説明

トンネル覆工用型枠および覆工方法

【課題】 打設した覆工コンクリートの圧縮強度の発現を遅らせることなく、かつかぶり厚さ方向に均一に発現させることができるトンネル覆工用型枠を提供する。
【解決手段】 この型枠は、トンネル内壁面に対向する面を有するアーチ状のフォームパネル21と、当該面の裏面に一定間隔で配列するように設けられ、フォームパネル21を支持する複数の支持部材と、各支持部材間に、かつ該支持部材の両方に隣接し、フォームパネル21から離間させて空間30を形成するように設置される複数の断熱パネル25とを含む。この型枠は、断熱パネル25と空間30内に存在する空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)とにより、トンネル内壁面とフォームパネル21との間に打設した覆工用コンクリート24を保温することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの二次覆工コンクリート打設用型枠およびその型枠を用いてコンクリートを打設し覆工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを構築する工事は、(1)地山等のトンネル掘削機による削坑、(2)削坑した地山等の緩みを抑え、安定させるための吹き付けコンクリートによる一次覆工、(3)最終的な覆工として現場打ちコンクリートを打設する二次覆工という3つの作業工程により構成される。なお、地山からの漏水を防ぐために、吹き付けコンクリートによる一次覆工の後に、防水シート付け工を行うこともある。
【0003】
その作業工程のうち、二次覆工は、一次覆工に引き続き、コンクリートを支持する移動式のアーチ状の型枠を用いて行われる。この型枠は、長さ10m前後のアーチ状の移動式型枠で、セントルと呼ばれる。セントルは、一次覆工により吹き付けられたコンクリート面に対向し、削坑したトンネルの周方向の曲率とほぼ同じ曲率とされた面を有するフォームパネルをもち、フォームパネルが吹き付けコンクリート面から一定距離離間して配置されることにより、フォームパネルと吹き付けコンクリート面との間に空間を形成し、その空間に二次覆工用コンクリートを打設することができるようにされている。
【0004】
このフォームパネルには、複数の窓が適所に設けられ、各窓からコンクリートを打ち込み、また、締め固めができるようにされている。二次覆工は、このセントルをトンネル軸方向へ移動させながら二次覆工用コンクリートを打設することにより、トンネル全長にわたって行われる。
【0005】
セントルをトンネル軸方向へ移動させつつ二次覆工用コンクリートを打設する場合、打設したコンクリートと次に打設するコンクリートとの間に隙間が生じないように、オーバーラップするように打設しなければならない。
【0006】
オーバーラップするように打設する際、既に打設したコンクリートにフォームパネルの一部を押し当て、次に打設するコンクリートが漏出しないようにするが、その既に打設したコンクリートの圧縮強度が十分に発現していない場合、ひび割れが生じやすくなる。このため、十分な圧縮強度を確実に発現させるための覆工法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
この方法では、既に打設したコンクリートのオーバーラップされる端部を加熱できるように、フォームパネルの内面にヒータを備えたセントルを用いている。このようにコンクリート自体に給熱することで、短時間で十分な圧縮強度を発現させることができる。
【0008】
また、覆工コンクリートの養生時間を短縮する方法として、型枠を支持するセントルフォームと呼ばれる台車の内側に区画形成された作業用閉空間の温度を空調機により調節し、適正な養生温度にする方法が提案されている(特許文献2参照)。なお、十分な養生が実施できない場合、コンクリートの強度発現が遅れ、型枠の取り外し(以下、「脱型」と称す。)までに時間を要し、その結果、工程の遅延に至ることもある。さらに、脱型した際に、強度の発現不足により、フォームパネルの外面にコンクリートが付着して剥がれたりすることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−123794号公報
