説明

トンネル掘削装置、及び、トンネル施工方法

【課題】掘削速度を確保しつつ、余掘り量を低減する。
【解決手段】発破掘削により形成された坑1の周縁部1aを仕上掘削するトンネル掘削装置10は施工基面3上を走行可能であり、全旋回式ベースマシン20と、ブームアーム30と、カッタヘッド43とを備える。カッタヘッド43は、ブームアーム30の延長方向と略同一方向を回転軸Pとして回転可能である。カッタヘッド43の回転時におけるビットの移動領域を回転軸Pに対して平行な面に投影した場合のビットの移動領域の輪郭は、カッタヘッド43の先端を頂点とする略山型形状である。ビットの移動領域の輪郭の頂点と、この頂点より最も離間したビットの尖端とを結んだ直線と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度θ1は40°〜50°の範囲内である。また、ビットの移動領域の輪郭の稜線と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度θ2は60°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削装置、及び、これを用いるトンネル施工方法に関し、詳しくは、地山を掘削して坑を形成した後に、坑の周縁部を仕上掘削する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事では、地山(天然の状態にある地盤・岩盤)を掘削して坑を形成した後に、鋼製支保材と吹付コンクリートで一次覆工(支保)することを繰り返して一次空間を形成し、その後、コンクリートで二次覆工することにより計画の空間(設計空間)を形成する。このため、計画より過大に掘削した場合にはズリ量が増加し、また、その増加分をコンクリート等で置き換える必要がある。従って、トンネル工事では、計画に対して過大に掘削しないこと、つまり余掘りが少なくなるように掘削することが求められている。
【0003】
トンネルの掘削工法には、ダイナマイト等の爆薬を用いて発破掘削する発破掘削方式と自由断面掘削機(例えば、特許文献1に記載のような、ロードヘッダ(登録商標)等の専用機械)により掘削する機械掘削方式とがある。
【0004】
発破掘削方式では、トンネルの掘削面(鏡)に爆薬挿入用の穴をドリル等で削孔し、この穴に爆薬を挿入して発破・爆発させて掘削する。発破掘削方式では、発破と同時に瞬間的に掘削が可能である反面、発破により掘削面がどのように形成されるかを予測することが難しく、また、掘削したいと計画した掘削面(以下「掘削計画線」という)に対して凹凸を含んだ形状となりやすい。このため、発破掘削方式では、一般に、比較的多めの余掘り分を計画に上乗せして発破掘削を行う傾向がある。この点、特許文献2は、発破掘削方式における余掘り低減技術の一例を開示している。この例では、まず、掘削面(鏡)の掘削計画線(掘削予定面)に沿って複数の削孔部を設ける。次に、各削孔部ごとに液圧破砕装置を挿入して、これら破砕装置によって掘削計画線に沿うような亀裂を発生させる。そして、掘削計画線の内部の岩盤部を一般的な発破掘削方式を用いて破砕する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−146397号公報
【特許文献2】特開平5−231088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、機械掘削方式では、一般に、発破掘削方式に比べて掘削形状を容易に制御することができるので、余掘りを比較的少なくすることができる。しかしながら、機械掘削方式では、発破掘削方式のように比較的広範囲で瞬間的に掘削を行うことができないので、発破掘削方式に比べて掘削速度が低い。
【0007】
また、山岳トンネルの施工方法であるNATM工法においては、所定の長さを掘削した後に鋼製支保工を建込み、吹付コンクリートにより一次覆工(支保)されたエリアから、新たな掘削を開始する必要がある。この新たな掘削の際に、特許文献2に記載の発破掘削方式における余掘り低減技術を用いようとしても、掘削計画線よりトンネル内方に支保があるので、支保の裏側(切羽側)の掘削面(鏡)に掘削計画線に沿って削孔部を形成することが難しい。このように、トンネルの施工方法の中には、特許文献2に記載の余掘り低減技術を用いることが難しいものがある。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑み、発破掘削方式のような比較的高い掘削速度を確保しつつ、余掘り量を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明に係るトンネル掘削装置は、地山に掘削形成された坑の周縁部を仕上掘削するものであり、下部に走行手段を装備した全旋回式ベースマシンと、このベースマシンに基端部が枢支されて上下方向に揺動可能なブームアームと、このブームアームの先端部に取り付けられ、かつ、ブームアームの延長方向と略同一方向を回転軸として回転可能なカッタヘッドと、を備える。そして、カッタヘッドを回転させつつ坑の周縁部に接触させることにより坑の周縁部の仕上掘削を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トンネル掘削装置は、地山に掘削形成された坑の周縁部を仕上掘削する。これにより、例えば、トンネル工事にて発破掘削方式を用いる場合には、まず、発破掘削により瞬間的な掘削を行って掘削計画線より若干小さな坑を形成し、次に、本発明に係るトンネル掘削装置を用いて坑の周縁部の仕上掘削を行うことにより、坑の周縁部を掘削計画線に精度よく近づけることができる。従って、発破掘削方式のような比較的高い掘削速度を確保しつつ、仕上掘削により、余掘りを必要最小限に抑えることができるので、掘削速度の確保と発破掘削による過大な余掘りの低減とを、同時に実現することができる。
【0011】
また、例えば、トンネルの施工方法としてNATM工法を用いる場合には、上述の新たな掘削の際に、まず、上述の掘削計画線より若干小さな坑を発破掘削により形成し、この後に、本発明に係るトンネル掘削装置を用いて坑の周縁部の仕上掘削を行うことにより、坑の周縁部を掘削計画線に精度よく近づけることができる。従って、本発明に係るトンネル掘削装置は、NATM工法を含むあらゆるトンネルの施工方法にて余掘り量を低減するための技術として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態におけるトンネル掘削装置の側面図
【図2】同上実施形態におけるトンネル掘削装置の上面図
【図3】同上実施形態におけるトンネル掘削装置の正面図
【図4】カッタヘッドの側面図
【図5】カッタヘッド上のビット配置を示す正面図
【図6】ブームアームの枢支高さと、ブームアーム枢支点からカッタヘッド先端までの距離と、カッタヘッドの第1角度と、掘削高さとの関係を示す図
【図7】トンネル施工方法の第1例を示す図(その1)
【図8】トンネル施工方法の第1例を示す図(その2)
【図9】トンネル施工方法の第2例を示す図(その1)
【図10】トンネル施工方法の第2例を示す図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明の一実施形態におけるトンネル掘削装置の概略構成を示す。尚、図2及び図3では、図示簡略化のために、ベースマシン及びブームアームを破線で示している。また、図1及び図3は、カッタヘッドが坑の周縁部のうち天端部に接触した状態を示す。また、図2及び図3は、カッタヘッドが坑の周縁部のうち左側端部に接触した状態を示す。
【0014】
本実施形態にて構築されるトンネルの主な用途は、1車線〜3車線の道路トンネル、又は、1車道〜2車道の鉄道トンネルである。
トンネルの主要部である坑1は、ダイナマイト等の爆薬を用いて地山2を発破掘削して形成される。坑1は、その周縁部(図1〜図3に示す一点鎖線)1aが、掘削計画線(図1〜図3に示す実線)1bのより若干トンネル内方に位置している。
【0015】
ここで、本実施形態では、周辺地山が本来有している耐荷能力を積極的に活用するために、トンネルの上部の形状はアーチ形状(略半円)として形成される。このため、掘削計画線1bは、その上部の形状がアーチ形状(略半円)となっている。
【0016】
また、トンネルの施工基面3は、掘削断面内に適宜設定されるが、一般に施工基面3から掘削断面天端(掘削計画線1b天端)までの高さ(後述する図6に示す掘削高さ)は7.0m〜8.5mとなる。
【0017】
施工基面3上を走行可能なトンネル掘削装置10は、坑1の周縁部1aを仕上掘削するものであり、具体的には、坑1の周縁部1aを掘削して掘削計画線1bに近づけるために用いられる。
【0018】
トンネル掘削装置10は、ベースマシン20と、ベースマシン20に枢支軸21を介して枢支されて上下方向に揺動可能なブームアーム30と、ブームアーム30の先端に取付けられたカッタヘッドユニット40と、を含んで構成される。
【0019】
ベースマシン20は、バケット容量0.5〜1.0m級(新JIS規格)の油圧ショベルのベースマシンである。
ベースマシン20は、その下部に装備された走行手段である履帯22と、ベースマシン本体23と、ベースマシン本体23を履帯22に対してその上方にて水平旋回させる旋回装置24と、を含んで構成される。すなわち、ベースマシン20は、その下部に履帯22を装備した全旋回式ベースマシンである。
【0020】
ブームアーム30は、ブーム31及びアーム32を備える。
ブーム31は、その基端部が、水平方向に延びる枢支軸21を介してベースマシン本体23の前部に枢支される一方、先端部が、水平方向に延びる枢支軸33を介してアーム32の基端部に枢支される。
【0021】
一対のブームジャッキ34は、各々の一端がブーム31の中央部を左右両側から挟むように取り付けられる一方、他端が、ベースマシン本体23の前部に取り付けられている。従って、ブームジャッキ34を伸縮させることにより、ブーム31が枢支軸21を介してベースマシン本体23に対して上下方向に揺動する。
【0022】
アームジャッキ35は、その一端がアーム32の前側下部に取り付けられる一方、他端が、ブーム31の前側下部に取り付けられている。従って、アームジャッキ35を伸縮させることにより、アーム32が枢支軸33を介してブーム31に対して上下方向に揺動する。
【0023】
従って、ブームアーム30は、ブームジャッキ34及び/又はアームジャッキ35を伸縮させることによって、ベースマシン本体23に対して上下方向に揺動することができると共に、屈伸することができる。
【0024】
カッタヘッドユニット40は、アーム32の先端に取り付けられている。
カッタヘッドユニット40は、内部に油圧モータ及び減速機を備えた駆動ユニット41と、回転シャフト42と、カッタヘッド43とを含んで構成される。
【0025】
駆動ユニット41内の油圧モータが駆動すると、減速機により調整されたトルクが回転シャフト42を介してカッタヘッド43に伝達される。ここで、回転シャフト42は、ブームアーム30の延長方向と略同一方向に延びており(すなわち、図1及び図2に示す長破線Pに沿って延びており)、それゆえ、カッタヘッド43は、ブームアーム30の延長方向と略同一方向を回転軸として回転可能となっている。
【0026】
次に、カッタヘッド43の詳細について図4及び図5を用いて説明する。
図4は、カッタヘッド43の概略構成を示す。また、図5は、カッタヘッド43上のビット配置を示す。尚、図5は、図示簡略化のため、カッタヘッド43を構成するビットボックス45と、これに取り付けられたビット46の尖端とを図示している。
【0027】
回転シャフト42の先端に取付けられたカッタヘッド43は、ブームアーム30の延長方向と略同一方向を回転軸P(図1及び図2に示す長破線Pに対応)とする回転ドラム44と、複数のビットボックス45と、複数のビット46と、を備える。
【0028】
回転ドラム44は、回転軸Pに直交する先端面44aと、この先端面44aに連続して設けられて先端面44aに対して外側に傾斜する第1テーパ面44bと、この第1テーパ面44bに連続して設けられて第1テーパ面44bに対して外側に傾斜する第2テーパ面44cとを有している。
【0029】
回転ドラム44の外周面上には、複数のビットボックス45が配置されている。
ビットボックス45の中央部分には、ビット46の回転軸部が挿入される挿入孔45aが形成されている。
【0030】
ビット46は、いわゆるラウンドピックであり、ビットボックス45の挿入孔45aに挿入される円筒形状の回転軸部(図示せず)と、この回転軸部の上端部に一体に設けられて拡径した円錐台形状のビット本体46aとを含んで構成される。
【0031】
ここで、図4に示す一点鎖線は、カッタヘッド43の回転時におけるビット46の移動領域を回転軸Pに対して平行な面に投影した場合のビット46の移動領域の輪郭46bを示している。この輪郭46bは、カッタヘッド43の先端を頂点46cとする略山型形状を有している。
【0032】
また、図4に示すように、輪郭46bの頂点46cとビット46のうち輪郭46bの頂点46cより最も離間したビット46の尖端46dとを結んだ直線(図4に示す二点鎖線)と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度(以下「第1角度」という)θ1が40°〜50°の範囲内である。
【0033】
また、図4に示すように、輪郭46bの稜線(図4の一点鎖線)と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度θ2は、60°以下である。
図5に実線で示された複数の同心円は、カッタヘッド43の回転時に、図4に示す各ビット46ごとのビット本体46aの尖端が描く軌跡である。これら軌跡のうち輪郭46bの頂点46cより最も離間したビット46の尖端46dが描く軌跡の直径Dmax (図4参照)は、700mm〜900mmの範囲内である。
【0034】
また、図4に示すように、輪郭46bの頂点46cと、輪郭46bの頂点46cより最も離間したビット46の尖端46dとの間の回転軸P方向距離Lは、290mm〜540mmの範囲内である。
【0035】
ところで、上述のように、ベースマシン20は、バケット容量0.5〜1.0m級(新JIS規格)の油圧ショベルのベースマシンである。
トンネル工事に使用される油圧ショベルのベースマシンにおいてバケット容量0.5〜1.0m級(新JIS規格)のものが多用される理由としては、以下の2点が挙げられる。
(1)目的物であるトンネルの用途が車両用道路や鉄道等であるため、断面形状、特に断面高さが一定の範囲に限定されることから、必要とするブームアームの枢支高さ及びブームアームの伸長時長さが定まり、この結果、使用に適した機種が上述のバケット容量に対応する機種となること。
(2)トンネル工事で使用する機械が運搬車により車両用道路を通行してトンネル工事場所に搬入・搬出されることから、運搬車への積載に適した機種が上述のバケット容量に対応する機種となること。
【0036】
このようなベースマシンに対応するブームアーム30の枢支高さ(すなわち、施工基面3と枢支軸21との間の距離)hと、ブームアーム30の伸長時長さAとを、表1に例示する。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すブームアームの枢支高さhの範囲を考慮して、本実施形態では、ブームアームの枢支高さhとして想定される範囲を1.5m〜2.1mとする。
また、表1に示すブームアームの伸長時長さAと、カッタヘッドユニットの長手方向長さ(例えば、1.5m〜2.2m)とを考慮して、本実施形態では、ブームアームの枢支点(枢支軸21)からカッタヘッドの先端までの距離Kとして想定される範囲を、8.5m〜10.8mとする。
【0039】
これら想定の下で、トンネル掘削装置10が仕上掘削可能な掘削高さ(施工基面から掘削断面天端までの高さ)について、表2及び図6を用いて説明する。
表2及び図6は、ブームアームの枢支高さhと、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kと、カッタヘッドの第1角度θ1と、掘削高さとの関係を示す。
【0040】
【表2】

【0041】
ここで、図6及び表2において、カッタヘッド4a〜4dは、第1角度θ1が40°であるカッタヘッド43に対応する一方、カッタヘッド5a〜5dは、第1角度θ1が50°であるカッタヘッド43に対応する。
【0042】
また、図6において、枢支軸21aは、枢支高さh=1.5mに対応する一方、枢支軸21bは、枢支高さh=2.1mに対応する。
カッタヘッド4a(第1角度θ1=40°)は、ブームアームの枢支高さhが1.5mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが8.5mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド4aの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を50°とするので、掘削高さは8.0mとなる。
【0043】
カッタヘッド4b(第1角度θ1=40°)は、ブームアームの枢支高さhが1.5mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが10.8mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド4bの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を50°とするので、掘削高さは9.8mとなる。
【0044】
カッタヘッド4c(第1角度θ1=40°)は、ブームアームの枢支高さhが2.1mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが8.5mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド4cの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を50°とするので、掘削高さは8.6mとなる。
【0045】
カッタヘッド4d(第1角度θ1=40°)は、ブームアームの枢支高さhが2.1mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが10.8mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド4dの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を50°とするので、掘削高さは10.4mとなる。
【0046】
カッタヘッド5a(第1角度θ1=50°)は、ブームアームの枢支高さhが1.5mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが8.5mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド5aの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を40°とするので、掘削高さは7.0mとなる。
【0047】
カッタヘッド5b(第1角度θ1=50°)は、ブームアームの枢支高さhが1.5mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが10.8mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド5bの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を40°とするので、掘削高さは8.4mとなる。
【0048】
カッタヘッド5c(第1角度θ1=50°)は、ブームアームの枢支高さhが2.1mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが8.5mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド5cの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を40°とするので、掘削高さは7.6mとなる。
【0049】
カッタヘッド5d(第1角度θ1=50°)は、ブームアームの枢支高さhが2.1mであり、かつ、ブームアームの枢支点からカッタヘッドの先端までの距離Kが10.8mである場合を示している。この場合には、カッタヘッド5dの輪郭の稜線を坑1の周縁部1aの天端部に適切に接触させるためにブームアームの仰角を40°とするので、掘削高さは9.0mとなる。
【0050】
従って、汎用であるバケット容量0.5〜1.0m級(新JIS規格)の油圧ショベルのベースマシンによりトンネル掘削装置10を構成し、このトンネル掘削装置10を用いて、掘削高さ7.0〜10.4mの範囲内にて、坑1の周縁部1aを良好に仕上掘削することが可能である。
【0051】
本実施形態では、坑1の周縁部1aの天端部を仕上掘削する際にブームアームの仰角を40°〜50°の範囲内としているが、これは以下の理由によるものである。
ブームアームの仰角が50°を上回る場合には、仕上掘削時の飛び石等がベースマシン20に落下・衝突する可能性が高まるので、ベースマシン20の損傷が懸念される。
【0052】
また、ブームアームの仰角が40°を下回る場合には、カッタヘッドの回転軸と坑1の周縁部1aの天端部とのなす角度が40°を下回ることにより、カッタヘッドから坑1の周縁部1aの天端部に作用する面圧が低下する可能性があり、この結果、仕上掘削の効率性が低下する可能性がある。
【0053】
以上の理由により、本実施形態では、坑1の周縁部1aの天端部を仕上掘削する際にブームアームの仰角を40°〜50°の範囲内としている。
また、本実施形態では、図1〜図3に示すように、ベースマシン20をトンネル中央の施工基面3上に配置して切羽に対向させ、この状態にて、ベースマシン20の履帯22による前後動と、旋回装置24によるベースマシン本体23の水平旋回と、ブームアーム30の上下揺動とを組み合わせることにより、カッタヘッド43を用いて、例えば、坑1の周縁部1aの左側端部(図2及び図3)から天端部(図1及び図3)を介して右側端部まで連続的に仕上掘削を行うことが可能である。
【0054】
次に、トンネル掘削装置10を用いるトンネル施工方法の第1例について、図1、図7及び図8を用いて説明する。
図7及び図8は、トンネルの切羽近傍の天端における掘進方向断面を示す。
【0055】
この例では、地山2が、道路トンネルの地山分類における「CII」クラスに該当していると仮定する。
「CII」クラスでは、一般に軟岩であり、掘削面を局部的に掘削すると周囲の岩盤に小崩落が誘発されて掘削が進行する特徴がある。このため、一般的な油圧ショベルのブームアームの先端にブレーカーを取り付けて、このブレーカーにより岩盤を打撃破砕して仕上掘削を行うと、岩盤の崩落が過度に進行する虞がある。このため、本例では、発破掘削を行って坑1を形成した後に、トンネル掘削装置10を用いて坑1の周縁部1aを研磨するように仕上掘削する。
【0056】
また、本例では、トンネルの施工方法として、NATM工法を用いる。
トンネル施工時には、まず、図7(a)に示す切羽7に爆薬挿入用の穴(図示せず)をドリル等で削孔し、この穴にダイナマイト等の爆薬を挿入して発破・爆発させることにより、図7(b)に示すように、坑1を切羽7から切羽7’まで掘り進める。ここで、図7(b)に示すように、坑1は、掘削計画線1b(実線)より若干トンネル内方に坑1の周縁部1a(一点鎖線)が位置するように、掘削形成される。尚、この発破掘削時にはズリ出しが行われる。
【0057】
次に、図7(c)に示すように、トンネル掘削装置10を用いて、坑1の周縁部1aの仕上掘削を行うことにより、坑1の周縁部1aを掘削計画線1bに近づける。尚、この仕上掘削時においてもズリ出しが行われる。
【0058】
次に、図8(d)に示すように、鋼製支保工(鋼アーチ支保工)6を標準建込間隔Sを空けて建込む。ここで、「CII」クラスにて用いられる鋼製支保工6は、例えばH鋼(H−125)である。また、「CII」クラスにおける標準建込間隔Sは、例えば1.2mである。
【0059】
