説明

トンネル掘削機の伸縮カッタ及びそれを用いた異形断面トンネル掘削方法

【課題】軸受と摺接する移動ロッドの側面が土砂で摩耗することを防止でき、正常な作動を長期間保持でき、耐久性に優れたトンネル掘削機の伸縮カッタ及びそれを用いた異形断面トンネル掘削方法を提供する。
【解決手段】カッタフレーム5を回転させつつ、軸受27に支持された移動ロッド13を往復移動させて断面円形以外のトンネルを掘削するに際して、移動ロッド13を、ガイド筒12に対して、防護筒22の内周面がシール25と当接する範囲で往復移動させ、その往復移動中、防護筒22及び蓋部23により移動ロッド13の外周面をカバーしつつ、シール25により土砂が防護筒22の内部に侵入することを防止し、移動ロッド13の外周面が土砂に晒されることを回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切羽を掘削するために回転又は揺動するカッタフレームの端部から出没する伸縮カッタ、及びその伸縮カッタを用いた異形断面トンネル掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円形断面以外の異形断面のトンネルを掘削する異形断面トンネル掘削機として、図9に示すように、掘削機本体aの隔壁bに、切羽を掘削すべく回転駆動されるカッタフレームcを設け、カッタフレームcに、その端部から出没する伸縮カッタd1を設けたものが知られている(特許文献1)。この異形断面トンネル掘削機は、カッタフレームcを1回転させる間に伸縮カッタd1を適宜出没させることで、異形断面(例えば矩形断面)のトンネルを掘削する。
【0003】
伸縮カッタd1は、略ロッド状に形成されていて、カッタフレームcに形成されたガイド穴eに往復移動可能に挿通された移動ロッドfを有しており、この移動ロッドfが図示しない油圧ジャッキにより往復移動される。また、別の伸縮カッタd2として、図10に示すように、カッタフレームcの端部に筒状のカバーgを設け、その内方のカッタフレームcのガイド穴eに、移動ロッドfを往復移動可能に挿通したものが知られている(特許文献2)。
【0004】
これら伸縮カッタd1、d2のガイド穴eの内周面には、移動ロッドfの外周面に摺接する軸受hと、移動ロッドfの外周面との隙間を止水するリング状のシールiとが夫々設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2763046号公報
【特許文献2】特許第2938841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の伸縮カッタd1、d2においては、移動ロッドfがカッタフレームcのガイド穴eから突出すると、移動ロッドfの外周面が土砂に晒された状態となる。このため、カッタフレームcの回転に伴って移動ロッドfの外周面に土砂が当たり、軸受h及びシールiと摺接する移動ロッドfの外周面(機械加工面)に摩耗が生じる。
【0007】
移動ロッドfの外周面の摩耗が或る程度進行すると、移動ロッドfの外周面とガイド穴eの軸受hとの隙間が大きくなり、移動ロッドfがガタつきながら往復移動したり、その隙間に土砂が侵入し噛み込んで移動ロッドfが固着する等の事態を招き、伸縮カッタfが正常に作動しなくなる虞がある。また、移動ロッドfの外周面とガイド穴eの内周面との隙間が大きくなるため、シールiによる止水性が悪化する。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、軸受及びシールと摺接する移動ロッドの側面が土砂で摩耗することを防止でき、正常な作動及び止水性を長期間保持でき、耐久性に優れたトンネル掘削機の伸縮カッタ及びそれを用いた異形断面トンネル掘削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に係る発明は、切羽を掘削するために回転又は揺動するカッタフレームに設けられる伸縮カッタであって、前記カッタフレームに、トンネル内外方向に沿って配設されたガイド筒と、該ガイド