説明

トンネルの補修工法およびトンネル補修用覆工板

【課題】蝶番で一体化した補修パネルによるトンネル内面の補修において、トンネル内施工位置で補修パネルを設置済みパネルにスムーズに隙間無く接合し、ピース間・リング間のパネル相互に目違い・段違いを発生させることなく設置でき、トンネル内面の完全な補修を効率的・短時間・低コストでできるトンネル補修工法・補修用覆工板を提供する。
【解決手段】覆工板を4分割してプレキャスト製の天端パネル10と側壁パネル11と底板パネル12から構成し、天端パネル10に側壁パネル11を蝶番13で接続してヒンジ構造のアーチ状パネルとし、トンネル内の施工位置でアーチ状パネルを開いて天端パネルと側壁パネルを接合端面の埋設ピン等で段差無く接合し、アーチ状パネルを設置済みパネルに押付け、接合端面の調芯ピン等で段差無く接合し、底板パネル12を設置済みパネルに押し付け、接合端面の調芯ピン等で段差無く接合し、底板パネル12の両端部を側壁パネル11に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内面の覆工コンクリート等の補修に適用されるトンネルの補修工法およびトンネル補修用覆工板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
老朽化が進んだトンネル内面を補修する方法として、例えばプレキャストコンクリート板や鋼板からなる覆工板をトンネル内面に添え付け、当該覆工板とトンネル内面との間に裏込めを行う方法(例えば、特許文献1〜3参照)、スライドフォームを用いて現場打ちコンとリートによってトンネル内面を覆工(コンクリートライニング)する方法などが知られている。いずれの補修工法においても、工事期間中はトンネルを使用できないため、工期短縮による工費の縮減に努めている。
【0003】
しかし、覆工板を用いた補修工法の場合、クレーンやフォークリフト等の重機によって覆工板を一枚一枚トンネル内に搬入し、一枚一枚トンネル内面に添え付け、かつ、ロックボルト等によって固定するか、あるいは、枕壁などを別途施工し、これらを取り付ける必要があり、工期の長期化、工事費の割高感が免れないものであった。
【0004】
また、特に小断面トンネルの補修の場合にあっては、施工機械をトンネル内に搬入できないため、手作業による取り付けを強いられ、そのため部材を小さくする必要があり、工期の長期化が免れない等の課題があった。
【0005】
さらに、既存の内部空間を確保するためには、覆工板の厚さを可能な限り薄くすることを求められるが、そのため覆工板として鋼板を使用すると、塗装などの防錆処理が必要となり、結果的に維持費が嵩む等の課題があった。
【0006】
一方、厚さ5cm程度の薄肉プレキャストコンクリート板を覆工板として使用すると、覆工板同士を繋ぐ金具やボルトが露出するだけでなく、継手部の防錆や防水工に多くの手間がかかる等の課題があった。
【0007】
以上のような課題を解決すべく、本出願人は、トンネル内面を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで補修できる既設トンネルの補修工法および補修台車を出願している(特許文献4)。
【0008】
この特許文献4の発明では、トンネルの両側壁部分に受け部材とこれを覆うコンクリート基礎をそれぞれ設け、トンネルの天井部分と両側の側壁部分からなる覆工用型枠をアーチ状に形成すると共に、天井部分または側壁部分に設けた少なくとも一個の蝶番によりトンネル径方向に開閉可能に形成し、両側壁部分の下端部を受け部材の上に載置し、コンクリート基礎内に埋設して固定している。床部分に床版型枠を設置する場合は、床版型枠の両端部を両側壁部分の下部にそれぞれ接合している。
【0009】
【特許文献1】特開2003−227296号公報
【特許文献2】特開2001−227287号公報
【特許文献3】特許第2908577号公報
【特許文献4】特開2006−188856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献4の発明は、蝶番を用いて複数の補修パネル(覆工板)を一体化した後、トンネル内を運搬・設置して裏込め注入するトンネル補修工法であるが、実際の現場では、一体化したパネルを隙間無く段差無く設置する手段、即ち設置済みパネルにスムーズに隙間無く接合し、ピース間およびリング間のパネル相互に目違い・段違いが発生するのを防止することが必要となる。
【0011】
また、蝶番を用いて補修パネルを一体化して運搬する方法において、運搬時に発生するパネルの変形を防止して設置作業を容易にする保持方法も明確でなかった。
【0012】
本発明は、蝶番により一体化した補修パネルを用いてトンネル内面の補修を行う工法において、トンネル内に搬入した補修パネルを設置済みパネルにスムーズに隙間無く接合し、ピース間およびリング間のパネル相互に目違い・段違いを発生させることなく設置することができ、トンネル内面の完全な補修を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで行うことができるトンネルの補修工法およびトンネル補修用覆工板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1の発明は、トンネル内面を覆工板で覆い、トンネル内面と覆工板との間に裏込め材を充填するトンネルの補修工法において、覆工板をトンネル周方向に4分割して、プレキャストコンクリート製の天端パネルとその両側の側壁パネルと底板パネルから構成し、天端パネルに両側の側壁パネルをトンネル径方向に揺動開閉可能にそれぞれ蝶番を介して接続してアーチ状パネルを形成し、トンネル内に搬入した閉じた状態のアーチ状パネルを開いて天端パネルと側壁パネルの接合端面同士を接合端面に設けたピース間段差防止機構を介して段差無く接合し、当該アーチ状パネルをトンネル軸方向に隣接する設置済みのアーチ状パネルに押し付け、その接合端面同士を接合端面に設けたリング間断差防止機構を介して段差無く接合し、両側の側壁パネルの下部間に配置した底板パネルをトンネル軸方向に隣接する底板パネルに押し付け、その接合端面同士を接合端面に設けたリング間断差防止機構を介して段差無く接合し、底板パネルの両端部をそれぞれ側壁パネルの下部に接続することを特徴とするトンネルの補修工法である。
【0014】
本発明は、例えば図1に示すように、トンネル断面の全周を4分割した同一素材の天端パネル・側壁パネル・底板パネルで補修するものであり、また天端パネルと側壁パネルを蝶番で接続して開閉可能なアーチ状パネルを形成し、これを閉じた状態で運搬し、開いて設置するものであり、トンネル内面の補修を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで行うことができ、またコンパクトに閉じてトンネル内を搬送できるため、小断面トンネルの補修も容易に行うことができる。
【0015】
さらに、天端パネルと側壁パネルを蝶番位置で埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して接合し、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネル同士・底板パネル同士を調芯機能付きの埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して押付けて接合するものであり、目違い・段差の無い完全で綺麗なトンネル補修内面を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで得ることができる。
【0016】
本発明の請求項2の発明は、請求項1に記載のトンネルの補修工法において、ピース間段差防止機構は、埋設ピンとピン孔による嵌合構造、接合端面に形成された凹凸形状による嵌合構造、あるいは接合端面間に埋設された蝶番であることを特徴とするトンネルの補修工法である。
【0017】
天端パネルと側壁パネルのヒンジ接合に対応できるピース間段差防止機構であり、例えば、接合端面にそれぞれ半円状の溝を設け、これら2つの溝で形成される円孔に円柱状のピンを埋設するなどして、埋設ピンとピン孔による嵌合構造とする。その他、接合端面にそれぞれ互いに嵌合する凹部と凸部を設ける嵌合構造、あるいはパネル内面に取付けられる仮設仕様の蝶番に代え、あるいは追加して、接合端面間に埋設される永久仕様の蝶番を用いることができる。
【0018】
本発明の請求項3の発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載のトンネルの補修工法において、リング間段差防止機構は、埋設ピンとピン孔による嵌合構造であることを特徴とするトンネルの補修工法である。
【0019】
トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネル同士・底板パネル同士のリング間接合に用いられるリング間段差防止機構であり、例えば、接合端面にそれぞれ、内部に向かって狭まるテーパーを有する調芯ピン孔、このピン孔に嵌合する先端部形状でパネルに基端部が埋設された埋設ピンを設けて構成される嵌合構造を用いることができる。
【0020】
本発明の請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載のトンネルの補修工法において、アーチ状パネル同士を連結して引き寄せる引き寄せ手段を用いてアーチ状パネルを設置済みのアーチ状パネルに押し付けることを特徴とするトンネルの補修工法である。
【0021】
