説明

トンネル覆工背面充填工法およびトンネル覆工背面充填装置

【課題】トンネルを活線状態に維持した状態で作業の安全と工事の品質を確保しつつ、トンネル覆工背面充填工事の作業能率を向上する。
【解決手段】覆工コンクリート2を有する既設トンネル1内に移動式のプロテクター10を設け、プロテクター10の内側を車両通行空間6とするとともに、プロテクター10の外側を覆工背面の空隙3に裏込材を充填するための作業空間7としたトンネル覆工背面充填工法において、覆工コンクリート2の上部を支持するための覆工支持架台14をプロテクター10に上下動可能に設け、覆工支持架台14を覆工コンクリート2に当接させた状態で、注入孔2bから裏込材を注入するようにすることにより、作業の安全と工事の品質を確保しつつ、覆工支持架台14の設置(覆工コンクリート2への当接)および解体(覆工コンクリート2からの離反)作業を容易にして工程の短縮化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの覆工背面へ裏込材を充填するための工法および装置に係り、老朽化したトンネルを活線状態で補修する工事に好適である。
【背景技術】
【0002】
現在開通しているトンネルのなかには、地下水などによって地山が削られて覆工背面に空洞ができてしまったものや、工法や設備の未発展などが原因で覆工コンクリートが十分に充填されず、建設工事中に覆工と地山との間に空洞が形成されてしまったものなどが存在する。或いは、空洞が形成されずとも、覆工背面に地下水の水みちができ、覆工コンクリートの打ち継ぎ目やクラックなどから地下水はトンネル内に漏出しているものもある。一方、超音波を用いた検査技術の発達などにより、トンネルの覆工背面の空洞は以前に比べて容易に把握できるようになっており、このような老朽化したトンネルに対する補修の必要性が高まっている。
【0003】
このような既設トンネルの改修方法として、既設トンネル内面を切削する部位の後方に架台を進行方向に移動可能に設け、この架台に、改修用パネルを組み立てるためのパネル組立部を配置するとともに、組み立てられた改修用パネルを保持するパネル支持部をその後方に配置し、架台の内部にずり搬出搬送路や改修用パネルの供給搬送路を設けることで、効果的にパネルの組立及び支持を行いながら改修できるようにした発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、既存のトンネルには、これを封鎖してしまうと迂回ルートがなく或いは迂回ルートの距離が格段に伸びてしまうため、そのルートの交通に多大な支障を来すものが多くある。そのため、既存トンネルの改修工事においては、トンネルを活線状態に維持することが望まれることがある。
【0005】
例えば、通行車両の大型化や交通量の増大に応じて既存トンネルに対し行われる拡幅工事において、工事による交通規制や周辺環境への影響をできるだけ少なくすると共に、通行車両並びに拡幅作業者の安全と工期の短縮とを図り得る工法として、既設トンネル内に移動式のプロテクターを設置し、このプロテクターによって内部に1車線程度の車両通行空間を確保すると共に、プロテクターの外側で既設トンネルの解体と撤去並びに、拡幅作業による新設トンネルの施工を順次行う拡幅工法を本出願人は提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−57370号公報
【特許文献2】特許第4035079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの提案はトンネル拡幅工事を対象にするものであり、上記したような覆工背面に空洞や地下水の水みちができている場合には、覆工背面へ充填材を注入する補修工事で足りることがあり、このような補修工事に上記提案を応用してその構成の一部を適用する場合には、さらに工期の短縮を図る余地がある。例えば、覆工背面に充填材を注入する際には、覆工に大きな圧力が加わる。そのため、覆工が老朽化している場合などにも作業の安全および工事の品質を確保するためには、少なくとも充填材を注入している間、支持架台などで覆工を支持する必要があり、この覆工支持架台の設置作業および解体作業に時間がかかるほど工期が延長することになる。
【0008】
また、覆工背面へ充填材を注入するためには、既設の覆工コンクリートに対し、注入の必要な位置にコアドリルなどの穿孔具によって充填材注入孔を順次穿設してゆくが、覆工コンクリートに穿孔具を固定するためには、注入孔ごとに複数のアンカーボルトを正確に設置する必要があり、この作業に多大な労力と時間が必要となる。さらに、プロテクターを移動させる際には、プロテクターに接続された配管設備などの盛り替え作業を行う必要があり、盛り替え作業中には補修工事を進めることができないため、盛り替え作業の回数および所要時間を短くすることが望まれる。
