に結合する二つの分子及び、その二つの分子に同時に結合することができる分子を用いることで、高感度にトロポニンIを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロポニンIの測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞は医学的突発事故の代表であり、世界的に死亡および心臓血管罹病の主な原因である。血管形成術などの新しい治療手段により、冠動脈循環を迅速に回復させることが可能になり、梗塞領域の大きさを制限し、死亡率および罹病率を低下させることが可能になった。これらの治療器具は、臨床的発現開始後のより早い時期に用いられるほど、より有効である。トロポニンは、トロポニンC、IおよびTの3種類のタンパク質からなる筋原線維タンパク質複合体である。心臓トロポニンIは、心筋にのみ存在する収縮タンパク質である。その生理学的役割は、カルシウムの不在下、アクチン−ミオシン複合体のATPase活性を阻害することであり、筋肉収縮を予防することである。心臓を供給する動脈(冠動脈)の1つの閉塞による梗塞の間、虚血に続いて、心筋壊死が出現し、心筋細胞の破壊および心臓トロポニンIの血液中への放出を生じる。したがって、トロポニンIは、心筋梗塞に対して非常に特異的であるマーカーを表し、トロポニンIのアッセイは、近年、心筋梗塞の早期診断のために推奨されている。
【0003】
このような背景において、トロポニンIを検出する方法として、トロポニンIを認識する抗体を用いるイムノアッセイが知られている。例えば、特許文献1では、血液中のトロポニンIを測定するために、アフィニティが5.7×10^−9である抗体分子を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−512672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような結合力の抗体分子では、高感度にトロポニンIを検出することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の測定方法では、
ヒト心筋由来トロポニンIの第一の結合部に特異的に結合することができる第一の結合分子と、
第一の結合分子とは異なる部位でトロポニンIに特異的に結合することができる第二の結合分子と、
第一の結合分子及び前記第二の結合分子のトロポニンI結合部位とは異なる部位に結合することができる第三の結合分子と
を用いる。
【0007】
第一の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0008】
第二の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0009】
第一の結合分子及び第二の結合分子は、C末端側に第3の結合分子が結合することができるアミノ酸配列を持つ。
【0010】
第三の結合分子が、抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0011】
第一の結合分子及び第二の結合分子は、s c F v抗体で構成される。
【0012】
第一の結合分子及び第二の結合分子において、第3の結合分子に結合することができるアミノ酸配列が同じアミノ酸配列から構成される。
【0013】
第一の結合分子及び第二の結合分子が第三の結合分子と結合するアミノ酸配列は、20以下のアミノ酸から構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトロポニンIの測定方法は、これまでのトロポニンI検査に対して高感度にトロポニンIを検出することができる測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の測定方法は、ヒト心筋由来トロポニンIの第一の結合部に特異的に結合することができる第一の結合分子と、
第一の結合分子とは異なる部位でトロポニンIに特異的に結合することができる第二の結合分子と、
第一の結合分子及び前記第二の結合分子のトロポニンI結合部位とは異なる部位に結合することができる第三の結合分子とを用いる。
【0016】
このような構成にすると、アビディティ効果により、強固にトロポニンIと結合することができるため、好ましい。また、第三の分子を用いることで、第一の分子及び第二の分子を近傍に配置することができるため、好ましい。
【0017】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第一の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0018】
このような構成にすると、トロポニンIに対して特異性が高く、かつ比較的強い結合力でトロポニンIに結合することができるため、好ましい。また、ハイブリドーマ法であったり、進化分子工学的手法で分子を作製することができるため、好ましい。
