説明

トンネル安定性の評価方法及びそのプログラム

【課題】特性曲線法を用いた地山と支保の安定性判定の精度を向上させる。
【解決手段】所定長さの掘削及び支保の設置を行う掘進区間を設定し、解析モデルを作成する工程と、逐次掘削・支保解析を行うことにより、最終掘進区間の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の節点変位及び半径方向応力の平均値をそれぞれ壁面変位uL、支保反力PiLとして算出する工程と、地山について成り立つ許容壁面ひずみεθ,aを用いて算出される許容壁面変位uaと支保内圧Piとの関係から、許容地山ひずみ曲線を作成する工程と、支保内縁の接線方向応力σθが、支保材料の許容応力σaとなるときの支保反力Pi,maxの値から、許容作用地圧線を作成する工程と、壁面変位uL及び支保反力PiLとで決まる点が、許容地山ひずみ曲線、許容作用地圧線、及び、地山特性曲線とで囲まれた領域にあるか否かを判定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルを構築するにあたって、事前にトンネルの安定性を評価するための方法及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物の処分方法として、地下深くにトンネル群を建設してその中に放射性廃棄物を埋設する「地層処分」が検討されている。この地層処分施設は、図13に示すように、地下300m以深の地下施設とすることが法令で定められており、複数の処分トンネル(坑道)とこれらをつなぐ主要トンネルと、これらのトンネルを地上受入施設とつなぐ数種類の立坑とから構成されている。
【0003】
このような地層処分施設を対象とした坑道の安定性を評価する手法として、特性曲線法が用いられている。特性曲線法は、トンネルの構築方法としてNATM(New Austrian Tunneling Method)が導入されて以来、山岳トンネルの標準工法の安定解析手法として定着した手法である。トンネルの掘削部位(切羽)での力学的な挙動は極めて3次元的であるが、特性曲線法ではこれを2次元の力学モデルに置き換えることによって、掘削部位の力学的な挙動を解いている。
【0004】
この特性曲線法は、地山の掘削に伴う変形挙動を表す地山特性曲線と、支保設置後の支保の変形挙動を表す支保特性曲線の2つで構成される。図14−1に、地山特性曲線と支保特性曲線の一例を示す。地山特性曲線は、平面ひずみ状態の2次元断面に対して理論解析や有限要素法等を行い、図14−2に示すように、支保が地山を支持する圧力である支保内圧Piと壁面変位uの関係で得られるものである。また、支保特性曲線は、図14−3に示すように、支保に作用する地圧である支保反力Piと支保外周の変位(=壁面変位)uとの関係から得られるものである。
【0005】
特性曲線法では、吹付けコンクリート等の地山への支保内圧と支保に作用する地圧の相互作用を、二次元モデルを用いて評価している。このため、地山と支保が共に安定する状態は、地山に作用する支保内圧と、支保に作用する地圧(支保反力)が等しい状態を釣合い点と考えることから、地山特性曲線と支保特性曲線の交点となる。
【0006】
トンネル掘削時の切羽近傍の地山と支保の相互作用等は極めて3次元的な挙動を示すため、より実際に近い挙動予測、地山と支保の安定性の評価を行うためには、3次元あるいは準3次元のモデルによる検討が求められる。
【0007】
本発明者は、円形坑道の中心軸を対称軸とした軸対称モデルによる逐次掘削・逐次支保解析を行うことによって支保特性曲線を求める方法を提案した(非特許文献1及び特願2006−193280を参照)。以下、この軸対称モデルによる逐次掘削・逐次支保解析により支保特性曲線を求める方法の概要を説明する。まず、所定長さの掘削及び支保の設置を行う掘進区間と、周辺地山及び支保の物性値とを設定し、掘削部分、支保の設置部分及び周辺地山を有限要素に分割して解析モデルを作成する。次いで、この解析モデルを用いて逐次掘削・逐次支保解析を実施する。逐次掘削・逐次支保解析では、i−1番目の掘進区間の支保の設置を行ったのち、i番目の掘進区間の掘削を行い、このi番目の掘削に伴い、安定性の評価対象となる掘進区間(評価対象掘進区間)における地山と支保との境界に位置する要素の節点変位と半径方向応力とを算出する処理を行う。この処理を、iを1ずつ増加させてiが掘進区間の総数になるまで逐次繰り返す。次いで、上記の処理により得られた節点変位及び半径方向応力を、掘削解析した各掘進区間ごとに平均する演算を行う。ここで、掘削解析した各掘進区間に対応する上記節点変位の平均値を、各掘進区間の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間の壁面変位uLとみなす。また、掘削解析した各掘進区間に対応する上記半径方向応力の平均値を、各掘進区間の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間の支保反力PiLとみなす。壁面変位uをx軸とし、支保反力Piをy軸としたu−Pi平面上に、これらの壁面変位uと支保反力Piの値をプロットすることにより、支保特性曲線を得る。
【0008】
