説明

トンネル構造体

【課題】トンネル空間の明るさ感を高め、グレアを低減して走行快適性を向上させる。
【解決手段】トンネル1は、反射率10%のアスファルト舗装された路面11、路面11の両端面から略垂直に2mの高さで立ち上がり、反射率60%の内装板が敷設された壁面下部12、壁面下部12から上方に連接し、反射率60%の内装板が敷設された壁面上部13、及び反射率25%のコンクリート舗装された天井部14から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁部と天井部から構成され、照明器具備えるトンネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル照明は、トンネルの路面や壁面を所要の明るさで照らすことを目的としており、非特許文献1及び2においてそれぞれ報告された「道路照明施設設置基準」や、「トンネル照明設計指針」に基づいて設計、敷設されている。
【0003】
このうち、非特許文献2では、「運転者がトンネル内を安全、快適に走行するためには、路面のみでなく、壁面、天井面も含めた明るさのバランスを適切に行い、良好な視環境をトンネル内に作り出すことが必要である。」とし、路面に対する壁面の輝度比を18〜42%にすることが好ましいとしている。
【0004】
しかしながら、非特許文献2にいう壁面とは、トンネルの路面から立ち上がる壁面下部のことであり、壁面下部に連接する壁面上部や天井面の輝度については言及されていない。この理由としては、以下の3点が考えられる。
【0005】
(1)障害物の背景が壁面上部や天井面となる可能性は非常に低いので、背景が壁面下部となる場合のみを考慮すれば十分である。
(2)煤煙透過率が低い場合には天井が汚れ易く、汚れた天井は清掃が困難であり、反射率の維持が難しい。
(3)壁面上部や天井面の輝度を高くするにはコストがかかる。
【0006】
また、非特許文献3には、トンネル視環境の評価項目が示されているが、照明レベルと壁面仕上げは、走り易さとの相関性が低いことが記されている。
【0007】
図2は、従来のトンネルの内部状態を示す斜視図である。この図には、路上障害物の視認性を重視して路面輝度を効率よく確保するために、壁面下部に内装板を敷設したトンネル構造体の例が示されている。この場合、壁面下部の内装板が明るすぎるために、壁面内装板へ照射した光の拡散反射がまぶしいことがある。また、壁面上部が暗いために、照明器具との輝度コントラストが高くなって、グレアが大きくなる虞がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0008】
一般的なトンネル照明の明るさの基準は、路面の輝度により定められている。そのため、効率よく路面を照らすべく壁面に設置された照明器具からの光は下方向に照射され、壁面上部及び天井部等の上方向にはほとんど照射されない。また、多くのトンネルでは、壁面上部及び天井部には内装板が設置されていないため、反射率が比較的低く、その輝度も低い。
【0009】
図3に示すような従来のトンネル9において、壁面上部93と天井部94は、運転者の視野の大部分を占めており、壁面上部93および天井部94がトンネル空間の明るさ感に与える影響が大きい。
【0010】
しかしながら、明るさ感を向上するために、天井部94の方向に照射する光束を増加させることは、照明器具95の出力を増大させることであって、コストアップを惹起し、且つ環境にも影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-90479号公報
【特許文献2】特開2001-90500号公報
【特許文献3】特許第2520054号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】社団法人日本道路協会,“道路照明施設設置基準・同解説”,平成 19年10月
【非特許文献2】財団法人高速道路調査会,道路照明研究委員会,“トンネル照明設計指針” の付録III添付資料“トンネル内装について”, 平成 2年3月,p.101
【非特許文献3】財団法人高速道路調査会,道路照明研究委員会,“トンネル照明設計指針”の付録IV添付資料“トンネル視環境の評価方法と照明レベル”, 平成2年3月,p.117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、トンネル空間の明るさ感を向上させると共に、グレアを低減して走行快適性を高めることのできるトンネル構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のトンネル構造体は、路面端部から立ち上がり形成された壁部と、前記壁部の上方で前記路面に略平行に形成された天井部と、からなり、所定の位置に照明器具を備えるトンネル構造体であって、前記壁部は、前記路面より2m以下の位置までの範囲を含む壁面下部と、前記壁面下部の上端に連接し、前記照明器具のうち最も高いものより低い位置までの範囲を含む壁面上部と、から構成され、前記壁面上部は、反射率が、前記路面より大きいことを特徴とするものである。
【0015】
この構成により、壁面上部の反射率を路面の反射率より大きくすることで、照明器具の出力を増加させることなく、天井部から反射する光の輝度を増加させることができ、トンネル内空間の明るさ感が向上して、走行快適性を高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、上記のトンネル構造体において、前記壁面上部は、前記反射率が、略40〜60%であることを特徴とするものである。
【0017】
この構成により、壁面上部の反射率を略40〜60%とすることで、照明器具の出力を増加させることなく、天井部から反射する光の輝度を増加させることができ、トンネル内空間の明るさ感が向上して、走行快適性を高めることが可能となる。
【0018】
更に、本発明は、上記のトンネル構造体において、前記壁面下部は、前記反射率が、前記壁面上部と略同等、若しくは以下であることを特徴とするものである。
【0019】
この構成により、トンネル内空間の輝度均斉度が向上し、且つ明るさ感が高くなって、路上障害物や先行車の視認が容易となり、走行安全性が向上する。また、壁面下部の反射率が低くなることで輝度が小さくなり、内装板からの拡散光によるグレアが低減して、走行快適性を高めることができる。
【0020】
また、本発明は、上記のトンネル構造体において、前記天井部は、前記反射率が、前記壁面上部と略同等であることを特徴とするものである。
【0021】
