説明

トンネル工事における湧水利用発電システム

【課題】トンネル工事に特有の坑内湧水を利用して発電し、その電力をトンネル工事用の一部としてまかなうことにより、エネルギーの効率化及び省電力化を図る。
【解決手段】山岳トンネルの工事中に坑内で発生する湧水を利用して発電を行う水力発電装置10を備え、発電した電力をトンネル工事用電力の一部として供給するようにする。この場合、トンネル工事中に回収された坑内湧水を浄化する濁水処理システム2を備え、前記水力発電装置10は、前記濁水処理システム2で浄化された水を河川に放流する際の落差を利用して発電を行うように設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事中に坑内に溜まる湧水を利用して発電することにより、エネルギーの効率化及び省電力化を図ったトンネル工事における湧水利用発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事を進める上で電力の確保が必要不可欠となるが、この電力として、通常は商用電力が使用されていた。また、山岳地域などの商用電力の確保が困難な場合には発電機で発電した電力が使用されていた(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、商用電力を使用する場合には、停電や電力供給制限などの非常時には利用できなくなるおそれがあり、発電機で発電した電力を使用する場合には、燃料費等が嵩むとともに、有害ガスの排出や騒音の発生など環境問題を引き起こすことが懸念されていた。
【0005】
一方、小電力水力発電として、トンネル工事現場に小型の水力発電装置を設置し、この水力発電装置に河川水を引き込んで発電を行う技術が従来より知られていたが、このような水力発電は水利権の問題が発生し、通常は自治体などの許認可が必要になるとともに、設備が大型化して広い設置スペースの確保が必要になるなど、実用化には数多くの課題を解決しなければならないのが現状であった。
【0006】
ところで、トンネル工事では掘削に伴い坑内で多量の湧水が発生するが、この湧水はトンネル坑内で回収され、濁水処理設備で処理された後、河川に放流されているだけであり、有効利用されている状況にはない。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、トンネル工事中にトンネル坑内に溜まる坑内湧水を利用して発電し、その電力をトンネル工事用の一部としてまかなうことにより、エネルギーの効率化及び省電力化を図ったトンネル工事における湧水利用発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、山岳トンネルの工事中に坑内で発生する湧水を利用して発電を行う水力発電装置を備え、発電した電力をトンネル工事用電力の一部として供給するようにしたことを特徴とするトンネル工事における湧水利用発電システムが提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明は、山岳トンネルの工事中に坑内で発生する湧水を利用して発電を行う水力発電装置を備え、この水力発電装置で発電した電力をトンネル工事用電力の一部として供給するようにしたものである。山岳トンネルの工事中は、トンネル内空面や切羽から坑内に多量の地下水が湧き出て、坑内湧水としてトンネル坑内に溜まるが、このトンネル工事に特有の坑内湧水を利用して発電を行う水力発電装置を備え、この水力発電装置によって得られた電力をトンネル工事用の一部としてまかなうことにより、エネルギーの効率化及び省電力化が図られるようになる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、トンネル工事中に回収された坑内湧水を浄化する濁水処理システムを備え、前記水力発電装置は、前記濁水処理システムで浄化された水を放流する際の落差を利用して発電を行うように設置してある請求項1記載のトンネル工事における湧水利用発電システムが提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、トンネル工事中に回収された坑内湧水を浄化する濁水処理システムを備え、前記水力発電装置は、前記濁水処理システムで浄化された水を河川に放流する際の落差を利用して発電を行うように設置してある。
【0012】
従って、前記濁水処理システムで処理された水を河川に放流する際の落差を利用して発電を行うように水力発電装置を設置したため、水力発電装置を通過する水に高い流速を与えることが可能になるため、水の落差エネルギーを有効活用できるとともに、省電力化が図れるようになる。なお、前記水力発電装置としては、特に特開2009−221882号公報に開示されたものが好適に使用でき、これにより、コンパクトな形状でありながら、効率良く発電することができるようになる。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記水力発電装置によって発電された発電量を表示するモニタが備えられている請求項1、2いずれかに記載のトンネル工事における湧水利用発電システムが提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明では、水力発電装置によって発電された発電量を表示するモニタを備えることにより、発電システムの稼働状況が一目で把握できるなる。
【発明の効果】
【0015】
以上詳説のとおり本発明によれば、トンネル工事中にトンネル坑内に溜まる坑内湧水を利用して発電し、その電力をトンネル工事用の一部としてまかなうことにより、エネルギーの効率化及び省電力化を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る発電システム1の構成図である。
【図2】水力発電装置10の縦断面図である。
【図3】水力発電装置10の横断面図である。
【図4】水力発電装置10の使用状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0018】
本発明に係るトンネル工事における湧水利用発電システム1(以下、発電システム1という。)は、トンネル工事中にトンネル内空面や切羽から周辺地山の地下水が湧き出てトンネル坑内に溜まった坑内湧水を利用して発電を行う水力発電装置10が備えられている。
【0019】
具体的に本発電システム1は、図1に示されるように、トンネル工事中に回収された坑内湧水を浄化する濁水処理システム2と、この濁水処理システム2で浄化された水を河川に放流する際の落差を利用して発電を行う水力発電装置10とから構成されている。
【0020】
前記濁水処理システム2は、坑内湧水に懸濁した粘土鉱物などの微細粒子を取り除き、河川等に放流できる程度の清水とするものである。詳細には図1に示されるように、トンネル坑内の坑内湧水は、床面に設けられた排水溝によって集約されたり、吸引機などによって床面に広がった坑内湧水を吸引したりして回収され、沈砂槽3に貯留される。この沈砂槽3では、前処理として砂などの不純物が沈降分離される。沈砂槽3を通過した処理水には、薬注ポンプなどによって凝集剤が注入されるとともに、中和のためのCOガスが混合された後、シックナー4に送られ、このシックナー4において前記凝集剤の凝結作用により凝結した微細粒子が沈降分離される。その後、上澄みの処理水だけが処理水槽5に送られ、必要に応じて濾過器7で更に微細粒子分が濾過された後、放流水槽6に貯留される。一方、シックナー4において沈降した汚泥分は、汚泥貯留槽4aに送られ、フィルタープレス等の脱水機4bで固液分離された後、固体分が沈砂槽3へ戻される。
【0021】
前記シックナー4の前段で注入される凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)などのアルミニウム塩系の無機凝集剤や高分子凝集剤などを適宜組み合わせて使用することができる。
【0022】
前記水力発電装置10に送られる放流水は、前記放流水槽6からの定常的な流下が可能なように、配管の傾斜角を調整したり、放流水槽6からの放流水量を調整するなどして、配管端末から常時水が流れるように調整することが好ましい。これにより安定した電力供給が可能となる。
【0023】
前記水力発電装置10は、濁水処理システム2で処理された放流水槽6の水を河川等に放流する際の落差を利用して発電を行うものであるので、低落差でも発電効率が良いものを使用することが望ましく、このような水力発電装置10としては、例えば特開2009−221882号公報に開示されたものが好適に使用できる。詳細については、同公報に譲るが、以下にその概略について図2〜図4に基づいて説明する。
【0024】
前記水力発電装置10は、垂直方向に長い矩形に組まれた架台フレーム12が設けられている。架台フレーム12は、後述する用水路44の第二底部52に設置される互いに平行な一対の土台部12aと、各土台部12aにほぼ垂直に立設される二対の柱部12bと、二対の柱部12bの上端を連結する上端部12cが設けられている。柱部12bの土台部12aに近い部分には、土台部12aに対して平行に保持部12dが設けられている。柱部12bの、上端部12cに近い部分には、柱部12bの長さを調整する図示しない構造が設けられてもよい。そして、土台部12a、上端部12c、保持部12d付近には、図示しない横部材がそれぞれ柱部12bの間にほぼ直角に交差して設けられ、四角形の箱形に組み立てられている。
【0025】
架台フレーム12の4本の柱部12bの内側には、円筒形の取水胴14が設けられている。取水胴14は、軸方向が垂直に設けられて上下に開口し、上方に開口された上端縁部14aは、約半分程度の長さが、下方に斜めに切除されて切除部14bが設けられている。取水胴14の下端縁部14cは略水平方向に位置して開口している。
【0026】
取水胴14の内側には、ガイド部材15が固定されている。ガイド部材15には、取水胴14の中心軸上に位置する水絞りドラム16が設けられている。水絞りドラム16は、取水胴14に対して平行な中心軸を有し下方に向かって直径が大きくなる円錐部16aと、円錐部16aの下端部に連続し取水胴14に対して平行な円柱部16bが設けられている。水絞りドラム16の中心軸には、後述するシャフト28が挿通される挿通部18が垂直方向に設けられている。
【0027】
水絞りドラム16の円柱部16bの側周面には、固定スクリュウ20が設けられている。固定スクリュウ20は水絞りドラム16と取水胴14の間の空間を取水胴14の円周に沿って放射方向に区切る4枚の矩形の板体であり、水絞りドラム16と取水胴14の間の空間を等間隔に4区画に区切っている。各固定スクリュウ20の一方の側縁部は水絞りドラム16の円柱部16bに固定され、この側縁部に対向する側縁部は取水胴14の内周面に固定され、その他の一対の側縁部は取水胴14の内側に露出している。各固定スクリュウ20の取付角度は、取水胴14の軸方向に対して下方へ向かって時計周りに湾曲するように傾斜し、傾斜する角度は、後述する回転スクリュウ22の羽根部26の上面に対して、ほぼ直角に向くように設けられている。なおここで直角とは、90度前後の角度を含むものとする。また各固定スクリュウ20は、厚み方向が、下方へ向かって僅かに湾曲されている。
【0028】
ガイド部材15の下方には、回転スクリュウ22が設けられている。回転スクリュウ22はほぼ垂直な軸部24が設けられ、軸部24の側周面には4枚の羽根部26が設けられている。各羽根部26は、軸部24の軸方向に対して下方へ向かって反時計周りに移動する螺旋状に設けられ、4枚が互いに平行に設けられている。
【0029】
回転スクリュウ22の軸部24には、シャフト28が連結されている。シャフト28は回転スクリュウ22の軸部24を貫通して固定され、軸部24の上方にほぼ垂直に延出し、ガイド部材15の水絞りドラム16に形成された挿通部18に回転可能に挿通され、さらに上方に延出して架台フレーム12の上端部12cに達している。シャフト28の上端部28aは、架台フレーム12の上端部12cに固定された軸受30に支持され、カップリング32に連結されている。カップリング32は、増速機34に連結されている。さらに、増速機34から別のシャフト36が上方に延出して設けられ、シャフト36はカップリング38を経て発電機40に連結されている。
【0030】
シャフト28の下端部28bは、回転スクリュウ22の軸部24の下方に延出し、架台フレーム12の保持部12dに達している。そして、保持部12dに固定されている軸受42に回転可能に支持されている。
【0031】
次に、この実施形態の水力発電装置10の使用方法について図4に基づいて説明する。水力発電装置10を取り付ける放流水槽6からの水路44は、一対の側壁部46で両岸が保護され、側壁部46の間には浅い第一底部48が形成されている。第一底部48の下流側にはほぼ垂直に下方へ向かう段部50が連続し、さらに段部50には第一底部48よりも深い第二底部52が連続している。水力発電装置10は水路44の段部50付近若しくは河川へ放流する際の放流口付近に設置され、架台フレーム12の柱部12bが段部50にほぼ接触するように置き、土台部12aを第二底部52に設置する。このとき、取水胴14の切欠部14bが第一底部48に対向するようにセットし、切欠部14bの下端部が第一底部48とほぼ同じ高さとなるようにする。なお、架台フレーム12の柱部12bに高さ調節機能が設けられている場合、水路44の段部50に合わせて高さを調節する。
【0032】
次に水力発電装置10の動作について説明する。水路44の第一底部48を流れてきた水は段部50で落下し、水力発電装置10の取水胴14の中へ切欠部14bを通過して流れ込む。取水胴14に流れ込んだ水は垂直に落下し、ガイド部材15に当たり、ガイド部材15の水絞りドラム16と固定スクリュウ20の間の空間に流れ、水絞りドラム16の側周面と固定スクリュウ20の延長線上に沿って流れ落ちる。流れ落ちる位置は、回転スクリュウ22の羽根部26の、軸部24から離れた縁部付近であり、流れ落ちる角度は、羽根部26の上面に対してほぼ直角となる。そして、回転スクリュウ22の羽根部26に水が落下すると、羽根部26が押されて回転スクリュウ22が軸部24を中心に、上方から見て時計回りに回転する。このとき、ガイド部材15の固定スクリュウ20により水は4箇所に分かれた流路となり、ガイド部材15の水絞りドラム16は下方に向かって直径が大きくなる円錐形であり水の流路は取水胴14の内周面に近い部分に狭められるため、水の流速は早められた状態で落下する。下方に位置する回転スクリュウ22の羽根部26も4枚設けられ、ガイド部材15の4箇所から落下した水は確実に受けられ、回転スクリュウ22の回転エネルギーに変換される。回転スクリュウ22の回転に伴い、シャフト28、36が回転し、発電機40で発電される。例えば、この実施形態のような発電機40では、落差3m以下の段部50を有する水路44で、3kwの発電をすることができる。
【0033】
この実施形態の水力発電装置10によれば、簡単な構造でコンパクトな形状であり、水のエネルギーを効率良く回転エネルギーに変えて発電することができる。構造が簡単なため、安価で移動が容易であり、またメンテナンスも簡単であり、手軽に使用することができる。水路の段差からほぼ垂直に落下する水の流れを、ガイド部材15により効率が良い方向に変え、回転スクリュウ22の羽根部26の最適な場所に最適な角度で水を当てることができる。これにより発電効率が良好であり、また水路44を流れる水の量が少ないときでも流速を速めて確実に発電することができる。水力発電装置10は小形であるため、段部50の落差が2メートル程度でも使用可能であり、省スペースなためいろいろな場所に取付けることができる。省スペースと、発電効率が良好であるという、相反する効果を有するものである。
【0034】
なお、この発明の水力発電装置は、上記実施の形態に限定されるものではなく、各部材の形状は適宜変更可能である。ガイド部材の形状は、上記以外に水の流れを適した方向に向けるものであれば良い。また、回転スクリュウの羽根部の形状や枚数、角度等も適宜変更可能である。
【0035】
ところで、本発電システム1には、上記水力発電装置10によって発電された発電量を表示するモニタを備えるようにすることが好ましい。発電量をモニタリングすることにより、発電システム1の稼働状況が一目で把握でき、工事全体の所要電力のうち、どの程度生産できているかを常時把握することができるようになる。前記モニタには、「現在の発電量(kWh)」の他、この発電量をメータ化したもの、「総積算発電量(kWh)」、「CO削減量(kg・CO)」、「現在の気温」、「日時」などを表示することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…トンネル工事における湧水利用発電システム(発電システム)、2…濁水処理システム、3…沈砂槽、4…シックナー、5…処理水槽、6…放流水槽、7…濾過器、8…汚泥貯留槽、9…脱水機、10…水力発電装置、12…架台フレーム、14…取水胴、15…ガイド部材、16…水絞りドラム、16a…円錐部、16b…円柱部、20…固定スクリュウ、22…回転スクリュウ、24…軸部、26…羽根部、28…シャフト、40…発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの工事中に坑内で発生する湧水を利用して発電を行う水力発電装置を備え、発電した電力をトンネル工事用電力の一部として供給するようにしたことを特徴とするトンネル工事における湧水利用発電システム。
【請求項2】
トンネル工事中に回収された坑内湧水を浄化する濁水処理システムを備え、前記水力発電装置は、前記濁水処理システムで浄化された水を河川に放流する際の落差を利用して発電を行うように設置してある請求項1記載のトンネル工事における湧水利用発電システム。
【請求項3】
前記水力発電装置によって発電された発電量を表示するモニタが備えられている請求項1、2いずれかに記載のトンネル工事における湧水利用発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23973(P2013−23973A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161881(P2011−161881)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(591284601)株式会社演算工房 (22)