説明

トンネル覆工用コンクリートの施工法

【課題】吹付コンクリートの施工を現状のようにレーザーのみに頼っていたのでは精度の向上が難しいのを、使用する設備を吹付時切羽に持ち込め、吹付後に撤去でき、繰り返しの使用が可能であり、簡単な設備でセットが容易なものですむ。
【解決手段】エレクター8付きの吹付機7でトンネル内壁に対する一次覆工たるコンクリート層の吹付けを行う場合において、円弧状のゲージ10をエレクター8で建込み、この円弧状のゲージ10をガイドとして吹付コンクリートを行う。円弧状のゲージ10は鋼管による。また、円弧状のゲージ10の建込みは、その建込み位置をレーザー照射によりマーキングをしてこのマーキングに合わせて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネル切羽部での吹付コンクリート仕上げライン精度向上、切羽部での安全確保を目指すトンネル覆工用コンクリートの施工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工法の一つとして、一般に、ナトム(NATM)と呼ばれている工法がある。この工法は、ロックボルト、吹き付けコンクリート、鋼アーチ支保工などを地山の状況に応じて単独もしくは組み合わせて支保する工法である。
【0003】
図13はその概要を示すもので、発破・掘削・ズリ出しを行い(a)、一次覆工・吹付コンクリート1を打設し(b)、ロックボルト2を打設し(c)、二次覆工・吹付コンクリート3を打設する(d)。
【0004】
このナトム(NATM)工法は、たとえば従来の鋼アーチ支保工と矢板を支保とする在来工法に比べて、土砂から硬い岩まで幅広い地山に対応できること、防水対策がしやすく、維持管理上有利であること、などの利点を備えている。
【0005】
(NATM)工法では、掘削した地山面に直接吹付コンクリートを施工してトンネルの一次覆工としている。このため、一次覆工の出来形の良し悪しが、二次覆工の施工に影響する。掘削断面が設計より大きければ(余掘り)二次覆工コンクリートが多量にくい込み、小さければ(アタリ)巻厚が確保できないため再度掘削の手直しとなる。
【0006】
トンネルの掘削、吹付時の断面測量には、図14に示すように、切羽後方約100m程に設置された機器より切羽面に向かって連続的にレーザー4を照射し、切羽にトンネル断面を描くシステムであるレーザーマーキングシステムを使用している。
【0007】
このレーザーマーキングシステムでのレーザーの使用方法は、(1)マーキングシステムにより切羽に描かれた断面に沿って削孔、発破を行う。(2)レーザーの照射が掘削面に当っている所のアタリ取りを行う。(3)レーザーに合わせてコンクリートを吹付ける。
【0008】
しかし、このレーザーマーキングシステムは図15の(a)に示すように切羽5の鏡面がトンネル進行方向に直角にそろっていないと、マーキングレーザーの精度が悪くなる。図中6はレーザー発信機である。
【0009】
また、図15の(b)に示すようにマーキングレーザーの設置場所からレーザーが斜めに照射されるので、レーザーの手前と奥の掘削面が設計面と合わない。Aのようにレーザーを掘削面の手前に合わせて吹付を行うと、切羽面は余りとなる。Bのようにレーザーを切羽面に合わせて吹付を行うと手前はアタリとなる。
【0010】
吹付中レーザーが粉塵で見え難くなり、レーザーに合わせて吹付けがし難い。以上のような問題があり、吹付コンクリートが設計断面通りに円滑に仕上がっていなかった。
【0011】
なお、トンネル内壁に、設定された幅と厚さとにコンクリートを均一にかつ自動的に覆工するコンクリート吹き付け工法とトンネル内壁へのコンクリート吹き付け装置として、下記特許文献のものが提案されている。
【特許文献1】特開平6−81595公報(トンネル内壁へのコンクリート吹き付け工法と吹き付け装置)
【0012】
この特許文献1は、吹き付けノズルと搗き固め装置とを有する吹き付けノズル装置を、トンネル内壁周方向と平行する案内枠材に沿って回動させ、かつトンネル長さ方向に設置されたガイドレールに沿って前進させつつコンクリートをトンネル内壁へ吹付けるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記特許文献1のトンネル内壁へのコンクリート吹き付け工法と吹き付け装置では、ガイドレールをトンネル長さ方向に配置するものであり、このガイドレールを配置するためにトンネルの長さ方向に向かってガーダを配置するなど、設備自体が大掛かりであり、設備費も嵩み、また、吹付時に切羽に持ち込むことや、吹付け後にこれを撤去するなどの機動性に欠ける。
