説明

トンネル防水シートの取付具

【課題】 防水シートを孔を開けずに簡単な作業によって強固に取付可能となるトンネル防水シートの取付具を提供すること。
【解決手段】 トンネル掘削穴4に設けられる鋼材5の表面や一次覆工コンクリート1Aの表面などの取付箇所6に対して固定されるベース体7と、このベース体7に対して固定されると共に防水シート3をベース体7に抑え付け固定するシート抑え体8とから成り、ベース体7は、取付箇所6に固定される底板部70の左右両側に側壁部71が立設する断面略コ字形体に形成すると共に、この左右夫々の側壁部71の立ち上がり先端部を対向内側に向けて屈曲して抜止片部71Aを形成し、シート抑え体8は、螺子孔80Aを備えた基体80の左右に、ベース体7の底板部70並びに側壁部71に当接し得る略L字形の圧接面82を備えた圧接部81を突設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルを構築する過程において、一次覆工コンクリートと二次覆工コンクリートとの間に介在する防水シートを取り付けするためのトンネル防水シートの取付具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種トンネル防水シートの取付構造として、例えば、特開2002−54397号(特許文献1)がある。
【0003】
この特許文献1を簡単に説明すると、テーパー付ベース部材と、このベース部材にスライド挿入固定するテーパー付スライドカバーとを使用するもので、例えば、複数のテーパー付ベース部材をトンネル内に配設固定するH鋼に溶接等によって固定し、テーパー付ベース部材に防水シートを押圧し、この防水シートの上から(トンネルの内側から)テーパー付スライドカバーをスライド挿入することで、防水シートに孔を開けることなく順次防水シートを取り付けできるというものである。
【0004】
【特許文献1】特開2002−54397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記特許文献1とは異なる取付構造を採用するもので、防水シートを孔を開けずに簡単な作業によって強固に取付可能となる実用性に秀れたトンネル防水シートの取付具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
トンネルを構築する過程において、トンネル掘削穴4と覆工コンクリート1との間若しくは一次覆工コンクリート1Aと二次覆工コンクリート1Bとの間に介在せしめる防水シート3を取り付けするためのものであって、前記トンネル掘削穴4に設けられる鋼材5の表面や前記一次覆工コンクリート1Aの表面などの取付箇所6に対して固定されるベース体7と、このベース体7に対して固定されると共に前記防水シート3をベース体7に抑え付け固定するシート抑え体8とから成り、前記ベース体7は、前記取付箇所6に固定される底板部70の左右両側に側壁部71が立設する断面略コ字形体に形成すると共に、この左右夫々の側壁部71の立ち上がり先端部を対向内側に向けて屈曲して抜止片部71Aを形成したものであり、前記シート抑え体8は、螺子孔80Aを備えた基体80の左右に、前記ベース体7の底板部70並びに側壁部71に近接若しくは当接し得る略L字形の圧接面82を備えた圧接部81を突設すると共に、この左右の圧接部81を近接状態に並設せしめ、前記螺子孔80Aに螺着した螺子杆9を螺入すると、この螺子杆9が左右に並設する圧接部81を押動してこの左右の圧接部81が並設間隔を拡張するように移動し、この押動移動した各圧接部81の前記圧接面82が前記ベース体7の少なくとも各側壁部71に近接若しくは当接し得るように構成したものであることを特徴とするトンネル防水シートの取付具に係るものである。
【0008】
また、前記圧接部81の圧接面82は、前記ベース体7の底板部70に当接し得る底部圧接面82Aと側壁部71に当接し得る側部圧接面82Bとの連設角部をR形状に形成したことを特徴とする請求項1記載のトンネル防水シートの取付具に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のように構成したから、取付箇所に固定したベース体に防水シートをあてがい、この防水シートの上から(トンネルの内側から)シート抑え体の圧接部をベース体に押しあてつつ螺子穴に螺子杆(鉄筋)をねじ込みするだけの簡易な操作により、防水シートに孔を開けることなく強固に防水シートを取り付けでき、しかも、ベース体の左右側壁部には抜け止め片部を形成しているため、仮にシート抑え体のベース体への固定状態が緩んでもベース体よりシート抑え体が簡単に抜け外れて防水シートが脱落してしまうことを良好に防止できるなど、極めて実用性に秀れた画期的なトンネル防水シートの取付具となる。
【0010】
また、請求項2記載の発明においては、シート抑え体によってベース体に強固に抑え込み固定された防水シートが略L字形の圧接面の角部によって破れてしまうことを防止した一層実用性に秀れた構成のトンネル防水シートの取付具となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0012】
トンネルを構築する過程において、複数のベース体7をその底板部70によりトンネル掘削穴4に設けられる鋼材5の表面や一次覆工コンクリート1Aの表面などの取付箇所6に固定する。
【0013】
この固定した複数のベース体7に防水シート3をあてがい、この防水シート3の上から(トンネルの内側から)シート抑え体8の左右の圧接部81(圧接面82)をベース体7の底板部70に押し当てながら螺子孔80Aに螺着した螺子杆9を螺入すると、この螺子杆9が各圧接部81を押動して各圧接部81はその並設間隔を拡張するように移動し、この押動移動した各圧接部81の圧接面82が、例えば前記ベース体7の少なくとも各側壁部71に防水シート3を介して押圧当接固定し、これによりシート抑え体8がベース体7に固定されると共に、防水シート3がシート抑え体8とベース体7とに挟み込まれる形で固定されることになる。
【0014】
従って、防水シート3に孔を開けることなく、上記したような簡単な作業により防水シート3がシート抑え体8とベース体7とに強固に挟み込み固定されることになる。
【0015】
その後、この防水シート3の上に(トンネルの内側から)覆工コンクリート1若しくは事前に一次覆工コンクリート1Aが施工してある場合には、二次覆工コンクリート1Bを施工するが、この際、前記螺子杆9がこの覆工コンクリート1若しくは二次覆工コンクリート1Bの鉄筋としても機能することになり、覆工コンクリート1若しくは二次覆工コンクリート1Bの強度向上に寄与することになる。
【0016】
また、仮にシート抑え体8のベース体7への固定状態が緩んで圧接部81がベース体7より離反する方向に抜け外れようとしても、ベース体7の左右側壁部71に形成した抜止片部71Aによって圧接部81が簡単に抜け外れるようなことはなく、防水シート3の脱落を良好に防止できる。
【0017】
また、例えば、前記圧接部81の圧接面82は、前記ベース体7の底板部70に当接し得る底部圧接面82Aと側壁部71に当接し得る側部圧接面82Bとの連設角部をR形状に形成すれば、防水シート3をベース体7とシート抑え体8とで強固に挟み込み固定した際に、R形状に形成した各圧接面82の連設角部が防水シート3を傷付けにくいため、高い防水性を維持でき、一層実用的となる。
【実施例】
【0018】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施例は、ベース体7と、このベース体7に対して固定されると共に積層防水シート3をベース体7に抑え付け固定するシート抑え体8とから成る構成としている。
【0020】
以下、更に具体的に説明する。
【0021】
本実施例のベース体7は、図1に示すように、一枚の金属平板を、断面略コ字形に屈曲形成して、平坦板状の底板部70の左右両側に側壁部71が立設する形状に構成し、更に、この左右夫々の側壁部71の立ち上がり先端部の少範囲を対向内側に向けて屈曲してこの先端屈曲部を抜止片部71Aとしている。
【0022】
また、本実施例では、この底板部70を取付箇所6としてのトンネル掘削穴4に設けられる鋼材5(H鋼)の表面に固定した場合を示している。尚、H鋼5以外にも、パイプ鋼やロックボルトやU型支保鋼や一次覆工コンクリート1Aの表面など様々な箇所を取付箇所6としてベース体7(底板部70)を固定可能である。また、請求項1中の「鋼材」なる記載は、H鋼以外の鋼材も含む意味合いで用いているものである。
【0023】
また、底板部70の前後端部には、側壁部71側へ膨出する膨出部70Aを折曲形成し、この前後の膨出部70Aが後述する圧接部81の前後方向への位置決め作用を発揮して、ベース体7に前記シート押さえ体8を固定した際に、シート抑え体8がベース体7に対し前後方向にガタつかないか若しくはガタつきにくい構成としている。
【0024】
本実施例のシート抑え体8は、螺子孔80Aを備えた基体80の左右に、前記ベース体7の底板部70並びに側壁部71に係止当接し得る略L字形の圧接面82を備えた圧接部81を突設し、この左右の圧接部81を近接状態に並設した構成としている。
【0025】
更に詳しく説明すると、一枚の横長の金属板でなる基体80の中央に貫通孔を形成すると共に、この貫通孔に螺子穴の位置を合せて基体80にナット10を付設し、この連通する基体80の貫通孔とナット10の螺子穴とで前記螺子孔80Aを構成している。
【0026】
また、この基体80の左右両側部を、螺子孔80Aの螺入方向(図1における下方)に向けて屈曲すると共に、この左右の屈曲部の途中を夫々外側側方へ向けて屈曲し、更にこの夫々の側方屈曲部の先端を螺子孔80A方向(図1における上方)へ向けて屈曲している。そして、この鉤形を呈する基体80の左右両側部を前記圧接部81としている。
【0027】
また、この各圧接部81の先端側に存する断面L形部分の表面を前記圧接面82としているもので、このうち図1において下側に存する面を前記ベース体7の底板部70に面接当接し得る底部圧接面82Aとし、左右側部に存する面を前記側壁部71に面接当接し得る側部圧接面82Bとしている。
【0028】
また、この左右の圧接部81は、前記螺子孔80Aの孔幅よりも小さい並設間隔を置いて近接するように基体80を屈曲形成すると共に、この左右の圧接部81による左右幅が前記ベース体7の対向する抜止片部71A間の間隔幅よりも狭幅となるように構成して、この対向する抜止片部71A間を通して左右の圧接部81をベース体7の対向する側壁部71間に配設し得るようにしている。
【0029】
また、前記螺子孔80Aには、圧接部81の反対側から所定長の螺子杆9を螺着し、この螺子杆9を螺入するとその螺入先端が左右の圧接部81に対して突き当たるように設け、この螺子杆9を左右の圧接部81に突き当たってもなお螺入し続けることで、螺子杆9が左右の圧接部81間に進入して各圧接部81を外側へ押動し、これにより左右の圧接部81がその並設間隔を拡張するように移動する構成としている。
【0030】
従って、左右の圧接部81をベース体7の対向する側壁部71間に配して底板部70に底部圧接面82Aを当接させた上、前記螺子杆9を螺入することによって左右の圧接部81をその間隔が拡張するように移動させると、この押圧された各圧接部81の前記側部圧接面82Bが前記ベース体7の各側壁部71に当接固定し得るように構成している。
【0031】
また、本実施例では、前記側壁部71の高さ寸法を、前記側部圧接面82Bの高さ寸法よりも高く設定すると共に、この側壁部71と側部圧接面82Bの高さ寸法の差が、図3に示すように圧接面82とベース体7との間に防水シート3を挟み込み固定した状態では、前記抜止片部71Aの図2,図3における上側面と側部圧接面82Bの図2,図3における下側縁とにほとんど隙間を生じない程度の寸法差となるように設定している。
【0032】
また、本実施例では、前記圧接部81の略L形の圧接面82は、前記ベース体7の底板部70に当接する部位と側壁部71に当接する部位との連設角部をR形状に形成し、これにより防水シート3をベース体7とシート抑え体8とで強固に挟み込み固定した際に、R形状に形成した各圧接面82の連設角部が防水シート3を傷付けることがないように構成している。
【0033】
次に、本実施例を使用した防水シート3の取付方法を説明する。尚、図面では、一次覆工コンクリート1Aと二次覆工コンクリート1Bとの間に防水シート3を介在してトンネルを構成する場合を示している。
【0034】
トンネルを構築する過程において、トンネル掘削穴4に逆U形をなすH鋼5を設置すると共に、一次覆工コンクリート1Aを施工した後、このH鋼5の表面(取付箇所6)に複数のベース体7を、その底板部70を例えば溶接するなどして固定する。
【0035】
この複数のベース体7に防水シート3をあてがい、この防水シート3の上から(トンネルの内側から)シート抑え体8の圧接部81の底部圧接面82Aをベース体7の底板部70に押し当てながら螺子孔80Aに螺着した螺子杆9を回動操作してこの左右の圧接部81間に螺入すると、この螺子杆9によって各圧接部81間が拡張するように左右外方へ押動するので、この各圧接部81の底部圧接面82Aが防水シート3を介し前記ベース体7の底板部70に沿って左右外方へと移動して、側部圧接部82Bが各側壁部71(防水シート3)に押圧当接固定することになり、これによりシート抑え体8がベース体7に固定されると共に、防水シート3がシート抑え体8とベース体7とに挟み込まれる形で強固に固定されることになる。
