説明

トンネル施工方法

【課題】トンネル施工領域の地下水位の低下を抑制するためには、薬液注入による地盤改良によって形成する止水層の厚さを厚くしなければならず、経済的に不利である。さらには、止水層を形成するために用いる水ガラスのような薬液は時間の経過に伴って地下水に溶けてしまうため、トンネル本体におけるトンネル内壁を形成するコンクリート壁を地下水圧に耐える強度を持つ構造に形成しなければならず、経済的に不利であるという課題があった。
【解決手段】本発明のトンネル施工方法は、トンネル施工領域21にトンネル孔2を掘削し、トンネル孔2の内面4よりトンネル孔2の周囲の原地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって、トンネル孔2の外周に、原地盤より透水係数が低くかつ水の通過を許容する機能を恒久的に維持する難透水性層3を形成した後に、トンネル孔2の内面4にトンネル本体を構築したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル施工領域の地表面沈下対策のための施工時間及び施工コストを低減可能なトンネルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル施工領域の上方に位置する地表面に変電所などの既設の重要な構造物(保安物件)が存在している場合、トンネル施工領域の地盤にトンネル孔を掘削していくと、トンネル孔内に地盤中の地下水が流入してきてトンネル施工領域の地下水位が低下し、上記構造物の建っている地表面の沈下に伴った構造物の沈下を招く。即ち、トンネル施工領域の地下水位の低下とトンネル施工領域の上方の地表面沈下とは非常に高い相関関係があり、トンネル施工においては、上記構造物の沈下対策が必要となる。トンネル施工において上記構造物の沈下を抑えるためには、トンネル孔内への地下水の流入を阻止してトンネル施工領域の地下水位の低下を抑制することが必要となる。一般的に、トンネル施工領域の地下水位の低下を抑制するためには、トンネル孔の周囲の地盤を改良して止水層を形成することによって、トンネル孔内への地下水の流入を阻止した後に、トンネル孔の内面にトンネル本体を構築する。このトンネル本体におけるトンネル内壁として二次覆工によるコンクリート壁が形成される。
【特許文献1】特開2001−32673号公報(図2)
【特許文献2】特開2003−307096号公報(図6)
【特許文献3】特開2004−238981号公報(図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のトンネル施工方法では、薬液注入による地盤改良によって形成する止水層の厚さを厚くしなければならず、経済的に不利である。さらには、止水層を形成するために用いる水ガラスのような薬液は時間の経過に伴って地下水に溶けてしまうため、トンネル本体におけるトンネル内壁を形成するコンクリート壁を地下水圧に耐える強度を持つ構造に形成しなければならず、経済的に不利であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のトンネル施工方法は、トンネル施工領域にトンネル孔を掘削し、トンネル孔の内面よりトンネル孔の周囲の原地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって、トンネル孔の外周に、原地盤より透水係数が低くかつ水の通過を許容する機能を恒久的に維持する難透水性層を形成した後に、トンネル孔の内面にトンネル本体を構築したことを特徴とする。
トンネル本体のトンネル内壁として地下水圧に対して力学的抵抗機能を持たない構造のコンクリート壁を形成したことも特徴とする。
トンネル施工領域の上方に既設の構造物が存在する場合において、構造物の許容沈下量に基づいてトンネル施工領域における地下水位の許容低下量を求め、トンネル施工の際のトンネル施工領域の地下水位の低下量が許容低下量を超えないように水の通過を制限可能な透水係数及び層厚に設定された難透水性層を形成したことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によるトンネル施工方法によれば、難透水性層は水の通過を許容する構造のため、従来の止水層に比べて厚さを薄くすることが可能となり、薬液注入作業にかかる時間やコストを低減することが可能となるとともに、この薄い難透水性層によって施工中のトンネル孔内への地下水の流入を抑制して制限でき、トンネル施工領域の地下水位の低下を防止できてトンネル施工領域における地表面の沈下を抑制できることから、トンネル施工領域の地表面沈下を抑制できるトンネルを経済的に形成できる。
さらに、トンネル本体の構築においてトンネル本体のトンネル内壁として地下水圧に対して力学的抵抗機能を持たない構造のコンクリート壁を形成したので、トンネル施工においてのコンクリート壁の施工に要する施工時間及び施工コストも低減できることから、トンネル施工領域の地表面沈下を抑制できるトンネルをさらに経済的に形成できるようになる。
