説明

トンネル換気制御装置

【課題】自然力による換気を考慮に入れて必要最低限の換気運転を行うことでより省電力なトンネル換気制御装置を提供する。
【解決手段】トンネル坑内1に1つ以上の排気口4を備えたトンネル換気システムであって、通過車両5を検出する車両検出手段10と、坑内の風向・風速を検出する風向・風速検出手段9と、坑内に生じる汚染物質の濃度を検出する汚染物質濃度検出手段7,8とのいずれか1つ以上を備えたトンネル換気制御装置において、車両検出手段10と風向・風速検出手段9と汚染物質濃度検出手段7,8によって計測された結果のうちの1つ以上の計測結果から換気装置の必要運転量を算出する演算手段と、換気装置によって排気口4から排出される風量以外に自然力等の影響によって生じる換気風量を計測する手段と、換気装置の必要運転量と自然力等によって生じる換気風量とから最終的に必要となる換気装置の運転量を演算する演算手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル換気制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車道路用トンネルにおいては、走行車両によってトンネル坑内で発生する汚染物質(煤煙、一酸化炭素)の坑内濃度を所定の濃度以下に維持するため、各種の換気装置によって換気が行われている。特にトンネル坑口ともう一方の坑口との距離が長大なトンネルの場合は、トンネル坑道内に集中排気口を設け、排風機によって坑道内の空気を排出し換気を行うことが多い。
【0003】
このような構成のトンネル換気システムでは、前述のように汚染物質を所定の濃度以下に低減する為に換気装置を稼動し、且つ消費電力を抑える為に汚染物質が所定の濃度以下の場合は停止する。これらの制御を効率よく行うために、トンネル坑内の交通量・風向風速・煤煙濃度(煙霧透過率)・一酸化炭素濃度などを測定した結果に基づき、適切な換気装置の運転量を推測することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、前述の計測値からトンネル坑内の汚染物質濃度についての移流拡散方程式を計算して濃度分布を求め、また、トンネル坑道内の換気圧力を推測し、適切な排風機の運転量を推測する方法が示されている。
【0005】
一方、集中排気口を備えたトンネルでは、排風機を作動させていない場合に、排風機動力によらずに換気されることを期待して集中排気ダクト内のダンパー類を開放している場合がある。
【0006】
また、特許文献2においては、集中排気口に働く風圧を換気動力の一部として利用する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−315143号公報
【特許文献2】特開平11−311097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
集中排気口を備えたトンネル換気システムでは、前述した特許文献2のように換気装置によらない自然力によって換気が行われる、あるいは補助されるケースがある。
【0009】
一方、制御量を決定する際に用いられる排気口からの排出風量は排風機の設計風量、あるいは制御量としての風量であり、前記自然力による風量は考慮されていない。このため、自然力による換気効果があったとしてもこれを考慮に入れずに換気制御が行われているため、必要以上に排風機が運転されるため電力を消費されて、省電力にならない可能性があった。
【0010】
本発明の目的は、自然力による換気を考慮に入れて必要最低限の換気運転を行うことで、より省電力なトンネル換気制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、トンネル坑内に1つ以上の排気口を備えたトンネル換気システムであって、前記トンネル換気システムはトンネルを通過する車両を検出する車両検出手段と、前記トンネル坑内の風向・風速を検出する風向・風速検出手段と、前記トンネル坑内に生じる汚染物質の濃度を検出する汚染物質濃度検出手段とのいずれか1つ以上を備えたトンネル換気制御装置において、前記トンネル換気システムは前記車両検出手段と前記風向・風速検出する手段と前記汚染物質濃度検出手段によって計測された結果のうちの1つ以上の計測結果から換気装置の必要運転量を算出する演算手段と、前記換気装置が生じる換気圧力によって排気口から排出される風量以外に自然力等の影響によって生じる換気風量を計測する手段と、前記換気装置の必要運転量と、前記自然力等によって生じる換気風量から実際の換気装置の運転量を演算する演算手段とを備えたことにより達成される。
【0012】
上記目的を達成するために好ましくは、前記トンネル換気システムは前記トンネルが備えるトンネル坑口、及び送排気風路等トンネル外部への開口部間の圧力計測手段を備えると良い。
【0013】
上記目的を達成するために好ましくは、前記トンネル換気システムは前記トンネルが備えるトンネル坑口、及び送排気風路等トンネル外部への開口部付近の風速計測手段を備えると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自然力による換気を考慮に入れて必要最低限の換気運転を行うことで、より省電力なトンネル換気制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係るトンネル換気システムの全体構成図である。
【図2】本発明の実施例に係る換気制御のブロック図である。
【図3】本発明の第二の実施例に係るトンネル換気システムの全体構成図である。
【図4】本発明の第二の実施例に係る換気制御のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の位置実施例を図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明による第一の実施例を、立坑集中排気を備えたトンネル換気システムを例として説明する。
図1は本発明の実施例に係るトンネル換気システムの全体構成図である。
【0018】
図1において、トンネル坑道1の坑道内を走行する走行車両5から排出される煤煙や一酸化炭素などの汚染物質(図示しない)は、トンネル坑道1内の換気風によって集中排気口4に運ばれ、排気用風路2を通って外部に排気される。また、トンネル坑道1内部の換気風が前記説明のように集中排気口4に向けて適切な風量となるように、排気用風路2中の排風機3、及びトンネル坑道1内のジェットファン6を動作させ換気風圧を発生させる。
【0019】
このときのトンネル坑道1内の煤煙濃度は、坑道内に設置された煙霧透過率計7によって測定される。一酸化炭素濃度は一酸化炭素濃度計8によって測定される。風向・風速は風向風速計9によって測定される。また坑道内を走行する走行車両5の台数は、トンネル坑口付近又は坑道内に設置された交通量計10によって計測される。
【0020】
さらに、トンネル坑口1a付近に風速計11a、トンネル坑口1b付近に風速計11b、排気用風路2の出口付近に風速計11cを設置し、坑口及び排気用風路出口周辺の風速を測定している。
【0021】
ここで、図2に換気制御のブロック図を示す。
図2は本発明の実施例に係る換気制御のブロック図である。
【0022】
図2において、前記煙霧透過率計7、一酸化炭素濃度計8、風向風速計9、交通量計10等によって計測された値は、換気モデル演算装置13に送信される。換気モデル演算装置13では、前記計測値を用い、トンネル坑道1内の汚染物質の濃度分布状態を推定する。さらに換気量演算装置14において、前記換気モデル演算装置13の結果に基づき、必要な換気装置の運転量を算出する。トンネル坑道内の換気風は、例えば特許文献1で示されているように(式1)によって表すことが出来る。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、ρ:空気密度[kg/m3]
L:トンネル坑道長さ[m]
Vr:トンネル坑道内風速[m/s]
ΔPt:交通換気力[Pa]
ΔPr:トンネル坑道の圧力損失[Pa]
ΔPj:ジェットファンによる換気圧力[Pa]
ΔPk:排風機による換気圧力[Pa]
ΔPn:自然換気力[Pa]

