説明

トンネル覆工コンクリートの打設管理方法

【課題】経験や感によることなく充填圧力を客観的に管理して、トンネル冠部の覆工空間に、高い充填圧力でコンクリートを充填打設できるトンネル覆工コンクリートの打設管理方法を提供する。
【解決手段】トンネル覆工用型枠10の外周面とトンネル内周の覆工面22との間のトンネル冠部13の覆工空間23に、流動状態のコンクリート25を、回転式の開閉蓋26が設けられたコンクリート投入口24から圧入して打設する際に、圧力計27を用いてトンネル冠部13に充填されたコンクリート25の圧力を管理する打設管理方法であって、圧力計27を、トンネル覆工用型枠10のトンネル冠部13に間隔をおいて複数配置し、トンネル覆工用型枠10の設計耐圧強度から、開閉蓋26の閉塞時の充填圧力の上昇分を差し引いた圧力を上限管理値として、圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧入を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、トンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入して充填する際に用いるトンネル覆工コンクリートの打設管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば山岳トンネル工法等のトンネル工法において、掘削したトンネルの内周面の地山を覆って構築されるトンネル覆工コンクリートを形成するための方法として、セントルと呼ばれるトンネル覆工用型枠を用いる工法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。トンネル覆工用型枠50は、例えば図10(a),(b)に示すように、例えば馬蹄形等のアーチ形状部分52を含む形状のトンネル53の内周面54に沿って、トンネル53の側壁部55から上部に亘って設置されるものであり、設置されたトンネル覆工用型枠50と、トンネル53の内周面54の吹き付けコンクリート56によって覆われる地山との間の覆工空間61に、好ましくは無筋コンクリートを打設して硬化させることにより、トンネル底部のインバート部51のコンクリートと連続させるようにして、覆工コンクリートが形成されることになる。
【0003】
また、トンネル覆工用型枠50としては、例えばパラセントルと呼ばれる組立式のトンネル覆工用型枠の他、スライドセントルと呼ばれる移動式のトンネル覆工用型枠が知られており、トンネル53の掘削作業の進行に伴なって、例えば10m程度の所定の覆工スパン毎にトンネル覆工用型枠50を据え付け直しながら、トンネル53の掘進方向の後方から前方に向かって、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネル53の側部及び上部の覆工コンクリートを順次打設形成して行くことになる。
【0004】
そして、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネルの側部及び上部の覆工コンクリートを打設するには、例えば図11(a)〜(d)に示すように、設置したトンネル覆工用型枠50に設けられた検査窓56からコンクリートを打設可能な高さ領域として、例えばトンネル53の側壁部55からアーチ形状部分52の肩部までの領域に対しては、検査窓56を介してコンクリート57を供給すると共に、バイブレータ58を検査窓56から挿入し、供給されたコンクリート57を締固めながらコンクリート57を打設する。しかる後に、検査窓56からコンクリート57を供給しながらバイブレータ58によって締固めることが困難な高さ領域として、トンネル53の冠部(クラウン部)59(図11参照)の領域に対しては、トンネル覆工用型枠50の天端部に設けた吹き上げ口としてのコンクリート投入口60から、コンクリートを吹き上げ方式で打ち込み、直接バイブレータを用いて締固めを行うことなく冠部59のコンクリート57を形成するパターンが採用されている。
【0005】
より具体的には、所定位置にトンネル覆工用型枠50を設置した後に、例えば側壁部55の下部より、下段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(図11(a)参照)と、さらに側壁部55の上部のアーチ形状部分52に向かって、中段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(図11(b)参照)と、さらにアーチ形状部分52の冠部59の手前まで、上段の検査窓56及び必要に応じてコンクリート投入口60を介してコンクリート57を流し込みながら、バイブレータ58を用いて締固める工程(図11(c)参照)と、冠部59の既設覆工コンクリート62側の部分からコンクリート投入口60を介して順次コンクリート57を圧入し、直接バイブレータを用いて締固めを行うことなく妻型枠63までコンクリートを充填する工程(図11(d)参照)とにより、覆工コンクリートが打設されることになる。
【特許文献1】特開2001−280094号公報
【特許文献2】特開2003−262096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来のトンネル覆工用型枠50を用いた覆工コンクリートの打設方法では、トンネル冠部(クラウン部)59に打設されたコンクリート57の締固めを行うことができないことから、形成された冠部59の覆工コンクリートの品質を把握することが難しい。
【0007】
ここで、コンクリートは、セメント、水、粗骨材、細骨材等をミキサー等を用いて十分に攪拌混合して形成されるものであり、打設作業時に用いられる固まる前の流動状態の生コンクリートは、セメント粒子や骨材粒子の間に間隙水や微細な空気が入り込んでおり、いわゆるビンガム流体として挙動することが知られている。このため、流動状態のコンクリートは、トンネル冠部の覆工空間等の封入空間に十分に充填された後に、さらにコンクリートを圧入しようとした場合に、充填圧力を上昇させつつ、封入空間にコンクリートを追加圧入することが可能な物性を備えている。また、封入空間にコンクリートが十分に充填された後に、充填されたコンクリートを例えばバイブレータを用いて締固めると、締固めの作用によって、セメント粒子、骨材粒子、水、微細空気等の間で再構成が生じて、充填圧力を低下させる物性を備えている。
【0008】
一方、コンクリートは、封入空間に充填された場合、充填圧力が高い程、一軸圧縮強度、充填率、あばたの発生率等の物性について、優れた品質のものが得られることが知られている。したがって、トンネル冠部の覆工空間には、できるだけ高い圧力でコンクリートを充填することにより、品質の良好な覆工コンクリートが得られることになる。
【0009】
しかしながら、従来のトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入して充填する方法では、コンクリートの打ち止めの判断は、主として現場の指揮監督者の経験や感に頼っており、例えば覆工空間へのコンクリートの充填が不十分であると空隙が残り易くなり、過度に充填し過ぎると、組み付けたトンネル覆工用型枠の耐圧強度を越えて変形や損傷を与えることになる。したがって、コンクリートの充填圧力を客観的に管理して、トンネル覆工用型枠に変形や損傷を与えることなく高い充填圧力でトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを充填打設することにより、品質の良好な覆工コンクリートを得るための新たな管理手法の開発が望まれている。
【0010】
また、トンネル覆工用型枠50の天端部に設けた吹き上げ口としてのコンクリート投入口から、コンクリートを吹き上げ方式で打ち込む場合、通常はコンクリート投入口にコンクリートポンプからの打設配管の先端を接続して、コンクリートを圧入することになるが、コンクリート投入口には、当該投入口を開閉するための回転式の開閉蓋が取り付けられていて、コンクリートを打設した後に、コンクリート投入口を閉塞するのが一般的である。このため、開閉蓋を開放した状態から上方に押し上げるように回動させて投入口を閉塞する際に、コンクリート投入口の直前部分のコンクリートを覆工空間内に同時に押し込むことになるので、このような開閉蓋の閉塞時に押し込まれるコンクリートによる圧力の上昇分を考慮に入れて充填圧力を管理する必要がある。
【0011】
本発明は、このような従来の技術の課題に着目してなされたものであり、経験や感によることなく充填圧力を客観的に管理して、トンネル冠部の覆工空間に、高い充填圧力でコンクリートを充填することにより、品質の良好な覆工コンクリートを得ることのできるトンネル覆工コンクリートの打設管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間のトンネル冠部の覆工空間に、コンクリートを回転式の開閉蓋が取り付けられたコンクリート投入口から圧入して打設する際に、圧力計を用いて前記トンネル冠部に充填されたコンクリートの圧力を管理することにより、品質の良好なトンネル冠部の覆工コンクリートが得られるようにするトンネル覆工コンクリートの打設管理方法であって、前記圧力計を、前記トンネル覆工用型枠のトンネル冠部にトンネル軸方向に間隔をおいて複数配置し、前記トンネル覆工用型枠の設計耐圧強度から、前記開閉蓋の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を差し引いた圧力を上限管理値として、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理するトンネル覆工コンクリートの打設管理方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0013】
そして、本発明のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法では、先行する覆工スパンにおける前記トンネル覆工用型枠を用いたコンクリートの打設作業中に、前記圧力計によって計測された前記トンネル冠部の覆工空間にコンクリートを充填して前記開閉蓋を閉塞した際の実際の充填圧力の上昇値から、次にコンクリートの打設作業を行う覆工スパンでの前記開閉蓋の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を設定するようにすることが好ましい。
【0014】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法では、前記回転式の開閉蓋が取り付けられたコンクリート投入口が、前記トンネル冠部の覆工空間における既設覆工コンクリート側の部分と妻型枠側の部分の少なくとも2箇所に設けられており、前記既設覆工コンクリート側のコンクリート投入口から少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止し、前記妻型枠側のコンクリート投入口から少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法では、前記トンネル冠部の覆工空間にコンクリートを充填した後に、コンクリートを締固めることにより充填圧力が低下したら、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理することが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法では、前記充填圧力の下限管理値を設定し、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記下限管理値よりも低下したら、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理することが好ましい。
