説明

トンネル、トンネル構築方法、及び覆工コンクリートのひび割れ抑制装置

【課題】トンネル覆工において、地山の変位による覆工コンクリートのひび割れを抑制する技術を提供する。
【解決手段】地山の掘削面に吹付けられるコンクリートからなる吹付けコンクリート部と、前記吹付けコンクリート部の内側から前記地山に向けて挿入され、該地山と該吹付けコンクリート部とを一体化する固定部と、前記吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように設けられる弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有する緩衝部と、前記緩衝部の内側を覆うように設けられる覆工コンクリート部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、トンネル構築方法、及び覆工コンクリートのひび割れ抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの施工技術として、ナトム工法が知られている。ナトム(NATM:New Austrian Tunnelling Method)工法は、近年のトンネルの施工技術における主流となっている技術の一つである。ナトム工法では、地山の掘削面にコンクリートを吹き付け、吹付けたコンクリートの表面から地山に向けてロックボルトを挿入して地山と吹付けたコンクリートとの一体化を図る。一方、トンネルには優れた耐久性が求められ、ナトム工法をベース、若しくは改良した様々な施工技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平6−299793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
コンクリート構造物では、従来より、ひび割れをより少なくするための技術開発が行われている。トンネルにおいても例外ではなく、覆工コンクリートのひび割れをより抑制できる技術の開発が求められている。
【0004】
覆工コンクリートのひび割れの原因としては、トンネルのクラウン部に存在する空隙、コンクリートの締め固め不足、充填圧の不足、養生不足、コンクリートの強度不足、施工不良、外力等が例示される。そして、覆工コンクリートのひび割れを抑制するため、コンクリート材料の品質向上(例えば、膨張材や高性能AE減水剤の使用や非鋼鉄繊維の使用)や養生設備の設置(例えば、湿潤装置の設置)が行われている。一方、トンネルの施工技術として、ナトム工法が知られているが、ナトム工法では、地山からの外力の影響を抑制するため、地山の変位が収束してから覆工コンクリートの打設が行われる。従って、従来、地山の変位による覆工コンクリートへの影響は少ないものと考えられていた。しかしながら、地山の変位は、収束しているだけであり、ゼロであるわけではないことから、覆工後においても多少の変位は発生することが想定される。そして、仮に、地山の変位があるとすると、覆工コンクリートへの影響が懸念される。
【0005】
本発明では、上記した問題に鑑み、トンネル覆工において、地山の変位による覆工コンクリートのひび割れを抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上述した課題を解決するために、地山の掘削面と覆工コンクリートとの間に地山の変位を許容する緩衝部を設けることとした。
【0007】
詳細には、本発明は、地山の掘削面に吹付けられるコンクリートからなる吹付けコンクリート部と、前記吹付けコンクリート部の内側から前記地山に向けて挿入され、該地山と該吹付けコンクリート部とを一体化する固定部と、前記吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように設けられる弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有する緩衝部と、前記緩衝部の内側を覆うように設けられる覆工コンクリート部と、を備える。
【0008】
本発明に係るトンネルは、覆工コンクリートの外側(地山側)に緩衝部が設けられていることを特徴とする。そして、緩衝部は、弾性部材からなり、地山の変位を許容する厚さ
を有している。従って、仮に地山の変位が発生した場合でも、地山の変位によって発生する覆工コンクリートに対する地山からの外力が、緩衝部で許容、換言すると吸収される。その結果、地山が変位した場合における、地山からの外力が緩衝部で許容され、覆工コンクリートのひび割れが抑制される。