次に、図8(e)に示すように、坑1の周縁部1aに吹付コンクリートを吹き付けることにより一次覆工を行う。ここで、図7(a)〜図8(f)に示す二点鎖線1cは、吹付コンクリートの表面である。尚、「CII」クラスにおける吹付コンクリート厚t1は、例えば10cmである。
【0060】
次に、ロックボルト(図示せず)を打設する。
これまでの掘削ズリ出し工程、鋼製支保工建込工程、一次覆工工程、及び、ロックボルト打設工程(すなわち、上述の図7(a)〜図8(e)に示した各工程)をまとめて1サイクルとする作業(以下、「第1作業」という)は、後述する覆工コンクリートの構築に先行して実施される。また、第1作業では、1サイクルで1スパン(例えばトンネル長さ1.2m分)の施工が行われ、例えば、1日間で3〜4サイクルの施工が行われる。
【0061】
第1作業が実施されている場所から300m程度トンネル後方の場所では、第2作業が実施される。この第2作業には、二次覆工工程が含まれる。この二次覆工工程では、図8(f)に示すように、吹付コンクリートの表面1cに覆工コンクリートを構築することにより二次覆工を行う。ここで、図8(f)に示す破線1dは、覆工コンクリートの表面である。尚、「CII」クラスにおける覆工コンクリート厚t2は、例えば30cmである。また、第2作業(二次覆工工程)では、1サイクルで1スパン(例えばトンネル長さ12m分)の施工が行われ、例えば、3日間で1サイクルの施工が行われる。
【0062】
以上の工程により、トンネルの施工が行われる。尚、上述の第1作業と第2作業との間を300m程度離すことにより、作業の錯綜を抑制することができるので、効率よく作業を実施することができる。
【0063】
図9及び図10は、トンネル施工方法の第2例(図7及び図8に示したトンネル施工方法の変形例)を示す。ここで、図9(a)〜図10(f)は、それぞれ、上述の図7(a)〜図8(f)に対応する。
【0064】
図7及び図8に示した第1例と異なる点について説明する。
図9(a)及び図9(b)に示すように、掘削計画線1b(実線)より若干トンネル内方に坑1の周縁部1a(一点鎖線)が位置するように発破掘削して、坑1を切羽7から切羽7’まで掘り進めた後、図9(c)に示すように、トンネル掘削装置10を用いて、坑1の周縁部1aに周方向に延びる溝8を形成する。この溝8は、鋼製支保工6が建込まれる予定の位置に対応しており、その寸法は、例えば、深さt3が10cmであり、幅t4が30cmである。尚、溝8は、鋼製支保工6の建込み作業時に必要とされる空間である。
【0065】
溝8を形成した後に、図10(d)に示すように、上記予定の位置に鋼製支保工6を建込み、図10(e)に示すように、吹付コンクリートを吹き付けることにより一次覆工を行う。
【0066】
この後の工程は、図7及び図8に示した第1例と同様である。すなわち、覆工コンクリートの施工に先行して第1作業を繰り返し実施し、第1作業が実施されている場所から300m程度トンネル後方の場所にて第2作業が実施される。第2作業(二次覆工工程)では、図10(f)に示すように、覆工コンクリートを構築することにより二次覆工を行う。
【0067】
本例では、トンネル掘削装置10による仕上掘削が、溝8の形成のみに留まるので、上述の図7及び図8に示した第1例に比べて、ズリ量を低減することができる。
また、鋼製支保工6の建込み時には、支保工の建込み位置の微調整が必要である。この点、本例では、溝8が形成されることにより、支保工の建込み位置近傍に局部的に空間的余裕が生まれるので、建込みを容易に精度よく実施することができる。
【0068】
本実施形態によれば、爆薬を用いて地山2を発破掘削して坑1を形成し、この後に、トンネル掘削装置10を用いて坑1の周縁部1aの仕上掘削を行う。これにより、坑1の周縁部1aを掘削計画線1bに精度よく近づけることができる。また、発破掘削によって比較的高い掘削速度を確保しつつ、仕上掘削により、余掘りを必要最小限に抑えることができるので、掘削速度の確保と発破掘削による過大な余掘りの低減とを同時に実現することができる。
【0069】
また本実施形態によれば、トンネル掘削装置10は、下部に履帯22を装備した全旋回式ベースマシン20と、このベースマシン20に基端部が枢支されて上下方向に揺動可能なブームアーム30と、このブームアーム30の先端部に取り付けられ、かつ、ブームアーム30の延長方向と略同一方向を回転軸Pとして回転可能なカッタヘッド43と、を備える。これにより、ベースマシン20の履帯22による前後動と、ベースマシン20(ベースマシン本体23)の水平旋回と、ブームアーム30の上下揺動とを組み合わせて、カッタヘッド43を用いて、坑1の周縁部1aを周方向に連続的に仕上掘削することができる。
【0070】
また本実施形態によれば、カッタヘッド43の回転時におけるビット46の移動領域を回転軸Pに対して平行な面に投影した場合の移動領域の輪郭46bがカッタヘッド43の先端を頂点とする略山型形状であり、輪郭46bの頂点46cと輪郭46bの頂点46cより最も離間したビットの尖端46dとを結んだ直線と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度(第1角度)θ1が40°〜50°の範囲内であり、輪郭46bの稜線と、回転軸Pに直交する直線とのなす角度θ2が60°以下である。これにより、例えば、汎用であるバケット容量0.5〜1.0m級(新JIS規格)の油圧ショベルのベースマシンによりトンネル掘削装置10を構成した場合には、このトンネル掘削装置10を用いて、掘削高さ7.0〜10.4mの範囲内にて、坑1の周縁部1aを良好に仕上掘削することが可能となる。
【0071】
また本実施形態によれば、カッタヘッド43の回転時に、上記最も離間したビットの尖端46dが描く軌跡の直径Dmax は、700mm〜900mmの範囲内である。これにより、カッタヘッド43を比較的小型とすることができるので、仕上掘削の微調整を比較的容易に行うことができ、ひいては、仕上掘削の精度を向上させることができる。
【0072】
尚、本実施形態では、ベースマシン20の走行手段として履帯22を用いて説明したが、走行手段はこれに限らず、例えば、走行手段として車輪を用いてもよい。
また、本実施形態では、回転ドラム44は、先端面44a、第1テーパ面44b及び第2テーパ面44cからなる多段形状を有しているが、回転ドラム44の形状はこれに限らず、例えば、回転ドラム44は、その回転軸方向断面にて滑らかな略山型形状を有していてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、発破掘削方式を用いて坑を形成したが、坑の形成方法はこれに限らず、例えば、上述のブレーカー等を用いて岩盤を打撃破砕して坑を形成し、この坑の周縁部を、トンネル掘削装置10を用いて仕上掘削してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 坑
1a 周縁部
1b 掘削計画線
1c 吹付コンクリートの表面
1d 覆工コンクリートの表面
2 地山
3 施工基面
4a〜4d カッタヘッド
5a〜5d カッタヘッド
6 鋼製支保工
7,7’ 切羽
8 溝
10 トンネル掘削装置
20 ベースマシン
21,21a,21b 枢支軸
22 履帯(走行手段)
23 ベースマシン本体
24 旋回装置
30 ブームアーム
31 ブーム
32 アーム
33 枢支軸
34 ブームジャッキ
35 アームジャッキ
40 カッタヘッドユニット
41 駆動ユニット
42 回転シャフト
43 カッタヘッド
44 回転ドラム
45 ビットボックス
46 ビット
46b 輪郭
46c 頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に掘削形成された坑の周縁部を仕上掘削するトンネル掘削装置であって、
下部に走行手段を装備した全旋回式ベースマシンと、
このベースマシンに基端部が枢支されて上下方向に揺動可能なブームアームと、
このブームアームの先端部に取り付けられ、かつ、前記ブームアームの延長方向と略同一方向を回転軸として回転可能なカッタヘッドと、を備え、
このカッタヘッドを回転させつつ前記周縁部に接触させることにより前記周縁部の仕上掘削を行うことを特徴とするトンネル掘削装置。
【請求項2】
前記カッタヘッドは、前記回転軸を中心に回転可能な回転ドラムと、この回転ドラムの外周面上に取り付けられた複数のビットと、を含んで構成され、
前記カッタヘッドの回転時における前記ビットの移動領域を前記回転軸に対して平行な面に投影した場合の前記移動領域の輪郭が前記カッタヘッドの先端を頂点とする略山型形状であり、
前記輪郭の頂点と前記ビットのうち前記輪郭の頂点より最も離間したビットの尖端とを結んだ直線と、前記回転軸に直交する直線とのなす角度が40°〜50°の範囲内であり、
前記輪郭の稜線と、前記回転軸に直交する直線とのなす角度が60°以下であることを特徴とする請求項1記載のトンネル掘削装置。
【請求項3】
前記カッタヘッドの回転時に前記最も離間したビットの尖端が描く軌跡の直径は、700mm〜900mmの範囲内であることを特徴とする請求項2記載のトンネル掘削装置。
【請求項4】
爆薬を用いて地山を発破掘削して前記坑を形成する工程と、
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のトンネル掘削装置を用いて前記周縁部の仕上掘削を行う工程と、
前記周縁部に吹付コンクリートを吹き付ける工程、及び/又は、前記周縁部に覆工コンクリートを構築する工程と、
を含む、トンネル施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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