【0017】
また、前記充填圧力の下限管理値を設定し、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が下限管理値よりも低下したら、全ての前記圧力計によって計測された充填圧力が前記下限管理値を超えるまでコンクリートを圧送するよう管理することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法によれば、経験や感によることなく充填圧力を客観的に管理して、トンネル冠部の覆工空間に、高い充填圧力でコンクリートを充填打設することにより、品質の良好な覆工コンクリートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設管理方法は、図1(a)〜(c)に示すように、例えば山岳トンネル工法において、トンネル覆工用型枠10を用いてトンネル12の側部及び上部の覆工コンクリート11を打設形成してゆく際に、トンネル12の冠部(クラウン部)13の覆工コンクリート11aを形成するべく、これより下方のトンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11を打設形成した後に(図1(a),(b)参照)、図1(c)に示すように、トンネル冠部13の覆工空間23に、流動状態のコンクリート(生コンクリート)25をできるだけ高い充填圧力で充填してゆくための管理方法として採用されたものである。
【0020】
ここで、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10は、従来技術として公知の例えばスライド移動式のセントルであり、トンネル12の掘削作業の進行に伴なって、例えば10m程度の所定の覆工スパン毎にトンネル12の掘進方向Xの後方から前方に向かって据え付け直しながら、トンネル12の側部及び上部の覆工コンクリート11を順次打設形成してゆくことを可能にするものである。また、本実施形態では、側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11は、例えば従来の工法と同様の方法により、設置したトンネル覆工用型枠10に設けられた検査窓14を介して流動状態のコンクリート25が供給されると共に、振動締固め装置としての棒状バイブレータ14aを検査窓14から挿入して供給されたコンクリート25を締固めることによって、当該側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11が、トンネル冠部13の覆工コンクリート11aに先行して打設形成されることになる(図1(a),(b)参照)。
【0021】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法は、トンネル覆工用型枠10を用いて覆工コンクリート11を形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、トンネル覆工用型枠10の外周面とトンネル内周の覆工面22との間のトンネル冠部13の覆工空間23に、流動状態のコンクリート25を、図2〜図9に示すように、回転式の開閉蓋26が取り付けられたコンクリート投入口24から圧入して打設する際に、圧力計27を用いてトンネル冠部13に充填されたコンクリート25の圧力を管理することにより、品質の良好なトンネル冠部13の覆工コンクリート11aが得られるようにするトンネル覆工コンクリートの打設管理方法であって、圧力計27を、トンネル覆工用型枠10のトンネル冠部13にトンネル軸方向Xに間隔をおいて複数配置し、トンネル覆工用型枠10の設計耐圧強度から、開閉蓋26の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を差し引いた圧力を上限管理値として、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値をとなったら圧送を停止するように管理する。
【0022】
また、本実施形態では、回転式の開閉蓋26が取り付けられたコンクリート投入口24が、前記トンネル冠部13の覆工空間23における既設覆工コンクリート15側の部分と妻型枠16側の部分の少なくとも2箇所(本実施形態では2箇所)に設けられており、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24から少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値となったら圧送を停止した後、妻型枠16側のコンクリート投入口24から少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値となったら圧送を停止するように管理することができるようになっている。
【0023】
さらに、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10の外周面とトンネル内周の覆工面22との間のトンネル冠部13の覆工空間23に、既設覆工コンクリート15に近接して棒状バイブレータ20が配置されると共に、これに後続するバイブレータケーブル19が、妻型枠16側に延設して妻型枠16を貫通することにより妻型枠16の外側から牽引可能な状態で配置されている。これによって、覆工空間23にコンクリート25を充填した後、棒状バイブレータ20をバイブレータケーブル19の牽引によって妻型枠16側に移動させながら、充填されたコンクリート25の締固めを行うことができるようになっている(図6参照)。
【0024】
そして、本実施形態では、トンネル冠部13の覆工空間23にコンクリート25を充填した後に、コンクリート25を締固めることにより充填圧力が低下したら、再度、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値をとなったら圧送を停止するように管理する。
【0025】
本実施形態では、トンネル覆工用型枠10の天端部分の外周面に、複数の圧力計27が、トンネル軸方向Xに例えば1.5〜3m程度の間隔(中心間間隔)をおいて、コンクリート25の打設作業を行う当該覆工スパンの略全長に亘って均等に配置されて取り付けられている。圧力計27としては、シールド工事等に用いる公知の各種の圧力計を用いることができる。圧力計27は、例えばその感圧面がトンネル覆工用型枠10の天端部分の外周面と略面一となるように取り付けて用いることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10の天端部分に、図3(a),(b)に示すような投入口ユニット28を組み込むことにより、上述のように、先行して打設形成された既設覆工コンクリート15側の部分と、これとは反対の妻型枠16側の部分の2箇所に、コンクリート投入口24がトンネル覆工用型枠10の外周面に開口して設けられている。
【0027】
ここで、投入口ユニット28は、トンネル覆工用型枠の外周面にコンクリート投入口を設けるための型枠ユニットして公知のものであり、投入口24が開口形成されたユニット基台29と、ユニット基台29に回転可能に接合されて投入口24を開閉する開閉蓋26と、開閉蓋26の開閉移動をガイドする扇状箱形ガイド部30と、扇状箱形ガイド部30に一体として接合された配管接合部31と、開閉蓋26を開閉駆動するジャッキ部32とからなる。
【0028】
そして、投入口ユニット28は、配管接合部31にコンクリートポンプからの打設配管33(図1(c)参照)を接続すると共に、ジャッキ部32を収縮して開閉蓋26を引き寄せることによりコンクリート投入口24を開放し、打設配管33を介して圧送されるコンクリート25を投入する状態(図3(a)参照)と、ジャッキ部32を伸長して開閉蓋26を上方に押し上げるように回動させることにより投入口25を閉塞する状態(図3(b)参照)とを、容易に切り替えることができるようになっている。
【0029】
本実施形態では、コンクリート投入口24を開放してトンネル冠部13の覆工空間23にコンクリート25を充填した後に、開閉蓋26を回動させて投入口24を閉塞すると、投入口24の直前部分に配置された扇状箱形ガイド部30の内部に残ったコンクリート25が閉塞動作に伴って覆工空間23の内部に押し込まれ、充填圧力が増加することになる。したがって、本実施形態では、このような圧力の増加分を考慮しながら充填圧力を管理しつつ、コンクリート25の圧入による打設が行われることになる。
【0030】
さらに、本実施形態では、トンネル冠部13の覆工空間23には、上述のように、棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19が、例えば牽引用のケーブルリール34によって妻型枠16の外側から牽引可能な状態で配置されている。棒状バイブレータ20は、例えば電磁式振動体やモータの回転力によって振動する振動体等を内部に備える、コンクリート用の締固め装置として汎用されている公知の装置であり、当該棒状バイブレータ20の後端部分には、接続線等が収容されたフレキシブルな動力供給ホースからなるバイブレータケーブル19が一体として接続される。
【0031】
バイブレータケーブル19は、例えば8mm程度の太さのワイヤーを、内径9.2mm程度、外径12mm程度のポリアミドチューブで覆うと共に、ポリアミドチューブの外周面に、導体と介在紐とを周方向に交互に配置し、さらにこれらを外径が21.8mm程度のシース(外皮)で覆った後に、耐摩耗チューブで被覆して形成される、外径が例えば37.2mm程度の公知のケーブル部材である。バイブレータケーブル19は、覆工空間23に充填されたコンクート11a中に埋入される当該バイブレータケーブル19を、コンクート25との摩擦力(付着力)に抗して、棒状バイブレータ20と共に妻型枠16側に牽引するのに十分な引張り強度を備えている。
【0032】
本実施形態では、棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19は、トンネル覆工用型枠10の外周面から出没可能に突出してトンネルの軸方向Xに間隔をおいて直列状に複数配置された、ケーブル挿通孔を有するガイド片35により案内されて、覆工空間23の厚さ方向の中間部位に保持された状態で妻型枠16側に牽引されるようになっている。ここで、ガイド片35としては、例えば本願出願人の出願に係る特願2006−246086に記載の、バイブレータケーブル19等の遊嵌固定機能を有する固定ガイド片を、好ましく用いることができる。
【0033】
また、本実施形態では、棒状バイブレータ20の先端に、先端ワイヤー36の一端部が取り付けられている。この先端ワイヤー36は、既設覆工コンクリート15の端面15aに固定されたワイヤガイド37に挿通されると共に、他端部が、トンネル覆工用型枠10の既設覆工コンクリート15に近接する部位に開口形成されたケーブル孔を経て、トンネル覆工用型枠10の内側に延設し、当該トンネル覆工用型枠10の内側に着脱可能に係止されている。
