説明

トンネル用セグメント

【課題】広幅化、薄肉化を行うことによって生じる鋼殻のねじれ強度の低下に伴う製作誤差を発生させることなく、精度の高いトンネル用セグメントを提供する。
【解決手段】主桁と継手板と縦リブとスキンプレートで形成される鋼製のトンネル用セグメントであって、前記主桁と前記継手板および前記縦リブに囲まれた空間内と、前記主桁と前記縦リブ同士に囲まれた空間内に斜材を有することを特徴とする。前記斜材の少なくとも一方の端部が、前記主桁と前記継手板の接合箇所もしくは前記主桁と前記縦リブとの接合箇所に接合されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄道や自動車のトンネルまたは水路等に用いるトンネルの施工時に使用されるトンネル用セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道や自動車のトンネルまたは水路等に用いるトンネルの施工時には、地盤掘削後の空間確保のために、トンネル用セグメントを用いる。近年、トンネル施工時における掘削土量の低減、継手金具の削減、施工効率の向上、防水上の弱点となりやすい継目延長の削減等の観点から、トンネル用セグメントの薄肉化および広幅化が求められている。
【0003】
トンネル用セグメントは、トンネル施工時に、トンネル軸方向に順次延長するように組み立てられる。そのため、トンネル用セグメントのトンネル軸方向の幅寸法を広幅化することができると、トンネル全体における組立工程を格段に低減できる施工工法となる。例えば、現状の大断面シールドトンネルの技術としては、トンネル用セグメントの幅(トンネルの軸方向)は最大で1600mm程度、主桁高さ(トンネルの半径方向)は最小で300mm程度、周方向8〜10分割のものは存在している。これを、幅1800mm、2000mm、2400mmに広幅化したトンネル用セグメントを用いて施工をした場合、使用するトンネル用セグメント数およびトンネル軸方向の組立工程数が格段に低減されることとなるため、施工コストおよび施工工期を格段に低減することができる。
【0004】
そこで、本発明者らは特許文献1において、主桁フランジ部に配したずれ止めおよび鋼材により、トンネル周方向のコンクリートと鋼殻のずれを抑制すると共に、トンネル軸方向の曲げに対して抵抗可能な広幅化をした合成セグメントを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−277893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1に記載された発明によれば、トンネル用セグメントを広幅化および薄肉化した場合に、トンネル軸方向の曲げに対しては抵抗可能となるが、広幅化および薄肉化により生じるねじれ強度の低下に伴い、セグメントにねじれが生じ、トンネル用セグメントの製作誤差が生じるという問題点がある。
【0007】
上記トンネル用セグメントの広幅化および薄肉化に伴う自重によるモーメントの発生およびねじれに対しては、一般的には、ねじれの軸から遠い部材を強化すれば対応できると思われていた。つまり、トンネル用セグメントにおいては、外枠にあたる主桁と継手板の剛性を上げればよいと考えられる。しかし、トンネル用セグメントにおいて主桁と継手板の剛性を上げることは、これらの重量を大きく増すことにつながり、施工効率の面で好ましくない。さらに、重量を増すことによってねじれが助長されることも考えられる。一方、縦リブの剛性を上げたとしても、ねじれの軸から近いため、ねじれ抑制の効果は薄く、スキンプレートについては、曲率を有しているため、トンネル用セグメントのねじれ強度に寄与していないと考えられる。そのため、主桁、継手板およびスキンプレートの剛性を上げることでは、上記問題点は解決することができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、広幅化、薄肉化を行うことによって生じるセグメントのねじれ強度の低下に伴う製作誤差を発生させることなく、精度の高いトンネル用セグメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも2本以上の対向する主桁と、前記主桁の長手方向両端部に渡って結合される継手板と、前記継手板の間において、各前記主桁を渡すように結合された1本以上の縦リブと、前記主桁と前記継手板の地山側を塞ぐように結合されたスキンプレートとで形成される鋼製のトンネル用セグメントであって、前記主桁と前記継手板および前記縦リブに囲まれた空間内と、前記主桁と前記縦リブ同士に囲まれた空間内とに配置された斜材を有することを特徴とする、トンネル用セグメントが提供される。