【特許文献2】特開2008−31715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の方法では、ヒータや空調機等を使用し、打設したコンクリートに給熱してセメントの水和反応を促進することで、早期に所定の圧縮強度まで発現させている。このため、脱型までに時間を要することがなく、作業の工程を守ることができる。
【0011】
しかしながら、ヒータや空調機等を使用する場合、設備コストがかかり、別途電源も必要となり、また、給熱するとセントル内の作業場の温度が上昇し、特に夏場には作業環境が悪化するという問題がある。
【0012】
フォームパネルには、フォームパネルによりコンクリートを支持するため、I形断面をもつI形鋼やH形断面をもつH形鋼が一定間隔で設けられる。このような形鋼が接合される部分には、ヒータを取り付けることができず、また、空調機で温度を調節するにしても、その部分とフォームパネルのみの部分とでは熱の伝わり方が大きく異なり、圧縮強度の発現にムラを生じるという問題がある。したがって、加熱する方法では、打設したコンクリート全体の圧縮強度を早期かつ均一に発現させることは難しい。
【0013】
そこで、こういった問題が生じることなく、簡単な構成で、かつ安価に提供することができるセントルおよびそのセントルを用いた覆工方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、フォームパネルを支持する形鋼間にプラスチック樹脂製の断熱性に優れたパネル(以下、「断熱パネル」と称す。)を設置し、この断熱パネルと、断熱パネルと形鋼とフォームパネルとにより形成される空間中に存在する空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)により、打設したコンクリートを保温する構成とする。
【0015】
I形鋼あるいはH形鋼は、フォームパネルに接合される第1接合面を有する平板状の第1フランジと、第1フランジに連続し、第1接合面に対して垂直に延びる平板状のウェブと、ウェブに連続し、第1接合面に平行な第2接合面を有する平板状の第2フランジとから構成される。このため、断熱パネルを、第2フランジ間を通してはめ込み、両隣にあるウェブに隣接させることで設置することができる。また、第1フランジの第1接合面の裏面あるいは第2フランジの第2接合面の裏面に接合する等して固定することも可能である。
【0016】
上記構成では、この平板状のウェブを通して熱が逃げる状態となるが、フォームパネル上のウェブの断面積は、フォームパネルを覆う断熱パネルの面積に比較して極めて小さいことから、十分な断熱効果を得ることができ、コンクリートの温度低下を防止して、脱型に必要なコンクリートの強度発現を早め、脱型までの時間を要することなく作業の工程を守ることができる。このような保温は、コンクリート温度をかぶり厚さ方向にほぼ一定に保ちながら養生し、打設したコンクリート全体にわたって圧縮強度の発現を促進させることができるため、コンクリートの品質劣化も防止することができる。
【0017】
断熱パネルは、強度、施工性、密閉性、保温性等を考慮し、例えば、ポリプロピレン製の所定の大きさおよび厚さのパネルとすることができる。また、I形鋼あるいはH形鋼のウェブは、所定の長さ程、上記第1接合面に対して垂直に延びているため、第1フランジ側や第2フランジ側のいずれにも接合する等して設置することができるが、例えば、アーチ状のトンネルの両側壁に設置する断熱パネルは、セントルの足場の設置位置との取り合いで、第1フランジ側に設置し、トンネルの上部付近に設置する断熱パネルは、施工性上、第2フランジ側に設置することができる。断熱パネルは、セントルに設置後、セントルとの間に隙間が発生するのを防止する目的で、断熱パネルの端面部にクッション性とシール効果を備えた、例えば発泡ポリエチレン製の材料を取り付けることも含まれる。
【0018】
また、セントルは、移動式の型枠であるため、トンネル軸方向へ移動可能にするための台車を備える。
【0019】
また、本発明では、上記のような断熱パネルを設置したセントルのほか、このセントルを用いて養生時間を短縮しつつ覆工する覆工方法も提供することができる。具体的には、フォームパネルを支持する形鋼間にプラスチック樹脂製の断熱パネルを設置したセントルを所定位置に配置する段階と、この断熱パネルと、この断熱パネルと形鋼とフォームパネルとにより形成される空間中に存在する空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)とにより、打設したコンクリートを保温する段階とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】トンネル坑内に断熱パネルが設置されたセントルを配置し、覆工コンクリートを打設したところを例示した正面図。
