説明

トンネル脚部補強構造

【課題】トンネル脚部の補強において、余掘りや内空側への張り出しを不要としながら、鋼製支保工の軸力を分散させて沈下抑制を向上する。
【解決手段】トンネルの内周面に沿って設置される鋼製支保工1と、この鋼製支保工1の脚部と地盤との間に介設され、トンネル軸方向に面積を確保したベースプレート2と、を備える。このベースプレート2は、上下の平鋼板の間に複数本の角パイプを並べて一体化される。さらに、鋼製支保工1の脚部に一体化され、地山に沿ってトンネル軸方向に延びるウイングプレート3を備える。そして、ウイングプレート3を地山に固定するサイドパイル4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル脚部の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルにおいて、地山不良区間を掘削する場合、図5の右側断面に示すように、支持力不足による脚部沈下が問題となることが多い。
その脚部沈下抑制に着目した脚部補強工として、A.鋼製支保工の脚部近傍をあえて余掘りして地山側にその軸力を分散させる目的の冶具や鉄筋等を設置する手法(例えば特許文献1参照)や、B.トンネル内空側に同様な目的の冶具(例えば文献2参照)や袋体等を設置する手法(例えば特許文献3参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−19031号公報
【特許文献2】特開2010−53570号公報
【特許文献3】特許第2915257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記Aの手法は最も実績があり脚部補強工の標準工法となっているが、図5の左側断面に示すように、治具等設置時に地山の余掘りが不可欠であるため、余掘りエリア内での作業による安全性低下や掘削断面拡大による地山の不安定化という課題がある。
【0005】
また、前記Bの手法は余掘りを必要としないが、図5の左側断面に示すように、内空側に冶具等が張り出すため、切羽を掘削すると同時にその近傍に設置した場合には治具等が次の掘削の邪魔となり、また、下半掘削時には撤去する必要があるという課題がある。
【0006】
そして、前記A、Bの技術は、軸力を分散させるための治具等を付加した鋼製支保工とともに、その周辺部にやや遅れて施工される吹付けコンクリート壁・塊と一体となって脚部沈下を抑制する技術であるが、地山と鋼製支保工間の充填材としての役割も含むコンクリートが固結し支保工として所定の強度を発現するまでには時間を要す。
従って、その間は鋼製支保工と治具等のみでトンネル地山の荷重を支持する必要があるが、鋼製支保工の建込み時において、鋼製支保工と周辺地山が必ずしも接しておらず、地山荷重が鋼製支保工に伝達しない場合や、鋼製支保工の脚部と治具等が設置される地山(トンネル底盤)の表層部が緩んでおり、トンネル地山の荷重が作用すると鋼製支保工が沈下する場合もあり、結果的により地山を緩ませることで最終変位(沈下)量が増大するという課題がある。
【0007】
本発明の課題は、トンネル脚部の補強において、余掘りや内空側への張り出しを不要としながら、鋼製支保工の軸力を分散させて沈下抑制を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、トンネルの内周面に沿って設置される鋼製支保工と、この鋼製支保工の脚部と地盤との間に介設され、トンネル軸方向に面積を確保したベースプレートと、を備えるトンネル脚部補強構造を特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトンネル脚部補強構造であって、前記ベースプレートは、上下の平鋼板の間に複数本の角パイプを並べて一体化されることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のトンネル脚部補強構造であって、前記鋼製支保工の脚部に一体化され、地山に沿ってトンネル軸方向に延びるウイングプレートを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のトンネル脚部補強構造であって、前記ウイングプレートを地山に固定するサイドパイルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、余掘りや内空側への張り出しを不要としながら、トンネル脚部を補強することにより、鋼製支保工の軸力を分散させて沈下抑制を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用したトンネル脚部補強構造の一実施形態の構成を示すもので、内空側から見た正面図(a)と、その縦断面図(b)である。
【図2】図1のトンネル脚部補強構造部の斜視図である。
【図3】図2のベースプレートの側面図である。
【図4】図2のウイングプレートの正面図(a)と平面図(b)である。
【図5】トンネルの縦断正面図で、一方の脚部沈下とその対策として他方の脚部補強工を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明を適用したトンネル脚部補強構造の一実施形態の構成を示すもので、1は鋼製支保工、2はベースプレート、3はウイングプレート、4はサイドパイルである。
【0015】
トンネルの内周面に沿って設置される鋼製支保工1の脚部には、図示のように、ベースプレート2及びウイングプレート3が設けられ、ウイングプレート3は、必要に応じて地山に打設するボルトによるサイドパイル4により固定される。
図示例において、鋼製支保工1は、平行する一対のフランジ11をウェブ12で繋げたH形鋼により構成されており、その脚部下端には継手板13が設けられている。
【0016】
ベースプレート2は、鋼製支保工1の脚部と地盤との間に介設されるもので、トンネル軸方向に面積を確保するため、鋼製支保工1とほぼ同じ幅でトンネル軸方向に長い矩形状に形成されている。
このベースプレート2は、図3にも示すように、上下の平鋼板21の間に複数本(図示例では五本)の角パイプ22を並べて溶接により一体に構成された軽量化を図りつつ剛性の高いものとなっている。
【0017】
ウイングプレート3は、鋼製支保工1の脚部から地山に沿ってトンネル軸方向に延びるもので、ベースプレート2に重ねられる。
このウイングプレート3は、図4にも示すように、ベースプレート2とほぼ同じ幅でトンネル軸方向に長い矩形状の底板31の一側縁に沿って、鋼製支保工1の脚部から地山に沿ってトンネル軸方向に延びるウイング32を溶接して一体に構成されている。
【0018】
なお、底板31の中央部には一対の孔33が形成されて、ウイング32には打設用孔34がそれぞれ形成されている。
【0019】
以上のウイングプレート3は、ウイング32を一方のフランジ11に溶接して、鋼製支保工1の脚部に一体化される。
【0020】
次に、実施形態のトンネル脚部補強工について説明する。
先ず、鋼製支保工1とその脚部のトンネル軸方向に面積を確保したベースプレート2と一体化させたウイングプレート3を介したサイドパイル4により、鋼製支保工1の軸力を分散させる。
【0021】
そして、必要に応じて、鋼製支保工1の脚部のベースプレート2の下部に、図示しない例えば板ジャッキ(特開2005−53675号公報参照)を設置し、鉛直方向にジャッキアップすることにより、地山及び鋼製支保工1の初期沈下(変位)を抑制する。
【0022】
具体的には、掘削初期段階、すなわち、吹付けコンクリートの効果が出る前の段階において、トンネル内周面に沿って設置される鋼製支保工1の両脚部に備えたウイングプレート3の底板31を、地盤に敷いたベースプレート2の上に重ねる。これにより、鋼製支保工1に作用する軸力を脚部のトンネル軸方向に面積を確保したベースプレート2で分散する。
【0023】
そして、必要に応じて、ベースプレート2と地盤(トンネル底盤)の間に、図示しない可塑性のある例えば砂を詰めた袋体を配置して地山の不陸を除去する。続いて、ウィングプレート底板31とベースプレート2間に、図示しないが、例えば比較的薄肉の前記板ジャッキを設置した後、その板ジャッキに作動流体を供給してジャッキアップすることで、地山と鋼製支保工1及びベースプレート2を密着させ、地山及び鋼製支保工1の初期沈下を抑制する。
【0024】
なお、板ジャッキによるジャッキアップ後は、ウィングプレート底板31とベースプレートの間にできた空間に例えば鉄板等をかませた後、ジャッキダウンし、板ジャッキは回収して繰り返し使用する。
【0025】
また、既に建込み終了した鋼製支保工1と現在建込みが終了した鋼製支保工1間(片側ウィングプレート3背面を含む)に吹付けコンクリートの打設後は、必要に応じて、鋼製支保工1と一体化させたウイングプレート3を介してサイドパイル4を実施する。つまり、ウイング32の打設用孔34からボルトによるサイドパイル4を地山に打設して、その地山奥側に支持力を得てより一層の沈下抑制を企図する。
【0026】
以上、実施形態のトンネル脚部補強構造によれば、以下に列挙する効果が得られる。
1)設置が簡便で、余掘り・余吹きを必要としない。
2)内空側に冶具等が張り出さないため、掘削の邪魔にならない。
3)鋼製支保工1の脚部底面の面積を前記Aの手法等の従来技術と同程度とし、初期段階(吹付け前)において、従来技術と同様の軸力分散効果を確保する。
4)必要に応じ、ウィングプレート底板31の下部を板ジャッキ等で鉛直方向にジャッキアップすることにより、地山及び鋼製支保工1の初期沈下(変位)を抑制できる。
5)吹付け後はサイドパイル4を必要に応じて実施し、沈下抑制効果を高めることが可能となる。
6)ベースプレート2は、鋼製支保工1やウイングプレート3の下に「敷いている」だけなので、下半掘削時に容易に撤去可能となる。
7)ベースプレート2は転用が可能で経済的である。
【0027】
なお、以上の実施形態の他、ベースプレートやウイングプレートの形状など、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 鋼製支保工
11 フランジ
12 ウェブ
13 継手板
2 ベースプレート
21 平鋼板
22 角パイプ
3 ウイングプレート
31 底板
32 ウイング
33 継手ボルト用孔
34 サイドパイル打設用孔
4 サイドパイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内周面に沿って設置される鋼製支保工と、
この鋼製支保工の脚部と地盤との間に介設され、トンネル軸方向に面積を確保したベースプレートと、を備えることを特徴とするトンネル脚部補強構造。
【請求項2】
前記ベースプレートは、上下の平鋼板の間に複数本の角パイプを並べて一体化されることを特徴とする請求項1に記載のトンネル脚部補強構造。
【請求項3】
前記鋼製支保工の脚部に一体化され、地山に沿ってトンネル軸方向に延びるウイングプレートを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のトンネル脚部補強構造。
【請求項4】
前記ウイングプレートを地山に固定するサイドパイルを備えることを特徴とする請求項3に記載のトンネル脚部補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−112104(P2012−112104A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259636(P2010−259636)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】