【0010】
前記斜材の少なくとも一方の端部が、前記主桁と前記継手板の接合箇所もしくは前記主桁と前記縦リブとの接合箇所に接合されていることとする。
【0011】
前記斜材の断面形状は矩形・I形状・逆T形状・C形状・L形状のいずれかであってもよい。
【0012】
前記主桁の断面形状は矩形・I形状・逆T形状・C形状・L形状のいずれかであってもよい。
【0013】
前記斜材の端部は、レ形形状、L形鋼付、円弧状鋼板付、曲げ鋼板付のいずれかであってもよい。
【0014】
前記斜材の接合方法は、例えばボルトやドリルねじ等の乾式接合方式である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トンネル用セグメントを広幅化・薄肉化することにより生じる鋼殻のねじれ強度の低下を抑制し、ねじれ強度の低下に伴うトンネル用セグメントの製作誤差を発生させることなく、精度の高い広幅化・薄肉化されたトンネル用セグメントを提供することができる。さらに、その結果、広幅化・薄肉化されたトンネル用セグメントを用いて施工を行うことで不具合なく施工コストおよび施工工期を格段に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明の実施の形態にかかるトンネル用セグメント1を斜め上方から見た斜視図である。(b)図1(a)のトンネル用セグメント1の平面図である。
【図2】(a)4本の斜材40と各斜材40を接合する十字形の接合部材50を示す説明図である。(b)交差部41が切れ込み55の入った2本の斜材40によって構成される場合を示す説明図である。
【図3】(a)L形鋼付斜材42を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)L形鋼付斜材42を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図4】(a)レ形形状斜材70を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)レ形形状斜材70を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図5】(a)レ形形状斜材70を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)レ形形状斜材70を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図6】レ形形状斜材70を溶接によって接合させた様子の説明図である。
【図7】(a)円弧状鋼板付斜材80を溶接によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)円弧状鋼板付斜材80を溶接によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図8】(a)曲げ鋼板付斜材90を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)曲げ鋼板付斜材90を乾式接合方式によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図9】(a)曲げ鋼板付斜材90を乾式接合方式と溶接によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。 (b)曲げ鋼板付斜材90を乾式接合方式と溶接によって主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。
【図10】(a)本発明にかかるトンネル用セグメント1の実施の形態において、斜材40の設置形態を変更した場合のトンネル用セグメント1’を斜め上方から見た斜視図である。(b)図10(a)のトンネル用セグメント1’の平面図である。
【図11】(a)斜材40の設置形態を変更した場合のトンネル用セグメント1’’を斜め上方から見た斜視図である。(b)図11(a)のトンネル用セグメント1’’の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
図1(a)は本発明の実施の形態にかかるトンネル用セグメント1を斜め上方から見た斜視図である。また、図1(b)は、図1(a)のトンネル用セグメント1の平面図である。なお、トンネル用セグメント1の内部鋼殻構造を図示するために、図1(a)においてスキンプレート11は一点鎖線で示し、図1(b)においては図示していない。また、実際にはトンネル用セグメント1の内部にはコンクリート12が充填される場合もあるが、内部鋼殻構造を示すために、コンクリート12は省略した状態で示す。
【0019】
トンネル用セグメント1の外郭は2本の対向するI形状の鋼材である主桁10と、主桁長手方向両端部に渡って主桁10と接合された2本の継手板20により構成される。ここで、I形状の鋼材である主桁10は、1つの主桁が2枚のフランジと一枚のウェブにより構成された形鋼となっている。主桁10と継手板20に囲まれた空間内には、鋼板である縦リブ30および斜材40が設けられている。縦リブ30は2本の主桁10を渡すように配置され、縦リブ30の両端部はそれぞれ2本の主桁10に接合されている。なお、図1に示されるように、本実施の形態においては、縦リブ30は3枚設けられ、継手板20と縦リブ30および縦リブ30同士の主桁長手方向の間隔は均等となっている。また、図1に示されるように、斜材は主桁の長手方向に対して鋭角に配置されている。この鋭角とは長手方向に対して垂直でも平行でもない斜めの方向を意味する。
【0020】
また、主桁10と、互いに隣り合う継手板20および縦リブ30とによって囲まれる空間には、交差部41において交差する斜材40が設けられている。主桁10と、互いに隣り合う縦リブ30によって囲まれる空間にも上記同様に交差部41において交差する斜材40が設けられている。ここで、斜材40の各端部は図1に示されるように主桁10、継手板20および縦リブ30の各接合部に接合されている。交差部41において斜材40は4本の部材の溶接によって構成されている。
【0021】
なお、トンネル用セグメント1において、縦リブ30および斜材40は、2本の主桁10と2本の継手板20によって囲まれる空間の地山側上半分にのみ設けられる。即ち、図1に示すように、縦リブ30および斜材40の幅hは主桁10および継手板20の幅Hの1/2となっており、上述した縦リブ30および斜材40と主桁10および継手板20との接合は、主桁10および継手板20の地山側上半分の位置において接合されていることとなる。
【0022】
スキンプレート11はトンネル用セグメント1の地山側上面を覆うように配置され、主桁10の地山側フランジと継手板20の地山側端部に固着される。そして、合成構造セグメントである場合は、主桁10と継手板20に囲まれた空間にコンクリート12が充填されることによってトンネル用セグメント1が構成されている。このとき、縦リブ30および斜材40が2本の主桁10と2本の継手板20によって囲まれる空間の地山側上半分にのみに設けられていれば、コンクリート12は2本の主桁10と2本の継手板20によって囲まれる空間内に均一に充填されることとなる。
【0023】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0024】
例えば、斜材40の種類は鋼板としているが、これに限られるものではなく、斜材40の種類としては様々なものが考えられ、例えば、鋼板・縞鋼板・孔開き鋼板・棒鋼・異形棒鋼が挙げられる。また、鋼板・縞鋼板・孔開き鋼板の形状に関しても、矩形・I形状・逆T形状・C形状・L形状等が考えられる。斜材40の形状をI形状・逆T形状・C形状・L形状等にすることで、ねじれに対する剛性がより高まり、トンネル用セグメント1の製作精度向上が図られることとなる。また、主桁10の形状についてはI形状としているが、これに限られるものではなく、矩形・逆T形状・C形状・L形状等様々な形状の場合が考えられる。
【0025】
また、斜材40の交差部41における接合方法を上記実施の形態では溶接による接合としたが、接合方法はこれに限られるものではない。以下に図面を参照して、例を示す。
【0026】
図2(a)は4本の斜材40と各斜材40を接合する十字形の接合部材50を示す説明図である。接合部材50は4枚の鋼板の溶接によって構成され、十字型の形状となっている。4箇所の各端部には、ボルト穴51が設けられており、また、各斜材40の端部にも前記ボルト穴51に対応するボルト穴51’が設けられている。
接合部材50の各ボルト穴51と各斜材40のボルト穴51’をボルトで接合することによって斜材40同士が接合され、トンネル用セグメント1は上記実施の形態に示したような構成となる。この形態をとることで、斜材40同士を直接溶接で交差させた場合に比べ、製作誤差を吸収することが可能となり、製作精度の向上を図ることが可能となる。
【0027】
一方、図2(b)は交差部41が切れ込み55の入った2本の斜材40によって構成される場合を示す説明図である。2本の斜材40の長手方向中央には、それぞれ切れ込み55が設けられている。切れ込み55は斜材40の幅方向に入っており、その長さは斜材40の幅の1/2程度となっている。
上記切れ込み55の入った2本の斜材40を、各切れ込み55をかみ合わせて接続することによって各斜材40が容易に接合され、トンネル用セグメント1へ好適に利用することができる。この形態をとることで、斜材40同士を直接溶接で交差させた場合に比べ、製作誤差を吸収することが可能となり、製作精度の向上を図ることが可能となる。
【0028】
上記実施の形態においては、斜材40を主桁10と継手板20の接合箇所もしくは主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する場合の方法は溶接で行うとしたが、本発明はこれに限られるものではない。トンネル用セグメント1の製作精度を確保するためには、溶接だけではなく、例えばボルトやドリルねじ等の乾式接合方法を採ることも考えられる。そこで、以下に斜材40の主桁10と継手板20の接合箇所もしくは主桁10と縦リブ30の接合箇所との接合方法を例示し、図面を参照して説明する。
【0029】
図3は、端部にL形鋼材を取り付けた斜材40を、ボルト60を用いて主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する場合の接合の様子を、接合部を拡大して示す説明図である。図3(a)は上記実施の形態に示した、鋼板である斜材40の端部にL形鋼材を溶接によって取り付けたL形鋼付斜材42を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。また、図3(b)はL形鋼付斜材42を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。なお、説明のために、図3において、主桁10のフランジ部については図示せず、また、図3(a)ではL形鋼付斜材42の鋼板部43については鎖線で示した。
【0030】
図3に示すように、L形鋼付斜材42は鋼板部43の端部にL形鋼材44を溶接によって取り付けたものである。L形鋼材44は一般的な鋼板を90°の角度に折り曲げた形状であり、その折り曲げた部分の内側角部45に鋼板部43を接合させることでL形鋼付斜材42は構成される。L形鋼付斜材42の主桁10および縦リブ30への接合は、主桁10と縦リブ30の接合箇所において、L形鋼材44の一方の外面を主桁10に、他方の外面を縦リブ30に当接させられるように配置し、図3に示す5箇所をボルト60によって固定することで行われる。なお、ここではL形鋼付斜材42の5箇所についてボルト60を用いて固定するとしたが、ボルト60を用いる場所や、その数については主桁10とL形鋼付斜材42との接合状況によって適宜変更することができる。また、L形鋼付斜材42は縦リブ30の両側面に取り付けられ、その場合2つのL形鋼付斜材42のL形鋼材44は、縦リブ30の側面に共通のボルト60で固着される。共通のボルト60を用いることで、一度にL形鋼付斜材42を2枚同時に設置することが可能となり、製作効率化が可能となる。
【0031】
以上図3を参照して説明した接合方法によれば、溶接ではなくボルトを用いて接合を行うため、接合が簡易かつ効率的に行われる。また、主桁10、縦リブ30等と斜材40との接合箇所において溶接による歪みの発生がなくなるだけでなく斜材製作誤差の吸収も可能となり、トンネル用セグメントの製作精度向上が容易に図られることとなる。
【0032】
図4および図5はレ形形状に加工したレ形形状斜材70を、ボルト60を用いて主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する場合の接合の様子を、接合部を拡大して示す説明図である。図4(a)および図5(a)はレ形形状斜材70を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。また、図4(b)および図5(b)はレ形形状斜材70を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。なお、説明のために、図4および図5において、主桁10のフランジ部については図示せず、また、図4(a)および図5(a)ではレ形形状斜材70の鋼板部72については鎖線で示した。
【0033】
図4および図5に示すレ形形状斜材70は鋼板を一箇所で鋭角に折り曲げ、一方を接続部71とし、他方を鋼板部72とした形状である。レ形形状斜材70の接続部71が、ボルト60によって主桁10または縦リブ30に固着される。ここで、レ形形状斜材70の接続部71は、図4に示すように、主桁10に接合されてもよく、また、図5に示すように縦リブ30に接合されてもよい。
【0034】
以上図4および図5を参照して説明した接合方法によれば、上記図3の場合同様、溶接ではなくボルトを用いて接合を行うため、接合が簡易かつ効率的に行われる。また、主桁10、縦リブ30等と斜材40(レ形形状斜材70)との接合箇所において溶接による歪みの発生がなくなるだけでなく斜材製作誤差の吸収も可能となり、トンネル用セグメントの製作精度向上が容易に図られることとなる。さらに、レ形形状斜材70は1枚の鋼板を折り曲げるだけで製作可能であるため、トンネル用セグメントの製作効率の上昇に寄与することとなる。なお、ここでは、レ形形状斜材70は鋼板を折り曲げて製作するとしたが、例えば2枚の鋼板を溶接して製作すること等も当然考えられる。
【0035】
また、図3〜図5に示す接合方法においては、主桁10と縦リブ30との接合箇所への斜材40の接合を例として説明したが、主桁10と継手板20との接合箇所への斜材40の接合についても当然同様の方法で接合可能である。また、接合にはボルト60を用いるとしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えばドリルねじ等の乾式接合方式であればよい。
【0036】
さらにまた、レ形形状斜材70を主桁10に接合させる場合には、その接合方法は溶接であってもよい。図6には、レ形形状斜材70を溶接によって接合させた様子の斜視図(図6(a))および断面図(図6(b))を示す。図6に示すように、レ形形状斜材70を主桁10に溶接によって接合することにより、例えばボルトを用いた接合を行う場合のように主桁10にボルト孔等を空ける必要がないため、主桁10の断面欠損が抑制されるとともに、止水性を確保することが可能となる。
【0037】
図7は、端部に曲率を有する円弧状の鋼板を取り付けた円弧状鋼板付斜材80を、ボルト60を用いて主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する場合の接合の様子を、接合部を拡大して示す説明図である。図7(a)は上記実施の形態に示した、鋼板である斜材40の端部に円弧状の鋼板を溶接によって取り付けた円弧状鋼板付斜材80を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。また、図7(b)は円弧状鋼板付斜材80を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。なお、説明のために、図7において、主桁10のフランジ部については図示せず、また、図7(a)では円弧状鋼板付斜材80の鋼板部83については鎖線で示した。
【0038】
図7に示すように、円弧状鋼板付斜材80は鋼板部83の端部に円弧状鋼板部84を溶接によって取り付けたものである。ここで、鋼板部83の端部は円弧状鋼板部84の任意の位置に取り付けられるが、好ましくは円弧状鋼板部84の円周方向中心部近傍に取り付けられる。円弧状鋼板付斜材80の主桁10および縦リブ30への接合は、主桁10と縦リブ30の接合箇所において、円弧状鋼板部84の円周方向両端部がそれぞれ主桁10と縦リブ30に溶接されることによって行われる。
【0039】
図8は、曲げ加工を施した鋼板を取り付けた曲げ鋼板付斜材90を、ボルト60を用いて主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する場合の接合の様子を、接合部を拡大して示す説明図である。図8(a)は上記実施の形態に示した、鋼板である斜材40の端部に曲げ加工を施した鋼板を溶接によって取り付けた曲げ鋼板付斜材90を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。また、図8(b)は曲げ鋼板付斜材90を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。なお、説明のために、図8において、主桁10のフランジ部については図示せず、また、図8(a)では曲げ鋼板付斜材90の鋼板部93については鎖線で示した。
【0040】
図8に示すように、曲げ鋼板付斜材90は鋼板部93の端部に曲げ鋼板部94を溶接によって取り付けたものである。ここで、鋼板部93の端部は曲げ鋼板部94の任意の位置に取り付けられるが、好ましくは曲げ鋼板部94の長手方向中心部近傍に取り付けられる。曲げ鋼板付斜材90の接合は、主桁10と縦リブ30の接合箇所において、曲げ鋼板部94の長手方向両端部近傍がそれぞれ主桁10と縦リブ30にボルト60によって接合されることで行われる。また、この場合、上記図3に示した場合と同様に、曲げ鋼板付斜材90は縦リブ30の両側面に取り付けられ、その場合2つの曲げ鋼板付斜材90の曲げ鋼板部94は、縦リブ30の側面に共通のボルト60で固着される。共通のボルト60を用いることで、一度に曲げ鋼板付斜材90を2枚同時に設置することが可能となり、製作効率化が可能となる。
【0041】
また、ここで、曲げ鋼板付斜材90長手方向端部の内、主桁10に接合する側の一方の端部を溶接によって主桁10に接合することがより好ましい。図9は、曲げ加工を施した鋼板を取り付けた曲げ鋼板付斜材90を、主桁10と縦リブ30の接合箇所において、主桁10には溶接を用い、縦リブ30にはボルト60を用いて接合する場合の接合の様子を、接合部を拡大して示す説明図である。図9(a)は曲げ鋼板付斜材90を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を斜め上方から見た斜視図である。また、図9(b)は曲げ鋼板付斜材90を主桁10と縦リブ30の接合箇所に接合する様子を上方から見た断面図である。なお、説明のために、図9において、主桁10のフランジ部については図示せず、また、図9(a)では曲げ鋼板付斜材90の鋼板部93については鎖線で示した。
【0042】
上記図9に示す接合方法によれば、例えばボルトを用いた接合を行う場合のように主桁10にボルト孔等を空ける必要がないため、主桁10の断面欠損が抑制されるとともに、止水性を確保することが可能となる。
【0043】
上述したように図3〜図9を参照して、主桁10と縦リブ30との接合箇所における斜材40の接合方法について説明したが、これらの接合方法は主桁10と継手板20との接合箇所における斜材40の接合にも適応させることができ、また、斜材40を主桁10、継手板20、縦リブ30の任意の箇所に接合する場合にも適応させることができる。
【0044】
また、主桁10と継手板20に囲まれた空間内に斜材40を設ける場合の斜材40の設置形態は、上記実施の形態に示した形態に限られるものではなく、主桁10と継手板20に囲まれた空間内に設けられ、主桁10、継手板20および縦リブ30に接合されるものであればよい。以下に図面を参照して例を示す。
【0045】
図10(a)は本発明にかかるトンネル用セグメント1の実施の形態において、斜材40の設置形態を変更した場合のトンネル用セグメント1’を斜め上方から見た斜視図である。また、図10(b)は、図10(a)のトンネル用セグメント1’の平面図である。なお、トンネル用セグメント1’の内部鋼殻構造を図示するために、図10(a)においてスキンプレート11は一点鎖線で示し、図10(b)においては図示していない。また、実際には、トンネル用セグメント1’の内部にはコンクリート12が充填される場合もあるが、内部鋼殻構造を示すために、コンクリート12は省略した状態で示す。
【0046】
図10(a)および(b)に示すトンネル用セグメント1’の構成の説明のうち、斜材40の設置形態を除いては、上記実施の形態と同様であるため省略する。継手板20、縦リブ30および主桁10で囲まれる空間の地山側上半分および縦リブ30同士と主桁10で囲まれる空間の地山側上半分には、それぞれ2本ずつの斜材40が設けられている。継手板20、縦リブ30および主桁10で囲まれる空間内の斜材40は、それぞれ継手板20の一方の端部において主桁10と継手板20の接合部に接合され、各斜材のもう一方の端部は縦リブ30の長手方向中央部に接続されている。また、縦リブ30同士と主桁10で囲まれる空間内の各斜材40の一方の端部は、トンネル用セグメント1’の主桁長手方向中央部同士に接合された縦リブ30の長手方向中央部に接合され、各斜材40のもう一方の端部は縦リブ30と主桁10の接合部に接合されている。その様子を示したものが図10(a)および(b)である。
【0047】
上記図10(a)および(b)に示す斜材40の設置形態によって斜材40を設置し、広幅化したトンネル用セグメント1’のねじれ強度を測定した結果、斜材40を設けた場合と設けない場合では、ねじれ強度に大きな差ができ、斜材40を設けた場合のほうが、よりねじれ強度が大きいものとなる。
【0048】
図11(a)は本発明にかかるトンネル用セグメント1の実施の形態において、斜材40の設置形態を変更した場合のトンネル用セグメント1’’を斜め上方から見た斜視図である。また、図11(b)は、図11(a)のトンネル用セグメント1’’の平面図である。なお、トンネル用セグメント1’’の内部鋼殻構造を図示するために、図11(a)においてスキンプレート11は一点鎖線で示し、図11(b)においては図示していない。また、実際トンネル用セグメント1’’の内部にはコンクリート12が充填される場合もあるが、内部鋼殻構造を示すために、コンクリート12は省略した状態で示す。
【0049】
図11(a)および(b)に示すトンネル用セグメント1’’の構成は、斜材40の設置形態を除いては上記実施の形態と同様であるため省略する。継手板20、縦リブ30および主桁10で囲まれる空間の地山側上半分および縦リブ30同士と主桁10で囲まれる空間の地山側上半分にはそれぞれ4本ずつの斜材40が設けられている。継手板20、縦リブ30および主桁10で囲まれる空間内の斜材40は、それぞれ継手板20の一方の端部において主桁10と継手板20の接合部に接合され、各斜材のもう一方の端部は継手板20と縦リブ30の長手方向中央部に2本ずつ接続されている。
また、縦リブ30同士と主桁10で囲まれる空間内の各斜材40の一方の端部は、トンネル用セグメント1’’の主桁長手方向中央部に接合された縦リブ30の長手方向中央部に接合され、各斜材40のもう一方の端部は縦リブ30と主桁10の接合部に接合されている。その様子を示したものが図11(a)および(b)である。なお、この場合にも、縦リブ30および斜材40は、トンネル用セグメント1の地山側上半分の空間に配置されている。
【0050】
上記図11(a)および(b)に示す斜材40の設置形態によって斜材40を設置し、広幅化したトンネル用セグメント1’’のねじれ強度を測定した結果、斜材40を設けた場合と設けない場合では、ねじれ強度に大きな差ができ、斜材40を設けた場合のほうが、よりねじれ強度が大きいものとなる。
【実施例】
【0051】
以上のように構成されたトンネル用セグメント1において、広幅化を実現するためには、次の方法によって測定されるねじれ強度が大きいことが要求される。ねじれ強度の測定方法としては、例えば、図1(a)において、トンネル用セグメント1の一方の主桁10の端部である点αを固定し、一方の主桁10における端部の点αと反対側の端部である点βと、点βにおいて主桁10と接合している継手板20における端部の点βと反対側の端部である点γのトンネル中心方向の変位差を、トンネル用セグメント1の幅で割った値によって測定する方法を用いた。
【0052】
図1、図10及び図11に示された実施形態において、上述した測定方法によって、広幅化されたトンネル用セグメント1のねじれ強度を測定した結果、斜材40を設けた場合と設けない場合では、ねじれ強度に大きな差が生じ、斜材40を設けた場合のほうが、よりねじれ強度が大きいものとなる。つまり、斜材40を設けることによってねじれ強度の大きい広幅化されたトンネル用セグメント1を実現することができ、トンネル施工時に、ねじれ強度の大きく製作精度の高い広幅化されたトンネル用セグメント1を用いることが可能になるとともに、施工工程および施工コストを低減し、施工効率を確実に上げることが可能となる。また、コンクリートを充填した合成セグメントにも同様の効果が発揮され、従来の合成セグメントよりねじれ強度が高く製作精度の高い、セグメントとすることが可能となる。
【0053】
以下、上述した本発明の実施の形態にかかるトンネル用セグメントにおける、ねじれ強度の測定結果と、従来用いられていたトンネル用セグメントのねじれ強度の測定結果を比較した結果について表を用いて説明する。
【0054】
表1に、従来用いられていた斜材を設けていないトンネル用セグメントのねじれ強度を、比較例として示す。このとき、測定対象のセグメント幅が1500mm、1800mm、2400mmの場合をそれぞれ比較例1〜3とした。なお、ねじれ強度としては、フランジ変位差をセグメント幅で割ったものを指標として用い、その値が大きいほどねじれ強度が弱いこととなる。
【表1】

【0055】
表2は、実施例として、幅の異なる斜材を図1(a)、(b)に示した設置形態で設けたトンネル用セグメントのねじれ強度を測定した測定値を示すものである。
実施例1〜4として、セグメント幅は、本発明はセグメントを広幅化したものであるため、2400mmで一定とし、斜材の幅を各々4mm、8mm、16mm、19mmとした場合のねじれ強度を表2に示す。
【表2】

【0056】
本発明者らは、トンネル用セグメントの鋼殻の幅方向対角線上に斜材を設け、対角線方向の力を支持することで、ねじれ強度を強化できることから本発明を創案した。従来用いられていたセグメント幅は1500mm程度のものであり、そのねじれ強度は表1の比較例1に示す通り0.0252であった。セグメントのセグメント幅を広幅化した場合においても、施工時に問題なく施工するためには比較例1と同程度のねじれ強度を示すものでなくてはならない。しかし、斜材を設けずにセグメントの広幅化を行った場合、表1の比較例2および比較例3に示されるように、広幅化するにつれてねじれ強度が下がっていることがわかった。
【0057】
一方、セグメント幅を2400mmと広幅化し、斜材を図1(a)、(b)に示す設置形態で設けた場合のねじれ強度は、いずれも表2の実施例1〜4に示すように、従来のセグメント幅1500mmでのねじれ強度(比較例1)よりも小さい値となった。つまり、斜材を設けたことによって、セグメント幅2400mmでも十分なねじれ強度を持ったトンネル用セグメントの実現が可能となった。
【0058】
また、斜材の設置形態を図10(a)、(b)および図11(a)、(b)とした場合のトンネル用セグメントのねじれ強度を測定した結果をそれぞれ表3、表4に示す。なお、表3および表4におけるセグメント幅は、本発明はセグメントを広幅化したものであるため、2400mmで一定とし、斜材40の幅を各々4mm、8mm、16m、19mmとした。
【表3】

【表4】

【0059】
斜材を図10(a)、(b)および図11(a)、(b)に示す設置形態で設けた場合のトンネル用セグメントのねじれ強度は、表3および表4の実施例5〜12と比較例3を比べるとわかるように、斜材を設けない場合と比べて上昇していることがわかった。さらに、実施例5〜12のねじれ強度の値は、従来のセグメント幅1500mmでのねじれ強度(比較例1)よりも小さい値となった。つまり、斜材を設けたことによって、セグメント幅2400mmでも十分なねじれ強度を持ったトンネル用セグメントの実現が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば、鉄道や自動車のトンネルまたは水路等に用いるトンネルの施工時に使用されるトンネル用セグメントに適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…トンネル用セグメント
10…主桁
20…継手板
30…縦リブ
40…斜材
42…L形鋼付斜材
60…ボルト
70…レ形形状斜材
80…円弧状鋼板付斜材
90…曲げ鋼板付斜材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本以上の対向する主桁と、
前記主桁の長手方向両端部に渡って結合される継手板と、
前記継手板の間において、各前記主桁を渡すように結合された1本以上の縦リブと、
前記主桁と前記継手板の地山側を塞ぐように結合されたスキンプレートとで形成される鋼製のトンネル用セグメントであって、
前記主桁と前記継手板および前記縦リブに囲まれた空間内と、前記主桁と前記縦リブ同士に囲まれた空間内とに配置された斜材を有することを特徴とする、トンネル用セグメント。
【請求項2】
前記斜材の少なくとも一方の端部が、前記主桁と前記継手板の接合箇所もしくは前記主桁と前記縦リブとの接合箇所に接合されていることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル用セグメント。
【請求項3】
前記斜材の断面形状は矩形・I形状・逆T形状・C形状・L形状のいずれかであることを特徴とする、請求項1または2に記載のトンネル用セグメント。
【請求項4】
前記主桁の断面形状は矩形・I形状・逆T形状・C形状・L形状のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のトンネル用セグメント。
【請求項5】
前記斜材の端部は、レ形形状、L形鋼付、円弧状鋼板付、曲げ鋼板付のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のトンネル用セグメント。
【請求項6】
前記斜材の接合方法が、乾式接合方式であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のトンネル用セグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−281132(P2009−281132A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93375(P2009−93375)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】