説明

トロンビンの製造方法

【課題】第V因子を含まないトロンビンを得るために、第V因子の非存在下でトロンビンを得ることができるトロンビンの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】第V因子の非存在下において、プロトロンビンと活性化第X因子とを、組織因子、活性化第VII因子、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させてトロンビンを得ることにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンビンの製造方法に関する。より詳細には、第V因子の非存在下において、プロトロンビンと活性化第X因子とを、組織因子、活性化第VII因子、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させてトロンビンを得ることからなる、トロンビンの製造方法に関する。また、本発明は、その方法によって製造されるトロンビンに関する。
【背景技術】
【0002】
トロンビンは、分子量約37000、等電点約7.1のセリンプロテアーゼの一つ(EC3.4.21.5)である。また、トロンビンは、活性化第II因子(第IIa因子)とも呼ばれる血液凝固因子であり、フィブリノーゲンを限定分解してフィブリンを生成する。
トロンビンは、臨床分野において、局所止血剤または内服用止血剤として用いられている。また、トロンビンは、血液検査の分野では、血液凝固のための試薬の一つとして用いられている。
【0003】
トロンビンは、生体内では通常、非活性型前駆体であるプロトロンビンの形で存在している。プロトロンビンは、活性化第X因子(第Xa因子)により限定分解を受けて活性型生成物であるトロンビンへと変換される。
プロトロンビンをトロンビンへと変換する反応は、第Xa因子単独でも起こるが、その反応速度は非常に遅いことが知られている。しかし、第Xa因子に加えて、活性化第V因子(第Va因子)、リン脂質およびカルシウムイオンの存在下では、該反応速度は、第Xa因子単独の場合に比べて約300,000倍にも促進される。
したがって、プロトロンビンからトロンビンへの変換において、これらの因子の存在は、実質的に必須の要件であることが知られている。それらの中でも、第Va因子は、第Xa因子の補酵素タンパク質であり、プロトロンビンからトロンビンへの変換の促進に重要な因子である。なお、第Va因子は、トロンビンにより第V因子が活性化されて生成される。
【0004】
トロンビンの製造方法としては、プロトロンビン複合体にカルシウムイオンなどを添加して製造する方法が知られている(特許文献1参照)。このプロトロンビン複合体は、例えば、血漿を凍結融解し、生じた沈殿物を除去して上清を得て、これにクエン酸塩などのキレート剤を加えて得ることができる。該複合体には、プロトロンビンの他に、第X因子、第Xa因子、第V因子、第Va因子、第IX因子のような他の血液凝固因子、リン脂質なども含まれている(特許文献1および2参照)。
【0005】
上記のプロトロンビン複合体を原料として製造されたトロンビンの場合、精製を行っても、トロンビン中に微量の第V因子が残存する場合がある。
すなわち、従来のトロンビンの製造方法では、得られたトロンビンに第V因子が混入する恐れがあるという問題があった。
特に、ウシ由来の血漿から製造されたトロンビン製剤を患者に投与した場合、該製剤に含まれる第V因子が抗原となって、該患者において抗ウシ第V因子抗体が産生され、その結果として重篤な出血を引き起こすことが報告されている(非特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−308190号公報
【特許文献2】特表平11−500619号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Christpher, Lomax., 「Patient Safety in Surgery」, Safety of topical thrombosis:the ongoing debate,3:21(2009)