【0009】
本発明はこのような背景に鑑みなされたもので、トンネルを活線状態に維持した状態で作業の安全と工事の品質を確保しつつ、トンネル覆工背面充填工事の作業能率を向上することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、覆工(2)を有するトンネル(1)内に移動式のプロテクター(10)を設け、当該プロテクターの内側を車両通行空間(6)とするとともに、当該プロテクターの外側を前記覆工の背面の空隙(3)に裏込材を充填するための作業空間(7)としたトンネル覆工背面充填工法であって、前記覆工の上部を支持するための覆工支持架台(14)を前記プロテクターに上下動可能に設け、前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、前記覆工に形成した注入孔(2b)から裏込材を注入するようにする。
【0011】
この発明によれば、プロテクターを設置することでトンネルを活線状態に維持し、覆工支持架台で覆工を支持した状態で裏込材を注入することにより、作業の安全および工事の品質を確保することができる。そして、覆工支持架台を上下動可能に設け、上動させて覆工に当接させる一方、下動させて覆工から離反させることで、覆工支持架台の設置作業および解体作業を容易にし、工程の短縮化を図ることができる。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、穿孔具(19)を前記覆工支持架台にスライド可能且つ固定可能に設け、前記穿孔具により前記覆工に前記注入孔を穿設する形態とすることができる。
【0013】
この発明によれば、注入孔ごとに複数のアンカーボルトを正確に設置することなく穿孔具を固定することができ、覆工の所定の位置に裏込材注入用の注入孔を穿設するのに要する時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、前記穿孔具により前記覆工に前記注入孔を穿設する形態とすることができる。
【0015】
この発明によれば、覆工支持架台を覆工に当接させた状態でも穿孔具をスライド移動させて位置調整を行うことができ、この状態で穿孔具を固定することで、穿孔具をがたつくことなく確実に固定することができる。
【0016】
また、本発明の一側面によれば、前記覆工支持架台を前記注入孔のトンネル軸方向間隔よりも長く形成し、穿設した注入孔から裏込材を注入するために前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、次に裏込材を注入するための注入孔の位置に前記穿孔具を配置し得るようにした形態とすることができる。
【0017】
この発明によれば、注入孔から裏込材を注入する際に支持すべき覆工部位に覆工支持架台を当接させた状態で、次の注入孔を穿設することができるため、覆工支持架台の設置および解体作業の回数を少なくして工期の短縮を可能にするとともに、先行して穿設した注入孔からの裏込材充填状態の確認や、穿孔と注入との同時作業を可能にすることができる。
【0018】
また、本発明の一側面によれば、前記プロテクターをトンネル軸方向について前記覆工支持架台よりも長く形成するとともに、前記覆工支持架台を前記プロテクターに対してトンネル軸方向に移動可能に設け、前記覆工支持架台を移動させながら複数回にわたって裏込材の充填を行った後に前記プロテクターを移動させ得るようにした形態とすることができる。
【0019】
この発明によれば、注入の度にプロテクターを移動させる必要がないため、プロテクターに接続された配管設備などの盛り替え作業の回数および所要時間を短縮することができる。
【0020】
また、本発明の一側面によれば、前記覆工支持架台をトンネル断面の左右方向について複数に分割し、各覆工支持架台を個別に上下動させる形態とすることができる。
【0021】
この発明によれば、各覆工支持架台によって確実に覆工コンクリートを支持することができるため、覆工コンクリートの曲率が図面通りでない場合や、覆工コンクリートの曲率が一律でなく設計されている場合にも適用することが可能になる。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明は、覆工(2)を有するトンネル(1)を活線状態に維持したまま当該覆工の背面の空隙(3)に裏込材を充填するためのトンネル覆工背面充填装置(9)であって、前記トンネル内に設けられ、その内側に車両通行空間(6)を形成するとともに、その外側に前記空隙に裏込材を充填するための作業空間(7)を形成する移動式のプロテクター(10)と、前記プロテクターに上下動可能に設けられ、少なくとも裏込材を充填する間、前記覆工の上部を支持するための覆工支持架台(14)とを備えるように構成する。
