説明

トンネル内位置推定機能付きナビゲーション装置

【課題】自律測位のためのセンサを備えていないカーナビで、トンネル内でも自車位置の推定を行う。
【解決手段】自律測位可能な他車からトンネル内の速度情報を入手し、自車の速度を推定する。トンネル内ではGPS測位できない自車は、トンネルに突入する前に、プローブセンタから対象トンネルを走行した他車のプローブ情報を入手し、その情報からトンネル内の走行速度を算出し、その算出された速度を自車の予測速度とみなして、自車位置の変化を予測する。また、プローブ情報が存在しないトンネル区間は交通情報を利用し、更に、車両間で直接通信できる場合は、自律測位が可能な周辺車両からトンネル内の走行速度を入手する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS測位を用いるカーナビゲーション装置に関するものであり、特にGPSが受信できないトンネル内で自車位置を推定可能なカーナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なカーナビゲーション装置(以下、カーナビと略す)では、GPS(Global Positioning System)あるいはジャイロや車両の車速パルスなどのセンサ値を用いて自車位置を特定している。GPSでは、複数のGPS衛星からの電波を受信し、それらの電波の到達速度の違いを利用して絶対位置を特定する。また、ジャイロや車速パルスの値からは、GPSの電波が受信できない場合に車両の移動量から相対位置を測位する。
【0003】
しかし、より低価格なカーナビを実現するために、ジャイロや車速パルスを用いず、GPSのみで測位するカーナビも存在する。このようなカーナビでは、GPSが受信できない場所では自車位置が測定できず、地図画面表示の更新や経路誘導ができなくなるという課題があった。特に長いトンネルでは、長期間誘導ができなくなり、またトンネルを出た直後に分岐する場合には、トンネル内での誘導を行うことができないという問題が生じる。
【0004】
そこで、トンネル内などのGPS電波が遮断される状況になると、携帯電話の位置情報サービスを利用することにより、ジャイロや車速パルスを用いずに自車位置を把握する方法が特開2003−161622号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−161622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、カーナビでは1秒程度の周期で自車位置を更新して地図表示や誘導を行っている。しかし、特許文献1に記載の方法では、測位する毎に基地局との通信を行うために測位結果を入手するまでにタイムラグが発生し、測位の度に基地局との通信によって数秒から数十秒の遅れが生じた場合、測位結果が実際の位置に対してずれてしまう。また、基地局による測位では測位精度の幅が大きく、数十mから1km程度の測位誤差が生じる恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の問題を解決するために、自律測位可能な他車からトンネル内の速度情報を入手し、自車の速度を推定する。多くの場合、トンネル内の位置計測は2次元空間の平面的な広がりを考慮する必要がなく、道路を線と見なしてこの上での位置を推定すれば良い。そして、トンネル内での自車位置を推定するために、トンネル内の他車の速度が入手できれば、自車もその速度でトンネル内を走行しているとみなし、自車の絶対位置の代わりに、他車の速度をもとに移動量を算出して、トンネル内の位置を推定する。
【0008】
そこで予め、トンネル内で自律測位可能な車両から、車両の位置をプローブ情報として定期的にプローブセンタに送信する。トンネル内では自律測位できない自車は、トンネルに突入する前に、これから進入するトンネルを走行した記録に該当するプローブ情報をこのプローブセンタから入手し、そのプローブ情報からトンネル内の走行速度を算出して自車の速度とみなす。また、プローブ情報が存在しない区間は交通情報を利用するか、車両間で直接通信できる場合は、自律測位が可能な周辺車両からトンネル内の走行速度を入手することで、トンネル内の走行速度を推定する。そして、推定した走行速度に基づき自車の移動量を算出して、自車位置を推定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、GPS測位手段を搭載し、自律測位できないカーナビでも、トンネル内走行速度を他車から入手することで、トンネル内の自車位置を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施例の全体構成を示す図である。