前記(式1)を、トンネル坑道1、及び排気用風路2について計算することで、必要な換気風圧ΔPk、ΔPjを求めることができる。
【0025】
ここで、交通換気力ΔPt、坑道圧力損失ΔPrは、特許文献1等に示されるように、本発明の図1に示した風向風速計9及び交通量計10の計測結果より算出可能であるが、自然換気力ΔPnは上記の計測値では知ることが出来ない。
【0026】
ところで、図1に示したように立抗集中排気を備えたトンネル坑道1では上述したように走行車両5の数や汚染濃度量に応じて排風機3やジェットファン6が運転制御されている。そのため、省電力が叫ばれている昨今、排風機3やジェットファン6だけの運転による排気運転制御では省電力に適合したものとは言えなかった。そこで、例えば上述した特許文献2のように俳風機3とジェットファン6による排気の他に自然環境との組み合わせが考えられる。
【0027】
このことから、本発明の発明者らが自然環境による排気の応用を種々検討した結果、自然環境による自然排気がどの程度トンネルとしての換気に貢献しているかを把握することができないことが分かった。つまり、トンネル換気システムの制御に自然環境による排気情報が反映されていないのである。
【0028】
そこで本発明の実施例では、トンネル坑口1a、1b、及び排気用風路2の外部に設けられた風速計11a、11b、11cの計測結果を用いて、自然換気力演算手段12において自然換気力ΔPnを求めるようにしたものである。換言すると、自然環境による排気量を見積もった上で、この見積もりをトンネル排気制御に反映させることで省電力を図るようにしたものである。
【0029】
さて、トンネル坑口1aと排気用風路2の出口の間に働く自然換気力をΔPna[Pa]、トンネル坑口1bと排気用風路2の出口の間に働く自然換気力をΔPnb[Pa]とすれば、ベルヌーイの法則から(式2)と表せる。
【0030】
つまり、排気用風路2の開口付近(山頂付近)で矢印Aのような風が吹くと、いわゆるベンチュリー効果によってトンネル坑道1内の風(矢印B)が排気用風路2内に吸い寄せられることになる。
【0031】
【数2】

