トロンビンインヒビター
本発明は、吸血性節足動物の唾液腺に由来するトロンビン・インヒビター、特に、2または3箇所の異なる部位でトロンビンと相互作用することにより作用する二価および三価のトロンビン・インヒビターに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸血性節足動物の唾液腺に由来するトロンビンインヒビター、特に、2または3箇所の異なる部位でトロンビンと相互作用することにより作用する二価および三価のトロンビンインヒビターに関する。
【背景技術】
【0002】
本文中に言及し本説明の最後に列挙する全ての文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
血液凝固は血管損傷に対する生理反応の一部であり、セリンプロテアーゼの循環チモーゲンが制限的タンパク質分解によって連続的に活性化され、フィブリン塊の形成をもたらす。この反応のネットワーク内では、トロンビンは止血の完全性の維持において中心的役割を果たす。トロンビンは大部分のチモーゲンおよびそれらのコファクターと相互作用し、血液凝固において多数の凝固促進的および抗凝固的役割を果たす1,2。凝固促進プロテアーゼとして、初期段階中に生成される第1の微量のトロンビンは、第V因子(FV)および第VIII因子(FVIII)を活性化して正のフィードバックを与え、トロンビンバーストをもたらす。トロンビンは第XI因子も活性化し、固有経路を誘導することができる。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに切断し、不溶性凝固塊を形成する。フィブリンポリマーは、トロンビン活性化第XIII因子によって誘導される共有架橋によって、さらに強化および安定化される。トロンビンは、おそらく2つのメカニズムによって血小板血栓の生成にも寄与する:(a)プロテアーゼ活性化受容体(PAR)と糖タンパク質Vの相互作用によって血小板を活性化し、(b)フォンウィルブラント因子(VWF)を切断する1型トロンボスポンジンモチーフでADAMTS13、ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼを不活性化することによって、血小板血栓の不安定化を妨げる。抗凝固的プロテアーゼとして、トロンビンはコファクターであるトロンボモジュリンの存在下でプロテインC(APC)を活性化する。APCは第Va因子(FVa)および第VIIIa因子(FVIIIa)を不活性化し、トロンビンの生成をダウンレギュレーションする1-5。
【0004】
血栓閉塞性疾患は、死亡および罹病の主な原因である6。抗凝固剤はこれらの疾患の予防および治療において極めて重要である。ヘパリンおよびクマリン誘導体(ビタミンKアンタゴニスト)は抗凝固療法の要であるが、どちらのクラスの薬剤も、狭い治療域および非常に変動的な用量応答などの十分報告されている制約を有する。これらの制約は、特異的凝固因子を主に標的化する新たな抗凝固剤を開発するための、継続的かつ懸命な努力につながる7。凝固カスケードにおけるその中心的役割のためにトロンビンは優れた標的となる6,8。
【0005】
数十年間広く治療上使用されているヘパリンおよびその類似体などのトロンビンインヒビターは間接的トロンビンインヒビターである。すなわち、それらは抗トロンビン複合体の一部分として作用し、それら自体はトロンビン活性部位と直接相互作用しない。これは、それらは可溶性トロンビンのみを不活性化することができるが、フィブリン結合トロンビンと反応することができないことを意味する。直接的トロンビンインヒビターは、可溶性トロンビンとフィブリン結合トロンビンの両方を不活性化することができる。これは相当な治療有効性を与える。何故ならこれらの作用物質は、新たな凝固塊の形成のみでなく、凝固塊自体の進行中の凝固プロセスを阻害することができるからである(Di Nisio,M.,S.Middeldorp,and H.R.Buller.2005.Direct thrombin inhibitors.N Engl J Med 353:1028-40)。
【0006】
直接的トロンビンインヒビターのいくつかの例には、ヒルジン、ヒルログ(またはビバリルジン)およびアルガトロバンがある7-9。吸血性動物は進化の過程で血液凝固プロテアーゼに関するインヒビターの豊富な保有宿主となっており16-20、2つの知られている直接的トロンビンインヒビター、ヒルジンおよびヒルログは吸血性動物に由来する。ヒルジンは、医療用ヒルであるヒルド・メディシナリス(Hirudo medicinalis)の唾液腺から単離した65アミノ酸のタンパク質である7,8,10。それは球状N末端ドメインおよび酸性C末端尾部を有し、その両方がトロンビン分子中の複数の部位と結合する。このC末端尾部は、静電および疎水性相互作用によってトロンビンエキソサイト-Iと相互作用する。N末端ドメインはトロンビンの活性部位近辺の無極部位と結合し、そのアクセス性を妨げる11-13。ヒルログ(またはビバリルジン)、20量体ポリペプチドは、スペーサーとして4個のGly残基を使用して、ヒルジンC末端尾部を活性部位結合部分D-Phe-Pro-Arg-Proに移植することによる合理的設計の産物である14,15。トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と結合する二価インヒビターであるヒルジンおよびビバリルジンと異なり、アルガトロバンは一価インヒビターであり、活性部位のみと結合する8。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Huntington JA. Molecular recognition mechanisms of thrombin. J Thromb Haemost. 2005;3:1861-1872.
【非特許文献2】Di Cera E. Thrombin interactions. Chest. 2003;124:11S-17S.
【非特許文献3】Davie EW, Fujikawa K, Kisiel W. The coagulation cascade: initiation, maintenance, and regulation. Biochemistry. 1991;30:10363-10370.
【非特許文献4】Davie EW. A brief historical review of the waterfall/cascade of blood coagulation. J Biol Chem. 2003;278:50819-50832.
【非特許文献5】Lane DA, Philippou H, Huntington JA. Directing thrombin. Blood. 2005;106:2605-2612.
【非特許文献6】Schwienhorst A. Direct thrombin inhibitors - a survey of recent developments. Cell Mol Life Sci. 2006;63:2773-2791.
【非特許文献7】Hirsh J, O'Donnell M, Weitz JI. New anticoagulants. Blood. 2005;105:453-463.
【非特許文献8】Gurm HS, Bhatt DL. Thrombin, an ideal target for pharmacological inhibition: a review of direct thrombin inhibitors. Am Heart J. 2005;149:S43-S53.
【非特許文献9】Bates SM, Weitz JI. The status of new anticoagulants. Br J Haematol. 2006;134:3-19.
【非特許文献10】Markwardt F. The development of hirudin as an antithrombotic drug. Thromb Res. 1994;74:1-23.
【非特許文献11】Grutter MG, Priestle JP, Rahuel J et al. Crystal structure of the thrombin-hirudin complex: a novel mode of serine protease inhibition. EMBO J. 1990;9:2361-2365.
【非特許文献12】Rydel TJ, Ravichandran KG, Tulinsky A et al. The structure of a complex of recombinant hirudin and human alpha-thrombin. Science. 1990;249:277-280.
【非特許文献13】Rydel TJ, Tulinsky A, Bode W, Huber R. Refined structure of the hirudin-thrombin complex. J Mol Biol. 1991;221:583-601.
【非特許文献14】Maraganore JM, Bourdon P, Jablonski J, Ramachandran KL, Fenton JW. Design and characterization of hirulogs: a novel class of bivalent peptide inhibitors of thrombin. Biochemistry. 1990;29:7095-7101.
【非特許文献15】Skrzypczak-Jankun E, Carperos VE, Ravichandran KG et al. Structure of the hirugen and hirulog 1 complexes of alpha-thrombin. J Mol Biol. 1991;221:1379-1393.
【非特許文献16】Champagne DE. Antihemostatic molecules from saliva of blood-feeding arthropods. Pathophysiol Haemost Thromb. 2005;34:221-227.
【非特許文献17】Mans BJ, Neitz AW. Adaptation of ticks to a blood-feeding environment: evolution from a functional perspective. Insect Biochem Mol Biol. 2004;34:1-17.
【非特許文献18】Kazimirova M, Sulanova M, Trimnellt AR et al. Anticoagulant activities in salivary glands of tabanid flies. Med Vet Entomol. 2002;16:301-309.
【非特許文献19】Subburaju S, Kini RM. Isolation and purification of superbins I and II from Austrelaps superbus (copperhead) snake venom and their anticoagulant and antiplatelet effects. Toxicon. 1997;35:1239-1250.
【非特許文献20】Banerjee Y, Mizuguchi J, Iwanaga S, Kini RM. Hemextin AB complex, a unique anticoagulant protein complex from Hemachatus haemachatus (African Ringhals cobra) venom that inhibits clot initiation and factor VIIa activity. J Biol Chem. 2005;280:42601-42611.
【非特許文献21】Di Nisio,M.,S.Middeldorp,and H.R.Buller.2005.Direct thrombin inhibitors.N Engl J Med 353:1028-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、トロンビンの活性部位と相互作用する直接的トロンビンインヒビターに関する問題は、このインヒビターがトロンビンにより最終的に切断され、阻害活性の消失をもたらす可能性があることである。より有効な直接的トロンビンインヒビター、特にトロンビン切断の結果として阻害活性を失う可能性が低いトロンビンインヒビターが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子にトロンビンを曝露することによる、トロンビン活性の阻害方法が提供される。該1または複数の分子は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用することが好ましい。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する、本発明の第1の態様の方法で使用するのに適した1または複数のトロンビンインヒビター分子を提供する。この1または複数のトロンビンインヒビター分子は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用することが好ましい。
【0011】
本発明の第1または第2の態様の1または複数の分子は、最初にエキソサイトIおよびIIと相互作用し、次いでトロンビンの活性部位と相互作用することによって、トロンビン活性を阻害することが好ましい。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の1または複数の分子とトロンビンとの複合体であって、トロンビンインヒビター分子がトロンビンのエキソサイトIおよび活性部位、好ましくはトロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用する複合体も提供する。
【0013】
好ましくは、本発明の第1の態様の方法で使用する分子、本発明の第2の態様の、または本発明の第3の態様の複合体中に存在するトロンビンインヒビター分子は、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジン(variegin)タンパク質、または該バリエジンタンパク質の機能的等価物である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(A)最初のステップでは、90分にわたってアセトニトリルの10〜100%の勾配でSGEを分画した。AV-I〜AV-VIIIのプールした画分中のタンパク質濃度は、0.08(AV-I)〜1.39μg/μl(AV-IV)の範囲であった。TTアッセイ(対照凝固時間=19秒)に関して、NC: 0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後に凝固なし、***:0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、**:0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の40秒を超える長時間凝固、*:対照と比較した凝固の遅延。APTTアッセイ(対照凝固時間=40秒)に関して、NC: 0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後に凝固なし、黒丸×3:0.01μg未満のタンパク質を加えた後の1分を超える長時間凝固、黒丸×2:0.1μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、黒丸×1:対照と比較した凝固の遅延。PTアッセイ(対照凝固時間=15秒)に関して、白丸×2:0.5μgのタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、白丸×1:対照と比較した凝固の遅延。
【図1B】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(B)画分AV-IIIを60分にわたるアセトニトリルの10〜40%の勾配で第2の精製ステップに供した。画分中のタンパク質濃度は0.05〜0.17μg/μlの範囲であった。抗凝固活性を有する範囲の画分(破線、PT、APTTおよびTTでアッセイ)は、S2238で抗トロンビン活性に関して試験した。星印で示した画分はトロンビンアミド分解活性を阻害した。最も強い活性を有していた2つの画分(保持時間23.083分および28.933分、矢印によって示す)は、第3の精製ステップでさらに精製した(60分にわたるアセトニトリルの10〜40%の勾配)(n=2)。
【図1C】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(C)保持時間23.083分を有する画分をAV3/5およびAV5/5と記載する2つの主要ピークに分離した。
【図1D】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(D)保持時間28.933分を有する画分は1個の主要ピークおよび小さな「ショルダーピーク」を有し、AV6/5と記載した
【図2】バリエジンのアミノ酸配列およびそのトロンビン阻害活性を示す図である。(A)画分AV6/5(バリエジン)、AV3/5およびAV5/5におけるペプチドの配列は非常に類似している。(B)混合によって得た平衡定常状態を示す、基質としてS2238(100μM)を使用したバリエジン(黒四角:0.020nM、白四角:0.039nM、黒丸:0.078nM、白丸:0.156nM、黒三角:0.313nM、白三角:0.625nM、黒逆三角:1.25nM、白逆三角:2.5nM、黒菱形:5nM、10nM)によるトロンビン阻害の線形進行曲線の例。(C)トロンビン(3.33nM)アミド分解活性を阻害するバリエジン(0.001nM、0.003nM、0.01nM、0.03nM、0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nMおよび100nM)の能力を、活性部位特異的基質S2238(100μM)を使用してアッセイした。バリエジン(黒四角)によるトロンビン阻害の用量応答曲線は、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して顕著な阻害(約80%)を示した。阻害のIC50は約0.99±0.02nM(n=3)である。(D)バリエジンは強結合インヒビターとして挙動するので、同様の濃度(0.020nM、0.039nM、0.078nM、0.156nM、0.313nM、0.625nM、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM)でのバリエジン(黒四角)によるトロンビン(1.8nM)の阻害は、基質としてS2238(100μM)を使用して調べた。得られたデータを式(1)および(2)にフィッティングして、約10.4±1.4pM(n=3)のKiを導いた。
【図3】バリエジンによる阻害の特異性を示す図である。s-バリエジンは、13種類のセリンプロテアーゼ:線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼ)、抗凝固セリンプロテアーゼAPC、凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXIa、FXa、FIXa、FVIIa、カリクレインおよびトロンビン)ならびに古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシン)に対してスクリーニングした。プロテアーゼおよび基質の最終濃度はそれぞれnMおよびmMで丸括弧内に与える:プラスミン(3.61)/S2251(1.2)、TPA(36.9)/S2288(1)、ウロキナーゼ(40U/ml)/S2444(0.3)、APC(2.14)/S2366(0.67)、FXIIa(20)/S2302(1)、FXIa(0.125)/S2366(1)、FXa(0.43)/S2765(0.65)、FIXa(333)/Spectrozyme(登録商標)FIXa(0.4)、FVIIa(460)/S2288(1)、カリクレイン(0.93)/S2302(1.1)、α-トロンビン(3.33)/S2238(0.1)、キモトリプシン(1.2)/S2586(0.67)およびトリプシン(0.87)/S2222(0.1)。トロンビンは3種類の濃度のs-バリエジンに対して試験した、(斜線)は0.01μMを表し、(市松模様)は0.1μMを表し、かつ(薄灰色)は1μMを表す。他のプロテアーゼに関しては、より高濃度のs-バリエジンを使用した、(黒)は1μMを表し、(灰色)は10μMを表し、かつ(白)は100μMを表す(n=3)。
【図4】s-バリエジン、EP25およびAP18によるトロンビンの阻害を示す図である。(A)トロンビンのアミド分解活性を阻害するs-バリエジン、EP25およびAP18の能力を、活性部位特異的基質S2238(100μM)を使用してアッセイした。s-バリエジン(0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM)によるトロンビン(3.33nM)阻害の用量応答曲線は、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して顕著な阻害(約30%)を示した。用量応答曲線およびIC50の阻害はインキュベーション時間と無関係であった: (黒四角)は10分間のインキュベーション(IC50約5.40±0.95nM)を表し、かつ(白丸)は10分間のインキュベーション(IC50約5.49±0.42nM)を表す(n=3)。(B)EP25(0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM)によるトロンビン(3.33nM)阻害の用量応答曲線は、インキュベーション時間依存的シフトを示した。IC50はインキュベーションなしで約139.30±7.02nMであり(黒四角)、1分間のインキュベーションで約22.55±2.52nMであり(白丸)、2分間のインキュベーションで約10.39±1.53nMであり(黒三角)、5分間のインキュベーションで約6.42±0.50nMであり(白逆三角)、10分間のインキュベーションで約6.80±0.57nMであり(黒菱形)、かつ20分間のインキュベーションで約5.63±0.45nM(+)である(n=3)。(C)AP18(3μM、10μM、30μM、100μM、300μM)は、S2238(100μM)でトロンビン(3.33nM)アミド分解活性を阻害することができなかったが、その代わりに高濃度のAP18において、S2238の加水分解が若干増大した(n=3)。(D)3種類全てのペプチド、s-バリエジン(黒四角;0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM)、EP25(白丸;3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM、3000nM)およびAP18(黒三角;0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、30μM、100μM、300μM)は、フィブリノゲン凝固時間を延長した(n=3)。ペプチドとトロンビンのプレインキュベーションは実施しなかった。AP18はアミド分解活性ではなくトロンビンフィブリノゲン溶解活性を阻害し、エキソサイトIとの結合を示唆した。
【図5】s-バリエジンおよびEP25の阻害定数Kiを示す図である。(A)s-バリエジンはトロンビンの迅速かつ強結合インヒビターである。s-バリエジン(0.313nM、0.625nM、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM)を種々の濃度のS2238:12.5μM(黒四角)、25μM(白丸)、50μM(黒三角)、80μM(白逆三角)、100μM(黒菱形)、150μM(+)、200μM(×)および300μM(*)と混合してKi’を決定した。トロンビン(1.8nM)の添加によって反応を開始した。データを式(1)にフィッティングした(n=3)。(B)基質濃度に対するKi’のプロットは、s-バリエジンがS2238に対するトロンビンアミド分解活性を競合的に阻害したことを示す、線形曲線を示した。式(2)にデータをフィッティングすることによって、阻害定数Kiが約146.4±13.6pMであったことが示された。(C)トロンビンとプレインキュベートした場合、EP25も等モル濃度でトロンビンを阻害し、プレインキュベーションなしでの初期阻害は弱かった。EP25のKiは、トロンビンの少なくとも8倍を超える濃度でプレインキュベーションなしで決定した。これらのアッセイ条件下において、EP25とトロンビンの結合は遊離EP25濃度の著明な減少をもたらさず、したがって「強結合」条件はデータフィッティングのために考慮しなかった。基質としてS2238(100μM)を使用した、種々の濃度のEP25: 7.8nM(黒四角)、12.5nM(白四角)、15.6nM(黒丸)、25nM(白丸)、31.3nM(黒三角)、50nM(白逆三角)、62.5nM(黒逆三角)、100nM(白菱形)および125nM(黒菱形)によるトロンビン(0.9nM)阻害の進行曲線。進行曲線は非線形であり、緩慢な結合阻害に典型的な二相平衡を示した。データは式(3)にフィッティングして、使用したEP25のそれぞれの濃度に関するkを得た(n=3)。(D)EP25濃度に対するみかけの一次速度定数kのプロットは式(4)によって記載される双曲線であり、したがってこの式にフィッティングして、初期衝突複合体EIの解離定数を表す約529.7±76.7pMのKi‘を得る。全体の阻害定数Kiは式(5)から計算し、約149.8±30.5pMであることが分かった。
【図6】トロンビンによるs-バリエジンおよびEP25の切断を示す図である。(A)37℃におけるトロンビンによるs-バリエジン切断のHPLC分析の典型的なクロマトグラム。(i)インキュベーション=0分では、単一ピークは非切断s-バリエジンに対応する。(ii)30分のインキュベーション後、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)に対応する2つの新たなピークが出現し、非切断s-バリエジンは量が減少した。(iii)切断は180分のインキュベーション後にほぼ完了する。(B)s-バリエジン(150μM)を、室温で様々な時間トロンビン(5μM)とインキュベートした(n=2)。s-バリエジンはトロンビンの30倍過剰で存在した。トロンビンによるs-バリエジンの切断はRP-HPLCで分析した。非切断s-バリエジン(灰色)、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)(市松模様)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)(斜線)の相対的割合は、ピーク下面積から算出した。(C)s-バリエジンを室温で24時間までトロンビン(3.33nM)と共にインキュベートし、かつ様々な時点で、S2238(100μM)に対するトロンビンアミド分解活性を阻害する能力に関してアッセイした。(D)s-バリエジンをEP25に置き換えて同様の実験を実施した。s-バリエジンまたはEP25の濃度: 10nM(黒)、100nM(灰色)および1000nM(白)(n=2)。100nMのs-バリエジンまたはEP25において、インヒビターはトロンビンの30倍過剰で存在し、したがってHPLC分析からの切断データとの比較のために主に使用した。
【図7】バリエジンと他のトロンビンインヒビターとの比較を示す図である。(A)n-バリエジン、s-バリエジン、EP25、AP18、ヒルログ-1およびヒルジンのアミノ酸配列アラインメントは非常に類似したC末端配列を示す。N-バリエジンはThr(網掛けしたT)でグルコシル化されており、ヒルログ-1はD-Phe(網掛けしたF)を含有し、かつヒルジンはTyr(網掛けしたY)で硫酸化されている。TTIの配列はバリエジンと明らかに異なり、アラインメントしなかった。(B)異なるクラスのトロンビンインヒビターおよびそれらの構造的特徴を示す概略図。(i)ヒルジン:コンパクトなN末端は活性部位と結合し、酸性で伸長したC末端はエキソサイト-Iと結合する;(ii)ロドニン:頭部-尾部配置にある2つのKazal型ドメイン、活性部位とN末端ドメインで結合し、およびエキソサイト-IとC末端ドメインで結合する;(iii)オルニトドリン:尾部-尾部配置にある2つのKunitz型ドメイン、活性部位とN末端ドメインで結合し、およびエキソサイト-IとC末端ドメインで結合する;(iv)ヘマジン(haemadin):コンパクトなN末端は活性部位と結合し、酸性で伸長したC末端はエキソサイト-IIと結合する;(v)トリアビン:1つのβ-バレルドメインはエキソサイト-Iと結合する;(vi)ボスロジャラシン:C型レクチンドメインの2つの異なる鎖は、エキソサイト-Iおよびエキソサイト-IIとそれぞれ結合する。テロミンおよびTTIなどの他の原型トロンビンインヒビターは、詳細な構造的情報の欠如のため示していない。(C)EP-25とトロンビンの提案される結合メカニズム:(i)C末端における帯電はEP25をトロンビンに誘導し、続いて特異的結合相互作用をもたらす、(ii)N末端残基(SDQGDVA(配列番号18))の誘導効果なしでは、活性部位結合部分は正しい向きでトロンビン活性部位にフィットすることはなく、したがって初期衝突複合体(EI)はより高いKiを有する、かつ(iii)緩慢なステップでは、活性部位結合部分(EPKMHKT(配列番号19))は、最適な結合および安定複合体の形成に適したコンホメーションをとる。(D)バリエジンとトロンビンの提案される結合メカニズム:(i)バリエジンのN末端とトロンビンのエキソサイト-IIとの間、およびバリエジンのC末端とトロンビンのエキソサイト-Iとの間の相補的帯電は、バリエジンをトロンビンに誘導する、(ii)全ての静電的相互作用は迅速に起こり、トロンビン活性部位との迅速な結合に適したコンホメーションに活性部位結合部分(EPKMHKT(配列番号19))を予め配置させる。
【図8】ミカエリス-メンテンの式に従う、基質(S2238)濃度の関数としての反応速度(Vmax)のプロットを示す図である。ミカエリス-メンテンの式で計算したKmは、報告された値33,34と同様に3.25+0.56μMであると決定させる。
【図9】10mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に溶解したn-バリエジン、s-バリエジン、EP25およびAP18の遠UVスペクトル(260〜190nm)を示す図である。全てのスペクトルはランダムコイルタンパク質に典型的であった。
【図10】RP-HPLC分析が、37℃および室温においてトロンビンによってs-バリエジンが切断されたことを示した図である。(A)s-バリエジン(150μM)を37℃で様々な時間トロンビン(5μM)と共にインキュベートした(n=2)。(B)s-バリエジン(150μM)を室温で様々な時間トロンビン(5μM)と共にインキュベートした(n=2)。非切断s-バリエジン(灰色)、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)(市松模様)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)(斜線)の相対的割合は、クロマトグラム中のピーク下面積から算出した。
【図11】バリエジンのC末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3)のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、10分間(黒丸)、20分間(黒三角)、30分間(黒逆三角)、120分間(黒菱形)、1080分間(+)または1680分(×)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する様々な濃度のMH22の能力を評価した。
【図12】MH22のアミド分解活性の低下の逆転を示す図である。トロンビンとの長時間のインキュベーション(1680分のプレインキュベーション、IC50=479.7±16.1nM)後のMH22のアミド分解活性の低下は、アッセイ設定中に高濃度のBSA(1mg/ml(黒四角)、5mg/ml(黒丸)、10mg/ml(黒三角))を含めることによって逆転させることが可能である。
【図13】MH22のKiを示す図である。基質(S2238)の異なる濃度におけるMH22のKi'を、迅速かつ強力な結合を記載する式によって決定した。Ki'は使用した濃度範囲(12.5nM〜200nM)中で著明に変化せず、MH22はトロンビンアミド分解活性の非競合的インヒビターであることが示された。Ki'=Ki、かつ平均Kiは13.2±0.91nMであることが分かった。
【図14】バリエジン突然変異体断片EP25A22Eのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、20分間(黒丸)または30分間(黒三角)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、配列EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号7)を有する様々な濃度のEP25A22Eの能力を評価した。EP25A22E中では、s-バリエジン中のアラニン22(EP25中のアラニン15)はグルタミン酸に置換した。グルタミン酸はヒルジン中の同じ位置に存在するからである。
【図15】EP25A22EのKiを示す図である。EP25A22EのKiは緩慢な結合インヒビターの式を使用して決定し、0.311±0.070nMであることが分かった。
【図16】バリエジン突然変異体断片MH22A22Eのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、配列MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列5)を有する様々な濃度のMH22A22Eの能力を評価した。MH22A22はEP25A22EのC末端切断断片である。
【図17】MH22A22EのKiを示す図である。100μMの基質(S2238)を用いて試験したとき、MH22A22Eは15.1±1.04nMのKi'を有する。
【図18】バリエジン断片EP21のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、20分間(黒丸)または30分間(黒三角)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のEP21EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号8)の能力を評価した。C末端で4個の残基を欠いていること以外、EP21はEP25に対応する。
【図19】EP21のKiを示す図である。緩慢な結合の式によって決定したEP21のKiは、0.315±0.024nMであることが分かった。
【図20】バリエジン断片MH18のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のMH18: MHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号20)の能力を評価した。C末端で4個の残基を欠いていること以外、MH18はMH22に対応する。
【図21】MH18のKiを示す図である。迅速かつ強力な結合の式を使用して、100μMの基質(S2238)でのMH18のKi'=14.9±3.50nMであった。C末端における4個の残基の除去が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH18もKi=14.9±3.50nMの非競合的インヒビターである。
【図22】バリエジン断片DV24のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のDV24DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号9)の能力を評価した。N末端に追加の3残基を含有すること以外、DV24はEP21に対応する。
【図23】D24のKiを示す図である。100μMの基質(S2238)でのDV24のKi’=9.74±0.91nM、かつD24のKiは0.306±0.029nMであると決定された。
【図24】バリエジン突然変異体断片DV24K10Rのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のDV24K10R: DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号10)の能力を評価した。位置6にリシンの代わりにアルギニンを含有する(アミノ酸10がバリエジンである)こと以外、DV24K10RはDV24に対応する。
【図25】DV24K10RのKiを示す図である。DV24K10RのKiは0.259±0.015nMであると決定された。
【図26】[3H]-バリエジン投与溶液を示すHPLCラジオクロマトグラムを示す図である。
【図27】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後30分での、組織中の放射活性の分布を示す図である。レベル1〜5はラット身体中の連続した1cmの縦断面を指す。
【図28】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後1時間での、組織中の放射活性の分布を示す図である。レベル1〜5はラット身体中の連続した1cmの縦断面を指す。
