説明

トンネル型磁気検出素子

【課題】 特に、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能なトンネル型磁気検出素子を提供することを目的としている。
【解決手段】 フリー磁性層6は、絶縁障壁層5上に、下から、エンハンス層12、第1軟磁性層13、第1非磁性金属層14、第2軟磁性層15、第2非磁性金属層16及び第3軟磁性層19の順に積層されている。前記エンハンス層12は例えばCo−Feで、軟磁性層13,15,19は例えばNi−Feで、非磁性金属層14,16は例えばTaで形成される。これにより従来に比べて安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク装置やその他の磁気検出装置に搭載されるトンネル効果を利用した磁気検出素子に係り、特に、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能なトンネル型磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル型磁気検出素子(TMR素子)は、トンネル効果を利用して抵抗変化するものであり、固定磁性層の磁化と、フリー磁性層の磁化とが反平行のとき、前記固定磁性層とフリー磁性層との間に設けられた絶縁障壁層(トンネル障壁層)を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、前記固定磁性層の磁化とフリー磁性層の磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0003】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、記録媒体からの漏れ磁界が検出されるようになっている。
【特許文献1】特開2006―261637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、フリー磁性層が積層フェリ構造で形成されたトンネル型磁気抵抗効果素子の構造が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された発明では、前記フリー磁性層を構成する強磁性層間に充分に大きな交換結合を生じさせるために、前記強磁性層内に1層の第1配向制御バッファを形成している。例えば、特許文献1の[0139]欄には、フリー磁性層を下から、Ni81Fe19(2nm)/Ta(0.4nm)/Ni81Fe19(2nm)/Ru(2.1nm)/Ni81Fe19(4nm)の順に積層した実施例が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明には、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させる構成は記載されていない。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能なトンネル型磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、
下から磁化方向が固定される固定磁性層、絶縁障壁層、及び、磁化方向が外部磁界に対して変動するフリー磁性層の順に、あるいは、下から前記フリー磁性層、前記絶縁障壁層、及び、前記固定磁性層の順に積層された積層部分を備える積層体を有し、
前記フリー磁性層は、積層される3層以上の軟磁性層と、各軟磁性層間に介在する2層以上の非磁性金属層と、前記軟磁性層のうち最も前記絶縁障壁層側に設けられた第1軟磁性層と前記絶縁障壁層との間に位置して、各軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とで構成され、
各非磁性金属層は、各軟磁性層間が磁気的に結合されて、全ての前記軟磁性層が同一方向に磁化される膜厚で形成されることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、フリー磁性層を構成する各軟磁性層間に非磁性金属層を介在させるが、前記軟磁性層を3層以上設けて、前記非磁性金属層を2層以上設けている。これにより、従来に比べて効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが出来る。後述する実験によれば、本発明のトンネル型磁気検出素子は、前記フリー磁性層内に前記非磁性金属層を設けない従来例や、前記フリー磁性層の軟磁性層内に前記非磁性金属層を1層だけ設けた比較例とほぼ同じRA(素子抵抗値R×面積A)で、且つ、従来例や比較例よりも大きな抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。
【0010】
なお本発明は、特許文献1と異なって、前記フリー磁性層を積層フェリ構造としていない。前記フリー磁性層を積層フェリ構造にすると、例えば前記フリー磁性層のトラック幅方向の両側に位置するハードバイアス層から前記フリー磁性層に流入する一方向のバイアス磁界によって、非磁性中間層を介して対向する2層の磁性層における反平行の磁化が乱れて、バルクハウゼンノイズが発生しやすい。また、前記フリー磁性層の保磁力は出来る限り小さいことが好ましいが、前記フリー磁性層を積層フェリ構造にすると保磁力が大きくなりやすい。
【0011】
本発明では、各非磁性金属層の平均膜厚は1Å以上で4Å以下であることが好ましい。各軟磁性層を適切に磁気的に結合させることができ、高い抵抗変化率(ΔR/R)を維持できると共に、バルクハウゼンノイズを適切に抑制できる等、再生特性の安定性を向上させることが可能である。
