説明

トンネル地山補強工法

【課題】高価なウレタン系材料を使用せずに、セメント系材料を用いて効率的に施工することができるトンネル地山補強工法を提供する。
【解決手段】急硬性を有するモルタルをトンネル内から地山の内部に注入して打設する地山補強工法において、らせん軸部材の回転を利用して一軸管内でモルタルの練り混ぜおよび圧送を連続的に行うポンプを用いて、打設時の温度で材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となる配合のモルタル混練物を調製するとともに打設するトンネル地山補強工法。 モルタルの水粉体比は30〜40%とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルや地下空洞等のトンネル工事において掘削を安全に進めるために、掘削済みのトンネル上部前方あるいは切羽前方を補強する先受け工や鏡補強工、トンネル支保の安定を確保するロックボルト工等に適用できる地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
未固結地山、脆弱な状況下の地山を掘削するトンネル工事において、掘削を安全に進めるために切羽前方地山を補強する工法が採用されることがある。この地山補強工法には、トンネルの掘削に先立って天端部の剥離を防止するために切羽から前方地山のトンネル外周にアーチ状の地山補強体を形成する先受け工(例えば特許文献1、2)と、最も補強が必要な応力開放面である切羽鏡面から切羽前方地山を補強して先行変位を抑制する鏡補強工(例えば特許文献1、3)がある。
【0003】
これらの地山補強工法は一般に山岳トンネル工法で使用する掘削機械を用いて削孔ロッドで削孔し、二重管方式等で補強管を地山内に配置する。そして、削孔の前進に伴って補強管を接続しながら削孔の所定の位置まで配置した後、補強管と地山の間にセメント系やウレタン系の充填材を注入して付着力を確保する。補強管は掘削作業の妨げとならないように切削可能なGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製や鋼製のものが用いられ、例えば直径80mm程度、長さ3000mm程度のものを接続して使用する。
【0004】
図1に先受け工の施工例を示す。トンネル内部Tの切羽2の前方上部の地山1内に削孔を設け、その中に補強管3を接続配置し、管内および周囲の地山1内に充填材(モルタル等)を注入し、固結領域4を形成して地山1を補強する。固結領域4はトンネルの上部にトンネル軸方向に見てアーチ状に形成される。
【0005】
図2に鏡補強工の施工例を示す。トンネル内部Tの切羽2の前方の地山1内に削孔を設け、その中に補強管3を接続配置し、管内および周囲の地山1内に図1の場合と同様に充填材を注入して固結領域4を形成し、切羽2前方の地山1を補強する。
【0006】
図3にロックボルト工の施工例を示す。トンネル山岳工法であるNATM工法の支保部材として用いられるロックボルトは、充填材を介して地山を補強するものである。所定の位置に所定の長さで形成した削孔にロックボルトを挿入し、その周囲に充填材を注入する。ロックボルトで地山を補強することによって発揮される縫付け・吊下げ効果、梁形成効果、内圧効果、アーチ形成効果、地山改良効果を利用してトンネル支保の安定を確保する。
【0007】
先受け工や鏡補強工において充填材として一般的なセメント系材用を使用する場合、充填材が十分な強度を発現するには時間を要するため、それが施工進捗の妨げとなる場合がある。そこで、早期に高い強度を発現する充填材としてウレタン系材料を用いる方法がある。しかし、ウレタン系材料は高価でありコスト増大につながる。
【0008】
また、ロックボルト工の場合は、ロックボルトとその周囲の充填材との付着力、および充填材と地山との付着力が要求される。前者の付着力については一般的なセメント系材料を使用すれば問題は無いが、後者の付着力については充填材と地山条件によって十分な付着力が得られず引抜き耐力が低下する可能性があるので、注意を要する。早期強度発現に優れるウレタン系材料を使用すればこの問題は解消するが、前述のようにコスト増大につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−52393号公報
【特許文献2】特開平8−121073号公報