【図29】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後30分での、腎臓中の放射活性の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ダニ、アンブリオマ・バリエガタム(Amblyomma variegatum)(マダニ)の唾液からの、上記のアミノ酸配列を有するバリエジンタンパク質の単離はWO03/091284中に記載され、その中でバリエジンタンパク質はEV445と名付けられている。WO03/091284は、バリエジンタンパク質がトロンビン刺激型血小板凝集を阻害することを開示する。しかしながらWO03/091284は、バリエジンタンパク質がトロンビンとの直接的相互作用によってその機能を果たす直接的トロンビンインヒビターであるかどうかに関して、如何なる実験的証拠も与えない。
【0016】
驚くことに、バリエジンタンパク質はトロンビンと直接相互作用するだけでなく、それは3個の別の部位と直接相互作用することが現在分かっている。本明細書で表す結果は、バリエジンタンパク質の残基1〜7はトロンビンのエキソサイトIIと相互作用し、バリエジンタンパク質の残基8〜14はトロンビンの活性部位と相互作用および結合し、かつバリエジンタンパク質の残基15〜32はトロンビンのエキソサイトIと相互作用および結合することを示す。既存の直接的トロンビンインヒビター、天然と合成の両方、例えばヒルジンおよびヒルログは二価である。それらはトロンビンのエキソサイトおよびトロンビンの活性部位自体と相互作用する。バリエジンタンパク質は、トロンビンエキソサイトとトロンビン活性部位の両方と相互作用するトロンビンインヒビターの、本発明者らに知られている最初の例である。トロンビンエキソサイトIIおよびIとバリエジンタンパク質の残基1〜7および15〜32の相互作用は、トロンビン活性部位との結合、および活性部位の結合を強化するエキソサイトIと残基15〜32との引き続く結合のために、バリエジンタンパク質の残基8〜14をアラインメントするようである。
【0017】
他のトロンビンインヒビターと異なり、バリエジンタンパク質が他のセリンプロテアーゼと交差反応しないという、トロンビン中の多数のドメインと相互作用するその能力が原因であるとも考えられる特徴を本明細書で示す。
【0018】
位置14でグリコシル化される天然バリエジンタンパク質は、上記のタイプのアミド分解アッセイ中で、トロンビンに対する高い親和性および高レベルの阻害活性(約10.4pMのKiおよび約0.99nMのIC50)を示すことを本明細書中で示す。同じ配列を有するが位置14でのグリコシル化がない合成バリエジンタンパク質は、上記のタイプのアミド分解アッセイ中で、約146pMのKiおよび約5.40nMのIC50を示す。トロンビン阻害作用の発現速度はトロンビンとのバリエジンの相互作用の性質に原因があると考えられ、急性心筋梗塞、血栓性脳卒中、肺塞栓症または播種性血管内凝固症候群後の非常時使用などの、迅速かつ強力な抗凝固が望まれる臨床的状況において有用である。本明細書中に表すデータは、バリエジンが0.86時間の血漿中半減期および117.2時間の末端消失半減期を有することを示す。本明細書中に表すオートラジオグラフィー試験は、バリエジンが腎経路によって迅速に分泌されることを示し、それが外科手術中の短期の抗凝固に特に有用である可能性があることを確認する。
【0019】
トロンビンの結晶構造は解明されており、トロンビンの活性部位、エキソサイトIおよびエキソサイトIIのアイデンティティーおよび位置はよく知られている。トロンビンはキモトリプシンなどの他のセリンプロテアーゼと高度の相同性を示し、活性部位ポケットを有し、その中で結合する基質は2つの荷電領域、エキソサイトIおよびIIによって囲まれる。本明細書で使用する用語トロンビンの「活性部位」、「エキソサイトI」および「エキソサイトII」は、したがって例えばLane et al(Blood,2005 Oct 15;106(8):2605-12)中に記載されたのと同様の当技術分野で記載されるこれらの部位を指すものとする。
【0020】
簡潔には、用語「活性部位」を使用して、その中でフィブリノゲン基質が結合し60-ループおよびγ-ループに囲まれた活性セリン部位(S195)を含有するトロンビン中のポケットを記載する。60-ループは疎水性であり、2つの隣接Pro残基(P60b、P60c)によって与えられる構造的硬直性を有する。それは基質の疎水性残基、切断部位に対するN末端と相互作用する。γ-ループはより移動性、親水性であり、かつ切断部位に対するC末端の残基と接触することができる。本明細書で使用する用語「エキソサイトI」は、残基K36、H71、R73、R75、Y76、R77a、およびK109/110に集中する活性部位に隣接する部位である。本明細書で使用する用語「エキソサイトII」は、エキソサイトIに対するトロンビンの反対側部位上の残基R93、K236、K240、R101、およびR233に集中する活性部位に隣接する部位である。
【0021】
本発明の1または複数の分子は、静電相互作用によってトロンビンの部位と相互作用することができる。このような静電相互作用は、短距離静電相互作用および/または長距離静電相互作用であってよい。静電相互作用は、トロンビンにおいて分子と部位の間にイオン結合を形成するほど十分強力であることが好ましい。
【0022】
トロンビン活性を阻害する本発明の分子の能力は、当技術分野で知られている標準的なアッセイによって決定することができる。例えば、トロンビンアミド分解活性は、S2238の存在下での推定トロンビンインヒビターとトロンビンのインキュベーション後のp-ニトロアニリンの形成を検出することによって評価することができる。本発明の分子は、30nM未満、25nM未満、20nM未満、15nM未満、14nM未満、13nM未満、12nM未満、または11nM未満のIC50を有する可能性がある。本発明の分子は、このようなトロンビンアミド分解アッセイで評価した場合に、10nM未満、好ましくは9nM未満、8nM未満、7nM未満、6nM未満、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満、または1nM未満のIC50を有することが好ましい。本発明の分子は、15nM未満、10nM未満、5nM未満、1nM未満、750pM未満、500pM未満、400pM未満、300pM未満、または250pM未満のKiを有する可能性がある。本発明の分子は、このようなトロンビンアミド分解アッセイで評価した場合に、200pM未満、好ましくは150pM未満、100pM未満、50pM未満、30pM未満、25pM未満、20pM未満、15pM未満のKiを有することが好ましい。本発明の第1または第2の態様の1または複数の分子は、トロンビンの活性部位へのフィブリノゲンのアクセスを妨げることによってトロンビン活性を阻害することが好ましい。本発明の分子のフィブリノゲン分解活性は、例えば分子とフィブリノゲンをインキュベートしトロンビンの添加により凝固を開始することによって、フィブリノゲン凝固時間を延長する能力を検出することによって評価することができる。
【0023】
トロンビン分子上の部位と相互作用する本発明の第1および第2の態様の1または複数の分子の能力は、本明細書の実施例中に記載する方法などの方法によって決定することができる。例えば、上記のアッセイ中でアミド分解活性を有する分子は、トロンビン活性部位と相互作用することができ、一方フィブリノゲン分解活性は、フィブリノゲンとトロンビンの活性部位とエキソサイトIの両方の結合を必要とする。したがって、アミド分解活性とフィブリノゲン分解活性の両方を示す分子は、活性部位とエキソサイトIの両方と相互作用すると推測することができる。エキソサイトIIと相互作用する分子の能力は、反応の結合反応速度の変化の分析によって評価することができる。エキソサイトIIとの相互作用の存在は迅速な結合特性をもたらすようであり、かつエキソサイトIIと相互作用する残基の欠失は迅速から緩慢への結合特性の変化をもたらす。欠失変異体を使用して、これらの異なる部位と結合する分子中のドメインの正確な位置を決定することができる。
【0024】
本発明の第1の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、特異的にトロンビンを阻害することが好ましい。本発明の1または複数の分子は、他のセリンプロテアーゼの非常に低レベルの阻害を示すことが好ましく、他のセリンプロテアーゼの阻害が全くないことが好ましい。特異的にトロンビンを阻害する本発明の1または複数の分子の能力は、それぞれのセリンプロテアーゼ用の特異的発色基質を使用して上記のアミド分解アッセイ中で、様々なセリンプロテアーゼのアミド分解活性を阻害するその能力を評価することによって試験することができる。本発明の1または複数の分子は、他の線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼなど)、抗凝固セリンプロテアーゼAPCまたは他の凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXI1、FX1、FIXa、FVIIaおよびカリクレインなど)、または他の古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシンなど)を阻害しないことが好ましい。
【0025】
本発明の第1の態様の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、ランダムコイル構造を有することが好ましい。本発明の分子のランダムコイル構造は、円偏光二色性分光法によって評価することができる。
【0026】
本発明の第1の態様の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、1時間未満のin vivo投与時の半減期を有し得る。
【0027】
上記で開示したように、本発明の第1の態様の方法で使用する分子、および本発明の第2の態様の分子は、バリエジンタンパク質またはその機能的等価物であることが好ましい。
【0028】
本発明のバリエジンタンパク質の「機能的等価物」は、バリエジンタンパク質と有意な構造類似性を示し、上記で論じた本発明の分子の好ましい特性を保持する分子を含む。特に、機能的等価物はトロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する能力、および好ましくはトロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用する能力を保持する。したがってバリエジンタンパク質の機能的等価物は、ランダムコイル構造を有し、本発明の他の分子に関して上記で論じた好ましいKiおよびIC50値を保持し、かつ特異的にトロンビン活性を阻害する能力を示すことが好ましい。
【0029】
本明細書中に表す結果は、トロンビンに対するバリエジンタンパク質の親和性は、ビバリルジンなどの二価または一価の直接的トロンビンインヒビターと異なり、それがトロンビンによって切断されたときでさえ、バリエジンタンパク質はトロンビン活性の如何なる著明な消失も示さないようであることを示す。数ヵ所の部位と相互作用するバリエジンタンパク質の能力はトロンビン活性部位に対するこのタンパク質の強い親和性をもたらし、かつこの強い親和性はトロンビンによる切断後でさえバリエジン切断産物によって保持されると推定される。合わせると、したがってこれらの切断産物は、バリエジンタンパク質の機能的等価物であると考えられる。バリエジンタンパク質はアミノ酸10と11の間でトロンビンによって切断される。したがって本発明の第1の態様の方法は、アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3)を有するバリエジンの切断産物、またはこれらの切断産物の機能的等価物にトロンビンを曝露することによって、トロンビン活性を阻害するステップを含むことができる。さらに、本発明の第3の態様の複合体は、トロンビンと、アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を有するバリエジンの切断産物、またはこれらの切断産物の機能的等価物とを含むことができる。
【0030】
バリエジン配列または切断産物の機能的等価物は、エキソサイトIおよび活性部位、好ましくはエキソサイトII、エキソサイトIおよび活性部位でトロンビンと相互作用する能力が保持されるという条件で、バリエジンタンパク質の配列、またはバリエジンタンパク質切断産物の配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多くのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されている変異体も含む。
【0031】
変異体は、元のバリエジンタンパク質の配列と比較して、保存的アミノ酸置換を含有することが好ましい。典型的なこのような置換はAla、Val、LeuおよびIle間、SerおよびThr間、酸性残基AspおよびGlu間、AsnおよびGln間、塩基性残基LysおよびArg間、または芳香族残基PheおよびTyr間である。
【0032】
本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の配列の位置4、5、6、8、11、12、13、14、17、18、25および31の一部または全部にアミノ酸置換を有するバリエジンタンパク質の変異体の存在を実証する。本明細書中に表す結果は、位置10および22にアミノ酸置換を有するバリエジンタンパク質の配列の突然変異体は、トロンビン阻害活性を保持することも実証する。したがってバリエジンタンパク質の好ましい機能的等価物は、1つまたは複数のこれらの位置にアミノ酸置換を有する変異体を含む。好ましい機能的等価物は、位置4におけるGlyがAlaまたはSerに置換された、位置5におけるAspがGlyに置換された、位置6におけるValがArgに置換された、位置8におけるGluがGlnに置換された、位置10におけるLysがArgに置換された、位置11におけるMetがLeuに置換された、位置12におけるHisがProに置換された、位置13におけるLysがArgに置換された、位置14におけるThrがAsnに置換された、位置17におけるProがGlnに置換された、位置18におけるPheがGlyに置換された、位置22におけるAlaがGluに置換された、位置25におけるGluがAspに置換された、または位置31におけるGluがHisに置換された変異体を含む。機能的等価物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13箇所または全14箇所のこれらの変化を含有する変異体を含む。好ましい変異体は、位置31におけるGluがHisに置換された変異体であり、該変異体はアミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDHS(配列番号4)を有する。この変異体は、前述の位置および分子内の他の位置における置換をさらに含み得る。本発明の別の変異体は、バリエジン配列の位置22においてGluからAlaへのアミノ酸置換を有し、したがって配列MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号7)を有する切断産物の1つの変異体である。
【0033】
バリエジンタンパク質または切断産物のこのような変異体は、トロンビン活性を阻害する改善された能力を示すことが好ましい。このようなトロンビン活性を阻害する改善された能力は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび/または活性部位の1つまたは複数との改善された相互作用に原因がある可能性がある。トロンビン活性の改善された阻害は、本明細書に記載するアッセイを使用した、このような変異体のIC50およびKi値の決定によって評価することができる。このような変異体は、in vivoでバリエジンタンパク質と同様の半減期をさらに示す可能性がある。
【0034】
用語「機能的等価物」は、バリエジンタンパク質の断片、またはその変異体の断片も含む。ただしこれらの断片は、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位、好ましくはトロンビンのエキソサイトII、エキソサイトIおよび活性部位と相互作用する能力を保持するものとする。このような断片は、バリエジンタンパク質の配列のN末端からの1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸およびC末端からの1、2、3または4個のアミノ酸の欠失以外は、バリエジンタンパク質の配列またはその変異体と典型的には同一であり得る。このような断片は、前述の位置の1箇所または複数箇所にアミノ酸置換を含有する可能性もある。このような断片の例には、以下より選択されるアミノ酸配列を有する断片がある:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6)
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)
SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号11)
SDQADRAQPKLHRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号12)
SDQSGRAQPKLPRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号13)
SDQGDVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号14)
SDQADVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号15)。
【0035】
機能的等価物は、バリエジンタンパク質またはその変異体内のアミノ酸への糖基またはポリマー基の付加によって修飾されている、修飾型のバリエジンタンパク質ならびにその変異体および断片も含む。特に機能的等価物は、グリコシル化型のバリエジンタンパク質を含む。天然型のバリエジン中では、完全長配列の位置14におけるThrはヘキソース部分によって修飾される。したがって機能的等価物は、バリエジンタンパク質の配列の位置14に対応する位置におけるグリコシル化によって修飾された、上述のバリエジンタンパク質、ならびにバリエジンタンパク質の変異体および断片を含む。機能的等価物は、他の位置でのグリコシル化によって修飾されている、バリエジンタンパク質、ならびにその変異体および断片も含む。グリコシル化は、ヘキソース残基の導入を含むことが好ましい。機能的等価物は、PEG化型のバリエジンタンパク質、ならびにその変異体および断片も含む。このようなPEG化型は、特定の医学的用途においてこれらの分子の半減期を延長するのに特に有用である可能性がある。
【0036】
本発明によって使用する機能的等価物は、例えば、異種タンパク質配列のコード配列とインフレームであるバリエジンタンパク質またはその変異体または断片をコードするポリヌクレオチドのクローニングによって得られる、融合タンパク質であってもよい。用語「異種」は、本明細書で使用するとき、バリエジンタンパク質またはその機能的等価物以外の任意のポリペプチドを指すものとする。N末端またはC末端のいずれかに融合タンパク質を含む異種配列の例は、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、輸送配列、または親和性クロマトグラフィーによる精製を可能にする配列である。発現プラスミドにおける多くのこれらの異種配列は市販されている。これらの配列は、それらと融合するタンパク質の特異的生物活性を著しく害さずに追加の性質を与えるために、融合タンパク質中に一般に含まれるからである(Terpe K,Appl Microbiol Biotechnol,60:523-33,2003)。このような追加の性質の例は、体液中で長時間持続する半減期、細胞外局在、またはヒスチジンまたはHAタグなどのタグによって可能となるさらに容易な精製手順である。
【0037】
融合タンパク質は医学的用途も有し得る。例えば、バリエジンタンパク質およびその機能的等価物はトロンビンと結合することができるので、それらはフィブリン血栓または血小板血栓の部位に治療用分子を運搬する手段として使用することができる。したがって異種タンパク質は、フィブリン血栓または血小板血栓の治療において有用である治療用分子であり得る。このような治療用分子は、抗炎症剤または血栓溶解剤であることが好ましい。
【0038】
異種タンパク質はマーカードメインであってもよい。マーカードメインは蛍光タグ、親和性結合による精製を可能にするエピトープタグ、組織化学的または蛍光標識を可能にする酵素タグ、または放射化学タグであることが好ましい。好ましい実施形態では、マーカードメインは放射化学タグである。このような融合タンパク質は診断ツールとして有用であり得る。例えば、バリエジンタンパク質はトロンビンと結合することができるので、適切な放射化学タグなどの適切なマーカードメインと結合したときのフィブリン血栓または血小板血栓を画像化する手段として、バリエジンタンパク質を使用することができる。
【0039】
融合タンパク質を作製するための方法は当技術分野における標準的な方法であり、当業者には知られているはずである。例えば、最も一般的な分子生物学、微生物学、組換えDNA技術および免疫学的技法は、Sambrook et al.(2000)またはAusubel et al.(1991)中で見ることができる。一般に融合タンパク質は、2つの核酸配列がインフレームで1つに融合した核酸分子から組換えによって最も好都合に作製することができる。これらの融合タンパク質は、対象となる融合タンパク質の対応するコード配列を含有する核酸分子によってコードされ得る。
【0040】
機能的等価物は、上記のバリエジンタンパク質、変異体、断片、修飾変異体または断片、または融合タンパク質の多量体も含む。これらの多量体は本発明のさらなる態様を構成し、かつ本発明の第1の態様の方法に有用である。バリエジンタンパク質のこのような多量体は、多量のトロンビンと結合し阻害するために特に有用である可能性があると考えられる。これらの多量体内のバリエジンタンパク質は、いずれもそれらのC末端を介して中心リンカー部分と結合することができる。あるいは、バリエジンタンパク質は、C末端に対する長い糸状のN末端で結合することができる。多量体は、バリエジンタンパク質、またはその変異体、断片、機能的等価物の2、3、4、5個またはそれより多くのコピーを含むことが好ましい。多量体内のバリエジンタンパク質またはその機能的等価物は全てが互いに同一である可能性があり、あるいはそれらは異なる可能性がある。例えば多量体は、バリエジンタンパク質の数個の異なる変異体を含むことができる。
【0041】
本発明の第1の態様の方法はin vitroまたはin vivoで実施することができる。
【0042】
この方法をin vitroで実施する場合、それはトロンビンと相互作用する1または複数の分子をコードするヌクレオチド配列を含む無細胞系または細胞において実施することができる。したがって本発明は、本発明の第1の態様の方法で有用であり得る本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビターをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子をさらに提供する。このような分子には、一本鎖または二本鎖DNA、cDNAおよびRNA、および合成核酸種がある。核酸配列はDNAを含むことが好ましい。
【0043】
本発明の方法を以下で論じるようにin vivoで実施するとき、これらの核酸配列を使用することもできる。
【0044】
本発明は、本発明のこの態様の核酸分子を含むクローニングおよび発現ベクターも含む。このような発現ベクターは、本発明の核酸分子とインフレームで結合した、適切な転写および翻訳制御配列、例えばエンハンサーエレメント、プロモーターオペレーター領域、末端停止配列、mRNA安定配列、開始および停止コドンまたはリボソーム結合部位を取り込むことができる。さらに、特定宿主から組換えトロンビンインヒビターの1または複数の分子を分泌させることは好都合である可能性がある。したがって、このようなベクターのさらなる構成要素は、分泌、シグナル伝達およびプロセシング配列をコードする核酸配列を含むことができる。
【0045】
本発明によるベクターには、プラスミドおよびウイルス(バクテリオファージと真核生物ウイルスの両方を含む)、および他の直線状または環状DNA担体、転位可能エレメントまたは相同的組換え技術を利用するベクターなどがある。多くのこのようなベクターおよび発現系は知られており、当技術分野において報告されている(Fernandez & Hoeffler,1998)。特に適切なウイルスベクターには、バキュロウイルス、アデノウイルスおよびワクシニアウイルス系ベクターがある。
【0046】
組換え発現に適した宿主には、高レベルの組換えタンパク質を発現させることが可能であり容易に大量増殖することが可能である、大腸菌などの一般に使用される原核生物種、または真核生物酵母がある。特にウイルス誘導性発現系を使用するとき、in vitroで増殖した哺乳動物細胞株も適切である。別の適切な発現系は、宿主として昆虫細胞の使用を含むバキュロウイルス発現系である。発現系は、それらのゲノム中に組み込まれたDNAを有する宿主細胞も構成し得る。タンパク質、またはタンパク質断片はin vivo、例えば昆虫幼虫中または哺乳動物組織中で発現させることも可能である。
【0047】
原核生物または真核生物細胞中にベクターを導入するために、様々な技法を使用することができる。適切な形質転換またはトランスフェクション技法は文献中に十分記載されている(Sambrook et al,1989;Ausubel et al,1991;Spector,Goldman & Leinwald,1998)。真核生物細胞中では、発現系はその系の必要性に応じて一過性(例えばエピソーム性)または永続性(染色体への組込み)であってよい。
【0048】
本発明は、本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビター分子をコードする核酸配列と、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする、アンチセンス核酸分子も提供する。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20マイクログラム/mlの変性、超音波処理サケ精子DNAを含む溶液中での42℃での一晩のインキュベーション、次に約65℃における0.1×SSC中でのフィルターの洗浄として本明細書では定義する。好ましい実施形態では、検出することができる標識をこれらのアンチセンス核酸分子と結合させる。標識は放射性同位体、蛍光化合物および酵素からなる群より選択されることが好ましい。
【0049】
本発明は、前に定義した核酸分子、アンチセンス核酸分子またはベクターを含む、形質転換またはトランスフェクト原核生物または真核生物宿主細胞も含む。宿主細胞は原核生物細胞、好ましくは大腸菌細胞であることが好ましい。本発明の方法をin vitroで実施する場合、それはこのような細胞において実施することができる。
【0050】
本発明のさらなる態様は、本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビター分子の調製方法であって、タンパク質が発現される条件下で本発明による核酸分子を含有する宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む方法を提供する。そのようにして産生されたトロンビンインヒビターは、本発明の第1の態様の方法で使用することができる。
【0051】
本発明の第1の態様の方法をin vivoで実施する場合、それを治療に使用することができる。特に、in vivoで実施する方法を使用して血液凝固の障害を治療または予防することができる。
【0052】
したがって、本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、血液凝固障害に罹患した患者の治療方法または患者が血液凝固障害を発症するのを予防する方法であって、トロンビン分子上のエキソサイトIIおよび活性部位におけるフィブリノゲンとのトロンビンの相互作用を阻害するステップを含む方法をしたがって提供する。本発明の第1の態様のこの実施形態の方法は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てにおけるフィブリノゲンとのトロンビンの相互作用を阻害するステップを含むことが好ましい。
【0053】
本発明のこの態様の方法は、エキソサイトIおよび活性部位との相互作用によって、好ましくはエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子との相互作用によってトロンビンを阻害する本発明の第2の態様の1または複数の分子を、患者に供給するステップを含むことが好ましい。この1または複数の分子は、上記のバリエジンタンパク質またはその機能的等価物であることが好ましい。あるいはこの方法は、上記の本発明の第2の態様のこのような1または複数の分子をコードする核酸分子を供給するステップを含むことができる。
【0054】
「血液凝固障害」とは、血液凝固の任意の障害を意味する。用語「治療上有効量」は、標的疾患または状態を治療または改善するのに必要とされる化合物の量を指す。本明細書で使用する用語「予防上有効量」は、標的疾患または状態を予防するのに必要とされる化合物の量を指す。正確な用量は一般に、投与時の患者の状態に依存するはずである。用量決定時に考慮され得る要因には、患者における疾患状態の重度、患者の一般的健康状態、年齢、体重、性別、食生活、投与の時間および頻度、薬剤の組合せ、反応感受性および療法に対する患者の耐性または応答性がある。正確な量は通常の実験によって決定することができるが、結局は臨床医の判断内に存在し得る。一般に、有効な用量は0.01mg/kg(患者の質量と比較した薬剤の質量)〜50mg/kg、好ましくは0.05mg/kg〜10mg/kgであるはずである。
【0055】
本発明の方法をin vivoで実施する場合、トロンビンと相互作用する1または複数の分子、またはそれらをコードする核酸分子は、製薬上許容される担体と併せて医薬組成物の形で供給することが好ましい。
【0056】
本明細書で使用する用語「製薬上許容される担体」は、賦形剤自体が毒性効果を誘導せず、または医薬組成物を与える個体に有害である抗体の産生を引き起こさないという条件で、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および不活性ウイルス粒子または実際は任意の他の作用物質を含む。製薬上許容される担体は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの液体、または例えば湿潤化剤もしくは乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質をさらに含有することができる。賦形剤は医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液剤に製剤化して、患者による摂取を容易にすることができる。製薬上許容される担体の徹底的な議論はRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において入手可能である。
【0057】
抗凝固剤およびトロンビンインヒビターは、広範囲の疾患および状態の治療および予防において特に用途がある。上記の分子および組成物は、抗凝固を誘導して血液凝固障害を予防または治療することが望ましい任意の状況で使用することができる。
【0058】
抗凝固が望ましいときの治療は、診断上または治療上の理由での経皮的、経血管的または経器官的カテーテル挿入に関する手順を含む。このような手順は、それだけには限られないが、冠動脈血管形成術、血管内ステント手順、脳卒中または冠状動脈血栓症後の動脈または静脈カテーテルなどを介した血栓溶解剤の直接投与、電気的除細動、心臓ペースメーカーリードの配置、血管内および心臓内圧のモニタリング、ガス飽和または他の診断パラメータ、長期、留置、血管内非経口栄養カテーテルの開存性を保証するため、長期または短期であれ血管アクセスポートの開存性を保証するための、経皮的または経器官的カテーテル挿入を含む放射線および他の手順を含み得る。
【0059】
ビバリルジンなどの二価直接的トロンビンインヒビターは、このような手順中使用するのにヘアピンおよびその類似体より優れていることは実証されている(Lehman,S.J.,and D.P.Chew.2006,Vasc Health Risk Manag2:357-63;Maclean,A.A.et al,2006.Tech Vasc Interv Radiol9:80-3;Lewis,B.E.,and M.J.Hursting.2007.,Expert Rev Cardiovasc Ther5:57-68.;Watson,K.et al,2007,Pharmacotherapy27:647-56.)。特に、周術期出血の発生は有意に減少し、かつ急性冠症候群(ACS)を有する患者では、後のMIの発生が減少する(Stone,G.W.et al,2006,N Engl J Med355: 2203-16.;Manoukian,S.V.et al,2007.J Am Coll Cardiol 49: 1362-8.;Stone,G.W.et al,2007,Lancet369:907-19)。したがって、前に論じたトロンビンインヒビターも、このような手順中使用するのにヘアピンおよびその類似体より優れていると予想される。
【0060】
本発明の第1の態様の方法の追加のin vivo用途には、それだけには限られないが、急性心筋梗塞、血栓性脳卒中、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、原因が心臓、動脈硬化性プラーク、人工弁または人工血管または未知の原因であり得る塞栓および微小塞栓の出現、播種性血管内凝固症候群(DIC)を含めた、血栓塞栓性事象後の緊急抗凝固がある。
【0061】
心肺バイパス法、肝臓バイパス法中などの臓器かん流手順中の凝固を予防するため、および臓器移植の補助として、本発明の方法を使用することもできる。CPBによって引き起こされる大量血栓反応を、ヘアピンおよびその類似体などの間接的トロンビンインヒビターによって完全にアンタゴナイズすることはできない(Edmunds,and Colman.2006,Ann Thorac Surg82:2315-22.)。
【0062】
抗凝固が望ましいときのさらなる例は、血液透析、血液濾過または血漿交換手順中を含む。末端循環中の凝固のリスクを最小にするための血管のクロスクランプに関する外科手術中に、抗凝固が望ましい可能性もある。このような手順は、それだけには限られないが、動脈内膜切除、人工血管の挿入、大動脈および他の動脈瘤の修復を含み得る。
【0063】
さらに、本発明の方法およびトロンビンインヒビターは、ヘパリン耐性患者中で抗凝固を誘導するのに有用である可能性がある。
【0064】
この方法およびトロンビンインヒビターは、ヘパリン起因性血小板減少症の治療または予防において有用である可能性もある。このような治療はHITを有するかまたはそのリスクがある患者、および活性血栓形成が有るかまたは無い患者に施すことができ、血小板数が正常の範囲内に回復するまで、または血栓形成のリスクが消失するまで施すことができる(Girolami and Girolami2006,Semin Thromb Hemost32:803-9;Lewis,B.E.,and M.J.Hursting.2007.Expert Rev Cardiovasc Ther5:57-68.)。
【0065】
本発明の特定の態様によれば、in vivo法は、治療上有効量、治療用分子と遺伝子工学的または化学的に融合した本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターを含む融合タンパク質を、トロンビン蓄積により引き起こされる状態に罹患している患者に供給するステップを含む。本発明の方法はトロンビンとの直接相互作用を含む。この特徴は、それらを使用してトロンビン蓄積の部位に治療用分子を運搬することができることを意味する。治療用分子は、抗炎症剤または血栓溶解剤であることが好ましい。状態はフィブリン血栓または血小板血栓であることが好ましい。
【0066】
トロンビンインヒビターは任意の適切な経路によって投与することができる。投与の好ましい経路には、静脈内、筋肉内または皮下注射および経口投与がある。治療は静脈内注入によって、または単回もしくは反復ボーラス注射として連続的に施すことができる。トロンビンインヒビターは患者に個別に投与することができ、または他の作用物質、薬剤もしくはホルモンと併せて投与することができる。例えば、本発明のトロンビンインヒビターは、患者が安定状態になるような時間まで、クマリン誘導体などの経口抗凝固剤と共に投与することができ、その後患者をクマリン誘導体単独で治療することができる。
【0067】
