説明

トンネル用アーチ部材

【課題】 トンネル用アーチ部材の運搬、設置を容易にすることによりコストの低減を図ることのできるトンネル用アーチ部材を提供する。
【解決手段】 アーチ状に湾曲成形されたプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材は、トンネル底側部からトンネル高さ方向に延びる左右一対のプレキャストコンクリート製のL形部材2に横架される。埋込体を埋設している。埋込体は中空であって、軸方向に連設した複数の管又は、複数の管を同軸上に連結して構成される。埋込体は、アーチ状に曲げ成形した鋼管で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの構築に用いられるアーチ部材に関し、特に軽量化したトンネル用アーチ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート製のアーチ部材を側壁に横架してトンネルを構築しているものがあった。例えば、トンネル長さ方向に延びる底版の幅方向両端間に、左右一対の円弧版状のプレキャストコンクリート版がアーチ状に架け渡されるとともにトンネル長さ方向に連結され、底版の幅方向両端には、各プレキャストコンクリート版の脚部の外側において脚部の外面と適宜の間隔をあけて上方に膨出しトンネル長さ方向に延びる側帯が一体に設けられ、この側帯と前記脚部の間に受圧部材が介在されるとともに、脚部が側帯にボルト等の締結部材で締結され、前記コンクリート版を覆って盛土が施されて構成されるものが開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−216917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記した特許文献において、円弧版状のプレキャストコンクリート版は重量物であるため、運搬並びに設置が困難であり作業工数が増大しコストの高騰を招くという問題があった。このような問題は大断面のトンネル構造においては、円弧版状のプレキャストコンクリート版が大型化するため顕著であった。
【0004】
そこで、本発明は上記した問題点に鑑み、アーチ部材の運搬、設置を容易にすることによりコストの低減を図ることのできるトンネル用アーチ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、地盤上に設置された側壁に横架されるアーチ状に湾曲したプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材において、埋込体を埋設していることを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、前記埋込体が中空であって、複数の管を同軸上に連結して構成されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に係る発明は、前記埋込体が中空であって、複数の角管を同軸上に連結して構成されることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に係る発明は、前記埋込体が中空であって、アーチ状に曲げ成形した管で構成されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項5に係る発明は、前記埋込体が中空であって、鋼管で構成されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項6に係る発明は、地盤上に設置された側壁に横架され、アーチ状に湾曲成形されたプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材において、埋込体が埋設されており、前記埋込体はアーチ状に曲げ成形した鋼管で構成され、前記鋼管は一対の平形鋼と一対のみぞ形鋼とを備えコンクリートが内部に流入しないように構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載のトンネル用アーチ部材によれば、埋込体を埋設することにより、トンネル用アーチ部材を中空にして、軽量化を図り、トンネル用アーチ部材の運搬、設置を容易にすることによりコストを低減できる。
【0012】
また、請求項2に記載のトンネル用アーチ部材によれば、複数の管を同軸上に連結して構成されることにより、トンネル用アーチ部材の周方向の全体に渡って埋込体を埋設することができ、効果的に軽量化を図れる。
【0013】
また、請求項3に記載のトンネル用アーチ部材によれば、角管の幅を管の直径と同じ長さとした場合、埋込体の断面積を大きくすることができるので、一定の強度を保持しながら、トンネル用アーチ部材を効率的に軽量化することができる。
【0014】
また、請求項4に記載のトンネル用アーチ部材によれば、埋込体がアーチ部材の湾曲形状に合わせてアーチ状に曲げ成形されていることにより、埋込体を一体化することができ、工場にてトンネル用アーチ部材を形成する際、工数を低減できコストを削減することができる。
【0015】
また、請求項5に記載のトンネル用アーチ部材によれば、埋込体を鋼管で構成することとしたことにより、トンネル用アーチ部材の強度が向上し、トンネル用アーチ部材内に配筋される鉄筋を簡略化でき、トンネル用アーチ部材の構成を簡素化することによってコストの低減を図ることができる。
【0016】
また、請求項6に記載のトンネル用アーチ部材によれば、前記埋込体がアーチ状に曲げ成形した鋼管で構成され、前記鋼管は一対の平形鋼と一対のみぞ形鋼とを備えコンクリートが内部に流入しないように構成されることにより、軽量化を図ると共に、トンネル用アーチ部材の強度を向上することができるので、トンネル用アーチ部材内に配筋される鉄筋を簡略化でき、トンネル用アーチ部材の構成を簡素化することによってコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0018】
図1に示すトンネル構造1は、トンネル底側部からトンネル高さ方向に延びる左右一対のプレキャストコンクリート製のL形部材2と、前記L形部材2の上方に横架されるプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材3(以下、アーチ部材)とにより形成される。また、L形部材2の間には中央底版部4が現場打ちコンクリートにより形成される。
【0019】
L形部材2は、地盤Gに当接する底部5と、前記底部5の一端から垂直に延びる側壁である側壁部6とからなり、予め工場で形成されたものである。前記側壁部6は、内側すなわち底部5の他端側へ上方が緩やかに湾曲しており、トンネルの高さの略中間の高さに形成される。また、L形部材2には、トンネルの長さ方向における縦締めを行うための縦締用挿通孔7が設けられる。
【0020】
アーチ部材3は、上方に凸となるようにトンネルの幅方向に湾曲して形成された前記側壁部6と略同じ厚さを有する矩形の版部材であって、予め工場で形成されたものである。このアーチ部材3は、周方向の一端に設けられた接合部8と、他端に設けられた頂部9とを備える。このアーチ部材3は、左右一対として構成され、前記頂部端面で互いに突き合わされてトンネルの天井部分に配置される。また、アーチ部材3には、トンネルの長さ方向における縦締めを行うための縦締用挿通孔7が外周面側に設けられる。アーチ部材3には、埋込体11が埋設されており、これによりアーチ部材3の軽量化を図ることができる。
【0021】
埋込体11は例えば、紙、段ボール、発泡スチロール、また、塩化ビニル等により形成された内部が空洞である管で構成される。埋込体11である管の直径Aは、断面高さHに対し略半分の長さに形成される。埋込体11の両端は図示しない蓋部材で閉塞されており、コンクリートの流入を防いで空洞の状態で保持されている。この埋込体11は、複数の管(この場合、4個)を同軸上に連結して、図示しない鉄筋に固定されることによって、湾曲している周方向の略全体に渡って埋設することができる。
【0022】
次に、上記したトンネル構造1の構築方法について説明する。
【0023】
まず、プレキャストコンクリート製のL形部材2及びアーチ部材3を設置する場合について説明する。開削した地盤G上に、均しコンクリートにより基礎12を敷設し、この基礎12の上に、図示しない敷きモルタルを施工した後、前記L形部材2を左右一対として設置する。L形部材2は、底部5と一体化されているので、自立することができ、作業性を向上することができる。次に、L形部材2の側壁部6に一方のアーチ部材3を横架し、接合部8において側壁部6へ接続する。同様にして他方のアーチ部材3の接合部8をL形部材2の側壁部6の上端に接続する。次に、左右一対のアーチ部材3を、頂部9で接合する。一対のアーチ部材3を接合するには、頂部端面に直交して貫通する図示しない挿通孔にPC鋼棒を挿通し、PC鋼棒の両端に螺合したナットを締め上げ、PC鋼棒に緊張力を導入する。これにより、左右のアーチ部材3の頂部9に左右方向の緊張力であるプレストレスを導入する。トンネルの長さ方向に同様の作業を繰り返し行ない、所定数、例えばアーチ部材3を10セット設置した段階で、トンネルの長さ方向に対し縦締めをし、一体化される。縦締めは、図示しないが、アーチ部材3及びL形部材2の外周表面側に形成された縦締用挿通孔にPC鋼棒を挿通し、PC鋼棒の両端にナットを螺合し、ナットを締め上げ、PC鋼棒に緊張力を導入して行われる。
【0024】
次に、現場に設置された上記トンネル部材に現場打ちコンクリートにより中央底版部4を打設する場合について説明する。中央底板部4は、前記L形部材2の底部5の間に配筋された図示しない鉄筋と、現場打ちコンクリートとにより構成され、前記鉄筋と、前記底部5に予め張り出し形成された鉄筋とが図示しない機械式継手で接続し、鉄筋を接合したL形部材2の底部5の間にコンクリートを打設することによって形成される。
【0025】
次に、埋込体11の変形例について図3、図4を参照して説明する。図3に示す埋込体11は、角管で構成される。こうすることにより、角管の幅Wを管の直径Aと同じ長さとした場合、埋込体11の断面積を大きくすることができるので、アーチ部材3を効率的に軽量化することができる。尚、図示しないが、応力集中を避けるため、四隅はR処理がなされていることはいうまでもない。
【0026】
また、埋込体11の断面形状は図2又は図3に示した円形状、四角形状のものに限らず、楕円形状、長円穴形状、波型形状、又は多角形状等により構成することも可能である。
【0027】
図4は埋込体11の別の変形例を示す図である。図4に示す埋込体11は、アーチ状に曲げ成形して構成される。こうすることにより、埋込体11は一体化できるので、工場にてアーチ部材3を形成する際、工数を低減できコストを削減することができる。
【0028】
このように、本実施形態に係るトンネル構造1が、複数の分割されたプレキャストコンクリート製の部材により構成され、軽量化されたアーチ部材3を使用することにより、現場打ちコンクリートで構築した場合に比べ、型枠の設置、解体が不要になるなど、大幅に作業工数を低減でき、コストを大幅に低減できる。また、トンネル構造1が、アーチ部材3が軽量であり、しかも、4分割により構成されるため、工場で容易に形成できると共に、容易に輸送し、設置することができる。
【0029】
上記のように本実施形態では、地盤G上に設置された側壁に横架されるアーチ状に湾曲したプレキャストコンクリート製のアーチ部材3であって、埋込体11を埋設しているから、アーチ部材3を中空にして、軽量化を図り、アーチ部材3の運搬、設置を容易にすることによりコストを低減できる。
【0030】
また、前記埋込体11が中空であって、複数の管を同軸上に連結して構成されるから、アーチ部材3の周方向の全体に渡って埋込体11を埋設することができ、効果的に軽量化を図れる。
【0031】
また、前記埋込体11が中空であって、複数の角管を同軸上に連結して構成されるから、角管の幅Wを管の直径Aと同じ長さとした場合、断面積を大きくすることができるので、一定の強度を保持しながら、アーチ部材3を効率的に軽量化することができる。
【0032】
また、前記埋込体11が中空であって、アーチ状に曲げ成形した管で構成されるから、埋込体11を一体化することができ、工場にてアーチ部材3を形成する際、工数を低減できコストを削減することができる。
【0033】
次に図5を参照して埋込体15の第2実施例を説明する。本実施例に係る埋込体15は、鋼管で構成され、これによりアーチ部材3の強度を向上することにより、アーチ部材3に配筋される鉄筋を少なくしてアーチ部材3の構成を簡略化してコストの削減を図るものである。本実施例に係る埋込体は、パイプ状の部材で構成してもよいが、複数の部材により鋼管を構成することとしてもよい。例えば、図5に示す埋込体15は、一対の平形鋼16と一対のみぞ形鋼17とにより構成される。平形鋼16とみぞ形鋼17とはそれぞれアーチ部材3と同様に湾曲成形され、上下に平形鋼16を配置し前記平形鋼16に対し左右にみぞ形鋼17を配置し、平形鋼16とみぞ形鋼17を熔接により連結する。このように構成された埋込体15の両端は、図示しない蓋部材で閉塞され、コンクリートの流入を防いで空洞の状態で保持されている。このように、埋込体15を鋼鉄製の部材で構成することにより、アーチ部材3の強度が向上し、アーチ部材3内に配筋される鉄筋の部材量を削減でき、アーチ部材3の構成を簡略化することによってコストの低減を図ることができる。
【0034】
上記のように本実施形態では、前記埋込体15が、一対の平形鋼16と一対のみぞ形鋼17とからなる鋼管で構成されるから、アーチ部材3の強度が向上し、アーチ部材3内に配筋される鉄筋を簡略化でき、アーチ部材3の構成を簡素化することによってコストの低減を図ることができる。
【0035】
また、地盤G上に設置された側壁に横架され、アーチ状に湾曲成形されたプレキャストコンクリート製のアーチ部材3において、埋込体15が埋設されており、前記埋込体15はアーチ状に曲げ成形した鋼管で構成され、前記鋼管は一対の平形鋼16と一対のみぞ形鋼17とを備えコンクリートが内部に流入しないように構成されるから、軽量化を図ると共に、アーチ部材3の強度を向上することができるので、アーチ部材3内に配筋される鉄筋を簡略化でき、アーチ部材3の構成を簡素化することによってコストの低減を図ることができる。
【0036】
本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上記した実施例では、埋込体は中空であって、内部が駆動であるものを例示したが、本発明はこれに限らず、軽量の素材で構成された中実部材であってもよい。
【0037】
また、上記した実施例では、アーチ部材はトンネル構造に用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、アーチ橋に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施例に係るアーチ部材を備えたトンネル構造を示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施例に係るアーチ部材の縦断面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る変形例を示すアーチ部材の縦断面図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る別の変形例を示すトンネル構造の縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施例に係るアーチ部材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
3 アーチ部材
11 埋込体
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に設置された側壁に横架され、アーチ状に湾曲成形されたプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材において、埋込体を埋設していることを特徴とするトンネル用アーチ部材。
【請求項2】
前記埋込体は中空であって、複数の管を同軸上に連結して構成されることを特徴とする請求項1記載のトンネル用アーチ部材。
【請求項3】
前記埋込体は中空であって、複数の角管を同軸上に連結して構成されることを特徴とする請求項1記載のトンネル用アーチ部材。
【請求項4】
前記埋込体は中空であって、アーチ状に曲げ成形した管で構成されることを特徴とする請求項1記載のトンネル用アーチ部材。
【請求項5】
前記埋込体は中空であって、鋼管で構成されることを特徴とする請求項4記載のトンネル用アーチ部材。
【請求項6】
地盤上に設置された側壁に横架され、アーチ状に湾曲成形されたプレキャストコンクリート製のトンネル用アーチ部材において、埋込体が埋設されており、前記埋込体はアーチ状に曲げ成形した鋼管で構成され、前記鋼管は一対の平形鋼と一対のみぞ形鋼とを備えコンクリートが内部に流入しないように構成されることを特徴とするトンネル用アーチ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39898(P2007−39898A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222541(P2005−222541)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(390004938)羽田コンクリート工業株式会社 (14)
【出願人】(000161817)ケイコン株式会社 (37)
【Fターム(参考)】