説明

トーイングトラクタ

【課題】トーイングトラクタの運転席の前側にバッテリを設けた場合の運転席からの視野の狭まりを抑制する。
【解決手段】バッテリ収納室23の上部は、平板形状のフード26によって開放可能に被覆されている。フード26は、前側に向かうにつれて低くなる降り勾配となるように傾けられており、フード26の上面は、前側に向かうにつれて低くなる第1傾斜部261となっている。フード26の前側には傾斜壁29が載置面281を間において設けられている。傾斜壁29の上面は、平面であり、平面形状の上面は、前側に向かうにつれて低くなる第2傾斜部291となっている。第2傾斜部291の傾斜角θ2は、第1傾斜部261の傾斜角θ1よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席の前側にバッテリが配設されており、前記バッテリを上から被覆するフードが設けられているトーイングトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のトーイングトラクタが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示のトーイングトラクタでは、バッテリが運転席の後側に設けられている。ドローバは、トーイングトラクタの最後尾にあるため、運転席の後側にあるバッテリは、運転席からドローバに至る距離を長くする。そのため、ドローバ操作レバーからドローバに至る索具の経路が長くなる上に、バッテリの存在がドローバ操作レバーや索具の配設自由度を下げ、ドローバ操作レバーや索具を配設し難くするという事態が生じる。
【0003】
バッテリを運転席の前側に設ければ、上記のような不具合は解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−171378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、バッテリを運転席の前側に設けた場合には、運転席からトーイングトラクタの前端までの距離が長くなり、運転席からの前方かつ下方の視野が狭められて好ましくない。
【0006】
本発明は、トーイングトラクタの運転席の前側にバッテリを設けた場合の運転席からの視野の狭まりを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、運転席の前側にバッテリが配設されており、前記バッテリを上から被覆するフードが設けられているトーイングトラクタを対象とし、請求項1の発明では、前記フードは、前側に向かうにつれて低くなる第1傾斜部を有し、前記第1傾斜部の前側には、前側に向かうにつれて低くなる第2傾斜部が設けられており、前記第2傾斜部の傾斜度は、前記第1傾斜部の傾斜度よりも大きい。
【0008】
第1傾斜部より大きな傾斜度の第2傾斜部を第1傾斜部の前側に設けた構成では、第1傾斜部を単に前方へ延長した場合に比べて、運転席からの前方かつ下方の視野が広がり、運転席の前側にバッテリを設けた場合の運転席からの視野の狭まりが抑制される。
【0009】
好適な例では、前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とは、前後方向に離れており、前記第1傾斜部の前縁と前記第2傾斜部の後縁とを結ぶ仮想直線の傾斜度は、前記第1傾斜部の傾斜度以上の大きさであり、前記第2傾斜部の傾斜度は、前記仮想直線の傾斜度以上の大きさである。
【0010】
好適な例では、前記運転席の前側、且つ左右両側には前照灯がそれぞれ設けられており、前記第2傾斜部は、左側の前記前照灯の右側にあり、かつ右側の前記前照灯の左側にあり、前記第2傾斜部の前縁は、一対の前記前照灯の前後方向における位置よりも前側又は前記一対の前照灯の前後方向における位置内にある。
【0011】
好適な例では、前記第1傾斜部と前記第2傾斜部との間には載置面が設けられており、前記載置面は、前記第1傾斜部の最下位の部位と第2傾斜部の最上位の部位とを結ぶ線より下にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、トーイングトラクタの運転席の前側にバッテリを設けた場合の運転席からの視野の狭まりを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は、トーイングトラクタを示す側面図。(b)は、部分拡大側断面図。