【図2】切断線A−Aにより切断した覆工コンクリートおよびフォームパネルの縦断面および断熱パネルを例示した図。
【図3】切断線B−Bにより切断した覆工コンクリート、フォームパネル、アイビームおよび断熱パネルの斜視図。
【図4】切断線C−Cにより切断した覆工コンクリート、フォームパネル、アイビームおよび断熱パネルの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、トンネル坑内に断熱パネルが設置されたセントルを配置し、覆工コンクリートを打設したところを例示した正面図である。このトンネル10は、複数の切削部材であるカッタービットが先端部に取り付けられたシールドマシン等のトンネル掘削機を使用して、地山や地下を削坑することにより形成される。削坑後は、その表面が崩れないように、直ちにコンクリートを吹き付けて一次覆工が行われる。なお、この一次覆工の前に、鋼製支保工の施工が行われる場合もある。
【0022】
一次覆工により地山の緩みを抑え、安定させた後、アーチ状の移動式型枠であるセントル20をトンネル坑内に配置する。このセントル20は、トンネル10の周方向にわたる内壁面に対向する面を有するフォームパネル21と、フォームパネル21の当該面の裏面に一定間隔で配列するように設けられ、フォームパネル21を支持する複数のI形鋼と、フォームパネル21および複数のI形鋼をトンネル軸方向へ移動可能に支持する台車22と、フォームパネル21をトンネル内壁面から一定距離に設定するために、その距離を調節するための複数のジャッキ23とから構成されている。なお、トンネル軸方向は、トンネルの掘削方向である。
【0023】
台車22は、例えば、トンネルの底面に敷設されたレール上を走行可能なように車輪を備えている。この台車22には、トンネル坑内に舞う粉塵等を坑外へ排出する排出管や排気ファン等を載置することができる。ジャッキ23は、油圧あるいは水圧を利用したジャッキを用いることができる。
【0024】
フォームパネル21は、トンネル10の内壁面の周方向の曲率と同じ曲率となる面を有するアーチ状の鋼製の板とされ、トンネル10の断面形状に合わせて、側壁から底面に向けてトンネル下部に配置される部分21aは、上記の曲率とは異なる曲率となる面を有する板とされている。具体的には、トンネル底面に近いその部分21aの下方縁部のみが、上記曲率より小さい曲率となる面を有し、その他は、上記曲率より大きい曲率となる面を有するように形成されている。また、フォームパネル21は、I形鋼に連結されたジャッキ23によりトンネル10の径方向への移動が可能にされ、一次覆工されたトンネル内面との距離が調節される。
【0025】
I形鋼は、断面がI形の形鋼で、フランジ内面すなわちウェブに向いた面にテーパが形成され、ウェブと接続する部分の厚さが厚く、剛性が高くされている。同じような構造をもつ形鋼としてH形鋼があるが、これは、断面がH形の形鋼で、I形鋼のようにテーパが形成されていない。形鋼は、その他にT形鋼、山形鋼、平鋼、溝形鋼、Z形鋼等があるが、I形鋼やH形鋼のように断面効率や剛性が優れていないため、フォームパネル21を適切に支持する支持部材としては、I形鋼あるいはH形鋼が好ましい。
【0026】
トンネル軸方向の適当な位置にセントル20を配置し、台車22の車輪に車止め等をして完全に停止させた後、フォームパネル21をジャッキ23によりトンネル10の径方向へ移動し、一次覆工で吹き付けられたコンクリートにより形成されるトンネル内面のライニングから一定距離だけ離間して配置し、そのライニングとフォームパネル21との間に空間を形成し、その中にコンクリート24を打設して二次覆工を行う。例えば、約0.3mの厚さのコンクリートを打設して二次覆工を行う場合、ライニングから約0.3m離れた位置にフォームパネル21の面がくるようにジャッキ23により調節する。
【0027】
フォームパネル21には、複数の窓が設けられ、それらの窓からコンクリートを打ち込み、コンクリートを打設することができる。これらの窓には、開閉可能な強化ガラスやアクリル板等の透明な板が取り付けられ、打設後のコンクリートが内部へ流れ込まないようにされている。この窓は、打設したコンクリートを締め固めるためにも使用することができる。
【0028】