天端パネルと左右両側の側壁パネルからなるアーチ状パネルを蝶番位置や脚部下端部に配置した引き寄せ手段によりスムーズに引き寄せて押し付け、容易に接合できるようにする。引き寄せ手段には、例えば長ボルトとナットによるねじ棒方式を用いることができる。底板パネルは、例えばトンネル底面に設置したハンドジャッキで押し付けて接合することができる。
【0022】
本発明の請求項5の発明は、請求項4に記載のトンネルの補修工法において、引き寄せ手段は、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネルを連結する長ボルトとナットを有し、長ボルトに取付けたナットを締め付けることで引き寄せるように構成されていることを特徴とするトンネルの補修工法である。
【0023】
アーチ状パネルの蝶番位置や脚部下端部に配置した引き寄せ手段をねじ棒方式とする場合であり、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネルの近接する一対の蝶番の基板にスリーブを溶接等で固定し、この一対のスリーブに長ボルトの両端部をそれぞれ挿通し、スリーブから突出するねじ部にナットを螺着し、締め付けることで、パネル同士を引き寄せ接合する。脚部下端部では、側壁パネルの高さ調整を行うボルトがねじ込まれるインサートを利用して長ボルトを取り付けることができる。
【0024】
本発明の請求項6の発明は、トンネル内面を覆うように設置され、トンネル内面との間に裏込め材が充填されるトンネル補修用覆工板であり、覆工板をトンネル周方向に4分割することにより、プレキャストコンクリート製の天端パネルとその両側の側壁パネルと底板パネルから構成され、天端パネルには両側の側壁パネルがトンネル径方向に揺動開閉可能にそれぞれ蝶番を介して接続され、天端パネルと側壁パネルとの接合端面には、埋設ピンとピン孔による嵌合構造、接合端面に形成された凹凸形状による嵌合構造、あるいは接合端面間に埋設された蝶番によるピース間段差防止機構が設けられ、天端パネル・側壁パネル・底板パネルのリング間の接合端面には埋設ピンとピン孔によるリング間段差防止機構が設けられていることを特徴とするトンネル補修用覆工板である。
【0025】
トンネル断面の全周を4分割した同一素材の天端パネル・側壁パネル・底板パネルからなり、天端パネルと側壁パネルを蝶番で接続した開閉可能なヒンジ構造のアーチ状パネルとし、天端パネルと側壁パネルを蝶番位置で埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して接合し、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネル同士・底板パネル同士を調芯機能付きの埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して押付けて接合するトンネル補修用覆工板であり、小断面トンネルにおいても、目違い・段差の無い完全で綺麗なトンネル補修内面を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで得ることができる。
【0026】
本発明の請求項7の発明は、請求項6に記載のトンネル補修用覆工板において、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネルを連結する長ボルトとナットからなる引き寄せ手段の前記長ボルトを取付けるスリーブが蝶番に取付けられていることを特徴とするトンネル補修用覆工板である。
【0027】
アーチ状パネルの蝶番位置にねじ棒方式の引き寄せ手段を設ける場合であり、ナットを締め付けるだけで、パネル同士を引き寄せ接合することができ、比較的簡易な機構でパネル同士を容易に押し付け接合することができる。補修完了後は、仮設使用の蝶番と共に撤去される。
【0028】
本発明で用いられる4分割パネルは、プレキャストコンクリート製であり、超高強度繊維補強コンクリート、例えば、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維などの補強用繊維が混入され、反応性微粉末(シリカフューム等)を使用した繊維混入コンクリートを用いれば、薄肉化・軽量化等を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0030】
(1) トンネル断面の全周を4分割した同一素材の天端パネル・側壁パネル・底板パネルで補修し、また天端パネルと側壁パネルを蝶番で接続して開閉可能なアーチ状パネルを形成し、これを閉じた状態で運搬し、開いて設置するようにしているため、トンネル内面の補修を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで行うことができる。
【0031】
(2) また、天端パネルと両側の側壁パネルからなるヒンジ構造のアーチ状パネルは、コンパクトに閉じてトンネル内を搬送できるため、小断面トンネルの補修も容易に行うことができる。