【図2】トーイングトラクタの一部省略斜視図。
【図3】第2の実施形態を示すトーイングトラクタの部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、トーイングトラクタ10の車体11の後部寄り〔トーイングトラクタ10の前進方向を前側としており、図1(a)では左側が前側、右側が後側となる〕には運転席12が設けられており、運転席12には座席13が設けられている。車体11の最後尾にはドローバ装置14が設けられている。
【0015】
車体11の前下部には前輪15が設けられており、車体11の後下部には後輪16が設けられている。車体11の後部には走行モータ17が設けられている。走行モータ17は、後輪16を駆動するためのものである。座席13の前側にはステアリングホイール18が設けられている。走行モータ17は、ステアリングホイール18より後側にある。
【0016】
図2に示すように、ステアリングホイール18より前側(図1に示す運転席12より前側)であって左右両側にはサイドミラー19,20が設けられている。サイドミラー19,20は、後方視認用のミラーである。車体11の前端の左右両側部には前照灯21,22が設けられている。
【0017】
図1(a)に示すように、車体11の前部(運転席12より前側)にはバッテリ収納室23が設けられており、バッテリ収納室23にはバッテリ24が収容されている。走行モータ17は、バッテリ24から電気を得て作動される。座席13の下側にはコントローラ25が収納されている。コントローラ25は、走行モータ17の作動を制御する。コントローラ25は、ステアリングホイール18より後側にある。
【0018】
バッテリ収納室23の上部は、平板形状のフード26によって開放可能に被覆されている。フード26は、前側に向かうにつれて低くなる降り勾配となるように傾けられており、フード26の上面は、前側に向かうにつれて低くなる第1傾斜部261となっている。第1傾斜部261の左右幅の大部分は、サイドミラー19,20の間にある。
【0019】
図1(b)に示すように、バッテリ収納室23を形成する前壁27は、垂直に設けられており、前壁27の上端にはフード26の前端部が載せられている。前壁27より前側の上壁28の上面は、水平な平面の載置面281に形成されており、載置面281は、前壁27の前面271の上下の途中に接合されている。
【0020】
水平な上壁28の前側には傾斜壁29が上壁28の前端に連なるように設けられている。傾斜壁29の上面は、平面であり、平面形状の上面は、前側に向かうにつれて低くなる第2傾斜部291となっている。第1傾斜部261と第2傾斜部291とは、載置面281を間において前後方向に離れている。
【0021】
載置面281は、第1傾斜部261の最下位の部位(第1傾斜部261の前縁262)と第2傾斜部291の最上位の部位(第2傾斜部291の後縁292)とを結ぶ仮想直線Kより下にある。載置面281の周縁には柵31が設けられている。
【0022】
第2傾斜部291の傾斜度は、第1傾斜部261の傾斜度よりも大きい。第2傾斜部291の傾斜度は、第2傾斜部291上の前後方向の直線と水平面Loとがなす角度(傾斜角)θ2で表され、第1傾斜部261の傾斜度は、第1傾斜部261上の前後方向の直線と水平面Loとがなす角度(傾斜角)θ1で表される。
【0023】
第1傾斜部261の前縁262と第2傾斜部291の後縁292とを前後方向に結ぶ仮想直線Kの傾斜度〔水平面Loと仮想直線Kとがなす角度(傾斜角)θ3〕の大きさは、第1傾斜部261の傾斜度〔傾斜角θ1〕より大きい。第2傾斜部291の傾斜度〔傾斜角θ2〕は、仮想直線Kの傾斜度〔傾斜角θ3〕より大きい。
【0024】
傾斜壁29の前端の先にはバンパー30が設けられている。バンパー30の左右両端部には前照灯21,22が嵌め込まれている。左右一対の前照灯21,22は、左右方向(車幅方向)に重なっている。第2傾斜部291は、左側の前照灯21の右側にあり、かつ右側の前照灯22の左側にある。又、第2傾斜部291の前縁293は、一対の前照灯21,22の前後方向における位置よりも前側にある。図1(b)に示すWは、一対の前照灯21,22の前後方向における長さ範囲を表す。一対の前照灯21,22の前後方向における位置は、長さ範囲Wによって表される。前後方向に見た場合に第2傾斜部291の左右の幅の内にあるバンパー30の部位は、第2傾斜部291の前縁293より下側にある。
【0025】
座席13に着座した運転者Pは、前方を視認しながら、あるいは左右を見ながら、あるいは左右のサイドミラー19,20を見ながら、あるいは後方を振り返りながらトーイングトラクタ10を運転する。図1(a)に示す線Lは、前方を見ている運転者Pの視線の例である。視線Lは、運転者Pがトーイングトラクタ10の前方かつ下方を見た場合の最下位の視線を示す。
【0026】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)第1傾斜部261がトーイングトラクタ10の前端まで続いていると仮定する。図1(a)に鎖線で示す傾斜線αは、第1傾斜部261をトーイングトラクタ10の前端位置まで延長した仮想線であり、鎖線βは、傾斜線αがあると仮定した場合に運転者Pがトーイングトラクタ10の前方かつ下方を見た場合の運転者Pの最下位の視線を示す。
【0027】
第2傾斜部291がある場合の視線Lの俯角γは、第2傾斜部291がなくて傾斜線αがある場合の視線βの俯角δよりも大きい。つまり、第1傾斜部261の傾斜角θ1より大きな傾斜角θ2を有する第2傾斜部291を第1傾斜部261の前側に設けた構成では、第1傾斜部261を単に前方へ延長した場合に比べて、運転席12からの前方かつ下方の視野が広く、運転席12の前側にバッテリ24を設けた場合の運転席12からの視野の狭まりが抑制される。
【0028】
(2)仮想直線Kの傾斜度〔傾斜角θ3〕が第1傾斜部261の傾斜度〔傾斜角θ1〕より大きくしてあるため、第2傾斜部291の後縁292の前後一方向の位置まで第1傾斜部261を延長した場合に比べて、運転席12からの前方かつ下方の視野が広い。
【0029】
第2傾斜部291の傾斜度〔傾斜角θ2〕が仮想直線Kの傾斜度〔傾斜角θ3〕より大きくしてあるため、第2傾斜部291を仮想直線Kに仮に合わせた場合(第2傾斜部291の後縁292を始まりとするように第2傾斜部291の傾斜角をθ3と仮にした場合)に比べて、運転席12からの前方かつ下方の視野が広い。
【0030】
従って、仮想直線Kの傾斜度を第1傾斜部261の傾斜度以上の大きさとすると共に、第2傾斜部291の傾斜度を仮想直線Kの傾斜度以上の大きさとした構成では、運転席12の前側にバッテリを設けた場合の運転席からの視野の狭まりの抑制効果が高い。
【0031】
(3)車体11の前部にある左右一対の前照灯21,22の間には、内燃機関を用いた車両に採用されるラジエータのような重要な装置が配置されていないため、前照灯21,22の間における車体11の前部上面を大きく凹ませた形状にすることが可能である。従って、左側の前照灯21の右側、かつ右側の前照灯22の左側における車体11の前部上面は、傾斜面形状に凹ませて第2傾斜部291とする場所として好適である。
【0032】
(4)水平な載置面281は、第1傾斜部261の最下位の部位(第1傾斜部261の前縁262)と第2傾斜部291の最上位の部位(第2傾斜部291の後縁292)とを結ぶ線より下にある。そのため、運転席12からの前方かつ下方の視認を妨げないように載置面281に荷を載せるということも可能である。
【0033】
(5)ステアリングホイール18より後側に走行モータ17及びコントローラ25を設けた構成では、運転席12より前側に走行モータ17及びコントローラ25を設けた場合に比べて、運転席12より前側のトーイングトラクタ10の長さが短くなる。これは、運転席12からの前方かつ下方の視野の拡大に有利である。
【0034】
次に、図3の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
第2の実施形態では、フード26の上面は、平面の第1傾斜面263Aと、第1傾斜面263Aよりも傾斜度が大きい平面の第2傾斜面263Bとから構成されている。第1傾斜面263A及び第2傾斜面263Bは、フード26上の第1傾斜部263を構成する。第2傾斜部291の傾斜度は、第2傾斜面263Bの傾斜度よりも大きい。
【0035】
第2の実施形態では第1の実施形態と同様の効果が得られる。
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○第2傾斜部291の前縁293は、一対の前照灯21,22の前後方向における位置内、つまり長さ範囲W内にあるようにしてもよい。
【0036】
○仮想直線Kの傾斜度と第1傾斜部261の傾斜度とが同じであってもよい。
○仮想直線Kの傾斜度が第1傾斜部261の傾斜度より大きく、かつ第2傾斜部291の傾斜度が第1傾斜部261の傾斜度と同じであってもよい。
【0037】
○第1傾斜部が上に凸の曲面であってもよいし、第2傾斜部が上に凸の曲面であってもよい。この場合、曲面上の前後方向における接線の傾斜角が傾斜度となり、第2傾斜部のいずれの傾斜角も第1傾斜部の傾斜角より大きい。
【0038】
○第1傾斜部が3つ以上の平面を繋いだ折れ曲がり面であってもよい。
○第2傾斜部が複数の平面を繋いだ折れ曲がり面であってもよい。
○第1傾斜部と第2傾斜部とが直接連なっていてもよい。
【0039】
○フードは、着脱不能に固定されていてもよい。
前記した実施形態から把握できる技術思想について以下に記載する。
(イ)前記バッテリから電気を得て作動される走行用モータと、前記走行用モータを制御するためのコントローラとが前記バッテリよりも後側にある請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のトーイングトラクタ。
【0040】
運転席12より前側に走行モータ17及びコントローラ25を設けた場合に比べて、運転席12より前側のトーイングトラクタ10の長さが短くなり、運転席12の前側にバッテリ24を設けた場合の運転席12からの視野の狭まりが抑制される。
【符号の説明】
【0041】
10…トーイングトラクタ。12…運転席。19,20…サイドミラー。21,22…前照灯。24…バッテリ。26…フード。261,263…第1傾斜部。262…最下位の部位となる前縁。281…載置面。291…第2傾斜部。292…最上位の部位となる後縁。293…前縁。θ1,θ2,θ3…傾斜度となる傾斜角。K…仮想直線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席の前側にバッテリが配設されており、前記バッテリを上から被覆するフードが設けられているトーイングトラクタにおいて、
前記フードは、前側に向かうにつれて低くなる第1傾斜部を有し、
前記第1傾斜部の前側には、前側に向かうにつれて低くなる第2傾斜部が設けられており、
前記第2傾斜部の傾斜度は、前記第1傾斜部の傾斜度よりも大きいトーイングトラクタ。
【請求項2】
前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とは、前後方向に離れており、前記第1傾斜部の前縁と前記第2傾斜部の後縁とを結ぶ仮想直線の傾斜度は、前記第1傾斜部の傾斜度以上の大きさであり、前記第2傾斜部の傾斜度は、前記仮想直線の傾斜度以上の大きさである請求項1に記載のトーイングトラクタ。
【請求項3】
前記運転席の前側、且つ左右両側には前照灯がそれぞれ設けられており、前記第2傾斜部は、左側の前記前照灯の右側にあり、かつ右側の前記前照灯の左側にあり、前記第2傾斜部の前縁は、一対の前記前照灯の前後方向における位置よりも前側又は前記一対の前照灯の前後方向における位置内にある請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載のトーイングトラクタ。
【請求項4】
前記第1傾斜部と前記第2傾斜部との間には載置面が設けられており、前記載置面は、前記第1傾斜部の最下位の部位と第2傾斜部の最上位の部位とを結ぶ線より下にある請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のトーイングトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−98671(P2011−98671A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255415(P2009−255415)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】