【0014】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、吹付コンクリートの施工を現状のようにレーザーのみに頼っていたのでは精度の向上が難しいのを、使用する設備を吹付時切羽に持ち込め、吹付け後に撤去でき、繰り返しの使用が可能であり、簡単な設備でセットが容易なものですむトンネル覆工用コンクリートの施工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、請求項1記載の本発明はエレクター付吹付機でトンネル内壁に対する一次覆工たるコンクリート層の吹付けを行う場合において、円弧状のゲージをエレクターで建込み、このゲージをガイドとして吹付コンクリートを行うことを要旨とするものである。
【0016】
請求項1記載の本発明によれば、吹付ロボットについている鋼製支保工建込み用のエレクターを利用して円弧状のゲージを簡単かつ迅速に建込むことができ、このゲージをガイドとして吹付コンクリートを行うことにより吹付コンクリートの仕上がりを、レーザーのみで仕上げた時に比べて格段に円滑できれいな仕上がりとすることができる。また、レーザーのみの場合に較べて、二次覆工コンクリートの余掘りによるくい込み量は25%減少し、巻厚不足等のアタリもほとんどなくなる。
【0017】
請求項2記載の本発明は、円弧状のゲージは鋼管によることを要旨とするものである。
【0018】
請求項2記載の本発明によれば、円弧状のゲージは鋼管によることにより、コンクリートの付着が少なく、取り外しのし易いものとなり、毎回取り外して転用するのに好適なものである。
【0019】
請求項3記載の本発明は、円弧状のゲージはその縦込み位置をレーザー照射によりマーキングをして、このマーキングに合わせて行うことを要旨とするものである。
【0020】
請求項3記載の本発明によれば、エレクターで円弧状のゲージをレーザー照射に合わせて掘削面に正確にセットすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法は、レーザーのみで仕上げた時に比べて格段に円滑できれいな仕上がりとすることができる。また、レーザーのみの場合に較べて、二次覆工コンクリートの余掘りによるくい込み量は25%減少し、巻厚不足等のアタリもほとんどなくなるものであり、使用する設備を吹付時切羽に持ち込め、吹付け後に撤去でき、また、繰り返しの使用が可能であり、簡単な設備でセットが容易なものですむものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の1実施形態を示す斜視図、図2は本発明で使用するゲージの一例を示す正面図で、図中7は吹付ロボットとしての吹付け機である。
【0023】
吹付け機7は、車輌式のコンクリート吹付ロボットであり、コンクリートを吹付ける吹付けノズル13を支持する起伏および伸縮自在のアームと支保工建て込み用のエレクター8を備える。このエレクター8の先端には支保工をキャッチするための把持部9を設けている。図中14はマンゲージである。図1の例ではエレクター8は一機のみを示したが、実際には図10、図11に示すように二機のエレクター8を備えた吹付け機7を使用できる。
【0024】
図2に吹付け機7で建て込む円弧状のゲージ10を示すと、一例としてφ76mmのガス管用鋼管によるもので、H型鋼による梁部11に被掴み部12を設けたハンガータイプのものであり、梁部11が弦材となる。
【0025】
図3は施工フローを、図4〜図9は各工程を示すものであり、まず、図4に示すように吹付け機7の移動を行う[図3のステップ(イ)]。円弧状のゲージ10をエレクター8の把持部9でキャッチしたまま切羽に進行する。キャッチは被掴み部12をもって行う。
【0026】
下半部の吹付けを実施できる位置まで移動し、エレクター8を上部に移動して下半部の吹付けができるようにする。
【0027】
次に、下半部の吹付けコンクリートを行う[図3のステップ(ロ)]。円弧状のゲージ10の角度を変える(トンネル軸方向→断面方向に変える)。円弧状のゲージ10を断面方向に変えた後、吹付機は切羽方向に移動し、切羽に円弧状のゲージ10を建込むことができるようにする。
【0028】
図5に示すように、円弧状のゲージ10(吹付用ゲージ)のセットを行う[図3のステップ(ハ)]。円弧状のゲージ10の建込み位置をレーザー照射によりマーキングをして、円弧状のゲージ10をこのマーキングに合わせて建て込む。