【0034】
本実施形態では、トンネル冠部13の覆工空間23にコンクリート25を充填するには、コンクリート投入口24からコンクリート25を投入するのに先立って、図2に示すように、ケーブルリール34を僅かに回転させてバイブレータケーブル19を妻型枠16側に引き込むことにより、先端が先端ワイヤー36によって固定された棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19に例えば0.5〜1.0kN程度の張力を付与する。これによって、棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19は、覆工空間23の厚さ方向の中間部位において直線状に引っ張られた状態を保持するすることになり、後述するように覆工空間23に充填されたコンクリート25を締固める際に、周囲のコンクリート25との摩擦力を低減して、よりスムーズに棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19を一体として妻型枠16側に引き込むことが可能になる。
【0035】
次に、図4に示すように、妻型枠16側のコンクリート投入口24を閉塞した状態で、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24から、コンクリートポンプを介して圧送されるコンクリート25をトンネル冠部13の覆工空間23に充填する。
【0036】
覆工空間23にコンクリート25が充填されて、例えばコンクリート25が妻型枠16の上部の確認孔から漏出するのを確認したら、図5に示すように、少なくとも1箇所の圧力計27が上限管理値の充填圧力を計測するまで引き続いてコンクリート25を圧入する。また少なくとも1箇所の圧力計27が上限管理値の充填圧力を計測したら、コンクリート25の圧送を停止する。
【0037】
ここで、充填圧力の上限管理値は、妻型枠16を含むトンネル覆工用型枠10の設計耐圧強度から、開閉蓋26の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を考慮して当該上昇分を差し引いた圧力である。例えばトンネル覆工用型枠10の設計耐圧強度を100kPaとし、実験によって計測された圧力の上昇値が15kPaであった場合に、これに余裕誤差として例えば5kPaの幅を持たせた合計20kPaを上昇分の充填圧力とすることができる。また設計耐圧強度100kPaから開閉蓋26の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分20kPaを差し引いた圧力80kPaを、充填圧力の上限管理値として設定することができる。
【0038】
また、本実施形態では、先行する覆工スパンにおける、トンネル覆工用型枠10を用いた本実施形態と同様のコンクリートの打設作業中に圧力計27によって計測された、トンネル冠部13の覆工空間23にコンクリート25を充填して開閉蓋26を閉塞した際の実際の充填圧力の上昇値から、次にコンクリートの打設作業を行う当該覆工スパンでの開閉蓋26の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を設定することもできる。これによって、開閉蓋26の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を、より現場に適応した値とすることが可能になり、妻型枠16を含むトンネル覆工用型枠10の変形や破損を生じることなく、さらに品質の良好なトンネル冠部13の覆工コンクリート11aを形成することが可能になる。
【0039】
そして、本実施形態では、少なくとも1箇所の圧力計27によって上限管理値の充填圧力が計測されて、コンクリート25の圧送を停止したら、図6に示すように、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24を開放したまま、棒状バイブレータ22によって充填されたコンクリート25を締固める作業を行う。
【0040】
ここで、コンクリート25を締固める作業は、棒状バイブレータ20の先端を固定していた先端ワイヤー36を開放した後に、棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19をケーブルリール34によって妻型枠16側に引き込むことにより容易に行うことができる。ここで、棒状バイブレータ20及びバイブレータケーブル19は、先端ワイヤー36が開放されるまで、上述のように覆工空間23の厚さ方向の中間部位において直線状に引っ張られた状態で保持されているので、コンクリート25の打設中に移動するのが回避されると共に、周囲のコンクリート25との摩擦力が低減されて、よりスムーズに妻型枠16側に引き込まれてゆくことが可能になる。
【0041】
トンネル冠部13に充填されたコンクリート25を締固めることによって、覆工空間23の内部の充填圧力は低下し、図7に示すように、特に既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24と離れた妻型枠16と近接する部分に、例えば未充填部分37が生じやすくなる。本実施形態では、好ましくは充填圧力の下限管理値を設定しておき、トンネル覆工用型枠10に取り付けた少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が設定した下限管理値よりも低下したら、再度、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測される充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値をとなったら圧送を停止するように管理する。
