説明

ドアインパクトビーム及びその製造方法

【課題】ビーム本体部における高強度とブラケット部における優れた耐食性とを併せ持ったドアインパクトビーム、及び、そのようなドアインパクトビームを安価で効率的に製造可能なドアインパクトビームの製造方法を提供する。
【解決手段】焼入れ可能な鋼板から、両端部に係合孔13をそれぞれ有するビーム本体部用のブランク材11を形成する。また、防錆鋼板から、前記係合孔13に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部23を有するブラケット部用の打抜き材21を形成する。前記ブランク材11を850℃以上の温度に加熱する。そして、高温状態にあるブランク材11の係合孔13に非加熱の打抜き材21のバーリング部23を嵌入させた状態で低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部10の付形及び焼入れ、並びに、ビーム本体部10とブラケット部20とのカシメ結合を同時に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌用衝突補強材の一種であるドアインパクトビームと、その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の高温度に加熱した鋼板を低温のプレス型でプレス成形することにより、当該鋼板に所望形状を付与すると同時に焼入れを行う熱間プレス加工法が知られている(例えば特許文献1参照)。熱間プレス加工法は、スプリングバックのない正確な付形と焼入れによる高強度化とを同時達成できるため、各種の車輌用衝突補強材の製造に広く用いられている。この熱間プレス加工法を用いれば、ビーム本体部及びその両端に位置するブラケット部(ドアへの取り付け介在部)からなるドアインパクトビームを、1枚の鋼板から1回のプレス加工で一体成形することができ、高精度で且つ高強度のドアインパクトビームを安価に製造することが可能となる。しかしながら、熱間プレス加工法で造られるブラケット一体成形型のドアインパクトビームにも、いくつかの欠点がある。
【0003】
ドアインパクトビームは乗用車等のドアの内部に取り付けられる衝突補強材であるが、ドアインパクトビームのうちでも、ドアパネルのフレーム部分に対し溶接等によって直接固着又は連結されるブラケット部については特に耐食性が求められる。というのも、ドアインパクトビームに万一錆が生じた場合、その錆がブラケット部を介してドアパネルに広がる虞れがあるからである(つまり、仮にビーム本体が錆びたとしてもブラケット部が錆びなければ、ビーム本体の錆がドアパネルにまで波及することはない)。
【0004】
この点、熱間プレス加工法で造られるブラケット一体成形型のドアインパクトビームに十分な耐食性を持たせることは難しい。なぜなら、熱間プレス加工法では、プレス直前に材料鋼板を所定の高温度(具体的には850℃以上)にまで加熱することが必須条件とされるが、代表的な防錆鋼板である亜鉛メッキ鋼板(GA材)にコーティングされている亜鉛の融点は約420℃であるため、プレス前の加熱工程で亜鉛が流れ落ち、防錆鋼板としての特性が失われてしまう。それ故、亜鉛メッキ鋼板を材料鋼板とする熱間プレス加工は事実上成立しないのである。なお、材料鋼板を熱間プレス加工して得られたブラケット一体成形型ドアインパクトビームのブラケット部分に防錆処理(例えば亜鉛メッキ)を事後的に施すことも考えられないわけではないが、成形後の防錆処理加工は大幅なコストアップを招き、工業的な実現性に乏しい。
【0005】
そこで、ビーム本体部とブラケット部とを単一の鋼板からプレスで一体成形することをあきらめ、熱間プレス加工法で作られたビーム本体部と、防錆鋼板を冷間プレスして作られたブラケット部とを事後的に溶接してドアインパクトビームを製造するという考え方もあり得る。ちなみに、特許文献2は、中空の巻板からなると共に焼入れ処理されたビーム本体の両端部にブラケットを溶接してなる自動車用ドアビームを開示する。
【0006】
しかしながら、鉄系の鋼板の場合、一般に焼入れ効果を発現するためには炭素含有量が多いことが求められる。つまり、焼入れ処理を想定した場合、材料鋼板は炭素鋼になる。その一方で、鉄系鋼板では炭素含有量が多くなるほど溶接が難しくなる傾向にある。このため、焼入れ処理済みのビーム本体と、防錆鋼板由来のブラケット部とを溶接によって結合することは、実際には容易ではないという事情がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5916389号公報
【特許文献2】特許第3023754号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ビーム本体部における高強度と、ブラケット部における優れた耐食性とを併せ持ったドアインパクトビームを提供することにある。また、そのようなドアインパクトビームを安価で効率的に製造することが可能なドアインパクトビームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、焼入れ処理されたビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームにおいて、前記ビーム本体部の各端部には前記ブラケット部との係合部が設けられており、前記ブラケット部は防錆材で構成されると共に、当該ブラケット部には前記ビーム本体部の係合部に対応する係合部が設けられており、前記ビーム本体部の係合部と前記ブラケット部の係合部とを係合させた状態で両係合部のうちの少なくとも一方を折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部とブラケット部とがカシメ結合されていることを特徴とするドアインパクトビームである。