【非特許文献1】International Journal of the JCRM, Volume 3, Number 1, February 2007, pp1-6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の3次元あるいは準3次元モデル(軸対称モデル)による逐次掘削・逐次支保解析を実施することによって得られた支保特性曲線は、地山を弾性体と仮定した場合に、地山特性曲線との交点上で釣合状態となる一方で、地山を弾塑性体と仮定し、掘削に伴う地山の降伏・破壊挙動を考慮した場合には、支保特性曲線の壁面変位と支保反力が地山特性曲線上に収束せず、壁面変位と支保反力ともに大きな値をとるという結果が得られた。すなわち、地山モデルを弾塑性体とした場合、上記解析により得られた支保特性曲線は地山特性曲線上で釣合い状態とならない。特に、地圧の大きな大深度において掘削の影響を極力防ぐために短時間で高い剛性を発揮する吹付けコンクリートによる支保を用いた条件下では、従来の特性曲線法による解析から得られる壁面変位及び支保反力よりも、これらの値が明らかに大きくなる報告もされている。このため、従来の特性曲線法のように、地山特性曲線と支保特性曲線との交点の値を採用して支保設計を行うと、実際よりも小さな荷重(支保反力)を想定して設計を行ってしまう可能性がある。同様に、地山の壁面変位も大きな値となり、トンネル周辺の地山の変形を小さく評価することになる。つまり、地山の安定性や支保の安定性が過少評価されている可能性があると考えられ、実際に必要な強度に対して不十分な支保設計となるおそれがある。
【0010】
従って、特性曲線法に上記の逐次掘削・逐次支保解析の結果を適用する場合、地山や支保の安定性の判定を適切に行うことができるように、この安定性の指標を新たに設定する必要がある。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑み、特性曲線法に上記の3次元あるいは準3次元モデル(軸対称モデル)による逐次掘削・逐次支保解析の解析結果を適用した場合に、地山と支保の安定性の判定精度を向上させることができるトンネル安定性の評価方法及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係るトンネル安定性の評価方法は、所定長さの掘削及び支保の設置を行う掘進区間、及び、周辺地山及び支保の物性値を設定し、掘削部分、支保の設置部分及び周辺地山を有限要素に分割して解析モデルを作成する工程と、i−1番目の掘進区間の支保の設置を行ったのち、i番目の掘進区間の掘削を行い、該i番目の掘削に伴い、安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する要素の節点変位と半径方向応力とを算出する処理を、iを1ずつ増加させてiが掘進区間の総数になるまで逐次繰り返す工程と、最終掘進区間の掘削が完了した時点での前記安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の節点変位の平均値を算出し、これを当該掘進区間における壁面変位uLとするとともに、最終掘進区間の掘削が完了した時点での前記安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の半径方向応力の平均値を算出し、これを当該掘進区間における支保反力PiLとする工程と、地山について成り立つ許容壁面ひずみεθ,aを用いて算出される許容壁面変位uaと支保内圧Piとの関係から、許容地山ひずみ曲線を作成する工程と、支保内縁の接線方向応力σθが、支保材料の許容応力σaとなるときの支保反力Pi,maxの値から、許容作用地圧線を作成する工程と、横軸をトンネル壁面変位u、縦軸を支保内圧Piとしたu−Pi平面において、前記壁面変位uL及び前記支保反力PiLとで決まる点が、前記許容地山ひずみ曲線、前記許容作用地圧線、及び、地山特性曲線とで囲まれた領域にあるか否かを判定する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に係るトンネル安定性の評価方法は、上記請求項1において、地山の状態ひずみから前記許容壁面変位uaを算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に係るプログラムは、請求項1に記載のトンネル安定性の評価方法における各工程をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトンネル安定性の評価方法及びそのプログラムによれば、大深度の高地圧下でトンネルを建設する際の支保及び周辺地山の安定性を適切に評価することが可能となる。その結果、地層処分施設における処分坑道等、建設実績の少ないトンネルを建設するにあたり、精度の高い支保設計を行うことが可能となるという効果を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係るトンネル安定性の評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態であるトンネル安定性の評価方法で適用する解析装置10の構成を示したブロック図である。ここで例示する解析装置10は、パーソナルコンピュータ等の数値演算装置にプログラムを読み込ませることによって具現化されるもので、支保特性曲線作成手段20と、地山特性曲線作成手段30、許容地山ひずみ曲線作成手段40、許容作用地圧線作成手段50、安定性判定手段60とを備えている。
【0018】
支保特性曲線作成手段20は、解析モデル作成手段21と、逐次掘削・支保解析手段22と、節点変位・半径方向応力平均値算出手段23とを備えている。
