説明

トンネル掘削壁面展開表示装置、表示方法及び表示用プログラム

【課題】トンネル掘削工事の際に掘削壁面の実測結果に基づき余掘や当たりの量、それらの位置を簡単かつ正確に把握できるように表示し、トンネル掘削工事の1サイクルの中で作業が繁雑になることなく簡便に掘削壁面の評価、管理を行うことができ、工期の短縮、施工精度の向上を図る。
【解決手段】画面を展開図表示領域Aとデータ表示領域Bに分割するとともに、展開図表示領域Aを左右a1、a3に分割し、左右に分割した展開図表示領域Aに横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図a1と右側壁面展開図a3を表示するとともに、データ表示領域Bに、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削作業に際して設計値と実測値との差に基づく当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するトンネル掘削壁面展開表示装置、表示方法及び表示用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル等の標準的な地下掘削工法として、NATM(New Austrian Tunneling Method)がある。NATMは、地山の持つ支保能力、強度を有効に利用してトンネルの安定を保つという考え方のもとに、吹き付けコンクリート、ロックボルト、鋼製支保工等の支保材を適宜に用いて、地山と一体化したトンネル構造物を建設する工法である。NATMでは、現場計測により施工管理を行い、地山挙動を把握し、力学的に検討等も行う。そのため、工事中に多くのデータを収集し、そのデータを分析、評価、さらには対策を提示する一連の計測管理作業が非常に重要な要素となる。とりわけ、計測作業、そのデータの分析、評価結果の出力を円滑に行うことが要求される。
【0003】
一般にトンネルの掘削工事では、トンネル切羽に穿孔をして火薬を装薬し、爆破した後、ズリ出し、当たり取り、支保工、一次覆工、ロックボルトの打設を行う。これを1サイクルの施工単位として、例えば1.5m前後のピッチで掘削の施工サイクルを繰り返し行って掘進する。そして、後方において、トンネル内空断面の変位、地山の挙動を計測し、地山の挙動が安定したことを確認してから最終的な二次覆工を行う。この二次覆工の断面は、トンネルの掘削工事における工事完成の設計断面となる。二次覆工のコンクリート厚(二次覆工厚)は、地山の強度や安定度などにより決められる。それに伴い内側(裏側)の支保工の採否、一次覆工のコンクリート吹き付け厚、回数なども決まり、これらの条件に応じて最初の掘削断面が定められる。
【0004】
当たり取りは、二次覆工のコンクリート厚を確保する断面不足箇所のはつりであり、通常は、作業者の目視判断により行われる。二次覆工前の一次覆工断面において、当たり取りが不十分である場合には、機械設備を再配置して当たり取りの作業をしなければならなくなり、そのための作業時間と費用の無駄が多くなる。逆に余堀は、コンクリート吹き付けにより一次覆工で埋められるものであるが、余堀の量が多いことは、ズリ出しの作業量、一次覆工のコンクリート吹き付け量が多くなるため、同様に作業時間と費用の無駄が多くなる。
【0005】
トンネルの掘削工事において、できるだけ無駄な作業や費用、各作業に要する時間を少なくし効率よく工事を行うため、施工サイクルの中での計測管理作業は、非常に重要である。特に、余掘を少なくしつつ、当たり取りを的確に行うには、各施工サイクルにおいて、掘削壁面の実測結果に基づき余掘や当たりの量、それらの位置を簡単かつ正確に把握できるようにすることが求められる。効率的なトンネルの掘削工事の遂行を支援するために、トンネル内空断面の測定結果を表示する技術や作業基準点等をレーザー光により投射してマーキングする技術は、従来より種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
トンネル内空断面の測定結果を表示する特許文献1、3の表示方法は、画面の左側に内空断面の展開図、右側に測定対象の内空断面の断面図を表示し、それらの下側に各内空断面の測定結果の一覧表を表示するものである。そして展開図は、内空断面の中心線CLを基準として周方向距離を縦軸にとり、掘進距離TDと距離程STAを横軸にとり、壁面の吹き付け厚、吹き付け壁面変位、覆工厚、覆工壁面変位のいずれかを展開している。また
、作業基準点等をレーザー光により投射してマーキングする特許文献2のレーザーマーキング方法は、測量機として、測距、測角のための視準を行う望遠鏡部及びこれを回転・揺動駆動する駆動部を備えるとともにレーザー光投射装置を取り付け、演算制御装置により駆動部を制御して所定位置の視準ターゲットを望遠鏡部で視準し視準ターゲットにレーザー光を投射してレーザー光投射方向の相対角度データを求め、測量機からの測距、測角データとマーキング位置データに基づいてレーザー光を投射させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3449708号公報
【特許文献2】特許第3666816号公報
【特許文献3】特許第3842771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、トンネル内空断面の測定結果を表示する上記特許文献1、3の従来の表示方法では、展開図の中の点と現場の実際のトンネル内空断面との位置の対応の認識がしにくく勘違いが生じやすいという問題がある。すなわち、展開図として、内空断面の中心線CLを基準とする周方向距離をコンター図の縦軸に展開しているので、展開図中の1点を指示したときに、例えば天端のどちら側(右側か左側か)かを一瞬戸惑い反対側の位置を勘違いにより認識してしまうことがある。その結果、作業位置が的確に設定できないという問題が生じる。
【0009】
本発明は、トンネル掘削工事の際に掘削壁面の実測結果に基づき余掘や当たりの量、それらの位置を簡単かつ正確に把握できるように表示し、トンネル掘削工事の1サイクルの中で作業が煩雑になることなく簡便に掘削断面、覆工断面の評価、管理を行うことができ、工期の短縮、施工精度の向上を図ることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置は、トンネル断面の設計値データ及び実測値データを格納するデータ記憶手段と、壁面展開する範囲を指示入力する入力手段と、前記入力手段により指示入力された壁面展開する範囲に基づき壁面の各位置が前記データ記憶手段に格納された設計値データと実測値データとの差である当たり/余掘に応じた表示態様の壁面展開図を表示する表示制御手段とを備え、前記表示制御手段は、画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が前記当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示し、さらに前記表示制御手段は、前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図の表示に切り換え可能であることを特徴とする。
【0011】
トンネル掘削壁面展開表示方法は、画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示し、さらに断面図の表示切り換え指示により前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図に切り換え表示することを特徴とする。
【0012】
また、トンネル断面の設計値データと実測値データとの差を当たり/余掘として求める当たり/余掘演算機能と、画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が前記当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示する表示機能とをコンピュータに実現させるためのトンネル掘削壁面展開表示プログラムであり、さらに前記表示機能として、断面図の表示切り換え指示により前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図に切り換え表示する機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した展開図表示領域に横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するので、掘進方向、つまり切羽方向に向かって左右両側の展開図をそれぞれ左側壁面展開図、右側壁面展開図として概観することができ、トンネル掘削現場と展開図との対応が一目で分かり、誤認識や認識のずれをなくすことができる。しかも、データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示するので、展開図上で認識した当たり/余掘をマウス操作によりカーソルで選択指示した位置をデータで確認することができる。さらには、そのデータをレーザーマーカーの位置信号とすることにより、当たり取りの作業点の指示として使うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置の実施形態を説明する図
【図2】トンネル掘削壁面展開表示装置の構成例を示す図
【図3】断面角度、設計壁面座標、実測壁面座標を説明する図
【図4】設計値データ、実測値データ、設計実測差データの構成例を示す図
【図5】本実施形態の表示装置による表示処理を説明する図
【図6】本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置の表示画面の実施例を示す図
【図7】3次元レーザスキャナを用いたトンネル掘削工事の実施例を説明する図
【図8】トンネル掘削工事の施工サイクルを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置の実施形態を説明する図、図2はトンネル掘削壁面展開表示装置の構成例を示す図、図3は断面角度、設計壁面座標、実測壁面座標を説明する図、図4は設計値データ、実測値データ、設計実測差データの構成例を示す図である。図中、Aは展開図表示領域、a1は左側壁面展開図表示領域、a2は切羽断面表示領域、a3は右側壁面展開図表示領域、Bはデータ表示領域、1は設計値データ、2は実測値データ、3は設計実測差演算処理部、4は設計実測差データ、5は位置データ抽出部、6は壁面データ抽出部、7は位置演算処理部、8は壁面データ展開処理部、9は表示処理部、10はカーソル位置検出部を示す。
【0016】
図1に示す本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置の実施形態は、トンネル掘削壁面展開図を表示する展開図表示領域Aにおいて、左右の2画面に分割し、分割した左右の画面をそれぞれ左側壁面展開図表示領域a1と右側壁面展開図表示領域a3として展開図を表示するものである。
【0017】
左側壁面展開図表示領域a1は、横軸を進行長(掘進距離、距離程)として左端から中央に向けた方向を掘進方向とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする。同様に右側壁面展開図表示領域a3は、横軸を進行長として左端から中央に向けた方向を掘進方向とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする。
【0018】
左側壁面展開図表示領域a1及び右側壁面展開図表示領域a3に表示される壁面展開図には、例えばトンネルの特定地点である掘進距離を示す進行長TD(Total Distance)とその前後幅により指定された範囲で縦軸及び横軸の目盛線が表示される。そして、壁面データの各位置が設計実測差データに対応した表示態様により、例えば色やその濃度、彩度、輝度、マーク、記号、文字などにより展開表示される。
【0019】
設計実測差データに対応した表示態様として、色を採用する場合には、例えば当たりの位置を赤色、余掘の位置を青色で表示する態様となる。さらには、当たりの赤色に対して、その量に応じて赤色からピンク、白へと薄くなるように変えたり、赤色から橙、黄色へと色を変えたり、ドットの大きさを変えたりする表示態様なども採用できる。
【0020】
また、本実施形態では、左側壁面展開図表示領域a1及び右側壁面展開図表示領域a3に挟まれた中央の領域に切羽断面表示領域a2が設けられている。この切羽断面表示領域a2には、トンネル断面とその中心線CL及びトンネル断面の高さ方向基準線SLが表示される。
【0021】
このように切羽断面表示領域a2を挟む両側を左側壁面展開図表示領域a1及び右側壁面展開図表示領域a3として上記のように中央側を切羽とする進行長の距離を縦軸及び天端から底盤までの壁面距離を横軸に設定することにより、左側壁面展開図表示領域a1及び右側壁面展開図表示領域a3におけるトンネルの掘進方向、それぞれの天端、底盤の方向、壁面の位置が判りやすく明確な壁面展開図の表示になっている。
【0022】
本実施形態では、さらに表示画面を上下に分割して、上段の展開図表示領域Aに対し下段をデータ表示領域Bとしている。データ表示領域Bには、上段に表示した左側壁面展開図表示領域a1及び右側壁面展開図表示領域a3の展開図の距離データや設定データなどが表示される。
【0023】
これらのデータとして、例えば壁面展開図の範囲であるトンネルの進行長(掘進距離)TDとその前後幅、縦軸及び横軸の目盛幅、設計実測差データに対応した表示態様、左側壁面展開図表示領域a1又は右側壁面展開図表示領域a3の展開図上のカーソルで指示された位置データなどが表示される。位置データには、カーソルで指示された位置の距離程STaや天端からの距離、基準線SLからの距離、xyz座標、基準線SLからの離れ(鉛直方向相対距離)、中心線TCからの離れ(水平方向相対距離)などがある。
【0024】
本実施形態のトンネル掘削壁面展開表示装置は、例えば図2に示すような構成を有し、トンネルの設計壁面の座標データを格納する設計値データ1、光波測距儀や3次元レーザスキャナを用いて測定されたトンネルの実測壁面座標データを格納する実測値データ2が用意される。そして、これら設計値データ1、実測値データ2に基づき図1に示したトンネル掘削壁面展開図を表示するため、設計実測差演算処理部3、設計実測差データ4、位置データ抽出部5、壁面データ抽出部6、位置演算処理部7、壁面データ展開処理部8、表示処理部9、カーソル位置検出部10を備えている。
【0025】
トンネルの設計壁面座標は、断面設計、平面設計(平面線形:トンネル中心の平面上のライン)、縦断設計(縦断線形:トンネル中心の高低のライン)、横断設計を基に求められる。例えば設計壁面座標wijは、例えば図3に示すように設計中心の座標ci 、設計中
心線の鉛直方向の角度αi 、水平方向の角度βi 、トンネルの基準線SLに対する断面角度θij、その断面角度θijにおける中心からの断面の距離dを基に定義される。
【0026】
設計実測差演算処理部3は、設計実測差として設計値データ1に格納された設計壁面座標に対し実測値データ2に格納された実測壁面座標が内側か外側かその差Δdijを演算して求めるものである。設計実測差Δdijは、例えば負の値であれば、実測壁面座標が内側にある当たりとし、正の値であれば外側にある余掘としている。設計実測差データ4は、設計実測差演算処理部3により求めた各壁面座標における設計実測差Δdijが当たり/余掘の量を示すデータとして格納される。
【0027】
位置データ抽出部5は、選択された展開図上でマウス操作によりカーソルで指示選択された位置の壁面座標のデータを設計実測差データ4から抽出するものである。壁面データ抽出部6は、設計実測差データ4から、例えばトンネルの進行長(掘進距離)TD(Total Distance)とその前後幅により指定された範囲の各壁面座標における設計実測差Δdijのデータを当たり/余掘の量として抽出するものである。
【0028】
位置演算処理部7は、位置データ抽出部5により抽出された位置の壁面座標のデータを基にその位置の進行長(距離程)、天端からの距離、基準線SLからの距離、xyz座標、基準線SLからの離れ(鉛直方向相対距離)、中心線TCからの離れ(水平方向相対距離)を求めるものである。壁面データ展開処理部8は、壁面データ抽出部6により抽出された各壁面座標における設計実測差のデータを所定の表示属性にしたがって壁面展開図としてメモリに描画するものである。
【0029】
表示処理部9は、画面を例えば図1に示す表示領域に分割したそれぞれの表示領域の表示処理を行うものであり、位置演算処理部7により求められた位置データをデータ表示領域Bに表示し、壁面データ展開処理部8によりメモリに描画された壁面展開図を展開図表示領域Aに表示する。カーソル位置検出部10は、展開図表示領域Aに表示された壁面展開図においてマウス操作によりカーソルで指示された位置を検出するものであり、この位置を位置データ抽出部5に送出する。
【0030】
設計値データ1に格納されるトンネルの設計壁面座標のデータは、例えば図3に示すように進行長TDi 、その設計中心の座標ci 、設計中心線の鉛直方向の角度αi 、水平方向の角度βi 毎に、断面設計、平面設計、縦断設計、横断設計を基に求められた各断面角度θijにおける設計壁面座標wij(xij, ij, ij)である。
【0031】
また、実測値データ2に格納されるトンネルの実測壁面座標のデータは、例えば図4に示すように進行長TDi 、その設計中心の座標ci 、設計中心線の鉛直方向の角度αi 、水平方向の角度βi 毎に、光波測距儀や3次元レーザスキャナを用いて測定された各断面角度θijにおける実測壁面座標mij ( xij' , ij' , ij' ) である。