【0012】
また本発明では、各非磁性金属層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好ましい。本発明では、各非磁性金属層は、Taで形成されることがより好ましい。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能である。
【0013】
また本発明では、前記第1軟磁性層の平均膜厚と前記エンハンス層の平均膜厚を足した総合膜厚は25Å以上80Å以下であることが好ましい。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能である。
【0014】
また本発明では、各軟磁性層の平均膜厚は、10Å以上30Å以下であることが好ましい。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能である。また、バルクハウゼンノイズの低減やS/N比の改善も期待することが出来る。
【0015】
また本発明では、また本発明では、各軟磁性層の平均膜厚を足した総合膜厚は、35Å以上80Å以下であることが好ましい。
【0016】
また本発明では、前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−Oで形成されることが好ましい。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能である。
【0017】
また本発明では、各軟磁性層はNi−Fe合金で形成され、前記エンハンス層はCo−Fe合金で形成されることが、効果的に高い抵抗変化率(ΔR/R)を得る上で好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、従来に比べて、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な面から切断した断面図である。図1では主として、トンネル型磁気検出素子の全体の構造を説明する。図2は、図1の一部を拡大した部分拡大断面図であり、図2では、本実施形態の特徴的部分であるフリー磁性層の構造を説明する。
【0020】
トンネル型磁気検出素子は、例えば、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、磁気記録媒体からの漏れ磁界(記録磁界)を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの漏れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、磁気記録媒体の移動方向及び前記トンネル型磁気検出素子の各層の積層方向、である。
【0021】
図1の最も下に形成されているのは、例えばNi−Fe合金で形成された下部シールド層21である。前記下部シールド層21上に積層体10が形成されている。なお前記トンネル型磁気検出素子は、前記積層体10と、前記積層体10のトラック幅方向(図示X方向)の両側に形成された下側絶縁層22、ハードバイアス層23、上側絶縁層24とで構成される。
【0022】
前記積層体10の最下層は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の非磁性元素で形成された下地層1である。この下地層1の上に、シード層2が設けられる。前記シード層2は、Ni−Fe−CrまたはCrによって形成される。なお、前記下地層1は形成されなくともよい。
【0023】
前記シード層2の上に形成された反強磁性層3は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0024】
また前記反強磁性層3は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0025】
前記反強磁性層3は例えばIr−Mnで形成される。
前記反強磁性層3上には固定磁性層4が形成されている。前記固定磁性層4は、下から第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、第2固定磁性層4cの順で積層された積層フェリ構造である。前記反強磁性層3との界面での交換結合磁界(Hex)及び非磁性中間層4bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。前記固定磁性層4を積層フェリ構造で形成することにより前記固定磁性層4の磁化を安定した状態にできる。また前記固定磁性層4と反強磁性層3との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。なお前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cは、夫々、例えば10〜40Å程度で形成され、非磁性中間層4bは8Å〜10Å程度で形成される。
【0026】
前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはCo−Fe、Ni−Fe,Co−Fe−Niなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0027】
前記固定磁性層4上には絶縁障壁層5が形成される。また、前記絶縁障壁層5上には、フリー磁性層6が形成されている。前記フリー磁性層6の構成は後述する。
【0028】
前記フリー磁性層6のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法でトラック幅Twが決められる。