【図2】ロケータ92の内部構成を示した図である。
【図3】プローブセンタ10の構成を示した図である。
【図4】プローブDB150のフォーマットを示す表である。
【図5】トンネル内速度DBのフォーマットを示す表である。
【図6】トンネル内速度データを算出するフロー図である。
【図7】トンネル内速度補正処理のフロー図である。
【図8】トンネル内の走行速度を求める処理のフロー図である。
【図9】ロケータ92の処理フロー図である。
【図10】実施例の変形におけるプローブセンタ10の構成を示した図である。
【図11】プローブ情報と交通情報を併用する処理のフロー図である。
【図12】周辺の車両50から直接速度データを入手する処理を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態に係るカーナビゲーション装置について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の第一の実施例に係るカーナビゲーション装置が用いられるシステムの全体構成を示すものである。第一の実施例におけるカーナビゲーション装置は、以下、車両30に搭載されたカーナビ70として説明するが、このカーナビゲーション装置は常に車両30に搭載されているものに限られるものではなく、車両30と共に移動可能なナビゲーション装置であればよい。本願発明を用いたカーナビ70は、トンネル20内では自律測位できない車両30に搭載されている。車両30は更に、外部と通信するためのインターネット通信手段60を持つ。カーナビ70が車両30を経路に添って誘導する処理は、車両30の現在位置を把握できていることが必要条件である。従ってトンネルを通過直後に分岐するようなケースでは、トンネル内での誘導が必要になり、カーナビ70にとってトンネル内でも現在位置を把握することが必要になる。しかしカーナビ70は、GPSによって測位を行うため、GPSの電波が受信できないトンネル内では測位ができず、結果、GPSによる測位結果に基づき表示画面31に表示された地図上の自車位置マーク40を正しい位置に表示することができない。
【0013】
そこで車両30は、トンネル20に突入する直前、またはトンネル内でプローブセンタ10にアクセスし、他車(この例では車両50)がトンネル20を走行した時にアップロードしたプローブ情報をダウンロードする。プローブセンタ10では、複数の車両からプローブ情報を収集してこれを各車両に配信している。また、先行する車両50は自律測位可能なロケータ92によってトンネル内でも測位が可能であり、プローブ送信手段80によって、所定の時間間隔(例:30秒単位)で自車位置をプローブセンタ10にプローブ情報としてアップロードしているものとする。
【0014】
車両30では、プローブセンタ10からダウンロードした先行する車両50のプローブ情報からトンネル内の走行速度を算出し、その速度を自車の速度と見なして、表示画面31に表示されている地図上に自車位置マーク40を表示する。
【0015】
カーナビ70は、ナビゲーションの目的地を設定するためのメニュー描画手段710,地図を表示するための地図描画手段720,現在地から目的地までの経路を探索するための経路探索手段730,経路に従って誘導情報を生成する誘導手段740,地図や目的地情報を格納する地図DB(Data Base)750,自車位置を測位するロケータ770,全体をコントロールするシステムコントロール760,地図や自車位置マーク40を表示する表示画面31を備えている。また、カーナビ70は、インターネット通信手段60によってインターネットと接続可能となっている。ロケータ770は、GPSの電波を受信して現在位置を測位するGPS受信手段780によって、周期的に自車位置を測位する。マップマッチング手段790は、GPS受信手段780が出力した測位データを元に、地図DB750の地図情報から走行中の道路名称(または番号)とその道路上の自車位置を特定する。トンネル検出手段800は、マップマッチング手段790が特定した道路の情報により、自車の前方におけるトンネルの有無と、トンネルが存在する場合そのトンネルまでの距離を算出する。位置推定手段810は、プローブセンタ10からダウンロードした他車両のプローブ情報を元に、トンネル内の自車位置を推定する。
