説明

トンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法

【課題】 補強体によりトンネル内部空間の形状に変化を来すことがなく、トンネル内における車両の通行に支障を来さない建築限界を確保することができるトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法を提供する。
【解決手段】 トンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、トンネルの覆工コンクリート3の内側に補強溝4を切削し、この補強溝4に補強材5を配置し、この補強材5が配置された補強溝に充填材6を充填し、前記トンネルの覆工コンクリート2を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの補強を行うトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの覆工コンクリート構造物の補修は以下のようになされている。
【0003】
(1)トンネルの覆工コンクリートの表面に補強材を貼る工法(下記非特許文献1,pp.II−25〜II−28,IV−28〜IV−30参照)。
【0004】
この工法では、補強材の剥がれを極力なくすため、トンネルの覆工コンクリートの表面にあらかじめ不陸調整等の前処理が必要となる。
【0005】
また、補強材を接着する際多量の有機接着剤や塗料をトンネル内の閉空間で使用するため、作業時の換気が必要である。
【0006】
(2)補強鋼材を設置する工法(下記非特許文献1,pp.II−23〜II−25,IV−27参照)
この工法では、トンネルの内空空間に補強鋼材を設けるためのスペースが必要である。
【0007】
また、人力だけで施工することが困難であるため、トンネル内での施工が困難である。
【0008】
施工に要する資材や機材が多く、対象補強場所への乗り込み・撤収に時間がかかり、実際に補強作業を行う時間が短くなる。
【非特許文献1】「トンネル補修・補強マニュアル」,平成19年1月,財団法人 鉄道総合技術研究所,pp.II−23〜II−28,IV−27〜IV−30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、従来のトンネルの覆工コンクリートの補修工法には種々の問題があった。そこで、補強対象構造物の内部に補強材、充填材を埋設し、補強体により補強対象構造物の形状を変化させることのない補強工法を提供するようにした。特にトンネルの場合、内空空間が減ることによる建築限界の問題がないためメリットが大きい。
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みて、補強体によりトンネル内部空間の形状に変化を来すことがなく、トンネル内における車両の通行に支障を来さない建築限界を確保することができるトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕トンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、トンネルの覆工コンクリートの内側に補強溝を切削し、この補強溝に補強材を配置し、この補強材が配置された補強溝に充填材を充填し、前記トンネルの覆工コンクリートを補強することを特徴とする。
【0012】
〔2〕上記〔1〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記補強溝が深溝であることを特徴とする。
【0013】
〔3〕上記〔2〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記深溝に平板型補強材を配置することを特徴とする。
【0014】
〔4〕上記〔3〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記平板型補強材が繊維シートであることを特徴とする。
【0015】
〔5〕上記〔3〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記平板型補強材が鋼板であることを特徴とする。
【0016】
〔6〕上記〔2〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記深溝に鋼材網を配置することを特徴とする。
【0017】
〔7〕上記〔1〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記補強溝が地山側に広がった楔型溝であることを特徴とする。
【0018】
〔8〕上記〔1〕記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記充填材の表面及び該充填材の表面の周囲の前記覆工コンクリートの表面に薄い補強シートを貼り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0020】
(1)トンネルの覆工コンクリートの内部に補強材と充填材を埋設するため、補強体により覆工コンクリートの形状が変化することがない。特にトンネルの場合、内空空間が減ることがないため、建築限界を確保することができる。
【0021】
(2)補強材が充填材で保護され露出しないため、火災、流水などによる劣化の影響を受け難い。
【0022】
(3)作業時間に制約がある場合に、任意の過程で中断しても構造物の安定と使用安全性に影響を及ぼさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、トンネルの覆工コンクリートの内側に補強溝を切削し、この補強溝に補強材を配置し、この補強材が配置された補強溝に充填材を充填し、前記トンネルの覆工コンクリートを補強する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明の実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法を示す模式図、図2は本発明の第1実施例を示すトンネルの覆工コンクリートの溝切り部の断面図、図3はそのトンネルの覆工コンクリートの切削補強工程を示す図である。
【0026】
これらの図において、1は地山、2はトンネル、3はトンネル2の覆工コンクリート、4はその覆工コンクリート3に形成される補強溝、5はその補強溝4内に配置される補強材、6は補強材5が配置される補強溝4内に充填される充填材である。
【0027】
本発明のトンネルの覆工コンクリートの切削補強工法を、図3を参照しながら説明する。
【0028】
(1)まず、トンネル2の覆工コンクリート3のトンネル内空A側に補強溝4を切削する(ステップS1)。
【0029】
(2)次に、補強溝4内部の清掃を行う。例えば、ブロアーBで補強溝4内部にエアーを吹きつけて清掃する(ステップS2)。
【0030】
(3)次に、補強溝4内に補強材5を設置する(ステップS3)。
【0031】
(4)最後に、補強材5が配置される補強溝4内に充填材6を充填する(ステップS4)。
【0032】
図4は本発明の第2実施例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図、図5は本発明の第2実施例の変形例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【0033】
ここでは、図4に示すように、トンネルの覆工コンクリート3に補強に必要な深溝11を切削して設け、その深溝11に2本の補強材12,13(一本でもよい)を配置し、そこに充填材14を充填する。
【0034】
この深溝は、トンネルの覆工コンクリート3の必要とする補強度合いに応じて、図5に示すように、複数の深溝21,22,23を設けるようにしてもよい。ここでは、深溝21には2本の補強材24,25が、深溝22には補強材26が、深溝23には補強材27,28を配置するようにしており、補強材27,28が配置される深溝21,22,23には充填材29を充填する。
【0035】
図6は本発明の第3実施例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【0036】
この実施例では、深溝31内に平板型補強材32を配置し、その深溝31内に充填材33を充填する。ここでは、平板型補強材32として、繊維シートや鋼板を用いる。
【0037】
図7は本発明の第4実施例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【0038】
ここでは、深溝41内に鋼材網42を配置し、その鋼材網42が配置された深溝41内に充填材43を充填する。
【0039】
図8は本発明の第5実施例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【0040】
ここでは、地山1側(溝の奥の方向)が広がった楔型溝51を切削し、その楔型溝51内に補強材52を配置し、補強材52が配置された楔型溝51内に充填材53を充填する。
【0041】
図9は本発明の第6実施例を示すトンネル覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【0042】
ここでは、補強溝61内に補強材62を配置し、補強材62が配置された補強溝61内に充填材63を充填する。さらに、その充填材63のトンネル内空に露出した表面に補強シート64を貼り付ける。
【0043】
この場合、トンネル空間に補強シート64が設置されることになるので、この補強シート64としては薄い補強シート材を用い、強力な接着材などにより、充填材63の表面とその表面の周囲のトンネルの覆工コンクリートの表面に強固に貼り付ける。
【0044】
この第6実施例によれば、補強シート64の貼り付けにより充填材63の脱落を有効に防止することができる。特に、トンネルの天井部分では側面に比べて充填材63の脱落が懸念されるので、この実施例は有効である。また、充填材63として流動性の高い材料を使用する場合にも、補強シート材64が補強溝を覆うようにしたので充填材63が流れ出ることがない。このように、補強シート材64の設置により相乗的な補強効果が期待できる。
【0045】
以上のように、トンネルの覆工コンクリートの補強に必要な任意形状、任意断面の補強溝を覆工コンクリートのトンネル内空側に切削により形成する。補強溝の深さは必要とされる補強の強度に応じて任意の深さに切削することができる。場合によっては地山側に貫通させるようにしてもよい。また、覆工コンクリートの既設の目地を利用して、目地材を除去・清掃し、補強材及び充填材を設置することも可能である。
【0046】
補強溝の切削方向は基本的には横断方向であるが、安全性を確保できることを前提に、斜め方向、軸方向など補強に効果的な方向に切削することができる。
【0047】
なお、補強溝内に設置する補強材は金属、連続繊維材等のいずれの材質でも適用可能である。
【0048】
また、補強溝内に充填する充填材は、有機無機のいずれの材質のものを用いてもよい。
【0049】
なお、上記実施例では、地山トンネルの覆工コンクリートを例に挙げて述べたが、これに限定されるものではなく、都市トンネル(ボックスカルバート)への適用も含まれる。つまり、トンネル覆工には、都市トンネル(ボックスカルバート)をも含まれ、例えば、都市トンネルにおける止水のためのVカット工法の止水材の中に補強材を入れるようにしてもよい。
【0050】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法は、トンネルの覆工コンクリートを補強するツールとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施例を示すトンネルの覆工コンクリートの溝切り部の断面図である。
【図3】本発明の第1実施例を示すトンネルの覆工コンクリートの切削補強工法を示す図である。
【図4】本発明の第2実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【図5】本発明の第2実施例の変形例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【図6】本発明の第3実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【図7】本発明の第4実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【図8】本発明の第5実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【図9】本発明の第6実施例を示すトンネルの覆工コンクリート構造物の溝切り部の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 地山
2 トンネル
3 覆工コンクリート
4,61 補強溝
5,12,13,24,25,26,27,28,52,62 補強材
6,14,29,33,43,53,63 充填材
A トンネル内空
B ブロアー
11,21,22,23,31,41 深溝
32 平板型補強材
42 鋼材網
51 楔型溝
64 補強シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)トンネルの覆工コンクリートの内側に補強溝を切削し、
(b)該補強溝に補強材を配置し、
(c)該補強材が配置された補強溝に充填材を充填し、
(d)前記トンネルの覆工コンクリートを補強することを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項2】
請求項1記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記補強溝が深溝であることを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項3】
請求項2記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記深溝に平板型補強材を配置することを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項4】
請求項3記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記平板型補強材が繊維シートであることを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項5】
請求項3記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記平板型補強材が鋼板であることを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項6】
請求項2記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記深溝に鋼材網を配置することを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項7】
請求項1記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記補強溝が地山側に広がった楔型溝であることを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。
【請求項8】
請求項1記載のトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法において、前記充填材の表面及び該充填材の表面の周囲の前記覆工コンクリートの表面に薄い補強シートを貼り付けることを特徴とするトンネルの覆工コンクリート構造物の切削補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−77746(P2010−77746A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249667(P2008−249667)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】