このようにしてコンクリート24を打設すると、フォームパネル21に荷重がかかることになるが、荷重がかかったフォームパネル21はI形鋼により支持されるため、コンクリートが硬化し、セントル20を取り除いた後には、アーチ状のトンネル断面が形成される。
【0029】
ここで、コンクリートは、セメント、骨材、水、混和剤からなり、これらを配合して目標とする強度、耐久性、施工性を得ることができる。この強度は、水センメント比で決定され、化学混和剤を用いて水を減らし、高い強度を得ることもできる。
【0030】
コンクリートは、硬化するまではそれ自体形を保つことができないため、型枠に打ち込み、硬化が始まって自立するまでは所定時間を型枠内部で養生しなければならない。この所定時間の養生により、所定の圧縮強度のコンクリートを得ることができる。
【0031】
コンクリートの打設の際、コンクリートの均一性の確保、初期欠陥の防止が必要であるため、バイブレータや木づちを使用して空気抜きを行い、未充填箇所をなくし、材料分離を防止する。なお、コンクリート強度を高めるために、鉄筋を配設し、鉄筋コンクリートとして二次覆工を行うことも可能である。養生は、コンクリートの防水処理、きず等がつかないように、コンクリート表面を覆うことにより行われるが、図1に示す実施形態では、フォームパネル21により既に覆われているため、打設したコンクリートが硬化するまでそのままの状態が維持される。
【0032】
フォームパネル21は、打設したコンクリート24により荷重がかけられ、ある程度の強度が必要であることから鋼製とされ、その鋼製のフォームパネル21がむきだしのままであると、特に、冬場の工事においては打設したコンクリート24の熱が逃げていき、コンクリート24が脱型に必要な圧縮強度を発現するまで長時間を要してしまう。そこで、本発明では、プラスチック樹脂製の断熱パネル25を設置し、その断熱パネル25を断熱材として機能させ、さらに、その断熱パネル25とフォームパネル21とI形鋼とにより形成された空間中にある空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)も断熱層として機能させて、コンクリート24の必要な圧縮強度の発現を早め、早期にコンクリート24を硬化させる。
【0033】
断熱パネル25は、図2に示すように、トンネル10の内壁面を覆うように各I形鋼間に隙間なく設置される。ここでは、I形鋼のウェブ26の断面が断熱パネル25間に実線で示されているが、このように大部分が断熱パネル25で覆われ、ごく一部であるウェブ26の断面が覆われていないだけであるため、十分な断熱効果を得ることができる。
【0034】
この断熱パネル25は、強度、施工性、密閉性、保温性等を考慮し、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等を使用することができる。ポリプロピレンは、繊維の中で比重が最も小さいことから軽く、その割に強度が高く、密閉性が良好で、吸湿性がなく、薬品に強いといった特徴を有することから、特に密閉した空気を断熱材として利用する本発明の断熱パネル25として好ましい。また、加工によって形状を中空構造とすることで、より保温・断熱性の高いものとすることが可能である。
【0035】
I形鋼は、図3に示すように、フォームパネル21に接合される第1接合面を有する平板状の第1フランジ27と、第1フランジ27に連続し、第1接合面に対して垂直に延びる平板状のウェブ26と、ウェブ26に連続し、第1接合面に平行な第2接合面を有する平板状の第2フランジ28とから構成される。このため、断熱パネル25を、第2フランジ28間を通してはめ込み、両隣にあるウェブ26に隣接させることで設置することができる。したがって、工具を必要としない。
【0036】
I形鋼は、第2フランジ28を有し、それがストッパの役割を果たすため、はめ込んだ断熱パネル25は簡単には外れない。また、断熱パネル25がウェブ26に隣接して配置されることで、断熱パネル25の上下左右の端部とウェブ26の一面とが密着し、さらに外れないようにすることができる。
【0037】
なお、完全に固定するために、第1フランジ27の第1接合面の裏面あるいは第2フランジ28の第2接合面の裏面に接合する等して設置することも可能である。例えば、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等からなる接着剤を用いて、それらの裏面に貼付することができる。
【0038】