【0016】
図3は、プローブセンタ10の構成を示した図である。プローブセンタ10は、インターネットに接続するための通信手段100を経由して、車両から送られてくるプローブ情報を収集するプローブ収集手段110と、その収集されたプローブ情報を一時的に蓄積するプローブDB150、プローブDB150に蓄積されたプローブ情報から、各トンネル毎にトンネル内の車両の速度情報を生成するトンネル内速度データ変換手段140と、生成されたトンネル内の速度情報を蓄積するトンネル内速度DB130、通信手段100を介して車両からの要求を受付け、その要求に応じてトンネル内速度データを要求を送信した車両へ配信するトンネル内速度データ配信手段120を備えている。
【0017】
地図DB200は、収集したプローブ情報が、どの道路のデータを示すのか、またどのトンネルにおけるデータなのかを判定するための地図データを記憶する。この地図データでは、各道路を道路リンクと呼ぶ道路区間で管理し、各道路リンクには、識別のための番号と道路形状データ(位置データの点列)が対応付けられている。道路リンク旅行時間変換手段180は、収集したプローブ情報から、各道路リンク毎に夫々の道路リンクを走行した車両のその道路リンクの走行時間を求めて統計処理を行い交通情報を作成し、作成された交通情報は道路リンク旅行時間DB170に蓄積される。道路リンク旅行時間DB170に蓄積された交通情報は車両からの要求に応じて交通情報配信手段160が配信する。
【0018】
図4は、プローブDB150のフォーマットを示す表である。この表は、どの車両からプローブ情報が送信されたのかを区別するための車両ID,車両が記録した各データの送信時刻,プローブ情報を送信する際に測位されていた位置を緯度経度で表した位置データからなる。プローブセンタ10は、各車両が30秒毎に送信してくるプローブ情報を受信してそのまま記録する。これにより、同じ車両IDの2つのプローブ情報から、それぞれの位置の差から2地点間の距離が求まり、また時間の差からその2地点間の経過時間(30秒)が求まり、走行速度を算出することができる。
【0019】
図5は、トンネル内速度DB130のフォーマットを示す表である。この表は、トンネルを識別するためのトンネル番号、そのトンネル内の車両速度が計測された時間とその速度、また速度の計測に使用された2つのプローブ情報の計測開始と計測終了の2点の位置情報(開始位置,終了位置)からなる。プローブ情報はトンネルの出入口で計測されるわけではないため、データ毎にこの開始位置と終了位置が異なる。従って、1つのデータではトンネルの一部区間しか計測されていない場合があることから、1つのトンネルに対して複数のデータを保持することで、トンネル全体について速度情報が記録されるようにする。
【0020】
図6は、プローブセンタ10が、トンネル内における車両の走行速度データを算出するトンネル内速度データ変換手段140における処理のフローを示したものである。この処理は、プローブ収集手段110が車両からプローブ情報を受信し、プローブDB150に格納する毎に起動される。まず、通信手段100とプローブ収集手段110を介して車両から受信したプローブ情報の中の緯度経度情報を地図DB200と照合し、この車両が走行している道路を特定する(S100)。次に、特定された道路の属性情報を地図DB200から読み出す。道路の属性情報には、それぞれの道路におけるトンネルの有無と、トンネルが存在する場合はその位置情報が記録されている。この道路の属性情報を用いて、まず特定された現在走行中の道路にトンネルが存在するかどうかを判定する。もし走行中の道路にトンネルが存在するならば、車両IDと時間の情報を元に、プローブセンタ10が受信したこのプローブ情報を送信した車両が1つ前に送信したプローブ情報をプローブDB150から読み出す。そして、同じ車両が1つ前に送信したプローブ情報のデータが示す緯度経度情報によって道路上の位置を求める。この1つ前の緯度経度情報と今回の緯度経度情報の差分により、車両が道路上をどちらに走行しているかという走行の向きと道路上の走行範囲が特定される。
【0021】
このようにして求めた車両の走行範囲と方向から、その車両がトンネル内を走行したものかどうかを判定し、そのプローブ情報がトンネル内を走行した際のデータを含んでいるか否かを判断する(S110)。もしトンネル内を一部でも走行したものであれば、1つ前と今回のプローブ情報における位置情報に対応した2点間の道路上の距離を地図DB200の道路形状データから算出し、1つ前と今回のプローブ情報における時間の情報の差分からこの道路区間の通過に要した所要時間を求め、その区間の速度を求める(S120)。その速度データはトンネル内速度DB130にトンネル番号毎に記録される(S130)。その後、現在の時刻と、トンネル内速度DBに格納しているデータの記録時刻を比較し、現在より30分以上経過したデータがあれば、それを削除する(S140)。これは、一定時間(この例では30分)経過したデータは、この間の道路状況の変化により速度情報としての信頼性が低下し、参考にできないと考えられるためである。
【0022】
図7は、車両30に搭載されたカーナビ70の位置推定手段810におけるトンネル内速度補正処理のフローを示したものである。カーナビ70では、マップマッチング手段790が、GPS受信手段780で逐次受信しているGPSの電波から計算した緯度経度情報に基づき、車両30が走行中の道路と進行方向を常に計算している。位置推定手段810ではこのマップマッチング手段790が求めた走行中の道路の道路番号と走行方向をマップマッチング手段790から取得する(S200)。そして取得した道路番号について、トンネル検出手段800により、地図DB750の情報に基づいて、走行中の道路で走行方向の所定距離(例:2km)先までにトンネルが存在するかどうかを判定する(S210)。トンネル検出手段800による処理の結果、もし所定距離前方までにトンネルが存在しないのであれば、所定時間後再びS200の処理を行う。一方、所定距離前方までにトンネルが存在すると判定されたならば、見つかったトンネルのトンネル番号を所得して、システムコントロール760の制御の下、インターネット通信手段60によってこのトンネル番号を指定してプローブセンタ10から各トンネルに関する道路区間の一部または全部を計測区間に含む速度データを全てダウンロードする(S220)。もし、指定したトンネルの速度データをダウンロードすることができなかった場合には(S225:No)、トンネル内速度の補正を行うことができないため、この処理を終了し再びS200の処理に戻る。また、トンネルの速度データをダウンロードできた場合(S225:Yes)、次に、このダウンロードした速度データを分析し、トンネル内を走行する時の車両30の予測走行速度を求める(S230)。この処理については後に図8を用いて詳細に説明する。
【0023】
この後、車両30がトンネルに入る直前でUターンや脇道への分岐を行っていないか、マップマッチング手段790から取得した道路番号と、前回マップマッチング手段790から取得した道路番号を比較して道路を逸れたか否か確認し(S240)、予測走行速度を求めたトンネルが道路前方に存在しなくなれば、S200の処理に戻る。道路を逸れていない場合、車両30が予測走行速度を求めたトンネルに入ってGPSの電波を受信することができなくなったか否か、GPS受信手段780の受信状態を調べ、少なくとも3つ以上の衛星からのGPSの電波が受信できている場合(S242:Yes)には、GPS受信手段780で受信しているGPSの電波から計算した緯度経度情報に基づきマップマッチング手段790で計算した現在の自車位置を更新し(S246)、まだトンネル内に進入していないものとしてS240に戻る。
【0024】
また、測位に必要なGPSの電波が受信できない場合(S242:No)には、S210で見つけたトンネルに進入したものとして、予め算出しておいたトンネル内の予測走行速度に従って自車の現在位置を求め、表示画面31における地図上の自車位置マーク40の表示を更新する(S246)。そして、予測走行速度により求めた自車位置がまだトンネル内であるか否かを判定する(S250)。自車位置がまだトンネル内であれば(S250:Yes)、トンネルに進入してからトンネルを抜けるまで、所定間隔(例:2分)を計測し続け、所定時間が経過したか判定する(S250)、まだ所定時間間隔が経過していなければ(S260:No)S242の処理に戻る。また所定時間間隔が経過していれば(S260:Yes)、その時間間隔でS220と同様にプローブセンタ10からトンネル内速度データを入手し、トンネル内速度データをダウンロードすることができなかった場合には(S270:No)、直前の予測走行速度を用いることにしてS242の処理に戻る。また、トンネル内速度データをダウンロードできた場合(S270:Yes)、S230と同様にしてダウンロードした速度データを分析し、新たな予測走行速度を求め(S274)、S242の処理に戻り、これらの処理をトンネルを抜けるまで繰り返す。
【0025】
そして、自車位置がまだトンネル内ではない(S250:No)と判定された場合でも、予測走行速度に基づく位置推定の誤差により、実際にはまだトンネルを抜けていない可能性があるため、表示画面31の中で、トンネルを抜ける位置に自車位置マーク40を表示して、GPSの電波の受信が再開されるまで、自車位置の表示をその場所で止め、GPSの受信が再開されるまで自車位置を更新せず、GPSの電波が受信されてマップマッチング手段790から現在位置が取得できたときに現在位置を更新する(S280)。
【0026】
図8は、カーナビ70が、トンネル内の車両30の予測走行速度を求めるS230の処理のフローを示したものである。プローブセンタ10から取得した先行する他車両のトンネル内速度データのうち、その速度データにトンネルに入る前の区間の速度データが含まれるかを、速度データの開始位置の座標がトンネル内に突入する前の道路部分に対応するか否かで判定する(S310)。トンネルに入る前のデータが含まれるトンネル内速度データからは、その速度データの開始位置からトンネル入口までの区間を自車が実際に走行した時間を差し引いて、トンネル内のみの走行時間とトンネル内区間の距離を求めて、予測走行速度を計算する。例えば、トンネル内速度データの全計測区間Aの内、トンネル突入前の部分をBとして、トンネル内区間C=A−Bの走行速度を求める(S320)。また、速度データの開始位置をトンネル入口の座標にする。
【0027】
仮に、プローブセンタ10から入手したトンネル内速度データの全区間Aが750mでその所要時間30秒(速度換算90km/h)であり、自車が実際に走行したトンネル手前の区間Bが200mで所要時間が9秒(速度換算80km/h)であったとする。その場合、トンネル内区間Cの550mは、区間Aの所要時間30秒から区間Bの所要時間9秒を引いた21秒で走行可能(速度換算94.3km/h)であるとみなす。つまり、Aの区間の所要時間を自車が区間Aを走行した場合の正しい時間と見なして、自車の走行でBの区間の所要時間を実測した結果の残りの区間CはAの所要時間からBの所要時間を引いた残りの所要時間で走行すると仮定する。これは、先行車両のプローブ情報があくまでも30秒単位で収集され平均化された速度であるのに対して、自車の計測部分は、トンネル外の部分の実測値であり、もしトンネルの外と中で交通状況が変わっているとしたならば、実測部分(トンネル外の部分)を差し引いた方がトンネル内の精度が向上すると考えられるためである。
【0028】
次に、S310と同様にして、速度データの計測範囲がトンネル出口を越えた道路区間を含んでいるか否かを、速度データの終了位置の座標をもとに判定し(S330)、トンネル出口を越えた道路区間が計測範囲に含まれている場合(S330:Yes)には、トンネル出口から先の道路区間の走行時間として、速度データの計測区間全体の距離に対するトンネル出口から先の道路区間の距離の比で速度データの計測区間全体の走行時間を配分した時間とし、これを速度データの計測区間全体の走行時間から差し引くことでトンネル内の走行時間とし、速度データの終了位置をトンネル出口の座標とする(S340)。こうして、受信した速度データから、トンネル区間外の計測区間を取り除き、トンネル区間内の平均走行速度を求める。走行以上の処理を受信した全ての速度データをチェックするまで続ける(S350)。
【0029】