【0009】
吹付けコンクリート部は、地山の掘削面に吹付けられたコンクリートによって構成される。吹付けコンクリート部の強度や厚さは、トンネルの規模、形状、又はトンネル内の環境(温度、湿度等)に応じて適宜設計することができる。吹付けコンクリート部には、例えば鋼製の支保工を設けてもよい。固定部は、吹付けコンクリートを地山と一体化するものであり、いわゆるナトム工法で用いられるロックボルトやロックボルトに相当する機能を有する部材によって構成することができる。なお、本発明において、内側とは、トンネルの坑内側を意味する。従って、吹付けコンクリート部の内側とは、換言すると、吹付けコンクリート部の、トンネルの坑内側の面である。一方、吹付けコンクリートの外側面とは、地山側の面である。
【0010】
緩衝部は、弾性部材によって構成され、地山の変位を許容する厚さを有する。地山の変位を許容する厚さとは、換言すると、地山が変位した際に、地山の変位によって発生する地山からの外力を弾性部材からなる緩衝部によって吸収することが可能な厚さである。なお、緩衝部の厚さは、地山からの外力を覆工コンクリートに伝達させない厚さとすることが好ましいが、伝達される地山からの外力を低減できる厚さであってもよい。ここで、ナトム工法では、地山からの外力の影響を低減するため、地山の変位が収束してから覆工コンクリートの打設が行われる。そして、この収束の確認は、例えば、日本道路協会出版の道路トンネル観察・計測指針によれば、「変位速度が1mm/週以下となったことが2回程度確認できたら側定終了。ただし、覆工前に最終変位測定を行い、承諾を得る。」と規定されている。従って、地山の変位を長期で考えた場合にも、地山の変位量は数ミリ程度であると予測される。緩衝部の厚さは、このように予測される地山の変位量に基づいて決定してもよく、また、実験等によって求めるようにしてもよい。
【0011】
覆工コンクリート部は、上記緩衝部の内側、すなわちトンネルの坑内側に設けられる。覆工コンクリート部の強度や厚さは、トンネルの規模、形状、又はトンネル内の環境(温度、湿度等)に応じて適宜設計することができる。
【0012】
ここで、本発明に係るトンネルは、前記緩衝部と前記覆工コンクリートとの間に設けられ、前記地山から排出される水が該覆工コンクリートへ侵入することを抑制するシート状の防水部を更に備えていてもよい。これにより、覆工コンクリートの水による劣化を抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係るトンネルは、前記緩衝部を前記吹付けコンクリート部へ固定する釘状の緩衝部用固定部と、前記緩衝部用固定部の頭部を覆うことで該緩衝部用固定部の頭部が前記覆工コンクリートへ直接接触することを防止する保護部と、を更に備える構成とすることができる。そして、前記緩衝部は、シート状の弾性部材によって構成することができる。
【0014】
上述したように、緩衝部によれば、地山の変位を許容することが可能となり、その結果、覆工コンクリートのひび割れを抑制することができる。緩衝部は、例えば、シート状の弾性部材によって構成することができ、この場合、釘状の緩衝用固定部によって吹付けコンクリートに固定することができる。ここで、釘状の緩衝用固定部は、コンクリートに打ち込む強度が必要とされることから、緩衝用固定部の頭部が覆工コンクリートと接触すると覆工コンクリートが損傷する虞がある。また、仮に地山の変位が起こると、緩衝用固定部の頭部と覆工コンクリート部との接触部分に集中的に地山からの外力が加わることが懸
念される。そこで、本発明に係るトンネルでは、緩衝用固定部による覆工コンクリートのひび割れを抑制するため保護部が設けられている。なお、保護部は、地山の変位を許容する厚さを有していることが好ましい。
【0015】
ここで、本発明は、上述したトンネルを構築するトンネル構築方法としてもよい。具体的には、本発明は、地山を掘削する掘削工程と、前記掘削工程で掘削された地山の掘削面にコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け工程と、前記コンクリート吹付け工程で吹付けられたコンクリートからなる吹付けコンクリート部の内側から前記地山に向けて、該地山と該吹付けコンクリート部とを一体化する固定部を設置する固定部設置工程と、前記固定部設置工程で前記地山と一体化された吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように、弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有する緩衝部を設ける緩衝部設置工程と、前記緩衝部設置工程で設けられた緩衝部の内側を覆うように、覆工コンクリート部を設ける覆工コンクリート打設工程と、を備える。