説明

トンネル構造物

【課題】コンクリート躯体を構成する床版の鉛直変位を抑制するとともに、セグメント連結体に負荷される応力そのものを小さくする。
【解決手段】鉛直壁版21と、鉛直壁版21の上端から略水平方向に設けられた上床版22aと、鉛直壁版21の下端から略水平方向に設けられた下床版22bとからなる断面略コ字型のコンクリート躯体2と、セグメント35をトンネル周方向に連結させてなるとともに、その両端がコンクリート躯体2における上床版22a及び下床版22bにそれぞれ接合され、コンクリート躯体2よりも低剛性とされたセグメント連結体3とを備え、コンクリート躯体2は、セグメント35が接合された接合部12の剛性をより低く、接合部12以外の非接合部11の剛性をより高く設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面略コ字型のコンクリート躯体にセグメント連結体を接合することにより、特にトンネル分岐合流部を構成する場合やトンネル拡幅部を構成する場合に適用されるトンネル構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年における都市部の地下道路網の整備が進展するにつれて、2本のトンネルが分岐又は合流するトンネル分岐合流部等において、既設のトンネル断面を拡幅したトンネル拡幅部が必要となるケースが増加している。従来における拡幅部トンネルの構築方法は、例えば、特許文献1において開示されている。
【0003】
この特許文献1における開示技術では、先ず図18に示すように、複数の既設セグメントトンネル66の間に新たに空間69を構築する。既設トンネルセグメント66間の空間69の構築は、地表面より鋼矢板等の土留め壁67と支保工材68aおよび腹起こし材68bを構築しながら既設トンネルセグメント66で挟まれた部分の土砂を排除し掘り下げる開削工法や、図19に示すように、既設トンネルセグメント66内より構築しようとする空間69を囲むように凍結管を地中に挿入して、周辺の地盤を凍土70としておき、囲まれた土砂を排除する非開削工法などが一般的である。
【0004】
このとき、図20に示すように、構築した空間に面する既設トンネルセグメント66の撤去部セグメント61を撤去する。その場合、残置部セグメント62には内部空間構築による偏荷重が作用するため、予めトンネル内に図示しない支保工を配置する等、残置部セグメント62を補強する措置を施しておく。
【0005】
次に、構築した内部空間に鉄筋コンクリート製あるいは鋼製あるいは鉄骨鉄筋コンクリート製等の床64aおよび中柱64b等よりなるコンクリート躯体64を構築するとともに、残置部セグメント62とコンクリート躯体64とを連結部63にて確実に接合することで図21に示すような拡幅部トンネル断面が完成する。
【0006】
ここで、既設トンネルセグメント66に使用するセグメントは、通常、セグメントの現場組立管理を簡略化するため、セグメント構造およびセグメント仕様を同一セグメントリング内の部位に拘わらず統一している。
【特許文献1】特開2003−041900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1の開示技術では、コンクリート躯体64が左右略対称な構造とされており、しかもその両側においてそれぞれ残置部セグメント62が左右略対称となるように設けられた構成とされている。従って、このような拡幅部トンネル6に対して外荷重は左右対称に負荷されることになる。その結果、外荷重に基づく床64aにおける鉛直変形では、あたかもやじろべえのように左右で互いにキャンセルし合うため、拡幅部トンネル6の左右の何れかに応力が集中してしまうのを軽減させることができる。
【0008】
これに対して、図22に示すように、中柱74bと床74aとからなる断面略コ字型のコンクリート躯体74の片側に残置部セグメント62を連結する拡幅部トンネル7では、左右非対称に構成されている。このような拡幅部トンネル7に対して、外荷重は左右非対称に負荷されることになり、特許文献1の開示技術のように荷重を左右で互いにキャンセルすることができない。その結果、図22中点線で示すように、中柱74bに水平方向の曲がりが発生し、コンクリート躯体74における床74aの鉛直変位が大きくなり、ひいては残置部セグメント62に発生する応力も大きくなってしまうという問題点があった。
【0009】
