説明

トンネル健全度判定装置、トンネル健全度判定セット、トンネル健全度判定方法

【課題】精度の高い収束変位に基づき、トンネルの健全性を迅速に判定することができるトンネル健全度判定装置等を提供する。
【解決手段】トンネル健全度判定装置10が、トンネル1の内周面の変位を測定位置5で実測した実測値を用いて、当該実測値とトンネル1の内周面の変位の収束値との関係を示す関係式について重回帰分析を行い、トンネル1の内周面の変位の収束値を算出する収束変位予測手段31と、トンネル1の内周面の変位の収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いてトンネル1の健全度に関する指標値を算出する指標値算出手段33と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル健全度判定装置、トンネル健全度判定セット、トンネル健全度判定方法に関する。より詳しくは、トンネルの内周面の収束変位を用いて、トンネルの健全度に関する指標値を算出するトンネル健全度判定装置、トンネル健全度判定セット、トンネル健全度判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から山岳トンネル工事においては、安全かつ経済的にトンネルを建設するため、掘削中に観察、計測したデータを設計、施工にフィードバックして掘削を進める工夫がとられてきた。
【0003】
建設プロジェクトの生産性向上の観点からは、観察・計測データのフィードバックには迅速性が求められており、情報通信技術を用いた計測管理が普及してきている。
【0004】
例えば、特許文献1〜3には、システムの構成は違えど、情報通信技術を利用して計測データの管理・運用を支援するシステムが示されている。
【0005】
また、山岳トンネルにおける坑内変位は掘削が進行するにつれてその変位も増加するという特徴を持っている。そのため、より迅速に計測データを設計・施工にフィードバックするために、掘削初期の計測データから最終値(収束値)を予測する技術も発展している。
【0006】
特許文献4では、掘削初期段階の坑内変位速度から円弧曲線を用いた近似的手法によって最終坑内変位を予測する手法が考案されている。また、非特許文献1では、指数関数によって近似する手法や類似トンネル工事の実績から最終坑内変位を予測する手法が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−234171号公報
【特許文献2】特開2007−40773号公報
【特許文献3】特開平8−145670号公報
【特許文献4】特許第3308371号
【非特許文献1】土木学会岩盤力学委員会編“トンネルの地質調査と岩盤計測”土木学会、1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
山岳トンネル工事における計測管理の目的は、計測データを逐次反映することによりその生産効率を最大化することである。具体的には、計測データを逐次分析することによって切羽崩落や大変形による支保変状等のトラブルを未然に防止するための適切な支保パターン・対策工を選定することである。
【0009】
支保パターンの適正・対策工実施の必要性を判断するためには、トンネル坑内変位データだけでは判断材料として乏しい。そのため、計測データをインプットとして地盤の剛性等の指標をアウトプットとして求める再現解析技術がトンネル健全度を判断する際によく活用されてきた。
【0010】
特許文献1〜3における計測管理システムはあくまでデータの管理・運用といった従来の計測管理手法の延長にある。そのため、変位収束を待ってからデータ分析(再現解析)を実施しており、データ分析に基づき適切な対策工を実施等するためには時間がかかっていた。
【0011】
これに対し、特許文献4、非特許文献1には最終変位の予測手法が示されているが、これらをそのまま用いる場合、その精度には課題が残されている。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、精度の高い収束変位に基づき、トンネルの健全性を迅速に判定することができるトンネル健全度判断システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達するための第1の発明は、トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定装置であって、前記トンネルの内周面の変位を所定の測定位置で実測した実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測手段と、前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出手段と、を具備することを特徴とするトンネル健全度判定装置である。