【0023】
この発明によれば、上記トンネル覆工背面充填工法と同様に、プロテクターを設置することでトンネルを活線状態に維持し、覆工支持架台で覆工を支持した状態で裏込材を注入することにより、作業の安全および工事の品質を確保することができる。そして、覆工支持架台を上下動可能に設け、上動させて覆工に当接させる一方、下動させて覆工から離反させることで、覆工支持架台の設置作業および解体作業を容易にし、工程の短縮化を図ることができる。
【0024】
前記トンネル覆工背面充填装置においては、前記覆工支持架台にスライド可能且つ固定可能に設けられ、前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、裏込材注入用の注入孔(2b)を前記覆工に穿設するための穿孔具(19)をさらに備える構成や、前記覆工支持架台が前記注入孔のトンネル軸方向間隔よりも長く形成された構成、前記プロテクターがトンネル軸方向について前記覆工支持架台よりも長く形成され、前記覆工支持架台が前記プロテクターに対してトンネル軸方向に移動可能に設けられた構成などとすることができる。
【0025】
このような構成とすることにより、穿孔具を覆工の所定の位置に確実に固定するための作業を容易にしたり、穿設した注入孔から裏込材を注入するために覆工支持架台を覆工に当接させた状態で、次に裏込材を注入するための注入孔の位置に穿孔具を配置可能にしたり、覆工支持架台を移動させながら複数回にわたって裏込材の充填を行った後にプロテクターを移動すれば済むようにしたりすることができる。これらにより、トンネル覆工背面充填工の作業時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明によれば、トンネルを活線状態に維持した状態で作業の安全を工事の品質を確保しつつ、トンネル覆工背面充填工事の作業能率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の覆工背面充填工法を適用したトンネルの縦断面図
【図2】図1中のII−II線に沿った横断面図
【図3】図1中のIII−III線に沿った横断面図
【図4】本発明の変形例に係る覆工背面充填装置の横断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るトンネル覆工背面充填装置9およびトンネル覆工背面充填工法について図面を参照しながら説明する。なお、平面上で方向を示して説明する場合には、トンネル軸方向に沿う作業の進行方向を前方とし、前方を見たトンネル断面における左右をそれぞれ左方向および右方向とする。
【0029】
図1、図2に示すように、覆工コンクリート2を有する既設トンネル1内には、断面における左右の側部にH形鋼からなる一対のプロテクター用レール4がトンネル軸方向に延在するように設置されており、移動式のプロテクター10がこのプロテクター用レール4上に配置される。プロテクター10は、トンネル軸方向に所定の間隔で配置した門型支柱11を複数有しており、門型支柱11の下端にモータ駆動式の車輪からなる走行部11aが装着されることで、プロテクター用レール4に沿ってトンネル軸方向に自走(移動)可能となっている。門型支柱11の上面は上下の空間を区画するように鉄板12で塞がれており、少なくとも1車線の車両5が通行可能な車両通行空間6がプロテクター10の内側に確保されるとともに、覆工コンクリート2の背面の空隙3に裏込材を充填するための作業空間7がプロテクター10の外側に確保されている。
【0030】
プロテクター10は、補修対象となる既設トンネル1の全長に渡るような長尺に形成すると、組立や設置及び解体や撤去などに要する作業時間が長くなり、これに伴なって交通規制する期間が長くなるため、全長が約30m程度の短尺とされており、これにより作業時間の短縮が図られている。なお、プロテクター10は、予め外部で仮組みをした後に既設トンネル1内に搬入して組み付けできるように、複数のユニットに分割しておくと良く、このようにすることにより、プロテクター10の設置作業を容易とし、設置時間を短縮することができる。
【0031】