筒の内周面に設けられた軸受と、前記ガイド筒の内部に前記軸受に摺接して往復移動可能に挿通された移動ロッドと、前記ガイド筒の端部から突出する前記移動ロッドの外周面を覆うように形成され、前記ガイド筒の外周面にスライド可能に被嵌された防護筒と、該防護筒の端部と前記移動ロッドの端部とを接続すると共にそれらの間を塞ぐ蓋部と、前記ガイド筒の外周面に周方向に沿ってリング状に設けられ、前記防護筒の内周面に当接するシールと、前記移動ロッドを、前記ガイド筒に対して、前記防護筒の内周面が前記シールと当接する範囲で、往復移動させるアクチュエータとを備えたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記防護筒の切羽側部に設けられたビットと、前記防護筒の前記ガイド筒に対する軸芯回りの回転を防止する回止機構とを備え、該回止機構は、前記カッタフレームに設けられた係合部と、前記防護筒に設けられ前記係合部と係合して前記防護筒の回転を防止しつつ前記防護筒のトンネル内外方向の移動を許容する被係合部とを備えたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記防護筒の内周面と前記移動ロッドの外周面と前記蓋部の内面と前記ガイド筒の端面とで区画された空間に一端が連通され、他端が坑内に連通された空気通路を備えたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載のトンネル掘削機の伸縮カッタを用いた異形断面トンネル掘削方法であって、前記カッタフレームを回転又は揺動させつつ前記移動ロッドを往復移動させて断面円形以外のトンネルを掘削するに際して、前記アクチュエータにより、前記移動ロッドを、前記ガイド筒に対して、前記防護筒の内周面が前記シールと当接する範囲で往復移動させ、その往復移動中、前記防護筒及び前記蓋部により前記移動ロッドの外周面をカバーしつつ、前記シールにより土砂が前記防護筒の内部に侵入することを防止し、前記移動ロッドの外周面が土砂に晒されることを回避するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るトンネル掘削機の伸縮カッタ及びそれを用いた異形断面トンネル掘削方法によれば、軸受及びシールと摺接する移動ロッドの側面が土砂で摩耗することを防止できる。よって、正常な作動及び止水性を長期間保持でき、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る伸縮カッタを備えた異形断面トンネル掘削機の正面図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】伸縮カッタを突出させた異形断面トンネル掘削機の断面図である。
【図4】図3の部分拡大図であり、ガイド筒の外周面が摩耗した様子を示す。
【図5】(a)は図1の部分拡大図、(b)は(a)のb−b線矢視図である。
【図6】伸縮カッタを突出させた異形断面トンネル掘削機の部分正面図である。
【図7】図2のVII−VII線矢視概略断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII線矢視概略断面図である。
【図9】従来例を示す伸縮カッタを備えた異形断面トンネル掘削機の側断面図である。
【図10】別の従来例を示す伸縮カッタを備えた異形断面トンネル掘削機の部分側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1、図2、図7に示すように、異形断面トンネル掘削機1は、断面矩形の筒状のシールドフレーム2を有する掘削機本体3と、シールドフレーム2内を前後に仕切る隔壁4に支持され切羽を掘削するために回転(往復揺動でもよい)するカッタフレーム5とを備えている。カッタフレーム5には、本実施形態に係る伸縮カッタ6が設けられている。伸縮カッタ6は、カッタフレーム5の回転(又は往復揺動)に伴って適宜伸縮され、切羽をシールドフレーム2の断面形状に合わせて矩形に掘削するものである。
【0017】