トンネル入口の座標と各速度データの計測区間の開始位置の座標から、トンネル入口と速度データの計測区間の開始位置までの距離を求め、各速度データをトンネル入口に近い順にソートする(S360)。これらのデータを各速度データの開始位置で予測区間に区切り、それぞれの予測区間で最も時間が新しい速度データにおける平均走行速度を、自車の予測走行速度と見なす(S370)。もし、定義されない区間が有る場合、その直前の予測区間の速度を用いる。また、直前の予測区間に速度データが存在しない場合、直前の自車速度を用いる。
【0030】
次に、車両50が、トンネルの入口と出口の地点でプローブ情報をプローブセンタ10にアップロードする処理について説明する。トンネルの中では、プローブセンタ10との通信を行うことができない事態が発生することが考えられる。そのため、車両50は、トンネルの出口と入口でプローブ情報をプローブセンタ10にアップロードするようにしても良い。図2は、車両50に搭載されているロケータ92の内部構成を示したものである。測位を行うためのGPS受信手段922,ジャイロ923及び車速信号入力手段924を持つ。またジャイロ923及び車速信号入力手段924により車両の移動方向と移動した距離を求め、GPS受信手段922がGPSの電波を受信できない場合でも、求めた移動方向と移動距離から自車位置を推定する。マップマッチング手段925は、GPS受信手段922で測位された位置情報と地図DB927によって、走行中の道路とその道路上の位置を特定する。トンネル検出手段926では、前述のトンネル検出手段800と同様にして、走行中の道路の進行方向先に存在するトンネルを検出する。時計921は、定期的にプローブ情報をプローブセンタ10に送信するためのタイミングを計測するものである。制御手段920はロケータ92の全体を制御する。
【0031】
図9は、ロケータ92の処理フローを示したものである。制御手段920では、GPS受信手段922,ジャイロ923及び車速信号入力手段924からの出力値によって現在位置の緯度・経度を測位する(S600)。その測位結果をもとに、マップマッチング手段925は、道路上の位置データを算出する(S610)。制御手段920は、時計921で計測している時間に基づき、一定時間が経過したか否かを判定し(S620)、一定時間(例えば30秒)毎にその時の時刻とマップマッチング手段925で算出した道路上の位置情報に車両IDを付してプローブ情報として、プローブ送信手段80を介してプローブセンタ10に送信する(S630)。
【0032】
また、一定時間が経過していない場合でも(S620:No)、トンネル検出手段926がトンネル入口を検出した場合(S640:Yes)は、その時点の時間と道路上の位置情報をプローブ情報としてプローブセンタ10に送信する(S650)。次に、トンネルに進入してしまうとGPSの電波は受信できないので、ジャイロ923と車速信号入力手段924を用い、デッドレコニングによって自車位置の移動量を推定して緯度・経度情報を求め(S660)、推定した自車位置を元にマップマッチング手段925により道路上にマッチングさせる(S670)。そして、道路上にマッチングさせた自車位置がトンネルの出口に達したか判断し(S680)、トンネル出口に達した場合(S680:Yes)には、その時点の時間と道路上の位置情報をプローブ情報としてプローブセンタ10に送信する(S650)。これにより、トンネルの入口と出口でプローブ情報がプローブセンタ10に送信されることになる。また、トンネル出口に達していないと判断された場合(S680:No)には、S660に戻り処理を続ける。
【0033】
次に、実施例の変形として、プローブ情報と交通情報を併用する場合について説明する。この場合の例は、プローブ情報の収集件数が少ない場合に有効な方法であり、プローブ情報が入手できない区間では、交通情報から算出された速度データを使用する。
【0034】
図10は、プローブ情報と交通情報を併用するためのプローブセンタ10の構成を示したものである。図3に示したプローブセンタの構成に、交通情報を外部から入手するための交通情報入手手段210が追加されている。また、入手した交通情報が対応する道路を特定するための対応関係は地図DB200に記憶されているものとする。
【0035】
図11は、プローブセンタ10によるプローブ情報と交通情報を併用する場合の処理のフロー図である。定期的に入手したVICS(登録商標)情報などプローブ情報以外の交通情報の中から、トンネルが存在する道路部分のデータを抽出する(S400)。その抽出されたデータに対応するトンネルの速度データがトンネル内速度DB130に格納されているか、または一部区間欠落しているものがないかチェックし、プローブによる速度データが存在しないトンネルの交通情報を抽出する(S410)。抽出された交通情報に対応するトンネル内速度データの一部、または全部がない場合、それらのデータを図5に対応するデータに変換する。例えば、交通情報は、道路リンクごとの平均速度と計測時間が提供される。したがって計測時間はそのまま時間のフィールドに当てはめる(S420)。速度のフィールドの値はリンク旅行時間と当該リンクの距離から速度を算出し、地図DB200から当該道路リンクのトンネル部分の入口と出口の位置情報を取り出して開始位置と終了位置とする(S430)。これにより、カーナビ70は、第一の実施例から変更することなく処理が可能である。
【0036】
次に、実施例の他の変形として、車両30がプローブセンタ10を介さずに、その周辺を走行している他の車両50から直接速度データを入手する場合の例について説明する。この例の場合、カーナビ70は、定期的にトンネル内の速度データを周辺の車両50から入手することができるため、その周辺の車両50のデータをそのまま自車(車両30)の速度とみなすことが可能となり、プローブセンタ10が不要で、しかもカーナビ70の処理が簡素化できる。
【0037】
この例では、これまでに説明してきた実施例に加え、車両30に車両間同士で通信を可能にする車車間通信ユニットを搭載し、また車両50にも同じく車車間通信ユニットを搭載する。これらの車車間通信ユニット間は、通信距離が数百メートルの範囲であり、これらを用いて車両30は、車両50から速度データを入手する。
【0038】
図12は、車両30が搭載するカーナビ70が、周辺に存在する車両50から直接速度データを入手するための処理を示したフロー図である。まず、自車両がトンネルに突入する前に、自車と同じ道路を同じ方向に走行中の通信可能な車両をサーチする(S500)。この場合、自車の先行車でも後続車でもかまわない。次に、通信可能な車両がサーチできたら、速度情報の通信が可能かどうか問い合わせる(S510)。この理由は、速度情報を入手できる車両は、ロケータ92がトンネル内でも自律測位可能な場合でかつ、速度情報を他車に提供することを許可する車両に限られるからである。車両30が速度情報を入手可能ならば(S520)、その車両から速度情報を入手し、その速度を自車の速度として自車の推定位置を求め、表示画面31における地図上の自車位置マーク40の表示を更新する。トンネルを脱出するまで(S550)、数秒から数条単位で定期的(例として、30秒間隔)に通信してリアルタイムの速度情報を入手する(S540)。
【0039】
以上、本発明によれば、ジャイロなどの自律測位手段を持たずトンネル内で測位できないカーナビ70がトンネル内の走行速度を推定可能となり、カーナビ70が正しい誘導を行うことが可能になる効果がある。
【符号の説明】
【0040】
10 プローブセンタ
20 トンネル
30,50 車両
31 表示画面
40 自車位置マーク
60 インターネット通信手段
70 カーナビ
80 プローブ送信手段
92,770 ロケータ
100 通信手段
110 プローブ収集手段
120 トンネル内速度データ配信手段
130 トンネル内速度DB
140 トンネル内速度データ変換手段
150 プローブDB
160 交通情報配信手段
170 道路リンク旅行時間DB
180 道路リンク旅行時間変換手段
200,750,927 地図DB
210 交通情報入手手段
710 メニュー描画手段
720 地図描画手段
730 経路探索手段
740 誘導手段
760 システムコントロール
780,922 GPS受信手段
790,925 マップマッチング手段
800,926 トンネル検出手段
810 位置推定手段
920 制御手段
921 時計
923 ジャイロ
924 車速信号入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図情報を記憶した地図データベースと、人工衛星から受信した電波信号に基づいて現在位置を測位する測位手段を備えたナビゲーション装置であって、
自装置が移動している道路の前方に存在するトンネルを検出するトンネル検出手段と、