図23は、この拡幅部トンネル7における曲げモーメントの分布図を示している。図中“○”は、最大正曲げモーメントを、また図中“□”は、最大負曲げモーメントを表している。拡幅部トンネル7を構成するコンクリート躯体64の剛性は均一化されていることから、特に中柱74b近傍の点76において負の曲げモーメントを大きくすることができず、その結果、床74aの先端の点77において正曲げモーメントが大きくなり、床74aが下向きに大きく撓んでしまうことになる。また、この床74aによる撓みを受けて、これに接合されている残置部セグメント62にも大きな正曲げモーメントが負荷され、内側に大きく撓むことになる。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、断面略コ字型のコンクリート躯体にセグメント連結体を接合することにより構成されるトンネル構造物において、コンクリート躯体を構成する床版の鉛直変位を抑制するとともに、セグメント連結体に負荷される応力そのものを小さくすることが可能なトンネル構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願請求項1に記載の発明は、上述した課題を解決するために、鉛直壁版と、上記鉛直壁版の上端から略水平方向に設けられた上床版と、上記鉛直壁版の下端から略水平方向に設けられた下床版とからなる断面略コ字型のコンクリート躯体と、セグメントをトンネル周方向に連結させてなるとともに、その上下両端が上記コンクリート躯体における上床版及び下床版にそれぞれ接合され、上記コンクリート躯体よりも低剛性とされたセグメント連結体とを備え、上記コンクリート躯体は、上記セグメントが接合された接合部の剛性をより低く、上記接合部以外の非接合部の剛性をより高くしたことを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記接合部は、上記セグメントを連結することにより形成される仮想円中心を通る鉛直線から−45°〜+45°の範囲を含むことを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記コンクリート躯体は、上床版と下床版の間隔が、上記鉛直壁版から上記接合部にかけて拡大されてなることを特徴とする。
【0014】
本願請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の発明において、上記セグメント連結体は、上記接合部近傍の耐力をより高くしたことを特徴とする。
【0015】
本願請求項5に記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、上記セグメント連結体は、上記接合部近傍の桁高をより低くしたことを特徴とする。
【0016】
本願請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のうち何れか1項記載の発明において、上記セグメント連結体は、少なくともその両端のセグメントについて鋼殻セグメントで構成し、当該鋼殻セグメントを上記コンクリート躯体に埋設することによりこれを接合することを特徴とする。
【0017】
本願請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のうち何れか1項記載の発明において、上記セグメント連結体は、上記接合部近傍においてセグメント間継手をトンネル軸方向に向けて直線状に連続して配置されてなることを特徴とする。
【0018】
本願請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のうち何れか1項記載の発明において、上記セグメント連結体を構成する各セグメントは、鋼殻セグメント、鉄筋コンクリートセグメント又は鋼コンクリート合成セグメントであることを特徴とする。
【0019】