プロテクター10の上面には、トンネル軸方向に沿う2条の架台用レール13が設けられており、裏込め注入時に覆工コンクリート2を内側から支持する覆工支持架台14がこの架台用レール13に沿ってトンネル軸方向に移動可能に配置されている。覆工支持架台14のトンネル軸方向の長さは、裏込材の充填を行ったときに覆工コンクリート2に内向きの圧力が加わる範囲に応じて設定することができ、ここでは7〜8m程度とされている。
【0032】
覆工支持架台14は、前後左右に配置された4本の支柱15と、覆工コンクリート2の内面2aに沿うように湾曲した井桁状を呈し、4本の支柱15により支持された覆工支持板16とを有している。各支柱15の下端にはモータ駆動式の車輪からなる走行部15aが装着されており、これにより、覆工支持架台14が架台用レール13に沿ってトンネル軸方向に移動(自走)可能とされている。
【0033】
また、各支柱15の中間部、具体的には走行部15aとその上方の柱鋼材との間には、電動ジャッキ17が組み込まれており、この電動ジャッキ17を伸縮させることで、覆工支持板16がプロテクター10に対して上下動し、覆工支持板16の覆工コンクリート2に対する当接および離間作業を容易に行うことができるようになっている。なお、プロテクター10の上面には、電動ジャッキ17を駆動するための図示しない操作盤や、既設トンネル1の外部から供給される電力を各走行部11a,15aや裏込材注入装置21に分配する図示しない分電盤なども搭載されている。
【0034】
また、覆工支持架台14にも覆工支持板16の下面にトンネル軸方向に沿う複数のドリル用レール18が設けられており、覆工コンクリート2に裏込め注入用の注入孔2bを穿設するためのコアドリル装置19がこのドリル用レール18に沿ってトンネル軸方向に移動可能に設けられている。なお、本実施形態では、ドリル用レール18がトンネル断面上部における中央および左右に3条設けられており、各ドリル用レール18に1台、合計3台のコアドリル装置19が配置されている。
【0035】
コアドリル装置19は、覆工コンクリート2を貫通し得る長さの円筒状のコアドリル19aと、コアドリル19aを回転させる装置本体19bとを有している。装置本体19bは、ドリル用レール18に摺合するとともに、公知の構成のストッパ(図示せず)を有することにより、ドリル用レール18に対する摺動を規制して定位置に固定できるように構成されている。また、装置本体19bは、コアドリル19aを覆工コンクリート2の厚さ方向にスライドさせるためのガイドレール19cを備えており、ストッパにより装置本体19bを固定した状態で、コアドリル19aを回転およびスライド駆動することで、覆工コンクリート2に裏込め注入用の注入孔2bを穿設できるようになっている。
【0036】
コアドリル装置19は、コアドリル19aの削孔部に削孔水を供給しながら削孔する湿式であり、削孔部から流れ出た削孔水を回収し、回収した水をプロテクター10に搭載した図示しない水処理装置で処理した後に削孔水として再利用する水循環システムを採用している。コアドリル装置19により覆工コンクリート2に削孔された注入孔2bは、図示しない逆止弁を有するプラグを取り付けられて裏込材用の注入用に利用される。なお、注入孔2bは、ここではφ50mm程度とされている。この注入孔2bは、裏込材の注入前には、後方に隣接する先に穿設した注入孔2bから注入した裏込材が、所定のスパン長にわたって十分に覆工コンクリート2の背面の空隙3に充填されたか否かを確認するための確認孔として利用することができる。
【0037】
既設トンネル1の外部(入口の手前)には、裏込材をミキシングして供給する図示しない裏込材供給装置が配置されており、この裏込材供給装置には、既設トンネル1内に材料を供給するための裏込材供給配管20の後端が接続されている。一方、プロテクター10には、裏込材供給配管20の先端部分が載置されるとともに、覆工コンクリート2の背面の空隙3に充填する際に裏込材をリミキシングして圧送する裏込材注入装置21が搭載されている。裏込材供給配管20と裏込材注入装置21とは、裏込材供給ホース22によって接続されている。
【0038】
裏込材として、ここではセメント系のグラウトを用いており、裏込材注入装置21がリミキシング時に添加剤を加え、注入孔2bに接続される裏込材注入ホース23で覆工コンクリート2の背面の空隙3に充填するようになっている。なお、トンネル外部で添加剤を加えた2種類の材料を裏込材注入装置21でリミキシングする形態としてもよい。また、裏込材として薬液系のグラウトを用いることも可能であり、その場合には、裏込材注入装置21が2液を裏込材注入ホース23で圧送し、注入孔2bの直前で2液を混合させて急結性となるようにすればよい。
【0039】
