説明

トンネル用吹付け機械及びこれを用いたトンネル施工方法

【課題】ズリ積込み機による作業と併行してモルタルまたはコンクリートの吹付け作業が行えるようにするとともに、製作費が安価で済むトンネル用吹付け機械を提供する。
【解決手段】クローラ式又はタイヤ式走行基台2に、ブーム最大伸長が少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブーム3を備えるとともに、このブーム3の先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズル6を保持した構造の吹付け機械とし、前記トンネル用吹付け機械1による吹付け作業に併行して、トンネル用吹付け機械1のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機12がズリ出し作業を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルへの吹付け作業と、掘削後のズリ出し作業とを併行して行えるようにしたトンネル用吹付け機械及びこれを用いたトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工では、掘削方法の違いにより全断面掘削工法、上部半断面先進工法、ロングベンチカット、ショートベンチカット、ミニベンチカット等のベンチカット工法などが存在するが、いずれにしてもトンネル施工手順は、概ね穿孔・装薬・発破の手順による発破掘削→ズリ搬出→支保工建込み→吹付けコンクリート施工→ロックボルト打設の工程を順に段階的に踏むことにより行われている。なお、前記支保工建込み、吹付けコンクリート施工およびロックボルト打設は、地山状況、トンネル施工方法および掘削方法等の違いによって省略されたり、順序が入れ替わることがある。
【0003】
従来の山岳トンネル施工では、前述のように穿孔作業と、ズリ搬出作業と、吹付けコンクリート作業とは、直列的工程で作業が行われており、これらの各作業工程が併行して行われることはなかった。
【0004】
近年、コスト削減に対する方策として急速施工が叫ばれているが、作業サイクルタイムの短縮化を可能にし得る最も効果的な方法は、安全かつ効率的に併行作業を可能とすることである。
【0005】
そこで、本出願人は下記特許文献1において、脚下端部に走行装置を備え自走可能とされる門型架台と、この門型架台の進行方向前部位置に装備された、アーム先端部に吹付けノズルを保持する吹付けロボットとからなり、かつ前記門型架台の内部を、ズリ積込み機および移動式削孔ジャンボ等のトンネル施工用機械が通行可能となっている移動式吹付け作業架台を提案し、ズリ積込み機による作業と併行して前記吹付けロボットによりモルタルまたはコンクリートの吹付け作業を行うようにしたトンネル施工方法を提案した。
【特許文献1】特開2000−226996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の移動式吹付け作業架台の場合には、内部をズリ積込み機および移動式削孔ジャンボ等のトンネル施工用機械が通過可能な構造とするため、装置規模が大きくなり、トンネル内の空間を大きく占有してしまう問題があった。また、急速施工が可能となり工期が短縮されるものの、製作費が嵩み、施工費が増大してしまうなどの問題があった。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、ズリ積込み機による作業と併行してモルタルまたはコンクリートの吹付け作業が行えるようにするとともに、製作費が安価で済むトンネル用吹付け機械及びこれを用いたトンネル施工方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、クローラ式又はタイヤ式の走行基台に、ブーム最大伸長が少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブームを備えるとともに、このブームの先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズルを保持したことを特徴とするトンネル用吹付け機械が提供される。
【0009】
上記請求項1記載の本発明においては、クローラ式又はタイヤ式の走行基台に、ブーム最大伸長が少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブームを備える、すなわち、市販又はリースが可能なブーム付走行重機の前記ブームの先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズルを保持したものである。従って、装置規模が小さくて済むようになるとともに、クレーン自体は市販又はリースされているものを使用し、ブーム先端にアタッチメントとして取り付ける吹付け装置のみを製作すれば足りるため、製作費も安価で済むようになる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、前記ブームの上面に吹付材付着防止用カバー材を設けるとともに、該吹付材付着防止用カバー材は、少なくとも前記吹付けノズルを保持する先端側ブームの伸縮操作を阻害しないように伸縮可能な構造となっている請求項1記載のトンネル用吹付け機械が提供される。
【0011】
請求項2記載の発明においては、前記ブームの上面には吹付材付着防止用カバー材を設けるようにするものである。吹付材の跳ね返りによってブームに吹付材が付着し、この状態のままブームを伸縮させると、ブームの挿入部でモルタル等の噛み込みを起こし、ブームの伸縮操作ができなくなる虞があるため、前記吹付材付着防止用カバー材を設けることにより、吹付材のブームへの付着を未然に防止する。この場合、ブームの内の先端側ブームは吹付け作業に当たり、吹付けノズルの位置決めのために伸縮操作する必要があるため、前記吹付材付着防止用カバー材は、先端側ブームの伸縮操作を阻害しないように伸縮可能な構造とする。
【0012】
請求項3に係る発明として、前記請求項1、2いずれかに記載されるトンネル用吹付け機械を用いたトンネル施工方法であって、
前記トンネル用吹付け機械をトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部を通過してトンネル切羽前部に移動した移動式削孔ジャンボにより穿孔・装薬などの発破掘削作業、及び/又はトンネル切羽前部に移動した機械掘削機により掘削作業を行うとともに、必要に応じて前記移動式削孔ジャンボによりロックボルト穿孔・打設等の作業を行い、
前記発破掘削後に、または機械掘削時或いはその後に、前記トンネル用吹付け機械を切羽手前のトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部をトラックが通行可能な状態としながら、モルタルまたはコンクリートの吹付け作業を行うとともに、この吹付け作業に併行して前記トンネル用吹付け機械のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機がズリ出し作業を行うことを特徴とするトンネル施工方法が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明においては、前記トンネル用吹付け機械を切羽手前のトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部をトラックが通行可能な状態とすれば、ズリ積込み機及びズリ搬出トラックが自由にトンネル切羽との間を往来できるようになるため、発破掘削後、または機械掘削時或いはその後に、前記トンネル用吹付け機械によりモルタルまたはコンクリートの吹付け作業を行うとともに、この吹付け作業に併行して前記トンネル用吹付け機械のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機がズリ出し作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上詳説のとおり本発明によれば、ズリ積込み機による作業と併行してモルタルまたはコンクリートの吹付け作業が行えるようになり、トンネル施工の効率化が図れるようになる。また、これに用いるトンネル用吹付け機械は、クローラ式又はタイヤ式の走行基台に、ブーム最大伸長が少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブームを備えるとともに、このブームの先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズルを保持した構造とするため、製作費は安価で済むようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0016】
〔トンネル用吹付け機械1の構造〕
図1は本発明に係るトンネル用吹付け機械1の側面図、図2はその平面図、図3はその正面図である。
【0017】
前記トンネル用吹付け機械1は、図1〜図3に示されるように、クローラ式又はタイヤ式走行基台2に、ブーム最大伸長Lが少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブーム3を備えるとともに、このブーム3の先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズル6を保持した構造としたものである。
【0018】
前記クローラ式又はタイヤ式走行基台2に、ブーム最大伸縮長が少なくとも15m以上、好ましくは18m以上とされる伸縮自在のブーム3を備える基台及びブーム構造部分については、例えばブーム式高所作業車の基台及びブーム構造部分をそのまま転用することが可能である。
【0019】
前記ブーム3の最大伸長Lが、15m未満の場合には、吹付け作業に併行して前記トンネル用吹付け機械1のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機12がズリ出し作業を行う空間を確保することが困難となるため、本吹付け機械1では少なくとも15m以上のブーム長を備えるものが使用される。
【0020】
前記トンネル用吹付け機械1のブーム3は、図示例では先端側ブーム3A、中間ブーム3B及び基端側ブーム3Cの3段伸縮構造となっており、前記先端側ブーム3A、中間ブーム3Bの上面に吹付材付着防止用カバー材4(以下、単にカバー材という。)が設けられている。前記先端側ブーム3Aは、吹付け作業時に吹付けノズル6の位置決めのために伸縮操作されるため、前記カバー材4は、先端側ブーム3Aの伸縮操作を阻害しないように伸縮可能となっている。すなわち、前記先端側ブーム3Aの先端部を固定端として、先端側ブーム3Aに沿ってブラケット状に支持された先端側カバー材4Aを設けるとともに、前記中間ブーム3Bの先端部を固定端として中間ブーム3Bに沿ってブラケット状に支持された基端側カバー材4Bを設け、前記先端側カバー材4Aと基端側カバー材4Bとが上下の関係で重なり合うようにすることにより、前記カバー材4がブーム3の伸縮操作を阻害しないようになっている。
【0021】
一方、前記吹付け装置5は、詳細には図4に示されるように、先端側ブーム3Aに連結されたブラケット7により旋回用油圧モータ8を支持するとともに、この旋回用油圧モータ8の回転軸部9の先端で、吹付けノズル6の基端側を揺動可能に軸支し、かつ前記回転軸部9の中間と前記吹付けノズル6の最基端部とを揺動用油圧シリンダ10によって連結した構造となっている。従って、前記吹付けノズル6は、前記回転軸部9の回転によってトンネル周方向に旋回自在とされ、かつ前記揺動用油圧シリンダ10の伸縮操作によりトンネル軸方向に揺動自在となっている。
【0022】
〔トンネル施工手順〕
以下、前記トンネル用吹付け機械1を用いたトンネル施工手順について図5に基づいて詳述する。なお、図示の例はミニベンチ工法の例であるため、その工法に沿った作業手順に従って説明することとする。
【0023】
(ロックボルト穿孔および装薬のための切羽穿孔等)
図5(A)に示されるように、前記トンネル用吹付け機械1をトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部を通過してトンネル切羽前部に移動したホイール式削孔ジャンボ11により、ロックボルト穿孔・打設および切羽穿孔・装薬を行う。
【0024】
切羽に対する穿孔が完了し、かつ装薬が完了したならば、図4(B)に示されるように、前記ホイール式削孔ジャンボ11を後方に待避させ発破を行う。
【0025】
なお、本例では発破掘削による例について述べたが、掘削作業は自由断面掘削機を用いた機械掘削とすることでもよい。この場合、ロックボルト打設が必要とされる場合には、移動式削孔ジャンボ11を併用してロックボルト穿孔およびロックボルト打設を行うようにする。
【0026】
〔ズリ出し作業〕
発破作業が完了したならば(または機械掘削作業時或いはその後に)、図5(C)に示されるように、前記トンネル用吹付け機械1を切羽手前のトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部をズリ積込み機12及びトラック13が通行可能な状態としながら、前記トンネル用吹付け機械1によりモルタルまたはコンクリートの吹付け作業を行うとともに、この吹付け作業に併行して前記トンネル用吹付け機械1のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機12がズリ出し作業を行うようにする。前記トンネル用吹付け機械1は吹付け作業を終えたならば、速やかにトンネル後方側に待避する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るトンネル用吹付け機械1の側面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】その正面図である。
【図4】吹付け装置5の拡大側面図である。
【図5】(A)〜(C)はトンネル施工手順を示す作業要領図である。
【符号の説明】
【0028】
1…トンネル用吹付け機械、2…走行基台、3…ブーム、3A…先端側ブーム、3B…中間ブーム、3C…基端側ブーム、4…カバー材、4A…先端側カバー材、4B…基端側カバー材、5…吹付け装置、6…吹付けノズル、11…ホイール式削孔ジャンボ、12…ズリ積込み機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローラ式又はタイヤ式の走行基台に、ブーム最大伸長が少なくとも15m以上とされる伸縮自在のブームを備えるとともに、このブームの先端に、旋回及び揺動自在とされる吹付けノズルを保持したことを特徴とするトンネル用吹付け機械。
【請求項2】
前記ブームの上面に吹付材付着防止用カバー材を設けるとともに、該吹付材付着防止用カバー材は、少なくとも前記吹付けノズルを保持する先端側ブームの伸縮操作を阻害しないように伸縮可能な構造となっている請求項1記載のトンネル用吹付け機械。
【請求項3】
前記請求項1、2いずれかに記載されるトンネル用吹付け機械を用いたトンネル施工方法であって、
前記トンネル用吹付け機械をトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部を通過してトンネル切羽前部に移動した移動式削孔ジャンボにより穿孔・装薬などの発破掘削作業、及び/又はトンネル切羽前部に移動した機械掘削機により掘削作業を行うとともに、必要に応じて前記移動式削孔ジャンボによりロックボルト穿孔・打設等の作業を行い、
前記発破掘削後に、または機械掘削時或いはその後に、前記トンネル用吹付け機械を切羽手前のトンネル内通路の片側に寄せ、その脇部をトラックが通行可能な状態としながら、モルタルまたはコンクリートの吹付け作業を行うとともに、この吹付け作業に併行して前記トンネル用吹付け機械のブーム下の空間内を利用してズリ積込み機がズリ出し作業を行うことを特徴とするトンネル施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−2475(P2006−2475A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181331(P2004−181331)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】