【0029】
前記フリー磁性層6上には保護層7が形成されている。前記保護層7は非磁性金属材料で形成され、単層構造でも積層構造であってもよい。例えば前記保護層7はTaの単層構造や、Ru/Taの積層構造で形成される。
【0030】
前記積層体10のトラック幅方向(図示X方向)における両側端面11,11は、下側から上側に向けて徐々に前記トラック幅方向の幅寸法が小さくなるように傾斜面で形成されている。
【0031】
図1に示すように、前記積層体10の両側に広がる下部シールド層21上から前記積層体10の両側端面11上にかけて下側絶縁層22が形成され、前記下側絶縁層22上にハードバイアス層23が形成され、さらに前記ハードバイアス層23上に上側絶縁層24が形成されている。
【0032】
前記下側絶縁層22と前記ハードバイアス層23間にバイアス下地層(図示しない)が形成されていてもよい。前記バイアス下地層は例えばCr、W、Tiで形成される。
【0033】
前記絶縁層22,24はAlやSiO等の絶縁材料で形成されている。前記絶縁層22,24は、前記積層体10内を各層の界面と垂直方向に流れる電流が、前記積層体10のトラック幅方向の両側に分流するのを抑制すべく前記ハードバイアス層23の上下を絶縁するものである。前記ハードバイアス層23は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成される。
【0034】
前記積層体10上及び上側絶縁層24上にはNi−Fe合金等で形成された上部シールド層26が形成されている。
【0035】
図1に示す実施形態では、前記下部シールド層21及び上部シールド層26が前記積層体10に対する電極層として機能し、前記積層体10の各層の膜面に対し垂直方向(図示Z方向と平行な方向)に電流が流される。
【0036】
前記フリー磁性層6は、前記ハードバイアス層23からのバイアス磁界を受けてトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向に磁化されている。一方、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化されている。前記固定磁性層4は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cはそれぞれ反平行に磁化されている。前記固定磁性層4の磁化は固定されている(外部磁界によって磁化変動しない)が、前記フリー磁性層6の磁化は外部磁界により変動する。
【0037】
前記フリー磁性層6が、外部磁界により磁化変動して、第2固定磁性層4cとフリー磁性層との磁化が反平行のとき、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との間に設けられた絶縁障壁層5を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になる。一方、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0038】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層6の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、磁気記録媒体からの漏れ磁界が検出されるようになっている。
【0039】
本実施形態におけるトンネル型磁気検出素子の特徴的部分について以下に説明する。
図2に示すように、前記フリー磁性層6は、下からエンハンス層12、第1軟磁性層13、第1非磁性金属層14、第2軟磁性層15、第2非磁性金属層16及び第3軟磁性層19の順に積層されている。
【0040】
前記エンハンス層12は、前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び第3軟磁性層19よりもスピン分極率が大きい磁性材料で形成され、前記エンハンス層12は、Co−Fe合金で形成されることが好適である。前記エンハンス層12が形成されないと、抵抗変化率(ΔR/R)が大きく低下することがわかっている。よって前記エンハンス層12は必須の層である。前記エンハンス層12を構成するCo−Fe合金のFe濃度を大きくすることで高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。Co−Fe合金のFe濃度は50at%〜100at%の範囲内であることが好適である。
【0041】
前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び第3軟磁性層19は、前記エンハンス層12よりも低保磁力、低異方性磁界である等、軟磁気特性に優れた材質である。前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び第3軟磁性層19は、異なる軟磁性材料で形成されてもよいが、共にNi−Fe合金で形成されることが好適である。Ni−Fe合金のFe濃度は5at%〜20at%の範囲内であることが好適である。
【0042】
前記第1非磁性金属層14及び第2非磁性金属層16は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種の非磁性金属材料で形成される。前記非磁性金属材料が2種以上選ばれた場合、前記第1非磁性金属層14及び第2非磁性金属層16は、例えば合金で形成され、あるいは、各非磁性金属材料から成る層の積層構造で形成される。
【0043】
本実施形態では前記第1非磁性金属層14及び第2非磁性金属層16はTaで形成されることが好適である。
【0044】
前記第1非磁性金属層14及び第2非磁性金属層16は、前記第1軟磁性層13と前記第2軟磁性層15間、及び第2軟磁性層15と前記第3軟磁性層19間が磁気的に結合され、前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び前記第3軟磁性層19が共に同じ方向に磁化されるように、薄い膜厚で形成される。例えば前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び前記第3軟磁性層19は共に図示X方向に磁化されている。このとき前記エンハンス層12も図示X方向に磁化されている。
【0045】
前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚は、具体的には、1Å以上4Å以下で形成されることが好ましい。前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚が1Åよりも薄いと、抵抗変化率(ΔR/R)の増大効果を期待できない。また前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚が4Åよりも厚いと、前記第1軟磁性層13と前記第2軟磁性層15間、及び前記第2軟磁性層15と前記第3軟磁性層19間の磁気的な結合が切断されやすくなり、バルクハウゼンノイズが発生しやすくなる等、再生特性が不安定化する。よって本実施形態では、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚は1Å以上4Å以下であることが好適である。本実施形態では、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚は1Å以上で2Å以下であることがより好ましい。
【0046】
上記のように前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚は非常に薄い。よって、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16は、図2のように、一定膜厚で形成されず、前記第1軟磁性層13上及び前記第2軟磁性層15上に間欠的に形成されてもよい。また前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16が間欠的に形成されることで、前記第1軟磁性層13と第2軟磁性層15との磁気的結合力(強磁性結合)、及び前記第2軟磁性層15と前記第3軟磁性層19との磁気的結合力をより強めることができる。また前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚とは、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16を、前記第1軟磁性層13上及び前記第2軟磁性層15上の全域に一律の膜厚に均したときの膜厚を意味するから、非磁性金属層14,16が、軟磁性層13,15上に間欠的に形成される場合、前記非磁性金属層14,16が、前記軟磁性層13,15上に形成されていない箇所(ピンホール部分)も含めて「平均膜厚」は規定される。
【0047】
本実施形態では、上記のように前記フリー磁性層6を構成する軟磁性層内には2層以上の非磁性金属層14,16が膜厚方向(図示Z方向)に間隔を空けて挿入されている。
【0048】
これにより、前記非磁性金属層14,16をフリー磁性層6内に形成しない従来例や、前記非磁性金属層を一層のみ前記フリー磁性層6の軟磁性層内に形成する比較例に比べて、抵抗変化率(ΔR/R)を効果的に増大させることができる。またこのとき、RA(素子抵抗値R×面積A)は、前記従来例及び前記比較例とほぼ同じに設定でき、RAの変動を小さく抑えることが可能である。本実施形態ではRAは2〜3(Ω・μm)であることが好ましい。
【0049】
前記抵抗変化率(ΔR/R)が増大したのは、前記絶縁障壁層5から軟磁性層13,15,19内やエンハンス層12内に拡散する酸素原子を前記非磁性金属層14,16が優先的に化学結合して、前記軟磁性層13,15,19内部やエンハンス層12内部の酸素濃度が減少し、この結果、前記軟磁性層13,15,19やエンハンス層12のバンド構造が適正化されてスピン分極率が向上したことが理由として考えられる。また、非磁性金属層14,16を2層以上設けることで、個々の軟磁性層13,15,19の膜厚が薄くなり、結晶成長が抑制されて各軟磁性層13,15,19の結晶粒径が小さくなったこと、絶縁障壁層5との界面に印加される応力や格子歪が変化し、前記界面でのスピン分極率が向上したことも理由として挙げられる。
【0050】
また、上記したように、非磁性金属層14,16を2層以上設けることで、個々の軟磁性層13,15,19の膜厚が薄くなり、各軟磁性層13,15,19の結晶粒径が小さくなったことにより、高記録密度化に伴って、素子サイズを微細化しても、結晶粒間の磁気モーメントのばらつきを抑えることができ、バルクハウゼンノイズの低減や、S/N比の向上を図ることが可能である。
【0051】
本実施形態では、前記絶縁障壁層5はTi−Mg−O(酸化チタン・マグネシウム)で形成されることが好適である。Tiの組成比とMgの組成比をあわせて100at%としたときに、Mgは、4at%以上で20at%以下含まれることが好適である。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来る。前記絶縁障壁層5はTi−Mg−O以外に、例えば、Ti−O(酸化チタン)、Al−O(酸化アルミニウム)、Mg−O(酸化マグネシウム)であってもよい。