本願請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のうち何れか1項記載の発明において、上記セグメント連結体は、地盤内にパイプを埋設することにより形成したパイプルーフの始端と終端とが更に接続されてなり、その接続部を構成するセグメントは、鋼殻セグメントであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明を適用したトンネル構造物は、断面略コ字型のコンクリート躯体と、両端がコンクリート躯体における上床版及び下床版にそれぞれ接合され、コンクリート躯体よりも低剛性とされたセグメント連結体とを備え、コンクリート躯体は、セグメントが接合された接合部の剛性をより低く、接合部以外の非接合部の剛性をより高く設定している。即ち、本発明を適用したトンネル構造物1では、セグメント連結体、接合部、非接合部の順で剛性が高くなるように構成しているため、コンクリート躯体とセグメント連結体とを接合した左右非対称な構成とされている場合においてもコンクリート躯体における上床版、下床版の鉛直変位を小さくすることが可能となり、セグメント連結体に発生する応力を低く抑えることが可能となる。
【0021】
また、トンネル断面の設計許容変位を満足することができるトンネル断面の設計自由度(トンネル適用寸法)を広げることが可能となる。これに加えて、セグメントの仕様を小さくすることができ、工費縮減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、既設のトンネル断面を拡幅したトンネル構造物について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
本発明を適用したトンネル構造物1は、例えば図1に示すように、コンクリート躯体2と、セグメント連結体3とを備えている。
【0024】
コンクリート躯体2は、鉛直方向に向けて延長されている鉛直壁版21と、鉛直壁版21の上端から略水平方向に設けられた上床版22aと、鉛直壁版21の下端から略水平方向に設けられた下床版22bとにより構成されている。このコンクリート躯体2は、断面略コ字型により構成されている。また、このコンクリート躯体2は、少なくともコンクリートで構成されていればよく、また鉄筋・鉄骨部材の有無は問わない。また断面略コ字型で構成されているということは、即ち、鉛直壁版21に対して上床版22a、下床版22bが直角に折れ曲がるようにして構成され、外側隅部21aが面取りされて丸く構成されているのではなく、あくまで直角に角ばった状態で構成されている。これに対して内側隅部21bは、面取りされていてもよく、直角に折れ曲げられていなくてもよい。
【0025】
セグメント連結体3は、周方向に向けてセグメント35を連結することにより構成されている。このセグメント連結体3は、点線で示されている撤去部32において既に設けられていたセグメント35を撤去することによる残置部31のみで構成されており、円環状のセグメントリング構造の一部を欠損させた断面形状として構成されている。その結果、このセグメント連結体3の両端には、それぞれ端部3a並びに端部3bが形成されている。そして、このセグメント連結体3の端部3aは、コンクリート躯体2における上床版22aに、またセグメント連結体3の端部3bは、コンクリート躯体2における下床版22bに接合されている。
【0026】
セグメント連結体3を構成するセグメント35をいわゆる鋼殻セグメントで構成した例を図2に示す。セグメント35は、両側面を構成する2本の主桁36と、トンネル周方向に隣接する他のセグメント35との間で当接されることを前提とした継手板37と、主桁36間において、セグメント31の地山側から内空面側に向けて突出するように配設される縦リブ39と地山側にスキンプレート45を備えている。主桁36には、トンネル軸方向に隣接する他のセグメント35を連結するためのリングボルト孔40が形成されている。また、継手板37は、トンネル周方向に隣接する他のセグメント35を連結するためのピースボルト孔38が形成されている。このような鋼殻セグメントとして構成されるセグメント35は、縦リブ39が形成されていることにより、シールド掘進時におけるシールドマシン推進反力をスムーズに伝達させることが可能となる。ちなみに、この縦リブ39は、上端においてフランジが形成されているものであってもよい。
【0027】
セグメント連結体3を構成するセグメント35として内部を鉄筋コンクリートとした鋼殻セグメントで構成した例を図3に示す。この図3において上述した図2と同一の構成については同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。コンクリート中詰め鉄系セグメントとしてのセグメント35には、中詰めコンクリート43がセグメント主桁高さを覆う高さ以上に亘って充填されている。また、この中詰めコンクリート43には鉄筋41が埋設されている。ちなみに、この中詰めコンクリート43には、リングボルト孔40、ピースボルト孔38に応じた位置においてボルトボックス42が形成されている。
【0028】
セグメント連結体3を構成するセグメント35をいわゆる鋼コンクリート合成セグメントで構成した例を図4に示す。この図4において上述した図2、3と同一の構成については同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。コンクリート中詰め鉄系セグメントとしての別形態のセグメント35は、地山側並びに内空面側にそれぞれスキンプレート45、46がそれぞれ配設されている。また、このスキンプレート45には、棒状のズレ止め48が所定間隔をおいて複数個突設されており、更にこのスキンプレート45、46の間には、同様に中詰めコンクリート43が充填されている。その結果、このズレ止め48は、中詰めコンクリート43内に埋設させて強固に固定されることになり、実質的にスキンプレート45がずれてしまうのを防止することが可能となる。本セグメントは断面耐力面において優れていることから、トンネルスペースを有効に活用する観点からは最も有利な構成となる。また、ずれ止めは本実施形態に示されるような棒状のものに限定されるものではなく、板状の鋼材を適用してもよい。
【0029】
ちなみに図1に示すように、コンクリート躯体2における上床版22aの、セグメント連結体3の端部3aの接合位置は、当該上床版22aの先端近傍とされている。また、コンクリート躯体2における下床版22bの、セグメント連結体3の端部3bの接合位置は、当該下床版22bの先端近傍とされている。以下、この上床版22aにおいて、このセグメント連結体3が接合されている領域を接合領域23aとし、また下床版22bにおいて、このセグメント連結体3が接合されている領域を接合領域23bとする。また、上床版22a、下床版22bにおいて、この接合領域23a、23bをそれぞれ含む部位を接合部12とする。また、このコンクリート躯体2において接合部12以外の部位を非接合部11とする。ちなみに、この接合部12は、少なくともこの接合領域23a、23bを含むものであればよい。図1では、上床版22a、下床版22bにおけるセグメント連結体3側の約半分を接合部12とし、それ以外を非接合部11としている。しかしながら、この接合部12、非接合部11の境界13はこれに限定されるものではなく、上床版22a、下床版22bのいかなる箇所において設定されていてもよい。
【0030】
なお、セグメント連結体3を構成する各セグメント35の桁高は400〜1000mm程度であってもよく、またコンクリート躯体2における上床版22a、下床版22bの高さは、2〜3m程度であってもよい。
【0031】
セグメント連結体3は、コンクリート躯体2よりも低剛性とされている。また、セグメント連結体3よりも高剛性とされたコンクリート躯体2は、接合部12の剛性をより低く、非接合部11の剛性をより高く設定している。その結果、このトンネル構造物1は、セグメント連結体3、接合部12、非接合部11の順で剛性が高くなるように構成されている。コンクリート躯体2は、内部に鉄筋を配置した鉄筋コンクリート構造としたり、鉄骨を配置して鉄骨鉄筋コンクリート構造としたりして補強する。コンクリート躯体2の剛性は上床版22a、下床版22bの梁せいを寸法的に変化させる、内部の補強仕様を変化させる、あるいはコンクリートの発現強度(弾性率)を変化させることによりコントロールすることが可能となる。接合部12は非接合部11に比べて剛性を低く設定することから、必然的に内部の補強仕様が少なくなり、セグメント連結体3との連結構造を形成する上でずれ止めとの干渉が少なくなり有利なものとなる。もちろん、本発明の効果とするところの連結部に発生する断面力自体を低減できるので、連結構造仕様の低減に繋がる。
【0032】