【0019】
解析モデル作成手段21は、キーボード等の入力装置70から入力された解析条件、具体的には、所定長さの掘削及び支保の設置を行う掘進区間や、周辺地山及び支保の物性値等のデータに基づいて、掘削部分、支保の設置部分及び周辺地山を要素に分割して解析モデルデータを作成するものである。なお、具体的な解析条件について後述する。
【0020】
逐次掘削・支保解析手段22は、解析モデル作成手段21により作成された解析モデルを用いて、以下に示す逐次掘削・逐次支保解析を行うものである。解析手順の詳細について後述するが、以下、解析の概要について説明すると、i−1番目の掘進区間の支保の設置を行ったのち、i番目の掘進区間の掘削解析を行い、その解析結果に伴い、安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する要素の節点変位と半径方向応力とを算出する処理を行う。この処理を、iを1ずつ増加させてiが掘進区間の総数になるまで逐次繰り返す。なお、i=1(すなわち、最初の掘進区間)は、掘削解析のみが行われる。ここで、「安定性を評価する掘進区間」とは、安定性の評価の対象となる掘進区間を意味しており、切羽の影響がほぼなくなる切羽後方の位置におけるひとつの掘進区間が選択される。以下、これを「評価対象掘進区間」と呼ぶことにする。
【0021】
節点変位と半径方向応力(支保反力)の平均値算出手段23は、逐次掘削・支保解析手段22で各掘進区間の掘削解析に伴って算出した、評価対象掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の節点変位及び半径方向応力を、掘削解析した各掘進区間ごとに平均する演算を行い、これら節点変位の平均値及び半径方向応力の平均値に基づいて、支保特性曲線を算出するものである。本実施の形態では、後述するように、掘削解析した各掘進区間に対応する上記節点変位の平均値を、各掘進区間の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間の壁面変位uLとする。また、掘削解析した各掘進区間に対応する上記半径方向応力の平均値を、各掘進区間の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間の支保反力PLとする。そして、これらの壁面変位uL及び支保反力PiLを、横軸を壁面変位u、縦軸を支保内圧Piとしたu−Pi平面上にプロットすることによって、評価対象掘進区間における支保特性曲線を作成する。ここで、支保内圧Piとは、地山に作用するトンネルにおける内圧(支保が地山を支持する圧力)のことである。
【0022】
地山特性曲線作成手段30は、u−Pi平面上に地山特性曲線を作成するものである。本実施の形態では、地山を弾塑性体として2次元無限体中の円孔モデルを想定し、このモデルの所定条件での弾塑性理論に基づいて地山特性曲線を作成する。地山特性曲線における壁面変位uと支保内圧Piとの関係は、例えば、ジェオフロンテ研究会編纂,山岳トンネルの新技術,土木工学社,p.43などに記載された公知の計算式を用いて表すことができる。地山特性曲線の一例を図10に示す。なお、本実施の形態では、理論解により地山特性曲線を作成しているが、トンネルを2次元平面ひずみモデルとした有限要素法等の数値解析において、支保内圧Piを与条件として、トンネルの壁面変位uと支保内圧Pi算出し、これらをu−Pi平面上にプロットすることによって地山特性曲線を作成してもよい。
【0023】
許容地山ひずみ曲線作成手段40は、u−Pi平面上に許容地山ひずみ曲線を作成するものである。許容地山ひずみ曲線の一例を図10に示す。許容地山ひずみ曲線は、地山の安定性が確保される許容壁面変位uaと支保内圧Piとの関係を示すものであり、トンネル周辺の地山・岩盤の安定性を判定する指標となるものである。ここで、トンネルの半径をaとする。地山ひずみ曲線の許容壁面変位uaと支保内圧Piとの間には、εθ≒ua/aで定義される円形トンネルの地山壁面の接線方向のひずみεθを導入すると、次の(数1)式で表される関係が成り立つ。
【数1】


ここに、εθ,a:許容壁面ひずみ,qu:一軸圧縮強度,ν:ポアソン比,κ:ダイレイタンシー係数,Pi:支保内圧,ηa:室内三軸試験の軸ひずみε1と限界ひずみε0との比である。ここで、限界ひずみとは、図11で示されるε0である。なお、ηaは、拘束圧=0である一軸圧縮試験を含めて室内三軸試験を残留応力状態まで実施した際の応力−ひずみ曲線から、限界ひずみと状態ひずみの定義に基づいて各ひずみε1、ε0を求めることにより算出される。
【0024】
また、(数1)式中のFは、トンネル壁面の応力による安定性評価指標であり次式で与えられる。
【数2】



ここに、P0:初期地圧である。
【0025】
本実施の形態では、地山の許容ひずみとして状態ひずみを採用し、この状態ひずみから許容壁面変位uaを算出している。すなわち、許容ひずみとして限界ひずみ(支保内圧によらず一定)を採用した場合よりも、地山の安定性の評価基準が建設実績と整合するように緩和したものとなっている。ここで、地山の許容ひずみを状態ひずみとした理由を簡単に説明する。図11は、室内三軸試験で得られる応力〜ひずみ関係を示したものである。図11において横軸のε1は軸ひずみであり、縦軸のσ1−σ3は軸差応力(σ1は軸圧、σ3は拘束圧)である。また、図11における直線は、3つの曲線の原点における接線である。なお、図11では、σ3=0の場合、σ3=cの場合、σ3=dの場合の応力〜ひずみ関係を示している。この図に示すように、軟岩の場合には、拘束圧σ3が大きくなるに従いピーク応力でのひずみ(ε0peak,εcpeak,εdpeak,)も大きくなる。すなわち、拘束圧を考慮すると、許容ひずみ量も大きくすることが可能である。このため、図10の許容地山ひずみ線と支保内圧Piとの関係に示されるように、支保内圧Piが大きくなると周辺地山の許容壁面変位uaも大きくすることができる。従って、支保内圧Piが大きい場合には、許容ひずみを大きくしても地山の安定性が確保できる設計が可能になると考えられる。
【0026】
なお、(数1)式および(数2)式は、本発明者らによる論文(「トンネル建設実績と地山のひずみ比に基づく坑道の安定性評価に関する検討」トンネル工学研究論文・報告集第11巻2001年11月報告pp.257-260)に記載されている。
【0027】
許容作用地圧線作成手段50は、u−Pi平面上に許容作用地圧線を算出するものである。許容作用地圧線の一例を図10に示す。許容作用地圧線は、トンネル内空側の支保接線方向応力σθ(最大圧縮応力)が、支保の許容応力σaと等しくなるときの、支保反力Pと支保外周の変位uとの関係を示したものであり、支保部材としての安定性を判定する指標となるものである。ここで、支保反力とは、支保に作用する地圧(作用地圧)である。また、トンネル内空側の支保接線方向応力σθ(最大圧縮応力)とは、図12において、θ方向の応力である。(なお、図12においてσrはトンネルの半径方向応力である。)本実施の形態では、この許容作用地圧線における支保反力Piを、支保外周の変位uによらず一定としており、この一定値をPi,maxと書くことにする。
【0028】
なお、支保の許容応力σaは、支保の形状、寸法、厚さ、強度等から予め算出されるものである。一方、例えば、厚肉円筒理論を用いると支保内縁の接線方向応力σθと、外周に作用する支保反力Pとの間には、以下の(数3)式の関係がある。従って、接線方向応力σθに支保材料の許容応力σaを代入すれば、支保反力Pi,maxを求めることができる。
【数3】


ここに、aはトンネルの半径、tは支保厚である。
【0029】
安定性判定手段60は、支保特性曲線作成手段20によって作成された支保特性曲線の終点が、地山特性曲線作成手段30により算出された地山特性曲線と、許容地山ひずみ線作成手段40により算出された許容地山ひずみ線と、許容作用地圧線作成手段50により算出された許容作用地圧線とで囲まれる領域内にあるか否かを判定するものである。なお、後述するように、支保特性曲線の終点とは、最後に支保を設置した掘進区間における壁面変位uLと支保反力PiLの値である。以下、地山特性曲線、許容地山ひずみ曲線及び許容作用地圧線とで囲まれる領域を「安定領域」とよぶことにする。支保特性曲線の終点が安定領域内にある場合、安定性判定手段60は、地山と支保がともに安定であると判定する。一方、支保特性曲線の終点が安定領域外にある場合、安定性判定手段60は、地山及び支保が不安定である、又は、地山と支保のいずれか一方が不安定であると判定する。
【0030】
なお、上述した支保特性曲線、地山特性曲線、許容地山ひずみ曲線、許容作用地圧線、及び、逐次掘削・逐次支保解析の解析結果、安定性の判定結果等は、ディスプレイやプリンタ等の出力手段80を通じて出力を行うことが可能である。
【0031】
次に、逐次掘削・逐次支保解析により支保特性曲線を作成する一例について説明する。
【0032】
(解析条件)
解析対象となる坑道は、断面形状を円形とし、内径を5m(掘削径6m)とする。支保は吹付けコンクリートのみを考慮し、吹付の厚さを0.5mとする。図4に解析対象とした実際の坑道の断面形状と寸法を示す。一掘進長(掘進区間の長さ)は1.5mに設定する。解析領域は100m×100mとし、掘削開始境界の影響を受けないよう、最終切羽位置を境界より60mとする。要素長は0.1m×0.25mに設定する。図5に解析領域と境界の拘束条件を示す。図5に示すように、本実施形態の解析モデルは、軸対称解析とすることにより、円形坑道の中心軸を対称軸とした軸対称モデルを用いている。
【0033】
図6は、図5に示した解析モデルの坑道掘削部における切羽部分を示したものである。図6において、i,i−1,i−2・・・は、それぞれ掘進長1.5mの掘進区間を示している。図には示されていないが、坑道入口から最終切羽位置までの間に、40個の掘進区間を設定する。図6に示すように、ひとつの掘進区間は6列に分割され、掘削部分をa′〜f′、吹付けコンクリート設置部分をa〜fの要素に細分化してある。
【0034】
本実施形態では、ひとつの掘進区間で掘削及び吹付けコンクリート設置を行い、これを最初の掘進区間1からはじめて、最終の掘進区間40の掘削が完了するまで順次繰り返すことで計算を進める。すなわち、図6は、掘進区間i−1までの掘削と吹付けコンクリートの設置が終了し、次の掘進区間iの掘削を行う前の状況を示している。
【0035】
(地山物性)
地山と吹付けコンクリートは弾性をもつものとする。地山物性は、地層処分施設の安定性の検討に用いられている軟岩系岩盤データセットの中から、強度が最大となるSR−Aと、最小となるSR−Eの中間で、深度500mで現実的に処分可能な限界の地山条件と判断したSR−Cを用いた。初期地圧は10.8MPa、深度は500mである。岩盤SR−Cの諸物性値等を表1に示す。
【表1】

【0036】
(解析ケースと吹付けコンクリートの物性及び地山のモデル)