I形鋼のウェブ26は、所定の長さ程、第1接合面に対して垂直に延び、その第1フランジ27側や第2フランジ28側、その中央部等のいずれに設置してもよいが、例えば、アーチ状のトンネルの両側壁面に設置する断熱パネル25は、図4に示すように、セントル20の足場の設置位置との取り合いで、第1フランジ27側に設置し、トンネル10の上部付近に設置する断熱パネル25は、施工位置が上方であるが故、第1フランジ27側に設置するのは難しいことから、図3に示すように、第2フランジ28側に設置することができる。
【0039】
図3に示す位置に断熱パネル25を設置する場合、第1フランジ27の厚さに加え、ウェブ26の幅ほどフォームパネル21から離間した位置となり、その間に形成される空間30が十分な大きさであるため、その内部にある空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)により十分な断熱効果を得ることができる。これは、空気が鋼製のフォームパネル21やI形鋼に比較して熱伝導率が小さく、打設したコンクリートの熱をトンネル坑内へ逃がさないためである。ちなみに、鉄の熱伝導率は、84W・m−1・K−1で、ポリプロピレンの熱伝導率は、約0.1W・m−1・K−1で、空気の熱伝導率は、約0.02W・m−1・K−1である。
【0040】
一方、図4に示す位置に断熱パネル25を設置する場合は、第1フランジ27の厚さ分だけしかフォームパネル21から離間していないため、空間30が小さくなる。固体と気体との間には、流体が相対運動をしている場合に、相境界に層流状態が保たれている極薄い領域である境膜が存在し、この領域における熱移動は極めて遅く、この領域において系全体の移動現象が律速となる。この境膜は、固体に極めて近い位置に存在することから、第1フランジ27の厚さほど離れていれば熱移動が極めて遅く、なかなか熱が逃げていかないことから、このように空間30が小さくとも十分な断熱効果を得ることができる。
【0041】
また、このようにしてコンクリートを保温することは、打設したコンクリート全体にわたってかぶり厚さ方向にほぼ均一に温度を保ちつつ硬化させることができるので、温度ムラが生じることなく養生することができ、その打設したコンクリート全体にわたってかぶり厚さ方向に均一に圧縮強度を発現させることができる。すなわち、打設したコンクリートの厚さ方向の温度分布が均一(コンクリート表面から同じ厚さの位置であればほぼ同じ温度)になることから温度ムラがなくなり、強度が均一になる。また、このように均一に圧縮強度を発現させることで、コンクリートの品質劣化を防止することができる。
【0042】
なお、セントル20の足場の設置位置との取り合いにおいて、十分に空間を確保することができるのであれば、図4に示すような位置に断熱パネル25を設置するのではなく、図3に示すような第2フランジ28側に設置し、空間30を広くとり、断熱効果を高めることが好ましい。
【0043】
上記では、単なるプラスチック樹脂製の断熱パネル25を使用したが、その断熱パネル25は、ポリプロピレン製のパネルに、ポリウレタンフォーム、フェノールフォーム、ポリスチレンフォーム、グラスウール、ロックウールといった断熱材を貼付する等して形成したパネルや、2枚のポリプロピレン製のパネルの間に上記の断熱材を挟んだものを用いることもできる。断熱パネル25は、セントルに設置後、セントルとの間に隙間が発生するのを防止する目的で、断熱パネル25の端面部にクッション性とシール効果を備えた、例えば、発泡ポリエチレン製の材料を取り付けることもできる。また、必要に応じて、I形鋼やH形鋼の露出した部分を断熱材により覆い、断熱効果を高めることも可能である。
【0044】
断熱パネル25の厚さは、断熱パネル25がI形鋼あるいはH形鋼の第1フランジ27と第2フランジ28の間にはめ込まれて設置されることから、第1フランジ27と第2フランジ28の間の距離であるウェブ26の幅より小さく、隣り合うI形鋼間にはめ込み、断熱パネル25より空気のほうが、熱伝導率が小さいことから、出来るだけ薄くし、空間を広くとるほうが好ましい。しかしながら、あまりに薄すぎると、破損しやすく、密閉性が悪くなることから、0.5〜2cm程度の厚さが好ましい。
【0045】
