説明

トンネル監視方法

【課題】地滑りによるトンネル坑内挙動を推定可能とする。
【解決手段】情報処理装置100が、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式110に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値114を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理と、クリープひずみ速度と応力速度との関係式113に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、応力速度に関する管理基準値115として格納する処理と、トンネル坑内支保の単位時間あたりの応力値変化たる応力速度と、記憶手段101における管理基準値115とを比較し、応力速度が管理基準値115に達した場合に所定情報を出力する処理とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル監視方法に関するものであり、具体的には、地滑りによるトンネル坑内挙動を推定可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地滑り地帯で工事を行う場合には、対象地山等に対して伸縮計や傾斜計を設置して地滑り動態観測を行うことが多い。また、こうした地滑り地帯でトンネル工事を行う場合、トンネル坑内の支保に生じている応力を計測し、この計測値が管理基準を超えないよう施工管理することがある。こうした地滑り等の監視を行う技術としては、例えば、被監視点に設置されるターゲットと、監視点から被監視点のターゲットまでの距離と水平方向及び鉛直方向の角度を経時的に計測する測距・測角手段と、該測距・測角手段により得られた測定データから被監視点の座標値を算出して経時的な変位挙動の監視を行う監視手段とを備えたことを特徴とする建造物・地盤挙動監視装置(特許文献1)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−21636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来においては、上述のようにトンネル坑外での地滑り挙動の監視と、トンネル坑内での支保応力の監視とをそれぞれ独立に行って、両者の連携を考慮することは無かった。そのため、例えば想定地滑り面と交差するトンネルに関して、地山での地滑りによりトンネル支保への応力増大が急速に進んだ時(=いわゆるクリープ曲線における三次クリープの進行時等)、従来通り、管理基準による応力値管理を適用していても、対策工の実施が遅れる恐れもあった。
【0005】
そこで本発明では、地滑りによるトンネル坑内挙動を推定可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のトンネル監視方法は、情報処理装置が、以下の処理を実行するものとなる。すなわち、情報処理装置は、記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理を実行する。
【0007】
また、前記情報処理装置は、前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理を実行する。
【0008】
また、前記情報処理装置は、トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理を実行する。
【0009】
なお、前記トンネル監視方法において、情報処理装置が、トンネル坑外のひずみを計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりのひずみ変化をひずみ速度として算定し、当該ひずみ速度と、前記記憶手段における管理基準値(a)とを比較し、ひずみ速度が前記管理基準値(a)に達した場合に、前記各処理を実行する、としてもよい。
【0010】
また、本発明のトンネル監視装置は、トンネル監視を行う情報処理装置であって、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)、トンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式を微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、ひずみ速度に関する所定の管理基準値の各データを保持する記憶手段を備えている。
【0011】
また、前記情報処理装置は、記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理と、前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理と、トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理とを実行する演算手段を備えている。
【0012】
また、本発明のトンネル監視プログラムは、情報処理装置に、以下の処理群を実行させるものである。すなわち前記処理群とは、記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理を含んでいる。
【0013】
また前記処理群は、前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理を含む。
【0014】
また、前記処理群は、トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理を含んでいる。
【0015】