【0032】
(3) 天端パネルと側壁パネルを蝶番位置で埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して接合し、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネル同士・底板パネル同士を調芯機能付きの埋設ピン等のピース間段差防止機構を介して押付けて接合するため、目違い・段差の無い完全で綺麗なトンネル補修内面を極めて効率的に、短時間で、かつ、低コストで得ることができる。
【0033】
(4) アーチ状パネルに長ボルトとナットによる引き寄せ手段を設けることにより、ナットを締め付けるだけで、パネル同士を引き寄せ接合することができ、比較的簡易な機構でパネル同士を容易に押し付け接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。図1は本発明に係る内面補修後のトンネルの一例を示す軸直角方向に平行な鉛直断面図、軸方向に平行な鉛直断面図である。図2は図1の部分詳細図である。図3は天端パネルの正面図・側面図・背面図である。図4は図3の部分詳細図である。図5は側壁パネルの側面図・背面図・正面図である。図6は図5の部分詳細図である。図7は底板パネルの側面図・正面図・側面図・背面図である。図8は図7の部分詳細図である。図9は本発明で用いるパネルの引き寄せ手段の一例を示す側面図である。
【0035】
図1に示すように、トンネル1の内面をトンネル軸方向に適当な長さに分割されたリング状の覆工板2で覆い、トンネル1の内面と覆工板2との間にモルタルやコンクリート等の裏込め材3を充填するトンネルの補修工法において、本発明では、覆工板2をトンネル周方向に4分割して、天端パネル10と、その両側の側壁パネル11、11と、底板パネル(インバートパネル)12から構成する。これら何れのパネルもプレキャストコンクリート製とされている。なお、例えば、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維などの補強用繊維が混入され、反応性微粉末(シリカフューム等)を使用した超高強度繊維補強コンクリートを用いれば、パネルの薄肉化が可能となる。
【0036】
トンネル1の天井部分に添って配置される正面視で円弧状の天端パネル10のトンネル周方向のピース長さは、トンネル天頂部中心線から左右方向に例えば45度とされている。45度に限らず、その他の角度でもよい。
【0037】
側壁パネル11は、トンネル1の左右の側壁部分に添って配置される曲板であり、その上端部が天板パネル10の両端部にそれぞれ蝶番13を介して回転自在に接続され、トンネル径方向に揺動開閉可能とされている。蝶番13は、図2(a)に示すように、天端パネル10・側壁パネル11の接合部における内面にボルトで取付けられる仮設の金具であり、側壁パネル11を内側へ回転させて閉脚状態とすることができる。
【0038】
天端パネル10と左右一対の側壁パネル11とによりヒンジ構造のアーチ状パネルが構成される。このアーチ状パネルのトンネル内の補修箇所への搬入には運搬台車(図示せず)を用いる。運搬台車上の支持枠の上にアーチ状パネルを吊り込み、支持枠の支承板で蝶番13の部分を支持し、側壁パネル11を閉脚状態に保持して運搬する。これにより運搬時に発生するパネルの変形が防止され、設置作業が容易となる。
【0039】
底板パネル12はトンネルの床部分(インバート部)の上面に添って配置される曲板であり、側壁パネル11と底板パネル12の接合位置は、トンネル形状ならびに施工条件に合わせて任意に設定される。なお、この床部分は、従来技術の場合、小さいパネルを数枚組み合わせた多分割で対応していたが、一枚のパネルで底板パネル12を構成する。
【0040】
また、側壁パネル11と底板パネル12の接合構造は、例えば図2(b)に示すように、超高強度繊維補強コンクリート等の現場打ちコンクリート14が用いられる。また、床部分の左右の隅角部には、後打ちアンカー15内に下部が挿入された脚部インサート鉄筋16に取付けられたL型鋼材17と現場打ちコンクリート18により段部19が形成されており、側壁パネル11の下端部に取付けられた高さ調整ボルト20を介して側壁パネル11が高さ調整可能に段部19により支持される。側板パネル11の下端部の内側に底板パネル12の左右の端部の立ち上がり部が位置し、その間にコンクリート14が打設される。この接合構造は、これに限らず、その他の接合構造でもよい。
【0041】
また、図2(c)に示すように、底板パネル12の中間部は、後打ちアンカー21に下部が挿入された固定用鉄筋22に取付けられたL型鋼材23の上に設置され、裏面にボルト24で取付けられたプレート25により裏込め材3との剥離が防止される。
【0042】