【特許文献3】特開平4−357293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、地山補強工法においては充填材として早期強度発現に優れた材料の適用が望まれる。本発明は、高価なウレタン系材料を使用せずに、セメント系材料を用いて効率的に施工することができるトンネル地山補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、急硬性を有するモルタルをトンネル内から地山の内部に注入して打設する地山補強工法において、らせん軸部材の回転を利用して一軸管内でモルタルの練り混ぜおよび圧送を連続的に行うポンプを用いて、打設時の温度で材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となる配合のモルタル混練物を調製するとともに打設するトンネル地山補強工法によって達成される。モルタルの水粉体比を30〜40%とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ミキサーと圧送ポンプが一軸配置されている汎用の一軸ポンプを用いた場合にも均一性が高く流動性に優れた混練物を得ることができる配合の急硬性モルタルを、前記一軸ポンプで混練し連続的に圧送してトンネル内から地山に連続的に注入するので、効率的にトンネル地山の補強を行うことができる。高価なウレタン系の固結材を使用する従来の工法に比べ顕著なコスト低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】先受け工の施工例を模式的に示した図。
【図2】鏡補強工の施工例を模式的に示した図。
【図3】ロックボルト工の施工例を模式的に示した図。
【図4】汎用型一軸ポンプの外観を例示した図。
【図5】汎用型一軸ポンプにおける一軸部分の構造を模式的に例示した図。
【図6】材齢と圧縮強度の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、打設時の温度で材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となる配合のモルタル混練物を調製し、これを充填材として地山内部に注入する。工法としては従来一般的な先受け工、鏡補強工、ロックボルト工などのトンネル地山補強工法に適用することができる。
【0015】
トンネル掘削工事の進捗の妨げとならないようにするためには、早期に強度を発現するセメント系材料を使用する必要がある。種々検討の結果、材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となる配合の急硬性モルタル混練物を適用することが有効である。それより強度レベルが低いものでは、施工の安全性や地山の安定を早期に確保することが難しいので、トンネル掘削工事の進捗の妨げとなる場合がある。また、モルタル混練物は温度によって特に硬化途上の段階での強度発現性に差が生じる。温度が高いほど強度レベルは上昇する。このため、打設時の温度において材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となるように配合調整する。例えば粉体P(細骨材以外の粉体+混和材)と細骨材Sの比P/Sが同等レベルであるものにおいて、結合材の割合を大きくすると、同じ温度における強度レベルは高くなる。水粉体比は30〜40%の範囲で調整することが望ましい。ただし、強度を過度に高める必要はなく、例えば打設時の温度における材齢3時間圧縮強度が5〜10N/mm2の範囲となるように配合調整すればよい。
【0016】
本発明では、らせん軸部材の回転を利用して一軸管内でモルタルの練り混ぜおよび圧送を連続的に行うポンプを使用する。特に土木現場などにおいて汎用されている公知の一軸ポンプを利用することができる。ただし、このような簡便な方法でモルタル原料を均一化させるためには、できるだけ混練性のよいモルタル配合とすることが重要である。同時にモルタルの流動性が良好であることも要求される。混練性や流動性は、水粉体比が同等であれば、粉体細骨材比P/Sを小さくすることによって改善される。ただし、混練性・流動性と、強度レベルとは、トレードオフの関係になりやすいので注意を要する。
【0017】
例えば、結合材を含む粉体Pと細骨材Sの質量比P/Sが1〜3、粉体Pに占める結合材の割合が60〜80質量%、粉体Pと細骨材Sの合計に占める結合材の割合が50質量%以下の範囲において、打設時の温度での材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となるように粉体細骨材比P/Sおよび水粉体比を調整することにより、汎用の一軸ポンプを用いた混練および圧送が可能となる。
【0018】
図4に、土木現場で使用される汎用型一軸ポンプの例として、株式会社ケー・エフ・シー製「MAIポンプ」の外観を示す。ホッパーからモルタルの原料を投入し、撹拌された混練物が吐出口から押し出される。一軸部分はミキサー部とポンプ部で構成されている。
【0019】
図5に、図4の前記汎用型一軸ポンプにおける一軸部分の構造を模式的に示す。ホッパー(図4)からモルタル原料が投入され、ミキシングスクリューと撹拌羽根によって混練され、得られたモルタル混練物はポンプ外筒の中に送られ、ローター(らせん軸部材)の回転力により吐出口(図4)から押し出されるようになっている。これによりモルタルの混練と圧送を連続的に行うことができる。