また、本発明におけるトンネル監視方法は、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する工程と、前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として特定する工程と、トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達したか否か判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地滑りにより生じるトンネル坑内挙動の推定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態におけるトンネル監視方法の適用例を示す図である。
【図2】本実施形態における監視サーバ(トンネル監視装置)のハードウェア構成例を示す図である。
【図3】ひずみ速度とクリープ破壊時間の関係を示すグラフである。
【図4】本実施形態におけるトンネル坑外におけるひずみ速度の管理基準値例を示す図である。
【図5】本実施形態におけるクリープひずみと時間との関係を示すグラフである。
【図6】本実施形態における吹付けコンクリート応力と経過時間の関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態におけるクリープひずみ速度と応力速度の各基準値の関係を示す図である。
【図8】本実施形態におけるトンネル監視方法の処理フロー例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
−−−適用例−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態におけるトンネル監視方法の適用例を示す図である。本実施形態のトンネル監視方法は、トンネル坑外での地滑り挙動=ひずみ速度の観測と、トンネル坑内での支保応力の挙動=応力速度の観測とを互いに連携させ、地滑りによるトンネル坑内挙動を推定可能とする技術となる。従って、例えば想定地滑り面と交差するトンネルに関して、地山での地滑りによりトンネル支保への応力増大が急速に進むタイミング(=いわゆるクリープ曲線における三次クリープの進行時等)より適宜前に、支保工補強等の各種対策工の実施を行うことができることとなる。
【0019】
ここでは図1のように、地滑り面15を有した地山10に施工されるトンネル20に関して、本実施形態のトンネル監視方法を適用する例を示す。前記地山10は、例えば所定の基盤岩の上位に、未固結堆積物、段丘堆積物、崖錐、地滑り崩積土などといった脆弱な地層が形成されていて、ある斜面には地滑り面15が生じている。この地滑り面15は、トンネル坑口21の付近において、トンネル駆体25と接している。つまり、トンネル20は想定される地滑り面15と交差している。前記地滑り面15での地滑りが実際に生じると、その崩落土塊がトンネル駆体25を押圧し、結果的に支保工26への応力が増大することになる。従って、トンネル付近で地滑り挙動が生じた場合、坑内では地山変位に伴い各支保部材に変化が生じると考えられる。前記支保工26には、トンネル支保工として一般的に採用される、NATM工法による吹き付けコンクリートや、各種鋼材による支保工などが例としてあげられる。
【0020】
こうした地山10と、当該地山10に施工されたトンネル20には、挙動観測用の装置が設置される。例えば、トンネル20の坑内には、支保工26に対して応力計40が設置されている。一方、地山10の斜面には、斜面伸縮を検知する伸縮計50が設置される。また、地山10における地中のうち、地滑り面15の地中には、地中沈下計51が設置され、トンネル駆体25の近傍にはたわみ測定装置52が設置される。いずれも従来から地滑り挙動の観測に利用されてきた装置となる。
【0021】
これら装置40、50〜52は、いずれも通信インターフェイスを具備しており、一定時間毎の測定値データを通信回線140を介して中継器55に送信するものである。屋外の、しかも地滑り地帯などでの通信を行う場合、ケーブル回線よりも無線による通信回線を採用したほうが、急峻な地形や風雨等の条件に対応して通信を確立しやすい。よって、前記中継器55は、例えば無線中継器であるとする(勿論、無線ではなく有線回線に対応したものであってもよい)。
【0022】
また、前記中継器55は、前記計測値のデータを例えば無線の通信回線141を介して、トンネル監視事務所などの所定施設における、監視サーバ100(=トンネル監視装置)に送信する。この監視サーバ100が本実施形態のトンネル監視方法を主導する情報処理装置となる。監視サーバ100は、トンネル坑内の支保工26における応力速度が所定の管理基準値に達した場合に、対策工や避難開始の指示といった所定情報を、警告灯120、現場係員の携帯電話機200などの出力手段に出力する。携帯電話機200への前記所定情報の通知を行うため、当該監視サーバ100は当然ながら携帯電話モジュールも具備している。
【0023】
続いて、前記監視サーバ100のハードウェア構成について説明する。図2は、本実施形態における監視サーバ100のハードウェア構成例を示す図である。監視サーバ100は、ハードディスクドライブなど不揮発性の記憶手段101、RAMなどの不揮発性の記憶手段であるメモリ103、前記記憶手段101に保持しているプログラム102を前記メモリ103に読み出して実行するCPUなどの演算手段104、キーボードやマウスといった入力手段105、ディスプレイやスピーカー、プリンタ等の出力手段106、および、NIC(Network Interface Card)やモデム、携帯電話モジュールなど、他端末と通信する通信手段107を備えている。監視サーバ100が本実施形態のトンネル監視方法の実行に必要な機能は、前記プログラム102を演算手段104が実行することで実装される機能と言える。
【0024】
前記記憶手段101には、プログラム102の他に、処理に必要な関係式や値のデータが格納されている。記憶手段101に格納されている関係式は、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式110(=関係式(A))、前記関係式110を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式111(=関係式(B))、トンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式112(=関係式(C))、および、前記関係式(C)を微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式113(=関係式(D))となる。また、記憶手段101に格納されている値は、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値114(=管理基準値(a))、および、トンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値115(=管理基準値(b))となる。上記各関係式110〜113、および管理基準値114〜115の実際については後述する。
【0025】
続いて、監視サーバ100の演算手段104がプログラム102により実現する処理について説明する。監視サーバ100の演算手段104は、記憶手段101に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式110に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値114を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理を実行する。前記管理基準値114は、トンネル監視の担当者等が入力手段105にて入力し、これを監視サーバ100が受け付けて記憶手段101に格納した値となる。本実施形態のトンネル監視方法の処理が実行される度に、前記担当者らが管理基準値114を指定し、これを監視サーバ100があらためて保持するとしてもよい。
【0026】
また、前記監視サーバ100の演算手段104は、クリープひずみ速度と応力速度との関係式113に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、当該クリープ破壊時間を前記関係式111に適用して算定したクリープひずみ値、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値114の各値を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値115として記憶手段101に格納する処理を実行する。
【0027】
前記トンネル坑内支保の許容限界応力は、トンネル監視の担当者等が入力手段105にて入力し、これを監視サーバ100が受け付けて記憶手段101に格納した値となる。本実施形態のトンネル監視方法の処理が実行される度に、前記担当者らが前記トンネル坑内支保の許容限界応力を指定し、これを監視サーバ100があらためて保持するとしてもよい。
【0028】
なお、前記関係式110を積分して得られるのが、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式111となる。また、この関係式111が示す曲線との相似曲線を示すのが関係式112となる。この関係式112は、前記関係式111における前記クリープ破壊時間でのクリープひずみ値と、トンネル坑内支保の許容限界応力との比と、前記関係式111における所定時点でのクリープひずみ値と、所定時点でのトンネル坑内支保の応力との比とが等しいことを示す数式となる。
【0029】
また、関係式112を微分して得られるのが、クリープひずみ速度と応力速度との関係式113となる。こうして前記関係式110から順次得られる対応関係となっている各関係式111〜113は、予め記憶手段101にて格納されており、必要に応じて演算部104が呼び出して演算に利用することになる。
【0030】
また、前記監視サーバ100の演算手段104は、トンネル坑内の支保工26の応力値を計測するセンサ=応力計40より、所定時間毎にその計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段101における管理基準値115とを比較し、該当測定値が示す応力速度が前記管理基準値115に達した場合に所定情報(例:対策工や避難開始の指示といった警告情報など)を出力手段(例:警告灯120、現場係員の携帯電話機200など)に出力する処理を実行する。当然ながら、前記所定情報のデータと、出力先の指定情報(データ通信先を指定するネットワークアドレスなど)について、監視サーバ100は記憶手段101にて保持している。
【0031】
なお、前記監視サーバ100の演算手段104は、トンネル坑外のひずみを計測するセンサ(=伸縮計50や地中沈下計51、たわみ測定装置52など)より所定時間毎に得ている計測値に基づいて算定した前記ひずみ速度が、前記記憶手段101における管理基準値114に達した場合、前記各処理を実行する、とすれば好適である。
【0032】
ここで、前記監視サーバ100が演算部104によりプログラム102を実行することで、必要な機能を実装する例をあげたが、必要な機能を実現する電子回路等を監視サーバ100が備えていて、同様の処理を実行するとしても勿論問題ない。
【0033】
−−−関係式の具体例と算定内容−−−
続いて、上述の関係式110〜113、および管理基準値114〜115について、その具体例と互いの関係について説明する。地山での地滑り発生時期を予測する一般的手法として、斎藤らによって提案されたクリープ破壊理論(例:第三次クリープによる斜面崩壊時期の予知、地すべりVol.4,No3,pp.1-8、など)が存在する。このクリープ破壊理論では、ひずみ速度とクリープ破壊時間との間に一定の関係を見いだしている。この関係は、図3に示すように、両対数のグラフにおいて直線関係となっている。このグラフを定式化したものが、いわゆる斉藤の式と呼ばれる次式となる。この式が前記関係式110となる。
logt=a-b・logε・・・・(式1)
ここに、tr::破壊時間
ε:ひずみ速度
a、b:常数(a=2.33 b=0.916)
【0034】
一方、地滑り地形でのトンネル坑外におけるひずみ速度の管理基準値114は、図4の表1に示すパターンが一般的によく用いられている。本実施形態では、前記管理基準値114(警報設定値)の例として、1mm/時間(2時間継続)を採用している。図4に例示した表1において、この“1mm/時間”の値は、計測機器が「伸縮計」ならば、「警戒・応急対策」を要するものとなる。
【0035】
この管理基準値114としての“1mm/時間”の値は、図3のグラフの単位に合わせるとひずみ速度ε=1.7×10−6となり、これを前記式1にあてはめると、図3のグラフにも示すように、クリープ破壊時間tは9095分(約6.3日)後となる。
【0036】
本実施形態では、上述の斉藤の式を前記関係式110として採用した例を示しているが、そのほかにも、実際の管理対象となる地山より試験土を採取して様々な条件でクリープ破壊試験を実施して図3と同様のグラフを作成し、このグラフを定式化して関係式110を得るとしてもよい。
【0037】
ここで、上記の式1において、ある任意の時(t)におけるひずみ速度は、
log(tr-t)=a−logε ・・・・(式2)
となる。なお、bは1に近いため、1とする。

また、上記の式2を積分し、t=tの時、ε=0 とすると、
ε(t)=A・ln((t-t)/(t−t)) ・・・(式3)
ここに、A:102.33
が得られる。この式3は前記関係式111となる。
【0038】
ひずみ速度の管理基準値114を式1に与えることで破壊時間(t)は既に算定しているから、上記の式3によって、クリープひずみと時間との関係が得られることになる。前記クリープ破壊時間tを9095分(約6.3日)、t=0として式3に代入し、クリープひずみと時間との関係を求めると、図5に示すグラフとなる。
【0039】
一方、トンネル坑内の支保工26における、応力速度に関する管理基準値115は、以下の条件で検討を行った。
1)地滑り発生時、トンネル坑内の吹付けコンクリート=支保工26も地滑り変位と同様の挙動を示すものと仮定する。
2)吹付けコンクリートは耐荷力に限界があり、その後は、耐荷力を保持することが出来ない。このため、図5のグラフにおける破壊時間=9095分に至る前に、耐荷力あるいは許容値に達するものとして管理を行う。本実施形態の場合、破壊する1日前に許容限界応力値に達することとしており、吹付けコンクリートの配合条件により適宜変更可能である。
3)吹付けコンクリートは、強度が十分発現した硬化後の段階を対象とするため、許容限界応力の値は設計基準強度(f’ck)に係数を乗じて、”0.85×f’ck”とする。設計基準強度が“18N/mm”であるとすれば、許容限界応力値は、“18×0.85≒15.3”N/mmとなる。
4)トンネル掘進時に発生した応力(σc0)を基準に、その後の応力の増加率(応力速度)で管理する。
【0040】
上記の条件で、吹付けコンクリートにおける応力と経過時間との関係を求めると、前記クリープ破壊時間t=9095分でのクリープひずみ値ε(前記関係式111が示す図5のグラフ参照)と、トンネル坑内支保の許容限界応力σc、Lmt=15.3N/mmとの比と、前記関係式111における所定時点でのクリープひずみ値ε(t)と、所定時点でのトンネル坑内支保の応力σ(t)との比とが等しい関係にあることを示す、σ(t)-σc0:ε(t)=σc、Lmt−σc0:ε、という式が得られる。ただし、本実施形態では上述の条件のように、トンネル掘進時に発生した応力σc0(=例えば、6N/mm)を基準に、その後の応力の増加率(応力速度)を管理しているため、式中にこのσc0で値を減算するよう措置している。この式を変形することで次の式4=トンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式112が与えられる。
σ(t)={(σc、Lmt−σco)/ε}×ε(t)+σc0 ・・・・(式4)
この式4は、前記関係式111たる式3が示す曲線との相似曲線を示す式となっている。
また、前記式4は、
σ(t)=[(σc、Lmt−σc0)/{A・ln((t-t)/(t−t、Lmt))}]×ε(t)+σc0 ・・・・(式5)
ここで、ε:吹付けコンクリートが許容値に達するまでのひずみ量
ε=A・ln((t-t)/(t−t、Lmt))
と展開できる。上記式5で、吹付けコンクリート=支保工26の応力値が許容限界応力値にまでに達し、破壊時間trに至るまでの時間を例えば「1日」として、グラフ化すると、図6のとおりとなる。なお、トンネル掘進時に発生した応力σc0を“6N/mm”としている。図6に示すとおり、このグラフの示す曲線は、図5のグラフと相似曲線であり、上述したσ(t)-σc0:ε(t)=σc、Lmt−σc0:ε、の関係にある。
【0041】
他方、上述の式5を時間で微分し、クリープひずみ速度と応力速度の関係を求めると、以下のとおりとなる。この式6が前記関係式113となる。
/dt=[(σc、Lmt−σc、0)/{A・ln((t-t)/(t−t、Lmt))}]・dε/dt ・・・・(式6)
ここで、σc、Lmt=15.3N/mm、σc、0=6N/mm、A=102.33、t=9095min、t=0、t、Lmt=7660min(吹付けコンクリートの応力値が許容限界応力値に達するまでの時間であり、破壊時間tに先立つこと1日としている)、dε/dt=1mm/hour、であるとすれば、dσ/dt=吹付けコンクリート応力の管理基準値115は、1.3 Mpa/日となる。同様の手順で、図4の表1にて示した各管理基準値114(=クリープひずみ速度)に対する「応力速度」=管理基準値115を求めると、図7の表2のとおりとなる。
【0042】
−−−トンネル監視方法のフロー−−−
次に、本実施形態のトンネル監視方法の処理フローについて説明する。図8は、本実施形態のトンネル監視方法の処理フロー例を示す図である。なお、本実施形態では情報処理装置がトンネル監視方法を実行する例を示すが、トンネル監視の担当者等が同様の処理を手作業で行うとしてもよい。その場合、情報処理装置が記憶手段に記憶している式や値は、書籍等の適宜な媒体に記載されており、これを人が利用することで各種算定や判定(応力速度が管理基準値に達したか否かの判定等)を行うことになる。
【0043】
この場合、まず、監視サーバ100の演算手段104は、記憶手段101に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式110を読み出し(s100)、この関係式110に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値114を適用して、クリープ破壊時間を特定する(s101)。上記の実施例であれば、前記管理基準値114として“1mm/hour”=1.7×10−6を、関係式110たる前記式1にあてはめると、クリープ破壊時間tを9095分(約6.3日)と特定できる。
【0044】
続いて、前記監視サーバ100の演算手段104は、クリープひずみ速度と応力速度との関係式113たる前記式6に、前記特定しておいたクリープ破壊時間t=9095分、当該クリープ破壊時間tを前記関係式111たる前記式3に適用して算定したクリープひずみ値ε、トンネル坑内支保の許容限界応力σc、Lmt=15.3N/mm、トンネル掘進時に発生した応力σc0=6N/mm、および前記ひずみ速度に関する管理基準値114=1mm/hour、の各値を適用して応力速度を算定する(s102)。この例では、この応力速度は、1.3 Mpa/日となる。
【0045】
前記監視サーバ100の演算手段104は、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値115として記憶手段101に格納する(s103)。
【0046】
その後、前記監視サーバ100の演算手段104は、トンネル坑外のひずみを計測するセンサ(=伸縮計50や地中沈下計51、たわみ測定装置52など)より所定時間毎に計測値を取得し、この計測値に基づいたひずみ速度の算定を行う(s104)。また、前記監視サーバ100の演算手段104は、トンネル坑内の支保工26の応力値を計測するセンサ=応力計40より、所定時間毎にその計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定する(s105)。
【0047】
次に、監視サーバ100の演算手段104は、前記ステップs104、s105でそれぞれ算定したひずみ速度を、前記記憶手段101における管理基準値114=“1mm/hour”と、また応力速度を、前記管理基準値115=“1.3 Mpa/日”とそれぞれ比較する(s106)。
【0048】
前記監視サーバ100の演算手段104は、前記ステップs106の比較処理で、ひずみ速度および応力速度ともに該当管理基準値に達していないと判定した場合(s106:いずれも問題なし)、処理を前記ステップs104に戻す。
【0049】
一方、前記ステップs106の比較処理で、ひずみ速度が前記管理基準値114に達したのみであった場合(s106:ひずみ速度のみNG)、前記監視サーバ100の演算手段104は、従来の地滑り監視時における警戒情報などを出力手段に出力する(s107)。
【0050】
他方、前記ステップs106の比較処理で、応力速度が前記管理基準値115に達したのみであった場合(s106:応力速度のみNG)、前記監視サーバ100の演算手段104は、従来のトンネル坑内監視時における警戒情報などを出力手段に出力する(s108)。
【0051】
また、前記ステップs106の比較処理で、ひずみ速度が前記管理基準値114に達し、さらには応力速度が前記管理基準値115に達した場合(s106:ひずみ速度、応力速度ともNG)、前記監視サーバ100の演算手段104は、地滑りによるトンネル坑内への影響に関する所定情報(例:対策工や避難開始の指示といった警告情報など)を出力手段(例:警告灯120、現場係員の携帯電話機200など)に出力する(s109)。
【0052】
以上、本実施形態によれば、地滑りにより生じるトンネル坑内挙動の推定が可能となる。また、地滑りに伴うトンネル坑内挙動すなわち応力速度の管理基準値を適切に特定できることで、地滑り挙動とトンネル坑内挙動とを別個に考慮していた従来より、地滑りによるトンネル変状の予測等を精度良く行えることとなる。このことは、地滑り挙動に応じたトンネル損傷に先回りして早期の措置を行えることにもつながる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 地山
15 地滑り面
20 トンネル
21 トンネル坑口
25 トンネル駆体
26 支保工
40 応力計
50 伸縮計
51 地中沈下計
52 たわみ測定装置
55 中継器
100 監視サーバ(=トンネル監視装置)
101 記憶手段
102 プログラム
103 メモリ
104 演算部
105 入力手段
106 出力手段
107 通信手段
110 地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式110(=関係式(A))
111 地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式111(=関係式(B))
112 トンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式112(=関係式(C))
113 クリープひずみ速度と応力速度との関係式113(=関係式(D))
114 トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値114(=管理基準値(a))
115 トンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値115(=管理基準値(b))
120 警告灯
140、141 通信回線
200 携帯電話機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が、
記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理と、
前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理と、
トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理と、
を実行することを特徴とするトンネル監視方法。
【請求項2】
請求項1において、
情報処理装置が、
トンネル坑外のひずみを計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりのひずみ変化をひずみ速度として算定し、当該ひずみ速度と、前記記憶手段における管理基準値(a)とを比較し、ひずみ速度が前記管理基準値(a)に達した場合に、前記各処理を実行する、
ことを特徴とするトンネル監視方法。
【請求項3】
トンネル監視を行う情報処理装置であって、
地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)、トンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式を微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、ひずみ速度に関する所定の管理基準値の各データを保持する記憶手段と、
記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理と、
前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理と、
トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理とを実行する演算手段と、
を備えることを特徴とするトンネル監視装置。
【請求項4】
情報処理装置に、
記憶手段に記憶している、地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する処理と、
前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として記憶手段に格納する処理と、
トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達した場合に所定情報を出力手段に出力する処理と、
を実行させることを特徴とするトンネル監視プログラム。
【請求項5】
地滑りに関するひずみ速度とクリープ破壊時間との関係式(A)に、トンネル坑外のひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して、クリープ破壊時間を特定する工程と、
前記関係式(A)を積分した、地滑りに関するクリープひずみと経過時間との関係式(B)が示す曲線との相似曲線を示すトンネル坑内支保の応力と経過時間との関係式(C)について、これを時間で微分したクリープひずみ速度と応力速度との関係式(D)に、前記特定しておいたクリープ破壊時間、トンネル掘進時に発生した応力、トンネル坑内支保の許容限界応力に達するまでの時間、所定のトンネル坑内支保の許容限界応力、および前記ひずみ速度に関する管理基準値(a)を適用して応力速度を算定し、これをトンネル坑内支保の応力速度に関する管理基準値(b)として特定する工程と、
トンネル坑内支保の応力値を計測するセンサより所定時間毎に計測値を取得し、単位時間あたりの応力値変化を応力速度として算定し、当該応力速度と、前記記憶手段における管理基準値(b)とを比較し、応力速度が前記管理基準値(b)に達したか否か判定する工程と、
を含むことを特徴とするトンネル監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256525(P2011−256525A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129207(P2010−129207)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(510157568)レヴェックスコンサルタント株式会社 (1)
【Fターム(参考)】