説明

トンネル掘削工法及びトンネルライナ

【課題】トンネルライナの組み立ての作業効率を向上させると共に、支保構造体としての力学的安定性を確保するようにした。
【解決手段】メイングリッパ13を備えたTBM10によって掘削されたトンネル地山壁面1に設置されるトンネルライナ20は、底部ライナピース20Aと、メイングリッパ13によって押し付けられ、充填口24を形成した側部ライナピース20B(20C)と、アーチ部ライナピース20D(20E)と、底部ライナピース20Aと一方の側部ライナピース20Bとの間に挿入配置されてなる拡張ブロックMとを備えている。側部ライナピース20B(20C)の充填口24から、トンネルライナ20とトンネル地山壁面1との間の背面空隙Sに、急硬性充填材2を充填するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルボーリングマシーン工法などに使用されるトンネル掘削工法及びトンネルライナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルボーリングマシーン工法では、掘削した切羽が開放された状態で掘進するオープンタイプのトンネルボーリングマシーン(以下、「TBM」と略称する)が使用されている。このTBMを使用した掘削では、良好な地山であれば、無支保での高速掘進が可能であり、その長所を十分に生かせるが、肌落ちや小崩落が生じやすい亀裂地山及び断層破砕帯の不良地質部などでは、吹付けコンクリート、リング支保工や全周セグメントなどにより地山を支保しながらの掘進となり、進行が極端に遅くなるといった欠点もあった。
しかも、このTBMにおける支保の設置位置は、TBMのルーフサポート(天端部の胴体スキンプレート)などが通過した後のトンネル地山壁面となり、切羽を掘削してから時間が経って支保されることになる。そのため、不安定な地質部では岩石が抜け落ち、ルーフサポート上部にこれが載った状態でのTBM掘進となり、抜け落ち箇所をTBM後部が通過した時点で岩石が坑内に落下することになり、支保設置及び崩落箇所での地山の手当等に多くの作業時間を要し、TBMの掘進速度が遅くなるという問題があった。
そこで、このような問題に対応するために、トンネル内周の周方向に沿った形状の鋼製リング支保工と、鋼製リング支保工同士のリング間の隙間を塞ぐように鋼製のスキンプレートとから構成されるトンネルライナを支保として使用する方法がある(例えば特許文献1参照)。
このトンネルライナの組み立て手順は、TBMのルーフサポートの内側でトンネルライナを仮の状態で組み立てておき、このトンネルライナが掘進によりルーフサポートから外れたときに、トンネルライナの可伸部を伸長させることで周方向に拡げてトンネルライナを拡径し、その後に可伸部を溶接などで固定し、所定の外径をなすリング状の支保構造体とする手順になっている。
【0003】
そして、このようなトンネルライナでは、掘進に伴うルーフサポートが通過したとき、トンネルライナの背面側にトンネル地山壁面との隙間が形成される。この隙間は、掘削面で剥落した岩塊、岩片、土砂などが堆積するため、多孔質状で不均一な空隙構造(背面空隙)となっている。
また、オープンタイプのTBMでは、トンネルライナの組み立て位置から掘削径の直径長さ程度後方の位置でメイングリッパをトンネルライナのスキンプレートに押し付けて推進反力をとることになる。メイングリッパの押付力はトンネルライナを介してその背面のトンネル地山壁面に伝達されるため、上述したトンネルライナの背面に形成される背面空隙に、モルタルやセメントミルクなどの注入材を例えば天端部に設けた注入口より背面空隙全体にわたって圧力注入している。
【特許文献1】特開平11−002095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のトンネルライナでは以下のような問題があった。
従来のトンネルライナの背面空隙に圧力注入する方法では、モルタルやセメントミルクなどの注入材を多孔質状で不均一な背面空隙に隙間無く浸透させることが難しく、充填されない箇所が生じ、所定の充填強度が確保できないといった欠点があった。そのため、メイングリッパで押し付ける位置のトンネルライナの背面において、メイングリッパの押付力に耐え得るだけの強度が確保されない場合に、メイングリッパによって押圧されたトンネルライナに過大な変形が発生するといった問題があった。