図5(a)は、コンクリート躯体2における非接合部11について内部を鉄骨部材17で構成した例を示している。即ち。この非接合部11のみについて鉄骨部材17をコンクリートで埋設して構成し、残りの接合部12については、鉄骨部材17が内部に形成されていない形態としている。このようなコンクリート躯体2では、鉄骨部材17が内部に形成されている非接合部11の剛性を、鉄骨部材17が内部に形成されていない接合部12の剛性よりも高くすることが可能となる。ちなみに、この図5(a)の例では、コンクリート躯体2における上床版22a、下床版22のはりせいは、全て同一である。また図5(b)は、鉄筋コンクリート部材の例を示している。この鉄筋コンクリート部材では接合部12において、主鉄筋17eをトンネル地山側に1段配置し、トンネル内空側にも1段配置している。さらに主鉄筋17e同士を連結するようにせん断補強鉄筋17aで構成されている。これに対して、非接合部11では、主鉄筋17bあるいは主鉄筋17gをトンネル地山側に2段配置し、トンネル内空側にも2段配置している。さらに主鉄筋17eあるいは主鉄筋17g同士を連結するようにせん断補強鉄筋17aが配設されている。更にこの非接合部11においては、隅角部補強鉄筋17cも配設されている。
【0033】
このように、図5(b)の構成では、主鉄筋17e、17cあるいは主鉄筋17eの本数や径を、接合部12から非接合部11にかけて徐々に変化させて、換言すれば徐々に本数を増加させる又は太径化させることにより剛性の強弱を付与したものである。鉄筋コンクリート部材と鉄骨部材とを併用することで鉄骨鉄筋コンクリート部材とすることが可能となり、極めて高い部材剛性を実現することが可能となる。
【0034】
図6は、コンクリート躯体2における接合部12の径(高さ)を非接合部11の径(高さ)よりも低く設定した例を示している。即ち、この接合部12について先端に向かうにつれて細くなるように構成している。その結果、先端に向かうにつれて梁せい(高さ)が縮小されることになる。このような図6に示すコンクリート躯体2では、梁せい(高さ)が縮小されていない非接合部11の剛性を、梁せい(高さ)が縮小された接合部12の剛性よりも高くすることが可能となる。
【0035】
ちなみに、セグメント連結体3に対する接合部11の位置関係は、図7に示すように、セグメント35を連結することにより形成される仮想円19との関係において最適化されていてもよい。セグメント35を連結することにより構成されるセグメント連結体3は、断面円形ではないが、仮にセグメント35をそのまま周方向に連結させていくことにより、仮想円19が形成される。この仮想円19の中心19aを通る鉛直線αから−45°方向に傾けた直線をβとし、鉛直線αから+45°方向に傾けた直線をγとしたとき、この直線βから直線γに至るまでの斜線で示される区間を接合部11が含むようにすることが望ましい。その理由として、接合部11が直線αから−45°を超える位置を含むようにしたとき、トルクアームが長く構成されてしまい、負荷される荷重に対してセグメント連結体3が耐えられなくなる。また接合部11が直線αから+45°を超える位置を含むようにしたとき、コンクリート躯体2がトンネル必要内空を多く侵してしまい、トンネル構造として効果的に機能させることができなくなることやコンクリート躯体2の打設量が多くなり不経済になるためである。
【0036】
このようにセグメント連結体3、接合部12、非接合部11の順で剛性が高くなるように構成したトンネル構造物1は、以下に説明するような効果を奏する。
【0037】
図8は、トンネル構造物1に対して上下から荷重が負荷された場合における曲げモーメントの分布図を示している。図中“○”は、最大正曲げモーメントを、また図中“□”は、最大負曲げモーメントを表している。
【0038】
この非接合部11の剛性をより高くしていることから、負曲げモーメントは、特に隅部21aにおいて最大となる。この隅部21aにおける最大負曲げモーメントは、図23における点76と比較してより高くなるのが分かる。これは、非接合部11の剛性が、接合部12の剛性よりも高いことから、非接合部11は、接合部12よりも大きな荷重を担うためである。そして、この隅部21aにおける負曲げモーメントをより高くすることができることから、接合領域23aにおける正曲げモーメントを小さくすることができる。その結果、上床版22aの先端に位置する最大正曲げモーメントは、図23における点77と比較してより低く抑えることが可能となる。
【0039】
図9は、トンネル構造物1に対して上下から荷重が負荷された場合における変形挙動を示している。図中2点鎖線が、荷重を負荷した後におけるトンネル構造物1の位置を示している。非接合部11の剛性を、接合部12の剛性よりも高くしていることから、上下から荷重が負荷されても非接合部11は殆ど変形しない。そして、この間、非接合部11は、より大きな荷重を担うことになり、負曲げモーメントが大きくなる。また、接合部12は、その分わずかな曲げモーメントしか負荷されないことになるため、図9に示すようにその変形量は僅かになる。
