説明

トンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法及びそのための特殊インバート材

【課題】トンネル鋼板内張改修工事において鋼板を軸方向に沿って順次溶接してトンネル内に接合する際、釜場を含む布設範囲に対しても順次溶接を可能とする。
【解決手段】トンネル10の軸方向途中の底部に湧水を集める釜場を設け、前記釜場から排水しながら、トンネル10内の底部側に接合するインバート材と天部側に接合するクラウン材40の各鋼板を、周方向当接端部と軸方向当接端部とを順次溶接して接合し、トンネル10を改修するトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法であって、前記釜場を含む布設範囲には、前記釜場に対応する位置の底面部に貫通形成された開口部34と、開口部34より下方に配設された開閉可能なマンホール36とを有する排水ピット32が形成されている特殊インバート材30を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法及びそのための特殊インバート材に係り、特にコンクリート製の馬蹄形トンネルに鋼板を内張して改修する工事の施工性を向上する際に適用して好適なトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法及びそのための特殊インバート材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、農業用水の用水路等にはコンクリート製の馬蹄形トンネルが用いられている。このようなトンネルでは、長年の使用により老朽化が進み、コンクリート壁からの漏水や耐震性能の低下が問題となっている。
【0003】
従来の既設トンネルの老朽化対策としては、トンネルの断面形状に合わせた鋼板を、トンネル内壁に沿って据え付けた後に溶接接合して内張する鋼板内張改修工法が知られている。
【0004】
この鋼板内張改修の具体的工法を説明すると、まず、底部側を構成するインバート材と、天部側を構成するアーチ形状のクラウン材の2種類の鋼板を、それぞれ工場で製作する。
【0005】
次いで、製作された鋼板を搬送し、トンネル内の工事始点位置に搬入し、予め基礎工事で高さ調整等が行われているトンネル底部に、搬入されたインバート材を据え付ける。更に、該インバート材に対応するクラウン材を、互いに周方向端部を当接させて据え付けた後、周方向の当接端部を互いに溶接して管状にすると共に、形成された管状の内張鋼板と既設トンネルとの間に裏込グラウト材(以下、単にグラウト材と称する)を充填する。
【0006】
同様の工程を、トンネルの軸方向に沿って、必要な数のインバート材とクラウン材について、周方向端部と共に軸方向端部をも順次溶接して行うことにより、トンネル全長に亘って管状に一体化された鋼板の内張を完了する。
【0007】
以上の鋼板内張改修工程では、特に溶接作業にはドライな環境が要求されるため、トンネル周囲の地盤からの湧水が多いと作業に支障を来すことになる。
【0008】
そのために、湧水対策として、従来は図1に地盤A内に埋設されたトンネル10の縦断面図を模式的に示すように、基礎工事の段階で底部コンクリートをはつってドレン管12を埋設すると共に、その途中のトンネル軸方向の要所に、該ドレン管12を通して湧水が流れ込むようにした釜場14を設け、該釜場14に溜まった湧水を水中ポンプ16により下流に排出することが行われている。
【0009】
このように、釜場14から溜まった湧水を排水しながら、トンネル10内に鋼板を軸方向に順次接合していく場合、便宜上、図1には鋼板としてインバート材20のみを示すように、図中左方向から搬入したインバート材20を、右方向からインバート材20(1)、20(2)の如く、順次軸方向に端部を当接させて据え付けると共に、溶接しながら軸方向に伸ばしていく方法が採られている。
【0010】
この場合、釜場14には排水を継続する必要があることからインバート材20を接合することができないため、釜場14が含まれる軸方向の布設範囲を残したまま、例えば図中インバート材20(3)の位置から後続のインバート材20の布設を同様に行う。そして、インバート材20(2)とインバート材20(3)の間に残った据え付け範囲には、図示しない最後のインバート材を据え付けることになるが、その際の溶接作業には水中ポンプ16は使えなくなるため、釜場14に溜まった湧水はドレン管12を通して排出することになる。
【0011】
なお、トンネルの湧水処理方法としては、特許文献1にトンネル底部のコンクリート上に排水管を設置したものが、特許文献2、3にトンネルに平行に排水管を設置したものがそれぞれ開示されているが、いずれも鋼板内張改修に適用したものではない。また、トンネルとは関係ない地盤改良のための技術が、特許文献4、5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−200141号公報
【特許文献2】特開2006−77560号公報
【特許文献3】特開平11−336468号公報
【特許文献4】特開2006−299758号公報
【特許文献5】特開2006−16947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図1に示した従来技術は、湧水があっても少ない場合には、釜場14からドレン管12を通して排出することができるが、多い場合には排出しきれないため、釜場14を含む据え付け範囲にインバート材20を溶接する布設作業に支障を来す上に、布設する鋼板長さの調整が難しいという問題があった。
【0014】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、トンネル内に複数のインバート材とクラウン材とをそれぞれ搬入して据え付けた後、周方向端部と軸方向端部とを順次溶接して、トンネル内に接合して布設する際、釜場を含む据え付け範囲に対しても順次溶接を確実に行うことができるトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法及びそのための特殊インバート材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、トンネルの軸方向途中の底部に湧水を集める釜場を設け、該釜場から排水しながら、該トンネル内の底部側に布設するインバート材と天部側に布設するクラウン材の各鋼板を、周方向当接端部と軸方向当接端部とを順次溶接して接合し、該トンネルを改修するトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法であって、前記釜場を含む布設範囲には、前記釜場に対応する位置の底面部に貫通形成された開口部と、該開口部より下方に配設された開閉可能なマンホールとを有する排水ピットが形成されている特殊インバート材を接合することにより、前記課題を解決したものである。
【0016】
ここで、前記マンホールには、前記底面部の裏面に連結されたフランジ部を形成し、該フランジ部にはフランジマンホール蓋を取付可能とすることができる。
【0017】
また、前記釜場は、前記トンネル底部に埋設されたドレン管を介して湧水が集められる位置に設けることができる。
【0018】
本発明は、又、底面部に貫通形成された開口部と、該開口部より下方に配設された開閉可能なマンホールとを有する排水ピットが形成されていることを特徴とするトンネル鋼板内張改修工事用の特殊インバート材により、前記課題を解決したものである。
【0019】
ここで、特殊インバート材をトンネルの横断面方向に分割することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インバート材とクラウン材を、トンネル内に順次溶接して接合する際、釜場を含むトンネル軸方向の布設範囲には、底面部に貫通形成された開口部と、該開口部より下方に配設された開閉可能なマンホールとを有する排水ピットが形成されている特殊インバート材を接合するようにしたので、該マンホールと開口部とを介して湧水を釜場から排出しながら該特殊インバート材を含む鋼板を順次溶接して接合することができる。また、目標とする鋼板の布設が終了した後には、前記マンホールを閉じることにより、溶接後の鋼板の内側の湧水が入り込むことを完全に排除することができることから、完全にドライな環境の下で前記開口部に切板を溶接して溶接蓋を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来のトンネル鋼板内張改修工法を模式的に示す縦断面図
【図2】本発明に係る一実施形態のトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法により、トンネル内に鋼板を布設した状態を模式的に示す横断面図
【図3】本実施形態のトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法により、トンネル内に鋼板を接合した状態を模式的に示す縦断面図及び横断面図
【図4】特殊インバート材が有する排水ピットを拡大して示す断面図
【図5】作成途中の特殊インバート材を示す平面図及び断面図
【図6】作成後の特殊インバート材を模式的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図2は、本発明に係る一実施形態のトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法により、トンネル内に鋼板を布設した状態を模式的に示す横断面図である。
【0024】
本実施形態では、馬蹄形トンネル10の内壁に沿って底部側の特殊インバート材(鋼板)30と、天部側のクラウン材(鋼板)40とを、周方向端部を互いに当接させて据え付けた後、当接端部を溶接して接合する。その後、トンネル10と特殊インバート材30およびクラウン材40からなる布設鋼板の間に隙間を埋めるためのグラウト材50を充填する。
【0025】
図2に示した特殊インバート材30は、前記図1に相当する図3(A)に、クラウン材40を省略して本実施形態による鋼板布設作業を示すように、釜場14が含まれる布設範囲に接合された状態を示したものであり、この範囲以外は前記図1に示した通常のインバート材20が工事始点位置から順次接合される。
【0026】
本実施形態に用いられる特殊インバート材30のトンネル底部に対応する底面部には、排水ピット32が例えば中心線を挟んでトンネル軸方向に少しずれた位置に左右2箇所に設けられ、この排水ピット32を介して釜場14から水中ポンプ16により湧水を排出することができるようになっている。
【0027】
この排水ピット32には、その底面部に表裏貫通する円形の開口部34と、その下方に配設されたマンホール36とが形成されている。
【0028】
一つの排水ピット32を拡大して図4に示すように、これら開口部34及びマンホール36は、いずれも水中ポンプ16が通り抜けられる大きさで形成され、マンホール36の周囲には、開口部34が形成されている底面部の裏面に、円筒部材36Aを溶接して直結されたフランジ部36Bが形成されていると共に、該フランジ部36Bにはフランジマンホール蓋38が、開口部34側からボルト38Aで固定できるようになっている。また、この排水ピット32では、背面(裏面)側への奥行、即ち開口部34からフランジ部36Bまでの深さHを、例えば10cm以下のように極めて浅くしてある。
【0029】
また、ここで使用される特殊インバート材30は、図5(A)、(B)にそれぞれ平面図、断面図を示すように、例えばトンネル10の横断面方向に2分割して左(30L)右(30R)別体で所定の湾曲形状に形成した後、図6の横向きにした平面図に破線でイメージを示すように、その中間部を溶接して一枚に形成されると共に、その強度を確保するために左右の排水ピット32の位置を釜部14の大きさの範囲内でトンネル軸方向にずらして形成されている。図5において、40は、例えば吊り金具、42は同じく裏当て金具である。