【0014】
また、第1の発明のトンネル健全度判定装置は、前記指標値に基づいて前記トンネルの健全度を判定するトンネル健全度判定手段を更に具備することも望ましい。
【0015】
また、前記指標値算出手段は、前記収束値と、前記地質条件値、前記構造物条件値とを用いて、前記トンネルの内周面の変位の収束時の前記トンネルの内周面とその周囲の変位、応力状態を算出し、前記変位、応力状態に基づいて、前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する。
【0016】
前記変位は、例えば、前記トンネルの内周面の天端沈下量または内空変位量であり、前記指標値は、例えば、坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲のうち少なくとも1つを含むものである。
【0017】
また、前記関係式は、前記実測値の測定位置と前記トンネルの切羽との距離を変数として含み、前記実測値は、前記測定位置を固定し、前記切羽が所定の位置に達するごとに実測したものである。
【0018】
前述した目的を達するための第2の発明は、トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定セットであって、前記トンネルの内周面の変位を実測する変位測定装置と、トンネル健全度判定装置とを備え、前記トンネル健全度判定装置は、前記変位測定装置により所定の測定位置で実測した前記トンネルの内周面の変位の実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測手段と、前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出手段と、を具備することを特徴とするトンネル健全度判定セットである。
【0019】
前述した目的を達するための第3の発明は、トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定方法であって、前記トンネルの内周面の変位を所定の測定位置で実測する変位測定工程と、前記変位の実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測工程と、前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出工程と、を具備することを特徴とするトンネル健全度判定方法である。
【0020】
上記構成により、トンネルの内周面の変位を所定の測定位置で実測し、この実測値とトンネルの内周面の変位の収束値との関係を示す関係式の重回帰分析を行い、トンネルの内周面の変位の収束値を算出して予測する。この変位は、例えばトンネルの内周面の天端沈下量または内空変位量であり、当該関係式は、実測値の測定位置とトンネルの切羽との距離を変数として含み、変位の実測は測定位置を固定し、切羽が所定の位置に達するごとに行う。
【0021】
また、算出した収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて再現解析等を行い、変位収束時のトンネルの内周面とその周囲の変位、応力状態を算出し、この変位、応力状態に基づいてトンネルに関する指標値を算出する。この指標値に基づいて、例えば基準値と比較するなどしてトンネルの健全度を判定する。地質条件値は、例えば地盤構成、地表面形状、土被り厚、地盤強度、単位体積重量等の、トンネル周囲の地質条件等を示すパラメータである。構造物条件値は、例えば、トンネル形状、支保(吹付けコンクリート等)の剛性および断面性状等の、トンネルの構造条件等を示すパラメータである。また、トンネルに関する指標値は、例えば坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲のうち少なくとも1つを含むものである。この判定結果により、支保パターンの見直しや、対策工の実施を行うことができる。
【0022】
従って、トンネルの収束変位は、変位の収束後にこれを実測するのではなく、収束前に実測したトンネルの変位を用いて早期に予測することができる。また、一連のトンネル健全度判定処理を情報通信技術を用いて連動・自動化することで、早期に取得したデータからトンネル健全度を判定する坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲といった指標を瞬時に得ることができる。従って、トンネルの健全度を判定し、適切な対策工を実施等するために時間がかからず、迅速な対応が可能になる。
【0023】