【0032】
設計実測差データ4に格納される当たり/余掘の量を示す設計実測差のデータは、例えば図4に示すように進行長TDi 、その設計中心の座標ci 、設計中心線の鉛直方向の角度αi 、水平方向の角度βi 毎に、各断面角度θijにおける設計壁面座標wij(xij, ij, ij)に対して実測壁面座標mij ( xij' , ij' , ij' ) との差Δdijであり、負の値であれば設計壁面より実測壁面が内側になる当たりを示し、正の値であれば設計壁面より実測壁面が外側になる余掘を示す。
【0033】
図5は本実施形態の表示装置による表示処理を説明する図であり、壁面展開図の表示処理では、図5(a)に示すようにまず、壁面展開図を表示する範囲として指定入力される進行長の値を読み込み(ステップS11)、続けて指定入力される前後幅の値を読み込む
(ステップS12)。さらに、指定入力される壁面展開図上の目盛幅の値を読み込む(ステップS13)。
【0034】
しかる後、壁面展開データとして、進行長と前後幅で指定された範囲の各壁面座標とその設計実測差データを読み込み(ステップS14)、壁面展開図を展開してメモリに描画することにより、壁面展開図を展開図表示領域Aに表示するとともに、展開図の距離データや設定データなどをデータ表示領域Bに表示する(ステップS15)。
【0035】
また、位置データの表示処理では、図5(b)に示すようにマウス操作によりカーソルで指示された位置を検出する(ステップS21)。しかる後、その位置の壁面座標xyzを計算し(ステップS22)、その位置の進行長(距離程)を計算する(ステップS23)。さらに、その位置における天端からの距離、高さ方向基準線SLからの距離を計算し(ステップS24)、基準線SLからの離れ(鉛直方向相対距離)、中心線TCからの離れ(水平方向相対距離)を計算して(ステップS25)、それらを選択測点情報としてデータ表示領域Bに表示する(ステップS26)。
【0036】
〔実施例〕
図6は本発明に係るトンネル掘削壁面展開表示装置の表示画面の実施例を示す図であり、この実施例では、画面分割した展開図表示領域Aに、進行長が352+81.0mから353+1.0mを範囲とする壁面展開図が表示されている。この表示範囲は、先に説明した進行長とその前後幅によると、進行長352+91.0m、前後幅10.0mとなり、切羽における進行長は352+81.0mとなっている。目盛幅は、主線が5.0m幅で、その間に補助線として1.0m幅が設定されている。
【0037】
縦軸は天端を基準の0.0mとして高さ方向基準線SLまでの壁面距離、さらにはその下の根足(底盤)までの距離が5.0m幅の主線、1.0m幅の補助線により12.0mまでの目盛の範囲内で表示され読み取ることができる。カーソルは、右側壁面展開図の進行長(距離程)Sta352+89.176m、天端からの距離2.881m、SLからの距離7.438mの位置に表示されている。図6において、カーソルは、大きな黒丸で表示されているが、「+」や「×」、矢印、その他のマークや記号で表示してもよいし、その位置の表示態様を変化させ、例えば輝度を上げたり、点滅させたり、特別な色により表示してもよい。
【0038】
データ表示領域Bには、根足ライン位置、付加情報表示間隔、色凡例、選択測点評価情報などのデータが表示されている。ここでは、根足ライン位置がSLから下1.0m、主線、補助線による目盛幅、0.05〜−0.05で6つに区分された色凡例、天端からの距離(1)及びSLからの距離(2)の説明図、カーソルによる選択測点の各距離や座標のデータが表示されている。
【0039】
このように実施例によれば、壁面展開図の表示態様により当たり/余掘の程度や範囲、その位置を一目で的確に把握することができる。しかも、その壁面展開図で当たり/余掘の把握された所望の位置をマウス操作によりカーソルで選択指示すると、その選択指示された位置の選択測点として、その位置のxyz座標、基準線SLからの離れ(鉛直方向相対距離)、中心線TCからの離れ(水平方向相対距離)、進行長(距離程)、天端からの距離、基準線SLからの距離がデータ表示領域Bで確認することができる。
【0040】
本実施形態によれば、レーザーマーキング装置と組み合わせ、データ表示領域Bに表示されるxyz座標をレーザーマーキング装置に入力することにより、カーソルで選択指示した選択測点をレーザーマーキングにより確認することが容易になり、当たり取りの作業精度を高め、的確な作業を実行することができる。また、カーソルで選択指示した選択測
点の進行長(距離程)から、選択測点を含む断面図を展開することができ、壁面展開図でマウス操作によりカーソルで任意の進行長(距離程)の位置を指示することにより適宜断面図に切り換え展開するように構成してもよい。
【0041】
本実施形態のトンネル掘削壁面展開図を使って行うトンネル掘削工事の例を説明する。図7は3次元レーザスキャナを用いたトンネル掘削工事の実施例を説明する図、図8はトンネル掘削工事の施工サイクルを説明する図である。図中、11は切羽面、12は掘削壁面、13は一次覆工面、14は底盤、15は掘削断面、16は基準断面、17はロックボルト、31はアンカー、100は3次元レーザスキャナ、200は計測データの処理装置、300はターゲットを示す。また、下の添字Lは左壁面、Rは右壁面、Uは天端面をそれぞれ示している。
【0042】
トンネルの掘削工事における一次覆工前の坑内の様子を側面図で示したのが図7(A)であり、上面図で示したのが図7(B)であり、掘削工事の先端部の切羽面11に近い掘削断面を示したのが図7(C)である。図7において、切羽面11、掘削壁面12は、発破や機械を使って掘削したままの状態とし、一次覆工面13は、当たり取りをした掘削壁面の上にコンクリート吹き付けをした面としている。
【0043】
図7(C)に示す掘削断面15は、掘削壁面12の断面形状を示し、基準断面16は、例えば設計断面や計画断面より二次覆工厚だけ大きくした一次覆工に対応する断面形状を示している。3次元(3D)レーザスキャナ100は、トンネル内の切羽後方の底盤14に設置され、例えば水平方向、垂直方向にレーザのスキャンを行い、それぞれの水平角(0〜360°)および鉛直角(上方に0〜90°、下方に0〜60°)におけるレーザ照射点までの距離を計測するものである。
【0044】
3次元レーザスキャナ100は、重機上に載置されていてもよい。計測データの処理装置200は、3次元レーザスキャナ100から水平角および鉛直角に対応した距離の計測データを取り込み、この計測データに基づき各種演算処理を行い、適宜壁面展開図などの表示を行うコンピュータである。
【0045】
ターゲット300は、トンネル座標(x,y,z)を持ち、一次覆工面13の左右の壁面13L 、13R に取り外し可能に装着されている。トンネル座標は、所謂国土地理院により設定されている公共座標が用いられるが、この公共座標に基づき設定されたトンネル独自のローカル座標を用いてもよい。
【0046】
次に、3次元レーザスキャナを用いたトンネル掘削工事の施工サイクルは、図8に示すようにまず、切羽面11を1サイクルの作業ピッチ、例えば1.5m程度の掘削を行って(ステップS31:掘削工程)、掘削したズリ出しを行う(ステップS32:ズリ出し工程)。この掘削には、例えば切羽面1の所定の各位置に穿孔してその中に火薬を装薬し点火して爆破する発破掘削や機械掘削がある。
【0047】
その後、ステップS33〜S38からなる計測工程を実行する。計測工程では、一次覆工面13の左右の壁面13L 、13R の所定の位置にターゲット300L1、300L2、300R1、300R2を装着し(ステップS33)、切羽後方の一次覆工面13の底盤14に3次元レーザスキャナ100、計測データの処理装置200を設置して(ステップS34)、掘削壁面2の計測を行う(ステップS35)。
【0048】
次に、計測データを処理して実測値データと設計値データとの演算処理を行い(ステップS36)、演算処理の結果として求めた設計実測差データに基づき、例えば表示画面に壁面展開図を出力する(ステップS37)。そして、ターゲット300L1、300L2、3
00R1、300R2を取り外す(ステップS38)。
【0049】
壁面展開図から当たりを確認して、マウス操作によりカーソルで選択指示してレーザーマーカーに位置情報を送ることにより、レーザーマーカーの投射位置にしたがって当たり取りを行う(ステップS39:当たり取り工程)。当たり取りを行った後、コンクリート吹き付けによる一次覆工を行い(ステップS40:覆工工程)、ロックボルト17の打設を行うことにより地山の補強を行う(ステップS41:補強工程)。引き続き掘削施工を行う場合には(ステップS42)、作業を終了することなく、再度ステップS31に戻って同様の作業を繰り返し行う。
【0050】
当たり取り工程および覆工工程は、地山の持つ支保能力、強度、安定度などに応じて適宜に前後したり、コンクリート吹き付け作業を一次、二次に分けたりして実行される。例えば、地山が弱く岩片や土砂の崩落の恐れが高い場合には、まず、簡単なコンクリート吹き付けを行って、掘削面を整え安定させた後、当たり取りを行うことがある。また、当たり取りでは、作業者の目視判断により行い、その後に断面計測を行い当たり取りの確認を行うこともある。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施形態では、壁面展開図を表示する範囲として、進行長とその前後幅を指定入力したが、表示する展開図の両端の進行長を指定入力してもよい。また、画面を展開図表示領域Aとデータ表示領域Bの上下に分割し、さらに展開図表示領域Aを左側壁面展開図表示領域a1と右側壁面展開図表示領域a3とそれらに挟まれた切羽断面表示領域a2に3分割したが、展開図表示領域Aの画面とデータ表示領域Bの画面とを別の画面にし、展開図表示領域Aの画面を表示して切り換え指示によりデータ表示領域Bの画面に切り換え表示してもよい。
【符号の説明】
【0052】
A…展開図表示領域、a1…左側壁面展開図表示領域、a2…切羽断面表示領域、a3…右側壁面展開図表示領域、B…データ表示領域、1…設計値データ、2…実測値データ、3…設計実測差演算処理部、4…設計実測差データ、5…位置データ抽出部、6…壁面データ抽出部、7…位置演算処理部、8…壁面データ展開処理部、9…表示処理部、10…カーソル位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル断面の設計値データ及び実測値データを格納するデータ記憶手段と、
壁面展開する範囲を指示入力する入力手段と、
前記入力手段により指示入力された壁面展開する範囲に基づき壁面の各位置が前記データ記憶手段に格納された設計値データと実測値データとの差である当たり/余掘に応じた表示態様の壁面展開図を表示する表示制御手段と
を備え、前記表示制御手段は、画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が前記当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示することを特徴とするトンネル掘削壁面展開表示装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図の表示に切り換え可能であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削壁面展開表示装置。
【請求項3】
画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示することを特徴とするトンネル掘削壁面展開表示方法。
【請求項4】
断面図の表示切り換え指示により前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図に切り換え表示することを特徴とする請求項3に記載のトンネル掘削壁面展開表示方法。
【請求項5】
トンネル断面の設計値データと実測値データとの差を当たり/余掘として求める当たり/余掘演算機能と、
画面を展開図表示領域とデータ表示領域に分割するとともに、前記展開図表示領域を左右に分割し、左右に分割した前記展開図表示領域に、横軸を外側から中央に向けた方向が掘進方向になる進行長とし、縦軸を上辺の天端から下辺の底盤までの壁面距離とする壁面の各位置が前記当たり/余掘に応じた表示態様の左側壁面展開図と右側壁面展開図を表示するとともに、前記データ表示領域に、展開図上の選択指示されている位置のデータを表示する表示機能と
をコンピュータに実現させるためのトンネル掘削壁面展開表示プログラム。
【請求項6】
前記請求項5に記載のトンネル掘削壁面展開表示プログラムにおいて、前記表示機能として、断面図の表示切り換え指示により前記展開図上の選択指示されている位置を含む断面図に切り換え表示する機能を有することを特徴とするコンピュータに実現させるためのトンネル掘削壁面展開表示プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1698(P2011−1698A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143342(P2009−143342)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(599098127)株式会社ソーキ (28)