説明

トンネルの補強方法、トンネルの補強構造

【課題】地山に鋼管を貫入することによりトンネルの沈下や変位を抑制するための補強構造において、鋼管とグラウトとの付着力を増加させ、効率良くこれらの補強を行えるようにする。
【解決手段】トンネルの内壁に沿うように吹付コンクリート層20を構築し、先端に掘削ビットが接続された鋼管30を、掘削ビットを回転させて、吹付コンクリート層20を貫通させてトンネルの周囲の地盤内まで貫入させ、鋼管31を貫入させることで地盤に形成された削孔孔3内にグラウト32を充填する方法において、鋼管31の外周の少なくとも一部に螺旋状の凹部31Aを形成しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの脚部沈下や内空変位を抑制するための補強方法及び構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トンネルの沈下や変形を抑制するため、トンネルの内壁面を覆うように吹付コンクリート層を形成し、この吹付コンクリート層を貫通して側部の地山に水平方向に鋼管を貫入させてなるサイドパイルを設けたり、脚部の地山に斜め下向きに鋼管を貫入させてなるフットパイルを設けたりすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―162366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のサイドパイルやフットパイルは内部に鋼管を配置した削孔孔内にグラウトを注入して定着するが、鋼管とグラウトとの付着力が高いとはいえない。このため、十分な支持力を得るためにはサイドパイルやフットパイルを多数設け、もしくは、長くする必要があり、コスト増の原因となっている。
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、地山に鋼管を貫入することによりトンネルの沈下や変位を抑制するための補強構造において、鋼管とグラウトとの付着力を増加させ、効率良くこれらの補強を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のトンネルの補強方法は、前記トンネルの内壁を覆うように吹付コンクリート層を構築し、外周面に沿って螺旋状の凹部が形成され、先端に掘削ビットが接続された鋼管を、前記掘削ビットを回転させて、前記吹付コンクリート層を貫通させて前記トンネルの周囲の地盤内まで貫入させ、前記鋼管を貫入させることで地盤に形成された削孔孔内にグラウトを充填することを特徴とする。
【0006】
上記のトンネルの補強方法において、前記凹部は、前記鋼管の長さ方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
【0007】
また、本発明のトンネルの補強構造は、前記トンネルの内壁を覆うように構築された吹付コンクリート層と、当該吹付コンクリート層を貫通させて前記トンネルの周囲の地盤内まで貫入させられた鋼管と、前記鋼管を貫入させることで地盤に形成された削孔孔内に充填されたグラウトを備え、前記鋼管の外周に沿って螺旋状の凹部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、削孔孔内に充填されたグラウトが凹部に入り込んだ状態で硬化するため、鋼管とグラウトとの間の付着力が増大する。また、鋼管の外周に設けた凹部に対応して、鋼管内面には突出部が形成されることとなるが、凹部が螺旋状であるため、突出部も螺旋状となる。これにより、鋼管を地盤に貫入させる際に鋼管内を通る掘削土の流れを妨げることがなく、鋼管の貫入作業をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のトンネルの支持構造を示す鉛直断面図である。
【図2】サイドパイルの吹付コンクリート層側の端部の構成を示す拡大図である。
【図3A】本実施形態の支持構造を有するトンネルの構築方法を説明するための図(その1)である。
【図3B】本実施形態の支持構造を有するトンネルの構築方法を説明するための図(その2)である。
【図3C】本実施形態の支持構造を有するトンネルの構築方法を説明するための図(その3)である。
【図3D】本実施形態の支持構造を有するトンネルの構築方法を説明するための図(その4)である。
【図3E】本実施形態の支持構造を有するトンネルの構築方法を説明するための図(その5)である。
【図4】鋼管に掘削ビット及び回転ロッドを取り付ける様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のトンネルの支持構造の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。 図1は、本実施形態のトンネルの支持構造10を示す鉛直断面図である。本実施形態のトンネル1の支持構造10は、トンネル1の内壁面を覆う吹付けコンクリートにより構成された吹付コンクリート層20と、吹付コンクリート層20の側部から側方の地盤2内へ延びるサイドパイル30と、吹付コンクリート層20の両脚部から斜め下方に向かって地盤内へ延びるフットパイル40と、により構成される。図1に示すように、フットパイル40及びサイドパイル30は、夫々、同断面内で複数本設けられ、さらに、トンネル1の長さ方向に間隔をあけて複数個所に設けられている。フットパイル40及びサイドパイル30は、基端部が吹付コンクリート層20に定着されている。なお、本実施形態では、先行してトンネル上部1A(破線よりも上部)を掘削した後、トンネル下部1B(破線よりも下部)を構築するものとする。
【0011】
図2は、サイドパイル30の基端部の構成を示す拡大図である。なお、フットパイル40は、取り付けられる位置がサイドパイル30と異なるものの、その構成はサイドパイル30と同様であるので、フットパイル40についての説明は省略する。図2に示すように、サイドパイル30は、吹付コンクリート層20を貫通し、周囲の地盤2内へと延びる削孔孔3内に挿入された鋼管31と、削孔孔3内の鋼管31の外側及び鋼管31内に充填されて硬化したグラウト32とにより構成される。
【0012】
鋼管31には、周囲に複数の螺旋状の凹部31Aが形成されている。なお、凹部31Aの断面形状は半円形や三角形等、適宜な形状を採用することができる。各凹部31Aは、鋼管31の周囲を一周する程度の長さを有し、鋼管31の長さ方向に所定の間隔pをあけて設けられている。また、鋼管31の凹部31Aの間には、鋼管31の中心を挟んだ両側の位置に連通孔33が設けられている。鋼管31内に注入されたグラウト32は連通孔33を通って削孔孔3内に流れ出し、鋼管31表面の凹部31A内に入り込んだ状態で周囲の地盤2と一体に硬化している。このため、周囲の地盤2と鋼管31との間の付着力が向上され、吹付コンクリート層20が地山から荷重が作用することでサイドパイル30及びフットパイル40に引抜荷重や押込荷重が作用しても、これらの荷重に抵抗することができる。これにより、吹付コンクリート層20が支持され、吹付コンクリート層20の沈下及び変位を抑制することができる。
【0013】
鋼管31に形成される凹部31Aの間隔pは以下のようにして決定することができる。
【0014】
まず、サイドパイル30やフットパイル40が構築されるべき位置(以下、原位置という)において引抜試験を行い、凹部1個あたりの付着耐力を算出する。全長が所定の長さ(本実施形態では0.5m)であり、凹部31Aが1個形成された鋼管31を、フットパイル40やサイドパイル30の鋼管31と同様に、原位置に形成された削孔孔3内に挿入し、削孔孔3内にグラウト32を充填して、地盤2に埋入させる。そして、この鋼管31に対して引抜試験を行う。この時の引抜荷重をFとすると凹部31Aのピッチが0.5mの鋼管の単位長さあたりの付着力Sb50は、以下の式で算出できる。
b50=F/0.5
また、鋼管31の付着力Sbeは凹部31Aのピッチp´に反比例すると考えられ、以下の式が成立する。
be:Sb50=1/p´:1/0.5
【0015】
また、フットパイル40又はサイドパイル30に用いられる鋼管31の降伏点荷重をPyとした場合に、鋼管31に荷重Pyが作用した場合であっても周囲の地盤と鋼管31との付着が切れない必要がある。このため、鋼管31の長さをL、周囲の地盤と鋼管31との付着力をSbeとした場合に、以下の式が成立する。
Py=L×Sbe
したがって、周囲の地盤と鋼管の間に必要とされる付着力Sbeは、以下の式で算出される。
be=Py/L
【0016】
よって最適な凹部31Aのピッチp´は、以下の式で算出できる。
p´=0.5×Sb50/Sbe=0.5L×Sb50/Py
本実施形態では、鋼管31の凹部31Aのピッチpをp´となるように設定するものとした。
【0017】
以下、本実施形態の支持構造10を有するトンネル1の構築方法を図3A〜図3Eを参照しながら説明する。
【0018】
まず、トンネル1の周囲の地盤2と同等の地盤において、上記の引抜試験を行い、サイドパイル30及びフットパイル40に用いる鋼管31の凹部31Aのピッチpを決定する。
次に、図3Aに示すように、地盤2のトンネル上部1Aにあたる部分を掘削する。
次に、図3Bに示すように、掘削したトンネル上部1Aの内周に吹付けコンクリートを吹付けて、吹付コンクリート層20の上部を構築する。
【0019】
次に、図4に示すように、凹部31Aが上記決定したピッチpで形成された鋼管31の先端に掘削ビット51を取り付けるとともに、鋼管31内に回転ロッド50を挿入し、その先端を掘削ビット51に接続する。そして、回転ロッド50の先端をドリルジャンボ(不図示)に接続し、回転ロッド50を介して掘削ビット51を回転させることでトンネル上部1Aの下側部から側方に向けて掘削を行う。この際、鋼管31の外周に凹部31Aが形成されているため、鋼管31内面には凹部31が突出することとなるが、凹部31が螺旋状に形成されているため、上記突出部分も螺旋状となる。このため、掘削ビット51により切削された土砂が鋼管31の内部を流れる際に、螺旋状の突出部分に沿って流れるので、この流れが阻害されることはない。これにより、排泥効率を低下させることなく、掘削作業を行うことができる。そして、所定の深さまで掘削したら、回転ロッド50をドリルジャンボから取り外し、掘削ビット51から回転ロッド50を取り外し、回転ロッド50を回収する。
【0020】