【0040】
そして、この接合部12の変形量を僅かに抑えることができることから、これに接合されるセグメント連結体3の変形量も僅かに抑えることが可能となる。図8に示す曲げモーメント図に示されるように、このセグメント連結体3に対しては、殆ど曲げモーメントが負荷されていないのが分かる。
【0041】
特にこのセグメント連結体3と接合部12との間で剛性を比較しても、後者の接合部12の方について剛性を高く設定していることから、セグメント連結体3に負荷される曲げモーメントの大きさを低く抑えることが可能となる。
【0042】
このように、本発明を適用したトンネル構造物1では、セグメント連結体3、接合部12、非接合部11の順で剛性が高くなるように構成しているため、コンクリート躯体2とセグメント連結体3とを接合した左右非対称な構成とされている場合においてもコンクリート躯体2における上床版22a、下床版22bの鉛直変位を小さくすることが可能となり、セグメント連結体3に発生する応力を低く抑えることが可能となる。
【0043】
なお、本発明を適用したトンネル構造物1は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば図10に示すように、コンクリート躯体2は、上床版22aと下床版22bの間隔が、鉛直壁版21から接合領域23a、23bにかけて拡大されてなるように構成されていてもよい。
【0044】
この構成によると、上床版22aと下床版22bに対して斜め方向から荷重が作用する形態となるため、上床版22aと下床版22bの部材軸方向に軸力成分として力が流れる効果が生まれることから、上床版22aと下床版22bが鉛直方向に変形しようとする挙動に対して抗する効果が発揮され、結果的に鉛直壁版21が配置される非接合部11の方に荷重負担が多く掛かることになり同様の変形抑制効果が得られる。 また図11は、セグメント連結体3について、接合部12近傍の耐力をより高くした例を示している。図11斜線で示される、接合部12近傍のセグメント35aは、それ以外のセグメントよりも機械的強度や構造寸法・形状等の力学的な特性が優れたものとして構成されている。セグメント連結体3に負荷される曲げモーメントは、特に接合部12近傍において高くなるが、セグメント35aの耐力を向上させることによりこれに対抗することができ、ひいてはセグメント連結体3の発生応力を設計許容応力以内に抑制することが可能となる。
【0045】
また図12は、セグメント連結体3について、接合部12近傍の桁高をより低くした例を示している。図12斜線で示される、接合部12近傍のセグメント35aは、それ以外のセグメントよりも桁高が低いものとして構成されている。これにより、セグメント35aはいわゆるピン構造に近づけた効果を発揮することになる。接合部12近傍の鉛直変位はコンクリート躯体2の剛性に支配され、換言すれば剛性の低いセグメント35aの鉛直変位は自身のセグメント剛性に拘わらずコンクリート躯体2の性能に依存する。従って、セグメント35aの桁高さを低く設定することでセグメントの部材高さ縁端に発生する曲げ応力が小さくなり、セグメント35aの仕様を軽減する効果が生まれる。また図13(a)は、コンクリート躯体2に対するセグメント連結体3の連結構造における他の形態を示している。接合部12近傍のセグメント連結部はコンクリート躯体2に埋設して拘束する形態とはせず、連結部が自由に回転挙動できるようにすることで負荷される曲げモーメントが軽減される。図13(b)は、実際にこのセグメント35bに対するセグメント35aの連結形態を示している。このセグメント35a同士では互いに千鳥状となるように配置されることになるが、セグメント35bに対しては、トンネル軸方向に対して直線状に配列されることになる。また、セグメント35bも千鳥状に配置されることなく、互いにトンネル軸方向に対して直線状に配列される。このように、いわゆるイモ継ぎ配置とされたセグメント35bとセグメント35aとを互いにボルト113とナット114により連結させる。この連結においては、セグメント35a並びにセグメント35bにおける継手板37に形成されたボルト孔112を介して実行していくことになる。
【0046】
いわゆるイモ継ぎ配置を採用する本実施形態においても、セグメント35aは回転剛性を低く設定したいわゆるピン構造に近づけた効果を発揮することになり、ひいてはこれに負荷される曲げモーメントを小さくすることが可能になる。
【0047】
図14は、セグメント35を図2に示すような鋼殻セグメントにより構成した場合において、その内部にコンクリート躯体2におけるコンクリートを充填した例を示している。コンクリート躯体2を構成するコンクリート中において鋼殻セグメントを埋設すれば固定できることから、施工性に優れているといえる。ちなみに、このセグメント35において、スキンプレート45は、接合部12に埋設される部位に関しては省略される形にされていてもよい。
【0048】
次に、上述した構成からなるトンネル構造物1を開削工法に基づいて構築する場合を例にとり説明をする。
【0049】
この開削工法では、図15に示すように、シールド工法に基づいてセグメント連結体3を構築する。また、これとともに内部空間148を地中に形成させる。この内部空間148の構築は、地表面49より鋼矢板等の土留め壁50と支保工材51を構築しながらセグメント連結体3に至るまで土砂を排除し掘り下げる。ちなみに、この内部空間148には、図中2点鎖線で示される箇所において事後的にコンクリート躯体2を構築することを考慮して、予めその底面において床部52を形成させておくことが望ましい。
【0050】
次に、図16に示すように、この内部空間148において撤去部32を構成するセグメントを撤去する。そして、コンクリート躯体2の構築を開始する。このとき、例えば鉄骨部材17を形成し、次にこれを覆うようにして断面略コ字型に形成した図示しない型枠にコンクリートを打設、固化させて非接合部11を形成していく。そして、このセグメント連結体3の端部3a並びに端部3bをコンクリートにより埋設することで接合部12を構築していく。これにより、本発明を適用したトンネル構造物1が完成することになる。
【0051】
また、上述した構成からなるトンネル構造物1をパイプルーフにより構築する例を図17に示す。この例では、地盤内にパイプを埋設することにより形成したパイプルーフ121の始端121aと終端121bをセグメント連結体3に接続する。このセグメント連結体3への接続は、当該セグメント連結体3を構成する鋼殻セグメントとしてのセグメント35dにパイプルーフ121の始端121aと終端121bを埋め込んで埋設するようにしてもよい。その後、パイプルーフの周囲を地盤改良あるいは地盤凍結により強固な抵抗地盤壁体を構築する。このパイプルーフ121内において内空空間131を作り出し、その内空空間131においてコンクリート躯体2の構築を開始する。これ以後の施工手順は上述した開削工法と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用したトンネル構造物の断面図である。
【図2】セグメント連結体を構成するセグメントをいわゆる鋼殻セグメントで構成した例を示す図である。
【図3】セグメント連結体を構成するセグメントをいわゆる鋼コンクリート合成セグメントで構成した例を示す図である。
【図4】セグメント連結体を構成するセグメントをいわゆる鋼コンクリート合成セグメントで構成した別形態の例を示す図である。
【図5】(a)は、コンクリート躯体における非接合部について内部を鉄骨部材で構成した例を示す図であり、(b)は、コンクリート躯体における非接合部について内部を鉄筋コンクリート部材で構成した例を示す図である。
【図6】コンクリート躯体における接合部の径(高さ)を非接合部の径(高さ)よりも低く設定した例を示す図である。
【図7】セグメント連結体に対するコンクリート躯体の接合部の位置関係について説明するための図である。
【図8】トンネル構造物に対して上下から荷重が負荷された場合における曲げモーメントの分布図である。
【図9】トンネル構造物に対して上下から荷重が負荷された場合における変形挙動を示す図である。
【図10】コンクリート躯体を、上床版と下床版の間隔が拡大されてなるように構成された例を示す図である。
【図11】セグメント連結体について、接合部近傍の耐力をより高くした例を示す図である。
【図12】セグメント連結体について、接合部近傍の桁高をより低くした例を示す図である。
【図13】コンクリート躯体に対するセグメント連結体の連結構造における他の形態を示す図である。
【図14】セグメントを鋼殻セグメントにより構成した場合の接合例を示す図である。
【図15】本発明を適用したトンネル構造物を開削工法に基づいて構築する方法について説明するための図である。
【図16】本発明を適用したトンネル構造物を開削工法に基づいて構築する方法について説明するための他の図である。
【図17】本発明を適用したトンネル構造物をパイプルーフにより構築する例を示す図である。
【図18】特許文献1における開示技術の例について説明するための図である。
【図19】非開削工法の例について示す図である。
【図20】構築した空間に面する既設トンネルセグメントから撤去部セグメントを撤去する工程について説明するための図である。
【図21】左右対称に構成したトンネルの例を示す図である。
【図22】従来技術における問題点について示す図である。
【図23】拡幅部トンネルにおける曲げモーメントの分布図を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 トンネル構造物
2 コンクリート躯体
3 セグメント連結体
11 非接合部
12 接合部
17 鉄骨部材
19 仮想円
21 鉛直壁版
22a 上床版
22b 下床版
23 接合領域
31 残置部
32 撤去部
35 セグメント
36 主桁
37 継手板
38 ピースボルト孔
40 リングボルト孔
41 鉄筋
42 ボルトボックス
43 中詰めコンクリート
45、46 スキンプレート
48 ズレ止め
69 空間
121 パイプルーフ
121a パイプルーフの始点
121b パイプルーフの終点
131 内空間
148 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直壁版と、上記鉛直壁版の上端から略水平方向に設けられた上床版と、上記鉛直壁版の下端から略水平方向に設けられた下床版とからなる断面略コ字型のコンクリート躯体と、
セグメントをトンネル周方向に連結させてなるとともに、その上下両端が上記コンクリート躯体における上床版及び下床版にそれぞれ接合され、上記コンクリート躯体よりも低剛性とされたセグメント連結体とを備え、
上記コンクリート躯体は、上記セグメントが接合された接合部の剛性をより低く、上記接合部以外の非接合部の剛性をより高くしたこと
を特徴とするトンネル構造物。
【請求項2】
上記接合部は、上記セグメントを連結することにより形成される仮想円中心を通る鉛直線から−45°〜+45°の範囲を含むこと
を特徴とする請求項1記載のトンネル構造物。
【請求項3】
上記コンクリート躯体は、上床版と下床版の間隔が、上記鉛直壁版から上記接合部にかけて拡大されてなること
を特徴とする請求項1又は2記載のトンネル構造物。
【請求項4】
上記セグメント連結体は、上記接合部近傍の耐力をより高くしたこと
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載のトンネル構造物。
【請求項5】
上記セグメント連結体は、上記接合部近傍の桁高をより低くしたこと
を特徴とする請求項1〜4記載のトンネル構造物。
【請求項6】
上記セグメント連結体は、少なくともその両端のセグメントについて鋼殻セグメントで構成し、当該鋼殻セグメントを上記コンクリート躯体に埋設することによりこれを接合すること
を特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項記載のトンネル構造物。
【請求項7】
上記セグメント連結体は、上記接合部近傍においてセグメント間継手をトンネル軸方向に向けて直線状に連続して配置されてなること
を特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項記載のトンネル構造物。
【請求項8】
上記セグメント連結体を構成する各セグメントは、鋼殻セグメント、鉄筋コンクリートセグメント又は鋼コンクリート合成セグメントの何れかであること
を特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項記載のトンネル構造物。
【請求項9】
上記セグメント連結体は、地盤内にパイプを埋設することにより形成したパイプルーフの始端と終端とが更に接続されてなり、その接続部を構成するセグメントは、鋼殻セグメントであること
を特徴とする請求項1〜8のうち何れか1項記載のトンネル構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate