説明

トンネル

【課題】 トンネル内走行時の運転者に対する閉塞感や緊張感等をより一層軽減し、もって安全性、快適性を更に向上すること。
【解決手段】 本発明によるトンネル10は、側壁面に、車両進行方向に沿って延びる複数本のストライプSをランダム配置し、車両走行速度を抑制すべきゾーンDにおけるストライプSの平均長さを、他のゾーンにおけるストライプSの平均長さよりも短くしたことを特徴としている。この構成では、走行速度が高くなる傾向のある部分におけるストライプが短くなっているため、運転者は走行速度が上がった印象を受けるため、速度を抑制する効果が生じる。また、短いストライプにより空間が広がるイメージが生じ、これによりトンネル内の閉塞感や圧迫感等を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内壁面の構成に関し、特にトンネル内走行時における安全性、快適性の確保等を目的とした内壁面のデザイン構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル内の走行は運転者に狭窄感や圧迫感、緊張感を与えるといわれており、これらの負荷を極力軽減することが求められている。かかる要請に応えるべく、従来においては、トンネルの内部空間(横断面)の形状や寸法、カーブの数や曲率半径、照明の色合いや輝度、或いは、路面状態等に対して種々の改善策が施されてきた。
【0003】
なお、これらの改善策は周知であり、特に記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の改善策は、ある程度の効果を奏しているものの、未だ、トンネル内走行時の運転者に対する閉塞感や緊張感等をより一層軽減し、もって安全性、快適性を更に向上することが求められている。これが本発明の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明によるトンネルは、側壁面に、車両進行方向に沿って延びる複数本のストライプをランダム配置し、車両走行速度を抑制すべきゾーンにおけるストライプの平均長さを、他のゾーンにおけるストライプの平均長さよりも短くしたことを特徴としている。
【0006】
この構成では、走行速度が高くなる傾向のある部分におけるストライプが短くなっているため、運転者は走行速度が上がった印象を受けるため、速度を抑制する効果が生じる。また、短いストライプにより空間が広がるイメージが生じ、これによりトンネル内の閉塞感や圧迫感等を軽減することができる。
【0007】
前記ストライプについては下方ほど明度を低することが好ましい。下方ほど暗い色を用いることで、運転者は重心の低い安定した空間という印象を持つことができるからである。
【0008】
更に、坑口付近の側壁面に上下に2色のパターンを施し、下側のパターンの上縁を、坑口の位置において、坑口に接続する道路の路面又は壁高欄若しくはガードレール等の上縁に実質的に一致するようにし、かつ、トンネル内部ほど徐々に高くすることが有効である。この構成により、外部からトンネル内に入る際、運転者は視線を壁高欄等から上下パターンの境界線に導かれることとなる。これにより、運転者はトンネルの内外間で心理的に連続感を持つこととなり、トンネルに入った際の違和感が解消ないしは軽減されることとなる。また、トンネルに入っていくと、下側のパターンが広がっていくことで、トンネルの空間が広く感じられるようにもなる。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、トンネル内での速度上昇の抑制、空間拡大イメージによる圧迫感や狭窄感、閉塞感の軽減、トンネル坑口付近での違和感を抑制することが可能となり、その結果として安全で快適なトンネル内走行が可能となるという格別の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明が適用されるトンネル10を長手方向に沿って断面した概略図である。このトンネル10は、全長が約4350mであり、一方の坑口(「第1坑口」と称する)12から他方の坑口(「第2坑口」と称する)14へと下り勾配となっている。また、このトンネル10は、対面通行式の片側一車線トンネルである。第1坑口12は、狭いが緑豊かな山間を通り抜ける道路と接続し、特に本実施形態では、その直前に架けられた緩やかにカーブした高架橋16と接続している。第2坑口14は直線状の土工部に18接続している。この第2坑口14は山間の終点に位置するため、そこから外を臨むと、地面は水平方向に延び、空は大きく広がり、開放感のある風景となっている。トンネル10内の照明に関しては、外光の環境との差をなくすために、白色蛍光灯が用いられている。
【0012】
本実施形態に係るトンネル10は、図1に示すように、六つのゾーンA〜Fに区画されている。各ゾーンの側壁面は所定のデザインパターンが施されている。かかるデザインパターンは、基本的には長短織り交ぜた多彩な色彩のストライプで構成され、本実施形態では、矩形のタイルを側壁面に直貼りすることによって形成されている。塗装による手段も考えられるが、トンネル10の如き限定された面積の面内においては、タイル1枚の比較的細かい単位(例えば長さ20cm、幅(高さ)10cm)が、車両進行方向に沿って連続的に延びるストライプを施す場合に、より有効となる。加えて、タイルは汚れにくいという利点もある。
【0013】
トンネル10内のデザインの基本的な思想は、運転者の視覚を通じて、トンネル走行空間における弊害、すなわち閉塞感、圧迫感、狭窄感等を軽減するとともに、トンネル10の出入口(坑口12,14)付近における内外環境の差に起因する心理的違和感を緩和しようとするものであり、もって走行快適性及び安全性の向上を図っている。
【0014】
以下、第1坑口12から第2坑口14に向かって走行する場合におけるデザインの変化について詳細に説明する。
【0015】
まず、ゾーンAの側壁面は、図2に示すように、上下2つのパターン20,22で構成されている。下側のパターン20は、進行方向に沿って白色の高さが徐々に増すように白タイルが貼り付けられている。白タイルが貼られていない上側のパターン22は、コンクリートの地の色(灰色)となっている。第1坑口12の起点では、白タイルの高さは、トンネルの手前にある高架橋16の壁高欄(ガードレール)24の上縁とほぼ同一の高さとなっている。ここで、白タイルを用いたのは、壁高欄(ガードレール)24は通常、白色であることを考慮して、色の違いによる違和感をなくすために同色としたことによる。ゾーンAの終端では、白タイルによるパターンの高さは約2.7mとなり、この状態がゾーンB〜Eにおける側壁面の地色となって続く。
【0016】
このデザインにより、運転者は、トンネル10に入った瞬間、外部の壁高欄24と白タイルのパターン20との間に連続性があることを視覚的に認識することができ、違和感なくトンネル10内に誘導されていく。更に、この白タイルのパターン20は、車両が進むにつれて上方に広がっていくため、運転者はトンネル10の内部が拡がっていく感覚を持つことができ、トンネル10内に入った際における閉塞感や狭窄感が大幅に軽減されることとなる。なお、トンネル照明として白色蛍光灯を用いているため、タイルの色を正しく認識することができるようになっている。
【0017】
続いて、ゾーンBに入ると、図3に示すように、長短のストライプSが側壁面に現れてくる。ゾーンBにおけるデザインは、第1坑口12までの外部環境が谷間と山並みの振幅のある景観となっていることを意識して構成されている。山間においては、運転者の視覚には、下方が土色ないしは木の幹の茶色、その上方は木の葉の緑色が主として認識される。また、車両走行時には、個々の木を認識することが困難となり、色が水平に流れた状態で認識されることとなる。トンネル外部において運転者はこのような認識を持つことから、ゾーンBでは、下方ほど明度の低い色(黒土色)を用い、上方に行くにつれ、朽葉色、常盤樹色、青竹色、若葉色、柳色、黄色と明度を上げることとしている。なお、青系統の色彩(紺色や水色等)についても空をイメージさせる場合に用いることができるが、本実施形態では山間の木々の間を縫ってトンネル10に入ることを想定しているため、空のイメージは不要と考え、青系統の色彩は使用していない。また、6〜65m程度のストライプSを用い、特に下方ほど長めのストライプを用いている。更に、これらのストライプSはランダムに配置されている。
【0018】
このようなデザイン構成においては、運転者はトンネル10に入るまでの外部環境とゾーンBの環境との間に類似性があることを認識し、トンネル内外の違和感が緩和されることとなる。また、下方ほど暗い色を用いているため、重心の低い安定した空間が創出され、心理的にも落ち着くという効果が得られる。なお、明度を上下逆にした場合には、非常に不安定な印象を受けることが、シミュレーション等によって明らかとなっている。更に、ストライプSのランダム配置によって、単調さからくる運転者の意識低下(眠気)を防止することができる。このストライプSのランダム配置は、他のゾーンC〜EにおけるストライプSの配置に関しても同様である。
【0019】
ゾーンCは、ゾーンBのストライプSを短くしたデザインとなっている(図4参照)。これは、ゾーンAよりもリズミカルで規則的な秩序ある状態をイメージしたものであり、トンネル10内に走り進み、快調に走行したいという運転者の心理に添うことを意図している。
【0020】
本実施形態では、第1坑口12からゾーンDに入るまでは、車両速度が70km/hであるとすると、約2分かかる。この程度の時間が経過すると、運転者はトンネル10の内部環境にも慣れ、且つまた、トンネル10自体が第2坑口14に向かって下り勾配となっているため、速度を上げようとする傾向が出てくる。そこで、ゾーンDのデザインは、快調な走行状態は維持するものの、速度を抑制することを目的としたものとなっている。
【0021】
図5に示すように、ゾーンDでは、ゾーンCにおけるストライプSの平均長さよりも更に短い平均長さのストライプ(例えば1.4m)Sを用い、且つ、ストライプS間の間隔も比較的短くしている。これによって、このストライプSを見ている運転者にスピード感が生じるため、走行速度を抑制しようとする心理を持つこととなる。また、上方の明るい色のタイルを多用することで、手前に重く見える色と、彼方に軽く見える色の強弱が生じ、空間全体の奥行きを感じさせることができる。これは、一面に広がる星空と同様なイメージとなるものであり、狭いトンネル10内にあって運転者に開放感をもたらすこととなる。
【0022】