【非特許文献2】Wesley, K. Lew.ら, Biologics:Targets&Therapy, 2(4),593-599(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の事情に鑑みて、本発明は、第V因子を含まないトロンビンを得るために、第V因子の非存在下でトロンビンを得ることができるトロンビンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、トロンビンの製造に従来必須とされていた第V因子を用いずに、プロトロンビンと第Xa因子とを、組織因子、活性化第VII因子(第VIIa因子)、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させることにより、プロトロンビンをトロンビンへと変換できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、第V因子の非存在下において、プロトロンビンと活性化第X因子とを、組織因子、活性化第VII因子、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させてトロンビンを得ることからなる、トロンビンの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、従来必須とされていた第V因子を用いずにトロンビンを得ることができる。したがって、本発明の製造方法を用いれば、第V因子を含まないトロンビンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「第V因子の非存在下」および「第V因子を含まない」とは、実質的に第V因子、およびその活性型である第Va因子も存在しない状態を意味する。具体的には、第V因子および第Va因子が、プロトロンビンと第Xa因子の反応に、殆ど影響を及ぼしていない状態を意味する。さらに具体的には、プロトロンビンと第Xa因子とを、リン脂質およびカルシウムイオンの存在下で反応させた際、第V因子および第Va因子がトロンビン変換反応に殆ど影響を及ぼしていない状態を意味する。特に、本実施形態では、プロトロンビンと活性化第X因子とを、組織因子、活性化第VII因子、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させた際、第V因子および第Va因子がトロンビン変換反応に殆ど影響を及ぼしていない状態を意味する。
【0013】
本発明のトロンビンの製造方法によりトロンビンを得るためには、プロトロンビン、第Xa因子、組織因子、第VIIa因子、リン脂質およびカルシウムイオンが必須である。
以下に、それぞれについて説明する。
【0014】
本発明の製造方法で原料として用い得るプロトロンビンは、第V因子を含まないプロトロンビンであればよい。そのようなプロトロンビンとしては、純度98%以上の精製プロトロンビンが好ましい。
なお、プロトロンビンの純度は、次のようにして得られる値である。まず、精製プロトロンビンをサンプルとして、SDS-PAGEを行う。次いで、該ゲルをクマシーブルー(Coomassie Brilliant Blue(CBB))を用いて染色する。CBB染色の後、画像解析装置(LAS4000(富士フイルム社製))を用いてゲルの画像データを取り込む。そして、画像解析ソフト(Multi Gauge(富士フイルム社製))を用いてゲル上の各バンドの強度の値を定量的に測定する。そして、プロトロンビンのバンドの強度の値を、全てのバンドの強度の値の和で除して、得られた値をプロトロンビンの純度とする。
【0015】
上記の精製プロトロンビンは、血漿を原料に用いて、当該技術において公知の方法により得ることができる。そのようなプロトロンビンの精製方法としては、例えば、血漿を凍結融解した後に沈殿物を除去して得られる上清やコーンの画分などを出発原料に用いて、無機塩に対する吸着作用を利用する方法、陰イオン交換体処理、アフィニティークロマト処理などで精製する方法が挙げられる。
また、プロトロンビンの由来は特に限定されず、例えばウシまたはヒト由来のものが好適に用いられる。原料である血漿の入手の容易さの観点から、プロトロンビンはウシ由来ものが好ましい。
【0016】
純度98%以上の精製プロトロンビンは、上記のようして製造してもよいが、市販品を用いてもよい。そのような市販品としては、「Bovine Prothrombin(商品名)」(Fitzgerald社製)などが挙げられる。
【0017】
上記の精製プロトロンビンに第V因子が含まれないことは、例えば精製プロトロンビンと、リン脂質およびカルシウム塩を混合した場合に、48時間以内にトロンビンの生成が起こらないことを確認することによって、間接的に調べることができる。
【0018】
また、本発明の製造方法では原料として、例えば国際公開WO2007/040162および特開2006−136260号公報に記載の組み換え型プロトロンビンを用いることもできる。
【0019】
本発明の製造方法に用い得る第Xa因子は、第V因子を含まない第Xa因子であればよい。そのような第Xa因子としては、純度98%以上の精製第Xa因子が好ましい。なお、第Xa因子の純度は、プロトロンビンの場合と同様にSDS-PAGEにより得られる値である。
【0020】
上記の精製第Xa因子も、精製プロトロンビンと同様に、血漿を原料に用いて当該技術において公知の方法により得ることができる。
また、第Xa因子の由来は特に限定されず、例えばウシまたはヒト由来のものが好適に用いられる。原料である血漿の入手の容易さの観点から、第Xa因子はウシ由来ものが好ましい。
【0021】
純度98%以上の精製第Xa因子は、上記のようにして製造してもよいが、市販品を用いてもよい。そのような市販品としては、「bovine factor Xa(商品名)」(ADI社製)などが挙げられる。
【0022】
上記の精製第Xa因子に第V因子が含まれないことは、例えば組み換え型プロトロンビンと、精製第Xa因子、リン脂質およびカルシウム塩を混合した場合に、48時間以内にトロンビンの生成が起こらないことを確認することによって、間接的に調べることができる。
【0023】
第Xa因子は、第X因子が外因系凝固経路において、組織因子、第VIIa因子、リン脂質およびカルシウムイオンの存在下で活性化されて生成されることが知られているので、本発明の製造方法では、第Xa因子に代えて第X因子を用いてもよい。そのような第X因子としては、例えば特表平10−502351号公報に記載の組み換え型第X因子を用い得る。
【0024】
本発明の製造方法に用い得る組織因子は、第V因子を含まない組織因子であればよい。そのような組織因子としては、当該技術において公知の遺伝子組み換え法により作製される組み換え型組織因子が好ましい。
組み換え型組織因子は、例えば、ウシまたはヒトなどの組織因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを真核細胞などに導入して、該細胞内で組織因子を発現させた後、これを回収することにより得ることができる。また、バキュロウイルスの発現系を用いて、組み換え型組織因子を得ることもできる。
【0025】
また、本発明の製造方法では、組織因子として、市販品を好適に用いることができる。そのような市販品としては、「Recombinant Human Tissue Factor(商品名)」(ADI社製)、「Recombinat Full Length Human Tissue Factor 263(商品名)」(Altor BioScience Corp社製)などが挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法に用い得る第VIIa因子は、第V因子を含まない第VIIa因子であればよい。そのような第VIIa因子としては、当該技術において公知の遺伝子組み換え法により作製される組み換え型第VIIa因子が好ましい。
組み換え型第VIIa因子は、例えば、ウシまたはヒトなどの第VIIa因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターをBHK細胞などに導入して、該細胞内で第VIIa因子を発現させた後、これを回収することにより得ることができる。
【0027】
また、本発明の製造方法では、第VIIa因子として、市販品を好適に用いることができる。そのような市販品としては、「ノボセブン(商品名)」(Novo Nordisk社製)などが挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法に用い得るリン脂質は、第V因子を含まないリン脂質であればよい。そのようなリン脂質としては、合成リン脂質が好ましい。合成リン脂質としては、ホスファチジルコリン(以下、「PC」ともいう)、ホスファチジルセリン(以下、「PS」ともいう)またはそれらの混合物が好しく、PCおよびPSの混合物が特に好ましい。
PCとPSとの混合比(PC/PS)は、両者の混合溶液中の終濃度(mg/mL)の比として、9/1〜1/9が好ましく、8/2〜4/6がより好ましい。
【0029】
上記のPCとPSとの混合物は、例えば以下の手順に従って調製できる。
まず、PCとPSとをガラス容器などの中で混合する。次いで、ドラフト内にて、該容器をローテーターなどで転倒混和させて、水分を除く。そして、これに適量の界面活性剤の溶液(例えば、0.25重量%のデオキシコール酸ナトリウム水溶液)を加えて、さらに転倒混和した後、37℃の水浴内で数分から数十分間、超音波処理を行う。
なお、PCとPSとの混合物には、親油性の酸化防止剤(例えばブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンCなど)を必要に応じて添加してもよい。
【0030】
本発明の製造方法に用い得るカルシウム塩は、適切な溶媒に溶解してカルシウムイオンを生じるものであればよい。そのようなカルシウム塩としては、例えば塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0031】
上記の各材料は、結晶体や粉末などを含む固体の形態にあってもよいが、混合する際は、これらを水もしくは生理食塩水または適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液など)で予め溶解して溶液とすることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法では、上記の各材料の他に、必要に応じて添加物を混合してもよい。そのような添加物は、プロトロンビンからトロンビンへの変換を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えばアプロチニン、イプシロン-アミノカプロン酸(EACA)などが挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法では、まず、上記の材料を容器内で混合する。なお、材料を容器に投入する順序は特に限定されず、連続的または逐次的に投入してもよいし、全ての材料を同時に投入してもよい。また、混合の際に、溶媒として、水もしくは生理食塩水または適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液など)を添加してもよい。
上記の各材料の混合割合は、混合液中の終濃度として以下に示される範囲から適宜設定できる。
‐プロトロンビンが、0.2〜1.0 mg/mL、
‐第Xa因子が、0.01〜0.05 mg/mL、
‐組織因子が、0.1〜0.5μg/mL、
‐第VIIa因子が、5〜15μg/mL、
‐リン脂質が、上記のPCおよびPSの混合物として0.05〜5.0mg/mL、および
‐カルシウム塩が、10〜15 mM。
【0034】
次いで、上記の混合液を、4〜45℃、好ましくは15〜37℃、より好ましくは25〜30℃の反応温度で、15分〜48時間、好ましくは2〜30時間インキュベートする。これにより、混合液中でプロトロンビンと第Xa因子とが反応して、トロンビンが生成される。
【0035】
反応終了後に上記の混合液からトロンビンを精製する場合は、当該技術において公知の精製方法、例えば塩析法、限外ろ過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの方法が用いられる。
【0036】
本発明の製造方法では、材料として、第V因子を含まない高純度の精製品または組み換え型のものを用いるので、得られるトロンビンには第V因子が含まれないだけでなく、ウイルスなどの感染性病原体が混入する恐れも極めて低い。
また、ウイルス感染に対する安全性をさらに高めるために、例えば、上記の反応終了後、混合液にトリ−(n−ブチル)ホスフェートのような溶剤と、ポリソルベート80(Tween 80)やオキシエチル化アルキルフェノール(Triton X-100)のような界面活性剤とを添加して、ウイルスを不活化する処理を行ってもよい(特開平3−218322号公報参照)。
【0037】
本発明の製造方法で得られるトロンビンは、上記のとおり第V因子を含まない。したがって、本発明の製造方法で得られるトロンビンは、外科および内科領域において、重篤な出血を引き起こさない安全な止血剤として用い得る。なお、該トロンビンの使用方法は、当該技術において公知のトロンビンと変わるところはなく、それらと同様の態様で使用できる。
【0038】
本発明の製造方法で得られるトロンビンは、水溶液の形態にあってもよく、用時に適切な溶媒に溶解する固体の形態にあってもよい。また、該トロンビンに、医薬的に許容できる担体、賦形剤、安定化剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0039】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
1.トロンビンの製造
下記の(1)〜(6)の材料を1.5 mLプラスチック製チューブに入れて混合した。
(1)精製プロトロンビン溶液(0.5 mg/mL):120μL
「Bovine Prothrombin(商品名)」(14.0 mg/mL)(純度98%以上;Fitzgerald社製)を、バッファー(0.715 重量% HEPES、0.182 重量% トリスヒドロキシメチルアミノメタン、0.73 重量% 塩化ナトリウムおよび0.1 重量% アジ化ナトリウムを含む)で希釈して、プロトロンビン溶液を調製した。
【0041】
(2)精製第Xa因子溶液(0.5 mg/mL):20μL
「bovine factor Xa(商品名)」(310μg/620μL)(純度98%以上;ADI社製)をそのまま用いた。
【0042】
(3)組み換え型組織因子溶液(1μg/mL):60μL
「Recombinant Human Tissue Factor(商品名)」(ADI社製)を精製水で希釈して、濃度1μg/mLの組織因子溶液とした。
【0043】
(4)組み換え型第VIIa因子溶液(100μg/mL):20μL
「ノボセブン(商品名)」(Novo Nordisk社製)を付属の溶解液(「日局 注射用水」)で溶解して0.6 mg/mLとした後、生理食塩水でさらに希釈して、濃度100μg/mLの第VIIa因子溶液とした。