この構成により、天井部の反射率を壁面上部と略同等にすることで、トンネル空間全体の明るさ感が向上する。加えて、壁面上部から天井部にかけて極端に反射光の輝度が低くなる箇所がなくなるので、輝度均斉度の高い空間が得られ、トンネルにおける走行快適性が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、トンネル空間の明るさ感を向上させると共に、グレアを低減して走行快適性を高めることのできるトンネル構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るトンネル構造体の位置関係を示す斜視図
【図2】従来例のトンネル内を示す斜視図
【図3】従来例のトンネル構造体の位置関係を示す斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るトンネル構造体について、図面を用いて説明する。本発明の実施形態に係るトンネル構造体は、高速道路等自動車が走行するトンネルの構造体である。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るトンネル構造体の位置関係を示す斜視図である。
【0026】
図1において、トンネル1は、路面11の両端面から略垂直に2mの高さで立ち上がり形成された壁面下部12、壁面下部12の上端と連接して上方に形成された壁面上部13、壁面上部13の上端と連接し、路面11に対して略平行に形成された天井部14、及びこれらにて囲繞された空間部100から構成される。
【0027】
そして、壁面上部13近傍の天井部14には、光軸が下方に向けられた照明器具15が路面11の延伸方向に沿って線状に配設されている。
【0028】
このように構成されたトンネル1において、空間部100の明るさ感は、路面11、壁面下部12、壁面上部13及び天井部14の反射率によって異なるものとなる。そこで、それぞれの反射率を適宜設定し、空間部100の明るさ感をそれぞれ評価した。以下、複数の実施例について説明する。
【0029】
なお、明るさ感の評価は、当社で開発した明るさ感を評価する指標であるFeuを用いて行った。このFeuは、様々な照明空間に対して明るさ感の評価実験を実施した結果に基づいて導いたものであり、次の算式によって算出される。
【0030】
Feu=1.5×Lg0.7
ここで、Lgは算出視野内の幾何平均輝度である。
【0031】
(実施例1)
本実施例におけるトンネル1は、反射率10%のアスファルト舗装された路面11、反射率60%の内装板が敷設された壁面下部12、それぞれ反射率25%のコンクリート舗装された壁面上部13及び天井部14からなる、図3に示した従来の一般的なトンネルに対して、壁面上部13を反射率60%の内装板で敷設するよう変更したものである。
【0032】
その結果、Feuは従来のトンネルにおける8.51から9.72に略14%高くなり、空間部100の明るさ感が向上した。
【0033】
これにより、トンネル1内における走行快適性を高めることができると共に、照明器具15の出力を増加させることなく、天井部14で反射する光の輝度を増加させることができ、明るさ感を確保することが可能となった。
【0034】
また、照明器具15の発光部輝度と背景輝度(壁面上部13の輝度)とのコントラストが従来と比較して小さくなったため、明順応レベルが上がり、照明器具15からのグレアを低減することができた。
【0035】
(実施例2)
本実施例では、トンネル1を、反射率10%のアスファルト舗装された路面11、反射率40%の内装板が敷設された壁面下部12、反射率60%の内装板が敷設された壁面上部13、及び反射率25%のコンクリート舗装された天井部14から構成したものである。
【0036】
その結果、Feuは従来の8.51から8.86に略4%高くなり、空間部100の明るさ感が若干ながら増加した。また、空間部100の輝度均斉度が格段に向上した。
【0037】
これにより、トンネル1内における路上障害物や先行車の視認性が向上し、より快適に走行することが可能となった。また、壁面下部12の輝度が低いため、敷設された内装板からの拡散光によるグレアを低減することができた。
【0038】
(実施例3)
本実施例は、トンネル1を、反射率10%のアスファルト舗装された路面11、反射率40%の内装板が敷設された壁面下部12、それぞれ反射率60%の内装板が敷設された壁面上部13及び天井部14から構成したものである。
【0039】
その結果、Feuは従来の8.51から9.93に上昇して上記したいずれの実施例より高くなり、空間部100全体の明るさ感がかなり向上した。加えて、壁面下部12から天井部14に掛けて、極端に反射光輝度が低い箇所がなくなり、空間部100の輝度均斉度が改善された。
【0040】
これにより、トンネル1内における走行快適性が向上すると共に、内装板を敷設することのみで大幅に明るさ感を改善したので、設備投資が少なくて済む。同時に、照明器具15の出力を増加させる必要がないので、消費電力も従来と同等であり、環境にやさしいトンネルを実現できる。
【符号の説明】
【0041】
1 トンネル
11 路面
12 壁面下部
13 壁面上部
14 天井部
15 照明器具
100 空間部
9 トンネル
93 壁面上部
94 天井部
95 照明器具
100 空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面端部から立ち上がり形成された壁部と、前記壁部の上方で前記路面に略平行に形成された天井部と、からなり、所定の位置に照明器具を備えるトンネル構造体であって、
前記壁部は、
前記路面より2m以下の位置までの範囲を含む壁面下部と、
前記壁面下部の上端に連接し、前記照明器具のうち最も高いものより低い位置までの範囲を含む壁面上部と、
から構成され、
前記壁面上部は、
反射率が、前記路面より大きい
ことを特徴とするトンネル構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネル構造体であって、
前記壁面上部は、
前記反射率が、略40〜60%である
ことを特徴とするトンネル構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトンネル構造体であって、
前記壁面下部は、
前記反射率が、前記壁面上部と略同等、若しくは以下である
ことを特徴とするトンネル構造体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のトンネル構造体であって、
前記天井部は、
前記反射率が、前記壁面上部と略同等である
ことを特徴とするトンネル構造体。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate