説明

トンネル構造

【課題】 岩盤内断層を貫通するトンネルの地震発生時における断層振動変位に伴うトンネル壁面の被害を低減するトンネル構造を提供する。
【解決手段】 断層2を跨いで拡幅開削部3を設け剛性の高い壁面で岩盤壁面と一体化する外側壁体8を形成する。外側壁体8と離隔した位置に通常ライニング5の覆工部分と同一の内空断面を有する内側壁体9を設ける。内側壁体9はリング体10を軸方向に複数個接続し通常ライニング5の覆工と一体化する定着部リング体12と連結する。リング体10,12同士の接合部にはトンネル軸方向にスライド変位を許容し得る伸縮継手13を備え、内側壁体9と外側壁体8の間に免震部材よりなる脚体14を設置して支持方向の変位が許容される免震構造を構成する。拡幅開削した岩盤面に露出する断層2の開口部には浸透水流出防止用及び崩落防止用にシール部15を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、土木分野のトンネルなど地下空間の設計や施工において、岩盤内に賦存する断層など規模の大きい不連続面のトンネル貫通位置近傍における地震発生時の不連続面振動変位に伴うトンネル壁面の崩壊や崩落などのダメージを低減あるいは最小化するためのトンネル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩盤内にトンネルなどの地下空間を掘削する場合には、岩盤内に賦存する断層など規模の大きい不連続面を貫通して施工せざるを得ないものの、従来、岩盤内さらには岩盤壁面からトンネル壁面までをセメント、鋼材、ロックボルトなどの高い剛性の材料で一体化する剛性構造が実用に供されており、岩盤掘削後直ちに支保施工する新オーストリア・トンネル工法(NATM,New Austrian Tunneling Method)などで岩盤内の断層など不連続面の貫通部を厚肉で巻き立てるトンネル施工が実用に供されていた。
【0003】
実用のトンネル工法では、トンネル壁面が岩盤の開削壁面と同様に連続する剛体としてトンネル内面を形成するため、地震発生時に連続する岩盤部分と不連続な断層などとのひずみ開放や応力状態が異なることに依存する相対的な変位振動に対応できずに断層など規模の大きい不連続面周辺においてトンネル壁面が崩壊あるいは崩落する被害が多く発生しており、断層など不連続面の変形には対応できない不都合が存在した。
【0004】
このような地震発生時の地盤変形に対応するトンネル構造としては、例えば下記に示すような従来技術があった。
【特許文献1】特開2000−64790号公報
【特許文献2】特開2001−55893号公報
【特許文献3】特開2000−204891号公報
【0005】
特許文献1には、トンネルと周辺地山との間に動土圧緩衝領域を設けるトンネル構造が記載されており、この動土圧緩衝領域は、周辺地山からの土圧を支持する支持体と、この内側に配置される緩衝体から構成されていた。支持体はモルタルやコンクリートからなる壁体であって、緩衝体は伸縮性袋体に動土圧緩衝材を封入したもので、この動土圧緩衝材は注入時には流動状態で爾後固化し、固化状態にて強制変形を受けた時にエネルギー吸収できる例えばウレタンゴムなどを採用していた。
【0006】
又特許文献2にはトンネル躯体の外周面に滑動材を装着するトンネル構造が開示されている。この滑動材は地盤と躯体との間で滑りを発生させることによりトンネルと地盤とを絶縁し、地盤ひずみのトンネルへの伝達を遮断して、地震時に発生する躯体断面力の低減を図るものであった。
【0007】
又特許文献3には、内部にリング状の可とう性部材を備えるトンネル構造が開示されており、この可とう性部材は断層破砕帯幅以上の長さを有するもので、その両端は断層を横切って配置される断面リング状の覆工部に定着されていた。断層破壊時には定着領域間の覆工部による拘束を回避した非定着領域を変形させることで断層破壊時にもトンネル機能を確保することを目指すものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の動土圧緩衝領域を設けるトンネル構造や躯体の外周面に滑動材を装着するトンネル構造では、地震発生時に最も変形しやすい既存の断層など不連続面の大きな変位振動には対応できなかった。即ち、地震時における岩盤挙動の大部分は既存の断層など不連続面に沿う滑りやダイレーションなどの変形に依存し、又岩盤内における応力状態の変化もこれら不連続面に顕著に現れるため、地震発生時には不連続面において大きな三軸方向の変位振動が生じやすく、緩衝材や滑動材を設ける従来のトンネル構造では、これら中間材を介しても岩盤とトンネル躯体が全面的に接しているため、岩盤の三軸方向の地震振動はトンネル壁面に直接的に伝達されてしまい、断層など不連続面周辺においてトンネル壁面が崩壊あるいは崩落する被害を防ぎ得なかった。
【0009】
又、内部にリング状の可とう性部材を備えるトンネル構造は、上下水道等の管路施設には適用し得るが、地震発生時にも剛体としての壁面を維持しなければならない鉄道や自動車用のトンネル構造には適用できなかった。
【0010】
この発明は、従来のトンネル構造が有する上記の問題点を解消すべくなされたものであり、岩盤内断層を貫通するトンネルの地震発生時における断層振動変位に伴うトンネル壁面の被害を低減し、岩盤壁面における地震に伴う破壊や崩落に拘わらず、トンネル壁面が維持されるトンネル構造を提供することを目的としている。又、地震発生時の振動をトンネル壁面に伝達しない免震構造を備え、岩盤壁面に崩壊等の被害が発生した場合にも速やかな補修が可能なトンネル構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明のトンネル構造は、断層など規模の大きい不連続面を有する岩盤内を掘削して構築するトンネル構造において、前記不連続面のトンネル貫通位置近傍を拡幅開削した岩盤面に形成する外側壁体と、少なくとも前記不連続面の位置では外側壁体より離隔して構築する剛体よりなる内側壁体を有することを特徴とするものである。
【0012】
トンネルの掘削に伴って地震時の振動変位が予測される規模の大きい断層の貫通部分に遭遇した場合、この不連続面部分を跨いで拡幅開削する。この拡幅部の両端に定着領域を設け、その外側にある一般断面からなる通常ライニング部と、これらに挟まれる内側壁体及び外側壁体を一体的に接続する。外側壁体は、通常ライニング部と同様な支保構成で例えば、ロックボルト、吹き付けコンクリート、グラウト等からなる剛性の高い壁面で、支保体を岩盤壁面と一体化させる。
【0013】
内側壁体は、地震時に起こり得る不連続面の変位量を考慮し、振動変位した岩盤面が当接しないよう外側壁体から十分離隔した位置に設置する。内側壁体は通常ライニング部と同一の内空断面を有するが、地震時に不連続面が崩壊あるいは崩落しても、これに耐え得る構造とする。この内側壁体は周方向に分割されたコンクリート製あるいは鋼製の部材を拡幅部において組み立て通常ライニング部に定着させる。
【0014】
不連続面のトンネル貫通位置近傍を拡幅開削して岩盤支保とトンネル壁面を分離する二重トンネル構造により、地震に伴う断層周辺岩盤の振動変位に伴う相対的変位食い違いのトンネル構造物やその壁面への直接的な伝播を回避する。
【0015】
請求項2記載のトンネル構造における内側壁体は、トンネル軸方向にスライド変位を許容し得る伸縮継手を備えることを特徴とするものである。伸縮継手の設置位置、箇所数は拡幅部の長さ、不連続面の性状等により適宜定める。伸縮継手は内側壁体の周方向に設け、軸方向の変位のみ可能で、半径方向の変位を拘束し得る構成とする。複数箇所の伸縮継手を設ける場合、複数のリング状トンネル壁面を接合して内側壁体を形成する。
【0016】
請求項3記載のトンネル構造における内側壁体は、前記外側壁体より突設する免震部材で支持されることを特徴とするものである。外側壁体と内側壁体との間に免震部材よりなる脚体を設置して、支持方向の変位が許容される免震構造を構成する。免震部材は、内側壁体全重量を支持できる強度及び剛性を備え部材水平方向に十分柔らかな特性を有するアイソレータと減衰性能を備えるダンパーを適宜組み合わせたものとする。
【0017】
請求項4記載のトンネル構造における拡幅開削した岩盤面に露出する前記不連続面の開口部には、浸透水流出防止用及び崩落防止用に変形可能で比較的軽量な素材からなるシール材を設けることを特徴とするものである。シール材としては例えば合成樹脂、合成ゴム等からなる塗布膜で開口部を覆い、更に崩落対策用にネット等を設置する。不連続面の開口部は地震振動時に容易に変形し得るよう剛性の高い部材では閉鎖しない。
【発明の効果】
【0018】
この発明のトンネル構造は、拡幅開削した岩盤面に形成する外側壁体と、これより離隔して構築する内側壁体を有するので、岩盤支保とトンネル壁面を分離する二重トンネル構造となり、地震に伴う断層周辺岩盤の振動変位に伴う相対的変位食い違いのトンネル構造物やその壁面への直接的な伝播を回避することができ、トンネル壁面の被害を低減することができる。
【0019】
即ち、地震時に崩壊あるいは崩落する被害を最も受けやすい断層など不連続面周辺で地震に伴う破壊や崩落が生じても、少なくともトンネル壁面を維持でき、緊急災害時のトンネル内の通過に伴う被害を最小限にすることが可能になる。又、外側壁体と内側壁体が離隔しているので、災害発生後の規模の大きい断層など周辺における崩壊や崩落の修復に際しても、地震など岩盤変動に伴う崩壊部の除去と再支保打設による修復が容易となり、修復期間と修復規模の縮小が可能になる。
【0020】
請求項2記載のトンネル構造における内側壁体は、トンネル軸方向にスライド変位を許容し得る伸縮継手を備えるので、不連続面を挟んで軸方向に相対的な変位が生じたとしても、その変位を吸収して躯体損傷を防ぐことができる。又、請求項3記載のトンネル構造における内側壁体は、外側壁体より突設する免震部材で支持されるので、岩盤壁面の三軸方向の振動をトンネル壁面に伝達することを防ぎ、岩盤内の不連続面で発生する食い違い変位の振動に伴う崩壊及び崩落の被害を直接トンネル内壁に伝えない被害低減構造が実現できる。
【0021】
請求項4記載のトンネル構造は、不連続面の開口部を変形可能で比較的軽量な素材からなるシール材で覆蓋するので、地震発生時に生ずる浸透水等の流出を防止することができ、又不連続面の崩落防止も可能となる。地震など大規模な岩盤変動に伴う崩壊や崩落などの被害は岩盤内に賦存する規模の大きい断層など不連続面に集中することから、不連続面の開口部を剛性の高い部材で覆蓋するとより破壊される部位が大きくなってしまう。このため、不連続面の開口部は地震振動時に容易に変形して、しかも破壊されない材料で覆蓋する方が崩落等の被害も低減し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次にこの発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は断層など不連続面近傍のトンネル周辺岩盤において地震などに伴う相対的振動変位を直接的にトンネル壁面に伝わらないようにする二重構造の免震を施したトンネル構造の断面図である。
【0023】
実用のトンネルなど地下空間の施工では、岩盤1内におけるトンネルなどの壁面が直接セメントなどによって岩盤開削壁面に接合する構造であるが、本発明の構造では岩盤1内にある断層2など不連続面近傍において岩盤1が連続していないことに起因する地震時などの相対的変位、例えば図1に示す矢印方向の変位を直接トンネル壁面に伝播しない構造となっている。
【0024】
岩盤1を掘削する際、断層2など不連続面近傍においては、これを跨いで拡幅開削部3を設け、一般断面掘削部4の通常ライニング5の構造と同様に岩盤壁面にロックボルト6、吹き付けコンクリート7あるいはグラウトなどを打設し、剛性の高い壁面で岩盤壁面と一体化する外側壁体8を形成する。この外側壁体8と離隔した位置に通常ライニング5の覆工部分と同一の内空断面を有する内側壁体9を設ける。
【0025】
内側壁体9は、周方向に分割されたコンクリート製あるいは鋼製の部材を拡幅開削部3において組み立てたリング体10を軸方向に複数個接続する構成で、拡幅開削部3の両端に定着領域11を設け、通常ライニング5の覆工と一体化する定着部リング体12と連結している。
【0026】
これらリング体10,12の接合部にはトンネル軸方向にスライド変位を許容し得る伸縮継手13を備える。内側壁体9は、地震時に起こり得る不連続面の変位量を考慮し、振動変位した岩盤面が当接しないよう外側壁体8から十分離隔した位置に設置するが、その間に免震部材よりなる脚体14を設置して、支持方向の変位が許容される免震構造を構成する。又、拡幅開削した岩盤面に露出する断層2の開口部には、浸透水流出防止用及び崩落防止用にシール部15を設置する。
【0027】
このシール部の詳細を図2に基づき説明する。図2はシール部の拡大断面図である。岩盤内に賦存する断層2など不連続面は開削壁面に対して開口しており、地震発生時には岩盤内の最も弱い部分である断層2など不連続面において図2の矢印方向に示す食い違いの相対的振動変位が発生した際には、その開口部からの浸透水の流出や崩壊岩砕の崩落が生ずる。
【0028】
このため、拡幅開削部3の岩盤にはロックボルト6、吹き付けコンクリート及びグラウト7などを打設して堅固な外側壁体8を構築するが断層2の開口部には樹脂材による塗膜15aや網材15bなどをアンカー15cによって設置し、浸水や微小崩壊に対する防護を施す。
【0029】
次に内側壁体の伸縮継手の詳細を図3及び図4に基づき説明する。図3は内側壁体定着部の拡大断面図、図4は伸縮継手の平面図及び断面図を示す。定着部リング体12は通常ライニング5の覆工と一体化しているが、拡幅開削部3方向の端部には伸縮継手13を設け、内側壁体9のリング体10と連結している。伸縮継手13は内側壁体9の周方向に設け、図4(b)の平面図矢印に示すトンネル軸方向の変位のみ可能で、半径方向の変位は拘束し得るよう断面図図4(a)に示す段部13aを有する。この伸縮継手13は既存の橋梁床版などに用いられるスライド構造と同様な構成で、鋼材などによる連結構造である。
【0030】
次に免震部材の構成について図5及び図6に基づき説明する。図5は図1のV-V断面を示す断面図、図6は免震部材の一例を示す断面図である。免震部材は岩盤壁面に合体した外側壁体8の変位が直接的に内側壁体9のトンネル壁面であるリング体10に脚体14を介して直接的には伝わらないようにする構成で、内側壁体9の全重量を支持できる強度及び剛性を備え部材水平方向に十分柔らかな特性を有するアイソレータと減衰性能を備えるダンパーを適宜組み合わせる。免震機能を有する脚体14は放射状に配置され三次元的な免震機能を有する。
【0031】
免震部材の一例として、図6(a)に示す積層ゴムは、支持における剛性を押えて支持軸方向の振動変位などの影響を緩和するため、薄いゴムシート14aと鋼板14bを交互に積層接着したもので中央部に軟質の鋼材14cを圧入してある。積層ゴムのせん断変形時に軟質鋼材14cが塑性変形することにより、エネルギを吸収するダンパー内蔵型のアイソレータとなる。図6(b)に示す鋼材ダンパーでは、鋼材の中心が徐々にくびれる構造で水平方向の大変形とそれに伴う鉛直方向の変形に追従できる。図6(c)に示すオイルダンパーでは、外周構造と内周構造を連結して支持する軸方向にオイルシリンダーの構造が組み込まれ、シリンダー内のオイル圧力の変化によって支持軸方向の免震が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明のトンネル構造は、山岳トンネルのみならず、岩盤を開削して形成する地下空間の構造物に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】トンネル構造の断面図である。
【図2】シール部の拡大断面図である。
【図3】内側壁体定着部の拡大断面図である。
【図4】伸縮継手の平面図及び断面図である。
【図5】図1のV-V断面を示す断面図である。
【図6】免震部材の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 岩盤
2 断層
3 拡幅開削部
4 一般断面掘削部
5 通常ライニング
6 ロックボルト
7 吹き付けコンクリート
8 外側壁体
9 内側壁体
10 リング体
11 定着領域
12 定着部リング体
13 伸縮継手
14 脚体
15 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断層など規模の大きい不連続面を有する岩盤内を掘削して構築するトンネル構造において、前記不連続面のトンネル貫通位置近傍を拡幅開削した岩盤面に形成する外側壁体と、少なくとも前記不連続面の位置では外側壁体より離隔して構築する剛体よりなる内側壁体を有することを特徴とするトンネル構造。
【請求項2】
前記内側壁体は、トンネル軸方向にスライド変位を許容し得る伸縮継手を備えることを特徴とする請求項1記載のトンネル構造。
【請求項3】
前記内側壁体は、前記外側壁体より突設する免震部材で支持されることを特徴とする請求項2記載のトンネル構造。
【請求項4】
前記拡幅開削した岩盤面に露出する前記不連続面の開口部には、浸透水流出防止用及び崩落防止用に変形可能で比較的軽量な素材からなるシール材を設けることを特徴とする請求項1記載のトンネル構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−233626(P2006−233626A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51193(P2005−51193)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】