次に、鋼管31の内部にグラウト32を注入する。鋼管31の内部に注入されたグラウト32は連通孔33を通って削孔孔3内に流れ出し、鋼管31の外周に形成された凹部31Aの内部まで入りこむ。そして、削孔孔3内に充填したグラウト32が硬化することで、図3Cに示すように、サイドパイル30が吹付コンクリート層20の上部と一体に構築される。
【0021】
次に、図3Dに示すように、トンネル上部1Aを掘削したのと同様に、地盤2のトンネル下部1Bに相当する部分を掘削し、トンネル下部1Bの内壁に吹付けコンクリートを吹付け、吹付コンクリート層20の下部を構築する。この際、吹付コンクリート層20の上部がサイドパイル30により支持されるため、沈下や変形の発生を抑制できる。
【0022】
次に、図3Eに示すように、サイドパイル30と同様に吹付コンクリート層20の下部に地盤2内に斜め下方に延びるようにフットパイル40を設ける。そして、必要に応じて、トンネル底部にインバートを構築する。
以上の工程により、トンネル1を構築することができる。
【0023】
本実施形態によれば、サイドパイル30及びフットパイル40を構成する鋼管31の外周に螺旋状の凹部31Aを設けることとしたため、地盤2の掘削時に掘削土が凹部31Aを通じて円滑に排出されることとなり、排泥効率を向上することができ、スムーズな施工が可能となる。特に、鋼管31として、凹部31Aの形状が後述する削孔孔を形成する際の掘削ビット51の回転方向に向かって先端側に進出するような螺旋状のものを用いることとすれば、鋼管31の回転に伴って凹部31A内の掘削土に基端側に向かう力が作用し、掘削土の排出をより円滑に行える。
【0024】
また、鋼管31に凹部31Aを設けることで削孔孔3内に充填されたグラウト32がこの凹部32に入りこんだ状態で硬化する。これにより、鋼管31とグラウト32との付着力が向上され、鋼管31の引抜抵抗力及び押込抵抗力を向上することができ、より強固にトンネル1を支持し、沈下や変位を抑制することができる。
【0025】
また、原位置の地盤2において引抜試験を行い、これに基づき、鋼管31の凹部31Aのピッチpを決定しているため、鋼管31に作用する引抜力及び押込力に対して確実に抵抗できる。
【0026】
なお、本実施形態では、サイドパイル30及びフットパイル40を設けることとしているが、これに限らず、何れか一方のみを設けることとしてもよい。また、サイドパイル30及びフットパイル40の設置本数は、地山2の強度に応じて適宜決定すればよい。
また、本実施形態では、吹付けコンクリートをトンネルの内周に吹付けて吹付コンクリート層20を構築したが、これに限らず、トンネルの内周に沿って鉄筋コンクリートを打設する方法やセグメントを取り付ける方法により吹付コンクリート層20を構築してもよい。
【0027】
また、本実施形態では、鋼管31の凹部31Aのピッチpを上記の式で算出したp´となるように設定しているが、少なくともp´以下であれば、鋼管31に降伏点荷重Pyが作用した場合であっても周囲の地盤と鋼管31との付着が切れることはない。
【0028】
さらに、本実施形態では、鋼管31に凹部31Aを間隔をあけて複数設けることとしたが、これに限らず、一の凹部を連続した螺旋状に設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 トンネル 2 地盤
3 削孔孔 10 支持構造
20 吹付コンクリート層 30 サイドパイル
31 鋼管 31A 凹部
32 グラウト 40 フットパイル
50 回転ロッド 51 掘削ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの補強方法であって、
前記トンネルの内壁を覆うように吹付コンクリート層を構築し、
外周面に沿って螺旋状の凹部が形成され、先端に掘削ビットが接続された鋼管を、前記掘削ビットを回転させて、前記吹付コンクリート層を貫通させて前記トンネルの周囲の地盤内まで貫入させ、
前記鋼管を貫入させることで地盤に形成された削孔孔内にグラウトを充填することを特徴とするトンネルの補強方法。
【請求項2】
請求項1記載のトンネルの補強方法であって、
前記凹部は、前記鋼管の長さ方向に間隔をあけて複数設けられていることを特徴とするトンネルの補強方法。
【請求項3】
トンネルの補強構造であって、
前記トンネルの内壁を覆うように構築された吹付コンクリート層と、
当該吹付コンクリート層を貫通させて前記トンネルの周囲の地盤内まで貫入させられた鋼管と、
前記鋼管を貫入させることで地盤に形成された削孔孔内に充填されたグラウトを備え、
前記鋼管の外周に沿って螺旋状の凹部が形成されていることを特徴とするトンネルの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255237(P2010−255237A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104933(P2009−104933)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:トンネル工学報告集 第18巻 発行日:2008年11月27日 編 者:土木学会 トンネル工学委員会 トンネル工学論文集編集小委員会 委員長 清水 満 該当ページ:第51−第56ページ
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】