他の車両の走行データを情報センタから入手する走行データ取得手段と、
前記トンネル検出手段により移動中の道路前方にトンネルの存在を検出すると、前記走行データ取得手段により、当該検出されたトンネルを走行した他車両の走行データを前記情報センタから取得し、取得した走行データにおける当該トンネル内の走行速度を自装置の移動速度として、当該トンネル内における自装置の現在位置を推定する位置推定手段と
を備えることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記情報センタから取得する走行データは、他車両の位置情報と該位置情報を計測した時間情報を含み、取得した前記走行データが複数の車両による走行データを含む場合には、前記位置推定手段は、各走行データの前記トンネルに対応する区間の速度情報を当該トンネルの入口から近い順に並び替え、前記位置情報で区切られる区間毎に速度情報を算出し、前記区間毎に最新の速度情報を、トンネル内の各区間における自装置の移動速度とすることを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
速度データを前記他車両の走行データから取得できない前記トンネル内の区間については、当該トンネルに関する交通情報を速度データに変換した速度情報を前記情報センタから取得して自装置の移動速度とすることを特徴とする請求項1及び2に記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のナビゲーション装置であって、
更に、他の車両とデータの送受信を行う車車間通信手段を備え、
前記位置推定手段は、前記トンネル検出手段により移動中の道路前方にトンネルの存在を検出すると、前記車車間通信手段により同一道路を同一方向に走行中の他車両との通信を行い、前記他車両から受信した走行速度を自装置の移動速度とすることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項5】
地図情報を記憶した地図データベースと、人工衛星から受信した電波信号に基づいて現在位置を測位する測位手段を備えたナビゲーション装置の位置推定方法であって、
自装置が移動している道路の前方の所定距離内に存在するトンネルを検出し、移動中の道路前方にトンネルの存在を検出した際には、当該検出されたトンネルを走行した他車両の走行データを情報センタから取得し、取得した走行データにおける当該トンネル内の走行速度を自装置の移動速度として、当該トンネル内における自装置の現在位置を推定する
ことを特徴とするナビゲーション装置の位置推定方法。
【請求項6】
前記情報センタから取得する走行データは、他車両の位置情報と該位置情報を計測した時間情報を含み、取得した前記走行データが複数の車両による走行データを含む場合には、各走行データの前記トンネルに対応する区間の速度情報を当該トンネルの入口から近い順に並び替え、前記位置情報で区切られる区間毎に速度情報を算出し、前記区間毎に最新の速度情報をトンネル内の各区間における自装置の移動速度とすることを特徴とする請求項5に記載のナビゲーション装置の位置推定方法。
【請求項7】
速度データを前記他車両の走行データから取得できない前記トンネル内の区間については、当該トンネルに関する交通情報を速度データに変換した速度情報を前記情報センタから取得して自装置の移動速度とすることを特徴とする請求項6及び6に記載のナビゲーション装置の位置推定方法。
【請求項8】
請求項5乃至7に記載のナビゲーション装置の位置推定方法であって、移動中の道路前方にトンネルの存在を検出すると、更に車両とデータの送受信を行う車車間通信により同一道路を同一方向に走行中の他車両との通信を行い、前記他車両から受信した走行速度を自装置の移動速度とすることを特徴とするナビゲーション装置の位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−174770(P2011−174770A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38103(P2010−38103)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】