また、トンネル施工領域の上方に既設の構造物が存在する場合において、トンネル施工領域における地下水位の低下量が構造物の許容沈下量に基づいて設定された許容低下量を超えないように水の通過を制限可能な透水係数に設定された難透水性層を形成したので、構造物の沈下量を効率的に許容範囲内に抑えることのできるトンネルを経済的に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1;図2は最良の形態を示し、図1はトンネル施工方法を示し、図2はトンネル施工方法により構築されたトンネルの断面を示す。
【0007】
図2を参照し、トンネル施工方法により形成された山岳トンネルの構造を説明する。山岳トンネル1は、トンネル孔2の外周に、原地盤より透水係数が低くかつ水の通過を許容する機能を恒久的に維持する難透水性層3を備える。すなわち、トンネル孔2の周囲の原地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって、トンネル孔2の外周に、上記難透水性層3を形成した。トンネル孔2の内面4にはトンネル本体5を備える。トンネル本体5は、トンネル孔2の内面4に設置された図外の支保工、トンネル孔2の内面4に吹付けによって厚さ10〜25cm程度に形成された吹付けコンクリート層(一次覆工コンクリート)6、吹付けコンクリート層6を貫通して地山に突き刺さるように設置された図外のロックボルト、吹付けコンクリート層6の内面に貼り付けられた図外の防水シート、防水シートの内面に図外のセントルと呼ばれる型枠装置を用いて形成されたトンネル内壁としてのコンクリート壁(二次覆工コンクリート)7を備える。山岳トンネル1の上方に位置する地表面11には変電所のような構造物12が存在している。
【0008】
トンネル施工領域21の上方に位置する地表面11に構造物12が存在している場合、施工前に、トンネル孔1の周囲に形成する難透水性層3の透水係数a及び層厚bを次のように設定する。試験等によるデータに基づいて、トンネル施工領域21における地下水位の低下量Aと構造物12の沈下量Bとの関係を求め、さらに、構造物12の許容沈下量Cを求め、さらに、許容沈下量C以上の沈下を生じさせないための許容低下量Dを求める。そして、トンネル施工領域21における地下水位の低下量Aが許容低下量Dを超えないように難透水性層3の透水係数a及び層厚bを設定する。つまり、難透水性層3の透水係数a及び層厚bの設定値Xを求める。難透水性層3の透水係数a及び層厚bの設定後に実際に山岳トンネル1を以下のように施工する。
【0009】
図1を参照し、上記山岳トンネル1の施工方法を説明する。まず、ジャンボと呼ばれる図外の掘削機械によってトンネル施工領域21の地山に図外の孔を形成していき、この孔内に爆薬を装填して爆薬を爆破させることによってトンネル孔2を形成する(図1(a)参照)。そして、上記掘削機械を使用してトンネル孔2の内面4よりトンネル孔2の周囲の地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって難透水性層3を形成する(図1(b)参照)。薬液としては、コロイダイルシリカやシリカレジンを含有したシリカ系の薬液を用いる。シリカ系の薬液を用いることによって、地盤改良前の地盤より水を通過させにくく、かつ、水の通過を許容する機能(以下、「難透水機能」という)を恒久的に維持する難透水性層3を形成できる。この際、薬液の量や濃さを調整して難透水性層3の透水係数a(cm/sec)及び層厚bを設定値Xに合せる。難透水性層3の透水係数aや難透水性層3の層厚bの設定値Xは、予め試験や予測解析などで求めておく。例えば、難透水性層3の透水係数aは、原地盤の透水係数の1/10に設定する。難透水性層3の透水係数aを原地盤の透水係数の1/10に設定するための薬液の量や難透水性層3の層厚bは試験や予測解析などで求める。なお、難透水性層3の透水係数aは、原地盤の透水係数の1/10に近い値であればよく、原地盤の透水係数の1/10より極端に離れた値でなければよい。たとえば、原地盤の透水係数の1/9〜1/11の範囲程度に設定してもよい。
【0010】
最良の形態によれば、難透水機能が恒久的に維持される(難透水機能が劣化しない)難透水性層3を形成したことにより、トンネル施工においてトンネル孔2内への地下水の流入を制限でき、地下水位の低下を防止できて構造物12の沈下量を許容沈下量C以下に抑制できる。換言すれば、難透水性層3を形成したことによってトンネル孔2の周囲の地盤の透水機能を低下させ、トンネル孔2内への地下水の流入を制限することによって、構造物12の沈下量を効率的に許容範囲内に抑えることのできるトンネル施工を実現できる。また、難透水性層3は、水の通過を許容する構造のため、従来工法による止水層の厚さに比べて厚さを薄くできるので、薬液注入作業にかかる時間やコストを低減することが可能となる。そして、この薄い難透水性層3によって施工中のトンネル孔2内への地下水の流入を抑制して制限でき、トンネル施工領域21の地下水位の低下を防止できてトンネル施工領域21における地表面11の沈下を抑制できる。よって、最良の形態によるトンネル施工方法によれば、トンネル施工領域21の地表面11の沈下を抑制でき、構造物12の沈下量を効率的に許容範囲内に抑えることのできるトンネル1を経済的に形成できる。