そして、トンネルライナが変形すると、組み立て時における拡径寸法もライナリング毎に異なることになり、そのリング間を接続するボルト締結作業が現場合わせとなったり、拡張ブロックの寸法を調整する作業が発生することになり、トンネルライナの組み立てに手間がかかるうえ、支保構造体としての力学的安定性が低下するといった問題があった。そのため、トンネルライナの変形によりトンネル内空断面が確保できなくなるといった場合には、支保の再設置を施す必要があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、トンネルライナの変形を防止して真円度を維持することで、トンネルライナの組み立ての作業効率を向上させると共に、支保構造体としての力学的安定性を確保するようにしたトンネル掘削工法及びトンネルライナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るトンネル掘削工法では、トンネル推進反力をとるためのメイングリッパとルーフサポートとを備えたトンネルボーリングマシーンによって掘削されるトンネル施工において、トンネルライナを用いたトンネル掘削工法であって、トンネルボーリングマシーンの掘進に伴ってルーフサポートの内側でトンネルライナをリング状に組み立て、ルーフサポートの後方の第一位置で、ライナピースに形成された充填口から、トンネルライナとトンネル地山壁面との間の背面空隙に充填材を充填し、第一位置の後方の第二位置で、メイングリッパによってライナピースと充填材を介してトンネル地山壁面を押し付けてトンネル推進反力をとるようにしたことを特徴としている。
また、本発明に係るトンネルライナでは、上述のトンネル掘削工法に用いるトンネルライナであって、トンネル底盤部に配置される底部ライナピースと、トンネル両側部に配置され、充填材を充填する充填口を形成したスキンプレートを有する側部ライナピースと、側部ライナピースより上方のトンネルアーチ部に配置され、スキンプレートを有するアーチ部ライナピースと、底部ライナピースと一方の側部ライナピースとの間に挿入配置されてなる拡張ブロックとを備えていることを特徴としている。
本発明では、側部ライナピースに形成した充填口を使用することで、トンネルボーリングマシーンのメイングリッパの押し付ける位置(第二位置)をなす側部ライナピースの背面空隙に充填材を直接充填することができることから、浸透性が高まり、隙間なく確実に充填することができる。そのため、メイングリッパを使用するときの側部ライナピースの背面を、メイングリッパの押圧力に耐え得る充填強度とすることができる。これにより、メイングリッパによる押し付けによってトンネルライナが変形することがなく、トンネルライナの真円度を維持することができる。
【0007】
また、本発明に係るトンネルライナでは、底部ライナピースは、トンネル地山壁面側をなす周面に開口部を有していることが好ましい。
本発明では、底部ライナピースの開口部より、底部ライナピースと側部ライナピースとの接続部付近に吹付け材などを吹き付けることで、トンネルライナとトンネル地山壁面との間を塞ぐことができ、充填材がトンネル底盤部に流出することを防止でき、側部ライナピースの背面のみに充填材を充填することができる。
【0008】
また、本発明に係るトンネルライナでは、充填口は、側部ライナピースのスキンプレートの一部を切り込み、切り込みした切片がスキンプレートの内周側に折り込まれて形成されていることが好ましい。
本発明では、トンネル内空側に開いた状態で折り込まれている充填口の切片を、メイングリッパの押し付けによってトンネル地山壁面側に押し込み、充填口の開口を塞ぐことができる。
【0009】
また、本発明に係るトンネルライナでは、アーチ部ライナピースのスキンプレートには、注入口が設けられていることが好ましい。
本発明では、トンネル側部への充填材が所定の圧縮強度に達したのちの適当なときに、注入口から注入材をトンネルライナの背面空隙に向けて注入することができる。
【0010】
また、本発明に係るトンネルライナでは、トンネルライナを下方から支持する支持部材が設けられていることが好ましい。
