説明

トロンビン受容体アンタゴニストを有効成分とするくも膜下出血に伴う血管攣縮の治療剤

【課題】くも膜下出血の治療剤またはくも膜下出血の予後改善剤の提供。
【解決手段】 PAR1阻害作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を含有する、くも膜下出血の治療剤またはくも膜下出血の予後改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くも膜下出血の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は、脳卒中全体の1割を占める疾患であり、発症した患者は、重篤な場合には死に至り、あるいは助かっても重度の障害を生じる場合が多い。
くも膜下出血は、脳を包む薄い膜であるくも膜と脳との間の脳脊髄液腔に出血する疾患である。くも膜下出血は、脳実質中というよりも、脳表面での出血であるため、出血に伴う脳の圧迫や壊死による神経症状よりも、むしろ、大脳血管攣縮(Cerebral vasospasm)による神経症状が問題になる場合が多い。つまり、出血に伴う大脳血管攣縮が、くも膜下出血の予後を決定づける主要な要素の一つであると考えられている。
しかし、これまでに大脳血管攣縮の発生する分子メカニズムは明らかにされておらず、くも膜下出血の治療のためにも、メカニズムの解明が望まれている。
【0003】
ところで、トロンビンは、血液凝固系因子の一つである。また、トロンビンは、プロテアーゼ活性化受容体(PAR1)を活性化し、血管収縮調節作用を示すことが明らかにされている。
【0004】
これまでに、くも膜下出血に伴う大脳血管攣縮とトロンビン及びPAR1との関係について、詳しく調べられたことはなく、また、トロンビン及びPAR1に関係するメカニズムを介したくも膜下出血の治療薬の研究も行われていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、くも膜下出血に伴う大脳血管攣縮に有効な薬剤を提供するものである。
これまでに、くも膜下出血動物モデルにおいてトロンビン活性を阻害するアンチトロンビンIII、及び合成セリンプロテアーゼ阻害剤FUT-175を投与することにより血管攣縮が抑制されることが報告されていた(Tsuratani et.al, Stroke, 34:1497-1500, 2003; Yanamoto et al., Nerosurgery, 30:358-363, 1992)。しかし、トロンビン活性を阻害することにより新たな出血を引き起こす可能性が有るため、トロンビン阻害剤をくも膜下出血の治療剤とすることは難しいと考えられていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、くも膜下出血動物モデルにおいて、脳血管がプロテアーゼ活性化受容体1(PAR1)を介して高収縮性を示すこと、PAR1のアップレギュレーションが引き起こされていること、また、PAR1の脱感作が損なわれていることを見出した。PAR1を介した刺激が、くも膜下出血後の大脳血管攣縮の引金となるのに加え、PAR1自身の誘導及び脱感作の障害を引き起こすことから、PAR1の阻害は、くも膜下出血後の大脳血管攣縮を緩解するのみならず、発生を予防する可能性が有ると考えられた。
【0007】
本発明者は以上の知見に基づいて、PAR1を阻害することにより、新たな出血を引き起こすことなく、くも膜下出血を治療することが可能であることを明らかにし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1) プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤。
(2) プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、プロテアーゼ活性化受容体1の拮抗物質である、(1)記載の治療剤又は改善剤。
(3) プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、2−イミノピロリジン誘導体である、(1)又は(2)記載の治療剤又は改善剤。
【0009】
(4) 2−イミノピロリジン誘導体を含有するくも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(I)
【化13】

〔式(I)中、A環はピロリジン環を;B環はベンゼン環又はピリジン環を;R101、R102及びR103は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシ基を;R5は水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基を;Rは水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルキルオキシカルボニル基を;Y1は単結合又は−CH−を;Y2は単結合又は−CO−を;Ar1は水素原子又は式(II)
【化14】

(式(II)中、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、C1〜C6アルキル基、水酸基、C1〜C6アルコキシ基、モルホリニル基、置換基を有していてもよいピペラジニル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基又は置換基を有していてもよいピロリジニル基を示し、さらに、R11とR12、又はR12とR13とは、互いに結合して5〜8員複素環を形成していてもよい。)で表される基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【0010】
(5) 2−イミノピロリジン誘導体を含有するくも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(III)
【化15】

〔式(III)中、R及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基を;X1は水素原子又はハロゲン原子を;Ar2は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブチル基、モルホリニル基、又は下記式(IV)で表される置換基から選ばれる1又は2以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基を示し、
【化16】

式(IV)中、Wは−CH−又は窒素原子を;Aは−CH−又は単結合を;Rは水素原子又は−OR5aを;X2は−CH−、酸素原子、単結合又はカルボニル基を;Yは単結合又はC〜Cアルキレン基を;Rは水素原子、−OR6a、シアノ基又は−COORを;R5a、R6a及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
(6) 前記R及びRがエトキシ基であり、かつ、前記X1がフッ素原子である(5)記載の治療剤又は改善剤。
【0011】
(7) 2−イミノピロリジン誘導体を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)〜(XI)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかのもの、もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【化17】

【0012】
(8) 2−イミノピロリジン誘導体を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【化18】

【0013】
(9) プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を含有する、抗血管攣縮剤。
(10)プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、プロテアーゼ活性化受容体1の拮抗物質である、(9)記載の抗血管攣縮剤。
(11)プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、2−イミノピロリジン誘導体である、(9)又は(10)記載の抗血管攣縮剤。
【0014】
(12)2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(I)
【化19】

〔式(I)中、A環はピロリジン環を;B環はベンゼン環又はピリジン環を;R101、R102及びR103は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシ基を;R5は水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基を;Rは水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルキルオキシカルボニル基を;Y1は単結合又は−CH−を;Y2は単結合又は−CO−を;Ar1は水素原子又は式(II)
【化20】

(式(II)中、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、C1〜C6アルキル基、水酸基、C1〜C6アルコキシ基、モルホリニル基、置換基を有していてもよいピペラジニル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基又は置換基を有していてもよいピロリジニル基を示し、さらに、R11とR12、又はR12とR13とは、互いに結合して5〜8員複素環を形成していてもよい。)で表される基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【0015】
(13)2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(III)
【化21】

〔式(III)中、R及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基を;X1は水素原子又はハロゲン原子を;Ar2は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブチル基、モルホリニル基、又は下記式(IV)で表される置換基から選ばれる1又は2以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基を示し、
【化22】

式(IV)中、Wは−CH−又は窒素原子を;Aは−CH−又は単結合を;Rは水素原子又は−OR5aを;X2は−CH−、酸素原子、単結合又はカルボニル基を;Yは単結合又はC〜Cアルキレン基を;Rは水素原子、−OR6a、シアノ基又は−COORを;R5a、R6a及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
(14)前記R及びRがエトキシ基であり、かつ、前記X1がフッ素原子である(13)記載の抗血管攣縮剤。
【0016】
(15)2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)〜(XI)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかのもの、もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【化23】

【0017】
(16)2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【化24】

【0018】
(17)プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法又はくも膜下出血の予後改善方法。
(18)(4)〜(8)の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法またはくも膜下出血の予後改善方法。
【0019】
(19)プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、血管攣縮防止方法。
(20)(12)〜(16)の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の有効量を患者に投与することを特徴とする、血管攣縮防止方法。
【0020】
(21)くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤を製造するための、(4)〜(8)の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の使用。
(22)抗血管攣縮剤を製造するための、(12)〜(16)の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の使用。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物を有効成分として含むくも膜下出血の治療剤およびくも膜下出血の予後改善剤並びに抗血管攣縮剤が提供される。くも膜下出血ではPAR1の機能が亢進しており、それにより脳底動脈の高収縮が引き起こされる。すなわち、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物は、脳底動脈の高収縮を抑制することができるため、くも膜下出血の治療剤、および予後改善剤並びに抗血管攣縮剤の有効成分として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
また、本明細書において引用した刊行物は、全体を通して本明細書に組み込むものとする。
【0023】
本発明は、くも膜下出血の患者において、PAR1がアップレギュレートされ、また、PAR1の脱感作が損なわれていることにより、大脳血管攣縮が誘発されるという新たな知見に基づいて、亢進したPAR1の機能を阻害する作用を有する化合物がくも膜下出血の治療に有効であることを見出し、完成されたものである。従って、本発明は、PAR1機能を阻害して、大脳血管攣縮を抑制する作用を有する化合物、すなわちPAR1阻害物質を有効成分として含有するくも膜下出血の治療剤もしくは予後改善剤、又は抗血管攣縮剤を提供するものである。また、本発明は、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法もしくは予後改善方法又は血管攣縮防止方法を提供するものである。血管は好ましくは脳血管、更に好ましくは大脳血管である。
【0024】
1.PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物
(1)PAR1
PAR1は、プロテアーゼ活性化受容体 (protease-activated receptor)の一つであり、その細胞外の特定の領域がプロテアーゼによって分解を受けることにより活性化されるGタンパク質共役型受容体である。PAR1の活性化機構を図1に示す。受容体の活性化は、受容体のN末端側の特定部位がセリンプロテアーゼによって切断されることにより受容体活性化配列が露出し、これがリガンドとなって受容体のリガンド結合部位に結合することにより生ずる。PAR1のアゴニストは、プロテアーゼとして機能するトロンビン、トリプシンが見出されているほか、受容体活性化配列の合成ペプチド、例えばPAR1-AP (PAR1 activating peptide)もアゴニストして機能することが知られている。このPAR1-APの配列には、SFLLRN(ヒト、アミノ酸一文字表記、配列番号1)、TFRIFD(カエル、アミノ酸一文字表記、配列番号2)などが同定されている。
【0025】
(2)PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物
本明細書において、「PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物」(本明細書において、「PAR1阻害物質」ともいう)は、PAR1の活性化を抑制する作用を有する物質であれば特に限定されず、PAR1拮抗物質の他、PAR1脱感作促進物質、PAR1アンチセンスオリゴヌクレオチド、PAR1 siRNA、PAR1中和抗体などを意味する。本発明に使用するPAR1阻害物質の好ましい特徴としては、大脳血管攣縮を抑制する作用を有すること、PAR1に対して高い選択性を有していること、中枢性に作用すること、治療有効量において重篤な副作用、例えば新たな出血の発生を生じないこと、及び即効性があることなどを挙げることができる。また、本発明においてPAR1阻害物質は、その薬学的に許容される塩またはそれらの水和物(詳細は後述する)も含まれる。
【0026】
したがって、本発明において、くも膜下出血の治療剤もしく予後改善剤、又は抗血管攣縮剤として使用するための好ましい化合物には、「PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物」、特にPAR拮抗物質もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「PAR1拮抗物質」、「PAR1の拮抗物質」とは、PAR1に結合し、受容体活性化配列を含むポリペプチド部分とPAR1との結合を阻害する物質(いわゆる、PAR1アンタゴニスト)を意味する。
【0028】
(3)2−イミノピロリジン誘導体
本発明に使用するPAR1拮抗物質として、2−イミノピロリジン誘導体を用いることができる。
【0029】
本発明において、2−イミノピロリジン誘導体には、以下の一般式(I)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物が含まれる。
一般式(I)
【化25】

【0030】
一般式(I)中、
A環はピロリジン環を;
B環はベンゼン環又はピリジン環を;
R101、R102及びR103は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシ基を;
R5は水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基を;
Rは水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルキルオキシカルボニル基を;
Y1は単結合又は-CH2-を;
Y2は単結合又は-CO-を;
Ar1は水素原子又は下記式(II)で表される基を示す。
【化26】

【0031】
ここで、式(II)中、
R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、C1〜C6アルキル基、水酸基、C1〜C6アルコキシ基、モルホリニル基、置換基を有していてもよいピペラジニル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基又は置換基を有していてもよいピロリジニル基を示し、
さらに、R11とR12又はR12とR13とは、互いに結合して5〜8員複素環を形成していてもよい。
【0032】
本発明において、ピペラジニル基、ピペリジニル基又はピロリジニル基の有していてもよい置換基は、限定されるわけではないが、例えば、水酸基、シアノメチル基、メトキシ基、−COCHOH、及び−CH2COOCH2CH3からなる群から選択される1以上を挙げることができる。
【0033】
また、本発明において、2−イミノピロリジン誘導体には、以下の一般式(III)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物が含まれる。
一般式(III)
【化27】

【0034】
一般式(III)中、
及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基を;
1は水素原子又はハロゲン原子を;
Ar2は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブチル基、モルホリニル基、又は下記の式(IV)で表される置換基から選ばれる1又は2以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基を示し、
【化28】

式(IV)中、
Wは−CH−又は窒素原子を;
は−CH−又は単結合を;
は水素原子又は−OR5aを;
2は−CH−、酸素原子、単結合又はカルボニル基を;
Yは単結合又はC〜Cアルキレン基を;
は水素原子、−OR6a、シアノ基又は−COORを;
5a、R6a及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を示す。
【0035】
一般式(III)において、好ましくは、R及びRがエトキシ基であり、かつ、X1がフッ素原子である。
【0036】
本明細書において「ハロゲン原子」は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などの原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子である。
【0037】
本明細書において「C1〜C6アルキル基」は、炭素数が1から6個のアルキル基を示し、好適な基としては例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチル−2−エチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1−プロピルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等の直鎖又は分枝状アルキル基があげられ、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等である。
【0038】
本明細書において「C1〜C4アルキル基」は、炭素数が1から4個のアルキル基を示し、好適な基としては例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖又は分枝状アルキル基があげられ、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等である。
【0039】
本明細書において「C1〜C6アルコキシ基」は、炭素数1から6のアルコキシ基を示し、好適な基としては例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、sec−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、1,1−ジメチルプロピルオキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキソキシ基、1−エチルプロポキシ基、2−エチルプロポキシ基、1−メチルブトキシ基、2−メチルブトキシ基、iso−ヘキソキシ基、1−メチル−2−エチルプロポキシ基、1−エチル−2−メチルプロポキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1−プロピルプロポキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブチルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、2−エチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、ヘキシルオキシ基等があげられる。
【0040】
本明細書において「C1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基」は、C1〜C6アルコキシ基で置換されたC1〜C6アルキル基を意味する。
【0041】
また、本明細書において「置換基を有していてもよい」とは、「置換可能な部位に、任意に組み合わせて1又は複数個の置換基を有してもよい」と同意義である。
【0042】
本明細書において「n−」とはノルマルタイプ又は1級置換基であることを意味し、「sec−」とは2級置換基であることを意味し、「t−(tert−)」とは3級置換基であることを意味し、「i−(iso−)」とはイソタイプの置換基であることを意味する。
【0043】
本発明の(I)および一般式(III)において、好ましくは(V)〜(XI)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物が含まれ、これらの化合物の中から1個、又は複数個を適宜組み合わせて使用することができる。
【0044】
本発明において用いる前記PAR1の機能を阻害する化合物もしくは薬学的に許容させる塩またはそれらの水和物は、当業者であれば公知の方法で製造することができるが、前記の一般式(I)および(III)で表される2−イミノピロリジン誘導体は、国際公開02/085855号パンフレットに記載の方法で製造することができる。
【0045】
一般式(I)および一般式(III)において、好ましい化合物は、式(V)〜(XI)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物であり、より好ましくは式(V)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である。
【化29】

【0046】
式(V)で表される化合物は、本明細書において「E5555」と称する場合もある。
【化30】

【0047】
式(V)〜(XI)で表される2−イミノピロリジン誘導体は、国際公開02/085855号パンフレットに記載の方法で製造することができる。
【0048】
本発明において、2−イミノピロリジン誘導体は、酸又は塩基と塩を形成する場合もある。本発明における当該化合物は、これらの薬学的に許容される塩をも包含する。本明細書において、塩は「薬学的に許容される塩」を意味し、薬学的に許容される塩は、PAR1の機能を阻害する作用を有し、くも膜下出血の治療剤となる本発明化合物と薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等)、無機酸塩(例えば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等)、有機カルボン酸塩(例えば酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(例えばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等)、アミノ酸塩(例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばマグネシウム塩、カルシウム塩等)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
また、本発明において、2−イミノピロリジン誘導体は、置換基の種類によっては不斉炭素を有し、幾何異性体、光学異性体、ジアステレオマーなどの光学異性体が存在しうるが、これら光学異性体も本発明のPAR1の機能を阻害する作用を有する化合物に含まれる。
【0050】
また、本発明において、2−イミノピロリジン誘導体の水和物が存在する場合には、これら水和物も本発明に使用するPAR1の機能を阻害する作用を有する化合物に含まれる。
【0051】
2.くも膜下出血の治療剤及び予後改善剤並びに抗血管攣縮剤
本発明の医薬組成物、すなわち、本発明のくも膜下出血の治療剤及び予後改善剤並び抗血管攣縮剤には、PAR1機能を阻害する作用を有する化合物を含むものである。本発明の治療剤、改善剤および抗血管攣縮剤において、PAR1機能を阻害する作用を有する化合物は、好ましくはPAR1拮抗物質であり、より好ましくは一般式(I)または(III)で表される2−イミノピロリジン誘導体であり、さらに好ましくは式(V)〜(XI)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、最も好ましくは式(V)で表される化合物である。本発明のくも膜下出血の治療剤及び予後改善剤並びに抗血管攣縮剤に含まれるPAR1阻害物質には、その薬学的に許容される塩またはそれらの水和物も含まれる。
【0052】
本発明の医薬組成物に含有されるPAR1阻害物質は、アップレギュレートしたPAR1、又は脱感作機構の損なわれたPAR1の機能を阻害する作用を有する。つまり、本発明の医薬組成物は、くも膜下出血の大脳血管攣縮の改善に有効である。そして、大脳血管攣縮は、くも膜下出血の予後を決定づける因子の一つであるため、PAR1阻害物質を含有する本発明の医薬組成物は、くも膜下出血の治療剤および予後改善剤として、また、抗血管攣縮剤として用いることができる。
【0053】
前記のPAR1阻害物質もしくはその薬学的に許容される塩またはそれらの水和物は、PAR1の機能を阻害する作用を有するため、本発明のくも膜下出血の治療剤もしくは予後改善剤又は抗血管攣縮剤の有効成分として有用である。
【0054】
本明細書において、「抗血管攣縮剤」とは、くも膜下出血に伴う血管の攣縮を予防、抑制、および/または停止させる医薬組成物を意味する。
【0055】
本発明の治療剤及び予後改善剤並びに抗血管攣縮剤には、前記PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくは薬学的に許容される塩又はそれらの水和物をそのまま用いることも、公知の薬学的に許容される担体などを配合して製剤化することも可能である。このような薬学的に許容される担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを挙げることができる。
【0056】
また、本発明の治療剤及び予後改善剤並びに抗血管攣縮剤の投与形態は特に限定されず、上記の剤形に基づいて経口又は非経口的に投与することができる。非経口投与の形態として、例えば静脈内注射、点滴静注、皮下注射、皮内注射、くも膜下腔内注射、又は腹腔内注射などが挙げられる。製剤化の剤形としては、経口的投与形態に用いられる錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤などが、また非経口的投与形態に用いられる坐剤、注射剤、軟膏剤、バップ剤などが挙げられる。
【0057】
経口的投与形態に用いられる経口用製剤を調製する場合には、当該有効成分に賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等とすることができる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ぶどう糖、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、龍脳、桂皮末等が用いられる。これらの錠剤、顆粒剤には糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることは勿論差し支えない。
【0058】
本発明において、注射剤は、必要により主薬に非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール、オリーブ油などの植物油、エタノールなどのアルコール類など)、懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、pH調整剤、緩衝剤などを添加して調製することが可能である。注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合などにより行えばよい。また、注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。貼布剤として経皮吸収により投与する場合には、塩を形成しない、いわゆるフリー体を選択することが好ましい。注射剤は、常法により点滴静注剤、あるいは静脈、皮下、筋肉内注射剤とすることができる。
【0059】
懸濁剤としては、例えば、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどを挙げることができる。
溶解補助剤としては、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マクロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステルなどを挙げることができる。
また安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を、保存剤としては、例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールなどを挙げることができる。
【0060】
経口投与における前記PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効な投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、投与期間、製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、成人(体重60Kg)に1日あたり0.1〜500mg、好ましくは0.5〜200mg、より好ましくは1〜100mgを経口投与することができる。
非経口投与、例えば注射剤における前記PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効な投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、投与期間、製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なるが、当業者であれば適宜設定することができ、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水などの薬学的に許容される担体中に、適当な濃度になるように溶解又は懸濁したものを、処置を必要とする患者に対し、適宜投与することができる。例えば、注射剤の場合、成人(体重60Kg)に1日あたり0.1〜500mg、好ましくは0.5〜200mg、より好ましくは1〜100mgを投与することができる。
【0061】
本発明は、また、前記PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくは薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法及び予後改善方法並びに血管攣縮阻害方法をも提供する。本発明の方法において、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物は、好ましくはPAR1拮抗物質であり、より好ましくは一般式(I)または(III)で表される2−イミノピロリジン誘導体であり、さらに好ましくは式(V)〜(XI)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、最も好ましくは式(V)で表される化合物である。本発明の方法において、PAR1阻害物質には、その薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物も包含される。本発明の方法において、PAR1阻害物質の投与径路および投与方法は特に限定されないが、上記本発明の医薬組成物の記載を参照することができる。
【0062】
さらに、本発明には、くも膜下出血の治療剤もしくは予後改善剤、又は抗血管攣縮剤の製造のための、2−イミノピロリジン誘導体の使用も含まれる。本発明の使用において、2−イミノピロリジン誘導体は、好ましくは一般式(I)または(III)で表される2−イミノピロリジン誘導体であり、より好ましくは式(V)〜(XI)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、最も好ましくは式(V)で表される化合物である。上記の2−イミノピロリジン誘導体には、その薬学的に許容される塩またはそれらの水和物も包含される。
【0063】
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本実施例により本発明は限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
ウサギ2回出血モデルの作製
くも膜下出血のモデル動物として、ウサギ2回出血モデル(rabbit double-hemorrhage model)を作製した。得られたウサギ2回出血モデルを用いて、くも膜下出血(SAH)での血管張力の調整に対するPAR1の役割を明らかにした。
まず、0日目及び2日目の2回に渡り、大槽内に自家動脈血を2.5 mlずつ投与した。以下、本発明書において、この群を「SAH群」ともいう。自家動脈血のかわりに同量の生理食塩水を投与したモデルを対照群とした。7日目にそれぞれの群のウサギを安楽死させ、摘出した脳底動脈から内皮を除去し、リング状標本(500μm in width)を作製した(図2)。本実施例で作製した内皮除去脳底動脈リング標本を用いて、以下の実施例における収縮反応の実験を行った。
【実施例2】
【0065】
高カリウムによる脱分極及びエンドセリン−1により誘導される、内皮除去脳底動脈における収縮
118 mM K+による脱分極刺激、及び100 nMエンドセリン−1(ET-1)によって誘発される、内皮除去脳底動脈における収縮を測定した。エンドセリン−1は血管平滑筋に作用して、血管を収縮させる作用を有する物質である。
結果を図3に示す。縦軸はリング標本の収縮力の大きさを示し、左グラフは118 mM K+刺激時の収縮力の大きさをmgで、右グラフは100 nMエンドセリン−1刺激時の収縮力の大きさを118 mM K+刺激時の収縮力の大きさを100 %としたときの%で示したものである。その結果、SAH群における118 mM K+による脱分極に対する収縮反応、及びエンドセリン−1に対する収縮反応は、対照群におけるものと同様であり、差はなかった。
【実施例3】
【0066】
ウサギ脳底動脈におけるトロンビンに対する収縮反応
対照群とSAH群のウサギ脳底動脈における、トロンビンに対する収縮反応を測定した。118 mM K+による脱分極刺激による収縮反応の後に、脳底動脈リング標本をトロンビンで刺激した。トロンビンは、PAR1の内因性リガンドである。
【0067】
結果を図4に示す。左上及び左下パネルは、118 mM K+による脱分極刺激時の収縮力の大きさを100%としたときの収縮力の経時変化を示すものである。右のグラフは、トロンビン濃度に対する収縮力の大きさを示すものである。対照群において、トロンビン(1 unit/ml)は、収縮を誘導せず、トロンビン(10 units / ml)は、緩やかな一過性の収縮を示したに過ぎなかった(118 mM K+誘導収縮の21.3±1.2 %)(図4)。他方、SAH群において、トロンビンは0.3 units/mlから、著しい持続性の収縮を誘発し、1 unit/mlでの収縮力は73.1±2.8 %であった(図4)。
【実施例4】
【0068】
ウサギ脳底動脈におけるPAR1-APに対する収縮反応
実施例3と同様の実験をトロンビンの代わりにPAR1-AP (PAR1-activating peptide)を用いて行った。
結果を図5に示す。PAR1-AP(10μM)は、SAH群においてのみ、収縮を誘導した(52.6 ± 6.1 %)(図5)。100μMのPAR1-APは、対照群においては一過性の収縮を誘導したが、SAH群においては増大し、かつ持続した収縮を示した。
【実施例5】
【0069】
SAH群における収縮反応の増大に対するヘパリン化自家血液による阻害効果
実施例3及び実施例4で示したように、SAH群において、トロンビン及びPAR1-APによる収縮反応の増大が観察された。この収縮反応の増大に対するヘパリンの影響を明らかにするために、実施例1の方法に従ってヘパリン化した自家血液を2回注射したモデルを用いて実験を行った。ヘパリンは、アンチトロンビンIIIと複合体を形成し血液凝固因子を不活化する抗凝固剤である。
【0070】
結果を図6に示す。ヘパリン化自家血液を注射したモデルでは、トロンビンに対する収縮反応の増大は、有意に減少した(1 unit/mlにおいて41.6 ± 3.0 %)(図6上段「SAH+ヘパリン」)。また、PAR1-APに対する収縮反応の増大も有意に減少した(図6下段「SAH+ヘパリン」)。したがって、トロンビン及びPAR1-APによる高収縮性を誘導するのは、ヘパリンにより不活化される自家血中の血液凝固因子であることが示された。
【実施例6】
【0071】
αトキシン脱膜化脳底動脈における収縮反応
(1)Ca2+濃度の増加及びGTPγSにより誘導させる収縮反応
αトキシンは、細胞膜に透過性を与える物質である。αトキシンで処理して透過性にしたウサギ脳底動脈(以下、「αトキシン脱膜化脳底動脈」ともいう)において、カルシウムイオン濃度の増加に伴う収縮反応、及びGタンパク質を活性化するGTPγSによる収縮反応を測定した。
結果を図7に示す。図7の左パネルは、カルシウムイオン濃度(M)の対数に対する収縮力の大きさを示し、右パネルは10μM GTPγS刺激時の収縮力の大きさ(10μM カルシウムイオン濃度時の収縮力の強さに対する%)を示す。その結果、SAH群のαトキシン脱膜化脳底動脈において、カルシウム濃度の増加に伴う収縮反応も、GTPγS添加に伴う収縮反応も、対照群のαトキシン脱膜化脳底動脈における収縮反応と同様であり、有意な差はなかった。
【0072】
(2)トロンビン及びPAR1-APに対する収縮反応
次に、トロンビン及びPAR1-APに対するαトキシン脱膜化脳底動脈の収縮反応を測定した。
結果を図8に示す。対照群のαトキシン透過脳底動脈において、トロンビン及びPAR1-APはカルシウムイオンによる収縮反応に対して影響しなかったのに対して、SAH群のαトキシン脱膜化脳底動脈において、トロンビンとPAR1-APはともに反応を有意に増大させた。
SAH群では、筋収縮を引き起こすカルシウムイオン、及びGタンパク質を活性化するGTPγSに対する感受性が変化していないのに対し、トロンビン及びPAR1-APに対する感受性が高まっていることが示された。
【実施例7】
【0073】
SAH群におけるPAR1 mRNAのアップレギュレーションの経時変化
1回目の自家血液注射後、3,5,7及び15日目の脳底動脈におけるPAR1のmRNA量を、in situハイブリダイゼーションによって検討した。
脳底動脈を摘出し、凍結標本を作製した。PAR1 mRNAに対するハイブリダイゼーションのプローブは、試験管内転写法を用いてヒトPAR1のcDNAより作製し、ジゴキシゲニンでラベルした。標本をこのプローブで1晩処理した。未結合プローブを洗浄した後、アルカリフォスファターゼを結合させた抗ジゴキシゲニン抗体を作用させた。次いで、ジアミノベンチジンを用いて発色反応を行い、PAR1 mRNAを検出した。発色像を顕微鏡で観察し、得られた画像を解析プログラムにより解析し、発現量を定量した。
【0074】
結果を図9に示す。図9の右下のグラフは、in situハイブリダイゼーションを行った上記の各日におけるmRNA量をプロットしたものである。In situハイブリダイゼーションによって、SAHの脳底動脈におけるPAR1 mRNAがアップレギュレーションしていることが明らかになった。
【実施例8】
【0075】
100μM PAR1-APに対する収縮反応の大きさと持続時間のSAH群における変化
100μM PAR1-APによって誘導される収縮反応の大きさと持続時間を検討した。
結果を図10に示す。100μM PAR1-APによって誘導されるSAH群の収縮は、対照群と比較して、収縮力のピークの大きさ、及び収縮力の持続性において、自家血液注射後5日目で増大し、7日目でさらに増大した。
したがって、SAH群では、PAR1の脱感作機構が阻害されていることが示された。
【実施例9】
【0076】
トロンビンによる非可逆的な収縮
SAH7日目において、100μM PAR1-APにより誘導された収縮反応は、100μM PAR1-APを洗い流して除去することにより終息した(図11左パネル)。その一方、1 unit/mlのトロンビンにより誘導された収縮反応は、洗い流しによっては変化せず、非可逆的な収縮を示した(図11右パネル)。
したがって、PAR1−APによる収縮反応が可逆的であるのに対し、トロンビンによる収縮反応は非可逆的であることが示された。
【実施例10】
【0077】
トロンビンによるウサギ脳底動脈における収縮反応に対するPAR1拮抗物質の効果−1
対照群(擬手術群)、SAH群、及びSAH群にPAR1拮抗物質を共存させた群の、トロンビンに対するウサギ脳底動脈の収縮反応を測定した。刺激は実施例3と同じ方法によって行った。
本実施例では、「擬手術群(sham)」(コントロール家兎)はウサギ脳槽内に生理食塩水3mlを0日目及び2日目に2回注入したものを示し、「SAH群」(くも膜下出血モデル)はウサギ脳槽内に自己血3mlを0日目及び2日目に2回注入したものを示し、「SAH+E5555群」(E5555投与くも膜下出血モデル)はウサギ脳槽内に、600 μg E5555を混入した自己血3mlを0日目及び2日目に2回注入したものを示す。
本実施例に用いたPAR1拮抗物質は、式(V)で表されるE5555である(国際公開第02/085855号パンフレット)。
7日目に脳底動脈を摘出し、118 mM K+及び1 unit/mlトロンビンに対する収縮反応を評価した。
【0078】
結果を図12に示す。図12には、収縮反応の代表的実記録を示す。
図12のAは、上から、擬手術、SAH群、及びSAH+E5555群における脳底動脈のトロンビンに対する収縮反応を示すものである。擬手術群において、1 unit/ml トロンビンは摘出脳底動脈をわずかに収縮させた。SAHにおいては、1 unit/ml トロンビン刺激により大きな収縮反応が認められた。E5555を同時投与したくも膜下出血モデル(SAH+E5555)では、1 unit/ml トロンビンによる収縮はわずかであった。
図12のBは、SAH群及び擬手術群における、トロンビンが引き起こす収縮反応の用量作用曲線を示す。その結果、くも膜下出血モデルの脳底動脈において、トロンビンが引き起こす収縮反応は増強した。
図12のCは、くも膜下出血が引き起こすトロンビン過剰収縮反応に対するE5555の予防作用を示す。擬手術群、SAH群、SAH+E5555群における1 unit/mlトロンビンに対する収縮反応を比較した。結果を、平均値±標準誤差(実験数=3)で示す。その結果、E5555の自己血との同時投与により、くも膜下出血が引き起こすトロンビンに対する反応性亢進が有意に抑制された。
【0079】
この結果は、自家血による高収縮性の誘導及び脱感作の障害にもPAR1が関与し、この高収縮性の誘導及び脱感作の障害がPAR1拮抗物質により抑制されることを示している。PAR1は、出血後の高収縮性の誘導、及び血管攣縮の両方に関与していることが明らかとなった。すなわち、PAR1阻害剤は、くも膜下出血後の大脳血管攣縮を緩解するのみならず、発生を予防する可能性があり、新たな作用機序を有するくも膜下出血治療薬となることが示された。
【実施例11】
【0080】
トロンビンによるウサギ脳底動脈における収縮反応に対するPAR1拮抗物質の効果−2
実施例10と同様に、対照群(擬手術群)、SAH群、及びSAH群にPAR1拮抗物質を共存させた群の、トロンビンに対するウサギ脳底動脈の収縮反応を測定した。
本実施例では、ウサギ脳槽内に、E5555を、それぞれ60 ng、600 ng、6μg、60μg混入した自己血3 mlを0日目及び2日目に2回注射した。
【0081】
収縮反応の代表的実記録を図13に示す。
図13のAは、上からSAH群及びSAH+E5555(6μg)群における脳底動脈のトロンビンに対する収縮反応を示すものである。E5555を自己血と同時投与したくも膜下出血モデル(SAH+E5555)では、SAH群と比較して、1 unit/mlトロンビンによる収縮はわずかであった。
図13のBは、くも膜下出血が引き起こすトロンビン過剰収縮反応に対するE5555の用量依存的な予防作用を示す。擬手術群(対照)、SAH+E5555群における1 unit/mlトロンビンに対する収縮反応を比較した。結果を平均値±標準誤差で示す。その結果、自己血とE5555との同時投与により、くも膜下出血が引き起こすトロンビンに対する反応性亢進がE5555 60 ngから用量依存的に抑制された。特に、SAH+E5050(6μg)群及びSAH+E5050 (60μg)群で、SAH群に対して有意に収縮反応を抑制した。
【0082】
実施例11は、E5555が、くも膜下出血が引き起こすトロンビン過剰収縮反応に対して、実施例10で示した用量よりも、より低用量で予防作用を奏することを示している。
【0083】
以上より、トロンビンはウサギ2回出血モデルにおいて高収縮性の反応を誘導し、この高収縮性反応は、PAR1のアップレギュレーション及び受容体の脱感作の障害によるものであると考えられる。SAHにおいて、PAR1の内因性アゴニストであるトロンビンの活性化は、出血後の血管攣縮の発現においてキーとなる働きを示すと考えられる。
そして、亢進したPAR1による脳底動脈の高収縮性は、PAR1阻害物質によって抑制されたことから、PAR1阻害物質は、くも膜下出血の治療剤及び予後改善剤ならびに抗血管攣縮剤として有用であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物を有効成分として含むくも膜下出血の治療剤およびくも膜下出血の予後改善剤並びに抗血管攣縮剤が提供される。くも膜下出血ではPAR1の機能が亢進しており、それにより脳底動脈の高収縮が引き起こされる。すなわち、PAR1の機能を阻害する作用を有する化合物は、脳底動脈の高収縮を抑制することができるため、くも膜下出血の治療剤、および予後改善剤並びに抗血管攣縮剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、トロンビン及びPAR1-活性化ペプチド(PAR1-AP)によるPAR1の活性化機構を示す図である。
【図2】図2は、ウサギ2回出血モデルの実験手順を示す図である。
【図3】図3は、内皮除去脳底動脈における、高カリウム脱分極誘導収縮及びエンドセリン−1誘導収縮を示す図である。
【図4】図4は、対照群及びSAH群のウサギ脳底動脈におけるトロンビンに対する収縮反応を示す図である。
【図5】図5は、対照群及びSAH群のウサギ脳底動脈におけるPAR1-APに対する収縮反応を示す図である。
【図6】図6は、SAH群における増強収縮作用に対するヘパリン化自家血液の阻害作用を示す図である。
【図7】図7は、αトキシン脱膜化脳底動脈においてカルシウムイオン(Ca2+)濃度の増加及びGTPγSによって誘導される収縮反応を示す図である。
【図8】図8は、対照群及びSAH群におけるαトキシンによる脱膜化脳底動脈におけるトロンビンとPAR1-APに対する収縮反応を示す図である。
【図9】図9は、SAH群におけるPAR1 mRNAのアップレギュレーションの経時変化を示す図である。
【図10】図10は、SAH群における持続性反応に対する100μM PAR1-APの作用を示す図である。
【図11】図11は、SAH群におけるトロンビンによる非可逆的な収縮を示す図である。
【図12】図12は、トロンビンによる収縮反応に対するPAR1拮抗物質の効果を示す図である。
【図13】図13は、トロンビンによる収縮反応に対するPAR1拮抗物質の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤。
【請求項2】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、プロテアーゼ活性化受容体1の拮抗物質である、請求項1記載の治療剤又は改善剤。
【請求項3】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、2−イミノピロリジン誘導体である、請求項1又は2記載の治療剤又は改善剤。
【請求項4】
2−イミノピロリジン誘導体を含有するくも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(I)
【化1】

〔式(I)中、A環はピロリジン環を;B環はベンゼン環又はピリジン環を;R101、R102及びR103は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシ基を;R5は水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基を;Rは水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルキルオキシカルボニル基を;Y1は単結合又は−CH−を;Y2は単結合又は−CO−を;Ar1は水素原子又は式(II)
【化2】

(式(II)中、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、C1〜C6アルキル基、水酸基、C1〜C6アルコキシ基、モルホリニル基、置換基を有していてもよいピペラジニル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基又は置換基を有していてもよいピロリジニル基を示し、さらに、R11とR12、又はR12とR13とは、互いに結合して5〜8員複素環を形成していてもよい。)で表される基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【請求項5】
2−イミノピロリジン誘導体を含有するくも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(III)
【化3】

〔式(III)中、R及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基を;X1は水素原子又はハロゲン原子を;Ar2は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブチル基、モルホリニル基、又は下記式(IV)で表される置換基から選ばれる1又は2以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基を示し、
【化4】

式(IV)中、Wは−CH−又は窒素原子を;Aは−CH−又は単結合を;Rは水素原子又は−OR5aを;X2は−CH−、酸素原子、単結合又はカルボニル基を;Yは単結合又はC〜Cアルキレン基を;Rは水素原子、−OR6a、シアノ基又は−COORを;R5a、R6a及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【請求項6】
前記R及びRがエトキシ基であり、かつ、前記X1がフッ素原子である請求項5記載の治療剤又は改善剤。
【請求項7】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)〜(XI)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかのもの、もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【化5】

【請求項8】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する、くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記治療剤又は改善剤。
【化6】

【請求項9】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物を含有する、抗血管攣縮剤。
【請求項10】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、プロテアーゼ活性化受容体1の拮抗物質である、請求項9記載の抗血管攣縮剤。
【請求項11】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物が、2−イミノピロリジン誘導体である、請求項9又は10記載の抗血管攣縮剤。
【請求項12】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(I)
【化7】

〔式(I)中、A環はピロリジン環を;B環はベンゼン環又はピリジン環を;R101、R102及びR103は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシ基を;R5は水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基を;Rは水素原子、C1〜C6アルキル基又はC1〜C6アルキルオキシカルボニル基を;Y1は単結合又は−CH−を;Y2は単結合又は−CO−を;Ar1は水素原子又は式(II)
【化8】

(式(II)中、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、C1〜C6アルキル基、水酸基、C1〜C6アルコキシ基、モルホリニル基、置換基を有していてもよいピペラジニル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基又は置換基を有していてもよいピロリジニル基を示し、さらに、R11とR12、又はR12とR13とは、互いに結合して5〜8員複素環を形成していてもよい。)で表される基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【請求項13】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、一般式(III)
【化9】

〔式(III)中、R及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基を;X1は水素原子又はハロゲン原子を;Ar2は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブチル基、モルホリニル基、又は下記式(IV)で表される置換基から選ばれる1又は2以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基を示し、
【化10】

式(IV)中、Wは−CH−又は窒素原子を;Aは−CH−又は単結合を;Rは水素原子又は−OR5aを;X2は−CH−、酸素原子、単結合又はカルボニル基を;Yは単結合又はC〜Cアルキレン基を;Rは水素原子、−OR6a、シアノ基又は−COORを;R5a、R6a及びRは、それぞれ独立し、同一又は相異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を示す。〕
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【請求項14】
前記R及びRがエトキシ基であり、かつ、前記X1がフッ素原子である請求項13記載の抗血管攣縮剤。
【請求項15】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)〜(XI)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかのもの、もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【化11】

【請求項16】
2−イミノピロリジン誘導体を含有する抗血管攣縮剤であって、
前記2−イミノピロリジン誘導体が、式(V)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物である、前記抗血管攣縮剤。
【化12】

【請求項17】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法又はくも膜下出血の予後改善方法。
【請求項18】
請求項4〜8の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の有効量を患者に投与することを特徴とする、くも膜下出血の治療方法またはくも膜下出血の予後改善方法。
【請求項19】
プロテアーゼ活性化受容体1の機能を阻害する作用を有する化合物もしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、血管攣縮防止方法。
【請求項20】
請求項12〜16の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の有効量を患者に投与することを特徴とする、血管攣縮防止方法。
【請求項21】
くも膜下出血の治療剤又はくも膜下出血の予後改善剤を製造するための、請求項4〜8の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の使用。
【請求項22】
抗血管攣縮剤を製造するための、請求項12〜16の少なくとも1項に記載の2−イミノピロリジン誘導体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−84440(P2007−84440A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268246(P2005−268246)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】