なお、図1、図3に示すように、プロテクター10の上面における最後部に資材用のクレーン25を設けておき、車両通行空間6を通って既設トンネル1内の作業位置に資材を運搬した車両5から資材をクレーン25で受け取り、受け取った資材をプロテクター10の上面に設けた台車26に移し替え、プロテクター10の領域内での運搬を台車26で行うようにするとよい。このようにすれば、容易に資材の搬入・搬出を行えるとともに、車両通行空間6の交通規制時間を長くとらずに済む。これらの装置などにより、トンネル覆工背面充填装置9が構成される。なお、煩雑になるのを避けるために図3では中央のコアドリル装置19を省略して示している。
【0040】
このように構成されたトンネル覆工背面充填装置9は、既設トンネル1の外部に配置された裏込材供給装置に連結された裏込材供給配管20や給水管24などが接続されており、プロテクター10を移動するときにはこれら配管20,24を一端切り離し、移動長分の配管材を継ぎ足した後に再度これら配管20,24を接続することで、配管材の盛り替えを行うようにする。なお、コアドリル装置19の移動や覆工支持架台14の移動によるプロテクター10内での裏込材充填箇所の移動は、水処理装置とコアドリル装置19との接続や裏込材注入装置21と注入孔2bとの接続がホースで行われているため、接続を維持したまま行うことが可能である。
【0041】
次に、このように構成されたトンネル覆工背面充填装置9を用いて覆工コンクリート2の背面の空隙3に裏込材を注入するトンネル覆工背面充填工法の手順について説明する。
【0042】
まず、覆工支持架台14を既設トンネル1の入口付近(覆工背面充填作業の開始位置)に配置し、電動ジャッキ17を伸長させて覆工支持板16を覆工コンクリート2の内面2aに当接させ、覆工支持架台14で覆工コンクリート2を支持する。この状態でコアドリル装置19を既設トンネル1の入口付近(後端側)の第1スパン内の所定の位置に配置・固定して覆工コンクリート2に注入孔2bを穿設し、穿設した注入孔2bに逆止弁を備えたプラグを取り付ける。続いて、コアドリル装置19をドリル用レール18に沿って1スパン分(例えば、5m)前方へ移動させ、第2スパンの所定の位置、すなわち第1スパンの注入孔2bから前方へ5m離れた位置に注入孔2bを穿設して同じくプラグを設ける。
【0043】
次に、先に穿設した第1スパンの注入孔2bに、裏込材注入装置21に接続された裏込材注入ホース23を接続し、裏込材注入装置21を駆動して所定の圧力(例えば、0.2MPa)で裏込材を注入孔2bから注入し、覆工コンクリート2の背面の空隙3に充填する。この際、後に穿設した第2スパンの注入孔2bを開いて裏込材の到達を確認することで、第1スパンの注入孔2bから注入された裏込材が第1スパンの所定の領域に十分に充填されたことを確認することができる。なお、先に穿設した第1スパンの注入孔2bに裏込材を注入する作業と平行して、第2スパンの注入孔2bを穿設するようにしてもよい。
【0044】
裏込材が充填され、裏込材の注入を停止した後、裏込材注入ホース23をプラグから取り外し、覆工支持架台14の電動ジャッキ17を短縮させて覆工支持板16を下降させる。なお、裏込材の注入中には覆工背面に注入圧力が作用するが、裏込材の注入を終了した後は、裏込材の自重しか覆工背面に加わらないため、裏込材の注入を停止した後であれば、裏込材注入ホース23を取り外す前に覆工支持架台14による支持を解除してもよい。
【0045】
その後、覆工支持架台14を1スパン分(ここでは5m)作業進行方向(前方)へ移動させ、第2スパンの注入孔2bから裏込材を注入する際に支持すべき覆工部位の下方に覆工支持板16の後部を配置する。そして、上記したように、電動ジャッキ17を伸長させて覆工支持板16を覆工コンクリート2の下面に当接させ、この状態でコアドリル装置19を第3スパンの所定の位置に配置して注入孔2bを穿設し、第2スパンの注入孔2bから裏込材を注入し、注入を終えた後に覆工支持板16を下降させて覆工支持架台14を移動する一連の手順を繰り返す。なお、本実施形態では6スパン分の注入を行うことができるが、これら手順を繰り返している間は、各機器に接続された配管類はすべてホースで構成されているため、配管の接続を盛り替える必要はない。
【0046】
覆工支持架台14がプロテクター10の先端に位置した状態(図1に示した状態)で裏込材の注入を終え、覆工支持板16を下降させると、次に、プロテクター10を前方へ移動するために、プロテクター10に接続された各種配管を切り離し、プロテクター10の移動距離分(ここでは30m)だけ延長する。そして、プロテクター10を前方へ移動させるとともに、覆工支持架台14をプロテクター10の後端部に移動させ、切り離した各種配管を接続して上記手順を繰り返す。