【0052】
図2に示すように、前記エンハンス層12の平均膜厚はT1、前記第1軟磁性層13の平均膜厚はT2、前記第2軟磁性層15の平均膜厚はT4、第3軟磁性層19の平均膜厚はT5である。そして、前記エンハンス層12の平均膜厚T1と前記第1軟磁性層13の平均膜厚T2を足した総合膜厚はT3である。
【0053】
本実施形態では、前記総合膜厚T3は25Å以上で80Å以下であることが好適である。よって前記第1非磁性金属層14は前記絶縁障壁層5から25Å以上離れた位置に形成される。また、前記総合膜厚T3を80Åより厚くしても抵抗変化率(ΔR/R)の増大効果を期待できない。前記総合膜厚T3を25Å以上80Å以下に設定することで、安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能である。前記総合膜厚T3は60Å以下であることがより好ましい。
【0054】
各軟磁性層13,15,19の平均膜厚T2,T4,T5は、夫々、10Å以上30Å以下であることが好ましい。これにより、抵抗変化率(ΔR/R)の増大効果、バルクハウゼンノイズの低減効果、及び、S/N比の改善効果を期待できる。
【0055】
また、各軟磁性層13,15,19の平均膜厚T2,T4,T5を足した総合膜厚は35Å以上で80Å以下であることが好ましい。これにより、安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。
【0056】
また、前記エンハンス層12の平均膜厚T1は10Å以上30Å以下であることが好ましい。これにより、安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。
【0057】
図1及び図2に示す形態では、下から反強磁性層3、固定磁性層4、絶縁障壁層5、フリー磁性層6及び保護層7の順で積層されているが、下から、フリー磁性層20、絶縁障壁層5、固定磁性層4、反強磁性層3及び保護層7の順で積層されていてもよい。
【0058】
かかる場合、図3に示すように、前記フリー磁性層20は、下から第3軟磁性層19、第2非磁性金属層16、第2軟磁性層15、第1非磁性金属層14、第1軟磁性層13及びエンハンス層12の順に積層され、前記フリー磁性層20上に絶縁障壁層5が形成される。前記フリー磁性層20を構成する各層の膜厚や材質は図2で説明したフリー磁性層6と同じである。
【0059】
あるいは、下から、下側反強磁性層、下側固定磁性層、下側絶縁障壁層、フリー磁性層、上側絶縁障壁層、上側固定磁性層、及び上側反強磁性層が順に積層されてなるデュアル型のトンネル型磁気検出素子であってもよい。
【0060】
かかる場合、図4に示すように、フリー磁性層28は、下からエンハンス層12、第1軟磁性層13、第1非磁性金属層14、第2軟磁性層15、第2非磁性金属層16、第1軟磁性層25、エンハンス層27の順に積層される。前記フリー磁性層6の下側のエンハンス層12下には前記下側絶縁障壁層17が形成され、前記フリー磁性層28の上側のエンハンス層27上には前記上側絶縁障壁層18が形成される。フリー磁性層28を構成する各層の膜厚や材質は図2で説明したフリー磁性層6と同じである。
【0061】
図4の場合、上側のエンハンス層27の平均膜厚と第1軟磁性層25の平均膜厚とを足した総合膜厚T6も、下側のエンハンス層12の平均膜厚と第1軟磁性層13の平均膜厚とを足した総合膜厚T3と同様に25Å以上80Å以下で規定されることが好ましい。
【0062】
図2ないし図4に示す実施形態では、いずれもフリー磁性層6,20,28の軟磁性層の内部に挿入された非磁性金属層14,16は2層であったが、3層以上であってもよい。ただし、非磁性金属層の層数をあまり増しても、抵抗変化率(ΔR/R)の増大効果を期待できなくなり、またRA等の他の特性への影響も懸念され、さらに、製造工程が煩雑化することから、前記非磁性金属層の層数は最大で8層程度であることが好ましい。
【0063】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子の製造方法について説明する。図5ないし図8は、製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の部分断面図であり、いずれも図1に示すトンネル型磁気抵抗効果素子と同じ位置での断面を示している。なお図6ないし図8ではフリー磁性層が単層構造のように図示されているが、実際には前記フリー磁性層を図2に示す構造で形成する。
【0064】
図5に示す工程では、下部シールド層21上に、下から順に、下地層1、シード層2、反強磁性層3、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、及び第2固定磁性層4cを連続成膜する。
【0065】
次に、第2固定磁性層4c上に絶縁障壁層5を形成する。例えば、前記絶縁障壁層5をTi−Mg−Oで形成する。Ti−Mg−Oから成る絶縁障壁層5は、例えばTi層をまず前記第2固定磁性層4c上にスパッタ成膜して、続いて前記Ti層上にMg層をスパッタ成膜した後、前記Ti層及びMg層を酸化処理することで得られる。Ti−Mg−Oの他に、例えば、Ti−O、Al−OやMg−Oを絶縁障壁層5として用いることもできる。
【0066】
次に、図6に示すように、前記絶縁障壁層5上にフリー磁性層6及び保護層7を成膜する。
【0067】
本実施形態では、図2に示すように、前記フリー磁性層6を下からエンハンス層12、第1軟磁性層13、第1非磁性金属層14、第2軟磁性層15、第2非磁性金属層16及び第3軟磁性層19の順に積層する。前記エンハンス層12をCo−Fe合金で形成して、前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び前記第3軟磁性層19をNi−Fe合金で形成して、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16をTaで形成することが好ましい。
【0068】
また図2で説明したように、前記第1非磁性金属層14及び前記第2非磁性金属層16の平均膜厚を1Å以上で4Å以下の非常に薄い膜厚で形成する。これにより、前記第1軟磁性層13と前記第2軟磁性層15間、及び前記第2軟磁性層15と前記第3軟磁性層19間を磁気的に結合でき、前記第1軟磁性層13、前記第2軟磁性層15及び前記第3軟磁性層19を同一方向に磁化できる。また、各軟磁性層の平均膜厚T2,T4,T5やエンハンス層12の平均膜厚T1、及び総合膜厚T3の好ましい範囲については図2で説明したのでそちらを参照されたい。
以上により下地層1から保護層7までが積層された積層体10を形成する。
【0069】
次に、前記積層体10上に、リフトオフ用レジスト層30を形成し、前記リフトオフ用レジスト層30に覆われていない前記積層体10のトラック幅方向(図示X方向)における両側端部をエッチング等で除去する(図7を参照)。
【0070】
次に、前記積層体10のトラック幅方向(図示X方向)の両側であって前記下部シールド層21上に、下から下側絶縁層22、ハードバイアス層23、及び上側絶縁層24の順に積層する(図8を参照)。
【0071】
そして前記リフトオフ用レジスト層30を除去し、前記積層体10及び前記上側絶縁層24上に上部シールド層26を形成する。
【0072】
上記したトンネル型磁気検出素子の製造方法では、前記積層体10の形成後にアニール処理を含む。代表的なアニール処理は、前記反強磁性層3と第1固定磁性層4a間に交換結合磁界(Hex)を生じさせるためのアニール処理である。
【0073】
図3で説明した下からフリー磁性層20、絶縁障壁層5及び固定磁性層4の順に積層される構造や、図4で説明したデュアル型の構造は、図5ないし図8で説明した製造方法に準じて製造される。
【0074】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、ハードディスク装置に内蔵される磁気ヘッドとしての用途以外に、MRAM(磁気抵抗メモリ)や磁気センサとして用いることが出来る。
【実施例1】
【0075】
図2のようにフリー磁性層6を構成する第1軟磁性層13と第2軟磁性層15間、及び第2軟磁性層15と第3軟磁性層19間に、夫々、非磁性金属層14,16を挿入した以下の積層体を備えたトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0076】
積層体を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe30at%Co70at%(16)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[エンハンス層12;Fe90at%Co10at%(10)/第1軟磁性層13;Ni88at%Fe12at%(20)/第1非磁性金属層14;Ta(2.5)/第2軟磁性層15;Ni88at%Fe12at%(20)/第2非磁性金属層16;Ta(X)/第3軟磁性層;Ni88at%Fe12at%(25)]/第1保護層;Ru(10)/第2保護層;Ta(180)の順に積層した。上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0077】
(比較例1)
上記した積層体を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe30at%Co70at%(16)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[エンハンス層12;Fe90at%Co10at%(10)/第1軟磁性層13;Ni88at%Fe12at%(20)/第1非磁性金属層14;Ta(2.5)/第2軟磁性層15;Ni88at%Fe12at%(20)/第3軟磁性層;Ni88at%Fe12at%(25)]/第1保護層;Ru(10)/第2保護層;Ta(180)の順に積層した。上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0078】
すなわち比較例1の構造では、フリー磁性層6内に1層だけ非磁性金属層14が設けられている。
【0079】
(従来例)
上記した積層体を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe30at%Co70at%(16)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[エンハンス層12;Fe90at%Co10at%(10)/第1軟磁性層13;Ni88at%Fe12at%(20)/第2軟磁性層15;Ni88at%Fe12at%(20)/第3軟磁性層;Ni88at%Fe12at%(25)]/第1保護層;Ru(10)/第2保護層;Ta(180)の順に積層した。上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
すなわち従来例の構造では、フリー磁性層6内に非磁性金属層が設けられていない。
【0080】