また、トンネルの収束変位の予測の際には、所定の測定位置で実測した実測値を用いて、当該実測値とトンネルの内周面の変位の収束値との関係を示す関係式の重回帰分析を行い、収束値を算出する。従って、個々のトンネルの状況に応じた予測が可能になる。また、トンネルの掘削の進行とともに実測変位のデータを増やしてゆくことにより、重回帰分析を行った関係式の精度を上昇させ、変位の収束値の予測精度を上昇させることができる。
【0024】
これにより、トンネルの掘削工事の際に、切羽崩落や大変形による支保変状等のトラブルを未然に防ぎ、切羽進行の継続性を確保することや、過剰変位の発生による縫返し(再掘削)等の手戻りを防止することが容易になり、また早期に対策工を実施することにより対策工法の効率化が可能になる。また、過剰な地盤の緩み、変位を事前に防止することで、覆工コンクリートの設計厚の確保が容易になる。従って、トンネル工事の生産性向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、精度の高い収束変位に基づき、トンネルの健全性を迅速に判定することができるトンネル健全度判定装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】トンネルの掘削と、坑内変位の測定を説明する図
【図2】トンネル健全度判定装置のハードウェア構成を示す図
【図3】トンネル健全度判定セットの機能構成を示す図
【図4】トンネル健全度判定方法の流れを示すフローチャート
【図5】収束変位の算出について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図1から図4を参照しながら、本発明のトンネル健全度判定装置等の実施形態について説明する。
【0028】
図1は、掘削を行い本実施形態のトンネル健全度判定装置等で健全度を判定するトンネル1について示す図で、(a)図はトンネル長軸方向に沿った断面を、(b−1)図、(b−2)図は(a)図の線A−A’(測定位置5)における断面(トンネル1の内周面)をそれぞれ示す。
【0029】
本実施形態のトンネル健全度判定装置10は、変位測定装置20とともにトンネル健全度判定セット40を構成する。
【0030】
トンネル健全度判定セット40では、トンネル1を掘削する際、変位測定装置20により所定の測定位置5でトンネル1の内周面の変位を実測する。変位の実測は切羽の進行に伴い、定期的に行う。
【0031】
トンネル健全度判定装置10は、この実測値(実測変位)を用いて、トンネル1の内周面の変位の収束値(収束変位)を算出し、これに基づき再現解析を行い、変位収束時のトンネル1の内周面ならびにその周囲の地盤等の変位・応力状態を算出する。さらに、この変位・応力状態に基づいてトンネル1に関する各種の指標値を算出し、これに基づいてトンネル1の健全度を判定する。この判定結果に応じて支保パターンの見直し、対策工の実施等を行うことができる。
【0032】
図1で3a、3b、3cは切羽であり、トンネル1を掘削した先端部である。本実施形態では図1のaで示す方向にトンネル1の掘削を進行し、その際の切羽が3a、3b、3cの順に形成されるものとする。測定位置5と切羽3a、3b、3cの距離は、それぞれL1、L2、L3とする。
【0033】
本実施形態では、(b−1)図に示すように、測定位置5において、トンネル1の内周面に沿って5箇所の測定点5a〜5eを設ける。測定点5aは、トンネル1の内周面で、上端部のトンネル幅方向中央位置に設けられる。測定点5b〜5eは、トンネル1の内側面に設けられる。測定点5b、5cはトンネル掘削方向(図1の矢印a)に対して左側に、測定点5d、5eはトンネル掘削方向に対して右側に設けられる。測定点5bと5d、測定点5cと5eはそれぞれ同じ高さ位置に設けられている。
【0034】
本実施形態において、変位測定装置20で実測するトンネル1の内周面の変位は、天端沈下量と内空変位量である。
【0035】
天端沈下量は、測定点5aの垂直方向変位量であり、(b−2)図のD1で示される。内空変位量は、トンネル1の内周面に設けた測定点間の距離の変化量をあらわすもので、本実施形態では、測定点5bと5dの距離の変化量ならびに測定点5cと5eの距離の変化量とする。それぞれ、(b−1)図、(b−2)図のD2、D2’、D3、D3’を用いてD2−D2’(測定点5bと5dの距離の変化量)、D3−D3’(測定点5cと5eの距離の変化量)で示される。変位測定装置20は、例えば予め基準値として測定した上記の測定点5aの位置やD2、D3の値と、新たに測定した測定点5aの位置やD2’、D3’の値を比較して上記の天端沈下量や内空変位量を実測することができる。
【0036】
しかしながら、測定点の位置、あるいは内空変位等の測定方法についてはこれに限ることはない。例えば測定点5aと5bの距離から内空変位の測定を行ってもよい。
【0037】
図2はトンネル健全度判定装置10のハードウェア構成を示す図である。トンネル健全度判定装置10は、図2に示すように、制御部11、記憶部12、表示部13、通信部14、入力部15、出力部16等がバス17を介して接続されて構成される。
【0038】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
【0039】
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各部を駆動制御する。これにより、制御部11のCPUは後述するトンネル健全度判定の処理を実行する。ROMは、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0040】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)等であり、制御部11が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0041】
表示部13は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、後述するトンネル健全度判定の処理に係る画面を表示する。
【0042】
通信部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークとの通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。
【0043】
入力部15は、例えば、キーボード、マウス等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置、ドライブ装置やスキャナなど、トンネル健全度判定装置10へデータ入力を行うための周辺装置であり、入力されたデータを制御部11へ出力する。
【0044】
出力部16は例えばプリンタやドライブ装置など、トンネル健全度判定装置10からのデータ出力を行うための周辺装置である。
【0045】
バス17は各装置間の制御信号やデータ信号等の授受を媒介する経路である。
【0046】
変位測定装置20は例えば制御部、記憶部、通信部、出力部等を備えた光波測定器であり、トンネル1の内周面の変位として、前述の天端沈下量と内空変位量を実測する。天端沈下量、内空変位量等の実測変位データは記憶部等に記憶され、通信部や出力部等を介してデータの通信、出力が行われる。これらのデータは、トンネル健全度判定装置10に入力され、記憶部12等に記憶される。
【0047】
図3はトンネル健全度判定セット40の機能構成を示す図である。トンネル健全度判定セット40は、トンネル健全度判定装置10と、変位測定装置20とにより構成され、トンネル健全度判定装置10は、収束変位予測手段31、指標値算出手段33、健全度判定手段35を備える。
【0048】
収束変位予測手段31は、制御部11が、所定の測定位置にて変位測定装置20により実測し、記憶部12等に記憶した天端沈下量、内空変位量等のトンネル1の内周面の実測変位を用いて、当該実測変位とトンネル1の内周面の収束変位の関係式に基づき重回帰分析を行い、トンネル1の内周面の収束変位を算出(予測)するものである。なお、この実測変位は所定の測定位置で測定したものであるが、算出した収束変位はトンネル1の全長に渡って適用可能なものでもある。これについては後述する。
【0049】
指標値算出手段33は、制御部11が、収束変位予測手段31で算出した収束変位と、地質条件データ(地質条件値)、構造物条件データ(構造物条件値)を用いて、有限要素法等を用いた再現解析を行い、トンネル1の内周面ならびにその周囲における変位、応力状態を算出し、これに基づきトンネル1の健全度に関する指標値を算出するものである。
【0050】
地質条件データは、例えば地盤構成、地表面形状、土被り厚、地盤強度、単位体積重量等の、トンネル1の周囲の地質条件等を示すパラメータである。構造物条件データは、トンネル形状、支保(吹付けコンクリート等)の剛性および断面性状等の、トンネル1に係る構造物の条件等を示すパラメータである。これらの値は、トンネル掘削前やトンネル掘削時の、地質調査、支保等の計画や施工状態に基づいて定めることができ、予めあるいは再現解析、指標値算出の際に入力部15等を介してトンネル健全度判定装置10に入力し、記憶部12やRAM等に記憶させることができる。
【0051】
トンネル1の健全度に関する指標値は、例えば、坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲等である。これらの値については後述する。
【0052】