本発明では、トンネルライナのリングの中心位置を掘削断面の中心位置に一致させることで、トンネル断面とトンネルライナとの相対位置を一定に保持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトンネル掘削工法及びトンネルライナによれば、側部ライナピースに形成した充填口を使用することで、トンネルボーリングマシーンのメイングリッパの押し付ける位置をなす側部ライナピースの背面空隙に直接充填することができることから、浸透性が高まり、充填材を隙間なく確実に充填することができる。そのため、メイングリッパで押し付けるときには所定の充填強度を確保できることから、メイングリッパの押圧力によるトンネルライナの変形を防止でき、トンネルライナの真円度を維持することができる。
さらに、拡張ブロックを挿入設置するための拡張時の拡張寸法がライナリング毎に一定となり、拡張ブロックの寸法を調整したり、リング間を接続するトンネルライナのボルト穴の位置を現場合わせするようなことがなくなり、トンネルライナの組み立てにかかる手間を低減させることができる。
また、トンネルライナの変形がなく、トンネル内空断面を確保できることから、支保構造体としての力学的安定性を向上させることができ、支保を再設置するといった工期、工費が増大する施工を行う必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態によるトンネル掘削工法及びトンネルライナについて、図1乃至図6に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態によるトンネルライナを用いたトンネル掘削状態を示す概要図、図2はトンネルライナを組み立てた状態を示す正面図、図3はライナピースの平面図であって、(a)は底部ライナピースの図、(b)は側部ライナピースの図、(c)はアーチ部ライナピースの図、図4は図3(b)に示す側部ライナピースのA−A線断面図、図5はトンネルライナの拡張時における拡張ブロックの取付け状態を示す図、図6はトンネルライナの背面空隙への充填施工状態を示す側面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態によるトンネル掘削工法及びトンネルライナは、トンネルボーリングマシーン(以下、略して「TBM」という)を使用して掘削するトンネル工事に適用されるものである。
本トンネル掘削は、TBM10によって掘削した後方のトンネル地山壁面1に、トンネル掘削方向に連続してトンネルライナ20、20、…を設置し、その後、適当な時点で必要に応じて吹付けコンクリートの施工および/または覆工コンクリートの打設を行い、覆工体を構築するものである。そして、設置したトンネルライナ20の背面とトンネル地山壁面1との間の隙間(これを「背面空隙S」とする)には、急硬性充填材2が充填される。なお、背面空隙Sには、トンネル地山壁面1の肌落ちや崩落による土砂や岩石などが不均一な状態(多孔質状の空隙が形成された状態)で堆積されることになる。
ここで、トンネル進行方向を「前方」とし、その反対側を「後方」として以下説明する。
【0014】
先ず、本TBM工法に用いられるTBM10の概略構成について説明する。
図1に示すように、TBM10は、カッタヘッド11と、カッタヘッド11の後方に位置していて天端部から側部のトンネル地山壁面1に沿うようにしてトンネル周方向に円弧状をなすルーフサポート12とサイドサポート12’と、ジャッキ(図示省略)によりトンネル断面視で略水平方向に張り出すことでトンネル地山壁面1の側部に押し付けて固定されるメイングリッパ13と、固定されたメイングリッパ13に推進反力をとってカッタヘッド11を推進させるスラストジャッキ14等を備えたオープンタイプのものである。
このTBM10は、ルーフサポート12およびサイドサポート12’から所定の後方位置(例えば、切羽から5、6リング目のトンネルライナ20となる第5リングR5及び第6リングR6)でメイングリッパ13をトンネル地山壁面1(正確には、後述するトンネルライナ20のスキンプレート23)に押し付け、このメイングリッパ13に反力を取ってスラストジャッキ14を伸長させながら、カッタヘッド11を回転させ、スラストジャッキ14のストローク長さ分(トンネルライナ20の1リングの幅寸法に相当)を掘進する。そして、ルーフサポート12の内空側において、後述するトンネルライナ20が組み立てられる。
【0015】
次に、図2に示すように、トンネル支保工として用いられるトンネルライナ20は、組立状態でトンネル周方向に沿ってリング状に構築され、周方向に複数に分割(本実施の形態では6分割)されている。即ちトンネルライナ20は、トンネル底盤部1aに配置される底部ライナピース20Aと、メイングリッパ13の押し付け位置に相当するトンネル両側部に配置される側部ライナピース20B、20Cと、トンネルアーチ部に配置されるアーチ部ライナピース20D、20Eと、アーチ部ライナピース20D、20Eの間に挟まれたトンネル天端部に配置される天端部ライナピース20Fとから構成されている。
そして、底部ライナピース20Aと一方の側部ライナピース20Bとの間(この位置を「拡張部T」とする)には、拡張ブロックMが設けられている。
【0016】
図3(a)に示すように、底部ライナピース20Aは、四隅を覆うチャンネル形鋼などの支保鋼材から形成された円弧板状枠体21からなる。具体的に円弧板状枠体21は、トンネル周面に沿って延在する弧状に成形された2条の支保鋼材21a、21aと、これら支保鋼材21a、21aの端部及び中間部を相互に連結する水平繋ぎ材21b、21b、…とからなり、その円弧板状枠体21に囲まれるようにして開口部22、22、…が形成されている。
【0017】
また、図3(b)に示すように、側部ライナピース20B、20Cは、底部ライナピース20Aと同様の円弧板状枠体21が形成され、この円弧板状枠体21の外周面側に円弧状に湾曲した鉄板などからなるスキンプレート23が設けられている。
なお、図3(b)に示すライナピース20B(20C)の左側が、リング状に組み立てたときの上側の位置となる。
【0018】
そして、側部ライナピース20B、20Cの円弧板状枠体21には、スキンプレート23の所定位置に充填口24(上部充填口24A,下部充填口24B)が設けられている。図4に示すように、この充填口24は、円弧板状枠体21の短辺方向に長い長方形状に開口24bが形成されたものであり、スキンプレート23の一部を切り込み、その切り込んだ切片(以下、蓋部24aとする)がスキンプレート23の内周側に開いた状態で所定の曲げ角θをもって折り込まれて形成されている。
ここで、この上部充填口24A及び下部充填口24Bが形成される位置は、側部ライナピース20B,20Cが組み立てられた状態において、TBM10のメイングリッパ13が当接する範囲とされる(図2参照)。そして、図4に示すように、メイングリッパ13をトンネルライナ20のスキンプレート23の内面に押し付けた押付力によって、蓋部24aがスキンプレート23と面一となるように移動して開口24bを塞ぐように構成されている。
【0019】
そして、図3(c)に示すように、アーチ部ライナピース20D、20E及び天端部ライナピース20Fは、側部ライナピース20B(20C)と同様に円弧板状枠体21とスキンプレート23とが設けられている。そして、アーチ部ライナピース20D、20Eの円弧板状枠体21には、スキンプレート23の所定位置に注入口25が設けられている。
なお、天端部ライナピース20Fは、アーチ部ライナピース20D(20E)と比べて周方向の長さ寸法が短くなっている。
【0020】
そして、これらのライナピース20A、20B、…は、周方向に隣接するピース間と、トンネル軸方向に隣接するリング間との連結はボルトによって連結され、図2ではピース間のボルト30、29a、29bが図示されている。なお、このピース間のボルト連結において、ライナピース間でトンネル軸方向に多少のズレが生じても連結できるように、ライナピースに設けるボルト孔をトンネル軸方向に長孔となるように形成しておくのがよい。
【0021】
また、図5に示すように、拡張ブロックMは、所定の円弧長をなす鋼材(例えば、H形鋼)から形成されている。そして、拡張部Tにおいて、油圧ジャッキ31(拡張手段)を使用してトンネルライナ20を周方向に拡げ、そのときに形成される隙間に拡張ブロックMが挿入配置される。そして、拡張ブロックMは、ピース間及びリング間に隣接するライナピースとボルト29a、29bによって連結されている。
【0022】
また、図2に示すように、トンネルライナ20の設置状態で、底部ライナピース20Aとトンネル底盤部1aとの間には、底部ライナピース20Aの円弧板状枠体21を下方から支持する真円保持部材26(支持部材)が設けられている。この真円保持部材26は、トンネルライナ20がリング状に組み立てられたときの中心位置を、掘削断面の中心位置に一致させることで、トンネル断面とトンネルライナ20との相対位置を一定に保持させる。
【0023】
次に、図1に示す背面空隙Sに充填される急硬性充填材2(充填材)として、例えば連続練混ぜ式ミキサ(図示省略)を使用して水・モルタル比(モルタル量に対する水量)を35〜40%として混練りし、練り混ぜして数分後にゲル状化させ、およそ30分後に硬化開始させ、3〜4時間後の圧縮強度を2N/mm以上に発現することができる急硬可塑性プレミックスモルタル(例えば、電気化学工業株式会社製、デンカライナーパック)が使用される。そして、この材料を充填して硬化したときの自立傾斜角度α(図6参照)は、45〜60度程度となる。
さらに、この急硬可塑性プレミックスモルタルでは、練り混ぜてからゲル状化するまでの略1〜2分の間は流動性を有する性状をなすことから、充填口24から充填したときに多孔質状の背面空隙Sに隙間無く浸透させて充填することができる。
【0024】
また、図1に示す背面空隙Sの上部に注入される注入材3としては、セメントミルクが使用される。そして、注入ポンプ(図示省略)などを使用して上述したアーチ部ライナピース20D、20Eの注入口25(図3(c)参照)より圧力注入される。
【0025】
次に、トンネルライナ20の組み立て手順について図面に基づいて説明する。
先ず、図1に示すように、TBM10によって、カッタヘッド11を回転させ、1リングが掘進され、TBM10のルーフサポート12の内側でトンネルライナ20(第1リングR1)が組み立てられる。
【0026】
その詳細なトンネルライナ20の組み立て手順は、図2に示すように、底部ライナピース20Aを、真円保持部材26を介した状態でトンネル底盤部1aに配置する。この真円保持部材26の設置位置は、底部ライナピース20Aの円弧板状枠体21(図3(a)参照)を下方より支持する位置とされ、トンネル断面視で左右に略対称位置となるように配置させることが好ましい。そして、1リング手前に組み立てられたトンネルライナ20(図1に示す第2リングR2)とのリング間をボルト締めしておく。
次いで、TBM10に備えられている図示しないエレクタ等を用い、拡張ブロックMを除く側部ライナピース20B、20C、アーチ部ライナピース20D、20E、天端部ライナピース20Fの順でボルトによる仮締め連結し、リング状となるように組み立てておく。
【0027】
次に、底部ライナピース20A及び一方の側部ライナピース20Bの間の拡張部Tを跨ぐようにして図5に示す油圧ジャッキ31を取り付け、この油圧ジャッキ31を伸長させてトンネルライナ20を所定のリング径となるように拡径する。そして、その拡径により拡張部Tに形成された空間に、拡張ブロックMを挿入配置させてボルト29a、29bで固定する。
次いで、拡張に使用した油圧ジャッキ31を縮減して取り除くと共に、リング間で隣接するトンネルライナ20同士をボルトによって連結すると共にピース間のボルトを本締めしてトンネルライナ20の設置が完了する。
【0028】
そして、図1に示すように、TBM10のメイングリッパ13を両側部ライナピース20B、20Cのスキンプレート23に当接させてトンネル地山壁面1に反力をとり、スラストジャッキ14を伸長させてTBM10を1リング分掘進させる。その後、前記と同様にしてルーフサポート12の内側で次のトンネルライナ20を組み立てる。
このような手順を繰り返すことによって、TBM10の後方においてトンネル地山壁面1をほとんど露出させることなく、トンネル掘削方向に連続するトンネルライナ20、20、…を設置することができる。そのため、トンネル地山壁面1の崩落や土砂の坑内への流入が防止されることになる。
【0029】
次に、背面空隙Sへの急硬性充填材2の充填方法について図面に基づいて説明する。
図6に示すように、先ず、TBM10によって1リング分を掘進したときにルーフサポート12から外れた第2リングR2において、底部ライナピース20Aと両側部ライナピース20B、20Cとの接続部付近で、底部ライナピース20Aの開口部22(図3(a)参照)から後施工で急硬性充填材2を流し込んだ時に、トンネルライナ20とトンネル地山壁面1との間から急硬性充填材2を漏出させないため、トンネルライナ20とトンネル地山壁面1との間を塞ぐようにして吹付け材4を吹き付けておく。
また、このとき、同時に真円保持部材26の周囲にも吹付け材4を吹き付けることで、真円保持部材26(図2参照)と底部ライナピース20Aとを固定させるようにしてもよい。
【0030】
さらに、切羽から3リング目の第3リングR3において、両側部ライナピース20B、20Cの下部充填口24Bから急硬性充填材2を背面空隙Sに流し込み、その下部充填口24B付近の高さまで充填を行う。
さらに、第4リングR4及び第5リングR5において、両側部ライナピース20B、20Cの上部充填口24Aから、急硬性充填材2を流し込み、上部充填口24A付近の高さまで充填する。