さらに、本発明では、トンネル軸直角方向およびトンネル軸方向に隣接するパネルの段差(目違い)の発生を防止するため、樹脂製あるいは金属製の付属品からなるピース間段差防止機構とリング間段差防止機構をパネルの接合端面に埋設する。ピース間段差防止機構には、例えば、埋設ピンとピン孔による嵌合構造、接合端面に形成された凹凸形状による嵌合構造、あるいは接合端面間に埋設された永久仕様の蝶番が用いられる。リング間段差防止機構には、埋設ピンとピン孔による嵌合構造が用いられる。
【0043】
図3、図4は、天端パネルとその段差防止機構の一例を示したものである。天端パネル10は、中央部と両端部が厚肉とされ、中央厚肉部分の中央にグラウト孔ソケット30が設けられ、その両側にパネル変形防止用のボルトが貫通してねじ込まれるパッキン付きのセラミックインサート31が設けられている。両端厚肉部分の内面には蝶番を取付けるためのボルトがねじ込まれるパッキン付きのセラミックインサート32が設けられている。
【0044】
ピース間段差防止機構は、天端パネル10の両端厚肉部分におけるトンネル軸方向に平行な接合端面に形成された半円状の凹溝33と、これに嵌め込まれる円柱状の凸部(図示省略)から構成されている。この凹溝33は、蝶番の取付位置に配置され、この凹溝33と後述する側壁パネル11の凹溝とに円柱状の凸部を嵌め込み挟み込むことで、天端パネル10と側壁パネル11の段差が防止される。
【0045】
リング間段差防止機構は、天端パネル10の両側部におけるトンネル軸直角方向に平行な接合端面にそれぞれ設けられた調芯ピン孔34とステンレスインサート35から構成されている。これら調芯ピン孔34とインサート35は天端パネル10の中央厚肉部分・両端厚肉部分に形成されており、インサート35に挿入したピン(図示省略)を設置済みの天端パネル10のインサート35に挿入することで、トンネル軸方向に配列された天端パネル10同士の段差が防止される。調芯ピン孔34は内部に向かって狭まるテーパーが形成されている(図4(e)参照)。その他、天端パネル10には、脱型用の貫通インサートも4つ設けられている(図3参照)。
【0046】
図5、図6は、側壁パネルとその段差防止機構の一例を示したものである。側壁パネル11は、両端部が厚肉とされ、中央と上部厚肉部分にグラウト孔ソケット40、41が設けられている。上部厚肉部分の内面には蝶番を取付けるためのボルトがねじ込まれるパッキン付きのセラミックインサート42が設けられている。その下にはパネル変形防止用の押し出しボルトが貫通してねじ込まれるパッキン付きのセラミックインサート43が設けられている。
【0047】
側壁パネル11の上部厚肉部分におけるトンネル軸方向に平行な接合端面には半円状の凹溝44が蝶番位置に形成され、この凹溝44と前述の天端パネル10の凹溝33とによりピース間段差防止機構が構成される。リング間段差防止機構は、天端パネル10と同じであり、上下の厚肉部分に設けられた調芯ピン孔45とステンレスインサート46から構成されている。また、側壁パネル11の下部厚肉部分の下端部には、前述の高さ調整ボルト20がねじ込まれるインサート47が蝶番位置と同じ位置に設けられている。その他、側壁パネル11には、脱型用の貫通インサートも4つ設けられている(図5参照)。
【0048】
図7、図8は、底板パネルとその段差防止機構の一例を示したものである。底板パネル12の両端部には、底板部50からトンネル内面に沿って一体的に立ち上がる立ち上がり部51が形成されており、底板部50の中央にグラウト孔ソケット52が設けられ、その両側には、前述の剥離防止用のプレートを取付けるプレートのボルト24がねじ込まれるステンレスインサート53が設けられている。このインサート53は脱型用も兼ねる。
【0049】
リング間段差防止機構は、天端パネル10・側壁パネル11と同じであり、底板部50と立ち上がり部51の接続部分に設けられた調芯ピン孔54とステンレスインサート55から構成されている(図8(a)、(b)参照)。なお、底板パネル12の下面は不織布56による表面処理が施されている。
【0050】
また、本発明では、天端パネルと側壁パネルからなるアーチ状パネルをトンネル軸方向に隣接する設置済みのアーチ状パネルに引き寄せ手段で引き寄せ、リング間接合面を段差無く密着させる。図8は引き寄せ手段60の一例を示したものであり、蝶番13を利用する場合である。
【0051】
図8において、引き寄せ手段60は、スリーブ61と長ボルト62とナット63から構成され、隣接する一体の天端パネル10・側壁パネル11における近接する蝶番13の基板にそれぞれスリーブ61を溶接し、これら一対のスリーブ61、61にボルト62の両端部をそれぞれ挿通し、スリーブ61から外側に突出する長ボルト62の両端ねじ部にそれぞれナット63を螺着し、締め付けることで、パネル同士を引き寄せる。リング間の引き寄せを容易に行うことができる。
【0052】
以上のような構成のトンネル補修用覆工板を用いて例えば次のような手順でトンネル補修工法を実施する。
【0053】
(1) 工場製作された天端パネル10・側壁パネル11・底板パネル12を組立ヤードに仮置きし、組立治具を用いて天端パネル10と側壁パネル11を組み立てる。天端パネル10および側壁パネル11のピース間接合面およびリング間接合面には、シール材、段差防止機構のピン等が取付けられており、先ず組立治具に左右一対の側壁パネル11を組み付け、その上部に蝶番13の片側の基板をボルトで取り付けておき、一対の側壁パネル11の上に天端パネル10を吊り込み、その両端部にそれぞれ側壁パネル10の蝶番13をボルトで取り付ける。
【0054】
(2) 組み上がった天端パネル10・側壁パネル11からなるアーチ状パネルをトンネル入口に設置した運搬台車に吊り込み、その蝶番13の位置で支承し、左右の側壁パネル11が内側に閉じた閉脚状態でトンネル内に搬入する。例えば、搬送台車には、3リング等の数リング分のアーチ状パネルをトンネル軸方向に直線的に配置し、動力車で運搬する。
【0055】
(3) 施工位置に到着すると、ジャッキを用いて天端パネル10を上昇させる。側壁パネル11は外側に向けて回転させ、側壁パネル11の下端部に取付けた高さ調整ボルト20により高さを調節する。天端パネル10と側壁パネル11のピース間接合面はピース間段差防止機構により段差なく接合される。運搬台車を移動させて数リング分の上記組付けを行う。組付けが終了すると、運搬台車はトンネル内から搬出する。
【0056】
(4) 引き寄せ手段60を用いて設置済みのアーチ状パネルに対して次のアーチ状パネルを引き寄せ、トンネル軸方向に隣接する天端パネル10同士・側壁パネル11同士をリング間段差防止機構により段差無く接合する。天端パネル10および側壁パネル11を貫通するパネル変形防止用の押し出しボルトを調節してパネルの変形を防止する。
【0057】
(5) 数リング分のアーチ状パネルの天端パネル10と側壁パネル11の裏側に裏込め材3を充填する。天端パネル10・側壁パネル11は支保台車で支持し、開口部はセメントミルク袋などで塞いで、グラウトを行う。
【0058】
(6) 数リング分の底板パネル12の敷設を行う。運搬台車で複数枚の底板パネルを積み重ねて運搬し、施工箇所のトンネルインバート部の上に吊り降ろして設置する。運搬台車等のレールは予め撤去されており、例えばハンドジャッキを用い、トンネル底面に反力を取って底板パネル12を設置済みの底板パネル12に押圧して接合する。底板パネル12同士はリング間段差防止機構により段差無く接合される。
【0059】
(7) 側壁パネル11の下端部と底板パネル12の端部との間に超高強度繊維補強コンクリート等の現場打ちコンクリート14を打設して接合する。底板パネル11の裏面に裏込め材3を充填することにより、補修が完了する。仮設の蝶番13は取り外される。
【0060】
なお、上記補修工法は一例であり、これに限定されない。また、種々のトンネルの内面補修に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る内面補修後のトンネルの一例であり、(a)はトンネル軸直角方向に平行な鉛直断面図、(b)はトンネル軸方向に平行な鉛直断面図である。
【図2】図1の部分詳細図であり、(a)はX部の詳細図、(b)はY部の詳細図、(c)はZ部の詳細図である。
【図3】図1の天端パネルであり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。
【図4】図3の部分詳細図であり、(a)はD−D断面図、(b)はA部の詳細図、(c)はB部の詳細図、(d)はC部の詳細図、(e)は調芯ピン孔の詳細図、(f)はグラウト孔の詳細図である。
【図5】図1の側壁パネルであり、(a)は側面図、(b)は背面図、(c)は正面図、(d)はC−C断面図である。
【図6】図5の部分詳細図であり、(a)はA部の詳細図、(b)はB部の詳細図、(c)はグラウト孔の詳細図、(d)はグラウト孔の詳細図、(e)は調芯ピン孔の詳細図である。
【図7】本発明の底板パネルであり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
【図8】図7の部分詳細図であり、(a)はA部の詳細図、(b)はB部の詳細図、(c)はグラウト孔の詳細図、(d)は調芯ピン孔の詳細図である。
【図9】本発明で用いるパネルの引き寄せ手段の一例であり、(a)は側面図、(b)は拡大側面図である
【符号の説明】
【0062】
1…トンネル
2…リング状の覆工板
3…裏込め材
10…天端パネル
11…側壁パネル
12…底板パネル(インバートパネル)
13…蝶番
14…現場打ちコンクリート
15…後打ちアンカー
16…脚部インサート鉄筋
17…L型鋼材
18…現場打ちコンクリート
19…段部
20…高さ調整ボルト
21…後打ちアンカー
22…固定用鉄筋