【0019】
また、本発明の測定方法は、前記第二の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0020】
このような構成にすると、トロポニンIに対して特異性が高く、かつ比較的強い結合力でトロポニンIに結合することができるため、好ましい。また、ハイブリドーマ法であったり、進化分子工学的手法で分子を作製することができるため、好ましい。
【0021】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第一の結合分子及び第二の結合分子は、C末端側に第3の結合分子が結合することができるアミノ酸配列を持つ。
【0022】
このような構成にすると、第一の結合分子及び第二の結合分子のトロポニンI認識部位とは異なる領域に結合することができるため、好ましい。
【0023】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第三の結合分子が、抗体分子由来のアミノ酸配列を持つ。
【0024】
このような構成にすると、第一の結合分子及び第二の結合分子に対し、特異性が高く、かつ比較的強い結合力で結合することができるため、好ましい。また、ハイブリドーマ法や、進化分子工学的手法といった既存の方法で分子を作製することができるため、好ましい。
【0025】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第一の結合分子及び第二の結合分子は、s c F v抗体で構成される。
【0026】
このような構成にすると、抗体分子に対し分子量が小さいため、第一の結合分子と第二の結合分子が立体障害を受けずに、同時にトロポニンIに結合できる可能性が高くなるため好ましい。
【0027】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第一の結合分子及び第二の結合分子において、第3の結合分子に結合することができるアミノ酸配列が同じアミノ酸配列から構成される。
【0028】
このような構成にすると、例えば抗体分子などを第三の結合分子に用いた場合、第一の結合分子、第二の結合分子、及び第三の結合分子で三者複合体を形成することができるため、好ましい。三者複合体を形成することで、上記に記載のアビディティ効果をより効果的に利用することができる。
【0029】
また、本発明の測定方法は、前記記載の第一の結合分子及び第二の結合分子が第三の結合分子と結合するアミノ酸配列は、20以下のアミノ酸から構成される。
【0030】
このような構成にすると、第一の結合分子及び第二の結合分子が、第三の結合分子と結合する際、立体障害の影響を受けにくいため、好ましい。また、FLAG、His、HA、c−Mycなどのタグ配列を用いることができるため、好ましい。
【0031】
本発明の結合分子作製には、ファージディスプレイ法を用いることができる。また、ファージディスプレイを用いた結合タンパク質の分子フォーマットには、scFv抗体を用いることができる。ファージディスプレイ法は、S m i t h により考案されたもので、M 1 3 ファージのような一本鎖環状D N A を持つ線状のバクテリオファージが用いられる。ファージ粒子はD N A の周囲を取り囲んでファージ粒子の大部分を構成するg p 8 というタンパク質と、ファージが大腸菌に感染する時に機能する5 個のg p 3 と呼ばれるタンパク質などからなっている。このg p 3 もしくはg p 8 と融合した形でポリペプチドをコードするように遺伝子を構築し、ファージ粒子表面にそのタンパクを発現させるシステムがファージディスプレイシステムである。他の物質との結合活性を持つタンパク質を表面に保持したファージ粒子は、そのリガンドとの結合活性を利用して濃縮することができる。こうして目的とする結合活性を有するファージ粒子を濃縮する方法は、パニング法と呼ばれている。濃縮されたファージ粒子には、必要な結合活性を持つタンパク質をコードするD N A がパッケージングされている。このように繊維状ファージの利用によって、結合活性に基づくスクリーニングと、D N A のクローニングとをきわめて効率的に行うことができるシステムが実現した。ファージディスプレイシステムでは、特定の抗原に結合可能な抗体分子と、その抗体分子をコードする遺伝子も同時に得られる点に大きな利点がある。
【0032】
本発明において、「s c F v 抗体」とは、F v 領域、即ち、重鎖可変領域( V H 領域) 及び軽鎖可変領域( V L 領域) を含み、これらがリンカーにより架橋されて構成される抗体である。また、「s c F v 抗体遺伝子」とは、V H 領域をコードする遺伝子( V H 遺伝子) 、V L領域をコードする遺伝子( V L 遺伝子) 、及びリンカー配列から構成される。V H 領域とV L 領域とを架橋するリンカーには、汎用的なものを用いることができ、例えば、グリシン− セリンからなるペプチドリンカーが用いられる。本発明において、「ライブラリー」とは、多様な同種の構成要素からなる集合体を意味する。