本発明に係るトンネル構築方法によれば、覆工コンクリートのひび割れを抑制することができる。なお、本発明に係るトンネル構築方法は、上述した防水部、緩衝部用固定部及び保護部を設ける工程を更に備えるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明は、上述したトンネルを構成する緩衝部を備える覆工コンクリートのひび割れ抑制装置としてもよい。具体的には、本発明は、覆工コンクリートのひび割れを抑制するひび割れ抑制装置であって、地山の掘削面に吹付けられるコンクリートからなる吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように設けられる弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有するシート状の緩衝部からなる覆工コンクリートのひび割れ抑制装置である。本発明に係る覆工コンクリートのひび割れ抑制装置をトンネルに用いることで、覆工コンクリートのひび割れを抑制することができる。なお、上記覆工コンクリートのひび割れ抑制装置は、上述したシート状の防水部、緩衝部用固定部、保護部を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トンネル覆工において、地山の変位による覆工コンクリートのひび割れを抑制する技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るトンネル、トンネル構築方法、及び覆工コンクリートひび割れ抑制装置の実施形態について説明する。
【0019】
<概要>
まず、実施形態のトンネルの概要について技術背景と共に説明する。トンネル覆工においては耐久性の向上が要求されている。近年、特に要求されているのは、コンクリートのひび割れ対策、充填性(覆工背面の空隙)、コンクリートの締め固め、外観(出来栄え)の向上である。そこで、本発明者は、このような要求を達成するためトンネルの技術開発を日々行い、「地山変位に伴う応力が覆工に作用してひび割れが発生する。」といった一つの仮説を得た。近年、トンネルの施工技術として普及しているナトム工法では、変位がある程度収束してから覆工していることから従来このような仮設を唱える者は存在しなかった。しかしながら、変位がゼロで覆工しているわけではないことから長期変位の影響があることが推測される。そこで、本発明者は、覆工コンクリートの外側に、地山の変位による地山からの外力を吸収する緩衝材を設けることとした。以下、実施形態に係るトンネルについて説明する。
【0020】
<構成>
図1は、実施形態に係るトンネルの断面図を示す。図2は、緩衝部材等を拡大した拡大
断面図を示す。図1、図2に示すように、実施形態に係るトンネルには、吹付けコンクリート2と、ロックボルト3と、緩衝材4と、防水シート5と、覆工コンクリート8と、コンクリートネイル6と、保護部材7が設けられている。
【0021】
吹付けコンクリート2は、地山1の掘削面に吹付けられることで形成され、掘削面を被覆すると共に地山1を支保する。ロックボルト3は、吹付けコンクリート2を貫通して地山1に挿入されている。なお、図面ではロックボルト3の数が、省略して記載されている。ロックボルト3の数は、吹付けコンクリート2と地山1とを確実に一体化できるよう設計する必要がある。また、吹付けコンクリート2と共に地山1を支保する鋼製の支保工を設けてもよい。
【0022】
緩衝材4は、吹付けコンクリート2の内側に、吹付けコンクリート2を被覆するように設けられている。緩衝材4は、弾性部材によって構成され、地山1の変位を許容する厚さを有している。これにより、地山1が変位した際に、地山1の変位によって発生する外力を緩衝材4が吸収するので、発生した地山1からの外力が覆工コンクリート8に伝達されることが抑制される。その結果、覆工コンクリート8のひび割れが抑制される。
【0023】
防水シート5は、緩衝材4の内側面に取り付けられ、地山1から排出される水(主に湧水)が覆工コンクリート8へ侵入することを抑制する。これにより、覆工コンクリート8の水による劣化を抑制することができる。コンクリートネイル6は、本発明の緩衝部用固定部に相当し、緩衝材4及び防水シート5を吹付けコンクリートへ固定する。なお、緩衝材4及び防水シート5は、互いを張り合わせて一体的に形成してもよい。なお、上述した緩衝材4を吹付けコンクリート2に張り付け易い適当な大きさに加工しておき、本発明に係る覆工コンクリートのひび割れ抑制装置としてもよい。また、緩衝材4及び防水シート5とを一体的に形成してもよく、このように一体的に形成されたものは、本発明に係る覆工コンクリートのひび割れ抑制装置に相当する。