シールドフレーム2には、シールドフレーム2の内面に沿ってセグメントを矩形リング状に組み立てるエレクタ(図示せず)が支持されており、エレクタよりも前方のシールドフレーム2の内面には、エレクタにより組み立てられたセグメントに反力を取ってシールドフレーム2を前進させるシールドジャッキ(図示せず)が装着されている。また、隔壁4には、隔壁4とカッタフレーム5との間のカッタ室7内の掘削土砂を隔壁4の後方の坑内に排出する排土装置(スクリューコンベヤ等、図示せず)が取り付けられている。
【0018】
カッタフレーム5は、隔壁4に掘進方向に沿った軸回りに回転可能に支持されたセンターブロック8と、センターブロック8に180度間隔で放射状に取り付けられた一対の固定スポーク9とを有する。センターブロック8は、図示しない駆動装置により上記軸回りに回転駆動されるようになっており、各固定スポーク9の切羽側面には、センターブロック8の回転に伴って切羽を切削するビット10が設けられている。各固定スポーク9の内部には、カーブ掘進時にカーブ内側を余掘りするためのコピーカッタ11が出没可能に収容されている。かかるカッタフレーム5には、伸縮カッタ6が設けられている。
【0019】
伸縮カッタ6は、カッタフレーム5に、トンネル内外方向に沿って配設されたガイド筒12と、ガイド筒12の内周面に設けられた軸受(メタル軸受)27と、ガイド筒12の内部に軸受27に摺接して往復移動可能に挿通された移動ロッド13と、ガイド筒12の端部から突出する移動ロッド13の外周面を覆うように形成され、ガイド筒12の外周面にスライド可能に被嵌された防護筒22と、防護筒22の端部と移動ロッド13の端部とを接続すると共にそれらの間を塞ぐ蓋部23と、ガイド筒12の外周面にその周方向に沿って設けられ、防護筒22の内周面に当接するシール25と、移動ロッド13を、ガイド筒12に対して、防護筒22の内周面がシール25と当接する範囲で、往復移動させるアクチュエータ50とを備えている。
【0020】
図1に示すように、本実施形態においては、伸縮カッタ6は、一対、天地逆にカッタフレーム5に並設されている。これら伸縮カッタ6は、同じ構成であって、図1にて天地逆となっている点のみが異なっているに過ぎないので、一方の伸縮カッタ6(図1のII−II線矢視断面のもの)についてのみ述べ、他方の伸縮カッタ6の説明は省略する。
【0021】
伸縮カッタ6のガイド筒12は、円筒状に形成されており、固定スポーク9に直交するように並列されて一対、センターブロック8に取り付けられている。これらガイド筒12は、同様の構成であって図1にて天地逆となっている点のみが異なっているに過ぎないので、上述したように一方のガイド筒12(図1のII−II線矢視断面のもの)についてのみ述べ、他方の説明は省略する。
【0022】
図2、図7に示すように、ガイド筒12の内周面には、移動ロッド13の外周面と摺接する軸受27が設けられている。軸受27は、ガイド筒12の内周面の端部と中央部とに配置されていて、夫々、円筒状に形成されたカラーから成る。また、ガイド筒12の内周面には、移動ロッド13の外周面との隙間を塞ぐシール26が、軸受27の近傍に配設されている。シール26は、ガイド筒12の周方向に沿ってリング状に形成されている。
【0023】
ガイド筒12の内部には、円柱状の移動ロッド13が往復移動可能に挿通されている。移動ロッド13は、その外周面が軸受27及びシール26と摺接しつつ、ガイド筒12の内部を往復移動する。移動ロッド13の外周面は、軸受27及びシール26と摺接するため、機械加工によって精度良く形成されている。
【0024】
ガイド筒12の外周面には、円筒状の防護筒22がスライド可能に被嵌されている。防護筒22の長さは、移動ロッド13がガイド筒12の端部から最大に突出した場合であっても、突出した移動ロッド13の外周面を覆うことができる所定長さに設定されている。防護筒22の内周面は、ガイド筒12の外周面と接触することなく所定の隙間を保つように、機械加工によって精度良く形成されている。
【0025】
ガイド筒12の外周面の上部には、防護筒22の内周面とガイド筒12の外周面との隙間を塞ぐシール25が、ガイド筒12の周方向に沿ってリング状に設けられている。シール25は、防護筒22の内周面に当接するものであり、図4に示すように、本実施形態では下段のダストシール25aと上段のオイルシール25bとから構成されるが、いずれか一方のみでも構わない。防護筒22の内周面(機械加工面)は、シール25が当接するシール面となる。
【0026】
図2に示すように、防護筒22の端部と移動ロッド13の端部との間には、それらを接続すると共にそれらの間を塞ぐ蓋部23が設けられている。蓋部23は、厚肉の円筒体から成り、その外周面が防護筒22の内周面に嵌って溶接され、内周面に移動ロッド13の外周面が嵌って溶接される。
【0027】
このように移動ロッド13と防護筒22とが蓋部23で連結されているので、移動ロッド13がガイド筒12に対して往復移動されると、防護筒22もガイド筒12に対して往復移動されることになる。移動ロッド13をガイド筒12に対して往復移動させるアクチュエータ50について述べる。
【0028】
図2、図7に示すように、ガイド筒12の下端には、円柱状の基部14がピン15を介して支持されており、基部14の上面には、移動ロッド13の下部に形成された穴16に挿通された固定ロッド17が設けられ、固定ロッド17の頂部には、移動ロッド13の内部に形成された油圧室18を上下に仕切る固定ピストン19が設けられている。固定ピストン19の側部には、油圧室18の内周面との隙間を塞ぐシール20が設けられ、移動ロッド13の下部に形成された穴16には、固定ロッド17の外周面との隙間を塞ぐシール21が設けられている。この構成によれば、固定ピストン19の上方の油圧室18にオイルを供給すると、移動ロッド13が突出方向に移動し(図3参照)、その状態で固定ピストン19の下方の油圧室18にオイルを供給すると、移動ロッド13が没入方向に移動する(図2参照)。
【0029】
移動ロッド13を突出方向又は没入方向に移動させる油圧回路について、図7、図8を用いて説明する。
【0030】
図示するように、ガイド筒12、基部14、固定ロッド17及び固定ピストン19の内部には、一端がガイド筒12の側部に開口を有し、他端が固定ピストン19の側部のシール20よりも下方に開口を有する伸縮カッタ没入用油圧通路36が形成されている。伸縮カッタ没入用油圧通路36の中程には、ガイド筒12の下面の通路途中と基部14の下面の通路途中とを繋ぐ配管36aが設けられている。伸縮カッタ没入用油圧通路36には、油圧配管(通路)36bが接続されており、この油圧配管(通路)36bは、カッタフレーム5の回転軸を挿通され、公知のロータリージョイントを介し、坑内からオイルが給排されるようになっている。
【0031】
また、ガイド筒12、基部14、固定ロッド17及び固定ピストン19の内部には、一端がガイド筒12の側部に開口を有し、他端が固定ピストン19の頂面に開口を有する伸縮カッタ突出用油圧通路37が形成されている。伸縮カッタ突出用油圧通路37の中程には、ガイド筒12の下面の通路途中と基部14の下面の通路途中とを繋ぐ配管37aが設けられている。伸縮カッタ突出用油圧通路37には、油圧配管(通路)37bが接続されており、この油圧配管(通路)37bは、カッタフレーム5の回転軸を挿通され、公知のロータリージョイントを介し、坑内からオイルが給排されるようになっている。
【0032】
この構成によれば、図7に示すように伸縮カッタ6が没入された状態にて、伸縮カッタ突出用油圧通路37を通して固定ピストン19の上方の油圧室18にオイルを供給すると、移動ロッド13が突出方向に移動され、図8に示すように移動ロッド13に取り付けられた防護筒22が突出状態となる。このとき、油圧室18の下部の段差18aが固定ピストン19の下面に当接することで、移動ロッド13の突出長さが制限される。これにより、防護筒22がガイド筒12から抜け出ることはなく、防護筒22の内周面がガイド筒12の外周面のシール25に接する状態が保持される。なお、固定ピストン19の下方の油圧室18に充満されていたオイルは、伸縮カッタ没入用油圧通路36を通って排出される。
【0033】
逆に、図8に示すように伸縮カッタ6が突出された状態にて、伸縮カッタ没入用油圧通路36を通して固定ピストン19のシール20よりも下方の油圧室18にオイルを供給すると、移動ロッド13が没入方向に移動され、図7に示すように防護筒22が没入状態となる。ここで、油圧室18の天井面が固定ピストン19の上面に当接することで、或いは蓋部23の下面がガイド筒12の上端面に当接することで、移動ロッド13の没入長さが制限される。なお、固定ピストン19の上方の油圧室18に充満されていたオイルは、伸縮カッタ突出用油圧通路37を通って排出される。
【0034】
以上述べたように、油圧配管(通路)37bを介して伸縮カッタ突出用油圧通路37にオイルを供給することで、移動ロッド13及び防護筒22が突出し、油圧配管(通路)36bを介して伸縮カッタ没入用油圧通路36にオイルを供給することで、移動ロッド13及び防護筒22が没入する。
【0035】
従って、移動ロッド13を往復移動させるアクチュエータ50は、固定ロッド17、固定ピストン19、油圧室18、伸縮カッタ没入用油圧通路36、油圧配管(通路)36b、伸縮カッタ突出用油圧通路37、油圧配管(通路)37b及び段差18a等から構成される。このアクチュエータ50は、移動ロッド13を、ガイド筒12に対して、防護筒22の内周面がシール25に当接する範囲で往復移動させる。
【0036】
図2、図7に示すように、移動ロッド13の下部には、可動ロッド28を介し、円板状のピストン29が取り付けられている。可動ロッド28は、図7に示すように正面から見て一対間隔を隔てて配置されており、上端が円柱状の移動ロッド13の下面に固定され、下端が円板状のピストン29の上面に固定されている。これにより、移動ロッド13がガイド筒12及び固定ピストン19に対して昇降されると、ピストン29も一体的に昇降することになる。
【0037】
ガイド筒12の下部の外周部には、ピストン29を昇降移動可能に収容するシリンダ30が装着されている。シリンダ30は、カッタフレーム5の一部を構成する。シリンダ30の下端は開放されており、図3に示すように、ピストン29が上昇されたとき、シリンダ30の内面とピストン29の下面とにより、下端が開口された土圧吸収室31が形成される。シリンダ30の内部には、図7に示すように、可動ロッド28が挿通される穴32が形成された仕切板33が設けられており、穴32には可動ロッド28の外周面との隙間を塞ぐシール34が設けられている。また、ピストン29の側面には、シリンダ30の内周面との隙間を塞ぐシール35が設けられ、シリンダ30の切羽側面には、切羽を切削するためのビット42が装着されている。
【0038】
以上の構成によれば、移動ロッド13及び防護筒22がガイド筒12及び固定ピストン19に対して往復移動されると、図3に示すように防護筒22が突出する方向に移動された際にピストン29がシリンダ30の奥側に移動して土圧吸収室31の容積が大きくなり、これとは逆に図2に示すように防護筒22が没入する方向に移動された際にピストン29がシリンダ30の開口側に移動して土圧吸収室31の容積が小さくなる。
【0039】
これにより、防護筒22が突出された際に上昇するカッタ室7の土圧が土圧吸収室31に吸収され、防護筒22が没入された際に減少するカッタ室7の土圧が土圧吸収室31から排出される土砂により補充されるので、防護筒22の出没に伴うカッタ室7の土圧の変動が抑制される。
【0040】
図1、図5(a)、(b)に示すように、防護筒22の外周面の切羽側部には、切羽を切削するビット24が設けられており、防護筒22及びカッタフレーム5には、防護筒22がガイド筒12に対して軸芯回りに回転することを防止する回止機構60が設けられている。
【0041】
回止機構60は、カッタフレーム5の一部を構成するシリンダ30に設けられた係合部61と、防護筒22に設けられた被係合部62とを備えている。係合部61は、一端がシリンダ30に取り付けられ、他端が防護筒22に向けて延出された矩形板61aからなる。矩形板61aは、シリンダ30の切羽側部と反切羽側部とに、夫々切羽面と略平行に取り付けられている。被係合部62は、防護筒22の切羽側部と反切羽側部とに夫々装着され、防護筒22の伸縮方向に沿って形成された段差62aを有する。段差62aには矩形板61aの先端が係合されている。
【0042】
この構成によれば、図5、図6に示すように、防護筒22がガイド筒12に対して往復移動されると、係合部61である矩形板61aの先端が被係合部62の段差62aに係合した状態で往復移動されるので、防護筒22のガイド筒12に対する軸芯回りの回転が防止される。よって、防護筒22に設けたビット24は、常に切羽側に向いた状態となり、切羽を適切に切削する。
【0043】
図7、図8に示すように、ガイド筒12には、防護筒22の内周面と移動ロッド13の外周面と蓋部23の内面とガイド筒12の端面とで区画された空間40と、隔壁4の後方の坑内とを連通する空気通路38が設けられている。空気通路38には、空気配管38bが接続され、空気配管38bは、カッタフレーム5の回転軸を挿通され、公知のロータリージョイントを介し、坑内から空気が給排されるようになっている。
【0044】
また、ガイド筒12及びシリンダ30には、シリンダ30の内周面とピストン29の上面と仕切板33の下面とで区画された空間41と、坑内とを連通する空気通路39が設けられている。空気通路39には、空気配管39bが接続され、空気配管39bは、カッタフレーム5の回転軸を挿通され、公知のロータリージョイントを介し、坑内から空気が給排されるようになっている。
【0045】
空気通路38は、図7に示すように収縮状態にある伸縮カッタ6が図8に示すように突出状態に移行する際、容積が大きくなる空間40に空気を導き、空間40が負圧状態となることを防止する。よって、移動ロッド13が突出方向に移動する際、空間40が負圧状態となることによる抵抗が生じない。また、このとき空気通路39は、容積が小さくなる空間41内の空気を排出し、空間41内の空気が圧縮充満状態となることを防止する。よって、移動ロッド13が突出方向に移動する際、空間41内の空気が圧縮充満状態となることによる抵抗が生じない。
【0046】
また、これら空気通路38、39は、突出状態の移動ロッド13が逆に没入方向に移動する際には、空気の給排が逆になり、移動ロッド13が没入方向へ移動する際の抵抗が生じない。
【0047】
本実施形態の作用を述べる。
【0048】
図1、図2、図3に示すカッタフレーム5を回転軸回りに回転させながら、移動ロッド13を適宜往復移動させ、矩形断面トンネルを掘削する。すなわち、カッタフレーム5が図1の状態から45度回転するまで移動ロッド13を突出方向に徐々に移動させ、45度で最も突出させ、45度を過ぎたなら移動ロッド13を没入方向に徐々に移動させ、90度で最も没入させる、という制御を繰り返すことで、矩形断面トンネルを掘削する。
【0049】
このとき、移動ロッド13は、ガイド筒12に対して、防護筒22の内周面がシール25と当接する範囲で往復移動される。よって、移動ロッド13の往復移動中、防護筒22及び蓋部23により移動ロッド13の外周面がカバーされ、シール25により土砂が防護筒22の内部に侵入することが防止される。この結果、移動ロッド13の外周面が土砂に晒されることが回避され、移動ロッド13の外周面が土砂によって摩耗することはない。
【0050】
仮に、移動ロッド13の外周面が土砂によって摩耗すると、移動ロッド13の外周面とガイド筒12の内周面の軸受27との隙間が過剰に大きくなり、移動ロッド13がガタつきながら往復移動したり、その隙間に異物(土砂等)が噛み込んで移動ロッド13が固着する等の事態を招き、伸縮カッタ6が正常に作動しなくなる虞があるところ、本実施形態ではこれらの不具合を回避できる。
【0051】
また、移動ロッド13の外周面が土砂によって過剰に摩耗すると、移動ロッド13の外周面とガイド筒12の内周面との隙間が大きくなるため、シール26による止水性が悪化するところ、本実施形態では、移動ロッド13の外周面が土砂によって摩耗することはないので、このような事態は生じない。
【0052】
図4に示すように、ガイド筒12の外周面は、土砂に晒されるため摩耗が生じるところ(12xは摩耗部)、この部分はシール25によるシール面ではないので、シール25の止水性が悪化することはない。シール25のシール面である防護筒22の内周面は、土砂に晒されないので摩耗することはなく、シール25の止水性は保たれる。
【0053】
すなわち、軸受27に摺接する移動ロッド13の外周面(機械加工面)と、シール25に摺接する防護筒22の内周面(機械加工面)とは、共に土砂に晒されないので、これらが土砂により摩耗することはない。よって、移動ロッド13の適切な作動とシール25の止水性とを長期間に亘って保持でき、耐久性が向上する。
【0054】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、図2及び図7に示す可動ロッド28、ピストン29を省略して、図3及び図8に示す土圧吸収室31を省略してもよい。また、伸縮カッタ6により掘削されるトンネルの断面は矩形に限られず、楕円形や馬蹄形等の異形断面であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 異形断面トンネル掘削機
5 カッタフレーム
6 伸縮カッタ
12 ガイド筒
13 移動ロッド
27 軸受
22 防護筒
23 蓋部
24 ビット
25 シール
38 空気通路
40 空間
50 アクチュエータ
60 回止機構
61 係合部
62 被係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽を掘削するために回転又は揺動するカッタフレームに設けられる伸縮カッタであって、
前記カッタフレームに、トンネル内外方向に沿って配設されたガイド筒と、
該ガイド筒の内周面に設けられた軸受と、
前記ガイド筒の内部に前記軸受に摺接して往復移動可能に挿通された移動ロッドと、
前記ガイド筒の端部から突出する前記移動ロッドの外周面を覆うように形成され、前記ガイド筒の外周面にスライド可能に被嵌された防護筒と、
該防護筒の端部と前記移動ロッドの端部とを接続すると共にそれらの間を塞ぐ蓋部と、 前記ガイド筒の外周面に周方向に沿ってリング状に設けられ、前記防護筒の内周面に当接するシールと、
前記移動ロッドを、前記ガイド筒に対して、前記防護筒の内周面が前記シールと当接する範囲で、往復移動させるアクチュエータと
を備えた特徴とするトンネル掘削機の伸縮カッタ。
【請求項2】
前記防護筒の切羽側部に設けられたビットと、前記防護筒の前記ガイド筒に対する軸芯回りの回転を防止する回止機構とを備え、
該回止機構は、前記カッタフレームに設けられた係合部と、前記防護筒に設けられ前記係合部と係合して前記防護筒の回転を防止しつつ前記防護筒のトンネル内外方向の移動を許容する被係合部とを備えた
請求項1に記載のトンネル掘削機の伸縮カッタ。
【請求項3】
前記防護筒の内周面と前記移動ロッドの外周面と前記蓋部の内面と前記ガイド筒の端面とで区画された空間に一端が連通され、他端が坑内に連通された空気通路を備えた
請求項1又は2に記載のトンネル掘削機の伸縮カッタ。
【請求項4】
請求項1に記載のトンネル掘削機の伸縮カッタを用いた異形断面トンネル掘削方法であって、
前記カッタフレームを回転又は揺動させつつ前記移動ロッドを往復移動させて断面円形以外のトンネルを掘削するに際して、
前記アクチュエータにより、前記移動ロッドを、前記ガイド筒に対して、前記防護筒の内周面が前記シールと当接する範囲で往復移動させ、
その往復移動中、前記防護筒及び前記蓋部により前記移動ロッドの外周面をカバーしつつ、前記シールにより土砂が前記防護筒の内部に侵入することを防止し、
前記移動ロッドの外周面が土砂に晒されることを回避する
ことを特徴とする異形断面トンネル掘削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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