【0033】
s c F v 抗体ライブラリーとは、多様なs c F v 抗体を含有する集合体である。本発明においては、各s c F v 抗体はファージ表面に発現されている。換言すれば、表面にs c F v 抗体を発現しているファージクローンの集合によりs c F v 抗体ライブラリーが形成される。
【0034】
また、s c F v 抗体ライブラリーは、生体内の多様性を包含するのに十分なクローン数を有することが好ましい。これにより、多種多様な抗原に対して、当該抗原と結合可能なs c F v 抗体を表面に発現するクローンを選択することが可能となる。本発明におけるs c F v 抗体ライブラリーは、s c F v 抗体をその表面に発現しているファージクローンの集合により構成されるが、かかるs c F v 抗体ライブラリーはs c F v抗体遺伝子を保有するファージミドクローンの集合( 以下、「s c F v 抗体ファージミドライブラリー」という) より調製することができる。
【0035】
なお、本発明において、s c F v 抗体遺伝子を保有するクローンの集合から構成されるライブラリーをs c F v 抗体遺伝子ライブラリーと呼ぶ。したがって、s c F v 抗体ファージミドライブラリーはs c F v 抗体遺伝子ライブラリーでもある。また、s c F v 抗体遺伝子を保有するファージミドにより形質転換された大腸菌の集合もs c F v 抗体遺伝子ライブラリーを構成する。ファージミドには、g p 3 やg p 8 等のファージの構成タンパク質をコードする遺伝子に、発現させたい外来タンパク質をコードする遺伝子、即ち、s c F v 抗体遺伝子を連結する。s c F v 抗体遺伝子は、上述のようにV H 遺伝子、V L 遺伝子、及びリンカー配列から構成されるが、V H 遺伝子、V L 遺伝子は、任意の抗体産生細胞より得ることができる。抗体産生細胞としては、例えば、末梢血リンパ球や脾臓細胞等を挙げることができる。それぞれの遺伝子の単離には、公知のプライマーを用いたR T − P C R 法を利用することができる。得られた各領域の遺伝子とリンカー配列とを連結することによりs c F v 抗体遺伝子が構成される。s c F v 抗体ファージミドライブラリーからのs c F v 抗体ライブラリーの調製方法は次のように行うことができる。まず、s c F v 抗体ファージミドライブラリーを構成する各クローンを宿主にトランスフェクションさせる。次に、この宿主にヘルパーファージを重感染させる。ヘルパーファージM 1 3 K0 7 の重感染によってファージ粒子として回収することができる。このとき利用されるファージミドのg p 3 タンパク質が外来タンパク質すなわちs c F v 抗体と融合されていれば、完成するファージの表面にはs c F v 抗体が提示されることとなる。
【0036】
s c F v 抗体ライブラリーを特定の抗原でスクリーニングし、当該抗原に結合可能なs c F v 抗体を発現しているファージクローンが選択される。抗原は、目的に応じて種々のものが用いられる。また、抗原を用いたスクリーニングは以下に示すパニング法により行うことができる。まず、目的とする抗原にs c F v 抗体ライブラリーを接触させ、この抗原に結合するクローンを回収する。回収したクローンを増幅し、再び目的の抗原と接触させて、結合するクローンを回収する工程を繰り返す。ファージの増幅は、ファージを大腸菌に感染させ、回収することによって行われる。この工程を繰り返すことによって、目的とする反応性を持つs c F v 抗体をその表面に発現しているファージクローンが濃縮される。抗原との結合性に基づくスクリーニングは、一般にクローンの回収率が上昇するまで行われる。ここで回収率とは、抗原に対して添加したファージクローンの数に対する、抗原への結合性を有するものとして回収されたファージクローンの数の割合である。回収率がその前のスクリーニングに比較して明らかに上昇するとき、目的とする反応性を持つs c F v 抗体をその表面に発現しているファージクローンが濃縮されつつあることを意味する。
【0037】
上記工程 により選択したファージクローンより、s c F v 抗体をコードする遺伝子( s c F v 抗体遺伝子) が取得される。即ち、ファージクローンより、VH 領域、V L 領域、及びリンカーをコードする遺伝子が切り出される。このとき、H i s , M y c などのT ag を含有するものを用いてもよい。具体的なs c F v 抗体遺伝子の切り出し方法としては、ファージD N A のs c F v 抗体遺伝子導入部位、即ち、s c F v 抗体遺伝子の両端の制限酵素サイトを特異的に切断する制限酵素を用いる。s c F v 抗体遺伝子を切り出す際に、s c F v 抗体遺伝子の一端又は両端の配列を変換する2 つのプライマーを用いてP C R を行い、制限酵素サイトの変換されたs c F v 抗体遺伝子を切り出し、かつ増幅する。また、s c F v 抗体遺伝子の末端に適当なリンカーを付加することにより、所望の制限酵素サイトを形成してもよい。