23…L型鋼材
24…ボルト
25…プレート
30…グラウト孔ソケット
31…パッキン付きのセラミックインサート
32…パッキン付きのセラミックインサート
33…半円状の凹溝
34…調芯ピン孔
35…ステンレスインサート
40、41…グラウト孔ソケット
42…パッキン付きのセラミックインサート
43…パッキン付きのセラミックインサート
44…半円状の凹溝
45…調芯ピン孔
46…ステンレスインサート
47…インサート
50…底板部
51…立ち上がり部
52…グラウト孔ソケット
53…ステンレスインサート
54…調芯ピン孔
55…ステンレスインサート
56…不織布
60…引き寄せ手段
61…スリーブ
62…長ボルト
63…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内面を覆工板で覆い、トンネル内面と覆工板との間に裏込め材を充填するトンネルの補修工法において、覆工板をトンネル周方向に4分割して、プレキャストコンクリート製の天端パネルとその両側の側壁パネルと底板パネルから構成し、天端パネルに両側の側壁パネルをトンネル径方向に揺動開閉可能にそれぞれ蝶番を介して接続してアーチ状パネルを形成し、トンネル内に搬入した閉じた状態のアーチ状パネルを開いて天端パネルと側壁パネルの接合端面同士を接合端面に設けたピース間段差防止機構を介して段差無く接合し、当該アーチ状パネルをトンネル軸方向に隣接する設置済みのアーチ状パネルに押し付け、その接合端面同士を接合端面に設けたリング間断差防止機構を介して段差無く接合し、両側の側壁パネルの下部間に配置した底板パネルをトンネル軸方向に隣接する底板パネルに押し付け、その接合端面同士を接合端面に設けたリング間断差防止機構を介して段差無く接合し、底板パネルの両端部をそれぞれ側壁パネルの下部に接続することを特徴とするトンネルの補修工法。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネルの補修工法において、ピース間段差防止機構は、埋設ピンとピン孔による嵌合構造、接合端面に形成された凹凸形状による嵌合構造、あるいは接合端面間に埋設された蝶番であることを特徴とするトンネルの補修工法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載のトンネルの補修工法において、リング間段差防止機構は、埋設ピンとピン孔による嵌合構造であることを特徴とするトンネルの補修工法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載のトンネルの補修工法において、アーチ状パネル同士を連結して引き寄せる引き寄せ手段を用いてアーチ状パネルを設置済みのアーチ状パネルに押し付けることを特徴とするトンネルの補修工法。
【請求項5】
請求項4に記載のトンネルの補修工法において、引き寄せ手段は、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネルを連結する長ボルトとナットを有し、長ボルトに取付けたナットを締め付けることで引き寄せるように構成されていることを特徴とするトンネルの補修工法。
【請求項6】
トンネル内面を覆うように設置され、トンネル内面との間に裏込め材が充填されるトンネル補修用覆工板であり、覆工板をトンネル周方向に4分割することにより、プレキャストコンクリート製の天端パネルとその両側の側壁パネルと底板パネルから構成され、天端パネルには両側の側壁パネルがトンネル径方向に揺動開閉可能にそれぞれ蝶番を介して接続され、天端パネルと側壁パネルとの接合端面には、埋設ピンとピン孔による嵌合構造、接合端面に形成された凹凸形状による嵌合構造、あるいは接合端面間に埋設された蝶番によるピース間段差防止機構が設けられ、天端パネル・側壁パネル・底板パネルのリング間の接合端面には埋設ピンとピン孔によるリング間段差防止機構が設けられていることを特徴とするトンネル補修用覆工板。
【請求項7】
請求項6に記載のトンネル補修用覆工板において、トンネル軸方向に隣接するアーチ状パネルを連結する長ボルトとナットからなる引き寄せ手段の前記長ボルトを取付けるスリーブが蝶番に取付けられていることを特徴とするトンネル補修用覆工板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−115667(P2008−115667A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302399(P2006−302399)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【出願人】(000228660)日本コンクリート工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】