【実施例】
【0020】
図4、図5に例示した一軸ポンプ(株式会社ケー・エフ・シー製;MAIポンプ M400J 6.0Kw型)を用意し、その吐出口に圧送用ホースを接続した。先受け工などの実際のトンネル地山補強工法を想定して、ホースの長さは10〜20mとした。
【0021】
これらの材料を用いて、前記一軸ポンプにて各種配合のモルタル混練物を作製するとともにホースへ圧送し、モルタルの流動性およびホースから吐出されたモルタルの混練性(モルタルの均一性)を調べた。その際、練り混ぜ水の温度を5〜30℃の範囲で変動させることにより、流動性および混練性の温度依存性を調べた。水粉体比W/Pも種々変動させ、流動性および混練性の水量依存性を調べた。吐出されたモルタルを用いて、打設温度20℃および10℃で圧縮試験体を作製し、同温度における種々の材齢での圧縮強度を調べた。
【0022】
表1に、構成材料の配合および打設温度20℃での材齢2時間圧縮強度(σ2hr)または材齢3時間圧縮強度(σ3hr)を示す。この圧縮強度は、最も良好な混練性が得られた、水粉体比W/Pが33〜39%における配合によるものである。この範囲は実機ポンプでの施工性を踏まえて水量の変動幅を考慮した。
【0023】
【表1】

【0024】
配合No.1は、粉体細骨材比P/Sを高くしたものであり、良好な流動性が得られ、10〜20℃において材齢3時間圧縮強度(σ3hr)5N/mm2以上が実現された。しかし、モルタルの流動性および混練性の温度依存性や水量依存性が大きく、工事現場で安定した特性を確保しにくいという面がある。また粉体使用量が多いためコストが高くなる。
【0025】
配合No.2は、配合No.1と粉体細骨材比P/Sは同じであるが、結合材の比率を低くしたものである。この場合、流動性および混練性の温度依存性や水量依存性は改善された。しかし、一軸ポンプによる練り混ぜでは団結が多く生じ、均質なモルタル混練物が得られなかった。
【0026】
配合No.3は、配合No.1よりもりさらに粉体細骨材比P/Sを低くすることにより流動性および混練性の改善とコストダウンを狙ったものである。その結果、一軸ポンプでの混練が可能となった。また、打設温度が20℃程度以上と比較的高い場合には、材齢3時間圧縮強度(σ3hr)も5N/mm2以上を満足する。
【0027】
配合No.4は、配合No.3と同等の粉体細骨材比P/Sとして、結合材の比率を少し高めたものである。これにより強度レベルが向上し、材齢3時間圧縮強度(σ3hr)が5N/mm2以上を満たす温度範囲がより低温側に拡がった。一軸ポンプでの混練も可能であり、流動性も良好であった。
【0028】
配合No.5は、配合No.4の粉体細骨材比P/Sをさらに低くしたものである。流動性および混練性は配合No.3、4よりさらに向上し、圧縮強度は配合No.3と同等レベルに維持された。材料コストは配合No.3、4より低く抑えられた。なお、この配合No.5を基にして結合材の比率を調整すれば、材齢3時間圧縮強度(σ3hr)が5N/mm2以上を満たす温度範囲をシフトすることが可能であり、場所や季節に応じて最適なモルタル組成を設定することが可能となる。
【0029】
以上の各配合のうち、No.4、No.5が本発明の対象として適している。中でもNo.5を基本とする配合が特性面およびコスト面で特に有利となる。
参考のため図6に、表1の配合No.4、5の10℃および20℃における材齢と圧縮強度の関係、および従来品であるIBOモルタルの20℃における材齢と圧縮強度の関係を示す。配合No.4、5のモルタルは従来品に比べ、急硬性を有していることがわかる。
【符号の説明】
【0030】
1 地山
2 切羽
3 補強管
4 固結領域
T トンネル内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急硬性を有するモルタルをトンネル内から地山の内部に注入して打設する地山補強工法において、らせん軸部材の回転を利用して一軸管内でモルタルの練り混ぜおよび圧送を連続的に行うポンプを用いて、打設時の温度で材齢3時間圧縮強度が5N/mm2以上となる配合のモルタル混練物を調製するとともに打設するトンネル地山補強工法。
【請求項2】
モルタルの水粉体比が30〜40%である請求項1に記載のトンネル地山補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−174494(P2010−174494A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17644(P2009−17644)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】