説明

トンネルの構築工法

【課題】地下水位が高く、被圧地下水位以下でもきわめて効率的かつ安全にトンネルを掘進できるトンネルの構築工法を提供する。
【解決手段】トンネル2内から切羽前方の地盤中にボーリングを行なって切羽前方の地盤の安定確認を行なう工程と、前記トンネル2内から前記切羽前方の地盤中に注入材を注入することによって前記切羽前方の地盤の地盤改良を行う工程と、前記切羽を掘削してトンネル2を掘進しつつ掘進したトンネル2の地山を覆工する工程を交互に繰り返し行なう。施工済みの地盤改良部をカバーロック (土留め壁)としてボーリングによる地盤の安定確認、注入材の注入および切羽の掘削を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネルの構築工法に関し、特に被圧地下水位以下でトンネルをきわめて効率的かつ安全に構築することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、開放型推進工法は推進管の先端に刃口を設置し、刃口内で手掘り、あるいはバックホウ等を装備した機械掘りによって切り刃を掘削しつつ、後方の元押しジャッキで推進管を地中に推し進めて埋設することによりトンネルを構築する方法である。
【0003】
開放型推進工法は径が比較的小さく、距離の比較的短いトンネルを構築する場合は密閉型の推進工法やシールド工法に比べて経済的であり、主としてガス、電気、上下水道など、日常の生活に欠かせないライフラインを収容する共同溝や道路用トンネル等の構築に利用されている。
【0004】
ところで、開放型推進工法によってトンネルを構築するに際しては、事前に地盤調査を行って地盤の安定を確認してから工事を開始し、特に地下水位が高く、被圧地下水位以下でトンネルを構築する場合は、あらかじめ注入工法などによって地盤改良を行い、またシルトを含む互層などのように注入材の浸透しにくい地盤では、必要に応じて工事中も随時補足注入を行なうことにより施工の効率化と安全性を図っている。
【0005】
また、例えば特許文献1には、トンネルの内部にパイロットトンネルを先行して掘進し、このパイロットトンネル内から周囲の地山に注入材を注入し、さらに地山に複数のロックボルトを放射状に打ち込んで地山を安定させてからトンネルを掘進する方法が記載されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−4362号公報
【特許文献2】特開2005−20622号公報
【特許文献3】特開昭57−89094号公報
【特許文献4】特開平7−82735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、開放型推進工法における事前の地盤調査や地盤改良は、従来、推進上部の路上または推進管の発進立坑や到達立坑から水平ボーリング等によってトンネルの掘進工とは完全に切り離し、まったく別工程で行なっており、しかも、かなり広い範囲にわたって行なっているため、きわめて非効率的なだけでなく、注入むらや注入材の無駄が生じやすいという問題があった。また、これらのことが原因で確実な地盤改良ができないばかりでなく不経済な施工をしいられることがあった。
【0008】
また、特許文献1に記載された地盤改良工法は、トンネル本体を掘進する際の準備段階として行われるもので、パイロットトンネルの掘進を目的に行なわれるものではない。また、パイロットトンネルを掘進し、続いて本体のトンネルを掘進するため、効率が悪く、工期の長期化が免れないものであった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に地下水位が高く、被圧地下水位以下でもきわめて効率的かつ安全にトンネルを掘進できるトンネルの構築工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のトンネルの構築工法は、トンネル内から切羽前方にボーリングを行なって切羽前方の地盤の安定確認を行なう工程と、前記トンネル内から切羽前方の地盤中に注入材を注入することによって前記切羽前方の地盤の地盤改良を行う工程と、前記地盤改良部を掘進しつつ掘進したとトンネルの地山を覆工する工程を交互に繰り返し行なうことによりトンネルを構築することを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、地盤の安定確認と地盤改良をトンネルの掘進に完全に取り込み、これら三つの工程を一連の工程として交互に繰り返し連続して行うことにより、トンネルをきわめて効率的に掘進できるようにしたものであり、開放型推進工法によるトンネルの構築に限らず、比較的安定した地山の場合には開放型シールド工法によるトンネルの構築にも適用することができる。
【0012】
なお、切羽の掘削は手掘り、あるいはバックホウやブームカッタ等の装備を利用した機械掘りのいずれによっても行なうことができる。また、ボーリングに用いるドリルは特に限定されるものではないが、狭いトンネル内での作業を強いられるため、小型で取り扱い容易なハンドドリルやミゼットドリル等が適している。
【0013】
さらに、切羽前方の地盤の地盤改良には、在来の薬液注入工法を用いることができる。また、地盤の安定確認の方法は、特に限定されるものではないが、例えばボーリング孔からの出水量などを参酌して行い、出水量が基準量を超える場合に地盤改良を行い、基準量以下の場合は特に地盤改良を行わないようにしてもよい。
【0014】
請求項2記載のトンネルの構築工法は、請求項1記載のトンネルの構築工法において、施工済みの地盤改良部をカバーロック(土留め壁)として掘進することを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、施工済みの地盤改良部をカバーロック(土留め壁)として切羽前方のボーリングによる地盤の安定確認、切羽の掘削を行なうので、これらの作業中に切羽がトンネル内側に崩壊するといった不測の事態を未然に防止することができるため、きわめて効率的かつ安全にトンネルの構築を行なうことができる。
【0016】
請求項3記載のトンネルの構築工法は、請求項1または2記載のトンネル構築工法において、切羽前方の地盤の安定確認と地盤改良は、トンネルの円周方向に放射状に行うことを特徴とするものである。
【0017】
この場合、地盤の安定確認と地盤改良域は、トンネルの円周方向にその全周にわたって行なってもよく、また円周方向の一部分について部分的に行なってもよい。
【0018】
請求項4記載のトンネルの構築工法は、請求項1〜3のいずれかに記載のトンネル構築工法において、ハンドドリルまたはミゼットドリルを用いてボーリングを行なうことを特徴とするものである。
【0019】
ボーリングに用いるドリルは特に限定されるものではないが、狭いトンネル内での作業を強いられるため、特にハンドドリルやミゼットドリル等が適している。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、地盤の安定確認と地盤改良をトンネルの掘進に完全に取り込み、これら三つの工程を交互に連続して行うことにより、トンネルを効率的にかつ安全に掘進することができる。
【0021】
また、施工済みの地盤改良部をカバーロック(土留め壁)として切羽前方のボーリングによる地盤の安定確認、切羽の掘削を行なうので、きわめて効率的かつ安全にトンネルの構築を行なうことができる。
【0022】
さらに、地盤の安定確認と地盤改良は、切羽前方のごく必要な部分についてのみ行なうので、作業工程および注入材等に無駄がなく、きわめて合理的かつ経済的に施工を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1〜図9は、本発明に係るトンネルの構築工法の一実施形態を示し、以下その施工手順について説明する。
【0024】
(1) 最初に、図1および図8に図示するように、発進立坑1内にトンネル2を掘進するための刃口3と、掘進したトンネル2の地山を覆工するためのセグメントリング4、そしてこれらを地中に推進させるための推進設備(元押しジャッキ等)5を設置する。
【0025】
セグメントリング4は最初の2リング程度を設置する。なお、1リングはトンネル2の鉛直断面内にトンネル2の円周方向にリング状に組み立てられた複数のセグメントピースからなる一組のセグメンリングを意味する。
【0026】
また、発進立坑1の周辺地盤のうちの発進部を一定範囲(厚)にわたって地盤改良する(以下「地盤改良部A1」という)。地盤改良部A1の地盤改良は注入工法などの在来工法によって地上から行い、地盤の状況にもよるが推進方向に3リング程度の範囲を行う。
【0027】
(2) 次に、発進立坑1の土留め壁1aのその一部を壊して(鏡切り)刃口3を土留め壁1a内に貫入させる。そしてその後、刃口3内に山留め壁6を仮設する。この場合の山留め壁6は刃口3内に露出する地盤改良部A1の切羽が発進立坑1内側に崩壊するのを防止するための仮設壁であり、矢板を積層する等の方法により仮設することができる。
【0028】
(3) 次に、図2に図示するように、地盤改良部A1より前方の地盤中にボーリングを行なうことにより地盤改良部A1より前方の地盤に対して地盤の安定確認を行なう。
【0029】
ボーリングを行なうに際しては、トンネル内にボーリングを行なうためのドリル7をセットする。ドリル7はトンネル2の中心軸上にセットする。
【0030】
そして、山留め壁6にあらかじめ形成しておいた貫通孔(図省略)にドリル7を貫通させ、前方の地盤改良部A1、さらにその先の地盤中までドリル7を貫入して地盤の安定確認を行なう。
【0031】
この場合の地盤の安定確認は地盤の性状にもよるが、概ねトンネル2の掘進方向に1〜3リング程度の範囲内をトンネル2の直径方向にトンネル2の外径の1.5倍程度の範囲について行う。
【0032】
また、地盤の安定確認は図9に図示するようにトンネル2の全周について放射状に行なうが、トンネル2の円周方向に一定範囲にわたって放射状に行なってもよい。
【0033】
なお、地盤の安定確認の方法は、例えばボーリング孔からの出水量などを参酌し、出水量が基準量を超える場合に地盤改良を行い、基準量以下の場合は特に地盤改良を行わないようにしてもよい。
【0034】
また、ボーリングに用いるドリル7は特に限定されるものではないが、狭いトンネル2内での作業を強いられるため、小型で取り扱い容易なハンドドリルやミゼットドリル等が適している。
【0035】
(4) 次に、図2に図示するボーリングの結果、ボーリング孔から基準量を越える出水が発生する等して切羽前方の地盤が強度的に不安定と判断されたときは、図3に図示するように地盤改良部A1より前方の地盤について1〜3リングの範囲に対して地盤改良(以下「地盤改良部A2」という)を行う。
【0036】
この場合の地盤改良は、地盤の安定確認を行った際に削孔したボーリング孔を利用し、注入装置(図省略)によって地盤中に注入材を注入することにより行う。注入材には一般の薬液注入材を利用することができる。
【0037】
なお、地盤改良は、図9に図示するようにトンネル2の全周について放射状に行なうが、一部分に対して、例えば出水が発生した場所に対してのみ部分的に行なってもよい。また、水平ボーリング等によって事前に地盤全体に対して地盤改良が行われている場合、この注入は補足注入となる。
【0038】
また、ボーリングの結果、出水もなく、地盤が比較的安全であると判断されたときは、地盤改良を行わずに切羽の掘削にとりかかればよい。
【0039】
(5) 次に、図3に図示するように、発進立坑1の土留め壁1aより先の地盤改良部A1の切羽を手掘り、またはバックホウやブームカッタ等を装備した機械掘りによって掘進方向に1〜2リング程度の範囲を掘削する。また、切羽の掘削と並行して推進設備5によって刃口3とセグメントリング4を地盤改良部A1内に推し進めてトンネル2の地山をセグメントリング4によって覆工する。
【0040】
(6) こうして、1〜2リング程度掘進したら次に、図4に図示するように切羽の掘削を一時中断し、切羽前方の地盤中にボーリングを行なうことにより地盤改良部A2より前方の地盤に対して地盤の安定確認を行なう。
【0041】
ボーリングを行なうに際しては、ドリル7の位置を切羽側に移動し、山留め壁6にあらかじめ形成しておいた貫通孔(図省略)にドリル7を貫通させ、切羽前方の地盤改良部A1,A2、さらにその先の地盤中までドリル7を貫入する。そして、地盤改良部A1およびA2より先の地盤に対して、(3)で説明した要領で1〜3リングの範囲について地盤の安定確認を行なう。
【0042】
ボーリングの結果、地盤改良が必要なときは、地盤改良部A1およびA2より先の地盤に対して、(4)で説明した要領で地盤改良を行う(以下「地盤改良部A3」という)。
【0043】
また、地盤の安定確認および地盤改良と並行して発進立坑1内では、元押しジャッキを元に収縮させ、1〜2リング程度のセグメントリングを新たに設置する。
【0044】
(7) 次に、(5)で説明した要領で地盤改良部A1およびA2を掘削し、これと並行して元押しジャッキを作動させて刃口2およびセグメントリング4を推進させて掘削したトンネルの地山をセグメントリング4によって覆工する。
【0045】
以下、同様にして、切羽前方の地盤の安定確認および地盤改良を行なう工程とセグメントリング4の設置、刃口2およびセグメント4を推進させる工程を到達立坑8まで交互に繰り返し行うことによりトンネル2の全長を開放型推進工法によって構築する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、被圧地下水位以下でトンネルをきわめて効率的かつ安全に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】発進立坑内に刃口、セグメントリングおよび推進設備を設置した状態を示す発進立坑の発進部の一部縦断面である。
【図2】切羽前方の地盤中に地盤の安定確認を目的にボーリング行う方法を示す発進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図3】地盤中に刃口およびセグメントリングを推進させる方法を示す推進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図4】切羽前方の地盤中に地盤の安定確認を目的にボーリング行う方法を示す発進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図5】地盤中に刃口およびセグメントリングを推進させる方法を示す推進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図6】切羽前方の地盤中に地盤の安定確認を目的にボーリング行う方法を示す発進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図7】地盤中に刃口およびセグメントリングを推進させる方法を示す推進立坑の発進部の一部縦断面図である。
【図8】本工法によって構築するトンネルの全体を示す平面図である。
【図9】地盤改良部を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 発進立坑
2 トンネル
3 刃口
4 セグメントリング
5 推進設備(元押しジャッキ等)
6 山留め壁
7 ドリル
8 到達立坑
A1 地盤改良部
A2 地盤改良部
A3 地盤改良部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内から切羽前方にボーリングを行なって切羽前方の地盤の安定確認を行なう工程と、前記トンネル内から前記切羽前方の地盤中に注入材を注入することによって前記切羽前方の地盤の地盤改良を行う工程と、前記切羽を掘削してトンネルを掘進しつつ掘進したトンネルの地山を覆工する工程を交互に繰り返し行なうことによりトンネルを構築することを特徴とするトンネルの構築工法。
【請求項2】
施工済みの地盤改良部をカバーロックとしてボーリングによる地盤の安定確認、注入材の注入および切羽の掘削を行なうことを特徴とする請求項1記載のトンネルの構築工法。
【請求項3】
切羽前方の地盤の安定確認と地盤改良を、トンネルの円周方向に放射状に行うことを特徴とする請求1または2項記載のトンネルの構築工法。
【請求項4】
ハンドドリルまたはミゼットドリルを用いてボーリングを行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトンネルの構築工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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