【0030】
本実施形態においては、以上説明した特殊インバート材30を用いることにより、従来と同様に通常のインバート材20とクラウン材40からなる鋼板を順次溶接しながらトンネル10に布設することができる上に、釜場14が設けられている布設範囲に対しては、前記図3(A)の縦断面図、(B)の横断面図にそれぞれ示されるように、排水ピット32が有するマンホール36と開口部34を介して釜場14から水中ポンプ16により連続排水をしながら、前記特殊インバート材30を同様に順次溶接して接合することができる。更に、この特殊インバート材30に対しても、通常のインバート材20を順次溶接して接合を継続することができる。
【0031】
鋼板の布設が、所定の目標長さ、又はトンネル10の全長に亘って終了した時点で、釜場14内の水中ポンプ16を排水ピット32を通して取り出し、該釜場14にグラウト材50を充填して埋め戻す作業を行った後、湧水の状態を確認しながらマンホール36のフランジ部36Bにフランジマンホール蓋38をボルト38Aで固定して完全に水密の状態にする。このようにして内張鋼板の内部にドライな環境を作った後、トンネル内壁と内張鋼板との間にグラウトホール(図示省略)からグラウト材50を充填し、最後にマンホール36の上方の開口部34に溶接蓋34Aを溶接して取り付けることにより、一連の鋼板布設作業を完了する。
【0032】
以上詳述した本実施形態によれば、水中ポンプ16を出し入れ可能な開口部34とマンホール36とを有する排水ピット32が形成されている特殊インバート材30を用いることにより、釜場14を含む布設範囲に対しても通常の内張鋼板と同様にトンネル10内への据え付け及び溶接が連続してできるドライな環境を作ることができるため、湧水が多い釜場14があるトンネル箇所についても、鋼板の順次溶接を行うことが可能となる。
【0033】
また、排水ピット32では、フランジマンホール蓋38と溶接蓋34Aの2重構造を採用しているため、フランジマンホール蓋38を先にボルト38Aで固定することにより、湧水を完全に止めることができない場合でも完全なドライ環境が確保できるため、マンホール36の上方に設けられている開口部34に最終溶接を行う際にもドライな環境の下で確実に溶接することができる。
【0034】
また、前記2重構造を採用したため、湧水の止水状況、グラウト材の充填状況などの各工程を確認しながら次工程に進むことができるため、湧水が想定される隧道においても問題なく施工が可能である。
【0035】
更に、排水ピット32は、深さHを極端に浅くして、背面側への影響を最小にしているので、深さを十分に確保できない構造のトンネルにも確実に適用することができる。
【0036】
なお、前記実施形態においては、排水ピット32が特殊インバート材30の中心線を挟んで2つ設けられていたが、1つの特殊インバート材30に設ける排水ピット32の数は2つに限定されず、例えば中心線上に1つ設けたり、3つ以上設けても良い。
【0037】
特殊インバート材30のトンネル横断面方向の分割数も2に限定されず、3以上又は、トンネル内に搬入可能であれば分割無しでも良い。
【0038】
施工対象のトンネル10もコンクリート製に限定されず、横断面形状も馬蹄型に限定されない。
【符号の説明】
【0039】
10…(馬蹄形)トンネル
12…ドレン管
14…釜場
16…水中ポンプ
20…インバート材
30…特殊インバート材
32…排水ピット
34…開口部
34A…溶接蓋
36…マンホール
36A…円筒部材
36B…フランジ部
38…フランジマンホール蓋
40…クラウン材
50…グラウト材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの軸方向途中の底部に湧水を集める釜場を設け、該釜場から排水しながら、該トンネル内の底部側に接合するインバート材と天部側に接合するクラウン材の各鋼板を、周方向当接端部と軸方向当接端部とを順次溶接して接合し、該トンネルを改修するトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法であって、
前記釜場を含む布設範囲には、前記釜場に対応する位置の底面部に貫通形成された開口部と、該開口部より下方に配設された開閉可能なマンホールとを有する排水ピットが形成されている特殊インバート材を接合することを特徴とするトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法。
【請求項2】
前記マンホールには、前記底面部の裏面に連結されたフランジ部が形成され、該フランジ部にはフランジマンホール蓋が取付可能になっていることを特徴とする請求項1に記載のトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法。
【請求項3】
前記釜場は、前記トンネル底部に埋設されたドレン管を介して湧水が集められる位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル鋼板内張改修工事の特殊インバート工法。
【請求項4】
底面部に貫通形成された開口部と、該開口部より下方に配設された開閉可能なマンホールとを有する排水ピットが形成されていることを特徴とするトンネル鋼板内張改修工事用の特殊インバート材。
【請求項5】
前記マンホールには、前記底面部の裏面に連結されたフランジ部が形成され、該フランジ部にはフランジマンホール蓋が取付可能になっていることを特徴とする請求項4に記載のトンネル鋼板内張改修工事用の特殊インバート材。
【請求項6】
トンネルの横断面方向に分割されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネル鋼板内張改修工事用の特殊インバート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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