説明

トンネル排水設備監視制御方法およびトンネル排水設備監視制御システム

【課題】トンネル排水設備監視制御について、近年発生しやすくなっている突発的な集中豪雨に対しても排水ポンプの運転を必要最小限に抑えつつ、排水槽からの必要な排水を確実に行うことを可能とする。
【解決手段】排水を貯留する排水槽5、排水ポンプP、および排水ポンプを制御するポンプ制御盤7を備えたトンネルの排水設備1を遠隔的に監視制御するについて、トンネル排水設備監視制御システムに水位設定手段10を設け、排水ポンプに運転開始させる排水槽の水位である運転水位を水位設定手段によりポンプ制御盤に所定の時間周期で設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルに付帯設備として設けられている排水設備の監視制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルには、降雨時などに冠水するのを防止するための排水設備が設けられている場合が少なくない。そうしたトンネル排水設備は、排水を貯留する排水槽、その排水槽に設置される排水ポンプ、および排水ポンプを制御するポンプ制御盤を備えているのが一般的である。
【0003】
こうしたトンネル排水設備について従来では、その基本的な制御として、ポンプ制御盤に予め設定してある運転水位と停止水位に基づいて排水ポンプの運転/停止を自動的に行うようにされている。すなわち降雨などにより排水槽の水位が上昇して運転水位に達すると、排水ポンプを自動的に運転させて排水槽からの排水を行い、その排水で排水槽の水位が停止水位になれば、排水ポンプを自動的に停止させるという制御である。またトンネル排水設備は、こうした基本的制御の他に、必要に応じてトンネル排水設備監視制御システム(これは排水設備の他に、換気設備、照明設備、防災設備などのトンネルの各種設備の制御を複数のトンネルについて遠く離れた場所から遠隔的に行うトンネル遠隔監視制御システムの一部として設けられる)による遠隔制御も受けるようにされている。すなわちトンネル排水設備監視制御システムには、ポンプ制御盤から排水槽の水位情報と排水ポンプの運転/停止情報が送られる。そしてシステムのオペレータは、任意にこれらの情報をシステムの表示部に表示させてトンネル排水設備の状況を把握し、必要であれば手動で排水ポンプの運転や停止操作を行う。
【0004】
ここで、降雨などに伴う排水の監視制御に関する技術として、特許文献1に開示される「雨水ポンプ井の目標水位制御方法」や特許文献2に開示される「雨水ポンプ制御装置」などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−18720号公報
【特許文献2】特開2000−265531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来のトンネル排水設備では、ポンプ制御盤に予め設定の運転水位と停止水位に基づく固定的な制御を基本とし、これをトンネル排水設備監視制御システムからの手動制御で補うようにされていた。そしてその手動操作による補完制御は、固定的な制御では大雨により排水槽が溢れる可能性があると予測されるような場合に特に行われていた。すなわち排水槽が溢れる可能性があるような大雨が予測される場合には、トンネル排水設備監視制御システムからの手動操作により事前に排水ポンプを運転して排水槽の水位を適切な水位まで下げることで大雨に対処する制御である。
【0007】
近年は、トンネル内の路面がトンネル外の路面より低くて雨水が溜まりやすいアンダーパス型のトンネルが特に都市部において増えてきており、その一方で都市部では突発的な集中豪雨が発生しやすくなってもいる。このため大雨に対処するための排水制御を必要とする場合が増えている。このような状況にあっては、上記のようなトンネル排水設備監視制御システムからの手動による補完制御で大雨に対処することにはいくつかの問題がある。
【0008】
その1つは、トンネル排水設備監視制御システムからの手動操作であると、事前の水位設定に過不足を生じるということである。すなわちトンネル排水設備からトンネル排水設備監視制御システムに提供される水位情報には時間的な遅れがあり、それに起因して水位を下げ過ぎてしまったり、水位の下げ不足を生じたりすることである。水位を過度に下げてしまうと、ポンプ制御盤が排水ポンプを起動ロック状態にしてしまう。そして排水ポンプが起動ロック状態になると、排水槽の水位が上昇しても排水がなされなくなったり、トンネル排水設備監視制御システムからの遠隔制御で排水ポンプを起動させることができなくなったりし、係員が現場まで出向いて起動ロック状態を解除するなどの対応をとる必要を生じてしまう。一方、水位の下げに不足があると、トンネルが冠水する可能性が高くなってしまう。
【0009】
他の1つの問題は、トンネル排水設備監視制御システムからの手動操作であると、排水ポンプの運転に無駄が増え、電力コストのいたずらな増大を招き、また排水ポンプの消耗をいたずらに早めるという結果を招くという問題である。
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、近年発生しやすくなっている突発的な集中豪雨に対しても排水ポンプの運転を必要最小限に抑えつつ、排水槽からの必要な排水を確実に行うことを可能とするトンネル排水設備監視制御方法およびその実行に用いるトンネル排水設備監視制御システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的のために本発明では、排水を貯留する排水槽、前記排水槽に設置される排水ポンプ、および前記排水ポンプを制御するポンプ制御盤を備えたトンネルの排水設備をトンネル排水設備監視制御システムにより遠隔的に監視制御するためのトンネル排水設備監視制御方法において、前記トンネル排水設備監視制御システムに水位設定手段を設け、前記排水ポンプに運転開始させる前記排水槽の水位である運転水位を前記水位設定手段により前記ポンプ制御盤に所定の時間周期で設定することを特徴としている。
【0012】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御方法について、前記水位設定手段により設定する設定運転水位は、予報降水量に基づいて自動的に決定する。
【0013】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御方法について、前記予報降水量に基づいて決定された設定運転水位を、その決定時点における前記排水槽への排水の実流入量に基づいて自動的に変更する。
【0014】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御方法について、前記実流入量に基づく前記設定運転水位の変更に際して過去の運転水位設定パターンを参照して前記設定運転水位の変更をする。
【0015】
また本発明で上記目的のために、排水を貯留する排水槽、前記排水槽に設置される排水ポンプ、および前記排水ポンプを制御するポンプ制御盤を備えたトンネルの排水設備を遠隔的に監視制御するためのトンネル排水設備監視制御システムにおいて、前記排水ポンプに運転開始させる前記排水槽の水位である運転水位を前記ポンプ制御盤に所定の時間周期で設定する水位設定手段を備えていることを特徴としている。
【0016】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御システムについて、前記水位設定手段は、予報降水量と前記排水槽への排水の予測流入量の関係をテーブル化して保持する予測流入量テーブル、前記排水槽への予測流入量と前記運転水位の関係をテーブル化して保持する設定水位テーブル、および入力された予報降水量から前記予測流入量テーブルと前記設定水位テーブルを用いて設定運転水位を算出する運転水位算出部を備えるものとしている。
【0017】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御システムについて、前記水位設定手段は、予報降水量に基づいて決定された設定運転水位を、その決定時点における前記排水槽への排水の実流入量に基づいて自動的に変更する運転水位変更部をさらに備えるものとしている。
【0018】
また本発明では上記のようなトンネル排水設備監視制御システムについて、前記水位設定手段は、監視制御対象の排水設備の過去における水位設定の履歴を記録する設定水位履歴データベースをさらに備え、前記実流入量に基づく前記設定運転水位の変更に際して前記設定水位履歴データベースから求めた過去の運転水位設定パターンを参照して前記設定運転水位の変更をするものとしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、トンネル排水設備監視制御システムから水位設定手段により運転水位を所定の時間周期で設定する。このため本発明によれば、近年発生しやすくなっている突発的な集中豪雨に対しても排水ポンプの運転を必要最小限に抑えつつ、排水槽からの必要な排水を確実に行うことが可能となる。また本発明の1つの態様では、予報降水量に基づく設定運転水位を実際の降雨状態に応じて自動的に変更する。このため、実際の降雨状態に即して排水設備を制御することが可能となり、さらにその運転水位変更処理で過去の運転水位設定パターンの利用による学習性を与えることにより、個々のトンネルの特徴に応じた制御が可能となり、これらにより排水ポンプの無駄な運転を避けた、より効率的な制御を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1に一実施形態におけるトンネル排水設備監視制御システムの構成を示す。本実施形態のトンネル排水設備監視制御システムは、複数のトンネルTN(TN1、TN2、…TNn)それぞれにおける各排水設備1‐TN1、1‐TN2、…1‐TNnを一括的に監視制御でき、中央監視装置2、予報降水量入力部3、およびグラフ表示部4を備えている。
【0021】
排水設備1は、図中に排水設備1‐TN1について示すように、排水を貯留する排水槽5、排水槽5に設置される複数の排水ポンプP(図の例では2台の排水ポンプP1、P2)、排水槽5に設置される水位計6、および排水ポンプPを制御するポンプ制御盤7を備え、さらにトンネル伝送装置8を備えている。
【0022】
ポンプ制御盤7は、後述のようにして中央監視装置2から遠隔的に設定される設定水位に基づいて排水ポンプP1、P2の運転/停止を制御する。またポンプ制御盤7は、例えば1分といった周期で排水槽5の水位データを取得するとともに、排水ポンプP1、P2の運転/停止状態に関するデータを取得する。これらのデータは、トンネル伝送装置8に渡され、トンネル伝送装置8から通信手段(通信網)9を介して中央監視装置2に送信される。
【0023】
中央監視装置2は、トンネルTN1、TN2、…TNnそれぞれの排水設備1‐TN1、1‐TN2、…1‐TNnごとの水位設定・監視手段(水位設定手段)10を備えるとともに、トンネル伝送I/F11を備え、通信手段9を介して排水設備1‐TN1、1‐TN2、…1‐TNnのそれぞれに接続されている。水位設定・監視手段10は、降水量と排水槽5への一定時間単位(例えば10分)での予測流入量の当該排水設備1における関係をテーブル化して保持する予測流入量テーブル12、排水槽5への予測流入量と排水槽5における運転水位の当該排水設備1における関係をテーブル化して保持する設定水位テーブル13、当該排水設備1の過去における水位設定の履歴を記録する設定水位履歴データベース14、オペレータが入力する予報降水量から予測流入量テーブル12と設定水位テーブル13を用いて当該排水設備1における運転水位を算出する運転水位算出部15、当該排水設備1からトンネル伝送I/F11を介して入力情報として受信する排水槽5の計測水位情報と排水ポンプP1、P2の運転/停止情報を水位・ポンプ運転実績データとして記録する水位・ポンプ運転実績データベース16、水位・ポンプ運転実績データベース16への記録処理を行う排水設備データ記録部17、排水ポンプPで排水している状態におけるその時点での排水槽5への実際の流入量などから運転水位を変更する運転水位変更部18、排水ポンプPで排水している状態における排水槽5の水位上昇率を予め設定の限界水位上昇率に基づいて監視し、また排水槽5の上限水位と下限水位について監視する水位監視部19、および排水槽5の水位上昇率が限界水位上昇率を超えた場合および排水槽5の水位が上限水位または下限水位に達した場合に警報を出力する水位警報出力部20を備えている。
【0024】
予報降水量入力部3は、オペレータが予報降水量を入力するための画面として構成される。予報降水量の入力は、通常、一定時間単位(例えば3時間単位)で1日分の予報降水量を入力するようにして行う。1日分の予報降水量の入力は前日の夕方に行うのを基本とするが、予報の変化に応じて適宜に変更入力をできるようにする。予報降水量情報は、例えばインターネットの天気予報サイトで入手することができる。
【0025】
グラフ表示部4は、例えば1時間単位で排水槽5の水位トレンドをグラフ表示するように構成され、オペレータの状況把握を支援するのに機能する。
【0026】
次に、本トンネル排水設備監視制御システムで実行される監視制御方法について説明する。監視制御方法における排水設備の制御は、所定の時間周期(例えば10分)で排水槽の運転水位を設定する処理の繰返しとして行われる。ここで、排水槽の水位には複数の段階を予め決めておく。本実施形態では、上限水位と下限水位それに停止水位を設けるとともに、上限水位と停止水位の間に等間隔でA〜Dの4段階の運転水位を設けている。上限水位は、排水槽が満杯に近い異常高水位として警報を出力する水位である。一方、下限水位は、その状態で排水ポンプを運転させると排水ポンプに異常をもたらす可能性のある水位であり、この場合は異常低水位として警報を出力するとともに、排水ポンプ保護のために排水ポンプを起動ロック状態にする。停止水位は、4段階の運転水位A〜Dのいずれかが設定されてその水位条件で排水ポンプが運転されている状態で当該水位に達した場合に排水ポンプを停止させる水位である。4段階の運転水位A〜Dについては2台の排水ポンプP1、P2の使い分けを設定してある。すなわち予報降水量が多くて最も低い水位Dが設定された水位条件では、その水位に達した時点で2台の排水ポンプP1、P2を同時に運転開始させるようにし、それ以外の水位A〜Cが設定された水位条件では、それらの水位に達した時点で2台の排水ポンプP1、P2のうちのいずれか1台、例えば排水ポンプP1を優先的に運転開始させるようにする。このように複数段階の運転水位を設け、それらの運転水位について複数の排水ポンプの使い分けをさせることにより、排水ポンプをより効率的に運転させることが可能となる。
【0027】
図2に運転水位設定における処理の流れを示す。この運転水位設定処理は、上記のように所定の時間周期で定期的に行い、その都度、トンネル排水設備監視制御システムが監視制御対象とする複数のトンネルの全てについて順に行う。本実施形態では運転水位設定処理の周期を10分としている。ある時点での運転水位設定が開始されると、まず、最初の運転水位設定対象の排水設備について予報降水量の入力を確認する(ステップ21)。予報降水量には、例えば0mmといったデフォルト(これは変更可能)があり、予報降水量の入力がなされていない場合にはこのデフォルトが表示される。予報降水量入力確認でデフォルトであった場合には、ステップ24に進み、設定運転水位(排水ポンプの運転開始水位として設定される排水槽の水位)を最高位の運転水位Aに決定する。
【0028】
一方、予報降水量入力確認で予報降水量の入力が認められた場合には、ステップ22で排水槽への予測流入量を決定する。予測流入量決定処理では、入力されている予報降水量で予測流入量テーブル12を検索して入力予報降水量に対応する流入量を抽出し、それを予測流入量として決定する。
【0029】
予測流入量が決定されたら、その予測流入量からステップ23で設定運転水位を決定する。運転水位決定処理では、予測流入量で設定水位テーブル13を検索して予測流入量に対応する運転水位を抽出し、それを設定運転水位(運転水位B〜Dのいずれか)として決定する。
【0030】
ステップ24またはステップ23で設定運転水位が決定されたらステップ25で排水ポンプの運転の有無を判定する。排水ポンプ(排水ポンプP1、P2のいずれかまたは両方)が運転中であれば、ステップ26に進んで運転水位変更処理を行う。後述するように運転水位変更処理では、ステップ24またはステップ23で決定された設定運転水位を当該排水設備における排水槽への実際の流入量などに応じて変更して新たな設定運転水位を決定する。運転水位変更処理で設定運転水位が決定されたら、その設定運転水位を設定水位履歴データベース14に登録し(ステップ27)、それからその運転水位をトンネル伝送I/F11に出力し、トンネル伝送I/F11により排水設備1のポンプ制御盤7に送信する(ステップ28)。ここで、運転水位変更処理で決定された設定運転水位について、設定水位履歴データベース14への登録を行わない場合もある。それについて後述する。
【0031】
一方、運転中の排水ポンプがないとされた場合には、ステップ24またはステップ23で決定された設定運転水位を設定水位履歴データベース14に登録し(ステップ27)、それからその運転水位をトンネル伝送I/F11に出力し、トンネル伝送I/F11により排水設備1のポンプ制御盤7に送信する(ステップ28)。
【0032】
設定運転水位の送信を受けたポンプ制御盤7は、それを運転水位として設定して排水ポンプの制御を行う。その制御は、例えば設定運転水位が最も低い運転水位Dの場合であれば、その水位に達した時点で2台の排水ポンプP1、P2を同時に運転開始させて停止水位になるまで運転を継続し、また設定運転水位が運転水位Aの場合であれば、その水位に達した時点で例えば排水ポンプP1を優先的に運転開始させて停止水位になるまで運転を継続させるというように行われる。ここで、排水設備1が既存のもので、中央監視装置2から指令される設定運転水位を直接に入力設定する機能をポンプ制御盤7が備えていない場合には、ポンプ制御盤7に水位設定変更手段7Aを設け、この水位設定変更手段7Aにより中央監視装置2からの指令設定運転水位をポンプ制御盤7に設定する。
【0033】
1つの排水設備についての運転水位の設定を終えたら、運転水位未設定のトンネルの有無を判定する(ステップ29)。運転水位未設定のトンネルが残っている場合にはステップ21に戻ってステップ28までの処理を運転水位未設定のトンネルが無くなるまで繰返し、運転水位未設定のトンネル無しであった場合には処理を終了する。以上の一連の処理は上記のように例えば10分といった所定の時間周期で定期的に行う。
【0034】
図3に、運転水位変更処理の流れを示す。運転水位変更処理では、まず水位・ポンプ運転実績データベース16から水位データとポンプ運転時間データを取得する(ステップ31)。水位データは、前回の運転水位設定処理時と今回の運転水位設定処理時での水位の差分、つまり対前回水位差分であり、現時点での水位と10分前における水位の差分として求める。ポンプ運転時間データは、現時点までの過去10分間における排水ポンプの累積運転時間である。
【0035】
水位データとポンプ運転時間データが得られたら、これらのデータに基づいて実流入量を算出する(ステップ32)。実流入量算出処理では、まず、ポンプ運転時間から過去10分間の排出量を求める。過去10分間の排出量は、「排水ポンプP1の運転時間(分)×排水ポンプP1の1分間排出量=排水ポンプP1の過去10分間の排出量」と「排水ポンプP2の運転時間(分)×排水ポンプP2の1分間排出量=排水ポンプP2の過去10分間の排出量」の合計として求める。次いで、対前回水位差分から見かけの流入量を「対前回水位差分×排水槽の底辺面積=見かけの流入量」として求める。そしてこれら排水ポンプによる排出量と見かけの流入量から実流入量を算出する。実流入量は、「排出量+見かけの流入量=実流入量」として求める。この式において、対前回水位差分が正の値の場合、つまり水位が前回より上昇している場合には、見かけの流入量が正の値になり、対前回水位差分が負の値の場合、つまり水位が前回より下降している場合には、見かけの流入量が負の値になる。
【0036】
実流入量を求めたら、これを予測流入量と大小比較する(ステップ33)。予測流入量が実流入量以上とされた場合には、設定運転水位の変更無しとし、ステップ24またはステップ23で決定の設定運転水位を維持してステップ27以下の処理に進む。一方、予測流入量が実流入量より小さいとされた場合には、ステップ34以降で設定運転水位の変更を行う。
【0037】
ステップ34では、実流入量で設定水位テーブル13を検索して実流入量に対応する運転水位を抽出し、それを設定運転水位として仮に決定する。次いで、設定水位履歴データベース14から過去(今回以前の降雨時)における運転水位設定パターン、つまり周期的に繰り返される運転水位設定処理で過去に設定された運転水位の変化パターンを求め(ステップ35)、その過去運転水位設定パターンと今回降雨時における現時点までの運転水位設定パターンの比較を行う(ステップ36)。このパターン比較で、今回運転水位設定パターンが過去運転水位設定パターンと一致またはほぼ一致している場合には、ステップ34で仮決定の設定運転水位に変えて過去運転水位設定パターンにおける設定運転水位を採用する(ステップ37)。例えば過去運転水位設定パターンとして、水位上昇開始後30分間は設定運転水位が運転水位Aで、次の10分間に設定運転水位が運転水位Cとなるパターンがあり、今回降雨時における現時点までの運転水位設定パターンが水位上昇開始後30分間の設定運転水位が運転水位Aであるというパターンで一致している場合には、ステップ34で仮決定の設定運転水位が運転水位Aであっても、過去運転水位設定パターンからすると次の10分間の設定運転水位には運転水位Cがより適切であるとして、この運転水位Cを設定運転水位に決定する。
【0038】
こうした運転水位設定パターン比較処理は、個々のトンネルにおける排水設備への排水流入の特徴に応じた運転水位の設定を可能とする。すなわち排水設備への排水の流入には、流入量がある量に達すると急激に増大したり、あるいは逆に急激に減少したりするといった特徴があり、これらの特徴はトンネルごとに異なっている場合が多い。こうした特徴に対応するにはその時点での流入量に基づく運転水位設定処理だけでは不十分であり、その不十分な部分を運転水位設定パターン比較処理で補うことで、より実際に適した運転水位設定を行える。
【0039】
ここで、過去の運転水位設定パターンを蓄積し、これに基づいて運転水位の設定を行えるようにすることは、いわば学習性を水位設定・監視手段10に与えることになり、より実際に適した運転水位設定を行えるようにするものである。こうした学習については、ステップ37で決定した設定運転水位を設定水位履歴データベース14に登録すると学習性を損なうことになる。したがって運転水位変更処理による設定運転水位については、ステップ34で決定の設定運転水位だけを設定水位履歴データベース14に登録する。
【0040】
水位設定・監視手段10は、以上のような運転水位設定処理を通じて各トンネルの排水設備に対する遠隔制御を行う一方で、その制御中における排水槽の水位を水位監視部19により監視し、排水槽の水位上昇率が限界水位上昇率を超えた場合および排水槽の水位が上限水位または下限水位に達した場合に警報を出力し、これによりオペレータの各排水設備に対する状況把握を支援する。またオペレータの各トンネルの排水設備に対する状況把握支援は、上述のように、各排水設備の排水槽における水位トレンドをグラフ表示部4にグラフ表示することでもなされる。
【0041】
以上のように本発明では、予報降水量に基づいた運転水位を自動的に設定する。このため、近年発生しやすくなっている突発的な集中豪雨に対しても排水ポンプの運転を必要最小限に抑えつつ、排水槽からの必要な排水を確実に行うことが可能となる。また本発明では、予報降水量に基づく設定運転水位を実際の降雨状態に応じて自動的に変更する。このため、実際の降雨状態に即して排水設備を制御することが可能となり、さらにその運転水位変更処理で過去の運転水位設定パターンの利用による学習性を与えることにより、個々のトンネルの特徴に応じた制御が可能となり、これらにより排水ポンプの無駄な運転を避けた、より効率的な制御を行える。
【0042】
以上の実施形態では、運転水位についてのみ設定を行うようにしていた。本発明を実施する形態はこれに限られず、停止水位についても運転水位の場合と同様に複数の段階を設け、それらから降雨量に応じた停止水位を選択的に設定する形態とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、トンネル排水設備の監視制御について、突発的な集中豪雨に対しても排水ポンプの運転を必要最小限に抑えつつ、排水槽からの必要な排水を確実に行うことを可能とするものであり、トンネル設備の監視制御の分野に有効なものとして広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】一実施形態におけるトンネル排水設備監視制御システムの構成を示す図である。
【図2】運転水位設定処理の流れを示す図である。
【図3】運転水位変更処理の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 排水設備
2 中央監視装置
5 排水槽
7 ポンプ制御盤
10 水位設定・監視手段(水位設定手段)
12 予測流入量テーブル
13 設定水位テーブル
14 設定水位履歴データベース
15 運転水位算出部
18 運転水位変更部
P 排水ポンプ
TN トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を貯留する排水槽、前記排水槽に設置される排水ポンプ、および前記排水ポンプを制御するポンプ制御盤を備えたトンネルの排水設備をトンネル排水設備監視制御システムにより遠隔的に監視制御するためのトンネル排水設備監視制御方法において、
前記トンネル排水設備監視制御システムに水位設定手段を設け、前記排水ポンプに運転開始させる前記排水槽の水位である運転水位を前記水位設定手段により前記ポンプ制御盤に所定の時間周期で設定することを特徴とするトンネル排水設備監視制御方法。
【請求項2】
前記水位設定手段により設定する設定運転水位は、予報降水量に基づいて自動的に決定する請求項1に記載のトンネル排水設備監視制御方法。
【請求項3】
前記予報降水量に基づいて決定された設定運転水位を、その決定時点における前記排水槽への排水の実流入量に基づいて自動的に変更する請求項2に記載のトンネル排水設備監視制御方法。
【請求項4】
前記実流入量に基づく前記設定運転水位の変更に際して過去の運転水位設定パターンを参照して前記設定運転水位の変更をする請求項3に記載のトンネル排水設備監視制御方法。
【請求項5】
排水を貯留する排水槽、前記排水槽に設置される排水ポンプ、および前記排水ポンプを制御するポンプ制御盤を備えたトンネルの排水設備を遠隔的に監視制御するためのトンネル排水設備監視制御システムにおいて、
前記排水ポンプに運転開始させる前記排水槽の水位である運転水位を前記ポンプ制御盤に所定の時間周期で設定する水位設定手段を備えていることを特徴とするトンネル排水設備監視制御システム。
【請求項6】
前記水位設定手段は、予報降水量と前記排水槽への排水の予測流入量の関係をテーブル化して保持する予測流入量テーブル、前記排水槽への予測流入量と前記運転水位の関係をテーブル化して保持する設定水位テーブル、および入力された予報降水量から前記予測流入量テーブルと前記設定水位テーブルを用いて設定運転水位を算出する運転水位算出部を備えている請求項5に記載のトンネル排水設備監視制御システム。
【請求項7】
前記水位設定手段は、予報降水量に基づいて決定された設定運転水位を、その決定時点における前記排水槽への排水の実流入量に基づいて自動的に変更する運転水位変更部をさらに備えている請求項6に記載のトンネル排水設備監視制御システム。
【請求項8】
前記水位設定手段は、監視制御対象の排水設備の過去における水位設定の履歴を記録する設定水位履歴データベースをさらに備え、前記実流入量に基づく前記設定運転水位の変更に際して前記設定水位履歴データベースから求めた過去の運転水位設定パターンを参照して前記設定運転水位の変更をする請求項7に記載のトンネル排水設備監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−336349(P2006−336349A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163651(P2005−163651)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(390023928)日立エンジニアリング株式会社 (134)