【0038】
上記工程で取得したs c F v 抗体遺伝子を発現ベクターに組み込むことが行われる。発現ベクターはs c F v 抗体遺伝子を組み込むことによりs c F v 抗体遺伝子発現産物を発現可能なものを用いる。このような発現ベクターとしては、5 ’ 側より順に、開始コドン、s c F v 抗体遺伝子を導入する部位をコードする塩基配列を有するものが用いられる。また、s c F V 抗体遺伝子を導入する部位の後にH i s − t a g 、m y c −t a g 、又はH A − t a g などをコードする塩基配列( 以下、「タグ配列」という) を有する発現ベクターを用いることができる。タグ分子の特定物質との親和性を利用してs c F v 抗体を精製することが可能となる。また、タグ配列を入れる位置はこれに限られるものではなく、s c F v 抗体遺伝子導入部位の5 ’ 上流域に入れておくこともできる。但し、タグ配列にコードされる分子とs c F v 抗体とが融合したものとして発現される位置に入れる必要がある。上記特性を備える発現ベクターは、市販の発現ベクターを周知の遺伝子操作技術を用いて改良することにより作製することができる。また、上記特性を備えるファージミドベクターは、市販のベクターを周知の遺伝子操作技術を用いて改良することにより作製することができる。
【0039】
[実施例]
本実施例では、ヒト心筋由来のトロポニンIに結合し得るs c F v 抗体分子を作製するために以下の工程を行った。
1)トロポニンIの配列に含まれる2種類ペプチドをマウスに免疫し、その脾臓及び骨髄より抗体可変領域の遺伝子を増幅する工程、
2)工程1)より得られた抗体可変領域の遺伝子を用い、s c F v抗体ライブラリーを調製する工程、
3)トロポニンIに結合可能なs c F v 抗体を発現しているファージクローンを選択する工程、及び選択したファージクローンより、s c F v 抗体をコードする遺伝子を取得する工程、
4) 工程3 ) で取得した遺伝子を発現可能な発現ベクターに組込み、大腸菌から封入体を抽出し、封入体を巻き戻すことによりscFvタンパク質を得る工程。
【0040】
1)トロポニンIをマウスに免疫し、その脾臓及び骨髄より抗体可変領域の遺伝子を増幅する工程
ヒト心筋由来のトロポニンIのペプチド配列(RPAPAPIRRRSSNYRAYATEPHAKKKSKISASRKLQLKTLLLQIAK(配列番号:1)及びQPLELAGLGFAELQDL(配列番号:2))を、sulfo-SMCCクロスリンカー(Thermo)を介しヒト血清アルブミンと結合させた。完全フロイドアジュバンドにて、BALB/cマウスに免疫し、2週間毎にPBS溶液にて計3回免疫を行った。その免疫したマウスより、骨髄・脾臓を摘出し、それぞれ1mLのTRIzol(インビトロジェン株式会社)を加え、十分に攪拌した。次に、0.2mLの99.9%クロロホルムを加え、再度攪拌を行い、12000g、4℃にて15分間遠心機にかけた。遠心チューブより上清を500μL採取し、エタノール沈殿を行うことで、乾燥状態の全RNAを取得した。さらに、得られた全RNAよりOligotexTM−dT30<Super>mRNA Purification kit (タカラバイオ株式会社)を使用し、mRNAを抽出した。また、OligotexTM−dT30<Super>mRNA Purification kitのスピンカラムよりmRNAを溶出する際には、40μLのDistilled Water DNAse RNase free (GIBCO)を用いて行った。
【0041】
次に、PrimescriptTMReverse Transcriptase (タカラバイオ株式会社)を用い、上記にて得られたmRNAよりcDNA合成を行った。次に、得られたcDNAより、抗体H鎖、L鎖可変領域のPCR増幅を行った。ここで、PCR増幅に用いるプライマーとしては、Biol.Pharm.Bull.29(7)1325−1330(2006)記載の塩基配列を含むプライマーを用いた。ここで、VLを伸張させるプライマーにSf1I、BamHIの制限酵素サイトを付加し、VHを伸張させるプライマーには、NotI、BamHIの制限酵素サイトを付加した。ポリメラーゼには、TaKaRa Ex Taq Hot start Version(タカラバイオ株式会社)を用いた。PCR反応の温度サイクルは、95℃にて2分間反応させた後、96℃で30秒間反応、52℃で1分間反応、68℃にて1分間反応を35回繰り返し、さらに、68℃にて4分間反応させた。
【0042】
上記PCR反応を終えた反応溶液を2重量%濃度のアガロースを含むゲルにて電気泳動により分離し、WizardSV Gel and PCR Crean−UP System(Promega)を用い、VH(H鎖可変領域)及びVL(L鎖可変領域)のDNA断片の精製を行った。
【0043】
2)トロポニンIに結合し得るscFvを含むs c F v抗体ライブラリーを調製する工程
次に、上記工程1)にて調製したVL及びVH遺伝子をファージミドベクターへと組み込んだ。ファージミドベクターとしては、市販のpCANTAB5Eベクター(ファルマシア)と同様の機能となるよう所望の遺伝子工学技術により作製した。VL遺伝子及びファージミドベクターを制限酵素S f i I ( TOYOBO)、BglII( TOY
OBO)で処理した後に、アガロース電気泳動し、目的分子量付近のバンドを切り出して、WizardSV Gel and PCR Crean−UP System(Promega)で精製した。次に、制限酵素処理を加えたVL遺伝子及びファージミドベクターをLigation high ver.2(TOYOBO)で連結させた後、
エレクトロポレーションを用いて、大腸菌TG1株(Lucigen)に導入させた。
形質転換を行った大腸菌を1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Y プレート培地にて、30℃、16時間培養を行った。
【0044】
次に、上記プレート培地上に形成された全コロニーを15%グリセロール含有PBS溶液にて懸濁させ、QIAprep Spin Miniprep Kit(株式会社キアゲン)を用いてファージミドベクターの抽出を行った。
【0045】
次に、VL遺伝子が組み込まれたファージミドベクターにVH遺伝子を組み込んだ。
VL遺伝子が組み込まれたファージミドベクター及びVH遺伝子をそれぞれ、BamHI及びNot
I制限酵素で処理した後に、アガロース電気泳動し、目的分子量 付近のバンドを切り出
して、WizardSV Gel and PCR Crean−UP System(Promega)で精製した。次に、制限酵素処理を加えたVH遺伝子及びファージミドベクターをLigation high ver.2(TOYOBO)で連結させた後、
エレクトロポレーションを用いて、大腸菌TG1株(Lucigen)に導入させた。
形質転換を行った大腸菌を1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Y プレート培地にて、30℃、16時間培養を行った。
上記プレート培地上に形成された全コロニーを15%グリセロール含有PBS溶液にて懸濁させ、1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Y培地で波長6 0 0 n m の吸光度が0 .5 になるよう培養した後、ヘルパーファージM13K07(インビトロジェン)を加え、30℃で30分静置することで、ヘルパーファージM13K07を感染させた。次に、ヘルパーファージM13K07を加えた大腸菌溶液を5000g、4℃にて5分間遠心した後、形成された沈殿物に、培地( 2 × Y T 培地に1 0 0 μ g / m L アンピシリンと5 0μ g / m L のカナマイシンを加えた液) 1 0 0 m L を加えて懸濁し、3 0 ℃ で一晩培養した。上記培養液を4 ℃ で8 0 0 0 g 、1 0 分間遠心し、その上澄80mlに2 . 5 M の塩化ナトリウムを加えた平均分子量約8000の2 0 % ポリエチレングリコール水溶液を20ml加えて氷上で1時間静置した後、4 ℃ で10 8 0 0 g 、30 分間遠心して沈殿を回収し、15%のグリセロールを加えたP B S を2ml加えて沈殿を溶解させることで、s c F v 抗体を提示したファージ群を回収した。
【0046】
3)トロポニンIに結合可能なs c F v 抗体を発現しているファージクローンを選択する工程
トロポニンI 抗原をP B S で1 0 μ g / m L に調製し、試験管3 本( N u n c 社製M a x is o r p ) に1 m L ずつ添加して4 ℃ で24 時間インキュベートして、試験管内表面へトロポニンI抗原を吸着させた。吸着後、抗原溶液を捨て、P B S で3回洗浄した後、3 % スキムミルク含有P B S 溶液を4 m L ずつを加えて2 5 ℃ で1 時間反応させ、s c F v 抗体を提示したファージが非特異的に試験管に結合することを防ぐためにブロッキングを行った。
【0047】
作製した抗原吸着済試験管に前記工程で得たs c F v 抗体を提示したファージ群を1 × 1 0^ 12 C F U / m L に調製し、その溶液1mlを2mlの3 % スキムミルク、0. 05 % T w e e n 2 0 含有P B Sと混合させ、この液を試験管に添加して2 5 ℃ で2 時間反応させた後、0 . 05 % Tw e e n 2 0 を加えたP B S で10回、P B S で10 回洗浄した。
【0048】
続いて抗原結合試験管に結合したファージを以下のように回収した。0.5Mグリシン塩酸塩( p H 2 . 6 ) を試験管に1 m L 添加し、ローテーターを用いて室温で6 分間反応させ乖離させた後、1 M T r i s − H C l 緩衝液( p H 7.4) 1 m L を加えて中和し、この液を回収した。
【0049】
回収した液はファージの大腸菌への感染、ヘルパーファージの感染、ファージの回収のそれぞれの工程処理を行い、含まれているファージを精製・増幅した。
大腸菌( TG1) を2 × Y T 培地5 m L で培養し、波長6 0 0 n m の吸光度が0 .5 になるよう増殖させ、上記で乖離させたファージ液1mlを加えて3 7 ℃ で30分静置させた。静置後の培地を5000g、4℃にて5分間遠心し、沈殿した菌体を
2 × Y T 培地1 m Lで再懸濁し、1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Yプレート培地にて30℃で16時間培養した。
【0050】
上記プレート培地上に形成された全コロニーを15%グリセロール含有PBS溶液にて溶解させ、1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Y培地で波長6 0 0 n m の吸光度が0 .5 になるよう培養した後、ヘルパーファージM13K07(インビトロジェン)を加え、30℃で30分静置することで、ヘルパーファージM13K07を感染させた。次に、ヘルパーファージM13K07を加えた大腸菌溶液を5000g、4℃にて5分間遠心した後、沈殿物を培地( 2 × Y T 培地に1 0 0 μ g / m L アンピシリンと5 0μ g / m L のカナマイシンを加えた液) 1 0 0 m L で懸濁し、3 0 ℃ で一晩培養した。上記培養液を4 ℃ で8 0 0 0 g 、1 0 分間遠心し、その上澄80mlに2 . 5 M の塩化ナトリウムを加えた平均分子量約8000の2 0 % ポリエチレングリコール水溶液を20ml加えて氷上で1時間静置した後、4 ℃ で10 8 0 0 g 、30 分間遠心して沈殿を回収し、15%のグリセロールを加えたP B S を2ml加えて沈殿を溶解し、ファージ群を回収した。
上記のようにして、トロポニンI結合試験管に結合したファージの回収、増幅という作業を3回繰り返し行った。
【0051】
次に、上記の作業3回後に乖離させたファージ液1mlを2 × Y T 培地5 m Lで波長6 0 0 n m の吸光度が0 .5 になるよう増殖させた大腸菌( TG1) に加えて、3 7 ℃ で30分静置させた。静置後の培地を5000g、4℃にて5分間遠心し、沈殿した菌体を2 × Y T 培地1 m Lで再懸濁し、懸濁液1μlを2 × Y T 培地10 m Lに加え、1 % グルコース、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有2 × T Yプレート培地にて30℃で16時間培養した。培養後形成されたコロニーをランダムに96個ピックアップし、上記と同様にして96クローンのscFv提示ファージを回収・増幅した。
【0052】
次に96クローンのうち、トロポニンIに結合可能なs c F v 抗体を発現しているファージクローンの選択をE L I S A法で行った。まず、E L I S A 用のプレートを以下のように調製した。トロポニンI抗原2 μ g / m Lを9 6 ウェルマイクロタイタープレート( N u n c 社製M a x i s o r p ) の各ウェルに5 0 μ L 添加して4 ℃ で1 8 時間結合させたのち、3% スキムミルク 含有PBS( ブロッキング液) を各ウェルに2 0 0 μ L 添加して3 7 ℃ で1 時間ブロッキングした。ブロッキング液を捨てた後、P B S で3 回洗浄した。
【0053】
このようにして得られたプレートの各ウェルに、6%スキムミルク含有PBSを25μ Lずつ加え、さらに上記96クローンのファージ溶液を25μ Lずつ加え混合し、2 5 ℃で1 時間反応させた。反応後、0.05%のTWEEEN20含有P B S で4 回洗浄し、5 0 00 倍希釈のHRPで標識された抗M13 抗体(GEヘルスケア製) を5 0 μ L 加えて2 5 ℃ で1 時間反応させた。次に、各ウェルを0.05%のTWEEEN20含有P B S で4 回洗浄した後、TMB peroxidase EIA substrate kit (BIO-RAD)の溶液50 μ L を加えて暫時反応させた後、1N硫酸 を加えて反応を停止し、波長450 n m における吸光度を測定した。その結果、RPAPAPIRRRSSNYRAYATEPHAKKKSKISASRKLQLKTLLLQIAK及びQPLELAGLGFAELQDLに対し、特異的に結合することができるA2及びA1scFv抗体を得ることができた。
【0054】
4)上記工程にて取得したscFv遺伝子を発現可能な発現ベクターに組込み、大腸菌から封入体を抽出し、封入体を巻き戻すことによりscFvタンパク質を得る工程
前記で得られたトロポニンIに結合するクローンのファージミドベクターより、scFv遺伝子をNcoI,NotI制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動して目的の断片を回収し

市販のpET15bベクター(タカラバイオ)に連結させた。また、pET15bベクターのマルチクローニングサイトのC末端側にヒスチジンタグを導入し、scFv抗体のC末端側にヒスチジンタグが導入されるように設計した。
【0055】
次に上記発現ベクターをBL21(DE3)pLysS大腸菌株(タカラバイオ)に導入させ、1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有LBプレート培地にて37℃で16時間培養した。プレート培地上に形成されたシングルコロニーを1Lの1 0 0 μ g / m L アンピシリン含有LBプレート培地にうつし、波長6 0 0 n m の吸光度が0 .5 になるよう37℃にて増殖させ、1mM IPTGを1ml加え、37℃にて5時間振とう培養した。
【0056】
次に、培養液を5000g、4℃にて5分間遠心し、菌体を沈殿させ、50mLのPBSで菌体を再懸濁した。再懸濁液を超音波処理により菌体を破砕した後、10000g、4℃、30分間遠心することで、封入体を含む不溶性物を沈殿させた。
【0057】
封入体を含む不溶性物を4%のTritonX−100含有PBSで2回、PBSで2回洗浄した。次に、得られた沈殿物に10mLの可溶化溶液(6Mグアニジン塩酸塩、0.1M NaCl、50mM MES、10mM EDTA、pH6.0)を加え、4℃にて18時間反応させ、封入体の可溶化を行った。可溶化後の溶液を0.45μmのフィルターを通し、不溶化物を除去した。次に、可溶化溶液1mLに対し、巻き戻し溶液(0.1M Tris-HCl,2mM EDTA,1.0アルギニン塩酸塩,3.73mMシスタミン、 6.73mM システアミン塩酸塩 pH8.0)2mLを50μlずつ混合しながら滴下した。次に、得られた3mLの溶液を1Lの上記巻き戻し溶液に50μlずつ混合しながら滴下した後、4℃にて撹拌しながら96時間インキュベートした。インキュベート後の溶液を10mLまで濃縮し、HiLoad 26/60 Superdex 75 pgにて精製した。
【0058】
このようにして、ヒト心筋由来のトロポニンIに結合することができるA1及びA2scFv抗体を得ることができた。
【0059】
A1及びA2scFv抗体のアフィニティ測定
次に、BiacoreT100(GEヘルスケア)を用い、A1及びA2scFv抗体のアフィニティ測定を行った。測定用センサチップには、CM5(GEヘルスケア)を用いた。ヒト心筋由来のトロポニンI(フナコシ)をアミドカップリング法にて、約1000RUをCM5チップ上のフローセル2に固定化させた。また、フローセル1をEDC/NHSで活性後、エタノールアミンで処理し、リファレンスとした。
【0060】
次に、上記工程で得られたA1及びA2scFv抗体をPD-10(GEヘルスケア)カラムを用い、HBS-EPバッファーに置換した。それぞれの溶液を、HBS-EPにて50nM,25nM,12.5nM,6.25nM,3.13nM,1.07nMに希釈し、アナライト溶液とした。
ランニングバッファーにHBS-EPを用い、流速60μl/min、結合時間120秒、解離時間1200秒にて結合実験を行った。また、再生溶液には、pH2.0のグリシン溶液を用いた。得られたセンサグラムをBIAevaluation Software(GEヘルスケア)にて解析した結果、A2scFv抗体のアフィニティ(KD(M)=2.631E-9)及びA1scFv抗体のアフィニティ(KD=1.96E-10)が決定された。
【0061】
抗ヒスチジンタグ抗体、A1scFv抗体、A2scFv抗体を用いたトロポニンIの測定
以下では、作製したA1scFv抗体、A2scFv抗体及び抗ヒスチジンタグ抗体を用い、BiacoreT100でトロポニンIを測定した場合の例を示す。
【0062】
上記と同様にして抗ヒスチジンタグ抗体(キアゲン)を約3600R.U CM5チップ上のフローセル2に固定化させた。また、フローセル1をエタノールアミンで処理し、リファレンス用とした。次に、A1scFv抗体及びA2scFv抗体を等モル濃度で混合させ、フローセルに流した。A1scFv抗体及びA2scFv抗体は上記に記載したようにC末端側にヒスチジンタグを持つため、チップ上に固定化された抗ヒスチジンタグ抗体に結合することができる。次にアナライト溶液として、HBS−EPにバッファー置換したヒト心筋由来のトロポニンI(フナコシ)を100nM,50nM,25nM,12.5nM,6.25nM,3.12nMに調製した。
抗ヒスチジンタグ抗体、A1scFv抗体、A2scFv抗体を用いたトロポニンIの測定には
BiacoreT100(GEヘルスケア)のキャプチャー法を用いた。キャプチャー分子の溶液は、
上記のA1scFv抗体及びA2scFv抗体を等モル濃度で混合させたものを用いた。
ランニングバッファーにHBS-EPを用い、流速60μl/min、キャプチャー時間40秒、結合時間180秒、解離時間1800秒にて結合実験を行った。また、再生溶液には、pH2.0のグリシン溶液を用いた。
【0063】
得られたセンサグラムをBIAevaluation Software(GEヘルスケア)にて解析した結果、
KD(M)= 1.11E-12のアフィニティが決定された。
【0064】
上記のようにして、異なるエピトープに結合する2種の抗トロポニンIscFv及び2種の抗体を同時に結合することができる抗ヒスチジンタグ抗体を用いることで、強い結合力でトロポニンIと結合することができた。
【0065】
なお、本実施例においてはトロポニンIの高感度な検出にBiacoreT100(GEヘルスケア)を用いた例を示したが、本発明の測定方法に関しては、これに限定されない。
なお、本実施例においては、scFvの作製にマウス免疫ライブラリーを用いたが、これに限定されない。その他の動物種、あるいはナイーブライブラリーや合成ライブラリーを用いて作製することもできる。また、ハイブリドーマより抗体分子のmRNAを抽出し、そこからcDNA化を行うことで、抗体遺伝子を得ることもできる。
【0066】
なお、本実施例においては、scFvにヒスチジンタグを用いたが、これに限定されない。例えばFLAGタグやHAタグ、Eタグといった既存のタグ配列を用いることもできる。また、任意のペプチド配列をタグとして利用し、任意のペプチド配列に対する抗体は、既存の免疫法により得ることもできる。
【0067】
なお、本実施例においては、抗体を第三の分子として用いたが、これに限定されない。例えばscFvのC末端をビオチン化し、ストレプトアビジンを第三の結合分子として用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のトロポニンIの測定方法によれば、従来のような抗体分子を用いる測定方法に対し、より高感度にトロポニンIを検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト心筋由来トロポニンIの第一の結合部に特異的に結合することができる第一の結合分子と、
前記第一の結合分子とは異なる部位でトロポニンIに特異的に結合することができる第二の結合分子と、
前記第一の結合分子及び前記第二の結合分子のトロポニンI結合部位とは異なる部位に結合することができる第三の結合分子と、
を用いることを特徴とするトロポニンIの測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の第一の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つことを特徴とする請求項1に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の第二の結合分子が抗体分子由来のアミノ酸配列を持つことを特徴とする請求項1〜2に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の第一の結合分子及び第二の結合分子は、C末端側に第3の結合分子が結合することができるアミノ酸配列を持つことを特徴とする請求項1〜3に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の第三の結合分子が、抗体分子由来のアミノ酸配列を持つことを特徴とする請求項1〜4に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の第一の結合分子及び第二の結合分子は、s c F v抗体で構成されることを特徴とする請求項1〜5に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項7】
請求項1に記載の第一の結合分子及び第二の結合分子において、第3の結合分子に結合することができるアミノ酸配列が同じアミノ酸配列から構成されることを特徴とする請求項1〜6に記載のトロポニンIの測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の第一の結合分子及び第二の結合分子が第三の結合分子と結合するアミノ酸配列は、20以下のアミノ酸から構成されることを特徴とする請求項1〜7に記載のトロポニンIの測定方法。

【公開番号】特開2013−29441(P2013−29441A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166287(P2011−166287)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】