実験では、実施例1、比較例1、従来例の各絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0081】
前記積層体を形成した後、各積層体に対して、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
【0082】
実験では、実施例1における第2非磁性金属層16の平均膜厚を1Å,2Åと変化させ、実施例1、比較例1及び従来例の各トンネル型磁気検出素子における抵抗変化率(ΔR/R)を測定した。その実験結果を図9に示す。なおグラフ中の数字は、実施例1における第2非磁性金属層16の平均膜厚(Å)を示している。
【0083】
図9に示すように、実施例1のトンネル型磁気検出素子の抵抗変化率(R/R)を、比較例1のトンネル型磁気検出素子の抵抗変化率(ΔR/R)、及び従来例の抵抗変化率(ΔR/R)に比べて効果的に高くできることがわかった。またこのとき、実施例1のトンネル型磁気検出素子のRAを、比較例1のトンネル型磁気検出素子のRA、及び従来例のRAとほぼ同じに設定できることがわかった。
【0084】
また図9に示すように実施例1において、第2非磁性金属層16の平均膜厚を1Åより2Åにすることで高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができるとわかったが、その上昇幅は、フリー磁性層内に非磁性金属層を1層のみ設けた比較例1に対してフリー磁性層内に非磁性金属層を2層設けた実施例の抵抗変化率(ΔR/R)の上昇幅よりも小さいことがわかった。すなわち、フリー磁性層内に非磁性金属層を2層以上設けることによる抵抗変化率(R/R)の増大効果のほうが、非磁性金属層の平均膜厚を調整することによる抵抗変化率(ΔR/R)の増大効果よりも大きいことがわかった。
【0085】
またRAは2〜3(Ω・μm)の範囲内であることが好ましく、実施例1のトンネル型磁気検出素子であれば、比較例1や従来例のトンネル型磁気検出素子に比べて効果的に高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。RAは、例えば絶縁障壁層5に対する酸化時間を変化させることで調整できるが、第1非磁性金属層14及び第2非磁性金属層16は酸素元素と化学結合し、これが抵抗変化率(ΔR/R)を増大させる一因であると推測されることから、RAの値にかかわらず、実施例1、比較例1及び従来例においてRAがほぼ同じであるとき、実施例1のトンネル型磁気検出素子の抵抗変化率(ΔR/R)を、比較例1や従来例のトンネル型磁気検出素子の抵抗変化率(ΔR/R)よりも高くできると推測される。
【実施例2】
【0086】
図2のようにフリー磁性層6を構成する第1軟磁性層13と第2軟磁性層15間、及び第2軟磁性層15と第3軟磁性層19間に、夫々、非磁性金属層14,16を挿入した以下の積層体を備えたトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0087】
積層体を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe30at%Co70at%(16)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[エンハンス層12;Fe90at%Co10at%(10)/第1軟磁性層13;Ni88at%Fe12at%(Y)/第1非磁性金属層14;Ta(2.5)/第2軟磁性層15;Ni88at%Fe12at%(20)/第2非磁性金属層16;Ta(2)/第3軟磁性層;Ni88at%Fe12at%(25)]/第1保護層;Ru(10)/第2保護層;Ta(180)の順に積層した。上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0088】
(比較例2)
上記した積層体を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe30at%Co70at%(16)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[第1軟磁性層13;Ni88at%Fe12at%(Y)/第1非磁性金属層14;Ta(2.5)/第2軟磁性層15;Ni88at%Fe12at%(20)/第2非磁性金属層16;Ta(2)/第3軟磁性層;Ni88at%Fe12at%(25)]/第1保護層;Ru(10)/第2保護層;Ta(180)の順に積層した。上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
すなわち比較例2の構造では、フリー磁性層6内にエンハンス層が設けられていない。
【0089】
そして、エンハンス層12の平均膜厚と第1軟磁性層13の平均膜厚を足した総合膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係について調べた。実験では、エンハンス層の平均膜厚を固定し、第1軟磁性層13の平均膜厚(Y)を変化させた。その実験結果を図10に示す。
【0090】
図10に示すように、エンハンス層を設けた形態において、総合膜厚を25Å以上で80Å以下に設定すると、高い抵抗変化率(ΔR/R)を安定して得られることがわかった。一方、エンハンス層を設けない形態(比較例2)では、前記第1軟磁性層13の膜厚(図10の総合膜厚に相当する)を厚くしても抵抗変化率(ΔR/R)は低いままで、第1軟磁性層13の膜厚変化によって急激に抵抗変化率(ΔR/R)が上昇することがわかった。
【0091】