【0044】
(5)合成リン脂質溶液(PC/PS=7/3):40μL
合成リン脂質溶液5 mLを以下のようにして調製した。
まず、875μLのPC(20 mg/mL;Avanti社製)、375μLのPS(20 mg/mL;Avanti社製)および2.5μLのブチルヒドロキシアニソール(BHA)(10μg/mL;ナカライテスク株式会社製M7P2117)をガラス容器中で混合した。次いで、ドラフト内にて、該容器をローテーターで転倒混和させて、水分を除いた。そして、これに5mLの0.25重量%デオキシコール酸ナトリウム溶液を加えて、さらにローテーターで10分間転倒混和した後、37℃の水浴内で15分間、超音波処理を行った。これにより、合成リン脂質溶液(PC/PS=7/3)を得た。
【0045】
(6)カルシウム塩溶液(100 mM CaCl2):20μL
CaCl2(特級、純度95%;キシダ化学社製)を精製水で溶解して、濃度100 mMのCaCl2溶液とした。
【0046】
上記の(1)〜(6)の混合液を、4℃、28℃および37℃の各反応温度で、15分、2時間および24時間の各時間でインキュベートして、プロトロンビンと第Xa因子とを反応させた(以下、「反応液」という場合がある)。
【0047】
2.トロンビンの活性の測定
上記の反応液中のトロンビンの活性を、全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(シスメックス社製を用い測定した。装置にセットした、コントロール血漿、測定試料(測定試料1および測定試料2)および濃度既知のトロンビン溶液を以下に示す。
【0048】
<コントロール血漿>
コアグトロールI(シスメックス社製)を希釈液(Tween 80 0.02%、NaCl 0.9%)で2倍希釈して、これをコントロール血漿として調製した。
【0049】
<測定試料>
反応液を、希釈液で2倍希釈し、測定試料1を調製した。また、反応液を、希釈液で4倍希釈し、測定試料2を調製した。
【0050】
<濃度既知のトロンビン溶液>
トロンボチェックFib(L)(シスメックス社製)の取扱説明書に従って、希釈系列を作製し、濃度既知のトロンビン溶液を調製した。
【0051】
全自動血液凝固分析装置コアグレックス800の取扱説明書に従って、上記のコントロール血漿、測定試料(測定試料1および測定試料2)および濃度既知のトロンビン溶液を該装置にセットし、測定試料のトロンビン活性を測定した。該装置内では、コントロール血漿(125μL)と測定試料(15μL)とが混合され、凝固時間が測定される。同様に、コントロール血漿(125μL)と濃度既知のトロンビン溶液(15μL)とが混合され、凝固時間が測定される。そして、濃度既知のトロンビン溶液から得られた測定結果から、検量線が作成される。この作成された検量線と、測定試料から得られた測定結果とに基づき、測定試料のトロンビン活性が取得される。取得されたトロンビン活性をトロンビン生成量として数値化した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、第V因子を用いることなく、プロトロンビンと、第Xa因子と、第VII因子と、組織因子と、リン脂質と、塩化カルシウムを混合することにより、トロンビンを製造できることが明らかとなった。また、反応条件は、温度28℃で24時間が最適であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第V因子の非存在下において、プロトロンビンと活性化第X因子とを、組織因子、活性化第VII因子、リン脂質およびカルシウム塩の存在下で反応させてトロンビンを得ることからなる、トロンビンの製造方法。
【請求項2】
組織因子が、組み換え型組織因子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
活性化第VII因子が、組み換え型活性化第VII因子である、請求項1または2に記載の製造方法
【請求項4】
リン脂質が、合成リン脂質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
プロトロンビンが、純度98%以上の精製プロトロンビンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
活性化第X因子が、純度98%以上の精製活性化第X因子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造される、プロトロンビン。

【公開番号】特開2011−205932(P2011−205932A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75367(P2010−75367)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】