【0036】
また、この際、仮にシート抑え体8のベース体7への固定状態が緩んだとしても、側壁部71の高さ寸法と、側部圧接面82Bの高さ寸法とを前述のように設定したことで、防水シート3を介して側部圧接面82Bを構成する基体80の先端片が前記抜止片部71Aに常に掛止られた状態となるため(図3参照。)、ベース体7よりシート抑え体8が抜け外れることがなく、防水シート3が脱落することを良好に防止できる。
【0037】
その後、図4に示すように、この防水シート3の上に(内側から)二次覆工コンクリート1Bを施工するが、この際、前記螺子杆9がこの二次覆工コンクリート1Bの鉄筋としても機能することになり、二次覆工コンクリート1Bの強度が向上することになる。図中符号11は二次覆工コンクリート1Bに設ける鉄筋である。
【0038】
尚、トンネル掘削穴4(地山)と覆工コンクリート1との間に防水シート3を介在させてトンネルを構築する場合も、例えば、トンネル掘削穴4に設置した逆U形をなすH鋼5(取付箇所6)にベース体7を固定して、前記同様に防水シート3を取り付けできる。
【0039】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本実施例の防水シートを固定する前の状態を示す説明図である。
【図3】本実施例の防水シートを固定した使用状態を示す説明図である。
【図4】本実施例の使用状態を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 覆工コンクリート
1A 一次覆工コンクリート
1B 二次覆工コンクリート
3 防水シート
4 トンネル掘削穴
5 鋼材
6 取付箇所
7 ベース体
70 底板部
71 側壁部
71A 抜止片部
8 シート抑え体
80 基体
80A 螺子孔
81 圧接部
82 圧接面
82A 底部圧接面
82B 側部圧接面
9 螺子杆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルを構築する過程において、トンネル掘削穴と覆工コンクリートとの間若しくは一次覆工コンクリートと二次覆工コンクリートとの間に介在せしめる防水シートを取り付けするためのものであって、前記トンネル掘削穴に設けられる鋼材の表面や前記一次覆工コンクリートの表面などの取付箇所に対して固定されるベース体と、このベース体に対して固定されると共に前記防水シートをベース体に抑え付け固定するシート抑え体とから成り、前記ベース体は、前記取付箇所に固定される底板部の左右両側に側壁部が立設する断面略コ字形体に形成すると共に、この左右夫々の側壁部の立ち上がり先端部を対向内側に向けて屈曲して抜止片部を形成したものであり、前記シート抑え体は、螺子孔を備えた基体の左右に、前記ベース体の底板部並びに側壁部に近接若しくは当接し得る略L字形の圧接面を備えた圧接部を突設すると共に、この左右の圧接部を近接状態に並設せしめ、前記螺子孔に螺着した螺子杆を螺入すると、この螺子杆が左右に並設する圧接部を押動してこの左右の圧接部が並設間隔を拡張するように移動し、この押動移動した各圧接部の前記圧接面が前記ベース体の少なくとも各側壁部に近接若しくは当接し得るように構成したものであることを特徴とするトンネル防水シートの取付具。
【請求項2】
前記圧接部の圧接面は、前記ベース体の底板部に当接し得る底部圧接面と側壁部に当接し得る側部圧接面との連設角部をR形状に形成したことを特徴とする請求項1記載のトンネル防水シートの取付具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−70656(P2006−70656A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258423(P2004−258423)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(591109061)株式会社野島角清製作所 (25)
【出願人】(390027661)株式会社金澤製作所 (29)
【Fターム(参考)】