図6に示すゾーンEは、トンネル10の終点、すなわち第2坑口14に近づく部分であり、第2坑口14から出た際の環境を考慮している。前述したように、第2坑口14から出た時、運転者は空が大きく広がった景観を見ることができる。このため、ゾーンEは、山並みのテクスチャーを感じさせる短めのストライプSをランダムに集散させ、外部に拡がる遠近の山々の景観をイメージさせるデザインとなっている。この目的で、ゾーンEでは、特に上方にストライプSを偏らせ、尚且つ、青系統の色彩(紺色、水色等)を中心に構成している。
【0023】
ゾーンFは、図示しないが、ゾーンAとは逆のデザイン構成であり、白タイルの高さが徐々に低くなっていく。なお、ゾーンFでは、ゾーンAとは異なり、第2坑口14の直前に白タイルは全く貼り付けられていない。これは、第2坑口14に続く道路18にはガードレールや壁高欄が設けられておらず、運転者の視線を道路の路面に誘導する必要があるからである。このように、ゾーンFでは、ストライプSがなくなり、ゾーンAとは対照的な構成となっていることから、運転者にトンネル10の終点に近づいていることを認識させる効果がある。白タイルによるパターンの高さの変化も運転者の視線を誘導するため、運転者は違和感なくトンネル10の外部に出ることができる。また、ゾーンEで得たイメージと、トンネル出口付近の実際の景観との間に共通性があるため、トンネル10から外界に出た瞬間の違和感も大幅に軽減されることになる。
【0024】
第2坑口14から第1坑口12に向かう走行においても、上記と同様な効果が得られることは理解されよう。すなわち、ゾーンFにおいて、運転者の視線が白タイルのパターンに導かれることで、円滑にトンネル10内に誘導される。また、白タイルのパターンが車両の進行に伴って上方に拡がることから、閉塞感や圧迫感等が軽減される。ゾーンEは、第2坑口14の外部の景観をイメージしたものであるので、運転者はトンネル10内に入っても外部からの連続性を意識でき、安定感を持つこととなる。更に、この場合、トンネル10は昇り勾配であり車両は減速傾向にあるが、ゾーンEからゾーンBにかけて、ストライプSが長くなるようにデザインが変化しているため、上記とは逆に、過度の減速を防止して一定速度を維持させる効果を奏する。ゾーンBは第1坑口12の外部の景観をイメージしているため、ゾーンAを経て円滑にトンネル10から出た際、運転者は違和感を持つことなく、安定走行を続けていくことができる。
【0025】
以上述べたように、本発明は、トンネル10内の側壁面にデザインを持たせ、しかも、そのデザインはトンネル10に入る直前の外部環境から出た後の外部環境を考慮して、時間の経過に伴って起承転結の流れを連続的に持たせたことを特徴としている(シークエンスデザイン)。更に、空間の広がりを感じさせるデザインでもある。加えて、第1及び第2坑口12,14の付近では、トンネル10の内部環境と外部環境との間のキャップを小さくする緩衝域となっている。従って、運転者は、トンネル10内に違和感なく入り、そこで快適な走行環境を見い出し、安定した走行を確保することができる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限られないことはいうまでもない。
【0027】
例えば、ストライプの色については適宜選択可能であり、単色で明度だけを変えるものとしても、同様な効果が得られると考えられる。
【0028】
また、例えば第1坑口側と第2坑口側の外部環境が類似している場合には、内部デザインは対称的に形成してもよい。
【0029】
更に、制限速度に応じてストライプの長短は適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にが適用され得るトンネルの断面を概略的に示す図である。
【図2】図1のゾーンAの構成を示す断面図である。
【図3】図1のゾーンBの構成を示す概略斜視図である。
【図4】図1のゾーンCの構成を示す概略斜視図である。
【図5】図1のゾーンDの構成を示す概略斜視図である。
【図6】図1のゾーンEの構成を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
10…トンネル、12…第1坑口、14…第2坑口、16…高架橋、18…土工部、20,22…パターン、24…壁高欄、S…ストライプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁面に、車両進行方向に沿って延びる複数本のストライプをランダム配置し、車両走行速度を抑制すべきゾーンにおけるストライプの平均長さを、他のゾーンにおけるストライプの平均長さよりも短くしたことを特徴とする、トンネル。
【請求項2】
前記ストライプは下方ほど明度が低いことを特徴とする、請求項1に記載のトンネル。
【請求項3】
坑口付近の側壁面に施された上下に2色のパターンを有し、
下側のパターンの上縁が、前記坑口の位置において、前記坑口に接続する道路の路面又は壁高欄若しくはガードレール等の上縁に実質的に一致しており、トンネル内部ほど徐々に高くなっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−152620(P2006−152620A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342896(P2004−342896)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(500426858)株式会社ステュディオ ハン デザイン (2)
【Fターム(参考)】