解析ケースと吹付けコンクリートの物性及び地山のモデルを表2に示す。表2に示すように、吹付けコンクリートの弾性係数及び地山モデルに応じて、9種類の解析を行う。解析ケース01〜04は地山を弾性体とした場合のケースであり、解析ケース11〜14は地山を弾塑性体とした場合のケースである。なお、解析ケース00は吹付けコンクリートを設置しない無支保の場合の掘削解析である。この解析ケース00は、上述した掘進区間を設定せず、一括掘削による解析を行う。
【0037】
また、上述したように、本実施の形態では地山と吹付けコンクリートを弾性をもつものとしており、且つ、切羽進行に伴う吹付けコンクリートの硬化は考慮しないこととした。表2に示すように、吹付けコンクリートの物性は、一般のトンネルにおいて特性曲線法を用いる場合に利用される弾性係数から5GPaと設定した。これを基準として10GPa,20GPa,40GPaを設定した。なお、弾性係数20GPaは、短時間(3時間)で高い剛性を発現する吹付けコンクリート、40GPaは、コンクリートセグメントの弾性係数をそれぞれ想定した弾性係数である。
【表2】




【0038】
(逐次掘削・逐次支保解析の手順)
以下、図3のフローチャートを参照しながら、逐次掘削・逐次支保解析の手順を説明する。逐次掘削・逐次支保解析は、解析モデルを作成するステップS101と、逐次掘削・逐次支保解析を実行するステップS102〜S106と、この解析により算出される地山と支保との境界に位置する各要素の節点変位と半径方向応力を掘進区間内で平均する演算ステップS107を、最終掘進区間まで逐次繰り返す手順としている。なお、この逐次掘削・逐次支保解析は、例えば有限差分法のFLAC等を用いる。
【0039】
上述した解析条件、地山物性、支保の物性、地山モデル等を入力し、解析モデル作成手段21によって解析モデルを作成した後(ステップ101)、逐次掘削・支保解析手段22により、坑道入口となる最初の掘進区間1の掘削を開始する(ステップS102)。ひとつの掘進区間の掘削は、図6に示すようにa′〜f′の順に0.25mごとに6回行う。なお、この時点では支保は設置されていない。
【0040】
iに2を入力し(ステップS103)、掘進区間i−1の支保要素を設置する(S104)。支保要素の設置はa〜f部分を一括して行う。
【0041】
次いで、掘進区間iの掘削を開始する(ステップS105)。掘進区間i−1〜掘進区間1の支保(吹付けコンクリート)の弾性係数と強度定数は表2に示すように一定値とする。なお、吹付けコンクリートの経時的な特性すなわち硬化特性を考慮して、掘進区間1から掘進区間iまでのそれぞれの経過時間により、吹付けコンクリートの材齢と物性との関係から設定して、掘削解析を実施することもできる。
【0042】
掘進区間iのa′部分の掘削が完了した時点で、評価対象掘進区間の支保と地山との境界に位置する支保要素及び地山要素における節点変位と半径方向応力を算出する(ステップ106)。なお、評価対象掘進区間は、掘削を行っている区間をiとするとi−1〜1までのいずれでもよいが、掘削後の状態で地山と支保の安定性を評価する場合は切羽の影響がほぼなくなる位置(掘進区間)で検討することが望ましい。目安としては、切羽からトンネル径Dの3〜5倍の距離の位置である。本実施の形態では、掘進区間31を評価対象掘進区間とする。図6に示すように、掘進長1.5mの場合、1つの掘進区間における支保と地山との境界に位置する要素の数は12個である。図7は、地山と支保(吹付けコンクリート)との境界部分の地山要素と支保要素を拡大して示したものである。図7に示すように、地山と支保との境界に位置するひとつの要素の節点変位をuj,uj+1とする。また、地山と支保との境界に位置するひとつの支保要素における半径方向応力をσs、この支保要素に隣接する地山要素の半径方向応力をσgとする。
【0043】
次に、ステップS106で算出した値を節点変位・半径方向応力平均値算出手段23に送り、評価対象掘進区間31の支保と地山との境界に位置する12個の要素の半径方向応力と節点変位を掘進区間内でそれぞれ平均する(ステップS107)。ステップS107の処理は以下の2段階を経て実行される。まず、以下の(数4)式より、ステップS106で算出した要素の半径方向応力σs,σgの平均値を算出する。
【数4】

【0044】
同様にして、(数5)式により、ステップS106で算出した要素の節点変位uj,uj+1の平均値を算出する。
【数5】

【0045】
ここで、半径方向応力σs,σgの平均値を、地山要素と支保要素との境界に作用する応力、すなわち、地山要素と支保要素との境界における支保反力Pavとみなす。また、節点変位uj,uj+1の平均値を、地山要素と支保要素との境界における壁面変位uavとみなす。
【0046】
次に、地山要素と支保要素との境界における支保反力Pav及び壁面変位uavを、評価対象掘進区間31内(a〜f)で平均する。すなわち(数6)式により、評価対象掘進区間31内のa〜fの6箇所の支保反力Pavの平均値を算出する。同様にして、(数7)式により、評価対象掘進区間31内のa〜fの6箇所の壁面変位uavの平均値を算出する。ここで、評価対象掘進区間31での支保反力Pavの平均値を、掘進区間iのa′部分の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間31における支保反力PiLとみなす。また、評価対象掘進区間31内の壁面変位uavの平均値を、掘進区間iのa′部分の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間31における壁面変位uLとみなす。