【0047】
このように、内側に車両通行空間6を確保するとともに外側に作業空間7を確保するプロテクター10を既設トンネル1内に設置することで、既設トンネル1を活線状態に維持し、覆工支持架台14で覆工コンクリート2の上部を支持した状態で裏込材を注入することにより、作業の安全および工事の品質を確保することができる。そして、覆工支持架台14を電動ジャッキ17の操作により上下動可能とし、電動ジャッキ17の伸長駆動による覆工コンクリート2への当接、電動ジャッキ17の短縮駆動による覆工コンクリート2からの離反により、容易に覆工支持架台14を設置および解体することができ、これによっても工程の短縮が図られている。
【0048】
また、覆工支持架台14に設けたドリル用レール18にコアドリル装置19をスライド可能且つ固定可能に設けたことにより、覆工支持架台14を覆工コンクリート2に当接させた状態でもコアドリル装置19をスライド移動させて任意の位置調整を行うことが可能になるとともに、この状態でコアドリル装置19を固定することで、コアドリル装置19をがたつくことなく確実に固定することが可能になっており、これにより、覆工コンクリート2の所定の位置に注入孔2bを穿設するのに要する時間が大幅に短縮されている。
【0049】
また、覆工支持架台14のトンネル軸方向長さを裏込材の注入スパン、すなわち注入孔2bのトンネル軸方向の離間距離よりも長くしたことにより、注入孔2bから裏込材を注入する際に支持すべき覆工部位に覆工支持架台14を当接させた状態で、次の注入孔2bを穿設することが可能になっており、覆工支持架台14の設置および解体作業の回数が少なくなって工期を短縮するとともに、先行して穿設した注入孔2bからの裏込材充填状態の確認や、穿孔と注入との同時作業が可能になっている。
【0050】
さらに、プロテクター10のトンネル軸方向長さを、覆工支持架台14を移動させながら複数回にわたって裏込材の充填を行える長さとし、覆工支持架台14を移動可能にしたことにより、注入の度にプロテクター10を移動させる必要がなく、プロテクター10に接続された配管設備などの盛り替え作業の回数および所要時間が短縮されている。
【0051】
<変形例>
次に、図4を参照して変形例に係る覆工背面充填装置9について説明する。なお、上記実施形態と同一の機能を果たす部材には同一の名称および同一の符号を使用し、重複する説明は省略して相違点を中心に説明する。
【0052】
図4に示すように、本変形例に係る覆工背面充填装置9では、プロテクター10の上面に4条の架台用レール13が設けられており、2台の覆工支持架台14がこの架台用レール13に沿ってトンネル軸方向に移動可能に配置されている。各覆工支持架台14は、下端に走行部15aが装着され、中間部に電動ジャッキ17が組み込まれた支柱15と、覆工コンクリート2の内面2aに沿うように湾曲した覆工支持板16とを有しており、電動ジャッキ17を伸縮させることで、覆工支持板16を上下動させて覆工コンクリート2を支持できるようになっている。なお、一方(図中右側)の覆工支持架台14には、トンネル中央と右側の2箇所にドリル用レール18が設けられ、2台のコアドリル装置19が移動可能に設置され、他方(図中左側)の覆工支持架台14には、トンネル左側の1箇所にドリル用レール18が設けられ、1台のコアドリル装置19が移動可能に設置される。なお、煩雑になるのを避けるために図中には左右2台のコアドリル装置19のみを示している。
【0053】
このように、覆工支持架台14がトンネル断面の左右方向について複数台設置される(分割される)ことにより、各覆工支持架台14を個別に上下動させることができるため、既設トンネル1が古く、覆工コンクリート2の曲率が図面通りでない場合や、覆工コンクリート2の曲率が一律でなく設計されている場合であっても、覆工支持架台14によって確実に覆工コンクリート2を支持することができる。なお、ここでは覆工支持架台14をトンネル断面の左右方向に2分割としているが、3つ以上に分割したり、トンネル軸方向に複数に分割したりする形態も可能であり、既設トンネル1の実際の形状に合わせて適宜分割することで如何なる形状の既設トンネル1に対しても本工法の適用が可能となる。
【0054】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。例えば、上記実施形態ではトンネル覆工背面充填工法を既設トンネル1に対して適用しているが、新設したトンネルに対して適用することもできる。また、上記実施形態では、コアドリル装置19をトンネル軸方向のみに移動可能としているが、トンネルの周方向に移動可能にしたり、トンネル軸方向およびトンネル周方向の両方向つまりトンネル内面に沿う二次元に移動可能にしたりする形態とすることもできる。一方、上記実施形態では覆工支持架台14をトンネル軸方向に移動可能にプロテクター10に設けているが、覆工支持架台14は上下動可能であればよく、プロテクター10に固定してもよい。また、上記実施形態では覆工コンクリート2の周方向に3台のコアドリル19を設置しているが、トンネル断面の中央に1台のみ設置したり、トンネル断面の左右に2台のみ設置したいりする形態も当然に可能であり、覆工背面の空洞の位置や大きさに合わせて適宜配置すればよい。また、裏込材の充填とともにロックボルトを設置するような場合には、例えば、覆工支持架台14の後部に地山を穿孔するための地山穿孔具を移動可能または移動不能に設け、空隙3に裏込材を充填し終えた部分の地山を地山穿孔具により穿孔してロックボルトを設置するような形態とすることもできる。このようにすれば、地山穿孔具の固定を孔の穿設位置ごとに個別に行ったり、穿孔具の支持用に専用の架台を設けたりする必要がなく、工期の短縮化や施工コストの削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 既設トンネル
2 覆工コンクリート
2b 注入孔
3 空隙
6 車両通行空間
7 作業空間
9 トンネル覆工背面充填装置
10 プロテクター
14 覆工支持架台
19 コアドリル装置(穿孔具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆工を有するトンネル内に移動式のプロテクターを設け、当該プロテクターの内側を車両通行空間とするとともに、当該プロテクターの外側を前記覆工の背面の空隙に裏込材を充填するための作業空間としたトンネル覆工背面充填工法であって、
前記覆工の上部を支持するための覆工支持架台を前記プロテクターに上下動可能に設け、
前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、前記覆工に形成した注入孔から裏込材を注入することを特徴とするトンネル覆工背面充填工法。
【請求項2】
穿孔具を前記覆工支持架台にスライド可能且つ固定可能に設け、前記穿孔具により前記覆工に前記注入孔を穿設することを特徴とする、請求項1に記載のトンネル覆工背面充填工法。
【請求項3】
前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、前記穿孔具により前記覆工に前記注入孔を穿設することを特徴とする、請求項2に記載のトンネル覆工背面充填工法。
【請求項4】
前記覆工支持架台を前記注入孔のトンネル軸方向間隔よりも長く形成し、穿設した注入孔から裏込材を注入するために前記覆工支持架台を前記覆工に当接させた状態で、次に裏込材を注入するための注入孔の位置に前記穿孔具を配置し得るようにしたことを特徴とする、請求項3に記載のトンネル覆工背面充填工法。
【請求項5】
前記プロテクターをトンネル軸方向について前記覆工支持架台よりも長く形成するとともに、前記覆工支持架台を前記プロテクターに対してトンネル軸方向に移動可能に設け、前記覆工支持架台を移動させながら複数回にわたって裏込材の充填を行った後に前記プロテクターを移動させ得るようにしたことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のトンネル覆工背面充填工法。
【請求項6】
前記覆工支持架台をトンネル断面の左右方向について複数に分割し、各覆工支持架台を個別に上下動させることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のトンネル覆工背面充填工法。
【請求項7】
覆工を有するトンネルを活線状態に維持したまま当該覆工の背面の空隙に裏込材を充填するためのトンネル覆工背面充填装置であって、
前記トンネル内に設けられ、その内側に車両通行空間を形成するとともに、その外側に前記空隙に裏込材を充填するための作業空間を形成する移動式のプロテクターと、
前記プロテクターに上下動可能に設けられ、少なくとも裏込材を充填する間、前記覆工の上部を支持するための覆工支持架台と
を備えたことを特徴とするトンネル覆工背面充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207416(P2012−207416A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72892(P2011−72892)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】