健全度判定手段35は、制御部11が、指標値算出手段33により算出したトンネル1の健全度に関する指標値を、予め定める基準値と比較等し、トンネル1の健全度を判定するものである。
【0053】
続いて、図4等を用いて、本実施形態のトンネル健全度判定装置10等を用いたトンネル健全度判定方法について説明する。
【0054】
まず、トンネル1の掘削を行い(ステップ101)、切羽が所定の位置に達すると、変位測定装置20により、測定位置5におけるトンネル1の内周面の変位として、前述の天端沈下量と内空変位量を実測する(ステップ102)。
【0055】
これらの実測変位データは、ユーザ操作等に応じて、測定位置5と切羽のトンネル長軸方向に沿った距離Lと紐付け、通信部等を介してトンネル健全度判定装置10に入力し、RAMや記憶部12等に記憶させる。または変位測定装置20の記憶部等にこれを保存しておき、トンネル健全度判定処理の進行に応じて出力部等から出力し、トンネル健全度判定装置10の入力部15等を介して入力するようにしてもよい。
【0056】
このように、トンネル1の掘削を進行しつつ、掘削先端部の切羽が(複数の)所定の位置に達した各時点で、天端沈下量と内空変位量を実測する。これにより、測定位置5とトンネル1の切羽との距離を変えながら、複数の実測変位をその収束を待たずに早期に取得する。
【0057】
なお、本実施形態では測定位置5を固定して、トンネル掘削(切羽の進行)の各段階で変位を実測することにより、測定位置5と掘削時の切羽との距離を変えながら実測変位を取得しているが、測定位置5を変える、あるいは複数の測定位置5を設けることにより測定位置5と切羽との距離を変えて実測変位を取得することもできる。但し、本実施形態のように、測定位置5を固定し、トンネル掘削の各段階で変位を実測することは、作業性の点、少数の変位測定装置20によりデータが得られる点などで有利である。
【0058】
測定位置5における天端沈下量や内空変位量等の実測変位データをそれぞれ3個得るまで(ステップ103のNO)、上記のトンネル掘削(ステップ101)と変位の実測(ステップ102)の手順を繰り返す。本実施形態では、トンネル1の掘削先端部が図1の切羽3a、3b、3cに達した時点の、測定位置5におけるトンネル1の内周面の変位(天端沈下量や内空変位量等)Y1、Y2、Y3をそれぞれ実測し、測定点5と切羽3a、3b、3cとの距離L1、L2、L3(図1参照)とそれぞれ紐付けてトンネル健全度判定装置10のRAMや記憶部12等に記憶させておく。
【0059】
このように、実測変位データをそれぞれ少なくとも3個得る(ステップ103のYES)と、トンネル健全度判定装置10の制御部11は、ユーザ操作等に応じて、測定位置5で実測したトンネル1の内周面の実測変位と、トンネル1の内周面の収束変位の関係式に基づき重回帰分析を行い、収束変位を算出する(ステップ104)。
【0060】
即ち、ステップ104で、トンネル健全度判定装置10の制御部11は、記憶部12等に記憶した、天端沈下量や内空変位量等の実測変位Yと、測定位置5と切羽3a、3b、3cとの距離の組合せ(Y1、L1)、(Y2、L2)、(Y3、L3)に対して、非特許文献1に示される、切羽からの距離L、収束変位A、実測変位Yの各変数の関係を示す式(1)
式(1)…Y=A×(1−exp(−L/b))+C
のフィッティングを上記の値の組を用いた重回帰分析により行い、この際の収束変位Aの値を算出する。式(1)において、bは収束係数、Cは計測遅れの補正項である。このようにして求めた収束変位Aは、制御部11のRAM等に記憶し、以降の処理に用いる。
【0061】
図5は、重回帰分析による収束変位Aの算出の例を説明する図で、切羽からの距離Lと変位Yとの関係の例を示したものである。51aは天端沈下量の実測変位、51bは内空変位量の実測変位の例である。また、53aは、天端沈下量について式(1)が示す距離Lと変位Yの関係を表す近似曲線を示し、53bは、内空変位量について式(1)が示す距離Lと変位Yの関係を表す近似曲線を示す。これらの近似曲線は、それぞれ上記の式(1)のフィッティングを重回帰分析により行った結果の例である。即ち、測定位置と切羽との距離Lが長くなる(トンネル掘削の進行)に伴って変位Yは増加するが、距離Lがある程度長くなると、変位Yは収束変位Aに収束する。ステップ104は、この収束変位Aの値を算出するものである。
【0062】
なお、収束変位Aの値は、測定位置5に限らず、トンネル1のほぼ全長に渡って適用可能なものである。即ち、トンネル1の各位置では、距離Lの増加(切羽の進行)に伴い内周面の変位がいずれ収束変位Aに収束する、あるいは既に収束しているものとみなすことができるためである。
【0063】
続いて、トンネル健全度判定装置10の制御部11は、算出した収束変位Aの値と、地質条件データと、構造物条件データを用いて、有限要素法等を用いた再現解析を行い、トンネル1の内周面ならびにその周囲の地盤やトンネル1の構造物等の各所(有限要素法における節点等)の変位、応力状態等を算出する。さらに、このようにして算出した変位、応力状態を用いてトンネル1の健全度に関する指標値を算出する(ステップ105)。上記したように、収束変位Aはトンネル1のほぼ全長で適用可能なものであり、この際の再現解析・指標値算出もトンネル1のほぼ全長にわたる範囲で行うことができる。
【0064】
前述したように、上記の地質条件データと、構造物条件データは、トンネル掘削前あるいは掘削時の、地質調査、支保等の計画や施工状態により予め定めることができ、ステップ105の処理を実行する際、またはこれに先行して、入力部15を介してトンネル健全度判定装置10に入力され、RAMや記憶部12等に記憶される。なお、ステップ105で用いるデータが多くなる場合は、実験計画法を援用することにより用いるデータを絞って上記の処理を高速化することも可能である。
【0065】
上記の指標値は、例えば坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、緩み範囲等である。坑内変位分布は、例えば支保等の未施工状態でトンネル1の内周面やその周囲の地盤の各所の変位状態を示すものである。支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力は、事前に計画したあるいは実際に施工した鋼製支保工や吹付けコンクリート、ロックボルト等のトンネル1に係る構造物について、各所の応力状態を求めるものである。地盤の緩み範囲は、例えば地盤が塑性状態にあるかどうかを示すもので、地盤の各所での応力状態や地盤強度等に基づき求めることができる。
【0066】
次に、トンネル健全度判定装置10は、上記の坑内変位分布、支保工応力、吹き付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲等を、予め定めた基準値と比較して安全側にあるかを判定し、トンネルの健全度を判定する(ステップ106)。これらの基準値は、予め定めておき、記憶部12等に記憶させておくことができる。なお、健全度の判定は上記のように基準値との比較により行うものに限られることはなく、また人手で行うことも可能である。
【0067】
トンネルが健全でないと判定された場合(ステップ107のNO)、支保パターンの見直しや、対策工の実施が行われる(ステップ108)。
【0068】
トンネルが健全であると判定された場合(ステップ107のYES)、そのまま掘削を続け(ステップ109のNO)、以下上記の処理を繰り返しながら、トンネルの掘削を続け、トンネルの掘削を終了する(ステップ109のYES)。上記の処理を繰り返すことで、ステップ102で実測するトンネル1の内周面の実測変位データが増加する。従って、ステップ104で収束変位Aを算出する際に行う重回帰分析の精度が上昇し、より精度の高い収束変位Aを算出することが可能になる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のトンネル健全度判定装置等では、トンネル1の内周面の変位を実測し、この実測変位とトンネル1の内周面の収束変位との関係を示す関係式の重回帰分析を行い、収束変位を算出して予測する。
【0070】
また、算出した収束変位と、地質条件データ、構造物条件データとを用いて再現解析を行い、変位収束時のトンネル1の内周面とその周囲の変位、応力状態を算出する。さらに、この変位、応力状態に基づいてトンネル1に関する指標値を算出し、この指標値に基づいてトンネルの健全度を判定する。この判定結果により、支保パターンの見直しや、対策工の実施を行うことができる。
【0071】
従って、トンネル1の収束変位は、変位の収束後にこれを実測するのではなく、収束前に実測したトンネルの変位を用いて早期に予測することができる。また、一連のトンネル健全度判定処理を情報通信技術を用いて連動・自動化することで、早期に取得したデータからトンネル健全度を判定する坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲といった指標を瞬時に得ることができる。従って、トンネル1の健全度を判定し、適切な対策工を実施等するために時間がかからず、迅速な対応が可能になる。
【0072】
また、トンネル1の収束変位の予測の際には、所定の測定位置で実測した実測変位を用いて、当該実測変位とトンネル1の内周面の収束変位との関係を示す関係式の重回帰分析を行い、収束変位を算出する。従って、個々のトンネルの状況に応じた予測が可能になる。また、トンネル1の掘削の進行とともに実測変位のデータを増やしてゆくことにより、重回帰分析を行った関係式の精度を上昇させ、収束変位の予測精度を上昇させることができる。
【0073】
これにより、トンネルの掘削工事の際に、切羽崩落や大変形による支保変状等のトラブルを未然に防ぎ、切羽進行の継続性を確保することや、過剰変位の発生による縫返し(再掘削)等の手戻りを防止することが容易になり、また早期に対策工を実施することにより対策工法の効率化が可能になる。また、過剰な地盤の緩み、変位を事前に防止することで、覆工コンクリートの設計厚の確保が容易になる。従って、トンネル工事の生産性向上を図ることができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るトンネル健全度判定装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
1………トンネル
3a、3b、3c………切羽
5………測定位置
5a、5b、5c、5d、5e………測定点
10………トンネル健全度判定装置
20………変位測定装置
31………収束変位予測手段
33………指標値算出手段
35………健全度判定手段
40………トンネル健全度判定セット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定装置であって、
前記トンネルの内周面の変位を所定の測定位置で実測した実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測手段と、
前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出手段と、
を具備することを特徴とするトンネル健全度判定装置。
【請求項2】
前記指標値に基づいて前記トンネルの健全度を判定するトンネル健全度判定手段を更に具備することを特徴とする請求項1記載のトンネル健全度判定装置。
【請求項3】
前記指標値算出手段は、前記収束値と、前記地質条件値、前記構造物条件値とを用いて、前記トンネルの内周面の変位の収束時の前記トンネルの内周面とその周囲の変位、応力状態を算出し、前記変位、応力状態に基づいて、前記トンネルの健全度に関する指標値を算出することを特徴とする請求項1記載のトンネル健全度判定装置。
【請求項4】
前記変位は、前記トンネルの内周面の天端沈下量または内空変位量であることを特徴とする請求項1記載のトンネル健全度判定装置。
【請求項5】
前記指標値は、坑内変位分布、支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、地盤の緩み範囲のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載のトンネル健全度判定装置。
【請求項6】
前記関係式は、前記実測値の測定位置と前記トンネルの切羽との距離を変数として含み、
前記実測値は、前記測定位置を固定し、前記切羽が所定の位置に達するごとに実測したものであることを特徴とする請求項1記載のトンネル健全度判定装置。
【請求項7】
トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定セットであって、
前記トンネルの内周面の変位を実測する変位測定装置と、トンネル健全度判定装置とを備え、
前記トンネル健全度判定装置は、
前記変位測定装置により所定の測定位置で実測した前記トンネルの内周面の変位の実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測手段と、
前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出手段と、
を具備することを特徴とするトンネル健全度判定セット。
【請求項8】
トンネルの掘削を行う際に前記トンネルの健全度を判定するためのトンネル健全度判定方法であって、
前記トンネルの内周面の変位を所定の測定位置で実測する変位測定工程と、
前記変位の実測値を用いて、前記実測値と前記トンネルの内周面の変位の収束値の関係を示す関係式について重回帰分析を行い、前記収束値を算出する収束変位予測工程と、
前記収束値と、地質条件値、構造物条件値とを用いて前記トンネルの健全度に関する指標値を算出する指標値算出工程と、
を具備することを特徴とするトンネル健全度判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163017(P2011−163017A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27548(P2010−27548)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)