本発明は、上述した断熱パネルを設置したセントルに加えて、このセントルを用いて養生時間を短縮しつつ覆工する覆工方法も提供することができ、この覆工方法は、フォームパネルを支持する形鋼間にプラスチック樹脂製の断熱パネルを設置したセントルを所定位置に配置する段階と、この断熱パネルと、この断熱パネルと形鋼とフォームパネルとにより形成される空間中に存在する空気(セメントの水和反応熱によってフォームパネルを通して暖められた空気)とにより、打設したコンクリートを保温する段階とを含む。
【0046】
これまで本発明のトンネル覆工用型枠およびその型枠を用いた覆工方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、断熱パネルの設置は、上述した接着剤による接合のほか、第2フランジにボルトおよびナットを使用して締結することにより取り付けることもできる。また、断熱パネルは、はめ込むだけで設置が可能であるため、必要な時期にはめ込んで設置し、それ以外は取り外しておくことも可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…トンネル、20…セントル、21…フォームパネル、21a…部分、22…台車、23…ジャッキ、24…コンクリート、25…断熱パネル、26…ウェブ、27…第1フランジ、28…第2フランジ、30…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削したトンネル内壁面に覆工用コンクリートを打設するために用いられる型枠であって、
前記トンネル内壁面に対向する面を有するアーチ状のフォームパネルと、
前記面の裏面に一定間隔で配列するように設けられ、前記フォームパネルを支持する複数の支持部材と、
各前記支持部材間に、かつ該支持部材の両方に隣接し、前記フォームパネルから離間させて空間を形成するように設置される複数の断熱パネルとを含み、
前記断熱パネルと、前記空間内に存在する、セメントの水和反応熱によって前記フォームパネルを通して暖められた空気とにより、前記トンネル内壁面と前記フォームパネルとの間に打設した前記覆工用コンクリートを保温することを特徴とする、型枠。
【請求項2】
前記断熱パネルは、ポリプロピレン製のパネルである、請求項1に記載の型枠。
【請求項3】
前記断熱パネルは、ポリプロピレン製のパネルと断熱材とから形成される、請求項1に記載の型枠。
【請求項4】
前記型枠は、前記フォームパネルと前記複数の支持部材と前記複数の断熱パネルとを載置し、トンネル軸方向へ移動可能にする台車をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の型枠。
【請求項5】
前記支持部材は、前記フォームパネルに接合される第1接合面を有する第1フランジと、前記第1接合面に平行な第2接合面を有する第2フランジと、前記第1接合面および前記第2接合面に対して垂直に延び、前記第1フランジと前記第2フランジとを接続するウェブとから構成されるI形鋼またはH形鋼であり、
前記断熱パネルは、前記I形鋼またはH形鋼間にはめ込むことにより設置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の型枠。
【請求項6】
前記断熱パネルは、さらに、前記I形鋼またはH形鋼のそれぞれの前記第1接合面または前記第2接合面のいずれかの裏面に接合される、請求項5に記載の型枠。
【請求項7】
掘削したトンネル内壁面に型枠を配置して覆工用コンクリートを打設する覆工方法であって、
前記トンネル内壁面に対向する面を有するフォームパネルと、前記面の裏面に一定間隔で配列するように設けられ、前記フォームパネルを支持する複数の支持部材と、各前記支持部材間に、かつ当該支持部材の両方に隣接し、前記フォームパネルから離間させて空間を形成するように設置される複数の断熱パネルとを含む前記型枠を、前記トンネルの坑内に配置する段階と、
前記トンネル内壁面と前記フォームパネルとの間に前記覆工用コンクリートを打設する段階と、
前記断熱パネルと、前記空間内に存在する、セメントの水和反応熱によって前記フォームパネルを通して暖められた空気とにより、打設した前記覆工用コンクリートを保温する段階とを含む、覆工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−94417(P2011−94417A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250648(P2009−250648)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】