【0032】
ただし、va:風速計11aの測定値[m/s]
vb:風速計11bの測定値[m/s]
vc:風速計11cの測定値[m/s]

このようにして求めた自然換気力を(式1)に代入することで、自然力を加味した必要最小限の換気風圧ΔPk、ΔPjを求めることができる。
【0033】
なお、本実施例ではトンネル坑口1aと排気用風路2の出口の間に働く自然換気力をトンネル外部風速計の結果より算出しているが、例えば微差圧計(圧力計測手段)などを用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0034】
また、地形、気象条件などから、トンネル坑口1a、1b付近の風速が排気用風路2の外部の風速よりも十分に小さいと考えられる場合、風速計11a、11b(風速計測手段)を省略することも可能である。
【実施例2】
【0035】
本発明による第二の実施例を、立坑集中排気を備えたトンネル換気システムを例として説明する。
【0036】
図3は本発明の第二の実施例に係るトンネル換気システムの全体構成図である。
図4は本発明の第二の実施例に係る換気制御のブロック図である。
図3、図4において、本実施例では、トンネル坑口1a, トンネル坑口1b、及び排気用風路2内に、それぞれ風向風速計9a、9b、9cを備えている。排風機3が稼動していない場合において、第一の実施例と同様、図4における前記換気モデル演算装置13の結果から必要な換気量Qk[m3/s]を算出する。また、自然換気量演算装置15において風向風速計9cの結果から排気用風路2の風量、すなわち自然力による換気量Qn[m3/s]を算出する。最終的に必要な換気量運転量Q[m3/s]は
【0037】
【数3】

【0038】
として求まるため、Q ≦ 0となる場合は、引き続き排風機3は稼動しない。
【0039】
なお、トンネル坑口及び排気用風路の出入り風量の合計はゼロであることから、風向風速計9a、9b、9cは、1つを省略することも可能である。
【0040】
以上の方法は、交通量に応じ排風機が稼動と停止の状態を取るトンネル換気システムにおいて、稼動する量を低減する効果があると考えられる。
【0041】
以上のごとく、本発明によれば、自然力による排気口からの換気効果を加味して換気装置の制御を行うことが出来るため、自然力による換気が行われている場合は、換気装置の運転量を減らし電力消費を抑制することができる。
【0042】
また、自然力による換気が行われていない場合も状況に応じて換気装置を運転し、トンネル坑内の汚染物質の濃度を所定の値以下に抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 トンネル坑道
1a トンネル坑口
1b トンネル坑口
2 排気用風路
3 排風機
4 集中排気口
5 走行車両
6 ジェットファン
7 煙霧透過率計
8 一酸化炭素濃度計
9 風向風速計
9a 風向風速計
9b 風向風速計
9c 風向風速計
10 交通量計
11a 風速計
11b 風速計
11c 風速計
12 自然換気力演算装置
13 換気モデル演算装置
14 排気量演算装置
15 自然換気量演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル坑内に1つ以上の排気口を備えたトンネル換気システムであって、
前記トンネル換気システムはトンネルを通過する車両を検出する車両検出手段と、前記トンネル坑内の風向・風速を検出する風向・風速検出手段と、前記トンネル坑内に生じる汚染物質の濃度を検出する汚染物質濃度検出手段とのいずれか1つ以上を備えたトンネル換気制御装置において、
前記トンネル換気システムは前記車両検出手段と前記風向・風速検出する手段と前記汚染物質濃度検出手段によって計測された結果のうちの1つ以上の計測結果から換気装置の必要運転量を算出する演算手段と、
前記換気装置が生じる換気圧力によって排気口から排出される風量以外に自然力等の影響によって生じる換気風量を計測する手段と、
前記換気装置の必要運転量と、前記自然力等によって生じる換気風量から実際の換気装置の運転量を演算する演算手段とを備えたことを特徴とするトンネル換気制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のトンネル換気制御装置において、
前記トンネル換気システムは前記トンネルが備えるトンネル坑口、及び送排気風路等トンネル外部への開口部間の圧力計測手段を備えていることを特徴とするトンネル換気制御装置。
【請求項3】
請求項1記載のトンネル換気制御装置において、
前記トンネル換気システムは前記トンネルが備えるトンネル坑口、及び送排気風路等トンネル外部への開口部付近の風速計測手段を備えていることを特徴とするトンネル換気制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87465(P2013−87465A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227716(P2011−227716)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】