【0024】
保護部材7は、コンクリートネイル6の頭部を保護する。コンクリートネイル6の頭部が覆工コンクリート8と接触すると覆工コンクリート8が損傷する虞がある。また、仮に地山1の変位が起こると、コンクリートネイル6の頭部と覆工コンクリート8との接触部分に集中的に外力が加わることが懸念される。保護部材7は、このようなコンクリートネイル6の頭部が覆工コンクリート8に接触することで起こりうる弊害を防止する。なお、保護部材7は、弾性部材からなり、地山1の変位を許容する厚さを有していることが好ましい。
【0025】
覆工コンクリート8は、防水シート5の内側、すなわちトンネルの坑内側に設けられる。覆工コンクリート8の強度や厚さは、トンネルの規模、形状、又はトンネル内の環境(温度、湿度等)に応じて適宜設計することができる。
【0026】
次に、上述した実施形態に係るトンネルの作用・効果について従来のトンネルと比較しながら図面に基づいて説明する。まず、地山変位によってひび割れが発生すると考えられる原理について説明する。図3Aは、クラウン部に空隙が無い場合の、地山変位に伴う応力が覆工に作用してひび割れが発生する概念図を示す。また、図3Bは、クラウン部に空隙がある場合の、地山変位に伴う応力が覆工に作用してひび割れが発生する概念図を示す。P1、P2は、地山変位による外力を示し、P´1、P´2は、抵抗力を示す。抵抗力は、覆工コンクリート8がロックボルトによって地山1と一体化することで得られる力である。ナトム工法では、覆工コンクリート8と地山1とをロックボルトによって一体化し、地山1を支保する。従って、地山1からの外力と覆工コンクリート8による抵抗力とのバランスが崩れる、すなわち、地山変位により地山1からの外力が発生すると、外力が抵抗力を上回り、外力と抵抗力との差分が引張応力として覆工コンクリートに作用し、覆工コン
クリートのひび割れを引き起こすものと考えられる。なお、図3Aに示すようなクラウン部に空隙が無い場合には、ひび割れが一箇所のみ発生しているのに対し、図3Bに示すようなクラウン部に空隙がある場合には、ひび割れが三箇所発生している。これは、クラウン部に空隙が存在することで、抵抗力P´2が、抵抗力P´1よりも小さくなるからである。すなわち、外力(P1又はP2)と抵抗力(P´1又はP´2)との差は、引張応力に相当すると考えられ、クラウン部に空隙が存在すると、抵抗力が小さくなることから、引張応力が増加し、その結果ひび割れが発生しやすくなる。従って、従来より、クラウン部の空隙をなくすための技術開発が進められていた。なお、図3A、図3Bに示すトンネルは、従来のトンネルをモデルとしたものであり、覆工コンクリート8の外側に、防水シート5が設けられている。この防水シート5は、防水膜(厚さ0.8mm)と防水膜の破損を防止するための保護膜(3mm)とを貼り合わせることで形成されている。
【0027】
次に、実施形態に係るトンネルにおいてひび割れが抑制される原理について図面に基づいて説明する。ここで、図4Aは、覆工コンクリート打設時における外力と抵抗力との関係を示す。また、図4Bは、地山変位による外力発生時における外力と抵抗力との関係を示す。図4A、図4Bに示す態様では、防水シート5の外側に厚さ10mmの緩衝材4が設けられている。防水シート5は、図3A、図3Bに示す従来のトンネルに用いられている3.8mmの厚さを有している。図4Aに示すように、覆工コンクリートの打設時では、地山変位による外力はゼロであり、数1に示す関係が成り立つ。なお、この場合のP´は、覆工コンクリート圧力、充填圧(半流動体)が相当する。従来の実績より、抵抗力(コンクリート圧力、充填圧力)は、5t/m2程度である。
P´>P=0・・・数1
【0028】
覆工コンクリートの打設後において、仮に地山変位が発生すると地山変位による外力の影響により覆工コンクリート8にひび割れが発生する(図3A、図3B参照。)図4Bに示す態様では、緩衝材4が設けられることで、地山変位量が緩衝材4で吸収され、覆工コンクリート8のひび割れ発生が抑制される。すなわち、仮に地山の変位量が5mmであっても、10mmの厚さを有する緩衝材4を設けることで、緩衝材4によって外力が吸収される。例えば、緩衝材4の厚さが10mmから7mmに変化し、防水シート5の厚さが3.8mmから1.8mmに変化するものと予測される。従って、この緩衝材4及び防水シート5の厚さの減少分が地山の変位量5mmに相当する。以上より、地山変位が発生した場合、数2に示す関係が成り立つ。なお、この場合のP´は、外力、自重に対する抵抗力(固体)が相当する。
P>P´<ひび割れ抵抗力(ftk:引張強度)・・・数2
【0029】
<トンネル構築方法>
次に、上述した実施形態に係るトンネルの構築方法について説明する。図5は、実施形態に係るトンネル構築手順を示す。なお、本実施形態に係るトンネル構築方法は、ナトム工法に好適に用いることができる。ステップS01では、掘削が行われる。掘削方法には、従来より行われている、爆薬を用いる発破掘削方式、自由断面掘削機等による機械掘削方式等が例示される。掘削が完了すると、ステップS02へ進む。
【0030】
ステップS02では、掘削面にコンクリートが吹付けられる。これにより、吹付けコンクリート2が形成される。続いてステップS03では、ロックボルト3が設置される。具体的には、吹付けコンクリート2に複数の孔があけられ、この孔にロックボルト3が打ち込まれる。これにより、地山1と吹付けコンクリート2とがロックボルト3によって一体化される。ロックボルト3の打ち込みが完了するとステップS04へ進む。
【0031】
ステップS04では、緩衝材4及び防水シート5が取り付けられる。本実施形態では、まず、緩衝材4がコンクリートネイル6によって取り付けられ、緩衝材4を覆うように防
水シート5がコンクリートネイル6により取り付けられる。なお、緩衝材4と防水シート5は、一体的に成形されているものを用いてもよい。緩衝材4及び防水シート5が取り付けられることで、地山1からの外力を吸収し、かつ、地山1からの水が覆工コンクリートへ侵入することを抑制することができる。
【0032】
ここで、緩衝材4の取り付け手順及び防水シート5の取り付け手順について図面に基づいてより詳細に説明する。図6は、緩衝材4を吹付けコンクリート2に取り付けた状態の断面図を示す。また、図7は、緩衝材4を吹付けコンクリート2に取り付けた状態の正面図を示す。本態様では、隣接する緩衝材4の端部を100mmから200mmラップさせ、このラップした部分を帯鉄21で押さえ、帯鉄21及び緩衝材4にコンクリートネイル6を貫通させることで、緩衝材4を吹付けコンクリート2に固定している。更に、コンクリートネイル6の頭部を覆うように、ブチルゴムからなる保護部材7が設けられている。保護部材7は、50mm四方、厚さが10mmである。保護部材7の厚さは、地山変位量を考慮して設計されるが、本態様では、緩衝材4の厚さに合わせて設計されている。
【0033】
図8は、防水シート5を吹付けコンクリート2に取り付けた状態の断面図を示す。また、図9は、防水シート5を吹付けコンクリート2に取り付けた状態の正面図を示す。本態様では、防水シート5を取り付ける場合にも、防水シート5の端部を50mmから100mmラップさせ、このラップした部分を帯鉄21で押さえ、帯鉄21、緩衝材4及び防水シート5にコンクリートネイル6を貫通させることで、防水シート5を吹付けコンクリート2に固定している。更に、コンクリートネイル6の頭部を覆うように、ブチルゴムからなる保護部材7が設けられている。保護部材7は、同じく、50mm四方、厚さが10mmである。保護部材7の厚さは、地山変位量を考慮して設計されるが、本態様では、緩衝材4の厚さに合わせて設計されている。
【0034】
図10は、ロックボルト3の頭部の拡大断面図を示す。本態様では、ロックボルト3の頭部が露出しないよう、ロックボルト3を取り付けた後、ロックボルト3の頭部を被覆するように更に保護用コンクリート22を吹付けてもよい。これにより、ロックボルト3の頭部が直接緩衝材4と接することが防止される。なお、符号23は、H型の鋼製の支保工を示す。緩衝材4及び防水シート5の取り付けが完了すると次のステップS05へ進む。
【0035】
ステップS05では、覆工コンクリート8が打設される。具体的には、防水シート5の内側面を被覆するように覆工コンクリート用のコンクリートが打設され、トンネル坑内の壁面が形成される。
【0036】
なお、上述した以外の施工方法については、従来の技術を適宜用いることができる。例えば、クラウン部の締め固めは、高品質トンネル覆工圧保持式天端部締固めシステムによって行うことができる。水平打設は、コンクリート水平圧入打設工法により行うことができる。クラウン部を完全に充填するため、コンクリート充填圧管理システム、コンクリート水平圧入打設工法を採用してもよい。養生には、パラソル30ミスト工法を採用することができる。トンネル貫通後の養生には、隔壁バルーンを用いることができる。打設スパンは、例えば、標準10.5mとすることができる。コンクリート配合は、例えば、現場配合21−15−20、最大骨材粒径=20mmとすることができる。打設スランプは、アーチ肩部までは13cmから14cm、クラウン部は16cmから17cmとすることができる。コンクリートの強度は、標準養生で30N/mm2を目標とすればよい。坑内
湿度は、80%以上であることが好ましく、例えば、路盤散水等で湿度を確保することができる。なお、湧水がある場合には、これを利用して自然環境で確保するようにしてもよい。養生時間(脱枠時間)は、例えば、18時間から20時間(1打設/2日)とすることができる。
【0037】
なお、コンクリート水平圧入打設工法とは、アーチ部に圧入可能な吹上げ口を増設して、クラウン部吹上げ口からの打設量及び打設時間を短くして、コンクリートの充填性を向上する技術である。また、パラソル30ミスと工法とは、軽量パイプの骨組みにシートを張り付けた移動式パラソルを覆工天端に懸架してミスと噴射による湿潤養生を行う技術である。
【0038】
[緩衝材の圧縮試験]
次に、本実施形態に係るトンネルで使用した緩衝材の圧縮量測定試験(以下、圧縮試験という。)について説明する。図11は、圧縮試験の概要を示す。同図に示すように、本圧縮試験は、試験台31上に試験対象である緩衝材4を載置し、荷重をかけて緩衝材4の圧縮量を測定するものである。本圧縮試験では、試験対象として、株式会社田中社製のニードフルマット(APS−10)を用い、厚さ10mmの緩衝材4(試験ケース1)、厚さ5mmの緩衝材4(試験ケース2)を用いた。なお、いずれも、防水シート5を重ねた状態で測定した。防水シート5は、厚さ0.8mmの防水層と厚さ3mmの不織布かなる保護部材によって構成されている。
【0039】
ここで、図12は、試験ケース1における応力―圧縮量曲線のグラフを示す。また、図13は、試験2における応力―圧縮量曲線のグラフを示す。本圧縮試験では、いずれも荷重(載荷応力)を10t/m2まで行った。試験ケース1についてみると、載荷応力10
t/m2において、圧縮量が7.75mmであり、緩衝材4の厚さ10mmを下回ってい
る。従って、仮に地山の変位により載荷応力10t/m2が発生した場合でも、緩衝材4
により地山からの外力を吸収できる。一方、試験ケース2についてみると、載荷応力10t/m2において、圧縮量が6.50mmであり、緩衝材4の厚さ5mmを上回っている
。従って、地山から外力が載荷応力10t/m2程度と仮に予測される場合には、緩衝材
4の厚さを増す必要がある。但し、通常予想される載荷応力は、5t/m2程度と考えら
れる。従って、試験ケース1の緩衝材4であれば、地山からの外力を許容できることは明らかである。また、試験ケース2の緩衝材4の場合、圧縮量が緩衝材4の厚さ5mmを僅かに上回る。しかし、本試験では、防水シート5に保護部材としての不織布(3mm)が設けられていることから、緩衝材4及び防水シート5の双方により、地山の外力を吸収できるものと考えられる。以上より、緩衝材4の厚さは、緩衝材4の圧縮量と予測される地山変位量(外力)に基づいて適宜設計することができる。
【0040】
以上説明した実施形態に係るトンネルは、地山1と覆工コンクリート8との間に緩衝材4が設けられ、この緩衝材4が弾性部材からなり、地山1の変位を許容する厚さを有している。これにより、地山1の変位が発生した場合でも、覆工コンクリート8に対する地山1からの外力が、緩衝材4で吸収される。その結果、地山1が変位した場合における、覆工コンクリート8に対する地山1から外力の影響が低減され、覆工コンクリート8のひび割れを抑制することができる。
【0041】
以上、実施形態に係るトンネル及びトンネルの構築方法について説明したが、本発明にトンネル、トンネルの構築方法及び覆工コンクリートのひび割れ抑制装置はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係るトンネルの断面図を示す。
【図2】緩衝部材等を拡大した拡大断面図を示す。
【図3A】クラウン部に空隙が無い場合の、地山変位に伴う応力が覆工に作用してひび割れが発生する概念図を示す。
【図3B】クラウン部に空隙がある場合の、地山変位に伴う応力が覆工に作用してひび割れが発生する概念図を示す。
【図4A】覆工コンクリート打設時における外力と抵抗力との関係を示す。