なお、上述した急硬性充填材2を充填する位置をなす第3リングR3〜第5リングR5は、本発明の第一位置に相当する。
そして、底部ライナピース20Aと両側部ライナピース20B、20Cとの接続部付近に吹付け材4が施工されているため、急硬性充填材2がトンネル底盤部1aに流出することがなく、側部ライナピース20B(20C)の背面のみに急硬性充填材2を充填することができる。
【0031】
このように、側部ライナピース20B(20C)に形成した充填口24を使用することで、側部ライナピース20B(20C)の背面空隙Sに直接充填することができることから、浸透性が高まり、急硬性充填材2を隙間なく確実に充填することができる。そのため、メイングリッパ13を使用するときの側部ライナピース20B(20C)の背面を、メイングリッパの押圧力に耐え得る充填強度とすることができる。
これにより、第6リングR6(本発明の第二位置に相当)でメイングリッパ13を側方に向けて張り出し、両側部ライナピース20B、20Cに押し付けることで、トンネルライナ20を変形させることなくトンネル推進反力がとれるようになる。
なお、図4に示すように、トンネル内空側に開いていた充填口24の蓋部24aは、メイングリッパ13の押し付けによってトンネル地山壁面1側に押し込まれ、充填口24の開口24bが塞がれることになる。
【0032】
そして、トンネル側部への急硬性充填材2が所定の圧縮強度に達したのちの適当なときに、アーチ部ライナピース20D,20Eの注入口25から注入材3を背面空隙Sに向けて注入する。このときの背面空隙Sへの注入時期は任意とされる。つまり、地山が脆弱な場合であってもオープンタイプのTBM10によって掘削できる程度の自立性があることから、トンネルアーチ部にトンネルライナ20があれば、多少の時間が経っても差し支えなく、例えばトンネルが貫通した後に注入材3を注入するようにしてもかまわない。
【0033】
上述のように本実施の形態によるトンネル掘削工法及びトンネルライナでは、側部ライナピース20B(20C)に形成した充填口24を使用することで、TBM10のメイングリッパ13の押し付け位置をなす側部ライナピース20B(20C)の背面空隙Sに直接充填することができることから、浸透性が高まり、急硬性充填材を隙間なく確実に充填することができる。そのため、メイングリッパ13で押し付けるときには所定の充填強度を確保できることから、メイングリッパ13の押圧力によるトンネルライナ20の変形を防止でき、トンネルライナ20の真円度を維持することができる。
さらに、拡張ブロックMを挿入設置するための拡張時の拡張寸法がライナリング毎に一定となり、拡張ブロックMの寸法を調整したり、リング間を接続するトンネルライナ20のボルト穴の位置を現場合わせするようなことがなくなり、トンネルライナ20の組み立てにかかる手間を低減させることができる。
また、トンネルライナ20の変形がなく、トンネル内空断面を確保できることから、支保構造体としての力学的安定性を向上させることができ、支保を再設置するといった工期、工費が増大する施工を行う必要がなくなる。
【0034】
以上、本発明によるトンネル掘削工法及びトンネルライナの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では、急硬性充填材2の充填位置を第2リングR2〜第5リングR5(第一位置)とし、第6リングR6をメイングリッパ13による押し付け位置(第二位置)としているが、これに限定されることはない。例えば、トンネル断面の大きさに応じてTBM10の仕様、構造も異なり、即ちメイングリッパが取り付けられる切羽からの距離が変わることから、使用されるTBMのメイングリッパの位置に応じて急硬性充填材2の充填位置を設定することが好ましい。
また、本実施の形態では水・モルタル比の配合を35〜40%とされる急硬可塑性プレミックスモルタルの急硬性充填材2としているが、必ずしもこのような急硬性充填材2であることに限定されることはなく、充填材の材料、配合などは現場の条件に好適とされるように適宜設定して使用すればよい。
さらに、本実施の形態では側部ライナピース20B(20C)に上部充填口24Aと下部充填口24Bの上下二段に設けているが、これに限定されることはない。即ち、充填口24の開口寸法、数量、形成位置は任意に設定することができる。そして、充填口24の形状についても、蓋部24aがトンネル内空側に折り曲げられた形状とされているが、これに限定されることはない。要は、充填口24から土砂や岩片などがトンネルライナ20の内側に流入することがなく、且つ効率よくトンネル側部の背面空隙Sに急硬性充填材を充填できればよいのである。
さらにまた、本実施の形態では急硬性充填材2を充填する前に、底部ライナピース20Aと側部ライナピース20B(20C)との接続部付近に吹付け材4を施工しているが、この吹付け施工は任意であり、例えばトンネル底盤部1a(底部ライナピース20Aの背面)に土砂が堆積しているような場合には吹付けを行わなくてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態によるトンネルライナを用いたトンネル掘削状態を示す概要図である。
【図2】トンネルライナを組み立てた状態を示す正面図である。
【図3】ライナピースの平面図であって、(a)は底部ライナピースの図、(b)は側部ライナピースの図、(c)はアーチ部ライナピースの図である。
【図4】図3(b)に示す側部ライナピースのA−A線断面図である。
【図5】トンネルライナの拡張時における拡張ブロックの取付け状態を示す図である。
【図6】トンネルライナの背面空隙への充填施工状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 トンネル地山壁面
2 急硬性充填材(充填材)
3 注入材
4 吹付け材
10 TBM(トンネルボーリングマシーン)
13 メイングリッパ
20 トンネルライナ
20A 底部ライナピース
20B,20C 側部ライナピース
20D,20E アーチ部ライナピース
24 充填口
25 注入口
26 真円保持部材(支持部材)
M 拡張ブロック
S 背面空隙
T 拡張部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル推進反力をとるためのメイングリッパとルーフサポートとを備えたトンネルボーリングマシーンによって掘削されるトンネル施工において、トンネルライナを用いたトンネル掘削工法であって、
前記トンネルボーリングマシーンの掘進に伴って前記ルーフサポートの内側で前記トンネルライナをリング状に組み立て、
前記ルーフサポートの後方の第一位置で、前記ライナピースに形成された充填口から、前記トンネルライナとトンネル地山壁面との間の背面空隙に充填材を充填し、
前記第一位置の後方の第二位置で、前記メイングリッパによって前記ライナピースと前記充填材を介して前記トンネル地山壁面を押し付けてトンネル推進反力をとるようにしたことを特徴とするトンネル掘削工法。
【請求項2】
請求項1のトンネル掘削工法に用いるトンネルライナであって、
トンネル底盤部に配置される底部ライナピースと、
トンネル両側部に配置され、充填材を充填する充填口を形成したスキンプレートを有する側部ライナピースと、
前記側部ライナピースより上方のトンネルアーチ部に配置され、スキンプレートを有するアーチ部ライナピースと、
前記底部ライナピースと一方の前記側部ライナピースとの間に挿入配置されてなる拡張ブロックと、
を備えていることを特徴とするトンネルライナ。
【請求項3】
前記底部ライナピースは、前記トンネル地山壁面側をなす周面に開口部を有していることを特徴とする請求項2に記載のトンネルライナ。
【請求項4】
前記充填口は、前記側部ライナピースのスキンプレートの一部を切り込み、該切り込みした切片が前記スキンプレートの内周側に折り込まれて形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のトンネルライナ。
【請求項5】
前記アーチ部ライナピースのスキンプレートには、注入口が設けられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のトンネルライナ。
【請求項6】
前記トンネルライナを下方から支持する支持部材が設けられていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のトンネルライナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−2072(P2008−2072A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169900(P2006−169900)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】