【0029】
円弧状のゲージ10(吹付用ゲージ)の固定を行う[図3のステップ(ニ)]。この固定は図6に示すように円弧状のゲージ10を維持したたま円弧状のゲージ10の天端部αおよび下端部βを吹き付けて、吹き付けにより円弧状のゲージ10を切羽に固定する。
【0030】
図7に示すように、円弧状のゲージ10からエレクター8の把持部9を取外し、図8に示すようにエレクター8を下げ、円弧状のゲージ10をガイドとして吹付けコンクリートを施工する。[図3のステップ(ホ)]。このようにすることで、図4に示すような円滑できれいな仕上がりの一次覆工・吹付コンクリート1が得られる。
【0031】
図9に示すように、円弧状のゲージ10(吹付用ゲージ)の取り外し[ステップ(ヘ)]を行う。まず、吹付け完了後、円弧状のゲージ10をエレクター8の把持部9でキャッチし、キャッチレバーをホールドの状態にする。
【0032】
吹付け面から円弧状のゲージ10を取り外し、取り外し後、円弧状のゲージ10を格納するため、吹付け機7を切羽より4m程度バックする。
【0033】
格納終了後、定位置にエレクター8付きの吹付け機7を移動する[ステップ(ト)]。
【0034】
エレクター8を下げて、ケレンができるようにする。円弧状のゲージ10に付着したコンクリートをケレン棒を用いてケレンする。ケレン終了後、剥離剤を散布する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の1実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明で使用するゲージの一例を示す正面図である。
【図3】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の施工フロー図である。
【図4】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第1工程を示す正面図である。
【図5】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第2工程を示す正面図である。
【図6】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第3工程を示す正面図である。
【図7】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第4工程を示す正面図である。
【図8】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第5工程を示す正面図である。
【図9】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法の第6工程を示す正面図である。
【図10】吹付け機の一例を示す側面図である。
【図11】吹付け機の一例を示す平面面図である。
【図12】本発明のトンネル覆工用コンクリートの施工法での仕上がり状態を示す正面図である。
【図13】ナトム(NATM)工法の概要を示す説明図である。
【図14】従来例であるレーザーマーキングシステムを示す正面図である。
【図15】従来例であるレーザーマーキングシステムの不具合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 一次覆工・吹付コンクリート
2 ロックボルト
3 二次覆工・吹付コンクリート
4 レーザー
5 切羽
6 レーザー発信機
7 吹付け機
8 エレクター
9 把持部
10 円弧状のゲージ
11 梁部
12 被掴み部
13 吹付けノズル
14 マンゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクター付吹付機でトンネル内壁に対する一次覆工たるコンクリート層の吹付けを行う場合において、円弧状のゲージをエレクターで建込み、このゲージをガイドとして吹付コンクリートを行うことを特徴とするトンネル覆工用コンクリートの施工法。
【請求項2】
円弧状のゲージは鋼管による請求項1記載のトンネル覆工用コンクリートの施工法。
【請求項3】
円弧状のゲージの建込みは、その建込み位置をレーザー照射によりマーキングをしてこのマーキングに合わせて行う請求項1または請求項2記載のトンネル覆工用コンクリートの施工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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