本発明は、本発明の第1の態様の方法が診断に使用することができることをさらに示す。これらの方法はトロンビンとの相互作用によって特異的にトロンビン活性を阻害することを含むので、これらを使用してトロンビンの存在を検出することができ、したがってフィブリン血栓または血小板血栓などのトロンビン蓄積により引き起こされる状態を診断することができる。したがって本発明は、本発明の第1の態様の方法が、患者または患者から単離した組織に上記の本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターを投与し、該トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物の存在を検出することによる、トロンビン蓄積により引き起こされる状態の診断を含むことができることをさらに示し、トロンビンと結合した該トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物の検出は該疾患または状態を示す。トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物は、検出を容易にするために、前でより詳細に記載したマーカードメインを含む融合タンパク質の形であることが好ましい。既知の画像化法を使用して検出を実施することができるように、マーカードメインは放射化学タグであることが好ましい。疾患または状態は、フィブリン血栓または血小板血栓であることが好ましい。
【0068】
本発明の第1の態様のさらなる態様によれば、本発明の第1の態様のin vivo法を使用して、悪性疾患または悪性疾患に関連する状態を治療することができる。
【0069】
悪性疾患は血栓塞栓症発作の傾向の増大に関連することが多いことは、数十年来認められている。例えばトルソー症候群は、一時的な血栓性静脈炎および原発性悪性腫瘍によって特徴付けられ、ヘパリンなどのトロンビンインヒビターはその管理において使用されている(Varki A.Trousseau's Syndrome:multiple definitions and multiple mechanisms.Blood2007)。より近年、トロンビンを含めた凝血促進因子の生成は、悪性疾患の特定の態様の結果ではなく原因である可能性があることが明らかとなっている(Nierodzik ML,Karpatkin S.Thrombin induces tumor growth,metastasis,and angiogenesis:Evidence for a thrombin-regulated dormant tumor phenotype.Cancer Cell2006;10(5):355-62.)。
【0070】
トロンビン、VEGFおよびIGFIIは、癌細胞の生存および浸潤性を促進することが示されている(Gieseler F,Luhr I,Kunze T,et al.Activated coagulation factors in human malignant effusions and their contribution to cancer cell metastasis and therapy.Thromb Haemost2007;97(6):1023-30.)。オステオポンチンのCOOH末端のトロンビン切断は、マウス中で乳癌を促進することが示されている(Mi Z,Oliver T,Guo H,Gao C,Kuo PC.Thrombin-cleaved COOH(-)terminal osteopontin peptide binds with cyclophilin C to CD147 in murine breast cancer cells.Cancer Res 2007;67(9):4088-97.)。細胞マトリクスとの細胞接着を低下させ悪性細胞を移動「可能状態」に置くことによって、トロンビンは前立腺癌の転移において役割を果たすようである(Loberg RD,Tantivejkul K,Craig M,Neeley CK,Pienta KJ.PAR1-mediated RhoA activation facilitates CCL2-induced chemotaxis in PC-3 cells.J Cell Biochem2007)。したがって、根治的前立腺切除術または前立腺生検などの外科手術手順中の強力なトロンビンインヒビターの使用は、体循環中への悪性細胞の放出を減少し、放出されるこれらの細胞の生存を低下させることができると考えられる。
【0071】
したがって本発明の第1の態様の方法および本発明の第2の態様の分子は、特に(例えばヘパリン起因性血小板減少症において)ヘパリンおよびその類似体が禁忌であるときのトルソー症候群の治療、抗癌剤としての使用、および転移のリスクを低減するための外科的切除、悪性腫瘍の触診または生検などの手順中の使用に有用である可能性がある。本発明のこの態様中で使用する分子がバリエジンタンパク質またはその機能的等価物である場合、それは分子の半減期を増大するためにグリコシル化またはPEG化されている修飾型であることが好ましい。
【0072】
本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の機能的ドメインの第1の開示、およびバリエジン分子の切断産物の第1の開示を示す。特に、本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の残基1〜7はトロンビンエキソサイトIIと相互作用し、バリエジンタンパク質の残基8〜14はトロンビンの活性部位と相互作用し、かつ残基15〜32はトロンビンエキソサイトI結合部位と相互作用することを開示する。これらの領域は、完全長バリエジンタンパク質中で一緒に作用してトロンビンの活性を阻害すると考えられる。しかしながら、導入部分で論じたように、多くの既存のトロンビンインヒビターは一価または二価の結合物質である。したがって、トロンビンのこれらの領域の1箇所のみと相互作用するバリエジンタンパク質の断片またはその変異体も、トロンビンインヒビターであり得ると予想される。実際、本明細書中に表す結果は、トロンビン活性部位用の結合部位およびエキソサイトI用の結合部位(EP25)を含有する断片は、完全長合成バリエジンタンパク質のそれと同様のIC50およびKi値を有していたことを示す。トロンビンの1箇所のみまたは2箇所の部位と相互作用するバリエジンタンパク質の断片は、それが循環からより迅速に除去される点で、医学的用途に関して完全長バリエジンタンパク質の利点を有し得る。このことによってその断片が、抗凝固が手順の最後を越えて続くことが望ましくない心臓カテーテル法などの、短期の手順中での使用に理想的となる。
【0073】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、トロンビンインヒビターを提供し、該トロンビンインヒビターはバリエジン配列の断片を含み、かつ以下より選択されるアミノ酸配列を含む:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25:活性部位およびエキソサイトIと相互作用)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18:エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)
SDQGDVAEPKMHKT(エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用)(配列番号17)
SDQGDVA(エキソサイトIIと相互作用)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位と相互作用)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2;MH22)(配列番号3)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
またはそれらの機能的等価物。
【0074】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターはバリエジンタンパク質の断片であり、したがってアミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジンタンパク質の完全な配列は含有しない。しかしながら、本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、トロンビンがバリエジンタンパク質のアミノ酸の全ては含まないという条件で、前述の特異的断片配列のN-またはC-末端にバリエジンタンパク質配列由来の追加のアミノ酸残基を含有することができる。
【0075】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、2個以上の前述の特異的断片を含有する分子も含む。例えばトロンビンインヒビターは、SDQGDVA(配列番号18)(エキソサイトIIと相互作用)およびAPPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)を含むことができる。これらのエキソサイトIIおよびエキソサイトI相互作用部位は、完全長バリエジンタンパク質中に存在するトロンビン活性結合部位とほぼ同じ長さであるリンカー分子によって結合することが好ましい。
【0076】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、前述の配列の1つまたはそれらの機能的等価物からなるものであり得る。
【0077】
本発明の第4の態様によるトロンビンインヒビターは、好ましいKiおよびIC50値ならびに他のセリンプロテアーゼを阻害せず特異的にトロンビンを阻害する能力などの、上記で論じた本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターの特性を示すことが好ましい。
【0078】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターの機能的等価物は、本発明の第4の態様のトロンビンインヒビターと顕著な構造類似性を示し、かつそれらが由来するトロンビンインヒビターと同じトロンビンの領域と相互作用する能力を保持する分子を含む。本発明のこの態様による機能的等価物は、トロンビンインヒビターとトロンビンの相互作用を実質的に変えない1つまたは複数のアミノ酸置換を含有する前述の特異的トロンビンインヒビターの変異体を含む。このようなアミノ酸置換は、前に本発明の第1および第2の態様の分子に関して記載した置換などの、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。好ましい置換は、完全長バリエジンタンパク質の変異体に関して前に論じたアミノ酸位置に存在する置換である。
【0079】
このような機能的等価物の例には、以下より選択されるアミノ酸配列を有する変異体がある:
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5)。
【0080】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターの機能的等価物は、トロンビンインヒビターの断片も含む。ただしこれらの断片は、トロンビン活性を阻害する能力を保持するものとする。
【0081】
機能的等価物は、糖基またはポリマー基などの付加基の共有結合によって修飾されている、修飾型のトロンビンインヒビターおよびその断片も含む。本発明の第1の態様の方法で使用するための、機能的等価物バリエジンタンパク質に関して上記で示したこのような修飾の例は、本発明のこの態様のトロンビンインヒビターに同様に適用可能である。
【0082】
本発明のこの態様の機能的等価物は、トロンビンインヒビターの融合タンパク質も含む。このような融合タンパク質中に含めるのに適したパートナーは、完全長バリエジン配列を含有する融合タンパク質に関して上記で論じている。
【0083】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターとトロンビンとの複合体をさらに提供する。
【0084】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子をさらに提供する。このような分子には、一本鎖または二本鎖DNA、cDNAおよびRNA、および合成核酸種がある。核酸配列はDNAを含むことが好ましい。
【0085】
本発明は、これらの核酸分子を含むクローニングおよび発現ベクターをさらに含む。このようなベクターは、上記の本発明の第1の態様の方法および本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターに関して使用する発現ベクターに関して記載した配列などの、追加の制御配列を含むことができる。
【0086】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビター分子をコードする核酸分子と、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、アンチセンス分子をさらに含む。高ストリンジェンシー条件の例は、本発明の第1および第2の態様の分子に関して上記に記載している。
【0087】
本発明は、本発明のこの態様のトロンビンインヒビター分子をコードする核酸分子、アンチセンス核酸分子またはベクターを含む、形質転換またはトランスフェクト原核生物または真核生物宿主細胞をさらに含む。適切な宿主細胞およびこのような宿主細胞を調製する方法は、本発明の第1および第2の態様に関して上記で論じている。
【0088】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビター分子の調製方法であって、タンパク質が発現される条件下で本発明による核酸分子を含有する宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む方法をさらに含む。
【0089】
本発明は、治療における本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターの使用をさらに含む。本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターは、上述した製薬上有効な担体をさらに含む医薬組成物の形であってよい。本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターは、上述した本発明の第1および第2の態様の方法または分子を使用して治療することができる障害のいずれかの、治療または予防において使用することができる。本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、前述の本発明の第1および第2の態様の方法および分子に関して上記で論じた診断法のいずれかにおいて使用することもできる。
【0090】
本発明の様々な態様および実施形態を、実施例によってここでより詳細に記載する。本発明の範囲から逸脱せずに、詳細の変更を施すことができることは理解されよう。
【実施例】
【0091】
実施例1
バリエジンおよびEP25の分析
材料および方法
材料
ヒトクエン酸血漿はthe Slovak Institute of Cardiovascular DiseasesのDepartment of Hematology and Transfusiologyから供与された。トロンボクロチン試薬はDade AG(Dudingen、スイス)から入手した。トロンボプラスチンIS試薬およびアクチンFS活性化PTT試薬はDade International Inc.(マイアミ、フロリダ)から入手した。9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-L-アミノ酸、Fmoc-PEG-PS担持樹脂、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、20%v/vピペリジン(DMF中)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,-3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)は、Applied Biosystems(Foster City、カリフォルニア)から入手した。トリフルオロ酢酸(TFA)、1,2-エタンジチオール、チオアニソール、ウシキモトリプシンおよびウシ血清アルブミン(BSA)は、Sigma Aldrich(St.Louis、Missouri)からから入手した。ヒトフィブリノゲン、FXIIa、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)、ウロキナーゼ、カリクレインおよびウシトリプシンは、Merck Chemicals Ltd.(Nottingham、UK)から入手した。ヒト第IXa因子(FIXa)、第Xa因子(FXa)、第XIa因子(FXIa)、APCおよびプラスミンは、Hematologic Technologies、Inc.(Essex Junction、Vermont)から入手した。ヒト第VIIa因子(FVIIa)および組換えα-トロンビンは、財団法人化学及血清療法研究所(化血研、日本)(Chemo-Sero-Therapeutic Research Institute(KAKETSUKEN、Japan))から供与された21,22。発色基質S2222、S2238、S2251、S2288、S2302、S2366、S2444、S2586およびS2765はChromogenix(ミラノ、イタリア)から入手した。Spectrozyme(登録商標)FIXaはAmerican Diagnostica Inc.(Stamford、Connecticut)から入手した。使用した全ての他の化学物質および試薬は分析グレードであった。
【0092】
唾液腺抽出物およびタンパク質濃度の推定
A.variegatumのSGEの抽出手順および分画中のタンパク質濃度の推定を以前と同様に記載されている23。
【0093】
バリエジンアイソフォームの精製
Beckman Instruments 126/168 DAD HPLCシステム(Fullerton、カリフォルニア)を用いた3ステップの逆相HPLC手順によってバリエジンを精製した。第1ステップでは(図1A)、Vydac C-4(5μm;250×4.6mm)カラム(Grace Vydac、Hesperia、カリフォルニア)にSGEをロードした。最も強い抗凝固活性を含有していたプールした分画(図1A、分画AV-III)を、Beckman Ultrasphere C-18(5μm;250×4.6mm)カラムを使用する第2ステップに供した(図1B)。最後に、個々の画分をVydac C-18(5μm;250×4.6mm)カラムを使用してさらに精製して、強力な抗トロンビン活性の3個の画分、AV6/5、AV3/5およびAV5/5を得た(図1C〜D)。AV6/5画分中の主な構成成分をバリエジン(variegin)と名付けた。
【0094】
凝固アッセイ
トロンビン時間(TT)、プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)のアッセイを、SGEおよび画分における抗凝固活性の一次スクリーニングに使用した。ヒトクエン酸血漿(50μl)を、1時間37℃で最大5μlのSGEまたは同体積の150mMのNaCl(対照)とプレインキュベートした。対応する試薬(TT:50μlのトロンボクロチン試薬;PT:100μlのトロンボプラスチンIS試薬;APTT:50μlのアクチンFS活性化PTT、3分間加え、反応は50μlの20mMCaCl2で開始した)を加えた後、フィブリン塊の形成に必要とされた時間を、ストップウォッチを使用して目視で決定した。
【0095】
粗製SGEおよび3個の画分(AV6/5、AV3/5およびAV5/5)の活性は、Oxford Hemophilia Centre of Churchill Hospital(Oxford、UK)で確認された。TT、PTおよびAPTTはMDA-180分析装置(Organon Teknika Ltd.、Cambridge、UK)を使用して実施した。AV6/5、AV3/5およびAV5/5を含有する10μlのSGEまたは希釈画分を290μlの乏血小板血漿に加え、混合し37℃で5分間インキュベートした。トロンボエラストグラフ分析装置(Haemoscope Inc.、Skokie、Illinois)を使用して活性をさらに確認した。5μlのサンプルを335μlのクエン酸全血に加え、5分間インキュベートし、サンプルはカルシウム再添加(recalcification)後にTEGに供した。
【0096】
タンパク質配列の分析
AV6/5、AV3/5およびAV5/5中に存在するタンパク質の分子量を、窒素レーザー(337nm)およびグリッドなしのディレイドエクストラクションイオン源を備えるBIFLEX(Bruker-Franzen、Bremen、ドイツ)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化リフレクトロン飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析計を使用して、Eurosequence(Groningen、オランダ)によって決定した。部分アミノ酸配列は、自動シーケンサー(モデル494、Applied Biosystems)を使用してN末端エドマン分解によって決定した。AV6/5の完全な配列はMALDI-MS分析によって決定した。
【0097】
ペプチドの合成および精製
3種類のペプチド(s-バリエジン、EP25およびAP18)を、Applied Biosystems Pioneerモデル433Aペプチド合成装置で固相ペプチド合成法を使用して合成した。アミノ酸のFmoc基を20%v/vピペリジン(DMF中)によって除去し、HATU/DIPEA in situ中和化学法を使用してカップリングさせた。全てのペプチドを事前充填PEG-PS樹脂で合成した。TFA/1,2-エタンジチオール/チオアニソール/水カクテルによる切断はペプチド酸(-COOH)を放出した。合成ペプチドを、AKTA(商標)精製機(GE Healthcare、Uppsala、スウェーデン)およびSunFire(商標)C18(5μm;250mm×10mm)(Waters、Milford、Massachusetts)カラムでRP-HPLCによって精製した。全てのペプチドの純度および質量を、Perkin-Elmer Sciex API 300 LC/MS/MSシステム(Perkin-Elmer Sciex、Selton、Connecticut)を使用してエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)によって決定した。
【0098】
円偏光二色性(CD)分光
10mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に溶解したバリエジン、s-バリエジン、EP25およびAP18の遠UV CDスペクトル(260〜190nm)を、Jasco J-810分光偏光計(Easton、Maryland)を使用して記録した。全ての測定は、50nm/分のスキャン速度、0.2nmの分解能および2nmの帯域幅で、0.1cm経路長キュベットを使用して室温で実施した。
【0099】
トロンビンアミド分解活性の阻害
S2238でのトロンビンアミド分解活性に関する全てのアッセイは、96ウエルのマイクロタイタープレート中、100mMのNaClおよび1mg/mlのBSAを含有する50mMのトリスバッファー(pH7.4)中で室温において実施した。典型的には、100μlのペプチドおよび100μlのトロンビンを、100μlのS2238を加える前に様々な時間プレインキュベートした。着色生成物p-ニトロアニリンの形成率を、ELISAプレートリーダーを用いて10分間405nmで追跡した。インヒビターの不在下を0%として、吸光度の増大率を得ることによって阻害率を計算した。用量応答曲線はOriginソフトウェア(MicroCal、Northampton、Massachusetts)を使用してフィッティングしてIC50値を計算した。
【0100】
阻害定数Kiの決定
阻害定数Kiを、基質としてS2238を使用して決定した。等モル濃度のインヒビターによって酵素を阻害するとき、インヒビターと酵素の結合は遊離インヒビターの濃度の有意な減少を引き起こす。この強結合阻害を以下の等式によって記載する24:
Vs=(Vo/2Et){[(Ki'+It-Et)2+4Ki'Et]1/2-(Ki'+It-Et)} (1)
上式でVsは定常状態速度であり、Voはインヒビターの不在下で観察した速度であり、Etは酵素の総濃度であり、Itはインヒビターの総濃度であり、かつKi'はみかけの阻害定数である。競合的阻害に関して、等式(2)によってKiをKi'と関連付ける(2):
Ki'=Ki(1+S/Km) (2)
上式でKi'はSと共に直線的に増大し、Kiは阻害定数であり、Sは基質の濃度であり、かつKmはS2238に関するミカエリス定数である(3.25±0.56μMであると決定、図8、報告された値と同様24,25)。バリエジンとs-バリエジンの両方が強結合インヒビターであることが分かった。Originソフトウェアを使用して、これらの等式にデータをフィッティングした。
【0101】
インヒビターと酵素の相互作用速度が緩慢であり、したがって阻害される定常状態速度がゆっくりと得られる場合、この緩慢な結合阻害の生成物形成の進行曲線は等式(3)によって記載する26:
P=Vst+(Vo-Vs)(1-e-kt)/k+Po (3)
上式でPは形成される生成物の量であり、Poは生成物の初期量であり、Vsは最終的な定常状態速度であり、Voは初期速度であり、tは時間であり、かつkはみかけの一次速度定数である。
【0102】
このような緩慢な結合反応を記載するための2つの考えられる最小動力学メカニズムが存在する26,27:
【数1】
【0103】
上式でEは酵素であり、Iはインヒビターであり、かつEI*は安定な酵素-インヒビター複合体であり、K1は会合速度定数であり、かつK2は解離速度定数である。このスキーム中、緩慢な結合は主に緩慢なK1によるものである。みかけの一次速度定数kはインヒビター濃度と共に直線的に増大するであろう。あるいは:
【数2】
【0104】
上式でEIは初期衝突複合体であり、K3は順方向異性化速度であり、かつK4は逆方向異性化速度である。このスキーム中、結合は初期衝突複合体(EI)の迅速な形成を含み、それは後に最終的な酵素-インヒビター複合体(EI*)への緩慢な異性化を受ける。kはインヒビター濃度と共に大きく増大する。EIの解離定数(Ki‘で示す)は等式(4)から計算することができる:
k=K4+K3It/[It+Ki‘(1+S/Km)] (4)
【0105】
全体の阻害定数Kiは等式(5)から計算することができる:
Ki=Ki‘[K4/(K3+K4)] (5)
【0106】
EP25はスキーム2のメカニズムに従う緩慢な結合インヒビターであることが分かった。Originソフトウェアを使用して、これらの等式にデータをフィッティングした。
【0107】
セリンプロテアーゼの特異性
バリエジンの選択性プロファイルを、13種類のセリンプロテアーゼに対して調べた:線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼ)、抗凝固セリンプロテアーゼAPC、凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXIa、FXa、FIXa、FVIIa、カリクレインおよびトロンビン)ならびに古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシン)。これらのセリンプロテアーゼに対するs-バリエジンの影響は、特異的発色基質を使用してアッセイしたそれらのアミド分解活性の阻害によって決定した。
【0108】
フィブリノゲン凝固時間
フィブリノゲン凝固時間を延長するs-バリエジン、EP25およびAP18の能力を、BBLフィブロメーター(BD、Franklin Lakes、New Jersey)を使用して試験した。200μlのフィブリノゲン(最終濃度3mg/ml)を、37℃で100μlのペプチド(様々な濃度)と共にインキュベートした。フィブリノゲンの凝固は、100μlのトロンビン(最終濃度20nM)の添加によって開始した。全ての試薬およびサンプルは、100mMのNaClを含有する50mMのトリスバッファー(pH7.4)中に溶解した。
【0109】
トロンビンによるs-バリエジンの切断
s-バリエジンおよびEP25(最終濃度:150μM)を、室温と37℃の両方でトロンビン(最終濃度:5μM)と共にインキュベートした。様々なインキュベーション時間の後、反応を0.1%のTFAバッファー(pH1.8)でクエンチし、AKTA(商標)精製機に取り付けたSunFire(商標)C18カラムにロードした。0分インキュベーションのクロマトグラムに存在したピーク以外の新たなピークは切断産物として同定し、ESI-MSに供してそれらの質量を確認した。それらのピークを統合して、ピーク下面積およびそれぞれのピークの相対的割合を算出した。
【0110】
結果
バリエジンアイソフォームの精製
A.variegatumの粗製SGEは、3種類全ての凝固アッセイ(PT、APTTおよびTT)において強力な抗凝固活性を示した(図9)。強度は順にTT>>APTT>PTであり、SGEが1つまたは複数のトロンビンインヒビターの有望な供給源であることを示した。この1つまたは複数のインヒビターを精製するために、SGEをRP-HPLCによって分画した(図1A)。第1の精製ステップ後、最も強力な抗凝固分画(AV-III)を第2の精製ステップに供した(図1B)。生成した画分は、凝固および発色基質アッセイにおいて抗トロンビン活性に関してスクリーニングした。最も強い活性を有する2つの画分(保持時間23.083分および28.933分)を別の実験でさらに精製した。保持時間23.083分を有する画分はAV3/5およびAV5/5と呼ばれる2つの主要ピークに分離した(図1C)。保持時間28.933分を有する画分は1個の主要ピークおよび小さな「ショルダーピーク」を有し、主要ピークはAV6/5と呼ばれた(図1D)。これら3つの画分(AV3/5、AV5/5およびAV6/5)および粗製SGEの抗凝固活性はPT、APTT、TTおよびTEGアッセイによって確認した。全4種類のアッセイは、AV6/5が最も強い抗凝固活性を含有し、次にAV3/5およびAV5/5が続くことを明らかにした(表1)。
【表1】
【0111】
タンパク質配列の分析
全3個の画分の部分アミノ酸配列をエドマン分解によって決定した。AV6/5に関して、配列および分子量分析はMALDI-TOFによって実施した。AV6/5のMALDIスペクトルは、3769.96Da(モノアイソトピック質量=3768.96Da)の主要m/zシグナルおよび3777.79Da(モノアイソトピック質量=3776.79Da)のマイナーなm/zシグナルを明らかにした。主な構成成分は、Thr14がヘキソース部分によって修飾されている配列SDQGDVAEPKMHKT(hex)APPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有する。これをバリエジンと名付け、さらに特徴付けした。マイナーな構成成分(3776.79Da)はバリエジンとほぼ同一であり、Glu31がHisに置換されている。エドマン分解によって決定した部分配列は、AV3/5画分中の2つの構成成分(m/z3953.54および3409.57Da)およびAV5/5中の3つの構成成分(m/z3680.23、3368.94および3173.62Da)を明らかにした。決定した全ての配列はバリエジンと非常に類似している(図2A)。バリエジンのCDスペクトルはランダムコイルタンパク質に典型的である(表2)。
【表2】
【0112】
BLASTの結果は、バリエジンがデータベース中の如何なる既知のタンパク質とも類似性を示さないことを示す。興味深いことに、そのC末端(DFEAIPEEYL)(配列番号21)は、ヒルジンのC末端(残基55〜64:DFEEIPEEYL(配列番号22))とほぼ同一である。したがって本発明者らは、バリエジンのC末端は、トロンビンとの結合においてヒルジンのC末端と類似の役割を果たすと仮定した。しかしながら、ヒルジンのTyr63は硫酸化されており28,29、一方バリエジン中の対応するTyrは硫酸化されていない。
【0113】
バリエジンによるトロンビンアミド分解活性の阻害およびそのKi
トロンビンアミド分解活性を阻害するバリエジンの能力を、S2238(活性部位のみと結合する小分子ペプチジル基質)を用いてアッセイした。バリエジンはアミド分解活性を阻害し、かつ阻害の進行曲線は、混合によって平衡定常状態を得たことを示した(図2B)。顕著な阻害(約80%)を、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して観察した。阻害のIC50は約0.99±0.02nMである(図2C)。バリエジンは、約10.4±1.4pMのKiでトロンビンの迅速かつ強結合の競合的インヒビターである(図2D)。
【0114】
s-バリエジンおよび変異体の合成
さらなる特徴付けのために、3種類のペプチドを合成し、精製し特徴付けした。合成バリエジン(SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)、s-バリエジン)はバリエジンの完全配列を有し、一方EP25(EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES)(配列番号6)およびAP18(APPFDFEAIPEEYLDDES)(配列番号16)はN末端から7個および14個の残基が切断されている。天然バリエジン(n-バリエジン)と異なり、s-バリエジンおよびEP25中ではThrはグリコシル化されていない。s-バリエジン、EP25およびAP18のCDスペクトルはn-バリエジンのそれといずれも類似しており、ランダムコイルタンパク質に典型的である(図9)。
【0115】
バリエジンによる阻害の特異性
特異性を決定するために、トロンビンを含めた13種類のセリンプロテアーゼに対してs-バリエジンをスクリーニングした。トロンビン以外に、1μMのs-バリエジンでさえ、他のセリンプロテアーゼが有意な阻害を示すことはなかった(≦5%)。10%を超える阻害はより高濃度のs-バリエジンで観察された。最も影響を受けやすいプロテアーゼは、プラスミン、トリプシンおよびFXIaであり、これらは100μMのs-バリエジンによって約20〜30%阻害された。対照的に、トロンビンに対しては、類似した約30%の阻害は少なくとも4桁小さい濃度(約3.3nM)で観察された(図3)。したがって、s-バリエジンは特異的かつ強力なトロンビンインヒビターである。
【0116】
s-バリエジン、EP25およびAP18によるトロンビンアミド分解活性の阻害
s-バリエジンは、阻害の平衡定常状態が混合によって得られた点でn-バリエジンと類似している。s-バリエジンはn-バリエジンより5倍活性が低く、約30%の阻害は等モル濃度のトロンビンとs-バリエジン(3.33nM)で観察された。用量応答曲線はインキュベーション時間(0分および10分)と無関係に5.40±0.95nMのIC50値を示した(図4A)。したがって、s-バリエジンもトロンビンの迅速かつ強結合インヒビターである。s-バリエジンにおけるThrグリコシル化の不在は、その弱い活性の原因である可能性がある。
【0117】
EP25もトロンビンのアミド分解活性を阻害した。しかしながら、n-バリエジンおよびs-バリエジンと異なり、阻害の進行曲線はプレインキュベーションの不在下で二相平衡を示した。平衡定常状態の阻害は、約10分のプレインキュベーション後に比較的ゆっくりと得られた。EP25の用量応答曲線はインキュベーション時間に依存した。したがって、7個のN末端残基(SDQGDVA(配列番号18))の欠失は結合形式を迅速から緩慢に変えた。しかしながら、EP25の強度は欠失によって影響を受けなかった。最終的な平衡定常状態を得たとき(20分のプレインキュベーション)、EP25はs-バリエジンと同じ程度でトロンビンを阻害した(EP25およびs-バリエジンに関するIC50値はそれぞれ5.63±0.45nMおよび5.40±0.95nMである)(図4B)。
【0118】
対照的に、AP18は300μMでもトロンビンのアミド分解活性を阻害せず、活性部位と結合しなかったことが示唆された。代わりにAP18は、用量依存的に若干トロンビンのアミド分解活性を増大させた(図4C)。これはヒルジンC末端の報告された挙動と一致する28。要約すると、これらの結果はバリエジン上の活性部位結合部分は位置8〜14(EPKMHKT)内に存在することを示唆する。
【0119】
トロンビンのフィブリノゲン溶解活性の阻害
s-バリエジン、EP25およびAP18はいずれも用量依存的にフィブリノゲン凝固時間を延長した(図4D)。フィブリノゲンはトロンビンの活性部位とエキソサイト-Iの両方と結合する1,2。AP18はトロンビンのフィブリノゲン溶解活性を阻害したがアミド分解活性は阻害せず、したがって本発明者らは、バリエジンのC末端はエキソサイト-Iと結合すると結論付けた。この観察はヒルジンC末端のそれと一致する28,29。s-バリエジンとEP25の間の活性の違いは、おそらくEP25の緩慢な結合形式が原因である。
【0120】
s-バリエジンおよびEP25の阻害定数Ki
s-バリエジンおよびEP25のKiを、基質としてS2238を使用して決定した。s-バリエジンは迅速かつ強結合インヒビターである。Ki'を異なる濃度のS2238の存在下で決定した(図5A)。s-バリエジンはトロンビンの競合的インヒビターであり、そのKi'は漸増濃度のS2238と共に直線的に増大した(等式2)(図5B)。真の阻害定数、Kiは約146.4±13.6pMであることが分かった。これはn-バリエジン(約10.4±1.4pM)より14倍高い。対照的に、EP25はトロンビンの緩慢な結合インヒビターである。阻害の進行曲線を式3にフィッティングしてそれぞれの濃度のEP25に関するkを得た(図5C)。k(初期衝突複合体(EI)と最終的な安定複合体(EI*)の間の平衡を確定するためのみかけの一次速度定数)は、スキーム(2)によって記載されるようにEP25濃度と共に大きく増大した(図5D)。したがって、EP25とトロンビンの間の結合はEIからEI*への異性化を含む。EIの解離定数(Ki‘、式4)は約529.7±76.7pMであり、一方全体の阻害定数Ki(式5)は約149.8±30.5pMであった。したがって、EP25のKiはs-バリエジンのKiとほぼ同じである(約146.4±13.6pM)。これらの結果によって、7個のN末端残基の欠失は強度に影響を与えなかったが、結合形式を迅速から緩慢に変えたことを確認した。
【0121】
トロンビンによるs-バリエジンの切断
バリエジンはトロンビンの活性部位と結合するので、他のセリンプロテアーゼインヒビターと同様にトロンビンによって切断される可能性がある30。したがって本発明者らは、トロンビンによるs-バリエジンの切断および阻害に対するその影響を調べた。RP-HPLC分析によって、s-バリエジンは室温および37℃でトロンビンによって実際に切断されたことが示された。0分のインキュベーションでは、非切断s-バリエジンおよびトロンビンに対応するピークのみが存在した。切断産物の2つの新たなピークが出現し、増大するインキュベーション時間と共に増大した(図6A)。これらの新たなピークは、それぞれ1045Da(SDQGDVAEPK(配列番号2))および2582Da(MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3))の分子量を有しており、Lys10-Met11ペプチド結合での切断に相当した。切断は室温より37℃で迅速に進行した(図9)。
【0122】
バリエジンの切断の影響を確認するために、s-バリエジンおよびEP25を24時間までトロンビンと共にインキュベートし、かつ様々な時間地点で、トロンビンアミド分解活性を阻害する能力に関してアッセイした。これらの結果は、トロンビンとの長期インキュベーション後のみで、s-バリエジンとEP25の両方がそれらの活性を失ったことを示した(図6B〜D)。興味深いことに、同じ温度(24℃)およびモル比(30倍過剰のs-バリエジン)において、60分のインキュベーション後、約30%のs-バリエジンが切断されたが、s-バリエジンおよびEP25の阻害活性の消失は観察されなかった。24時間のインキュベーションが、s-バリエジンおよびEP25の阻害活性の約30%の消失に必要であった。EP25の緩慢な結合阻害の場合、阻害率は20分までインキュベーション時間と共に増大し、次いでトロンビンによる切断のために低下した(図6D)。したがって、1つまたは複数の切断産物は、トロンビンの活性部位との強い結合を保持する可能性がある。
【0123】
考察
バリエジンは天然で見られる最小トロンビンインヒビターの1つである。その小さなサイズおよび柔軟性のある構造にもかかわらず、バリエジンは強い親和性でトロンビンと結合する。構造-活性試験は、バリエジンはトロンビンの広い表面積と結合することを示す。7個のN末端残基は結合動態に影響を与え、除去したとき、バリエジンの結合特性は迅速から緩慢に変わった。残基8〜14はトロンビンの活性部位と結合するようであり、かつ残基15〜32はエキソサイト-Iと結合するようである。バリエジンはトロンビンによって切断されるが、その阻害活性は切断後に大部分が保持された。
【0124】
数年にわたって、多くのトロンビンインヒビターが吸血性動物およびヘビ毒から単離されている。しかしながら、バリエジンと他のトロンビンインヒビターの一次構造に類似性は見られなかった。柔軟性のある構造を示唆するシステインの不在も、ヒルジン(コンパクトなN末端、酸性で伸長したC末端)6,11-13、ロドニン(二重ドメインKazal型インヒビター)31,32、オルニトドリン(二重ドメインKunitz型インヒビター)33およびテロミン(酸性およびアンチタスチン様N末端、コンパクトなC末端)34などの原型トロンビンインヒビターと異なるが、これらはいずれもトロンビンの同じ部位(活性部位およびエキソサイト-I)と結合する(図7A)。バリエジン残基19〜28はヒルジンC末端とほぼ同一であるが、それらのN末端は完全に異なる(図7B)。ヒルジンと異なり、バリエジンはTyr残基において硫酸化されておらず、末端に3個の余分な残基を有する。ヒルジン24またはそのC末端ペプチド(ヒルゲン)29の脱硫酸化は、親和性24および活性29の10倍の低下にもかかわらず抗トロンビン活性を保持した。本発明者らの結果は、ヒルジンC末端の報告された挙動と同程度に28,29、AP18はエキソサイト-Iと結合しトロンビンアミド分解活性を若干増大させたことを示し、これら2つの配列に関する類似した役割を示唆した。これは2つの系統発生学的に別個の系統における収束進化の一例であるようである。
【0125】
バリエジンはへマジン35,36、トリアビン37,38およびボスロジャラシン39などの他のトロンビンインヒビターとも異なる。へマジンはヒルジンと類似した構造を有し、トロンビン活性部位とそのN末端が結合し、かつエキソサイト-IIと伸長したC末端が結合する35,36。トリアビンはエキソサイト-Iのみを阻害し、リポカリン37,38と類似した構造を有する。ボスロジャラシン(C型レクチンタンパク質)は、エキソサイト-Iとエキソサイト-IIの両方と結合する39。類似したサイズのわずか2つの他のトロンビンインヒビターが今日までに報告されてきているが、しかしながらそれらはバリエジンとは無関係であるようである。32残基をさらに有するにもかかわらず、ツェツェバエ(Glossina morsitans morsitans)40,41から単離したツェツェバエトロンビンインヒビター(TTI)は、バリエジンとは如何なる配列類似性も共有しない(図7A)。別の低分子量トロンビンインヒビター(3.2kDa)が、ラクダダニ(ヒアロマ・ドロメダリ(Hyalomma dromedarii))から単離された(NTI-1)42。バリエジンと異なり、NTI-1は微力で(Ki=11.7μM)非競合的なトロンビンのインヒビターであり、トロンビンの一部位のみと結合する(図7A)。現在、NTI-1に関する詳細な構造情報は入手不能である。
【0126】
おそらくバリエジンは、4個のGly残基のリンカーを介して活性部位結合部分D-Phe-Pro-Arg-ProにヒルジンC末端を移植することによって設計した合成トロンビンインヒビターであるヒルログと比較するのが最も良い14(図7A)。(ビバリルジンとして市販されている)ヒルログの開発は首尾よい合理的な薬剤設計を代表するが、バリエジンは進化中に類似した「設計」を生み出す天然の能力を示す。したがって、バリエジンは「天然」ヒルログとして記載することができる。s-バリエジンおよびEP25は、トロンビンインヒビターとしてヒルログに優るいくつかの利点を有する。第1に、バリエジンおよびEP25は天然アミノ酸を含む(ヒルログはD-Pheを一般に有する)。第2に、Thrグリコシル化がない場合でさえ、トロンビンに対するそれらの親和性はヒルログ-1のそれより高い。(長さがヒルログ-1に匹敵する)EP25ははるかに強い親和性でトロンビンを阻害する(EP25およびヒルログ-1のKi値はそれぞれ約149.8±30.5pMおよび約2500pM43である)。最後に、ヒルログとバリエジンの両方がトロンビンによって切断されるが、バリエジン(およびEP25)は、ヒルログよりはるかに遅い速度でトロンビンに対するその阻害活性を失う。例えば、3:1のインヒビター:トロンビン比では、ヒルログ-1は約15分後にトロンビンアミド分解活性に対する全阻害活性を失い43、一方s-バリエジンおよびEP25は24時間のインキュベーション後でのみ90%を超える阻害活性を失った。したがって、バリエジンおよびEP25はヒルログより優れているようである。
【0127】
ヒルログとバリエジンのC末端は非常に類似しているので(図7A)、バリエジンの親和性の改善および活性消失の遅延は主にN末端に原因があると、本発明者らは提案する。本発明者らの結果は、バリエジン上の活性部位結合部分は配列EPKMHKT(配列番号19)を有し、かつトロンビンはKとMの間でバリエジンを切断することを示した。この基質配列は、トロンビンの大部分の天然基質の配列と異なるようである。例えば、P1におけるLysは、可能ではあるが、観察されるのは非常に稀である44。さらに、P3におけるGlu、S1'におけるMet、S2'におけるHisおよびP4'におけるグルコシル化Thrの存在はいずれも一般的でない44,45。したがって、この特有の活性部位結合部分の同定は、トロンビン基質の選好性の理解と直接的トロンビンインヒビター開発のための新たなリード化合物の発見の両方において、強い暗示を有する可能性がある。
【0128】
部位特異的突然変異試験および内部蛍光試験は、ヒルジンとトロンビンの結合中の以下の事象を示唆する25,46:(1)ヒルジンC末端とトロンビンエキソサイト-Iの相補的電場による静電誘導、(2)トロンビン-ヒルジンC末端複合体のコンホメーションの変化および安定化を誘導するヒルジンC末端の特異的残基間の直接的相互作用によるイオン結合、および(3)活性部位近辺の無極部位とヒルジンN末端の引き続く結合。内部蛍光試験で検出したヒルジンC末端の結合によるコンホメーションの変化(ステップ2)が、律速段階であることを観察した46。ヒルジンは高イオン強度溶液(>0.2M)中で緩慢な結合インヒビターとして挙動し、この場合イオン相互作用は妨害された24。興味深いことに、バリエジンでは、7個のN末端残基の欠失は、結合親和性の顕著な消失なしで、迅速な結合インヒビターから緩慢な結合インヒビターへの変化をもたらした。EP25に関して観察したこの緩慢な結合は、おそらくヒルジンに関して観察したイオン結合の妨害ではなくN末端残基の消失によるものであり、異なる律速段階を示唆する。動態試験は、EP25の緩慢な結合形式はおそらくトロンビン-EP25複合体の異性化を含むことを示す。EP25のC末端とトロンビンエキソサイト-Iの間の長距離静電相互作用は初期衝突複合体(EI)の迅速な形成を可能にすると、本発明者らは提案する。これは緩慢なステップにおける活性部位とEPKMHKT(配列番号19)の引き続く結合をもたらし、短距離相互作用によって安定状態の酵素-インヒビター複合体(EI*)を形成する(ステップ3は律速段階である)(図7B)。対照的に、完全長バリエジンでは、N末端はおそらくSDQGDVA(配列番号18)中の2つの負に荷電した残基を介して追加の静電誘導効果を与え、N末端を活性部位近辺に予め配置し、短距離相互作用の迅速な形成を可能にする。N末端の静電誘導効果は、高塩基性のエキソサイト-IIの存在によって促進される。エキソサイト-IIは活性部位から約10Å離れ、これは伸長したコンホメーション中の7個のN末端残基によって理論上含まれ得る距離である(図7C)。
【0129】
要約すると、本発明者らは強力な二価トロンビンインヒビターであるバリエジンの単離、特徴付けおよび構造-機能関係を示す。それは新規なクラスのトロンビンインヒビターであり、新たなトロンビンインヒビターを開発するための優れた基盤を与える。
【0130】
実施例2
バリエジンの変異体および断片の活性の分析
s-バリエジンおよびEP25のIC50およびKiを決定するための上記のアッセイを、(化血研、日本からの)3.33nMの組換えヒトα-トロンビンの代わりに(化血研、日本からの)1.65nMのヒト血漿由来トロンビンを使用したこと以外、実施例1中に記載したのと同様に繰り返した。
【0131】
これらの実験において、s-バリエジンは約9nMのIC50および約0.318nMのKiを有することが分かった。EP25は約13nMのIC50および約0.365nMのKiを有することが分かった。実施例1中で得た結果と比較した、この実験におけるIC50値とKi値の値の差の理由は、組換えヒトα-トロンビンの代わりにヒト血漿由来トロンビンを使用したことであったと確認した。
【0132】
実験をさらに実施して、以下に論じるように様々なバリエジンの断片およびこれらの断片の突然変異体のIC50およびKiを評価し、これらの断片および突然変異体のIC50値およびKi値を既知のトロンビンインヒビターであるヒルログ-1(ビバリルジン)のIC50値およびKi値と比較した。全てのこれらの実験も、それらの結果が直接比較可能であるようにヒト血漿由来トロンビンを使用して実施した。
【0133】
これらの結果の要約は以下の表3中に表す。
【0134】
MH22-MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDESの分析
s-バリエジンは大部分が切断後にその活性を保持していることを考慮して、1つまたは複数のその切断産物はトロンビンと強く結合した状態であったと本発明者らは仮定した。s-バリエジン切断後のC末端断片を表すペプチドであるMH22を合成した。
【化1】
【0135】
トロンビンとの如何なるプレインキュベーションもなしで、MH22は11.5±0.71nMのIC50でトロンビンアミド分解活性を阻害することが分かった(図11)。MH22を短時間トロンビンとプレインキュベートとき、阻害活性の著明な変化は観察されず(10分プレインキュベーションのIC50=13.4±0.76nM;20分プレインキュベーションのIC50=12.3±1.89nM)、MH22は迅速に結合していることを示した。
【0136】
MH22はトロンビンとの長期のインキュベーション後に低下したアミド分解活性を示す(1680分のプレインキュベーションIC50=479.7±16.1nM)。この活性の消失は、アッセイ設定中のBSAの濃度を増大させることによって逆転させることが可能であり(図12)、消失した活性は大部分が反応プレートへのペプチドの吸収によるものであったことを示す。使用した高濃度のBSAで、1680分のプレインキュベーション後に、IC50は479.7±16.1nM(1mg/mlのBSA)から60.9±3.05nM(5mg/mlのBSA)および62.9±10.9nM(10mg/mlのBSA)に低下した。
【0137】
基質(S2238)の異なる濃度におけるMH22のみかけのKi'を、迅速かつ強力な結合を記載する等式によって決定した。Ki'は使用した濃度範囲(12.5nM〜200nM)で顕著に変化せず、MH22はトロンビンアミド分解活性の非競合的インヒビターであることが示された(図13)。非競合的インヒビターに関して、Ki'=Ki、かつこの場合平均Kiは13.2±0.91nMであることが分かった。
【0138】
EP25A22E-EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号3)の分析
次に、ペプチドEP25A22Eを合成した。このペプチド中では、s-バリエジン中のアラニン22(EP25中のアラニン15)をグルタミン酸に置換した。グルタミン酸はヒルジン中の同じ位置に存在するからである:
EP25(配列番号6):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES
EP25A22E(配列番号7):EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
【0139】
EP25と同様に、EP25A22Eは緩慢な結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=124.3±22.7nM、20分のプレインキュベーションでIC50=13.5±2.08nM、およびIC50=13.6±3.15nM(図14)であった。EP25と比較して、置換がアミド分解活性に悪影響を与えることはなかった。
【0140】
EP25A22EのKiは緩慢な結合インヒビターの等式を使用して決定し、0.311±0.070nMであることが分かった(図15)。したがって、EP25のKiと比較して、置換がトロンビンに対する結合親和性に悪影響を与えることはなかった。
【0141】
MH22A22E-MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号5)の分析
ペプチドMH22A22Eによって表されるEP25A22E切断のC末端断片を合成した:
EP25A22E(配列番号7):EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
MH22A22E(配列番号5):MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
【0142】
MH22と同様に、MH22A22EのIC50はトロンビンとのプレインキュベーションなしで13.6±0.45nMであり、かつ20分のプレインキュベーションでIC50=15.6±0.36である(図16)。
【0143】
再度MH22と同様に、100μMの基質(S2238)で試験したとき、MH22A22Eは15.1±1.04nMのKi'を有する。アラニンからグルタミン酸への一残基置換が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH22A22EもKi=15.1±1.04nMの非競合的インヒビターである(図17)。
【0144】
配列EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号8)を有するEP21および配列MHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号20)を有するMH18の分析
EP25A22EとMH22A22Eの両方からの結果は、アラニン22のグルタミン酸での置換はペプチド活性を変えなかったことを示した。次に、アラニン残基を保持することによってペプチドを合成した。
【0145】
既知のトロンビンインヒビターであるヒルログと比較したとき、s-バリエジンはC末端に追加の4個の残基を有することを考慮して、ペプチドEP21およびMH18を合成して4個の追加の残基の役割を決定した:
EP21(配列番号8):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
MH18(配列番号20):MHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0146】
トロンビン活性を阻害するこれら2つの断片の能力を評価した。4個の残基を除去したとき、著明な活性の消失はなかった。EP21も緩慢な結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=176.9±6.77nM、20分のプレインキュベーションでIC50=16.2±2.93nM、および30分のプレインキュベーションでIC50=16.20±2.93nMである(図18)。緩慢な結合の等式によって決定したEP21のKiは0.315±0.024nMであることが分かった(図19)。
【0147】
同様に、MH18に関して活性の著明な消失は観察されなかった。トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=10.9±1.20nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=11.7±1.88nMであった(図20)。
【0148】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのMH18のKi'=14.9±3.50nMである。C末端における4個の残基の除去が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH18もKi=14.9±3.50nMの非競合的インヒビターである(図21)。
【0149】
DV24-DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号9)の分析
本発明者らは、s-バリエジンのN末端中の荷電残基がその迅速な結合動態の原因であると仮定したので、EP21のN末端に3個の過剰な残基を有するペプチドDV24を合成して、このペプチドが迅速な結合形式に変わるかどうか試験した:
EP21(配列番号8):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
DV24(配列番号9):DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0150】
予想通り、DV24は迅速かつ強結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=7.49±0.28nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=10.1±0.60nMである(図22)。DV24はトロンビンによって切断され、切断後に観察した活性は切断産物のC末端断片によるものである(この断片はペプチドMH18によって表される)。
【0151】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのDV24のKi'=9.74±0.91nMであり、かつこのペプチドは競合的インヒビターであると仮定して、DV24のKiは0.306±0.029nMであると決定した(図23)。
【0152】
DV24K10R-DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号10)の分析
大部分のトロンビンインヒビターがs-バリエジンにおいてリシンの代わりにP1位置にアルギニンを有することを考慮して、本発明者らは同じ置換でペプチドDV24K10Rを合成した:
DV24(配列番号9):DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
DV24K10R(配列番号10):DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0153】
DV24K10Rも迅速かつ強結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=6.98±0.76nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=12.01±0.41nMである(図24)。DV24K10Rもトロンビンによって切断され、切断後に観察した活性は切断産物のC末端断片によるものである(この断片はペプチドMH18によって表される)。
【0154】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのDV24K10RのKi'=8.22±0.48nMであり、かつこのペプチドは競合的インヒビターであると仮定して、DV24K10RのKiは0.259±0.015nMであると決定した(図25)。したがってアルギニンでのリシンの置換は断片の活性を改善する。
【0155】
結論
これらの実験結果から、バリエジンの断片およびこれらの断片の突然変異体はトロンビン活性の有効なインヒビターであるという知見が確認される。これらの分子置換実験に由来する情報によって、エキソサイト2との相互作用はトロンビンに最も迅速な結合をもたらすために重要であることも確認した。
【表3】
【0156】
実施例3
ラットにおける全身の定量的オートラジオグラフィー試験
[3H]-標識試験物質を使用して、ラットにおけるバリエジンの分布を調べた。実験は0.4mg/kgの用量レベルで実施した。
【0157】
実験手順:
用量調製および評価
1mLの透析バッファー(50mMのリン酸ナトリウム、200mMの塩化ナトリウム(pH8.0))中に1mgのバリエジンを溶解した溶液を調製し、[3H]-NSP(400μCi)と共にインキュベートした。
【0158】
溶液を透析チューブ(1000kda)に移し、約96時間透析し、透析バッファーは1日当たり3回交換した。次いで溶液を(10mLのバッファー溶液、pH8で予め平衡化した)NAP5カラムにロードし、溶出液は廃棄した。次いでバッファーを加え、溶出液を回収して約0.5mg/mLで[3H]-標識タンパク質溶液を得た。
【0159】
[3H]-バリエジン溶液のアリコートを、液体シンチレーション計数による放射アッセイ用に取り出した。[3H]-バリエジン溶液のさらなるアリコートを投与前にHPLCにより分析して、タンパク質標識の効率を確認した(図26参照)。
【0160】
用量投与
単回静脈内用量を、0.4mg/kg(0.8mL/体重1kg)の投与レベルの容量でシリンジおよび針を使用して、それぞれの動物に投与した。製剤はラットの尾静脈中に単回パルス用量として分配した。それぞれのラットに投与した用量は、投与溶液の投与容量、および規定の放射活性濃度および比活性によって決定した。
【0161】
薬物動態試験
[3H]-バリエジンを、0.4mg/kgの公称投与レベルで単回静脈内用量として3匹のオスのラットに投与した。一連の血液サンプルを投与後の以下の時間:0.5、2、4、6、24および48時間で血漿調製用に採取した。
【0162】
血漿を得るために、回収後可能な限り早くサンプルを遠心分離にかけた。血漿を回収し、アリコートを放射活性測定用に残した。血液細胞は廃棄した。
【0163】
放射活性の測定
血漿に伴う放射活性を、既知の容量のサンプルの液体シンチレーション計数によって直接決定した。サンプルはUltima Goldシンチラントと混合し、自動外部標準クエンチ補正でPackard液体シンチレーションカウンターを使用して計数した。最適なチャンネル設定を選択した後、クエンチ補正曲線を放射化学標準から作製した。これらの曲線の妥当性は実験を通して調べた。2倍未満のバックグラウンド計数を有する放射活性は正確な定量化の限界未満であると考えた。
【0164】
薬物動態
静脈内投与後の血漿中のバリエジンの濃度を、PCModfit(バージョン3.0)を使用して分析した。動態データはノンコンパートメント解析(NCA)によって特徴付けた。以下の薬物動態パラメータ:最大ピークの血漿濃度(Cmax)、最大観察濃度の時間(Tmax)、終末半減期(t1/2)、および曲線下面積(AUC)をデータから誘導した。
【0165】
AUCは線形/対数台形法を使用して決定した。定量限界未満(BLQ)として記録した任意の血漿濃度にゼロの値を使用した。
【0166】
AUCinf(観察値)は、観察した濃度に基づいて無限大の時間まで外挿した投与時間から曲線下面積として算出した。したがってAUCinfパラメータは、より代表的な曝露推定値を与える外挿パラメータである。それは最終データ点から濃度がゼロであると推定される(将来の)時間までの時間-濃度プロファイルの追加部分を含有するからである。
【0167】
組織分布試験
[3H]-バリエジンを、0.4mg/kgの公称投与レベルで単回静脈内用量として3匹のオスのラットに投与した。用量投与後0.5、1および24時間で、1匹のラットをCO2過剰摂取によって屠殺した。屠殺後、固体二酸化炭素を含む約-80℃に冷却したヘキサン浴中に完全に浸すことによって、動物を迅速に凍結した。
【0168】
髭、脚および尾の除去後、それぞれの凍結死骸を1%(w/v)水性カルボキシメチルセルロースのブロック中に置き、約-20℃に維持したLeicaCM3600クリオミクロトームの試料台に載せた。次いで矢状断面(公称30μm)を、全ての主要な組織および器官を含むように死骸中の5レベルから得た:
レベルA:眼窩外涙腺
レベルB:眼窩内涙腺
レベルC:ハーダー腺/副腎
レベルD:甲状腺
レベルE:脳および脊髄。
【0169】
オートラジオグラフィー用テープに載せた切片を、FUJIイメージングプレート(タイプBAS-III、Raytek Scientific Ltd、Sheffield)と接触させて置いた。これらの手順はUllberg(Acta.Radiol.Suppl.118、22)の実験に基づく。
【0170】
全身オートラジオグラムの画像解析
少なくとも14日間約-75℃のフリーザー中に保存した鉛容器中での曝露後、イメージングプレートをFUJI BAS1500生体画像分析器(Raytek Scientific Ltd)を使用して処理した。
【0171】
確認されたPCベースの画像分析パッケージ(SeeScan Densitometryソフトウェア、LabLogic、Sheffield)を使用して電子画像を分析した。一組の[3H]-標識血液標準を準備し、それらを使用して放射活性濃度の範囲で較正線を作製した。
【0172】
この手順に関する定量化の下限は、マイクロスケールで含まれる最小定量化標準として定義した(36.6nCi/g)。個々の組織の放射活性濃度はnCi/gで表し、投与製剤中の試験材料の計算した比活性を使用してμg当量バリエジン/g(μg当量/g)に変換した。これは6.83μg当量/gの定量化の下限を与えた。
【0173】
可能な限り、1オートラジオグラフ中の最大領域を測定用にそれぞれの組織に関して定義した。いくつかの組織に関してこれは実用的ではなかったので、1つの特定領域を測定用に選択した。これらの組織、および対応する測定領域を以下に列挙する:
【0174】
オートラジオグラムの電子画像を使用して図27〜29を作製した。図27〜29中のレベル1〜5はラット身体の連続した1cmの縦断面を指す。
【0175】
結果および考察
濃度をμgまたはng当量バリエジン/g(mL)として報告する場合、放射活性はバリエジンまたは同じ分子量の化合物と関連していると推定される。投与溶液の比活性を全ての例において濃度(μgまたはng当量バリエジン/g(mL))の計算のために使用した。
【0176】
薬物動態試験:
3匹のオスのSprague Dawleyラットへの[3H]-バリエジンの静脈内投与後に観察した、総放射活性の平均薬物動態パラメータのまとめを、以下の表4および表5に示す。
【表4】
【表5】
【0177】
組織分布試験:
組織分布試験の結果を以下の表6および表7に示す。
【表6】
【表7】
【0178】
0.5時間(第1サンプリング時点)で、放射活性は限られた組織に分布していた。腎臓(25.7μg当量/g)、(腎皮質:29.1μg当量/gおよび腎臓髄質:8.15μg当量/g)、皮膚(17.0μg当量/g)および膀胱(63.6μg当量/g)において放射活性の濃縮を観察した。全ての他の組織は検出限界未満のレベルであった(<6.83μg当量/g)。1時間で、腎臓(18.8μg当量/g)および膀胱(43.8μg当量/g)のみにおいて濃縮を観察した。24時間までに、全ての組織中の放射活性は検出限界未満に低下していた。
【0179】
結論:
これらの結果は、投与後、吸収された放射活性は限られた組織中に分布していたことを示す。脳内の放射活性濃縮は全ての時点で定量化の限界未満のレベルであり、これは血液脳関門を越える試験化合物の移動がないことを示唆し得る。組織中の最大濃縮は0.5時間、すなわち第1サンプリング時点で観察された。放射活性の最大濃縮は腎臓および膀胱で観察された。24時間後、全ての組織中の放射活性は検出限界未満に低下していた。
【0180】
これらのデータは、[3H]-バリエジンはラットから非常に迅速に排出されることを示す。得られたデータは、80%の放射活性を腎臓中で回収した(Bichler,Baynes and Thorpe,Biochem J (1993) 296,771-776)、報告されているラットにおけるヒルジンの挙動とも一致する。
【0181】
したがってこれらの試験によって、ビバリルジンなどの他の小分子ペプチド抗トロンビン作用物質と同様に、バリエジンが腎経路によって迅速に排泄されることを確認する。この性質は、バリエジンを、外科手術中の短時間の静脈内抗凝固に適したものにする。間接的トロンビンインヒビターであるヘパリンと異なり、直接的トロンビンインヒビターはビタミンKの使用によって覆すことはできないので、短い半減期を有することは利点である。万が一出血の場合、薬剤が迅速に排出され、限外濾過または透析などの残留薬剤を除去するための他の対策の必要性を低下させるからである。長期の抗凝固が必要とされる場合、持続点滴静注によって薬剤を投与することができるが、中断時には、正常腎機能を仮定して、ほぼ全ての残留薬剤は1〜2時間で除去される。典型的に約30分続く冠状動脈形成術などの短時間の手順に関して、単回ボーラス注射は十分に網羅するはずであり、逆転処置の必要なく排出されるはずである。
【0182】
参考文献
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸血性節足動物の唾液腺に由来するトロンビンインヒビター、特に、2または3箇所の異なる部位でトロンビンと相互作用することにより作用する二価および三価のトロンビンインヒビターに関する。
【背景技術】
【0002】
本文中に言及し本説明の最後に列挙する全ての文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
血液凝固は血管損傷に対する生理反応の一部であり、セリンプロテアーゼの循環チモーゲンが制限的タンパク質分解によって連続的に活性化され、フィブリン塊の形成をもたらす。この反応のネットワーク内では、トロンビンは止血の完全性の維持において中心的役割を果たす。トロンビンは大部分のチモーゲンおよびそれらのコファクターと相互作用し、血液凝固において多数の凝固促進的および抗凝固的役割を果たす1,2。凝固促進プロテアーゼとして、初期段階中に生成される第1の微量のトロンビンは、第V因子(FV)および第VIII因子(FVIII)を活性化して正のフィードバックを与え、トロンビンバーストをもたらす。トロンビンは第XI因子も活性化し、固有経路を誘導することができる。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに切断し、不溶性凝固塊を形成する。フィブリンポリマーは、トロンビン活性化第XIII因子によって誘導される共有架橋によって、さらに強化および安定化される。トロンビンは、おそらく2つのメカニズムによって血小板血栓の生成にも寄与する:(a)プロテアーゼ活性化受容体(PAR)と糖タンパク質Vの相互作用によって血小板を活性化し、(b)フォンウィルブラント因子(VWF)を切断する1型トロンボスポンジンモチーフでADAMTS13、ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼを不活性化することによって、血小板血栓の不安定化を妨げる。抗凝固的プロテアーゼとして、トロンビンはコファクターであるトロンボモジュリンの存在下でプロテインC(APC)を活性化する。APCは第Va因子(FVa)および第VIIIa因子(FVIIIa)を不活性化し、トロンビンの生成をダウンレギュレーションする1-5。
【0004】
血栓閉塞性疾患は、死亡および罹病の主な原因である6。抗凝固剤はこれらの疾患の予防および治療において極めて重要である。ヘパリンおよびクマリン誘導体(ビタミンKアンタゴニスト)は抗凝固療法の要であるが、どちらのクラスの薬剤も、狭い治療域および非常に変動的な用量応答などの十分報告されている制約を有する。これらの制約は、特異的凝固因子を主に標的化する新たな抗凝固剤を開発するための、継続的かつ懸命な努力につながる7。凝固カスケードにおけるその中心的役割のためにトロンビンは優れた標的となる6,8。
【0005】
数十年間広く治療上使用されているヘパリンおよびその類似体などのトロンビンインヒビターは間接的トロンビンインヒビターである。すなわち、それらは抗トロンビン複合体の一部分として作用し、それら自体はトロンビン活性部位と直接相互作用しない。これは、それらは可溶性トロンビンのみを不活性化することができるが、フィブリン結合トロンビンと反応することができないことを意味する。直接的トロンビンインヒビターは、可溶性トロンビンとフィブリン結合トロンビンの両方を不活性化することができる。これは相当な治療有効性を与える。何故ならこれらの作用物質は、新たな凝固塊の形成のみでなく、凝固塊自体の進行中の凝固プロセスを阻害することができるからである(Di Nisio,M.,S.Middeldorp,and H.R.Buller.2005.Direct thrombin inhibitors.N Engl J Med 353:1028-40)。
【0006】
直接的トロンビンインヒビターのいくつかの例には、ヒルジン、ヒルログ(またはビバリルジン)およびアルガトロバンがある7-9。吸血性動物は進化の過程で血液凝固プロテアーゼに関するインヒビターの豊富な保有宿主となっており16-20、2つの知られている直接的トロンビンインヒビター、ヒルジンおよびヒルログは吸血性動物に由来する。ヒルジンは、医療用ヒルであるヒルド・メディシナリス(Hirudo medicinalis)の唾液腺から単離した65アミノ酸のタンパク質である7,8,10。それは球状N末端ドメインおよび酸性C末端尾部を有し、その両方がトロンビン分子中の複数の部位と結合する。このC末端尾部は、静電および疎水性相互作用によってトロンビンエキソサイト-Iと相互作用する。N末端ドメインはトロンビンの活性部位近辺の無極部位と結合し、そのアクセス性を妨げる11-13。ヒルログ(またはビバリルジン)、20量体ポリペプチドは、スペーサーとして4個のGly残基を使用して、ヒルジンC末端尾部を活性部位結合部分D-Phe-Pro-Arg-Proに移植することによる合理的設計の産物である14,15。トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と結合する二価インヒビターであるヒルジンおよびビバリルジンと異なり、アルガトロバンは一価インヒビターであり、活性部位のみと結合する8。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Huntington JA. Molecular recognition mechanisms of thrombin. J Thromb Haemost. 2005;3:1861-1872.
【非特許文献2】Di Cera E. Thrombin interactions. Chest. 2003;124:11S-17S.
【非特許文献3】Davie EW, Fujikawa K, Kisiel W. The coagulation cascade: initiation, maintenance, and regulation. Biochemistry. 1991;30:10363-10370.
【非特許文献4】Davie EW. A brief historical review of the waterfall/cascade of blood coagulation. J Biol Chem. 2003;278:50819-50832.
【非特許文献5】Lane DA, Philippou H, Huntington JA. Directing thrombin. Blood. 2005;106:2605-2612.
【非特許文献6】Schwienhorst A. Direct thrombin inhibitors - a survey of recent developments. Cell Mol Life Sci. 2006;63:2773-2791.
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【非特許文献8】Gurm HS, Bhatt DL. Thrombin, an ideal target for pharmacological inhibition: a review of direct thrombin inhibitors. Am Heart J. 2005;149:S43-S53.
【非特許文献9】Bates SM, Weitz JI. The status of new anticoagulants. Br J Haematol. 2006;134:3-19.
【非特許文献10】Markwardt F. The development of hirudin as an antithrombotic drug. Thromb Res. 1994;74:1-23.
【非特許文献11】Grutter MG, Priestle JP, Rahuel J et al. Crystal structure of the thrombin-hirudin complex: a novel mode of serine protease inhibition. EMBO J. 1990;9:2361-2365.
【非特許文献12】Rydel TJ, Ravichandran KG, Tulinsky A et al. The structure of a complex of recombinant hirudin and human alpha-thrombin. Science. 1990;249:277-280.
【非特許文献13】Rydel TJ, Tulinsky A, Bode W, Huber R. Refined structure of the hirudin-thrombin complex. J Mol Biol. 1991;221:583-601.
【非特許文献14】Maraganore JM, Bourdon P, Jablonski J, Ramachandran KL, Fenton JW. Design and characterization of hirulogs: a novel class of bivalent peptide inhibitors of thrombin. Biochemistry. 1990;29:7095-7101.
【非特許文献15】Skrzypczak-Jankun E, Carperos VE, Ravichandran KG et al. Structure of the hirugen and hirulog 1 complexes of alpha-thrombin. J Mol Biol. 1991;221:1379-1393.
【非特許文献16】Champagne DE. Antihemostatic molecules from saliva of blood-feeding arthropods. Pathophysiol Haemost Thromb. 2005;34:221-227.
【非特許文献17】Mans BJ, Neitz AW. Adaptation of ticks to a blood-feeding environment: evolution from a functional perspective. Insect Biochem Mol Biol. 2004;34:1-17.
【非特許文献18】Kazimirova M, Sulanova M, Trimnellt AR et al. Anticoagulant activities in salivary glands of tabanid flies. Med Vet Entomol. 2002;16:301-309.
【非特許文献19】Subburaju S, Kini RM. Isolation and purification of superbins I and II from Austrelaps superbus (copperhead) snake venom and their anticoagulant and antiplatelet effects. Toxicon. 1997;35:1239-1250.
【非特許文献20】Banerjee Y, Mizuguchi J, Iwanaga S, Kini RM. Hemextin AB complex, a unique anticoagulant protein complex from Hemachatus haemachatus (African Ringhals cobra) venom that inhibits clot initiation and factor VIIa activity. J Biol Chem. 2005;280:42601-42611.
【非特許文献21】Di Nisio,M.,S.Middeldorp,and H.R.Buller.2005.Direct thrombin inhibitors.N Engl J Med 353:1028-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、トロンビンの活性部位と相互作用する直接的トロンビンインヒビターに関する問題は、このインヒビターがトロンビンにより最終的に切断され、阻害活性の消失をもたらす可能性があることである。より有効な直接的トロンビンインヒビター、特にトロンビン切断の結果として阻害活性を失う可能性が低いトロンビンインヒビターが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子にトロンビンを曝露することによる、トロンビン活性の阻害方法が提供される。該1または複数の分子は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用することが好ましい。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する、本発明の第1の態様の方法で使用するのに適した1または複数のトロンビンインヒビター分子を提供する。この1または複数のトロンビンインヒビター分子は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用することが好ましい。
【0011】
本発明の第1または第2の態様の1または複数の分子は、最初にエキソサイトIおよびIIと相互作用し、次いでトロンビンの活性部位と相互作用することによって、トロンビン活性を阻害することが好ましい。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の1または複数の分子とトロンビンとの複合体であって、トロンビンインヒビター分子がトロンビンのエキソサイトIおよび活性部位、好ましくはトロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てと相互作用する複合体も提供する。
【0013】
好ましくは、本発明の第1の態様の方法で使用する分子、本発明の第2の態様の、または本発明の第3の態様の複合体中に存在するトロンビンインヒビター分子は、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジン(variegin)タンパク質、または該バリエジンタンパク質の機能的等価物である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(A)最初のステップでは、90分にわたってアセトニトリルの10〜100%の勾配でSGEを分画した。AV-I〜AV-VIIIのプールした画分中のタンパク質濃度は、0.08(AV-I)〜1.39μg/μl(AV-IV)の範囲であった。TTアッセイ(対照凝固時間=19秒)に関して、NC: 0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後に凝固なし、***:0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、**:0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の40秒を超える長時間凝固、*:対照と比較した凝固の遅延。APTTアッセイ(対照凝固時間=40秒)に関して、NC: 0.01μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後に凝固なし、黒丸×3:0.01μg未満のタンパク質を加えた後の1分を超える長時間凝固、黒丸×2:0.1μg未満のタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、黒丸×1:対照と比較した凝固の遅延。PTアッセイ(対照凝固時間=15秒)に関して、白丸×2:0.5μgのタンパク質/50μlの血漿を加えた後の1分を超える長時間凝固、白丸×1:対照と比較した凝固の遅延。
【図1B】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(B)画分AV-IIIを60分にわたるアセトニトリルの10〜40%の勾配で第2の精製ステップに供した。画分中のタンパク質濃度は0.05〜0.17μg/μlの範囲であった。抗凝固活性を有する範囲の画分(破線、PT、APTTおよびTTでアッセイ)は、S2238で抗トロンビン活性に関して試験した。星印で示した画分はトロンビンアミド分解活性を阻害した。最も強い活性を有していた2つの画分(保持時間23.083分および28.933分、矢印によって示す)は、第3の精製ステップでさらに精製した(60分にわたるアセトニトリルの10〜40%の勾配)(n=2)。
【図1C】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(C)保持時間23.083分を有する画分をAV3/5およびAV5/5と記載する2つの主要ピークに分離した。
【図1D】トロンビンインヒビターであるバリエジンアイソフォームの精製を示す図である。(D)保持時間28.933分を有する画分は1個の主要ピークおよび小さな「ショルダーピーク」を有し、AV6/5と記載した
【図2】バリエジンのアミノ酸配列およびそのトロンビン阻害活性を示す図である。(A)画分AV6/5(バリエジン)、AV3/5およびAV5/5におけるペプチドの配列は非常に類似している。(B)混合によって得た平衡定常状態を示す、基質としてS2238(100μM)を使用したバリエジン(黒四角:0.020nM、白四角:0.039nM、黒丸:0.078nM、白丸:0.156nM、黒三角:0.313nM、白三角:0.625nM、黒逆三角:1.25nM、白逆三角:2.5nM、黒菱形:5nM、10nM)によるトロンビン阻害の線形進行曲線の例。(C)トロンビン(3.33nM)アミド分解活性を阻害するバリエジン(0.001nM、0.003nM、0.01nM、0.03nM、0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nMおよび100nM)の能力を、活性部位特異的基質S2238(100μM)を使用してアッセイした。バリエジン(黒四角)によるトロンビン阻害の用量応答曲線は、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して顕著な阻害(約80%)を示した。阻害のIC50は約0.99±0.02nM(n=3)である。(D)バリエジンは強結合インヒビターとして挙動するので、同様の濃度(0.020nM、0.039nM、0.078nM、0.156nM、0.313nM、0.625nM、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM)でのバリエジン(黒四角)によるトロンビン(1.8nM)の阻害は、基質としてS2238(100μM)を使用して調べた。得られたデータを式(1)および(2)にフィッティングして、約10.4±1.4pM(n=3)のKiを導いた。
【図3】バリエジンによる阻害の特異性を示す図である。s-バリエジンは、13種類のセリンプロテアーゼ:線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼ)、抗凝固セリンプロテアーゼAPC、凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXIa、FXa、FIXa、FVIIa、カリクレインおよびトロンビン)ならびに古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシン)に対してスクリーニングした。プロテアーゼおよび基質の最終濃度はそれぞれnMおよびmMで丸括弧内に与える:プラスミン(3.61)/S2251(1.2)、TPA(36.9)/S2288(1)、ウロキナーゼ(40U/ml)/S2444(0.3)、APC(2.14)/S2366(0.67)、FXIIa(20)/S2302(1)、FXIa(0.125)/S2366(1)、FXa(0.43)/S2765(0.65)、FIXa(333)/Spectrozyme(登録商標)FIXa(0.4)、FVIIa(460)/S2288(1)、カリクレイン(0.93)/S2302(1.1)、α-トロンビン(3.33)/S2238(0.1)、キモトリプシン(1.2)/S2586(0.67)およびトリプシン(0.87)/S2222(0.1)。トロンビンは3種類の濃度のs-バリエジンに対して試験した、(斜線)は0.01μMを表し、(市松模様)は0.1μMを表し、かつ(薄灰色)は1μMを表す。他のプロテアーゼに関しては、より高濃度のs-バリエジンを使用した、(黒)は1μMを表し、(灰色)は10μMを表し、かつ(白)は100μMを表す(n=3)。
【図4】s-バリエジン、EP25およびAP18によるトロンビンの阻害を示す図である。(A)トロンビンのアミド分解活性を阻害するs-バリエジン、EP25およびAP18の能力を、活性部位特異的基質S2238(100μM)を使用してアッセイした。s-バリエジン(0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM)によるトロンビン(3.33nM)阻害の用量応答曲線は、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して顕著な阻害(約30%)を示した。用量応答曲線およびIC50の阻害はインキュベーション時間と無関係であった: (黒四角)は10分間のインキュベーション(IC50約5.40±0.95nM)を表し、かつ(白丸)は10分間のインキュベーション(IC50約5.49±0.42nM)を表す(n=3)。(B)EP25(0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM)によるトロンビン(3.33nM)阻害の用量応答曲線は、インキュベーション時間依存的シフトを示した。IC50はインキュベーションなしで約139.30±7.02nMであり(黒四角)、1分間のインキュベーションで約22.55±2.52nMであり(白丸)、2分間のインキュベーションで約10.39±1.53nMであり(黒三角)、5分間のインキュベーションで約6.42±0.50nMであり(白逆三角)、10分間のインキュベーションで約6.80±0.57nMであり(黒菱形)、かつ20分間のインキュベーションで約5.63±0.45nM(+)である(n=3)。(C)AP18(3μM、10μM、30μM、100μM、300μM)は、S2238(100μM)でトロンビン(3.33nM)アミド分解活性を阻害することができなかったが、その代わりに高濃度のAP18において、S2238の加水分解が若干増大した(n=3)。(D)3種類全てのペプチド、s-バリエジン(黒四角;0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM)、EP25(白丸;3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1000nM、3000nM)およびAP18(黒三角;0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、30μM、100μM、300μM)は、フィブリノゲン凝固時間を延長した(n=3)。ペプチドとトロンビンのプレインキュベーションは実施しなかった。AP18はアミド分解活性ではなくトロンビンフィブリノゲン溶解活性を阻害し、エキソサイトIとの結合を示唆した。
【図5】s-バリエジンおよびEP25の阻害定数Kiを示す図である。(A)s-バリエジンはトロンビンの迅速かつ強結合インヒビターである。s-バリエジン(0.313nM、0.625nM、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM)を種々の濃度のS2238:12.5μM(黒四角)、25μM(白丸)、50μM(黒三角)、80μM(白逆三角)、100μM(黒菱形)、150μM(+)、200μM(×)および300μM(*)と混合してKi’を決定した。トロンビン(1.8nM)の添加によって反応を開始した。データを式(1)にフィッティングした(n=3)。(B)基質濃度に対するKi’のプロットは、s-バリエジンがS2238に対するトロンビンアミド分解活性を競合的に阻害したことを示す、線形曲線を示した。式(2)にデータをフィッティングすることによって、阻害定数Kiが約146.4±13.6pMであったことが示された。(C)トロンビンとプレインキュベートした場合、EP25も等モル濃度でトロンビンを阻害し、プレインキュベーションなしでの初期阻害は弱かった。EP25のKiは、トロンビンの少なくとも8倍を超える濃度でプレインキュベーションなしで決定した。これらのアッセイ条件下において、EP25とトロンビンの結合は遊離EP25濃度の著明な減少をもたらさず、したがって「強結合」条件はデータフィッティングのために考慮しなかった。基質としてS2238(100μM)を使用した、種々の濃度のEP25: 7.8nM(黒四角)、12.5nM(白四角)、15.6nM(黒丸)、25nM(白丸)、31.3nM(黒三角)、50nM(白逆三角)、62.5nM(黒逆三角)、100nM(白菱形)および125nM(黒菱形)によるトロンビン(0.9nM)阻害の進行曲線。進行曲線は非線形であり、緩慢な結合阻害に典型的な二相平衡を示した。データは式(3)にフィッティングして、使用したEP25のそれぞれの濃度に関するkを得た(n=3)。(D)EP25濃度に対するみかけの一次速度定数kのプロットは式(4)によって記載される双曲線であり、したがってこの式にフィッティングして、初期衝突複合体EIの解離定数を表す約529.7±76.7pMのKi‘を得る。全体の阻害定数Kiは式(5)から計算し、約149.8±30.5pMであることが分かった。
【図6】トロンビンによるs-バリエジンおよびEP25の切断を示す図である。(A)37℃におけるトロンビンによるs-バリエジン切断のHPLC分析の典型的なクロマトグラム。(i)インキュベーション=0分では、単一ピークは非切断s-バリエジンに対応する。(ii)30分のインキュベーション後、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)に対応する2つの新たなピークが出現し、非切断s-バリエジンは量が減少した。(iii)切断は180分のインキュベーション後にほぼ完了する。(B)s-バリエジン(150μM)を、室温で様々な時間トロンビン(5μM)とインキュベートした(n=2)。s-バリエジンはトロンビンの30倍過剰で存在した。トロンビンによるs-バリエジンの切断はRP-HPLCで分析した。非切断s-バリエジン(灰色)、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)(市松模様)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)(斜線)の相対的割合は、ピーク下面積から算出した。(C)s-バリエジンを室温で24時間までトロンビン(3.33nM)と共にインキュベートし、かつ様々な時点で、S2238(100μM)に対するトロンビンアミド分解活性を阻害する能力に関してアッセイした。(D)s-バリエジンをEP25に置き換えて同様の実験を実施した。s-バリエジンまたはEP25の濃度: 10nM(黒)、100nM(灰色)および1000nM(白)(n=2)。100nMのs-バリエジンまたはEP25において、インヒビターはトロンビンの30倍過剰で存在し、したがってHPLC分析からの切断データとの比較のために主に使用した。
【図7】バリエジンと他のトロンビンインヒビターとの比較を示す図である。(A)n-バリエジン、s-バリエジン、EP25、AP18、ヒルログ-1およびヒルジンのアミノ酸配列アラインメントは非常に類似したC末端配列を示す。N-バリエジンはThr(網掛けしたT)でグルコシル化されており、ヒルログ-1はD-Phe(網掛けしたF)を含有し、かつヒルジンはTyr(網掛けしたY)で硫酸化されている。TTIの配列はバリエジンと明らかに異なり、アラインメントしなかった。(B)異なるクラスのトロンビンインヒビターおよびそれらの構造的特徴を示す概略図。(i)ヒルジン:コンパクトなN末端は活性部位と結合し、酸性で伸長したC末端はエキソサイト-Iと結合する;(ii)ロドニン:頭部-尾部配置にある2つのKazal型ドメイン、活性部位とN末端ドメインで結合し、およびエキソサイト-IとC末端ドメインで結合する;(iii)オルニトドリン:尾部-尾部配置にある2つのKunitz型ドメイン、活性部位とN末端ドメインで結合し、およびエキソサイト-IとC末端ドメインで結合する;(iv)ヘマジン(haemadin):コンパクトなN末端は活性部位と結合し、酸性で伸長したC末端はエキソサイト-IIと結合する;(v)トリアビン:1つのβ-バレルドメインはエキソサイト-Iと結合する;(vi)ボスロジャラシン:C型レクチンドメインの2つの異なる鎖は、エキソサイト-Iおよびエキソサイト-IIとそれぞれ結合する。テロミンおよびTTIなどの他の原型トロンビンインヒビターは、詳細な構造的情報の欠如のため示していない。(C)EP-25とトロンビンの提案される結合メカニズム:(i)C末端における帯電はEP25をトロンビンに誘導し、続いて特異的結合相互作用をもたらす、(ii)N末端残基(SDQGDVA(配列番号18))の誘導効果なしでは、活性部位結合部分は正しい向きでトロンビン活性部位にフィットすることはなく、したがって初期衝突複合体(EI)はより高いKiを有する、かつ(iii)緩慢なステップでは、活性部位結合部分(EPKMHKT(配列番号19))は、最適な結合および安定複合体の形成に適したコンホメーションをとる。(D)バリエジンとトロンビンの提案される結合メカニズム:(i)バリエジンのN末端とトロンビンのエキソサイト-IIとの間、およびバリエジンのC末端とトロンビンのエキソサイト-Iとの間の相補的帯電は、バリエジンをトロンビンに誘導する、(ii)全ての静電的相互作用は迅速に起こり、トロンビン活性部位との迅速な結合に適したコンホメーションに活性部位結合部分(EPKMHKT(配列番号19))を予め配置させる。
【図8】ミカエリス-メンテンの式に従う、基質(S2238)濃度の関数としての反応速度(Vmax)のプロットを示す図である。ミカエリス-メンテンの式で計算したKmは、報告された値33,34と同様に3.25+0.56μMであると決定させる。
【図9】10mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に溶解したn-バリエジン、s-バリエジン、EP25およびAP18の遠UVスペクトル(260〜190nm)を示す図である。全てのスペクトルはランダムコイルタンパク質に典型的であった。
【図10】RP-HPLC分析が、37℃および室温においてトロンビンによってs-バリエジンが切断されたことを示した図である。(A)s-バリエジン(150μM)を37℃で様々な時間トロンビン(5μM)と共にインキュベートした(n=2)。(B)s-バリエジン(150μM)を室温で様々な時間トロンビン(5μM)と共にインキュベートした(n=2)。非切断s-バリエジン(灰色)、質量1045の切断産物(N末端断片SDQGDVAEPK(配列番号2)を表す)(市松模様)および質量2582の切断産物(C末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を表す)(斜線)の相対的割合は、クロマトグラム中のピーク下面積から算出した。
【図11】バリエジンのC末端断片MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3)のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、10分間(黒丸)、20分間(黒三角)、30分間(黒逆三角)、120分間(黒菱形)、1080分間(+)または1680分(×)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する様々な濃度のMH22の能力を評価した。
【図12】MH22のアミド分解活性の低下の逆転を示す図である。トロンビンとの長時間のインキュベーション(1680分のプレインキュベーション、IC50=479.7±16.1nM)後のMH22のアミド分解活性の低下は、アッセイ設定中に高濃度のBSA(1mg/ml(黒四角)、5mg/ml(黒丸)、10mg/ml(黒三角))を含めることによって逆転させることが可能である。
【図13】MH22のKiを示す図である。基質(S2238)の異なる濃度におけるMH22のKi'を、迅速かつ強力な結合を記載する式によって決定した。Ki'は使用した濃度範囲(12.5nM〜200nM)中で著明に変化せず、MH22はトロンビンアミド分解活性の非競合的インヒビターであることが示された。Ki'=Ki、かつ平均Kiは13.2±0.91nMであることが分かった。
【図14】バリエジン突然変異体断片EP25A22Eのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、20分間(黒丸)または30分間(黒三角)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、配列EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号7)を有する様々な濃度のEP25A22Eの能力を評価した。EP25A22E中では、s-バリエジン中のアラニン22(EP25中のアラニン15)はグルタミン酸に置換した。グルタミン酸はヒルジン中の同じ位置に存在するからである。
【図15】EP25A22EのKiを示す図である。EP25A22EのKiは緩慢な結合インヒビターの式を使用して決定し、0.311±0.070nMであることが分かった。
【図16】バリエジン突然変異体断片MH22A22Eのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、配列MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列5)を有する様々な濃度のMH22A22Eの能力を評価した。MH22A22はEP25A22EのC末端切断断片である。
【図17】MH22A22EのKiを示す図である。100μMの基質(S2238)を用いて試験したとき、MH22A22Eは15.1±1.04nMのKi'を有する。
【図18】バリエジン断片EP21のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)、20分間(黒丸)または30分間(黒三角)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のEP21EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号8)の能力を評価した。C末端で4個の残基を欠いていること以外、EP21はEP25に対応する。
【図19】EP21のKiを示す図である。緩慢な結合の式によって決定したEP21のKiは、0.315±0.024nMであることが分かった。
【図20】バリエジン断片MH18のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のMH18: MHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号20)の能力を評価した。C末端で4個の残基を欠いていること以外、MH18はMH22に対応する。
【図21】MH18のKiを示す図である。迅速かつ強力な結合の式を使用して、100μMの基質(S2238)でのMH18のKi'=14.9±3.50nMであった。C末端における4個の残基の除去が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH18もKi=14.9±3.50nMの非競合的インヒビターである。
【図22】バリエジン断片DV24のトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のDV24DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号9)の能力を評価した。N末端に追加の3残基を含有すること以外、DV24はEP21に対応する。
【図23】D24のKiを示す図である。100μMの基質(S2238)でのDV24のKi’=9.74±0.91nM、かつD24のKiは0.306±0.029nMであると決定された。
【図24】バリエジン突然変異体断片DV24K10Rのトロンビン阻害活性を示す図である。室温で0分間(黒四角)または20分間(黒丸)のトロンビンとのインキュベーション後に活性部位特異的基質S2238を使用して、トロンビンアミド分解活性を阻害する、様々な濃度のDV24K10R: DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号10)の能力を評価した。位置6にリシンの代わりにアルギニンを含有する(アミノ酸10がバリエジンである)こと以外、DV24K10RはDV24に対応する。
【図25】DV24K10RのKiを示す図である。DV24K10RのKiは0.259±0.015nMであると決定された。
【図26】[3H]-バリエジン投与溶液を示すHPLCラジオクロマトグラムを示す図である。
【図27】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後30分での、組織中の放射活性の分布を示す図である。レベル1〜5はラット身体中の連続した1cmの縦断面を指す。
【図28】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後1時間での、組織中の放射活性の分布を示す図である。レベル1〜5はラット身体中の連続した1cmの縦断面を指す。
【図29】オスのアルビノラットへの[3H]-バリエジンの単回静脈内投与(0.4mg/kg)後30分での、腎臓中の放射活性の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ダニ、アンブリオマ・バリエガタム(Amblyomma variegatum)(マダニ)の唾液からの、上記のアミノ酸配列を有するバリエジンタンパク質の単離はWO03/091284中に記載され、その中でバリエジンタンパク質はEV445と名付けられている。WO03/091284は、バリエジンタンパク質がトロンビン刺激型血小板凝集を阻害することを開示する。しかしながらWO03/091284は、バリエジンタンパク質がトロンビンとの直接的相互作用によってその機能を果たす直接的トロンビンインヒビターであるかどうかに関して、如何なる実験的証拠も与えない。
【0016】
驚くことに、バリエジンタンパク質はトロンビンと直接相互作用するだけでなく、それは3個の別の部位と直接相互作用することが現在分かっている。本明細書で表す結果は、バリエジンタンパク質の残基1〜7はトロンビンのエキソサイトIIと相互作用し、バリエジンタンパク質の残基8〜14はトロンビンの活性部位と相互作用および結合し、かつバリエジンタンパク質の残基15〜32はトロンビンのエキソサイトIと相互作用および結合することを示す。既存の直接的トロンビンインヒビター、天然と合成の両方、例えばヒルジンおよびヒルログは二価である。それらはトロンビンのエキソサイトおよびトロンビンの活性部位自体と相互作用する。バリエジンタンパク質は、トロンビンエキソサイトとトロンビン活性部位の両方と相互作用するトロンビンインヒビターの、本発明者らに知られている最初の例である。トロンビンエキソサイトIIおよびIとバリエジンタンパク質の残基1〜7および15〜32の相互作用は、トロンビン活性部位との結合、および活性部位の結合を強化するエキソサイトIと残基15〜32との引き続く結合のために、バリエジンタンパク質の残基8〜14をアラインメントするようである。
【0017】
他のトロンビンインヒビターと異なり、バリエジンタンパク質が他のセリンプロテアーゼと交差反応しないという、トロンビン中の多数のドメインと相互作用するその能力が原因であるとも考えられる特徴を本明細書で示す。
【0018】
位置14でグリコシル化される天然バリエジンタンパク質は、上記のタイプのアミド分解アッセイ中で、トロンビンに対する高い親和性および高レベルの阻害活性(約10.4pMのKiおよび約0.99nMのIC50)を示すことを本明細書中で示す。同じ配列を有するが位置14でのグリコシル化がない合成バリエジンタンパク質は、上記のタイプのアミド分解アッセイ中で、約146pMのKiおよび約5.40nMのIC50を示す。トロンビン阻害作用の発現速度はトロンビンとのバリエジンの相互作用の性質に原因があると考えられ、急性心筋梗塞、血栓性脳卒中、肺塞栓症または播種性血管内凝固症候群後の非常時使用などの、迅速かつ強力な抗凝固が望まれる臨床的状況において有用である。本明細書中に表すデータは、バリエジンが0.86時間の血漿中半減期および117.2時間の末端消失半減期を有することを示す。本明細書中に表すオートラジオグラフィー試験は、バリエジンが腎経路によって迅速に分泌されることを示し、それが外科手術中の短期の抗凝固に特に有用である可能性があることを確認する。
【0019】
トロンビンの結晶構造は解明されており、トロンビンの活性部位、エキソサイトIおよびエキソサイトIIのアイデンティティーおよび位置はよく知られている。トロンビンはキモトリプシンなどの他のセリンプロテアーゼと高度の相同性を示し、活性部位ポケットを有し、その中で結合する基質は2つの荷電領域、エキソサイトIおよびIIによって囲まれる。本明細書で使用する用語トロンビンの「活性部位」、「エキソサイトI」および「エキソサイトII」は、したがって例えばLane et al(Blood,2005 Oct 15;106(8):2605-12)中に記載されたのと同様の当技術分野で記載されるこれらの部位を指すものとする。
【0020】
簡潔には、用語「活性部位」を使用して、その中でフィブリノゲン基質が結合し60-ループおよびγ-ループに囲まれた活性セリン部位(S195)を含有するトロンビン中のポケットを記載する。60-ループは疎水性であり、2つの隣接Pro残基(P60b、P60c)によって与えられる構造的硬直性を有する。それは基質の疎水性残基、切断部位に対するN末端と相互作用する。γ-ループはより移動性、親水性であり、かつ切断部位に対するC末端の残基と接触することができる。本明細書で使用する用語「エキソサイトI」は、残基K36、H71、R73、R75、Y76、R77a、およびK109/110に集中する活性部位に隣接する部位である。本明細書で使用する用語「エキソサイトII」は、エキソサイトIに対するトロンビンの反対側部位上の残基R93、K236、K240、R101、およびR233に集中する活性部位に隣接する部位である。
【0021】
本発明の1または複数の分子は、静電相互作用によってトロンビンの部位と相互作用することができる。このような静電相互作用は、短距離静電相互作用および/または長距離静電相互作用であってよい。静電相互作用は、トロンビンにおいて分子と部位の間にイオン結合を形成するほど十分強力であることが好ましい。
【0022】
トロンビン活性を阻害する本発明の分子の能力は、当技術分野で知られている標準的なアッセイによって決定することができる。例えば、トロンビンアミド分解活性は、S2238の存在下での推定トロンビンインヒビターとトロンビンのインキュベーション後のp-ニトロアニリンの形成を検出することによって評価することができる。本発明の分子は、30nM未満、25nM未満、20nM未満、15nM未満、14nM未満、13nM未満、12nM未満、または11nM未満のIC50を有する可能性がある。本発明の分子は、このようなトロンビンアミド分解アッセイで評価した場合に、10nM未満、好ましくは9nM未満、8nM未満、7nM未満、6nM未満、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満、または1nM未満のIC50を有することが好ましい。本発明の分子は、15nM未満、10nM未満、5nM未満、1nM未満、750pM未満、500pM未満、400pM未満、300pM未満、または250pM未満のKiを有する可能性がある。本発明の分子は、このようなトロンビンアミド分解アッセイで評価した場合に、200pM未満、好ましくは150pM未満、100pM未満、50pM未満、30pM未満、25pM未満、20pM未満、15pM未満のKiを有することが好ましい。本発明の第1または第2の態様の1または複数の分子は、トロンビンの活性部位へのフィブリノゲンのアクセスを妨げることによってトロンビン活性を阻害することが好ましい。本発明の分子のフィブリノゲン分解活性は、例えば分子とフィブリノゲンをインキュベートしトロンビンの添加により凝固を開始することによって、フィブリノゲン凝固時間を延長する能力を検出することによって評価することができる。
【0023】
トロンビン分子上の部位と相互作用する本発明の第1および第2の態様の1または複数の分子の能力は、本明細書の実施例中に記載する方法などの方法によって決定することができる。例えば、上記のアッセイ中でアミド分解活性を有する分子は、トロンビン活性部位と相互作用することができ、一方フィブリノゲン分解活性は、フィブリノゲンとトロンビンの活性部位とエキソサイトIの両方の結合を必要とする。したがって、アミド分解活性とフィブリノゲン分解活性の両方を示す分子は、活性部位とエキソサイトIの両方と相互作用すると推測することができる。エキソサイトIIと相互作用する分子の能力は、反応の結合反応速度の変化の分析によって評価することができる。エキソサイトIIとの相互作用の存在は迅速な結合特性をもたらすようであり、かつエキソサイトIIと相互作用する残基の欠失は迅速から緩慢への結合特性の変化をもたらす。欠失変異体を使用して、これらの異なる部位と結合する分子中のドメインの正確な位置を決定することができる。
【0024】
本発明の第1の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、特異的にトロンビンを阻害することが好ましい。本発明の1または複数の分子は、他のセリンプロテアーゼの非常に低レベルの阻害を示すことが好ましく、他のセリンプロテアーゼの阻害が全くないことが好ましい。特異的にトロンビンを阻害する本発明の1または複数の分子の能力は、それぞれのセリンプロテアーゼ用の特異的発色基質を使用して上記のアミド分解アッセイ中で、様々なセリンプロテアーゼのアミド分解活性を阻害するその能力を評価することによって試験することができる。本発明の1または複数の分子は、他の線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼなど)、抗凝固セリンプロテアーゼAPCまたは他の凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXI1、FX1、FIXa、FVIIaおよびカリクレインなど)、または他の古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシンなど)を阻害しないことが好ましい。
【0025】
本発明の第1の態様の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、ランダムコイル構造を有することが好ましい。本発明の分子のランダムコイル構造は、円偏光二色性分光法によって評価することができる。
【0026】
本発明の第1の態様の方法で使用する1または複数の分子、および本発明の第2の態様の1または複数の分子は、1時間未満のin vivo投与時の半減期を有し得る。
【0027】
上記で開示したように、本発明の第1の態様の方法で使用する分子、および本発明の第2の態様の分子は、バリエジンタンパク質またはその機能的等価物であることが好ましい。
【0028】
本発明のバリエジンタンパク質の「機能的等価物」は、バリエジンタンパク質と有意な構造類似性を示し、上記で論じた本発明の分子の好ましい特性を保持する分子を含む。特に、機能的等価物はトロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する能力、および好ましくはトロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用する能力を保持する。したがってバリエジンタンパク質の機能的等価物は、ランダムコイル構造を有し、本発明の他の分子に関して上記で論じた好ましいKiおよびIC50値を保持し、かつ特異的にトロンビン活性を阻害する能力を示すことが好ましい。
【0029】
本明細書中に表す結果は、トロンビンに対するバリエジンタンパク質の親和性は、ビバリルジンなどの二価または一価の直接的トロンビンインヒビターと異なり、それがトロンビンによって切断されたときでさえ、バリエジンタンパク質はトロンビン活性の如何なる著明な消失も示さないようであることを示す。数ヵ所の部位と相互作用するバリエジンタンパク質の能力はトロンビン活性部位に対するこのタンパク質の強い親和性をもたらし、かつこの強い親和性はトロンビンによる切断後でさえバリエジン切断産物によって保持されると推定される。合わせると、したがってこれらの切断産物は、バリエジンタンパク質の機能的等価物であると考えられる。バリエジンタンパク質はアミノ酸10と11の間でトロンビンによって切断される。したがって本発明の第1の態様の方法は、アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3)を有するバリエジンの切断産物、またはこれらの切断産物の機能的等価物にトロンビンを曝露することによって、トロンビン活性を阻害するステップを含むことができる。さらに、本発明の第3の態様の複合体は、トロンビンと、アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を有するバリエジンの切断産物、またはこれらの切断産物の機能的等価物とを含むことができる。
【0030】
バリエジン配列または切断産物の機能的等価物は、エキソサイトIおよび活性部位、好ましくはエキソサイトII、エキソサイトIおよび活性部位でトロンビンと相互作用する能力が保持されるという条件で、バリエジンタンパク質の配列、またはバリエジンタンパク質切断産物の配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多くのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されている変異体も含む。
【0031】
変異体は、元のバリエジンタンパク質の配列と比較して、保存的アミノ酸置換を含有することが好ましい。典型的なこのような置換はAla、Val、LeuおよびIle間、SerおよびThr間、酸性残基AspおよびGlu間、AsnおよびGln間、塩基性残基LysおよびArg間、または芳香族残基PheおよびTyr間である。
【0032】
本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の配列の位置4、5、6、8、11、12、13、14、17、18、25および31の一部または全部にアミノ酸置換を有するバリエジンタンパク質の変異体の存在を実証する。本明細書中に表す結果は、位置10および22にアミノ酸置換を有するバリエジンタンパク質の配列の突然変異体は、トロンビン阻害活性を保持することも実証する。したがってバリエジンタンパク質の好ましい機能的等価物は、1つまたは複数のこれらの位置にアミノ酸置換を有する変異体を含む。好ましい機能的等価物は、位置4におけるGlyがAlaまたはSerに置換された、位置5におけるAspがGlyに置換された、位置6におけるValがArgに置換された、位置8におけるGluがGlnに置換された、位置10におけるLysがArgに置換された、位置11におけるMetがLeuに置換された、位置12におけるHisがProに置換された、位置13におけるLysがArgに置換された、位置14におけるThrがAsnに置換された、位置17におけるProがGlnに置換された、位置18におけるPheがGlyに置換された、位置22におけるAlaがGluに置換された、位置25におけるGluがAspに置換された、または位置31におけるGluがHisに置換された変異体を含む。機能的等価物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13箇所または全14箇所のこれらの変化を含有する変異体を含む。好ましい変異体は、位置31におけるGluがHisに置換された変異体であり、該変異体はアミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDHS(配列番号4)を有する。この変異体は、前述の位置および分子内の他の位置における置換をさらに含み得る。本発明の別の変異体は、バリエジン配列の位置22においてGluからAlaへのアミノ酸置換を有し、したがって配列MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号7)を有する切断産物の1つの変異体である。
【0033】
バリエジンタンパク質または切断産物のこのような変異体は、トロンビン活性を阻害する改善された能力を示すことが好ましい。このようなトロンビン活性を阻害する改善された能力は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび/または活性部位の1つまたは複数との改善された相互作用に原因がある可能性がある。トロンビン活性の改善された阻害は、本明細書に記載するアッセイを使用した、このような変異体のIC50およびKi値の決定によって評価することができる。このような変異体は、in vivoでバリエジンタンパク質と同様の半減期をさらに示す可能性がある。
【0034】
用語「機能的等価物」は、バリエジンタンパク質の断片、またはその変異体の断片も含む。ただしこれらの断片は、トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位、好ましくはトロンビンのエキソサイトII、エキソサイトIおよび活性部位と相互作用する能力を保持するものとする。このような断片は、バリエジンタンパク質の配列のN末端からの1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸およびC末端からの1、2、3または4個のアミノ酸の欠失以外は、バリエジンタンパク質の配列またはその変異体と典型的には同一であり得る。このような断片は、前述の位置の1箇所または複数箇所にアミノ酸置換を含有する可能性もある。このような断片の例には、以下より選択されるアミノ酸配列を有する断片がある:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6)
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)
SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号11)
SDQADRAQPKLHRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号12)
SDQSGRAQPKLPRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号13)
SDQGDVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号14)
SDQADVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号15)。
【0035】
機能的等価物は、バリエジンタンパク質またはその変異体内のアミノ酸への糖基またはポリマー基の付加によって修飾されている、修飾型のバリエジンタンパク質ならびにその変異体および断片も含む。特に機能的等価物は、グリコシル化型のバリエジンタンパク質を含む。天然型のバリエジン中では、完全長配列の位置14におけるThrはヘキソース部分によって修飾される。したがって機能的等価物は、バリエジンタンパク質の配列の位置14に対応する位置におけるグリコシル化によって修飾された、上述のバリエジンタンパク質、ならびにバリエジンタンパク質の変異体および断片を含む。機能的等価物は、他の位置でのグリコシル化によって修飾されている、バリエジンタンパク質、ならびにその変異体および断片も含む。グリコシル化は、ヘキソース残基の導入を含むことが好ましい。機能的等価物は、PEG化型のバリエジンタンパク質、ならびにその変異体および断片も含む。このようなPEG化型は、特定の医学的用途においてこれらの分子の半減期を延長するのに特に有用である可能性がある。
【0036】
本発明によって使用する機能的等価物は、例えば、異種タンパク質配列のコード配列とインフレームであるバリエジンタンパク質またはその変異体または断片をコードするポリヌクレオチドのクローニングによって得られる、融合タンパク質であってもよい。用語「異種」は、本明細書で使用するとき、バリエジンタンパク質またはその機能的等価物以外の任意のポリペプチドを指すものとする。N末端またはC末端のいずれかに融合タンパク質を含む異種配列の例は、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、輸送配列、または親和性クロマトグラフィーによる精製を可能にする配列である。発現プラスミドにおける多くのこれらの異種配列は市販されている。これらの配列は、それらと融合するタンパク質の特異的生物活性を著しく害さずに追加の性質を与えるために、融合タンパク質中に一般に含まれるからである(Terpe K,Appl Microbiol Biotechnol,60:523-33,2003)。このような追加の性質の例は、体液中で長時間持続する半減期、細胞外局在、またはヒスチジンまたはHAタグなどのタグによって可能となるさらに容易な精製手順である。
【0037】
融合タンパク質は医学的用途も有し得る。例えば、バリエジンタンパク質およびその機能的等価物はトロンビンと結合することができるので、それらはフィブリン血栓または血小板血栓の部位に治療用分子を運搬する手段として使用することができる。したがって異種タンパク質は、フィブリン血栓または血小板血栓の治療において有用である治療用分子であり得る。このような治療用分子は、抗炎症剤または血栓溶解剤であることが好ましい。
【0038】
異種タンパク質はマーカードメインであってもよい。マーカードメインは蛍光タグ、親和性結合による精製を可能にするエピトープタグ、組織化学的または蛍光標識を可能にする酵素タグ、または放射化学タグであることが好ましい。好ましい実施形態では、マーカードメインは放射化学タグである。このような融合タンパク質は診断ツールとして有用であり得る。例えば、バリエジンタンパク質はトロンビンと結合することができるので、適切な放射化学タグなどの適切なマーカードメインと結合したときのフィブリン血栓または血小板血栓を画像化する手段として、バリエジンタンパク質を使用することができる。
【0039】
融合タンパク質を作製するための方法は当技術分野における標準的な方法であり、当業者には知られているはずである。例えば、最も一般的な分子生物学、微生物学、組換えDNA技術および免疫学的技法は、Sambrook et al.(2000)またはAusubel et al.(1991)中で見ることができる。一般に融合タンパク質は、2つの核酸配列がインフレームで1つに融合した核酸分子から組換えによって最も好都合に作製することができる。これらの融合タンパク質は、対象となる融合タンパク質の対応するコード配列を含有する核酸分子によってコードされ得る。
【0040】
機能的等価物は、上記のバリエジンタンパク質、変異体、断片、修飾変異体または断片、または融合タンパク質の多量体も含む。これらの多量体は本発明のさらなる態様を構成し、かつ本発明の第1の態様の方法に有用である。バリエジンタンパク質のこのような多量体は、多量のトロンビンと結合し阻害するために特に有用である可能性があると考えられる。これらの多量体内のバリエジンタンパク質は、いずれもそれらのC末端を介して中心リンカー部分と結合することができる。あるいは、バリエジンタンパク質は、C末端に対する長い糸状のN末端で結合することができる。多量体は、バリエジンタンパク質、またはその変異体、断片、機能的等価物の2、3、4、5個またはそれより多くのコピーを含むことが好ましい。多量体内のバリエジンタンパク質またはその機能的等価物は全てが互いに同一である可能性があり、あるいはそれらは異なる可能性がある。例えば多量体は、バリエジンタンパク質の数個の異なる変異体を含むことができる。
【0041】
本発明の第1の態様の方法はin vitroまたはin vivoで実施することができる。
【0042】
この方法をin vitroで実施する場合、それはトロンビンと相互作用する1または複数の分子をコードするヌクレオチド配列を含む無細胞系または細胞において実施することができる。したがって本発明は、本発明の第1の態様の方法で有用であり得る本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビターをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子をさらに提供する。このような分子には、一本鎖または二本鎖DNA、cDNAおよびRNA、および合成核酸種がある。核酸配列はDNAを含むことが好ましい。
【0043】
本発明の方法を以下で論じるようにin vivoで実施するとき、これらの核酸配列を使用することもできる。
【0044】
本発明は、本発明のこの態様の核酸分子を含むクローニングおよび発現ベクターも含む。このような発現ベクターは、本発明の核酸分子とインフレームで結合した、適切な転写および翻訳制御配列、例えばエンハンサーエレメント、プロモーターオペレーター領域、末端停止配列、mRNA安定配列、開始および停止コドンまたはリボソーム結合部位を取り込むことができる。さらに、特定宿主から組換えトロンビンインヒビターの1または複数の分子を分泌させることは好都合である可能性がある。したがって、このようなベクターのさらなる構成要素は、分泌、シグナル伝達およびプロセシング配列をコードする核酸配列を含むことができる。
【0045】
本発明によるベクターには、プラスミドおよびウイルス(バクテリオファージと真核生物ウイルスの両方を含む)、および他の直線状または環状DNA担体、転位可能エレメントまたは相同的組換え技術を利用するベクターなどがある。多くのこのようなベクターおよび発現系は知られており、当技術分野において報告されている(Fernandez & Hoeffler,1998)。特に適切なウイルスベクターには、バキュロウイルス、アデノウイルスおよびワクシニアウイルス系ベクターがある。
【0046】
組換え発現に適した宿主には、高レベルの組換えタンパク質を発現させることが可能であり容易に大量増殖することが可能である、大腸菌などの一般に使用される原核生物種、または真核生物酵母がある。特にウイルス誘導性発現系を使用するとき、in vitroで増殖した哺乳動物細胞株も適切である。別の適切な発現系は、宿主として昆虫細胞の使用を含むバキュロウイルス発現系である。発現系は、それらのゲノム中に組み込まれたDNAを有する宿主細胞も構成し得る。タンパク質、またはタンパク質断片はin vivo、例えば昆虫幼虫中または哺乳動物組織中で発現させることも可能である。
【0047】
原核生物または真核生物細胞中にベクターを導入するために、様々な技法を使用することができる。適切な形質転換またはトランスフェクション技法は文献中に十分記載されている(Sambrook et al,1989;Ausubel et al,1991;Spector,Goldman & Leinwald,1998)。真核生物細胞中では、発現系はその系の必要性に応じて一過性(例えばエピソーム性)または永続性(染色体への組込み)であってよい。
【0048】
本発明は、本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビター分子をコードする核酸配列と、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする、アンチセンス核酸分子も提供する。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20マイクログラム/mlの変性、超音波処理サケ精子DNAを含む溶液中での42℃での一晩のインキュベーション、次に約65℃における0.1×SSC中でのフィルターの洗浄として本明細書では定義する。好ましい実施形態では、検出することができる標識をこれらのアンチセンス核酸分子と結合させる。標識は放射性同位体、蛍光化合物および酵素からなる群より選択されることが好ましい。
【0049】
本発明は、前に定義した核酸分子、アンチセンス核酸分子またはベクターを含む、形質転換またはトランスフェクト原核生物または真核生物宿主細胞も含む。宿主細胞は原核生物細胞、好ましくは大腸菌細胞であることが好ましい。本発明の方法をin vitroで実施する場合、それはこのような細胞において実施することができる。
【0050】
本発明のさらなる態様は、本発明の第2の態様によるトロンビンインヒビター分子の調製方法であって、タンパク質が発現される条件下で本発明による核酸分子を含有する宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む方法を提供する。そのようにして産生されたトロンビンインヒビターは、本発明の第1の態様の方法で使用することができる。
【0051】
本発明の第1の態様の方法をin vivoで実施する場合、それを治療に使用することができる。特に、in vivoで実施する方法を使用して血液凝固の障害を治療または予防することができる。
【0052】
したがって、本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、血液凝固障害に罹患した患者の治療方法または患者が血液凝固障害を発症するのを予防する方法であって、トロンビン分子上のエキソサイトIIおよび活性部位におけるフィブリノゲンとのトロンビンの相互作用を阻害するステップを含む方法をしたがって提供する。本発明の第1の態様のこの実施形態の方法は、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位の全てにおけるフィブリノゲンとのトロンビンの相互作用を阻害するステップを含むことが好ましい。
【0053】
本発明のこの態様の方法は、エキソサイトIおよび活性部位との相互作用によって、好ましくはエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子との相互作用によってトロンビンを阻害する本発明の第2の態様の1または複数の分子を、患者に供給するステップを含むことが好ましい。この1または複数の分子は、上記のバリエジンタンパク質またはその機能的等価物であることが好ましい。あるいはこの方法は、上記の本発明の第2の態様のこのような1または複数の分子をコードする核酸分子を供給するステップを含むことができる。
【0054】
「血液凝固障害」とは、血液凝固の任意の障害を意味する。用語「治療上有効量」は、標的疾患または状態を治療または改善するのに必要とされる化合物の量を指す。本明細書で使用する用語「予防上有効量」は、標的疾患または状態を予防するのに必要とされる化合物の量を指す。正確な用量は一般に、投与時の患者の状態に依存するはずである。用量決定時に考慮され得る要因には、患者における疾患状態の重度、患者の一般的健康状態、年齢、体重、性別、食生活、投与の時間および頻度、薬剤の組合せ、反応感受性および療法に対する患者の耐性または応答性がある。正確な量は通常の実験によって決定することができるが、結局は臨床医の判断内に存在し得る。一般に、有効な用量は0.01mg/kg(患者の質量と比較した薬剤の質量)〜50mg/kg、好ましくは0.05mg/kg〜10mg/kgであるはずである。
【0055】
本発明の方法をin vivoで実施する場合、トロンビンと相互作用する1または複数の分子、またはそれらをコードする核酸分子は、製薬上許容される担体と併せて医薬組成物の形で供給することが好ましい。
【0056】
本明細書で使用する用語「製薬上許容される担体」は、賦形剤自体が毒性効果を誘導せず、または医薬組成物を与える個体に有害である抗体の産生を引き起こさないという条件で、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および不活性ウイルス粒子または実際は任意の他の作用物質を含む。製薬上許容される担体は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの液体、または例えば湿潤化剤もしくは乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質をさらに含有することができる。賦形剤は医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液剤に製剤化して、患者による摂取を容易にすることができる。製薬上許容される担体の徹底的な議論はRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において入手可能である。
【0057】
抗凝固剤およびトロンビンインヒビターは、広範囲の疾患および状態の治療および予防において特に用途がある。上記の分子および組成物は、抗凝固を誘導して血液凝固障害を予防または治療することが望ましい任意の状況で使用することができる。
【0058】
抗凝固が望ましいときの治療は、診断上または治療上の理由での経皮的、経血管的または経器官的カテーテル挿入に関する手順を含む。このような手順は、それだけには限られないが、冠動脈血管形成術、血管内ステント手順、脳卒中または冠状動脈血栓症後の動脈または静脈カテーテルなどを介した血栓溶解剤の直接投与、電気的除細動、心臓ペースメーカーリードの配置、血管内および心臓内圧のモニタリング、ガス飽和または他の診断パラメータ、長期、留置、血管内非経口栄養カテーテルの開存性を保証するため、長期または短期であれ血管アクセスポートの開存性を保証するための、経皮的または経器官的カテーテル挿入を含む放射線および他の手順を含み得る。
【0059】
ビバリルジンなどの二価直接的トロンビンインヒビターは、このような手順中使用するのにヘアピンおよびその類似体より優れていることは実証されている(Lehman,S.J.,and D.P.Chew.2006,Vasc Health Risk Manag2:357-63;Maclean,A.A.et al,2006.Tech Vasc Interv Radiol9:80-3;Lewis,B.E.,and M.J.Hursting.2007.,Expert Rev Cardiovasc Ther5:57-68.;Watson,K.et al,2007,Pharmacotherapy27:647-56.)。特に、周術期出血の発生は有意に減少し、かつ急性冠症候群(ACS)を有する患者では、後のMIの発生が減少する(Stone,G.W.et al,2006,N Engl J Med355: 2203-16.;Manoukian,S.V.et al,2007.J Am Coll Cardiol 49: 1362-8.;Stone,G.W.et al,2007,Lancet369:907-19)。したがって、前に論じたトロンビンインヒビターも、このような手順中使用するのにヘアピンおよびその類似体より優れていると予想される。
【0060】
本発明の第1の態様の方法の追加のin vivo用途には、それだけには限られないが、急性心筋梗塞、血栓性脳卒中、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、原因が心臓、動脈硬化性プラーク、人工弁または人工血管または未知の原因であり得る塞栓および微小塞栓の出現、播種性血管内凝固症候群(DIC)を含めた、血栓塞栓性事象後の緊急抗凝固がある。
【0061】
心肺バイパス法、肝臓バイパス法中などの臓器かん流手順中の凝固を予防するため、および臓器移植の補助として、本発明の方法を使用することもできる。CPBによって引き起こされる大量血栓反応を、ヘアピンおよびその類似体などの間接的トロンビンインヒビターによって完全にアンタゴナイズすることはできない(Edmunds,and Colman.2006,Ann Thorac Surg82:2315-22.)。
【0062】
抗凝固が望ましいときのさらなる例は、血液透析、血液濾過または血漿交換手順中を含む。末端循環中の凝固のリスクを最小にするための血管のクロスクランプに関する外科手術中に、抗凝固が望ましい可能性もある。このような手順は、それだけには限られないが、動脈内膜切除、人工血管の挿入、大動脈および他の動脈瘤の修復を含み得る。
【0063】
さらに、本発明の方法およびトロンビンインヒビターは、ヘパリン耐性患者中で抗凝固を誘導するのに有用である可能性がある。
【0064】
この方法およびトロンビンインヒビターは、ヘパリン起因性血小板減少症の治療または予防において有用である可能性もある。このような治療はHITを有するかまたはそのリスクがある患者、および活性血栓形成が有るかまたは無い患者に施すことができ、血小板数が正常の範囲内に回復するまで、または血栓形成のリスクが消失するまで施すことができる(Girolami and Girolami2006,Semin Thromb Hemost32:803-9;Lewis,B.E.,and M.J.Hursting.2007.Expert Rev Cardiovasc Ther5:57-68.)。
【0065】
本発明の特定の態様によれば、in vivo法は、治療上有効量、治療用分子と遺伝子工学的または化学的に融合した本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターを含む融合タンパク質を、トロンビン蓄積により引き起こされる状態に罹患している患者に供給するステップを含む。本発明の方法はトロンビンとの直接相互作用を含む。この特徴は、それらを使用してトロンビン蓄積の部位に治療用分子を運搬することができることを意味する。治療用分子は、抗炎症剤または血栓溶解剤であることが好ましい。状態はフィブリン血栓または血小板血栓であることが好ましい。
【0066】
トロンビンインヒビターは任意の適切な経路によって投与することができる。投与の好ましい経路には、静脈内、筋肉内または皮下注射および経口投与がある。治療は静脈内注入によって、または単回もしくは反復ボーラス注射として連続的に施すことができる。トロンビンインヒビターは患者に個別に投与することができ、または他の作用物質、薬剤もしくはホルモンと併せて投与することができる。例えば、本発明のトロンビンインヒビターは、患者が安定状態になるような時間まで、クマリン誘導体などの経口抗凝固剤と共に投与することができ、その後患者をクマリン誘導体単独で治療することができる。
【0067】
本発明は、本発明の第1の態様の方法が診断に使用することができることをさらに示す。これらの方法はトロンビンとの相互作用によって特異的にトロンビン活性を阻害することを含むので、これらを使用してトロンビンの存在を検出することができ、したがってフィブリン血栓または血小板血栓などのトロンビン蓄積により引き起こされる状態を診断することができる。したがって本発明は、本発明の第1の態様の方法が、患者または患者から単離した組織に上記の本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターを投与し、該トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物の存在を検出することによる、トロンビン蓄積により引き起こされる状態の診断を含むことができることをさらに示し、トロンビンと結合した該トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物の検出は該疾患または状態を示す。トロンビンインヒビターまたはその機能的等価物は、検出を容易にするために、前でより詳細に記載したマーカードメインを含む融合タンパク質の形であることが好ましい。既知の画像化法を使用して検出を実施することができるように、マーカードメインは放射化学タグであることが好ましい。疾患または状態は、フィブリン血栓または血小板血栓であることが好ましい。
【0068】
本発明の第1の態様のさらなる態様によれば、本発明の第1の態様のin vivo法を使用して、悪性疾患または悪性疾患に関連する状態を治療することができる。
【0069】
悪性疾患は血栓塞栓症発作の傾向の増大に関連することが多いことは、数十年来認められている。例えばトルソー症候群は、一時的な血栓性静脈炎および原発性悪性腫瘍によって特徴付けられ、ヘパリンなどのトロンビンインヒビターはその管理において使用されている(Varki A.Trousseau's Syndrome:multiple definitions and multiple mechanisms.Blood2007)。より近年、トロンビンを含めた凝血促進因子の生成は、悪性疾患の特定の態様の結果ではなく原因である可能性があることが明らかとなっている(Nierodzik ML,Karpatkin S.Thrombin induces tumor growth,metastasis,and angiogenesis:Evidence for a thrombin-regulated dormant tumor phenotype.Cancer Cell2006;10(5):355-62.)。
【0070】
トロンビン、VEGFおよびIGFIIは、癌細胞の生存および浸潤性を促進することが示されている(Gieseler F,Luhr I,Kunze T,et al.Activated coagulation factors in human malignant effusions and their contribution to cancer cell metastasis and therapy.Thromb Haemost2007;97(6):1023-30.)。オステオポンチンのCOOH末端のトロンビン切断は、マウス中で乳癌を促進することが示されている(Mi Z,Oliver T,Guo H,Gao C,Kuo PC.Thrombin-cleaved COOH(-)terminal osteopontin peptide binds with cyclophilin C to CD147 in murine breast cancer cells.Cancer Res 2007;67(9):4088-97.)。細胞マトリクスとの細胞接着を低下させ悪性細胞を移動「可能状態」に置くことによって、トロンビンは前立腺癌の転移において役割を果たすようである(Loberg RD,Tantivejkul K,Craig M,Neeley CK,Pienta KJ.PAR1-mediated RhoA activation facilitates CCL2-induced chemotaxis in PC-3 cells.J Cell Biochem2007)。したがって、根治的前立腺切除術または前立腺生検などの外科手術手順中の強力なトロンビンインヒビターの使用は、体循環中への悪性細胞の放出を減少し、放出されるこれらの細胞の生存を低下させることができると考えられる。
【0071】
したがって本発明の第1の態様の方法および本発明の第2の態様の分子は、特に(例えばヘパリン起因性血小板減少症において)ヘパリンおよびその類似体が禁忌であるときのトルソー症候群の治療、抗癌剤としての使用、および転移のリスクを低減するための外科的切除、悪性腫瘍の触診または生検などの手順中の使用に有用である可能性がある。本発明のこの態様中で使用する分子がバリエジンタンパク質またはその機能的等価物である場合、それは分子の半減期を増大するためにグリコシル化またはPEG化されている修飾型であることが好ましい。
【0072】
本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の機能的ドメインの第1の開示、およびバリエジン分子の切断産物の第1の開示を示す。特に、本明細書中に表す結果は、バリエジンタンパク質の残基1〜7はトロンビンエキソサイトIIと相互作用し、バリエジンタンパク質の残基8〜14はトロンビンの活性部位と相互作用し、かつ残基15〜32はトロンビンエキソサイトI結合部位と相互作用することを開示する。これらの領域は、完全長バリエジンタンパク質中で一緒に作用してトロンビンの活性を阻害すると考えられる。しかしながら、導入部分で論じたように、多くの既存のトロンビンインヒビターは一価または二価の結合物質である。したがって、トロンビンのこれらの領域の1箇所のみと相互作用するバリエジンタンパク質の断片またはその変異体も、トロンビンインヒビターであり得ると予想される。実際、本明細書中に表す結果は、トロンビン活性部位用の結合部位およびエキソサイトI用の結合部位(EP25)を含有する断片は、完全長合成バリエジンタンパク質のそれと同様のIC50およびKi値を有していたことを示す。トロンビンの1箇所のみまたは2箇所の部位と相互作用するバリエジンタンパク質の断片は、それが循環からより迅速に除去される点で、医学的用途に関して完全長バリエジンタンパク質の利点を有し得る。このことによってその断片が、抗凝固が手順の最後を越えて続くことが望ましくない心臓カテーテル法などの、短期の手順中での使用に理想的となる。
【0073】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、トロンビンインヒビターを提供し、該トロンビンインヒビターはバリエジン配列の断片を含み、かつ以下より選択されるアミノ酸配列を含む:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25:活性部位およびエキソサイトIと相互作用)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18:エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)
SDQGDVAEPKMHKT(エキソサイトIIおよび活性部位と相互作用)(配列番号17)
SDQGDVA(エキソサイトIIと相互作用)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位と相互作用)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2;MH22)(配列番号3)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
またはそれらの機能的等価物。
【0074】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターはバリエジンタンパク質の断片であり、したがってアミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジンタンパク質の完全な配列は含有しない。しかしながら、本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、トロンビンがバリエジンタンパク質のアミノ酸の全ては含まないという条件で、前述の特異的断片配列のN-またはC-末端にバリエジンタンパク質配列由来の追加のアミノ酸残基を含有することができる。
【0075】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、2個以上の前述の特異的断片を含有する分子も含む。例えばトロンビンインヒビターは、SDQGDVA(配列番号18)(エキソサイトIIと相互作用)およびAPPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトIと相互作用)(配列番号16)を含むことができる。これらのエキソサイトIIおよびエキソサイトI相互作用部位は、完全長バリエジンタンパク質中に存在するトロンビン活性結合部位とほぼ同じ長さであるリンカー分子によって結合することが好ましい。
【0076】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、前述の配列の1つまたはそれらの機能的等価物からなるものであり得る。
【0077】
本発明の第4の態様によるトロンビンインヒビターは、好ましいKiおよびIC50値ならびに他のセリンプロテアーゼを阻害せず特異的にトロンビンを阻害する能力などの、上記で論じた本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターの特性を示すことが好ましい。
【0078】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターの機能的等価物は、本発明の第4の態様のトロンビンインヒビターと顕著な構造類似性を示し、かつそれらが由来するトロンビンインヒビターと同じトロンビンの領域と相互作用する能力を保持する分子を含む。本発明のこの態様による機能的等価物は、トロンビンインヒビターとトロンビンの相互作用を実質的に変えない1つまたは複数のアミノ酸置換を含有する前述の特異的トロンビンインヒビターの変異体を含む。このようなアミノ酸置換は、前に本発明の第1および第2の態様の分子に関して記載した置換などの、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。好ましい置換は、完全長バリエジンタンパク質の変異体に関して前に論じたアミノ酸位置に存在する置換である。
【0079】
このような機能的等価物の例には、以下より選択されるアミノ酸配列を有する変異体がある:
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5)。
【0080】
本発明のこの態様のトロンビンインヒビターの機能的等価物は、トロンビンインヒビターの断片も含む。ただしこれらの断片は、トロンビン活性を阻害する能力を保持するものとする。
【0081】
機能的等価物は、糖基またはポリマー基などの付加基の共有結合によって修飾されている、修飾型のトロンビンインヒビターおよびその断片も含む。本発明の第1の態様の方法で使用するための、機能的等価物バリエジンタンパク質に関して上記で示したこのような修飾の例は、本発明のこの態様のトロンビンインヒビターに同様に適用可能である。
【0082】
本発明のこの態様の機能的等価物は、トロンビンインヒビターの融合タンパク質も含む。このような融合タンパク質中に含めるのに適したパートナーは、完全長バリエジン配列を含有する融合タンパク質に関して上記で論じている。
【0083】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターとトロンビンとの複合体をさらに提供する。
【0084】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子をさらに提供する。このような分子には、一本鎖または二本鎖DNA、cDNAおよびRNA、および合成核酸種がある。核酸配列はDNAを含むことが好ましい。
【0085】
本発明は、これらの核酸分子を含むクローニングおよび発現ベクターをさらに含む。このようなベクターは、上記の本発明の第1の態様の方法および本発明の第2の態様のトロンビンインヒビターに関して使用する発現ベクターに関して記載した配列などの、追加の制御配列を含むことができる。
【0086】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビター分子をコードする核酸分子と、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、アンチセンス分子をさらに含む。高ストリンジェンシー条件の例は、本発明の第1および第2の態様の分子に関して上記に記載している。
【0087】
本発明は、本発明のこの態様のトロンビンインヒビター分子をコードする核酸分子、アンチセンス核酸分子またはベクターを含む、形質転換またはトランスフェクト原核生物または真核生物宿主細胞をさらに含む。適切な宿主細胞およびこのような宿主細胞を調製する方法は、本発明の第1および第2の態様に関して上記で論じている。
【0088】
本発明は、本発明のこの態様によるトロンビンインヒビター分子の調製方法であって、タンパク質が発現される条件下で本発明による核酸分子を含有する宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む方法をさらに含む。
【0089】
本発明は、治療における本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターの使用をさらに含む。本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターは、上述した製薬上有効な担体をさらに含む医薬組成物の形であってよい。本発明のこの態様によるトロンビンインヒビターは、上述した本発明の第1および第2の態様の方法または分子を使用して治療することができる障害のいずれかの、治療または予防において使用することができる。本発明のこの態様のトロンビンインヒビターは、前述の本発明の第1および第2の態様の方法および分子に関して上記で論じた診断法のいずれかにおいて使用することもできる。
【0090】
本発明の様々な態様および実施形態を、実施例によってここでより詳細に記載する。本発明の範囲から逸脱せずに、詳細の変更を施すことができることは理解されよう。
【実施例】
【0091】
実施例1
バリエジンおよびEP25の分析
材料および方法
材料
ヒトクエン酸血漿はthe Slovak Institute of Cardiovascular DiseasesのDepartment of Hematology and Transfusiologyから供与された。トロンボクロチン試薬はDade AG(Dudingen、スイス)から入手した。トロンボプラスチンIS試薬およびアクチンFS活性化PTT試薬はDade International Inc.(マイアミ、フロリダ)から入手した。9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)-L-アミノ酸、Fmoc-PEG-PS担持樹脂、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、20%v/vピペリジン(DMF中)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,-3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)は、Applied Biosystems(Foster City、カリフォルニア)から入手した。トリフルオロ酢酸(TFA)、1,2-エタンジチオール、チオアニソール、ウシキモトリプシンおよびウシ血清アルブミン(BSA)は、Sigma Aldrich(St.Louis、Missouri)からから入手した。ヒトフィブリノゲン、FXIIa、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)、ウロキナーゼ、カリクレインおよびウシトリプシンは、Merck Chemicals Ltd.(Nottingham、UK)から入手した。ヒト第IXa因子(FIXa)、第Xa因子(FXa)、第XIa因子(FXIa)、APCおよびプラスミンは、Hematologic Technologies、Inc.(Essex Junction、Vermont)から入手した。ヒト第VIIa因子(FVIIa)および組換えα-トロンビンは、財団法人化学及血清療法研究所(化血研、日本)(Chemo-Sero-Therapeutic Research Institute(KAKETSUKEN、Japan))から供与された21,22。発色基質S2222、S2238、S2251、S2288、S2302、S2366、S2444、S2586およびS2765はChromogenix(ミラノ、イタリア)から入手した。Spectrozyme(登録商標)FIXaはAmerican Diagnostica Inc.(Stamford、Connecticut)から入手した。使用した全ての他の化学物質および試薬は分析グレードであった。
【0092】
唾液腺抽出物およびタンパク質濃度の推定
A.variegatumのSGEの抽出手順および分画中のタンパク質濃度の推定を以前と同様に記載されている23。
【0093】
バリエジンアイソフォームの精製
Beckman Instruments 126/168 DAD HPLCシステム(Fullerton、カリフォルニア)を用いた3ステップの逆相HPLC手順によってバリエジンを精製した。第1ステップでは(図1A)、Vydac C-4(5μm;250×4.6mm)カラム(Grace Vydac、Hesperia、カリフォルニア)にSGEをロードした。最も強い抗凝固活性を含有していたプールした分画(図1A、分画AV-III)を、Beckman Ultrasphere C-18(5μm;250×4.6mm)カラムを使用する第2ステップに供した(図1B)。最後に、個々の画分をVydac C-18(5μm;250×4.6mm)カラムを使用してさらに精製して、強力な抗トロンビン活性の3個の画分、AV6/5、AV3/5およびAV5/5を得た(図1C〜D)。AV6/5画分中の主な構成成分をバリエジン(variegin)と名付けた。
【0094】
凝固アッセイ
トロンビン時間(TT)、プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)のアッセイを、SGEおよび画分における抗凝固活性の一次スクリーニングに使用した。ヒトクエン酸血漿(50μl)を、1時間37℃で最大5μlのSGEまたは同体積の150mMのNaCl(対照)とプレインキュベートした。対応する試薬(TT:50μlのトロンボクロチン試薬;PT:100μlのトロンボプラスチンIS試薬;APTT:50μlのアクチンFS活性化PTT、3分間加え、反応は50μlの20mMCaCl2で開始した)を加えた後、フィブリン塊の形成に必要とされた時間を、ストップウォッチを使用して目視で決定した。
【0095】
粗製SGEおよび3個の画分(AV6/5、AV3/5およびAV5/5)の活性は、Oxford Hemophilia Centre of Churchill Hospital(Oxford、UK)で確認された。TT、PTおよびAPTTはMDA-180分析装置(Organon Teknika Ltd.、Cambridge、UK)を使用して実施した。AV6/5、AV3/5およびAV5/5を含有する10μlのSGEまたは希釈画分を290μlの乏血小板血漿に加え、混合し37℃で5分間インキュベートした。トロンボエラストグラフ分析装置(Haemoscope Inc.、Skokie、Illinois)を使用して活性をさらに確認した。5μlのサンプルを335μlのクエン酸全血に加え、5分間インキュベートし、サンプルはカルシウム再添加(recalcification)後にTEGに供した。
【0096】
タンパク質配列の分析
AV6/5、AV3/5およびAV5/5中に存在するタンパク質の分子量を、窒素レーザー(337nm)およびグリッドなしのディレイドエクストラクションイオン源を備えるBIFLEX(Bruker-Franzen、Bremen、ドイツ)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化リフレクトロン飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析計を使用して、Eurosequence(Groningen、オランダ)によって決定した。部分アミノ酸配列は、自動シーケンサー(モデル494、Applied Biosystems)を使用してN末端エドマン分解によって決定した。AV6/5の完全な配列はMALDI-MS分析によって決定した。
【0097】
ペプチドの合成および精製
3種類のペプチド(s-バリエジン、EP25およびAP18)を、Applied Biosystems Pioneerモデル433Aペプチド合成装置で固相ペプチド合成法を使用して合成した。アミノ酸のFmoc基を20%v/vピペリジン(DMF中)によって除去し、HATU/DIPEA in situ中和化学法を使用してカップリングさせた。全てのペプチドを事前充填PEG-PS樹脂で合成した。TFA/1,2-エタンジチオール/チオアニソール/水カクテルによる切断はペプチド酸(-COOH)を放出した。合成ペプチドを、AKTA(商標)精製機(GE Healthcare、Uppsala、スウェーデン)およびSunFire(商標)C18(5μm;250mm×10mm)(Waters、Milford、Massachusetts)カラムでRP-HPLCによって精製した。全てのペプチドの純度および質量を、Perkin-Elmer Sciex API 300 LC/MS/MSシステム(Perkin-Elmer Sciex、Selton、Connecticut)を使用してエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)によって決定した。
【0098】
円偏光二色性(CD)分光
10mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に溶解したバリエジン、s-バリエジン、EP25およびAP18の遠UV CDスペクトル(260〜190nm)を、Jasco J-810分光偏光計(Easton、Maryland)を使用して記録した。全ての測定は、50nm/分のスキャン速度、0.2nmの分解能および2nmの帯域幅で、0.1cm経路長キュベットを使用して室温で実施した。
【0099】
トロンビンアミド分解活性の阻害
S2238でのトロンビンアミド分解活性に関する全てのアッセイは、96ウエルのマイクロタイタープレート中、100mMのNaClおよび1mg/mlのBSAを含有する50mMのトリスバッファー(pH7.4)中で室温において実施した。典型的には、100μlのペプチドおよび100μlのトロンビンを、100μlのS2238を加える前に様々な時間プレインキュベートした。着色生成物p-ニトロアニリンの形成率を、ELISAプレートリーダーを用いて10分間405nmで追跡した。インヒビターの不在下を0%として、吸光度の増大率を得ることによって阻害率を計算した。用量応答曲線はOriginソフトウェア(MicroCal、Northampton、Massachusetts)を使用してフィッティングしてIC50値を計算した。
【0100】
阻害定数Kiの決定
阻害定数Kiを、基質としてS2238を使用して決定した。等モル濃度のインヒビターによって酵素を阻害するとき、インヒビターと酵素の結合は遊離インヒビターの濃度の有意な減少を引き起こす。この強結合阻害を以下の等式によって記載する24:
Vs=(Vo/2Et){[(Ki'+It-Et)2+4Ki'Et]1/2-(Ki'+It-Et)} (1)
上式でVsは定常状態速度であり、Voはインヒビターの不在下で観察した速度であり、Etは酵素の総濃度であり、Itはインヒビターの総濃度であり、かつKi'はみかけの阻害定数である。競合的阻害に関して、等式(2)によってKiをKi'と関連付ける(2):
Ki'=Ki(1+S/Km) (2)
上式でKi'はSと共に直線的に増大し、Kiは阻害定数であり、Sは基質の濃度であり、かつKmはS2238に関するミカエリス定数である(3.25±0.56μMであると決定、図8、報告された値と同様24,25)。バリエジンとs-バリエジンの両方が強結合インヒビターであることが分かった。Originソフトウェアを使用して、これらの等式にデータをフィッティングした。
【0101】
インヒビターと酵素の相互作用速度が緩慢であり、したがって阻害される定常状態速度がゆっくりと得られる場合、この緩慢な結合阻害の生成物形成の進行曲線は等式(3)によって記載する26:
P=Vst+(Vo-Vs)(1-e-kt)/k+Po (3)
上式でPは形成される生成物の量であり、Poは生成物の初期量であり、Vsは最終的な定常状態速度であり、Voは初期速度であり、tは時間であり、かつkはみかけの一次速度定数である。
【0102】
このような緩慢な結合反応を記載するための2つの考えられる最小動力学メカニズムが存在する26,27:
【数1】
【0103】
上式でEは酵素であり、Iはインヒビターであり、かつEI*は安定な酵素-インヒビター複合体であり、K1は会合速度定数であり、かつK2は解離速度定数である。このスキーム中、緩慢な結合は主に緩慢なK1によるものである。みかけの一次速度定数kはインヒビター濃度と共に直線的に増大するであろう。あるいは:
【数2】
【0104】
上式でEIは初期衝突複合体であり、K3は順方向異性化速度であり、かつK4は逆方向異性化速度である。このスキーム中、結合は初期衝突複合体(EI)の迅速な形成を含み、それは後に最終的な酵素-インヒビター複合体(EI*)への緩慢な異性化を受ける。kはインヒビター濃度と共に大きく増大する。EIの解離定数(Ki‘で示す)は等式(4)から計算することができる:
k=K4+K3It/[It+Ki‘(1+S/Km)] (4)
【0105】
全体の阻害定数Kiは等式(5)から計算することができる:
Ki=Ki‘[K4/(K3+K4)] (5)
【0106】
EP25はスキーム2のメカニズムに従う緩慢な結合インヒビターであることが分かった。Originソフトウェアを使用して、これらの等式にデータをフィッティングした。
【0107】
セリンプロテアーゼの特異性
バリエジンの選択性プロファイルを、13種類のセリンプロテアーゼに対して調べた:線維素溶解セリンプロテアーゼ(プラスミン、TPAおよびウロキナーゼ)、抗凝固セリンプロテアーゼAPC、凝固促進セリンプロテアーゼ(FXIIa、FXIa、FXa、FIXa、FVIIa、カリクレインおよびトロンビン)ならびに古典的セリンプロテアーゼ(キモトリプシンおよびトリプシン)。これらのセリンプロテアーゼに対するs-バリエジンの影響は、特異的発色基質を使用してアッセイしたそれらのアミド分解活性の阻害によって決定した。
【0108】
フィブリノゲン凝固時間
フィブリノゲン凝固時間を延長するs-バリエジン、EP25およびAP18の能力を、BBLフィブロメーター(BD、Franklin Lakes、New Jersey)を使用して試験した。200μlのフィブリノゲン(最終濃度3mg/ml)を、37℃で100μlのペプチド(様々な濃度)と共にインキュベートした。フィブリノゲンの凝固は、100μlのトロンビン(最終濃度20nM)の添加によって開始した。全ての試薬およびサンプルは、100mMのNaClを含有する50mMのトリスバッファー(pH7.4)中に溶解した。
【0109】
トロンビンによるs-バリエジンの切断
s-バリエジンおよびEP25(最終濃度:150μM)を、室温と37℃の両方でトロンビン(最終濃度:5μM)と共にインキュベートした。様々なインキュベーション時間の後、反応を0.1%のTFAバッファー(pH1.8)でクエンチし、AKTA(商標)精製機に取り付けたSunFire(商標)C18カラムにロードした。0分インキュベーションのクロマトグラムに存在したピーク以外の新たなピークは切断産物として同定し、ESI-MSに供してそれらの質量を確認した。それらのピークを統合して、ピーク下面積およびそれぞれのピークの相対的割合を算出した。
【0110】
結果
バリエジンアイソフォームの精製
A.variegatumの粗製SGEは、3種類全ての凝固アッセイ(PT、APTTおよびTT)において強力な抗凝固活性を示した(図9)。強度は順にTT>>APTT>PTであり、SGEが1つまたは複数のトロンビンインヒビターの有望な供給源であることを示した。この1つまたは複数のインヒビターを精製するために、SGEをRP-HPLCによって分画した(図1A)。第1の精製ステップ後、最も強力な抗凝固分画(AV-III)を第2の精製ステップに供した(図1B)。生成した画分は、凝固および発色基質アッセイにおいて抗トロンビン活性に関してスクリーニングした。最も強い活性を有する2つの画分(保持時間23.083分および28.933分)を別の実験でさらに精製した。保持時間23.083分を有する画分はAV3/5およびAV5/5と呼ばれる2つの主要ピークに分離した(図1C)。保持時間28.933分を有する画分は1個の主要ピークおよび小さな「ショルダーピーク」を有し、主要ピークはAV6/5と呼ばれた(図1D)。これら3つの画分(AV3/5、AV5/5およびAV6/5)および粗製SGEの抗凝固活性はPT、APTT、TTおよびTEGアッセイによって確認した。全4種類のアッセイは、AV6/5が最も強い抗凝固活性を含有し、次にAV3/5およびAV5/5が続くことを明らかにした(表1)。
【表1】
【0111】
タンパク質配列の分析
全3個の画分の部分アミノ酸配列をエドマン分解によって決定した。AV6/5に関して、配列および分子量分析はMALDI-TOFによって実施した。AV6/5のMALDIスペクトルは、3769.96Da(モノアイソトピック質量=3768.96Da)の主要m/zシグナルおよび3777.79Da(モノアイソトピック質量=3776.79Da)のマイナーなm/zシグナルを明らかにした。主な構成成分は、Thr14がヘキソース部分によって修飾されている配列SDQGDVAEPKMHKT(hex)APPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有する。これをバリエジンと名付け、さらに特徴付けした。マイナーな構成成分(3776.79Da)はバリエジンとほぼ同一であり、Glu31がHisに置換されている。エドマン分解によって決定した部分配列は、AV3/5画分中の2つの構成成分(m/z3953.54および3409.57Da)およびAV5/5中の3つの構成成分(m/z3680.23、3368.94および3173.62Da)を明らかにした。決定した全ての配列はバリエジンと非常に類似している(図2A)。バリエジンのCDスペクトルはランダムコイルタンパク質に典型的である(表2)。
【表2】
【0112】
BLASTの結果は、バリエジンがデータベース中の如何なる既知のタンパク質とも類似性を示さないことを示す。興味深いことに、そのC末端(DFEAIPEEYL)(配列番号21)は、ヒルジンのC末端(残基55〜64:DFEEIPEEYL(配列番号22))とほぼ同一である。したがって本発明者らは、バリエジンのC末端は、トロンビンとの結合においてヒルジンのC末端と類似の役割を果たすと仮定した。しかしながら、ヒルジンのTyr63は硫酸化されており28,29、一方バリエジン中の対応するTyrは硫酸化されていない。
【0113】
バリエジンによるトロンビンアミド分解活性の阻害およびそのKi
トロンビンアミド分解活性を阻害するバリエジンの能力を、S2238(活性部位のみと結合する小分子ペプチジル基質)を用いてアッセイした。バリエジンはアミド分解活性を阻害し、かつ阻害の進行曲線は、混合によって平衡定常状態を得たことを示した(図2B)。顕著な阻害(約80%)を、等モル濃度のトロンビンおよびバリエジン(3.33nM)に関して観察した。阻害のIC50は約0.99±0.02nMである(図2C)。バリエジンは、約10.4±1.4pMのKiでトロンビンの迅速かつ強結合の競合的インヒビターである(図2D)。
【0114】
s-バリエジンおよび変異体の合成
さらなる特徴付けのために、3種類のペプチドを合成し、精製し特徴付けした。合成バリエジン(SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)、s-バリエジン)はバリエジンの完全配列を有し、一方EP25(EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES)(配列番号6)およびAP18(APPFDFEAIPEEYLDDES)(配列番号16)はN末端から7個および14個の残基が切断されている。天然バリエジン(n-バリエジン)と異なり、s-バリエジンおよびEP25中ではThrはグリコシル化されていない。s-バリエジン、EP25およびAP18のCDスペクトルはn-バリエジンのそれといずれも類似しており、ランダムコイルタンパク質に典型的である(図9)。
【0115】
バリエジンによる阻害の特異性
特異性を決定するために、トロンビンを含めた13種類のセリンプロテアーゼに対してs-バリエジンをスクリーニングした。トロンビン以外に、1μMのs-バリエジンでさえ、他のセリンプロテアーゼが有意な阻害を示すことはなかった(≦5%)。10%を超える阻害はより高濃度のs-バリエジンで観察された。最も影響を受けやすいプロテアーゼは、プラスミン、トリプシンおよびFXIaであり、これらは100μMのs-バリエジンによって約20〜30%阻害された。対照的に、トロンビンに対しては、類似した約30%の阻害は少なくとも4桁小さい濃度(約3.3nM)で観察された(図3)。したがって、s-バリエジンは特異的かつ強力なトロンビンインヒビターである。
【0116】
s-バリエジン、EP25およびAP18によるトロンビンアミド分解活性の阻害
s-バリエジンは、阻害の平衡定常状態が混合によって得られた点でn-バリエジンと類似している。s-バリエジンはn-バリエジンより5倍活性が低く、約30%の阻害は等モル濃度のトロンビンとs-バリエジン(3.33nM)で観察された。用量応答曲線はインキュベーション時間(0分および10分)と無関係に5.40±0.95nMのIC50値を示した(図4A)。したがって、s-バリエジンもトロンビンの迅速かつ強結合インヒビターである。s-バリエジンにおけるThrグリコシル化の不在は、その弱い活性の原因である可能性がある。
【0117】
EP25もトロンビンのアミド分解活性を阻害した。しかしながら、n-バリエジンおよびs-バリエジンと異なり、阻害の進行曲線はプレインキュベーションの不在下で二相平衡を示した。平衡定常状態の阻害は、約10分のプレインキュベーション後に比較的ゆっくりと得られた。EP25の用量応答曲線はインキュベーション時間に依存した。したがって、7個のN末端残基(SDQGDVA(配列番号18))の欠失は結合形式を迅速から緩慢に変えた。しかしながら、EP25の強度は欠失によって影響を受けなかった。最終的な平衡定常状態を得たとき(20分のプレインキュベーション)、EP25はs-バリエジンと同じ程度でトロンビンを阻害した(EP25およびs-バリエジンに関するIC50値はそれぞれ5.63±0.45nMおよび5.40±0.95nMである)(図4B)。
【0118】
対照的に、AP18は300μMでもトロンビンのアミド分解活性を阻害せず、活性部位と結合しなかったことが示唆された。代わりにAP18は、用量依存的に若干トロンビンのアミド分解活性を増大させた(図4C)。これはヒルジンC末端の報告された挙動と一致する28。要約すると、これらの結果はバリエジン上の活性部位結合部分は位置8〜14(EPKMHKT)内に存在することを示唆する。
【0119】
トロンビンのフィブリノゲン溶解活性の阻害
s-バリエジン、EP25およびAP18はいずれも用量依存的にフィブリノゲン凝固時間を延長した(図4D)。フィブリノゲンはトロンビンの活性部位とエキソサイト-Iの両方と結合する1,2。AP18はトロンビンのフィブリノゲン溶解活性を阻害したがアミド分解活性は阻害せず、したがって本発明者らは、バリエジンのC末端はエキソサイト-Iと結合すると結論付けた。この観察はヒルジンC末端のそれと一致する28,29。s-バリエジンとEP25の間の活性の違いは、おそらくEP25の緩慢な結合形式が原因である。
【0120】
s-バリエジンおよびEP25の阻害定数Ki
s-バリエジンおよびEP25のKiを、基質としてS2238を使用して決定した。s-バリエジンは迅速かつ強結合インヒビターである。Ki'を異なる濃度のS2238の存在下で決定した(図5A)。s-バリエジンはトロンビンの競合的インヒビターであり、そのKi'は漸増濃度のS2238と共に直線的に増大した(等式2)(図5B)。真の阻害定数、Kiは約146.4±13.6pMであることが分かった。これはn-バリエジン(約10.4±1.4pM)より14倍高い。対照的に、EP25はトロンビンの緩慢な結合インヒビターである。阻害の進行曲線を式3にフィッティングしてそれぞれの濃度のEP25に関するkを得た(図5C)。k(初期衝突複合体(EI)と最終的な安定複合体(EI*)の間の平衡を確定するためのみかけの一次速度定数)は、スキーム(2)によって記載されるようにEP25濃度と共に大きく増大した(図5D)。したがって、EP25とトロンビンの間の結合はEIからEI*への異性化を含む。EIの解離定数(Ki‘、式4)は約529.7±76.7pMであり、一方全体の阻害定数Ki(式5)は約149.8±30.5pMであった。したがって、EP25のKiはs-バリエジンのKiとほぼ同じである(約146.4±13.6pM)。これらの結果によって、7個のN末端残基の欠失は強度に影響を与えなかったが、結合形式を迅速から緩慢に変えたことを確認した。
【0121】
トロンビンによるs-バリエジンの切断
バリエジンはトロンビンの活性部位と結合するので、他のセリンプロテアーゼインヒビターと同様にトロンビンによって切断される可能性がある30。したがって本発明者らは、トロンビンによるs-バリエジンの切断および阻害に対するその影響を調べた。RP-HPLC分析によって、s-バリエジンは室温および37℃でトロンビンによって実際に切断されたことが示された。0分のインキュベーションでは、非切断s-バリエジンおよびトロンビンに対応するピークのみが存在した。切断産物の2つの新たなピークが出現し、増大するインキュベーション時間と共に増大した(図6A)。これらの新たなピークは、それぞれ1045Da(SDQGDVAEPK(配列番号2))および2582Da(MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3))の分子量を有しており、Lys10-Met11ペプチド結合での切断に相当した。切断は室温より37℃で迅速に進行した(図9)。
【0122】
バリエジンの切断の影響を確認するために、s-バリエジンおよびEP25を24時間までトロンビンと共にインキュベートし、かつ様々な時間地点で、トロンビンアミド分解活性を阻害する能力に関してアッセイした。これらの結果は、トロンビンとの長期インキュベーション後のみで、s-バリエジンとEP25の両方がそれらの活性を失ったことを示した(図6B〜D)。興味深いことに、同じ温度(24℃)およびモル比(30倍過剰のs-バリエジン)において、60分のインキュベーション後、約30%のs-バリエジンが切断されたが、s-バリエジンおよびEP25の阻害活性の消失は観察されなかった。24時間のインキュベーションが、s-バリエジンおよびEP25の阻害活性の約30%の消失に必要であった。EP25の緩慢な結合阻害の場合、阻害率は20分までインキュベーション時間と共に増大し、次いでトロンビンによる切断のために低下した(図6D)。したがって、1つまたは複数の切断産物は、トロンビンの活性部位との強い結合を保持する可能性がある。
【0123】
考察
バリエジンは天然で見られる最小トロンビンインヒビターの1つである。その小さなサイズおよび柔軟性のある構造にもかかわらず、バリエジンは強い親和性でトロンビンと結合する。構造-活性試験は、バリエジンはトロンビンの広い表面積と結合することを示す。7個のN末端残基は結合動態に影響を与え、除去したとき、バリエジンの結合特性は迅速から緩慢に変わった。残基8〜14はトロンビンの活性部位と結合するようであり、かつ残基15〜32はエキソサイト-Iと結合するようである。バリエジンはトロンビンによって切断されるが、その阻害活性は切断後に大部分が保持された。
【0124】
数年にわたって、多くのトロンビンインヒビターが吸血性動物およびヘビ毒から単離されている。しかしながら、バリエジンと他のトロンビンインヒビターの一次構造に類似性は見られなかった。柔軟性のある構造を示唆するシステインの不在も、ヒルジン(コンパクトなN末端、酸性で伸長したC末端)6,11-13、ロドニン(二重ドメインKazal型インヒビター)31,32、オルニトドリン(二重ドメインKunitz型インヒビター)33およびテロミン(酸性およびアンチタスチン様N末端、コンパクトなC末端)34などの原型トロンビンインヒビターと異なるが、これらはいずれもトロンビンの同じ部位(活性部位およびエキソサイト-I)と結合する(図7A)。バリエジン残基19〜28はヒルジンC末端とほぼ同一であるが、それらのN末端は完全に異なる(図7B)。ヒルジンと異なり、バリエジンはTyr残基において硫酸化されておらず、末端に3個の余分な残基を有する。ヒルジン24またはそのC末端ペプチド(ヒルゲン)29の脱硫酸化は、親和性24および活性29の10倍の低下にもかかわらず抗トロンビン活性を保持した。本発明者らの結果は、ヒルジンC末端の報告された挙動と同程度に28,29、AP18はエキソサイト-Iと結合しトロンビンアミド分解活性を若干増大させたことを示し、これら2つの配列に関する類似した役割を示唆した。これは2つの系統発生学的に別個の系統における収束進化の一例であるようである。
【0125】
バリエジンはへマジン35,36、トリアビン37,38およびボスロジャラシン39などの他のトロンビンインヒビターとも異なる。へマジンはヒルジンと類似した構造を有し、トロンビン活性部位とそのN末端が結合し、かつエキソサイト-IIと伸長したC末端が結合する35,36。トリアビンはエキソサイト-Iのみを阻害し、リポカリン37,38と類似した構造を有する。ボスロジャラシン(C型レクチンタンパク質)は、エキソサイト-Iとエキソサイト-IIの両方と結合する39。類似したサイズのわずか2つの他のトロンビンインヒビターが今日までに報告されてきているが、しかしながらそれらはバリエジンとは無関係であるようである。32残基をさらに有するにもかかわらず、ツェツェバエ(Glossina morsitans morsitans)40,41から単離したツェツェバエトロンビンインヒビター(TTI)は、バリエジンとは如何なる配列類似性も共有しない(図7A)。別の低分子量トロンビンインヒビター(3.2kDa)が、ラクダダニ(ヒアロマ・ドロメダリ(Hyalomma dromedarii))から単離された(NTI-1)42。バリエジンと異なり、NTI-1は微力で(Ki=11.7μM)非競合的なトロンビンのインヒビターであり、トロンビンの一部位のみと結合する(図7A)。現在、NTI-1に関する詳細な構造情報は入手不能である。
【0126】
おそらくバリエジンは、4個のGly残基のリンカーを介して活性部位結合部分D-Phe-Pro-Arg-ProにヒルジンC末端を移植することによって設計した合成トロンビンインヒビターであるヒルログと比較するのが最も良い14(図7A)。(ビバリルジンとして市販されている)ヒルログの開発は首尾よい合理的な薬剤設計を代表するが、バリエジンは進化中に類似した「設計」を生み出す天然の能力を示す。したがって、バリエジンは「天然」ヒルログとして記載することができる。s-バリエジンおよびEP25は、トロンビンインヒビターとしてヒルログに優るいくつかの利点を有する。第1に、バリエジンおよびEP25は天然アミノ酸を含む(ヒルログはD-Pheを一般に有する)。第2に、Thrグリコシル化がない場合でさえ、トロンビンに対するそれらの親和性はヒルログ-1のそれより高い。(長さがヒルログ-1に匹敵する)EP25ははるかに強い親和性でトロンビンを阻害する(EP25およびヒルログ-1のKi値はそれぞれ約149.8±30.5pMおよび約2500pM43である)。最後に、ヒルログとバリエジンの両方がトロンビンによって切断されるが、バリエジン(およびEP25)は、ヒルログよりはるかに遅い速度でトロンビンに対するその阻害活性を失う。例えば、3:1のインヒビター:トロンビン比では、ヒルログ-1は約15分後にトロンビンアミド分解活性に対する全阻害活性を失い43、一方s-バリエジンおよびEP25は24時間のインキュベーション後でのみ90%を超える阻害活性を失った。したがって、バリエジンおよびEP25はヒルログより優れているようである。
【0127】
ヒルログとバリエジンのC末端は非常に類似しているので(図7A)、バリエジンの親和性の改善および活性消失の遅延は主にN末端に原因があると、本発明者らは提案する。本発明者らの結果は、バリエジン上の活性部位結合部分は配列EPKMHKT(配列番号19)を有し、かつトロンビンはKとMの間でバリエジンを切断することを示した。この基質配列は、トロンビンの大部分の天然基質の配列と異なるようである。例えば、P1におけるLysは、可能ではあるが、観察されるのは非常に稀である44。さらに、P3におけるGlu、S1'におけるMet、S2'におけるHisおよびP4'におけるグルコシル化Thrの存在はいずれも一般的でない44,45。したがって、この特有の活性部位結合部分の同定は、トロンビン基質の選好性の理解と直接的トロンビンインヒビター開発のための新たなリード化合物の発見の両方において、強い暗示を有する可能性がある。
【0128】
部位特異的突然変異試験および内部蛍光試験は、ヒルジンとトロンビンの結合中の以下の事象を示唆する25,46:(1)ヒルジンC末端とトロンビンエキソサイト-Iの相補的電場による静電誘導、(2)トロンビン-ヒルジンC末端複合体のコンホメーションの変化および安定化を誘導するヒルジンC末端の特異的残基間の直接的相互作用によるイオン結合、および(3)活性部位近辺の無極部位とヒルジンN末端の引き続く結合。内部蛍光試験で検出したヒルジンC末端の結合によるコンホメーションの変化(ステップ2)が、律速段階であることを観察した46。ヒルジンは高イオン強度溶液(>0.2M)中で緩慢な結合インヒビターとして挙動し、この場合イオン相互作用は妨害された24。興味深いことに、バリエジンでは、7個のN末端残基の欠失は、結合親和性の顕著な消失なしで、迅速な結合インヒビターから緩慢な結合インヒビターへの変化をもたらした。EP25に関して観察したこの緩慢な結合は、おそらくヒルジンに関して観察したイオン結合の妨害ではなくN末端残基の消失によるものであり、異なる律速段階を示唆する。動態試験は、EP25の緩慢な結合形式はおそらくトロンビン-EP25複合体の異性化を含むことを示す。EP25のC末端とトロンビンエキソサイト-Iの間の長距離静電相互作用は初期衝突複合体(EI)の迅速な形成を可能にすると、本発明者らは提案する。これは緩慢なステップにおける活性部位とEPKMHKT(配列番号19)の引き続く結合をもたらし、短距離相互作用によって安定状態の酵素-インヒビター複合体(EI*)を形成する(ステップ3は律速段階である)(図7B)。対照的に、完全長バリエジンでは、N末端はおそらくSDQGDVA(配列番号18)中の2つの負に荷電した残基を介して追加の静電誘導効果を与え、N末端を活性部位近辺に予め配置し、短距離相互作用の迅速な形成を可能にする。N末端の静電誘導効果は、高塩基性のエキソサイト-IIの存在によって促進される。エキソサイト-IIは活性部位から約10Å離れ、これは伸長したコンホメーション中の7個のN末端残基によって理論上含まれ得る距離である(図7C)。
【0129】
要約すると、本発明者らは強力な二価トロンビンインヒビターであるバリエジンの単離、特徴付けおよび構造-機能関係を示す。それは新規なクラスのトロンビンインヒビターであり、新たなトロンビンインヒビターを開発するための優れた基盤を与える。
【0130】
実施例2
バリエジンの変異体および断片の活性の分析
s-バリエジンおよびEP25のIC50およびKiを決定するための上記のアッセイを、(化血研、日本からの)3.33nMの組換えヒトα-トロンビンの代わりに(化血研、日本からの)1.65nMのヒト血漿由来トロンビンを使用したこと以外、実施例1中に記載したのと同様に繰り返した。
【0131】
これらの実験において、s-バリエジンは約9nMのIC50および約0.318nMのKiを有することが分かった。EP25は約13nMのIC50および約0.365nMのKiを有することが分かった。実施例1中で得た結果と比較した、この実験におけるIC50値とKi値の値の差の理由は、組換えヒトα-トロンビンの代わりにヒト血漿由来トロンビンを使用したことであったと確認した。
【0132】
実験をさらに実施して、以下に論じるように様々なバリエジンの断片およびこれらの断片の突然変異体のIC50およびKiを評価し、これらの断片および突然変異体のIC50値およびKi値を既知のトロンビンインヒビターであるヒルログ-1(ビバリルジン)のIC50値およびKi値と比較した。全てのこれらの実験も、それらの結果が直接比較可能であるようにヒト血漿由来トロンビンを使用して実施した。
【0133】
これらの結果の要約は以下の表3中に表す。
【0134】
MH22-MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDESの分析
s-バリエジンは大部分が切断後にその活性を保持していることを考慮して、1つまたは複数のその切断産物はトロンビンと強く結合した状態であったと本発明者らは仮定した。s-バリエジン切断後のC末端断片を表すペプチドであるMH22を合成した。
【化1】
【0135】
トロンビンとの如何なるプレインキュベーションもなしで、MH22は11.5±0.71nMのIC50でトロンビンアミド分解活性を阻害することが分かった(図11)。MH22を短時間トロンビンとプレインキュベートとき、阻害活性の著明な変化は観察されず(10分プレインキュベーションのIC50=13.4±0.76nM;20分プレインキュベーションのIC50=12.3±1.89nM)、MH22は迅速に結合していることを示した。
【0136】
MH22はトロンビンとの長期のインキュベーション後に低下したアミド分解活性を示す(1680分のプレインキュベーションIC50=479.7±16.1nM)。この活性の消失は、アッセイ設定中のBSAの濃度を増大させることによって逆転させることが可能であり(図12)、消失した活性は大部分が反応プレートへのペプチドの吸収によるものであったことを示す。使用した高濃度のBSAで、1680分のプレインキュベーション後に、IC50は479.7±16.1nM(1mg/mlのBSA)から60.9±3.05nM(5mg/mlのBSA)および62.9±10.9nM(10mg/mlのBSA)に低下した。
【0137】
基質(S2238)の異なる濃度におけるMH22のみかけのKi'を、迅速かつ強力な結合を記載する等式によって決定した。Ki'は使用した濃度範囲(12.5nM〜200nM)で顕著に変化せず、MH22はトロンビンアミド分解活性の非競合的インヒビターであることが示された(図13)。非競合的インヒビターに関して、Ki'=Ki、かつこの場合平均Kiは13.2±0.91nMであることが分かった。
【0138】
EP25A22E-EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号3)の分析
次に、ペプチドEP25A22Eを合成した。このペプチド中では、s-バリエジン中のアラニン22(EP25中のアラニン15)をグルタミン酸に置換した。グルタミン酸はヒルジン中の同じ位置に存在するからである:
EP25(配列番号6):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES
EP25A22E(配列番号7):EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
【0139】
EP25と同様に、EP25A22Eは緩慢な結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=124.3±22.7nM、20分のプレインキュベーションでIC50=13.5±2.08nM、およびIC50=13.6±3.15nM(図14)であった。EP25と比較して、置換がアミド分解活性に悪影響を与えることはなかった。
【0140】
EP25A22EのKiは緩慢な結合インヒビターの等式を使用して決定し、0.311±0.070nMであることが分かった(図15)。したがって、EP25のKiと比較して、置換がトロンビンに対する結合親和性に悪影響を与えることはなかった。
【0141】
MH22A22E-MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(配列番号5)の分析
ペプチドMH22A22Eによって表されるEP25A22E切断のC末端断片を合成した:
EP25A22E(配列番号7):EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
MH22A22E(配列番号5):MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES
【0142】
MH22と同様に、MH22A22EのIC50はトロンビンとのプレインキュベーションなしで13.6±0.45nMであり、かつ20分のプレインキュベーションでIC50=15.6±0.36である(図16)。
【0143】
再度MH22と同様に、100μMの基質(S2238)で試験したとき、MH22A22Eは15.1±1.04nMのKi'を有する。アラニンからグルタミン酸への一残基置換が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH22A22EもKi=15.1±1.04nMの非競合的インヒビターである(図17)。
【0144】
配列EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号8)を有するEP21および配列MHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号20)を有するMH18の分析
EP25A22EとMH22A22Eの両方からの結果は、アラニン22のグルタミン酸での置換はペプチド活性を変えなかったことを示した。次に、アラニン残基を保持することによってペプチドを合成した。
【0145】
既知のトロンビンインヒビターであるヒルログと比較したとき、s-バリエジンはC末端に追加の4個の残基を有することを考慮して、ペプチドEP21およびMH18を合成して4個の追加の残基の役割を決定した:
EP21(配列番号8):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
MH18(配列番号20):MHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0146】
トロンビン活性を阻害するこれら2つの断片の能力を評価した。4個の残基を除去したとき、著明な活性の消失はなかった。EP21も緩慢な結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=176.9±6.77nM、20分のプレインキュベーションでIC50=16.2±2.93nM、および30分のプレインキュベーションでIC50=16.20±2.93nMである(図18)。緩慢な結合の等式によって決定したEP21のKiは0.315±0.024nMであることが分かった(図19)。
【0147】
同様に、MH18に関して活性の著明な消失は観察されなかった。トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=10.9±1.20nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=11.7±1.88nMであった(図20)。
【0148】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのMH18のKi'=14.9±3.50nMである。C末端における4個の残基の除去が阻害メカニズムを変えなかったと仮定すると、MH18もKi=14.9±3.50nMの非競合的インヒビターである(図21)。
【0149】
DV24-DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号9)の分析
本発明者らは、s-バリエジンのN末端中の荷電残基がその迅速な結合動態の原因であると仮定したので、EP21のN末端に3個の過剰な残基を有するペプチドDV24を合成して、このペプチドが迅速な結合形式に変わるかどうか試験した:
EP21(配列番号8):EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
DV24(配列番号9):DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0150】
予想通り、DV24は迅速かつ強結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=7.49±0.28nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=10.1±0.60nMである(図22)。DV24はトロンビンによって切断され、切断後に観察した活性は切断産物のC末端断片によるものである(この断片はペプチドMH18によって表される)。
【0151】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのDV24のKi'=9.74±0.91nMであり、かつこのペプチドは競合的インヒビターであると仮定して、DV24のKiは0.306±0.029nMであると決定した(図23)。
【0152】
DV24K10R-DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号10)の分析
大部分のトロンビンインヒビターがs-バリエジンにおいてリシンの代わりにP1位置にアルギニンを有することを考慮して、本発明者らは同じ置換でペプチドDV24K10Rを合成した:
DV24(配列番号9):DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL
DV24K10R(配列番号10):DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL
【0153】
DV24K10Rも迅速かつ強結合インヒビターであり、トロンビンとのプレインキュベーションなしでIC50=6.98±0.76nM、および20分のプレインキュベーションでIC50=12.01±0.41nMである(図24)。DV24K10Rもトロンビンによって切断され、切断後に観察した活性は切断産物のC末端断片によるものである(この断片はペプチドMH18によって表される)。
【0154】
迅速かつ強力な結合の等式を使用して、100μMの基質(S2238)でのDV24K10RのKi'=8.22±0.48nMであり、かつこのペプチドは競合的インヒビターであると仮定して、DV24K10RのKiは0.259±0.015nMであると決定した(図25)。したがってアルギニンでのリシンの置換は断片の活性を改善する。
【0155】
結論
これらの実験結果から、バリエジンの断片およびこれらの断片の突然変異体はトロンビン活性の有効なインヒビターであるという知見が確認される。これらの分子置換実験に由来する情報によって、エキソサイト2との相互作用はトロンビンに最も迅速な結合をもたらすために重要であることも確認した。
【表3】
【0156】
実施例3
ラットにおける全身の定量的オートラジオグラフィー試験
[3H]-標識試験物質を使用して、ラットにおけるバリエジンの分布を調べた。実験は0.4mg/kgの用量レベルで実施した。
【0157】
実験手順:
用量調製および評価
1mLの透析バッファー(50mMのリン酸ナトリウム、200mMの塩化ナトリウム(pH8.0))中に1mgのバリエジンを溶解した溶液を調製し、[3H]-NSP(400μCi)と共にインキュベートした。
【0158】
溶液を透析チューブ(1000kda)に移し、約96時間透析し、透析バッファーは1日当たり3回交換した。次いで溶液を(10mLのバッファー溶液、pH8で予め平衡化した)NAP5カラムにロードし、溶出液は廃棄した。次いでバッファーを加え、溶出液を回収して約0.5mg/mLで[3H]-標識タンパク質溶液を得た。
【0159】
[3H]-バリエジン溶液のアリコートを、液体シンチレーション計数による放射アッセイ用に取り出した。[3H]-バリエジン溶液のさらなるアリコートを投与前にHPLCにより分析して、タンパク質標識の効率を確認した(図26参照)。
【0160】
用量投与
単回静脈内用量を、0.4mg/kg(0.8mL/体重1kg)の投与レベルの容量でシリンジおよび針を使用して、それぞれの動物に投与した。製剤はラットの尾静脈中に単回パルス用量として分配した。それぞれのラットに投与した用量は、投与溶液の投与容量、および規定の放射活性濃度および比活性によって決定した。
【0161】
薬物動態試験
[3H]-バリエジンを、0.4mg/kgの公称投与レベルで単回静脈内用量として3匹のオスのラットに投与した。一連の血液サンプルを投与後の以下の時間:0.5、2、4、6、24および48時間で血漿調製用に採取した。
【0162】
血漿を得るために、回収後可能な限り早くサンプルを遠心分離にかけた。血漿を回収し、アリコートを放射活性測定用に残した。血液細胞は廃棄した。
【0163】
放射活性の測定
血漿に伴う放射活性を、既知の容量のサンプルの液体シンチレーション計数によって直接決定した。サンプルはUltima Goldシンチラントと混合し、自動外部標準クエンチ補正でPackard液体シンチレーションカウンターを使用して計数した。最適なチャンネル設定を選択した後、クエンチ補正曲線を放射化学標準から作製した。これらの曲線の妥当性は実験を通して調べた。2倍未満のバックグラウンド計数を有する放射活性は正確な定量化の限界未満であると考えた。
【0164】
薬物動態
静脈内投与後の血漿中のバリエジンの濃度を、PCModfit(バージョン3.0)を使用して分析した。動態データはノンコンパートメント解析(NCA)によって特徴付けた。以下の薬物動態パラメータ:最大ピークの血漿濃度(Cmax)、最大観察濃度の時間(Tmax)、終末半減期(t1/2)、および曲線下面積(AUC)をデータから誘導した。
【0165】
AUCは線形/対数台形法を使用して決定した。定量限界未満(BLQ)として記録した任意の血漿濃度にゼロの値を使用した。
【0166】
AUCinf(観察値)は、観察した濃度に基づいて無限大の時間まで外挿した投与時間から曲線下面積として算出した。したがってAUCinfパラメータは、より代表的な曝露推定値を与える外挿パラメータである。それは最終データ点から濃度がゼロであると推定される(将来の)時間までの時間-濃度プロファイルの追加部分を含有するからである。
【0167】
組織分布試験
[3H]-バリエジンを、0.4mg/kgの公称投与レベルで単回静脈内用量として3匹のオスのラットに投与した。用量投与後0.5、1および24時間で、1匹のラットをCO2過剰摂取によって屠殺した。屠殺後、固体二酸化炭素を含む約-80℃に冷却したヘキサン浴中に完全に浸すことによって、動物を迅速に凍結した。
【0168】
髭、脚および尾の除去後、それぞれの凍結死骸を1%(w/v)水性カルボキシメチルセルロースのブロック中に置き、約-20℃に維持したLeicaCM3600クリオミクロトームの試料台に載せた。次いで矢状断面(公称30μm)を、全ての主要な組織および器官を含むように死骸中の5レベルから得た:
レベルA:眼窩外涙腺
レベルB:眼窩内涙腺
レベルC:ハーダー腺/副腎
レベルD:甲状腺
レベルE:脳および脊髄。
【0169】
オートラジオグラフィー用テープに載せた切片を、FUJIイメージングプレート(タイプBAS-III、Raytek Scientific Ltd、Sheffield)と接触させて置いた。これらの手順はUllberg(Acta.Radiol.Suppl.118、22)の実験に基づく。
【0170】
全身オートラジオグラムの画像解析
少なくとも14日間約-75℃のフリーザー中に保存した鉛容器中での曝露後、イメージングプレートをFUJI BAS1500生体画像分析器(Raytek Scientific Ltd)を使用して処理した。
【0171】
確認されたPCベースの画像分析パッケージ(SeeScan Densitometryソフトウェア、LabLogic、Sheffield)を使用して電子画像を分析した。一組の[3H]-標識血液標準を準備し、それらを使用して放射活性濃度の範囲で較正線を作製した。
【0172】
この手順に関する定量化の下限は、マイクロスケールで含まれる最小定量化標準として定義した(36.6nCi/g)。個々の組織の放射活性濃度はnCi/gで表し、投与製剤中の試験材料の計算した比活性を使用してμg当量バリエジン/g(μg当量/g)に変換した。これは6.83μg当量/gの定量化の下限を与えた。
【0173】
可能な限り、1オートラジオグラフ中の最大領域を測定用にそれぞれの組織に関して定義した。いくつかの組織に関してこれは実用的ではなかったので、1つの特定領域を測定用に選択した。これらの組織、および対応する測定領域を以下に列挙する:
【0174】
オートラジオグラムの電子画像を使用して図27〜29を作製した。図27〜29中のレベル1〜5はラット身体の連続した1cmの縦断面を指す。
【0175】
結果および考察
濃度をμgまたはng当量バリエジン/g(mL)として報告する場合、放射活性はバリエジンまたは同じ分子量の化合物と関連していると推定される。投与溶液の比活性を全ての例において濃度(μgまたはng当量バリエジン/g(mL))の計算のために使用した。
【0176】
薬物動態試験:
3匹のオスのSprague Dawleyラットへの[3H]-バリエジンの静脈内投与後に観察した、総放射活性の平均薬物動態パラメータのまとめを、以下の表4および表5に示す。
【表4】
【表5】
【0177】
組織分布試験:
組織分布試験の結果を以下の表6および表7に示す。
【表6】
【表7】
【0178】
0.5時間(第1サンプリング時点)で、放射活性は限られた組織に分布していた。腎臓(25.7μg当量/g)、(腎皮質:29.1μg当量/gおよび腎臓髄質:8.15μg当量/g)、皮膚(17.0μg当量/g)および膀胱(63.6μg当量/g)において放射活性の濃縮を観察した。全ての他の組織は検出限界未満のレベルであった(<6.83μg当量/g)。1時間で、腎臓(18.8μg当量/g)および膀胱(43.8μg当量/g)のみにおいて濃縮を観察した。24時間までに、全ての組織中の放射活性は検出限界未満に低下していた。
【0179】
結論:
これらの結果は、投与後、吸収された放射活性は限られた組織中に分布していたことを示す。脳内の放射活性濃縮は全ての時点で定量化の限界未満のレベルであり、これは血液脳関門を越える試験化合物の移動がないことを示唆し得る。組織中の最大濃縮は0.5時間、すなわち第1サンプリング時点で観察された。放射活性の最大濃縮は腎臓および膀胱で観察された。24時間後、全ての組織中の放射活性は検出限界未満に低下していた。
【0180】
これらのデータは、[3H]-バリエジンはラットから非常に迅速に排出されることを示す。得られたデータは、80%の放射活性を腎臓中で回収した(Bichler,Baynes and Thorpe,Biochem J (1993) 296,771-776)、報告されているラットにおけるヒルジンの挙動とも一致する。
【0181】
したがってこれらの試験によって、ビバリルジンなどの他の小分子ペプチド抗トロンビン作用物質と同様に、バリエジンが腎経路によって迅速に排泄されることを確認する。この性質は、バリエジンを、外科手術中の短時間の静脈内抗凝固に適したものにする。間接的トロンビンインヒビターであるヘパリンと異なり、直接的トロンビンインヒビターはビタミンKの使用によって覆すことはできないので、短い半減期を有することは利点である。万が一出血の場合、薬剤が迅速に排出され、限外濾過または透析などの残留薬剤を除去するための他の対策の必要性を低下させるからである。長期の抗凝固が必要とされる場合、持続点滴静注によって薬剤を投与することができるが、中断時には、正常腎機能を仮定して、ほぼ全ての残留薬剤は1〜2時間で除去される。典型的に約30分続く冠状動脈形成術などの短時間の手順に関して、単回ボーラス注射は十分に網羅するはずであり、逆転処置の必要なく排出されるはずである。
【0182】
参考文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子にトロンビンを曝露することによる、トロンビン活性の阻害方法。
【請求項2】
前記1または複数の分子が、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位のすべてと相互作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1または複数の分子が、トロンビン活性部位の前に、エキソサイトI部位およびエキソサイトII部位と相互作用する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1または複数の分子が、アミド分解アッセイで評価した場合に、10nM未満、好ましくは9nM未満、8nM未満、7nM未満、6nM未満、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満または1nM未満のIC50を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1または複数の分子が、アミド分解アッセイで評価した場合に、200pM未満、好ましくは150pM未満、100pM未満、50pM未満、30pM未満、25pM未満、20pM未満、15pM未満のKiを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1または複数の分子が特異的にトロンビンを阻害する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1または複数の分子がランダムコイル構造を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子が、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジン(variegin)タンパク質または該バリエジンタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記バリエジンタンパク質の機能的等価物が、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDHS(配列番号4)を有する変異体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記バリエジンタンパク質の機能的等価物が、以下のアミノ酸配列:
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3);
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5);
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6);
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7);
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8);
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20);
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9);
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10);
SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号11);
SDQADRAQPKLHRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号12);
SDQSGRAQPKLPRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号13);
SDQGDVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号14);および
SDQADVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号15)
より選択されるアミノ酸配列を有するバリエジンタンパク質の断片またはバリエジンタンパクの変異体の断片である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
in vitroで実施される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
in vivoで実施される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
血液凝固障害に罹患した患者を治療するために、または患者が血液凝固障害を発症するのを予防するために行なわれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
異常なトロンビン蓄積に関連する疾患を診断するために行なわれる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
悪性疾患または悪性疾患に関連する状態に罹患した患者を治療するために行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジンタンパク質またはその機能的等価物と、トロンビンとの複合体。
【請求項17】
(a)アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を有するバリエジンタンパク質の切断産物または該バリエジンタンパク質の機能的等価物の切断産物の切断産物と;(b)トロンビンとの複合体。
【請求項18】
バリエジン配列の断片を含み、かつ以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25:活性部位およびエキソサイトI)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18:エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPKMHKT(エキソサイトII結合および活性部位)(配列番号17)
SDQGDVA(エキソサイトII)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2;MH22)(配列番号3)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
またはそれらの機能的等価物
より選択されるアミノ酸配列を含む、トロンビン・インヒビター。
【請求項19】
以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18)(配列番号16)
SDQGDVA(エキソサイトII)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2)(配列番号3)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
より選択されるアミノ酸配列からなるか、またはその機能的等価物である、請求項18に記載のトロンビン・インヒビター。
【請求項20】
機能的等価物であり、かつ以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)または
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5)
より選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、請求項18または19に記載のトロンビン・インヒビター。
【請求項21】
トロンビンと、請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターとの複合体。
【請求項22】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターをコードする核酸分子。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項24】
請求項22に記載の核酸分子または請求項23に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項25】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターの調製方法であって、前記タンパク質が発現される条件下で請求項24に記載の宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む、上記方法。
【請求項26】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターまたは請求項22に記載の核酸分子および製薬上許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項27】
血液凝固障害に罹患した患者の治療方法または患者が血液凝固障害を発症するのを予防する方法であって、該患者に治療上有効量または予防上有効量の請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップを含む、上記方法。
【請求項28】
トロンビン蓄積により引き起こされる疾患または状態の診断方法であって、患者または患者から単離した組織に請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップ、およびトロンビンに結合した該トロンビン・インヒビターの存在を検出するステップを含み、トロンビンに結合した該トロンビン・インヒビターの検出が該疾患または状態を示すものである、上記方法。
【請求項29】
前記疾患または状態が、フィブリン血栓または血小板血栓である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
悪性疾患または悪性疾患に関連する状態の治療方法であって、それを必要とする患者に治療上有効量の請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップを含む、上記方法。
【請求項1】
トロンビンのエキソサイトIおよび活性部位と相互作用する1または複数の分子にトロンビンを曝露することによる、トロンビン活性の阻害方法。
【請求項2】
前記1または複数の分子が、トロンビンのエキソサイトI、エキソサイトIIおよび活性部位のすべてと相互作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1または複数の分子が、トロンビン活性部位の前に、エキソサイトI部位およびエキソサイトII部位と相互作用する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1または複数の分子が、アミド分解アッセイで評価した場合に、10nM未満、好ましくは9nM未満、8nM未満、7nM未満、6nM未満、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満または1nM未満のIC50を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1または複数の分子が、アミド分解アッセイで評価した場合に、200pM未満、好ましくは150pM未満、100pM未満、50pM未満、30pM未満、25pM未満、20pM未満、15pM未満のKiを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1または複数の分子が特異的にトロンビンを阻害する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1または複数の分子がランダムコイル構造を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子が、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジン(variegin)タンパク質または該バリエジンタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記バリエジンタンパク質の機能的等価物が、アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDHS(配列番号4)を有する変異体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記バリエジンタンパク質の機能的等価物が、以下のアミノ酸配列:
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(MH22)(配列番号3);
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5);
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6);
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7);
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8);
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20);
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9);
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10);
SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号11);
SDQADRAQPKLHRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号12);
SDQSGRAQPKLPRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号13);
SDQGDVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号14);および
SDQADVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号15)
より選択されるアミノ酸配列を有するバリエジンタンパク質の断片またはバリエジンタンパクの変異体の断片である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
in vitroで実施される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
in vivoで実施される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
血液凝固障害に罹患した患者を治療するために、または患者が血液凝固障害を発症するのを予防するために行なわれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
異常なトロンビン蓄積に関連する疾患を診断するために行なわれる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
悪性疾患または悪性疾患に関連する状態に罹患した患者を治療するために行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
アミノ酸配列SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号1)を有するバリエジンタンパク質またはその機能的等価物と、トロンビンとの複合体。
【請求項17】
(a)アミノ酸配列SDQGDVAEPK(配列番号2)およびMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(配列番号3)を有するバリエジンタンパク質の切断産物または該バリエジンタンパク質の機能的等価物の切断産物の切断産物と;(b)トロンビンとの複合体。
【請求項18】
バリエジン配列の断片を含み、かつ以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25:活性部位およびエキソサイトI)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18:エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPKMHKT(エキソサイトII結合および活性部位)(配列番号17)
SDQGDVA(エキソサイトII)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2;MH22)(配列番号3)
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号8)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
またはそれらの機能的等価物
より選択されるアミノ酸配列を含む、トロンビン・インヒビター。
【請求項19】
以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号6)
APPFDFEAIPEEYLDDES(AP18)(配列番号16)
SDQGDVA(エキソサイトII)(配列番号18)
EPKMHKT(活性部位)(配列番号19)
APPFDFEAIPEEYLDDES(エキソサイトI)(配列番号16)
SDQGDVAEPK(切断産物1)(配列番号2)
MHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(切断産物2)(配列番号3)
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH18)(配列番号20)
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号9)
より選択されるアミノ酸配列からなるか、またはその機能的等価物である、請求項18に記載のトロンビン・インヒビター。
【請求項20】
機能的等価物であり、かつ以下のアミノ酸配列:
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号7)
DVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24K10R)(配列番号10)または
MHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(MH22A22E)(配列番号5)
より選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、請求項18または19に記載のトロンビン・インヒビター。
【請求項21】
トロンビンと、請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターとの複合体。
【請求項22】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターをコードする核酸分子。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項24】
請求項22に記載の核酸分子または請求項23に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項25】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターの調製方法であって、前記タンパク質が発現される条件下で請求項24に記載の宿主細胞を培養するステップ、およびそのようにして産生されたタンパク質を回収するステップを含む、上記方法。
【請求項26】
請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターまたは請求項22に記載の核酸分子および製薬上許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項27】
血液凝固障害に罹患した患者の治療方法または患者が血液凝固障害を発症するのを予防する方法であって、該患者に治療上有効量または予防上有効量の請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップを含む、上記方法。
【請求項28】
トロンビン蓄積により引き起こされる疾患または状態の診断方法であって、患者または患者から単離した組織に請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップ、およびトロンビンに結合した該トロンビン・インヒビターの存在を検出するステップを含み、トロンビンに結合した該トロンビン・インヒビターの検出が該疾患または状態を示すものである、上記方法。
【請求項29】
前記疾患または状態が、フィブリン血栓または血小板血栓である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
悪性疾患または悪性疾患に関連する状態の治療方法であって、それを必要とする患者に治療上有効量の請求項18〜20のいずれか1項に記載のトロンビン・インヒビターを投与するステップを含む、上記方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2010−530238(P2010−530238A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512807(P2010−512807)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002109
【国際公開番号】WO2008/155658
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509349071)インスティチュート オブ ズーオロジー オブ ザ スロバック アカデミー オブ サイエンシズ (1)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002109
【国際公開番号】WO2008/155658
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509349071)インスティチュート オブ ズーオロジー オブ ザ スロバック アカデミー オブ サイエンシズ (1)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】
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