【0011】
以上のように難透水性層3を形成した後に、トンネル孔2の内面4にトンネル本体5を構築する。すなわち、トンネル孔2の内面4に図外の支保工を設置し、トンネル孔2の内面4にコンクリートを吹付けて吹付けコンクリート層6(図2参照)を形成した後、吹付けコンクリート層6の内面から図外のロックボルトを地山に突き刺して、トンネル孔2の崩壊を防ぐ。その後、吹付けコンクリート層6の内面に図外の防水シートを貼り付け、裏面排水構造及び横断排水構造を形成し、防水シートの内面にコンクリート壁7を形成する(図2参照)。
【0012】
最良の形態によれば、トンネル孔2の周囲に難透水機能が恒久的に維持される難透水性層3を備え、トンネル孔2側への地下水の流入が制限されるので、コンクリート壁7を地下水圧に耐える強度を持つ構造に形成する必要がなくなり、地下水圧に対して力学的抵抗機能を持たない構造のコンクリート壁7を形成すれば足りるようになる。よって、コンクリート壁7の施工に要する施工時間及び施工コストも低減できることから、トンネル施工領域21の地表面11の沈下を抑制でき、構造物12の沈下量を効率的に許容範囲内に抑えることのできる山岳トンネル1をさらに経済的に形成できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
トンネル施工領域21にトンネル孔2を掘削し、トンネル孔2の内面4よりトンネル孔2の周囲の原地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって、トンネル孔の外周に、原地盤より透水係数が低く、かつ、水の通過を許容する機能を恒久的に維持する難透水性層3を形成した後に、トンネル孔2の内面4にトンネル本体5を構築するに際して、トンネル本体5におけるトンネル内壁として地下水圧に対して力学的抵抗機能を持たせた構造のコンクリート壁を形成してもかまわない。この場合でも、難透水性層3の厚さを従来の止水層に比べて薄くできるので、トンネル施工領域21の地表面11の沈下を抑制できるトンネルを経済的に形成できる。
トンネル施工領域21の上方に位置する地表面11に構造物12が存在しない場合であっても、トンネル施工においてトンネル施工領域21の上方に位置する地表面11の沈下を抑えたいという事情がある場合には、地表面11の許容沈下量に基づいてトンネル施工領域21における地下水位の許容低下量を求め、トンネル施工の際のトンネル施工領域21の地下水位の低下量が許容低下量を超えないように水の通過を制限可能な透水係数及び層厚に設定された難透水性層3を形成することによって、トンネル施工領域21の地表面11の沈下量を効率的に許容範囲内に抑えることのできるトンネルを経済的に形成できるようになる。
本発明のトンネル施工方法は、山岳トンネル以外のトンネルの施工方法にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トンネル施工方法を示す図(最良の形態)。
【図2】トンネル施工方法により構築されたトンネルの断面図(最良の形態)。
【符号の説明】
【0015】
1 山岳トンネル、2 トンネル孔、3 難透水性層、4 トンネル孔の内面、
5トンネル本体、7 コンクリート壁、12 構造物、21 トンネル施工領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル施工領域にトンネル孔を掘削し、トンネル孔の内面よりトンネル孔の周囲の原地盤に薬液を注入して地盤を改良することによって、トンネル孔の外周に、原地盤より透水係数が低くかつ水の通過を許容する機能を恒久的に維持する難透水性層を形成した後に、トンネル孔の内面にトンネル本体を構築したことを特徴とするトンネル施工方法。
【請求項2】
トンネル本体のトンネル内壁として地下水圧に対して力学的抵抗機能を持たない構造のコンクリート壁を形成したことを特徴とする請求項1に記載のトンネル施工方法。
【請求項3】
トンネル施工領域の上方に既設の構造物が存在する場合において、構造物の許容沈下量に基づいてトンネル施工領域における地下水位の許容低下量を求め、トンネル施工の際のトンネル施工領域の地下水位の低下量が許容低下量を超えないように水の通過を制限可能な透水係数及び層厚に設定された難透水性層を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトンネル施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−162265(P2007−162265A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357593(P2005−357593)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】