【数6】


【数7】

【0047】
上記ステップS105〜ステップS107の処理を、掘進区間iのb′〜f´部分の掘削が完了する都度行う。
【0048】
上記ステップS104〜ステップS107の処理を最終掘進区間まで繰り返す(ステップS108)。掘進区間39の支保設置を行い、最終掘進区間40の掘削を行い、掘進区間40のf´部分の掘削が完了した時点での評価対象掘進区間31における壁面変位uLと支保反力PiLを算出して計算を終了する(ステップS109)。
【0049】
ステップS107で得られた評価対象掘進区間31の壁面変位uLと支保反力PiLの値を用いて、以下の手順により支保特性曲線を作成する。解析ケース00における無支保の場合の一括掘削解析で得られる壁面変位の収束値(最終壁面変位)をu0とし、ステップS101で設定した初期地圧をP0とする。無支保の掘削解析で得られる最終壁面変位u0に対する壁面変位uの比(u/u0)をx軸とし、初期地圧P0に対する支保反力Piの比(P/P0)をy軸として、ステップS107で得られた値を解析ケースごとにプロットしていく。プロットした点を最小二乗法により直線近似することにより、評価対象掘進区間31での壁面変位と支保反力の支保特性曲線が得られる。
【0050】
図8のグラフ(b)に、地山を弾性体とした場合の4種類の解析ケース01〜04における支保特性曲線を示す。また、グラフ(b)において、x軸及びy軸の1.0を通る直線は地山特性曲線である。この地山特性曲線は、表1に示した地山物性と弾性地山の円孔の理論解により求めたものである。弾性地山の場合、地山特性曲線は直線となることが分かっている。図8(b)に示すように、地山を弾性体とした場合、支保特性曲線の終点は(最終変位)は、地山特性曲線との交点上にあり、地山特性曲線との交点上で釣合状態となる。従って、地山を弾性体と仮定した場合、特性曲線を用いた2次元解析で得られる結果と整合する。
【0051】
なお、各支保特性曲線とx軸との交点(x軸切片)は先行変位率である。弾性地山の場合、先行変位率と応力解放率が等しくなるため、支保特性曲線とx軸との交点が応力解放率となる。ここで、応力解放率とは、特性曲線法を用いて計算する上で重要なパラメータのひとつであり、切羽あるいは支保設置位置での、初期地圧とトンネル壁面から地山に作用する支保反力又は掘削直前の地山の反力との差の、初期地圧に対する比である。
【0052】
一方、図9は、地山を弾塑性体とした場合の4種類の解析ケース11〜14における支保特性曲線を示すグラフである。図中の曲線Aは、地山特性曲線作成手段30によって作成された地山特性曲線である。この地山特性曲線は、表1に示した地山物性と弾塑性地山の円孔の理論解により得られる地山特性曲線であり、弾性地山の場合のような直線ではなく、曲線となる。図9に示すように、地山を弾塑性と仮定した場合、上記の弾性地山の解析ケースと異なり、支保特性曲線の壁面変位と支保反力は地山特性曲線上に収束せず、壁面変位と支保反力ともに弾性地山の場合よりも大きな値をとることがわかる。すなわち、地山モデルを弾塑性体とした場合、支保特性曲線は、地山特性曲線上で釣合状態とならない。
【0053】
(トンネル安定性判定の手順)
上述したように、地山モデルを弾塑性体とした場合、逐次掘削・逐次支保解析により求めた支保特性曲線は、地山特性曲線上で釣合状態とならない。従って、従来のように、地山特性曲線と支保特性曲線の交点における支保内圧Piと壁面変位uを採用して支保設計を行う場合、実際よりも小さな荷重を想定して設計を行うことになるため、実際に必要な強度に対して不十分な支保設計となる可能性がある。本実施の形態では、上述した許容地山ひずみ曲線、許容作用地圧線、地山特性曲線とで囲まれた安定領域を設定し、この安定領域に支保特性曲線の終点が入るか否かを判定することによって、トンネル安定性の評価を行う。以下、図2のフローチャート及び図10のグラフを参照しながら、本実施の形態のトンネル安定性の評価方法における手順について説明する。
【0054】
まず、上記で説明したように、地山を弾塑性体と仮定した場合の解析モデルを作成して逐次掘削・逐次支保解析を行う。各掘進区間の掘削解析に伴い、評価対象掘進区間の壁面変位uLと支保反力PiLの値を算出する。算出された値を図10に示すようにu−Pi平面上にプロットし、支保特性曲線を作成する(ステップS100)。
【0055】
次いで、地山特性曲線作成手段30により、表1に示した地山物性と弾塑性地山の円孔の理論解による地山特性曲線を作成する(ステップS111)。次いで、許容地山ひずみ曲線作成手段40により、上述した許容地山ひずみ曲線をu−Pi平面上に作成する(ステップS112)。次いで、許容作用地圧線作成手段50により、上述した許容作用地圧線をu−Pi平面上に作成する(ステップS113)。ステップS111〜S113を実行することにより、図10に示すように、地山特性曲線、許容地山ひずみ曲線及び許容作用地圧線とで囲まれた安定領域が作成される。
【0056】
次いで、支保特性曲線の終点が安定領域にあるか否かを判定する(ステップS114)。ここで、支保特性曲線の終点とは、掘進区間40のf´部分の掘削が完了した時点での、評価対象掘進区間31における壁面変位uLと支保反力PiLの値である。図10に示すように支保特性曲線の終点が安定領域にある場合(ステップS114:Yes)、安定性判定手段60は、地山と支保がともに安定であると判定し、解析モデルを採用する(ステップS115)。安定性判定手段60によって安定と判定された場合、支保特性曲線の終点の値に基づいて支保設計が行われることになる。