図10の実験結果から、フリー磁性層6内にエンハンス層12を設け、さらに、エンハンス層12の平均膜厚と第1軟磁性層13の平均膜厚を足した総合膜厚(絶縁障壁層5と第1非磁性金属層14間の間隔)を25Å以上で80Å以下に設定すると、安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができ好適であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な面から切断した断面図、
【図2】図1の一部を拡大した第1実施形態のトンネル型磁気検出素子の部分拡大断面図、
【図3】図2とフリー磁性層の構造が異なる第2実施形態のトンネル型磁気検出素子の部分拡大断面図、
【図4】図2とフリー磁性層の構造が異なる第3実施形態のトンネル型磁気検出素子の部分拡大断面図、
【図5】図1と同じ面から切断した製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の断面図、
【図6】図5の次に行われる一工程図(断面図)、
【図7】図6の次に行われる一工程図(断面図)、
【図8】図7の次に行われる一工程図(断面図)、
【図9】フリー磁性層の軟磁性層内に非磁性金属層を2層設けた実施例1、フリー磁性層の軟磁性層内に非磁性金属層を1層設けた比較例1、及びフリー磁性層内に非磁性金属層を設けなかった従来例におけるRAと抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図10】フリー磁性層を構成する軟磁性層内に2層の非磁性金属層を挿入するとともにエンハンス層を設けた形態(実施例2)、フリー磁性層を構成する軟磁性層内に2層の非磁性金属層を挿入するがエンハンス層を設けない形態(比較例2)の各トンネル型磁気抵抗効果素子における、第1軟磁性層とエンハンス層との平均膜厚を足した総合膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0093】
3 反強磁性層
4 固定磁性層
4a 第1固定磁性層
4b 非磁性中間層
4c 第2固定磁性層
5 絶縁障壁層
6 フリー磁性層
7 保護層
7a 第1保護層
7b 第2保護層
10 積層体
12、27 エンハンス層
13、25 第1軟磁性層
14 第1非磁性金属層
15 第2軟磁性層
16 第2非磁性金属層
17 下側絶縁障壁層
18 上側絶縁障壁層
19 第3軟磁性層
22、24 絶縁層
23 ハードバイアス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下から磁化方向が固定される固定磁性層、絶縁障壁層、及び、磁化方向が外部磁界に対して変動するフリー磁性層の順に、あるいは、下から前記フリー磁性層、前記絶縁障壁層、及び、前記固定磁性層の順に積層された積層部分を備える積層体を有し、
前記フリー磁性層は、積層される3層以上の軟磁性層と、各軟磁性層間に介在する2層以上の非磁性金属層と、前記軟磁性層のうち最も前記絶縁障壁層側に設けられた第1軟磁性層と前記絶縁障壁層との間に位置して、各軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とで構成され、
各非磁性金属層は、各軟磁性層間が磁気的に結合されて、全ての前記軟磁性層が同一方向に磁化される膜厚で形成されることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項2】
各非磁性金属層の平均膜厚は1Å以上で4Å以下である請求項1記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項3】
各非磁性金属層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成される請求項1又は2に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項4】
各非磁性金属層は、Taで形成される請求項3記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項5】
前記第1軟磁性層の平均膜厚と前記エンハンス層の平均膜厚を足した総合膜厚は25Å以上80Å以下である請求項1ないし4のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項6】
各軟磁性層の平均膜厚は、10Å以上30Å以下である請求項記1ないし5のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項7】
各軟磁性層の平均膜厚を足した総合膜厚は、35Å以上80Å以下である請求項1ないし6のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項8】
前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−Oで形成される請求項1ないし7のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項9】
各軟磁性層はNi−Fe合金で形成され、前記エンハンス層はCo−Fe合金で形成される請求項1ないし8のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−192827(P2008−192827A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25681(P2007−25681)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】