【0042】
また、既設覆工コンクリート15側のコンクリート25の充填圧力が大きく、当該既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24からはコンクリート25の追加圧入をし難い場合や、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24からコンクリート25を追加圧入しても、妻型枠16側のコンクリート25の充填圧力が下限管理値を超えない場合には、図8に示すように、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24を閉塞し、妻型枠16側のコンクリート投入口24を開放して、当該妻型枠16側のコンクリート投入口24からコンクリート25を打設し、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値をとなるように管理する。
【0043】
すなわち、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24から少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値となったら圧送を停止して開閉蓋26を閉塞した後、時間が経過すると、妻型枠16側の部分の充填圧力が小さいことにより全体の充填圧力が均されて、圧力計27によって計測される充填圧力が低下し、いずれの圧力計27も上限管理値を計測しなくなるので、妻型枠16側のコンクリート投入口24から、再度少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値となるようにコンクリート25を圧送し、上限管理値となったら圧送を停止するように管理する。
【0044】
また、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が下限管理値よりも低下したら、全ての圧力計27によって計測された充填圧力が下限管理値を超えるまでコンクリート25を圧送するように管理しても良い。
【0045】
ここで、既設覆工コンクリート15側のコンクリート投入口24を閉塞する際には、上述のように投入口24の直前の扇状箱形ガイド部30の内部に残ったコンクリート25が閉塞動作に伴って覆工空間23の内部に押し込まれ、充填圧力が増加することになるが、本実施形態によれば、充填圧力が上昇しても、この上昇分を見込んだ上限管理値によって充填圧力が管理されているので、トンネル覆工用型枠10や妻型枠16に変形や破損を生じることがない。
【0046】
また、充填圧力の下限管理値としては、例えば実験によって得られた、封入空間に充填されたコンクリート25の充填圧力と一軸圧縮強度やあばた率等との関係から、例えば締固めを行う際の下限値に相当する一軸圧縮強度やあばた率が得られる充填圧力を算定し、このようにして算定された下限値の一軸圧縮強度やあばた率が得られる例えば20kPaの充填圧力を、下限管理値とすることができる。なお、この下限管理値は、トンネル冠部13の覆工空間23に充填されたコンクリート25の自重による圧力よりも、大きな圧力とする必要がある。
【0047】
そして、妻型枠16側のコンクリート投入口24からコンクリート25を圧入して、少なくとも1箇所の圧力計27によって計測された充填圧力が上限管理値をとなったら、図9に示すように、コンクリート25の圧送を停止して妻型枠16のコンクリート投入口24を閉塞する。これによって、当該覆工スパンにおけるコンクリート25の打設作業が終了する。ここで、妻型枠16側のコンクリート投入口24を閉塞する際にも、投入口24の直前の扇状箱形ガイド部30の内部に残ったコンクリート25が閉塞動作に伴って覆工空間23の内部に押し込まれ、充填圧力が増加することになるが、本実施形態によれば、充填圧力が上昇しても、この上昇分を見込んだ上限管理値によって充填圧力が管理されているので、トンネル覆工用型枠10や妻型枠16に変形や破損を生じることがない。
【0048】
したがって、本実施形態によれば、上述のように、トンネル冠部13の覆工空間23に打設されるコンクリート25の充填圧力を現場の指揮監督者の経験や感によることなく客観的に管理して、妻型枠16を含むトンネル覆工用型枠10に変形や破損を生じることなく、許容される範囲内でなるべく高い充填圧力でコンクリートを充填打設することが可能になり、これによって品質の良好な覆工コンクリート11を形成することが可能になる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明は、山岳トンネル以外のその他のトンネルにおける覆工コンクリートを形成するべく採用することもできる。また、トンネル覆工用型枠の外周面との間に覆工空間を形成するトンネルの内周面は、吹き付けコンクリートによって覆われる地山の他、1次覆工を行った後のトンネル内周面による、2次覆工を行うための覆工面であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法が採用されるトンネル覆工コンクリートの打設作業の作業手順を説明する、一部を断面図として示す側面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図3】(a),(b)は、トンネル冠部のトンネル覆工用型枠にコンクリート投入口を設けるための投入口ユニットの構成を説明する要部略示断面図である。