【0057】
一方、図示は省略するが、支保特性曲線の終点が安定領域外にある場合には(ステップS114:No)、安定性判定手段60は、支保及び周辺地山が不安定であると判定し、トンネルが安定した状態を確保できていないと判断する。例えば、支保特性曲線の終点が、許容地山ひずみ曲線の右側に位置する場合、安定性判定手段60は、周辺地山が不安定であると判定する。すなわち、この状態は、壁面変位が許容壁面変位uaを超えた状態であるから、安定領域にある場合と比べて、地山が大きな変形を起こす可能性があるといえる。
【0058】
また、支保特性曲線の終点が、許容作用地圧線の上側に位置する場合、安定性判定手段60は、支保が不安定であると判定する。すなわち、この状態は、支保反力が許容作用地圧Pi,maxを超えた状態であるから、安定領域にある場合と比べて、支保に大きな荷重がかかる可能性があり、支保の構造体の安定性を確保できないと判断する。
【0059】
また、支保特性曲線の終点が、許容作用地圧線の上側且つ許容作用地圧線の上側を満たす位置にある場合、安定性判定手段60は、周辺地山及び支保の両方が不安定であると判定する。すなわち、この状態は、壁面変位及び支保反力がともに許容値を超えた状態であるから、安定領域にある場合と比べて、地山が大きく変形し、支保に大きな地圧がかかる可能性があるといえる。
【0060】
また、支保特性曲線の終点が、地山特性曲線の左側且つ許容作用地圧線の上側を満たす位置にある場合、安定性判定手段60は、支保に過大な地圧が作用していると判定する。また、支保特性曲線の終点が、地山特性曲線よりも下側に位置する場合、判定としては安定領域と考えられるが、解析上はここに支保特性曲線の終点がくることはこれまでの解析事例では存在しないため、実際には起こりえないと考えられる。
【0061】
なお、ステップS114でNoとなった場合には、例えば解析モデルの設定をやり直して再度解析を行う等、安定性の判定結果をフィードバックさせる。
【0062】
以上のステップS100〜S115は、コンピュータと、そのコンピュータに実行させるプログラムによって実現することができ、そのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に格納することができる。この場合、解析装置10は、記録媒体から読み込まれたプログラムにより、ステップS100〜S115を実行する。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態であるトンネル安定性の評価方法及びそのプログラムによれば、大深度の高地圧下でトンネルを建設する際の支保及び周辺地山の安定性を適切に評価することが可能となる。その結果、地層処分施設における処分坑道等、建設実績の少ないトンネルを建設するにあたり、精度の高い支保設計を行うことが可能となる。
【0064】
また、本実施の形態であるトンネル安定性の評価方法及びそのプログラムは、従来の特性曲線法による評価方法を準用しているため、特性曲線法によりトンネル安定性の評価を行ってきた支保設計者にとっても理解しやすいという効果を奏する。
【0065】
また、本実施の形態であるトンネル安定性の評価方法では、地山の状態ひずみから許容壁面変位uaを算出し、この許容壁面変位uaと支保内圧Piとの関係から許容地山ひずみ曲線を作成した。上述したように、支保内圧が大きくなると(すなわち支保効果が大きくなると)、周辺地山の許容壁面変位uaも大きくなる。つまり、許容ひずみを限界ひずみ(支保内圧によらず一定)とした場合に比べて、支保の支持性能の違いをより実際に近い形で評価することができる。その結果、支保内圧Pが大きい場合には、許容壁面変位uaを大きくしても安定性が確保できる効果を支保設計で反映させることができる。
【0066】
なお、上記実施の形態で適用した逐次掘削・逐次支保解析における要素数、掘進区間数、掘進区間における掘削列(a´〜f´)の数等は一例であり、これらに限定されないのはもちろんである。また、上記の逐次掘削・逐次支保解析では、評価対象掘進区間を掘進区間31としたが、これに限定されるものではなく、切羽から充分離れた位置であれば、他の掘進区間を評価対象掘進区間としてもよい。また、上記実施の形態では、逐次掘削・支保解析手段22で算出される地山要素と支保要素の節点変位と半径方向応力を掘進区間内で平均する演算処理までを最終掘進区間まで逐次繰り返す手順、すなわち、ステップS104からステップS109までの処理を逐次繰り返した後にステップS110に進む手順としたが、この処理の流れは一例であり以下のような手順とすることもできる。
【0067】
例えば、逐次掘削・支保解析を最終掘進区間まで実行した後に、算出された各要素の節点変位と半径方向応力の値を節点変位・半径方向応力平均値算出手段23に一括して送り、掘進区間1〜掘進区間39での各平均値を算出する手順としてもよい。すなわち、ステップS104からステップS106までを最終掘進区間まで繰り返した後に、ステップS107に進んで各掘進区間の平均値を算出する手順としてもよい。
【0068】
また、逐次掘削・支保解析、掘進区間内の平均値の演算処理及び平均値のプロット処理までを、最終掘進区間まで逐次繰り返し行う手順としてもよい。すなわち、ステップS104からステップS110までを最終掘進区間まで逐次繰り返す手順としてもよい
【0069】
また、上記実施の形態におけるトンネル安定性の判定では、支保特性曲線の終点が安定領域にあるか否かを判定している。つまり、安定性の判定には、最後に支保を設置した掘進区間39での壁面変位uLと支保反力PiLの値のみを使用している。従って、必ずしも支保特性曲線を作成する必要はなく、u−Pi平面上に終点のみをプロットするだけでもよい。
【0070】
さらに、上記実施の形態では、逐次掘削・逐次支保解析により支保特性曲線を作成した後、地山特性曲線、許容地山ひずみ曲線、許容作用地圧線を作成する手順としたが、地山特性曲線、許容地山ひずみ曲線、許容作用地圧線は、逐次掘削・逐次支保解析とは独立に得られるものである。従って、逐次掘削・逐次支保解析を行う前に、予めこれらの3本の線を作成する手順としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施の形態で適用する解析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1で示した解析装置が実施する処理の手順を示したフローチャートである。
【図3】図1で示した解析装置が実施する処理の手順を示したフローチャートである。
【図4】本実施の形態で適用する解析モデルの坑道の断面図である。
【図5】本実施の形態で適用する解析モデルの解析領域を示す概念図である。
【図6】本実施の形態で適用する解析モデルの要素分割状況を示す概念図である。
【図7】本実施の形態で適用する解析モデルの地山と支保との境界を拡大して示した図である。
【図8】逐次掘削・逐次支保解析において、地山を弾性体とした場合の切羽からの距離と壁面変位比との関係を示すグラフ、及び、地山特性曲線と支保特性曲線を示すグラフである。
【図9】逐次掘削・逐次支保解析において、地山を弾塑性体とした場合における地山特性曲線及び支保特性曲線を示すグラフである。
【図10】本実施の形態におけるトンネル安定性の判定を説明するためのグラフである。
【図11】室内三軸試験で得られる応力とひずみとの関係を示すグラフである。
【図12】トンネル内空側の支保接線方向応力を説明するための図である。
【図13】地層処分施設の概略図である。
【図14−1】従来の特性曲線法における地山特性曲線と支保特性曲線の一例を示すグラフである。
【図14−2】支保内圧と壁面変位を説明するための図である。
【図14−3】支保反力と壁面変位を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10 解析装置
20 支保特性曲線作成手段
21 解析モデル作成手段
22 逐次掘削・支保解析手段
23 節点変位・半径方向応力平均値算出手段
30 地山特性曲線作成手段
40 許容地山ひずみ曲線作成手段
50 許容作用地圧線作成手段
60 安定性判定手段
70 入力装置
80 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長さの掘削及び支保の設置を行う掘進区間、及び、周辺地山及び支保の物性値を設定し、掘削部分、支保の設置部分及び周辺地山を有限要素に分割して解析モデルを作成する工程と、
i−1番目の掘進区間の支保の設置を行ったのち、i番目の掘進区間の掘削を行い、該i番目の掘削に伴い、安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する要素の節点変位と半径方向応力とを算出する処理を、iを1ずつ増加させてiが掘進区間の総数になるまで逐次繰り返す工程と、
最終掘進区間の掘削が完了した時点での前記安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の節点変位の平均値を算出し、これを当該掘進区間における壁面変位uLとするとともに、最終掘進区間の掘削が完了した時点での前記安定性を評価する掘進区間における地山と支保との境界に位置する各要素の半径方向応力の平均値を算出し、これを当該掘進区間における支保反力PiLとする工程と、
地山について成り立つ許容壁面ひずみεθ,aを用いて算出される許容壁面変位uaと支保内圧Piとの関係から、許容地山ひずみ曲線を作成する工程と、
支保内縁の接線方向応力σθが、支保材料の許容応力σaとなるときの支保反力Pi,maxの値から、許容作用地圧線を作成する工程と、
横軸をトンネル壁面変位u、縦軸を支保内圧Piとしたu−Pi平面において、前記壁面変位uL及び前記支保反力PiLとで決まる点が、前記許容地山ひずみ曲線、前記許容作用地圧線、及び、前記地山特性曲線とで囲まれた領域にあるか否かを判定する工程と、
を有することを特徴とするトンネル安定性の評価方法。
【請求項2】
地山の状態ひずみから前記許容壁面変位uaを算出することを特徴とする請求項1に記載のトンネル安定性の評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載のトンネル安定性の評価方法における各工程を、コンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【公開番号】特開2009−114697(P2009−114697A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287578(P2007−287578)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)