【図4B】地山変位による外力発生時における外力と抵抗力との関係を示す。
【図5】実施形態に係るトンネルの構築手順を示す。
【図6】緩衝材を吹付けコンクリートに取り付けた状態の断面図を示す。
【図7】緩衝材を吹付けコンクリートに取り付けた状態の正面図を示す。
【図8】防水シートを吹付けコンクリートに取り付けた状態の断面図を示す。
【図9】防水シートを吹付けコンクリートに取り付けた状態の正面図を示す。
【図10】ロックボルトの頭部の拡大断面図を示す。
【図11】圧縮試験の概要を示す。
【図12】試験ケース1における応力―圧縮量曲線のグラフを示す。
【図13】試験ケース2における応力―圧縮量曲線のグラフを示す。
【符号の説明】
【0043】
1・・・地山
2・・・吹付けコンクリート
3・・・ロックボルト
4・・・緩衝材
5・・・防水シート
6・・・コンクリートネイル
7・・・保護部材
8・・・覆工コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の掘削面に吹付けられるコンクリートからなる吹付けコンクリート部と、
前記吹付けコンクリート部の内側から前記地山に向けて挿入され、該地山と該吹付けコンクリート部とを一体化する固定部と、
前記吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように設けられる弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有する緩衝部と、
前記緩衝部の内側を覆うように設けられる覆工コンクリート部と、
を備えるトンネル。
【請求項2】
前記緩衝部と前記覆工コンクリート部との間に設けられ、前記地山から排出される水が該覆工コンクリートへ侵入することを抑制するシート状の防水部を更に備える請求項1に記載のトンネル。
【請求項3】
前記緩衝部は、シート状の弾性部材からなり、
前記緩衝部を前記吹付けコンクリート部へ固定する釘状の緩衝部用固定部と、
前記緩衝部用固定部の頭部を覆うことで該緩衝部用固定部の頭部が前記覆工コンクリートへ直接接触することを防止する保護部と、を更に備える請求項1又は請求項2に記載のトンネル。
【請求項4】
前記保護部は、前記地山の変位を許容する厚さを有する、請求項3に記載のトンネル。
【請求項5】
地山を掘削する掘削工程と、
前記掘削工程で掘削された地山の掘削面にコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け工程と、
前記コンクリート吹付け工程で吹付けられたコンクリートからなる吹付けコンクリート部の内側から前記地山に向けて、該地山と該吹付けコンクリート部とを一体化する固定部を設置する固定部設置工程と、
前記固定部設置工程で前記地山と一体化された吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように、弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有する緩衝部を設ける緩衝部設置工程と、
前記緩衝部設置工程で設けられた緩衝部の内側を覆うように、覆工コンクリート部を設ける覆工コンクリート打設工程と、
を備えるトンネル構築方法。
【請求項6】
覆工コンクリートのひび割れを抑制するひび割れ抑制装置であって、
地山の掘削面に吹付けられるコンクリートからなる吹付けコンクリート部の内側に該コンクリート部を覆うように設けられる弾性部材からなる緩衝部であって、前記地山の変位を許容する厚さを有するシート状の緩衝部からなる覆工コンクリートのひび割れ抑制装置。
【請求項7】
前記緩衝部の内側と面接続され、前記地山から排出される水が該覆工コンクリートへ侵入することを抑制するシート状の防水部を更に備える、請求項6に記載の覆工コンクリートのひび割れ抑制装置。
【請求項8】
前記緩衝部を前記吹付けコンクリート部へ固定する釘状の緩衝部用固定部と、
前記緩衝部用固定部の頭部を覆うことで該緩衝部用固定部の頭部が前記覆工コンクリートへ直接接触することを防止する保護部と、を更に備える請求項6又は請求項7に記載の覆工コンクリートのひび割れ抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−1633(P2010−1633A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160334(P2008−160334)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】