【図4】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図5】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図6】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図7】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図8】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図9】本発明の好ましい一実施形態に係る打設管理方法を用いてトンネル冠部の覆工空間にコンクリートを圧入打設する作業工程を説明する要部略示断面図である。
【図10】(a)はトンネル覆工用型枠をトンネルの内周面に沿って設置した状態を説明するトンネル軸方向から見た断面図、(b)は同側面図である。
【図11】(a)〜(d)は、従来のトンネル覆工コンクリート打設方法の作業手順を説明する、一部を断面図として示す側面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 トンネル覆工用型枠
11 覆工コンクリート
11a トンネル冠部の覆工コンクリート
12 トンネル
13 トンネル冠部
15 既設覆工コンクリート
16 妻型枠
19 バイブレータケーブル
20 棒状バイブレータ
22 覆工面
23 覆工空間
24 コンクリート投入口
25 流動状態のコンクリート
26 開閉蓋
27 圧力計
28 投入口ユニット
29 ユニット基台
30 扇状箱形ガイド部
31 配管接合部
32 ジャッキ部
33 打設配管
34 ケーブルリール
35 ガイド片
36 先端ワイヤー
X トンネル軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間のトンネル冠部の覆工空間に、コンクリートを回転式の開閉蓋が取り付けられたコンクリート投入口から圧入して打設する際に、圧力計を用いて前記トンネル冠部に充填されたコンクリートの圧力を管理することにより、品質の良好なトンネル冠部の覆工コンクリートが得られるようにするトンネル覆工コンクリートの打設管理方法であって、
前記圧力計を、前記トンネル覆工用型枠のトンネル冠部にトンネル軸方向に間隔をおいて複数配置し、
前記トンネル覆工用型枠の設計耐圧強度から、前記開閉蓋の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を差し引いた圧力を上限管理値として、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理するトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。
【請求項2】
先行する覆工スパンにおける前記トンネル覆工用型枠を用いたコンクリートの打設作業中に、前記圧力計によって計測された前記トンネル冠部の覆工空間にコンクリートを充填して前記開閉蓋を閉塞した際の実際の充填圧力の上昇値から、次にコンクリートの打設作業を行う覆工スパンでの前記開閉蓋の閉塞時に予想される充填圧力の上昇分を設定する請求項1に記載のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。
【請求項3】
前記回転式の開閉蓋が取り付けられたコンクリート投入口が、前記トンネル冠部の覆工空間における既設覆工コンクリート側の部分と妻型枠側の部分の少なくとも2箇所に設けられており、前記既設覆工コンクリート側のコンクリート投入口から少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止し、前記妻型枠側のコンクリート投入口から少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理する請求項1又は2に記載のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。
【請求項4】
前記トンネル冠部の覆工空間にコンクリートを充填した後に、コンクリートを締固めることにより充填圧力が低下したら、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理する請求項1〜3のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。
【請求項5】
前記充填圧力の下限管理値を設定し、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が下限管理値よりも低下したら、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が前記上限管理値となるようにコンクリートを圧送し、前記上限管理値となったら圧送を停止するように管理する請求項1〜4のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。
【請求項6】
前記充填圧力の下限管理値を設定し、少なくとも1箇所の前記圧力計によって計測された充填圧力が下限管理値よりも低下したら、全ての前記圧力計によって計測された充填圧力が前記下限管理値を超えるまでコンクリートを圧送するように管理する請求項1〜4のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの打設管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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