【0010】
請求項2の発明は、焼入れ処理されたビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームにおいて、前記ビーム本体部の各端部には前記ブラケット部との係合孔が設けられており、前記ブラケット部は防錆材で構成されると共に、当該ブラケット部には前記ビーム本体部の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部が設けられており、前記ビーム本体部の係合孔に前記ブラケット部のバーリング部を嵌入させた状態で当該バーリング部を折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部に対してブラケット部がカシメ結合されていることを特徴とするドアインパクトビームである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のドアインパクトビームにおいて、前記ブラケット部には更に、前記ビーム本体部の端部の幅(W)に対応する距離だけ離れた一対の折り曲げ片が設けられており、このブラケット部の一対の折り曲げ片間にビーム本体部の端部を配置した状態で、各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部に対してブラケット部がカシメ結合されていることを特徴とする。
【0012】
[請求項1〜3の作用]
請求項1〜3によれば、車輌衝突時に耐荷重性が要求されるビーム本体部については焼入れ処理がなされる一方、ドアへの取り付け介在部となるブラケット部は防錆材で構成されているため、ドアインパクトビームは、ビーム本体部における高強度と、ブラケット部における優れた耐食性とを併せ持つことができる。また、焼入れ処理により高強度化されたビーム本体部と防錆材で構成されたブラケット部とはカシメにより結合されるため、溶接による結合時にありがちな技術的問題を生じない。特に請求項2によれば、ビーム本体部に設けられた係合孔に対して、ブラケット部に設けられた円筒フランジ状のバーリング部を嵌入させた状態でバーリング部を折り曲げる又は圧潰することによるカシメを行うため、ビーム本体部とブラケット部との間の相対位置決めが正確になる。更に請求項3によれば、前記バーリング部におけるカシメの他に、ブラケット部の一対の折り曲げ片間にビーム本体部の端部を配置した状態で各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することによるカシメが加わるため、ビーム本体部とブラケット部との間のカシメ結合が更に強固になる。
【0013】
請求項4の発明は、ビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームを製造する方法であって、焼入れ可能な鋼板から、両端部に係合孔をそれぞれ有するビーム本体部用部材を形成するビーム本体部準備工程と、防錆鋼板から、前記ビーム本体部用部材の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部を有するブラケット部用部材を形成するブラケット部準備工程と、前記ビーム本体部用部材を850℃以上の温度に加熱する加熱工程と、850℃以上の高温状態にある前記ビーム本体部用部材の係合孔に非加熱の前記ブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させた状態で相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、前記バーリング部の折り曲げ又は圧潰によるビーム本体部とブラケット部とのカシメ結合を同時に行うプレス工程とを備えてなることを特徴とするドアインパクトビームの製造方法である。
【0014】
請求項5の発明は、ビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームを製造する方法であって、焼入れ可能な鋼板から、両端部に係合孔をそれぞれ有するビーム本体部用部材を形成するビーム本体部準備工程と、防錆鋼板から、前記ビーム本体部用部材の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部及び前記ビーム本体部用部材の端部の幅(W)に対応する距離だけ離れた一対の折り曲げ片を有するブラケット部用部材を形成するブラケット部準備工程と、前記ビーム本体部用部材を850℃以上の温度に加熱する加熱工程と、850℃以上の高温状態にある前記ビーム本体部用部材の係合孔に非加熱の前記ブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させると共に、このブラケット部用部材の一対の折り曲げ片間にビーム本体部用部材の端部を配置した状態で相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、前記バーリング部及び各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することによるビーム本体部とブラケット部とのカシメ結合を同時に行うプレス工程とを備えてなることを特徴とするドアインパクトビームの製造方法である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項4又は5に記載のドアインパクトビームの製造方法において、前記防錆鋼板は亜鉛メッキ鋼板であることを特徴とする。
【0016】
[請求項4〜6の作用]
請求項4及び5は、それぞれ請求項2及び3のドアインパクトビームの製造方法に対応する。これらの方法によれば、850℃以上の高温状態にあるビーム本体部用部材の係合孔に非加熱の前記ブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させた状態(請求項5にあっては更に、ブラケット部用部材の一対の折り曲げ片間にビーム本体部用部材の端部を配置した状態)で相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、前記バーリング部の折り曲げ又は圧潰による(請求項5にあっては更に、各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することによる)ビーム本体部とブラケット部とのカシメ結合が一回のプレスで同時に達成される。このため、製造工程数の短縮による製造コストの低減が図られる。また、プレス工程でプレス型にビーム本体部用部材及びブラケット部用部材をセットする際には、ビーム本体部用部材の係合孔にブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させることで、両部材間の相対位置決めが正確になる。このため、形状精度に優れたドアインパクトビームが成形される。
【0017】
更に請求項5によれば、ブラケット部用部材の一対の折り曲げ片間にビーム本体部用部材の端部を配置した状態で各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することによるカシメが加わるため、ビーム本体部とブラケット部との間のカシメ結合が更に強固になる。また、請求項6のように、ブラケット部用部材を形成するための防錆鋼板として亜鉛メッキ鋼板を選択することは好ましい。その場合、亜鉛メッキ鋼板からなるブラケット部用部材は非加熱のままビーム本体部用部材に対してカシメ結合されるため、製造過程で亜鉛メッキが高温にさらされて消失又は減少する虞れがなく、亜鉛メッキ鋼板が本来有する防錆特性をドアインパクトビームの完成後も維持することができる。
【0018】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
請求項4又は5において、前記焼入れ可能な鋼板は、引張強度が500〜800MPaの範囲内にある高張力鋼板であって、0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン及び0.0005〜0.0025wt%のホウ素を少なくとも含有してなる鉄系鋼板であること。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜3のドアインパクトビームによれば、焼入れ処理されたビーム本体部と防錆材で構成されたブラケット部との結合に溶接を採用することなく、ビーム本体部における高強度と、ブラケット部における優れた耐食性とを両立させることができる。
【0020】
請求項4〜6のドアインパクトビームの製造方法によれば、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、焼入れ処理されたビーム本体部と防錆材で構成されたブラケット部とのカシメ結合が一回のプレスで同時に達成されるので、ビーム本体部における高強度とブラケット部における優れた耐食性とを併せ持ったドアインパクトビームを安価で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態であるドアインパクトビーム及びその製造方法について図面を参照しつつ説明する。図7に示すように、本実施形態のドアインパクトビームは、やや長尺なビーム本体部10と、そのビーム本体部10の両端部にそれぞれ設けられたブラケット部20とからなると共に、ビーム本体部10に対し各ブラケット部20がカシメ結合されたものである。図1のフローチャートは、本実施形態のドアインパクトビームの製造手順の概要を示す。この製造手順によれば、当初、ビーム本体部10とブラケット部20とはそれぞれ独立した部材として準備されるが、製造の最終段階であるプレス工程において、ビーム本体部10の付形及び焼入れ、並びに、ビーム本体部10に対するブラケット部20のカシメ結合が同時達成される点に本実施形態の特徴がある。以下、本実施形態の製造手順を説明する。
【0022】
1.ビーム本体部用部材(ブランク材)の準備
焼入れ可能な材料鋼板をビーム本体部形成用の打抜きプレス型を用いてトリム加工することにより、図4に示すように、ビーム本体部10の元となる比較的長尺なブランク材11を形成すると共に、そのブランク材11の両端部12のそれぞれに二つの係合孔13を形成した。ブランク材11の外形状のトリム加工と、係合孔13の形成(ピアス加工)とは、打抜きプレス型による材料鋼板のプレス加工時に同時に行うことが好ましい。尚、このブランク材11の各端部12における幅方向両側縁部12a間の距離が、ブランク材端部12の幅Wに相当する。ブランク材端部12の幅方向両側縁部12a及び係合孔13はいずれも、ブラケット部20との係合部として位置付けられる。
【0023】
本実施形態では、ビーム本体部10又はブランク材11の元となる焼入れ可能な材料鋼板として、鉄系の高張力鋼板であって、鉄以外の添加元素の品質管理範囲がそれぞれ、炭素:0.18〜0.25wt%(重量パーセントの意味)、珪素:0.15〜0.35wt%、マンガン:1.15〜1.40wt%、クロム:0.15〜0.25wt%、チタン:0.01〜0.03wt%、ホウ素:0.0005〜0.0025wt%、リン:0.03wt%以下、硫黄:0.01wt%以下である鋼板(以下「鋼板A」と呼ぶ)を使用した。この鋼板Aの引張強度は500〜800MPaであり、その融点は約1300〜1400℃である。
【0024】
2.ブラケット部用部材(打抜き材)の準備
典型的な防錆鋼板である亜鉛メッキ鋼板(GA材)をブラケット部形成用の打抜きプレス型を用いてトリム加工することにより、図2に示すように、各ブラケット部20の元となる平面的で多角形状(あたかも魚の尾ひれのような形状)のブラケット用打抜き材21を形成すると共に、そのブラケット用打抜き材21の一端部に二つのバーリング用孔22を形成した。次に、この平面的なブラケット用打抜き材21をブラケット部形成用の曲げ加工型に移送し、この曲げ加工型を用いて、当該ブラケット用打抜き材21の各バーリング用孔22にバーリング加工を施すと共に、ブラケット用打抜き材21の一端部の幅方向両側縁部21aに対して図2に破線で示す折り目線に沿って折り曲げ加工を施した(冷間プレスによる曲げ加工)。こうして図3に示すように、前記各バーリング用孔22の周縁部分に円筒フランジ状のバーリング部23を形成すると共に、前記幅方向両側縁部21aにおいて一対の折り曲げ片24を形成した。バーリング部23及び折り曲げ片24はともに、ブラケット用打抜き材21の同一面(上面)側において、当該ブラケット用打抜き材21の本体表面に対して直交するように起立している。
【0025】
バーリング部23の直径(外径)は前記ブランク材11の係合孔13の内径にほぼ等しく、各バーリング部23はそれぞれ対応するブランク材の係合孔13に嵌入可能となっている。また、前記一対の折り曲げ片24は互いに向き合うと共に、これら二つの折り曲げ片24の離間長は前記ブランク材11の端部12の幅Wにほぼ対応している。このため、ブラケット用打抜き材21の二つの折り曲げ片24間にビーム本体部用ブランク材11の端部12を挿入配置可能となっている。バーリング部23及び折り曲げ片24は前記ブランク材11の係合部(12a,13)に対応する係合部として位置付けられる。
【0026】
3.ビーム本体部用部材(ブランク材)の加熱
ビーム本体部用のブランク材11と、それに結合されるべき二つのブラケット用打抜き材21とを準備できたら、ブランク材11を加熱装置に移し、所定の目標温度(本実施形態では900℃)にまで加熱する。但し、ブランク材11の両端部12については、できれば積極的に加熱しないようにすることが好ましい。なお、本実施形態では、加熱装置として電気加熱炉を用いると共に、電気加熱炉内を不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)とし、常温から徐々に温度を上げて目標温度に到達させ、若干時間その目標温度を保持した。
【0027】
尚、前記加熱時の目標温度の好ましい範囲は、加熱したブランク材11を次工程の熱間プレス兼カシメ加工用のプレス型に高速搬送したときの当該プレス型投入時における温度が850℃以上1050℃以下となる温度である。プレス型投入時の温度が850℃未満の場合には、冷えたプレス型との温度差が小さくなり、焼入れによる強度向上が不十分となる虞れがある。他方、プレス型投入時の温度が1050℃を超えるほど高温度に加熱すると、むしろ強度が低下する又は強度向上が頭打ちの傾向となる虞れがある。その理由としては、プレス型投入時の温度を高くするために加熱装置での加熱温度をあまり高くしすぎると、加熱段階で金属結晶の粗大化が助長され、結晶組織の結びつきが却って粗くなるからである。このように、プレス型投入時のブランク材温度が850℃以上1050℃以下となるように、ブランク材11を加熱することが好ましい。
【0028】
4.ビーム本体部用部材及びブラケット部用部材に対するプレス加工
このプレス加工工程で用いる熱間プレス兼カシメ加工用のプレス型(図示略)は、固定型たる下型及び可動型たる上型からなると共に、これらの型内に強制冷却機構(例えば冷却水の循環路)を備えたものである。
【0029】
先ず、このプレス型の下型(固定型)上に、二つのブラケット用打抜き材21を、それぞれのバーリング部23及び折り曲げ片24が上向きとなるように所定距離を隔てて配置する。次に、前記加熱装置において目標温度に加熱したブランク材11を上下両型間に高速搬送すると共に、二つのブラケット用打抜き材21間に配置する。その際、図5(A)及び(B)に示すように、ブランク材11の各端部12と各ブラケット用打抜き材21の端部とを重ね合わせて、各ブラケット用打抜き材21の一対の折り曲げ片24間にブランク材11の端部12を挿入配置すると共に、各ブラケット用打抜き材21の二つのバーリング部23を各ブランク材端部12の二つの係合孔13にそれぞれ嵌入させる。係合孔13とバーリング部23との係合が完了したら、上型(可動型)を作動させてプレス加工を速やか完了する。尚、ブランク材11を加熱装置から取り出してプレス型にセットし押圧動作を開始するまでの時間を5秒以内として、プレス時のブランク材11の温度が850℃を下回らないようにする。
【0030】
上下両型による押圧を5〜20秒程度保持し、変形加工されたブランク材11の形状の安定化及び焼入れの完了を見計らってから、上下両型を離間させて製品を取り出す。このプレス加工により、ブランク材端部12及びその近傍を除くブランク材11の略中央部分には、図6(A)及び(C)に示すような波形の横断面形状が付与されると共に、高温状態にあるブランク材11に対して相対的に低温のプレス型(本実施形態におけるプレス型の温度は室温から約250℃の範囲)が密接することにより、ブランク材11全体に焼入れが施される。尚、焼入れの結果、当初の引張強度が500〜800MPaだったブランク材11は、引張強度が1400〜1700MPaのビーム本体部10となる。
【0031】
また、ビーム本体部10を構成するブランク材11の付形及び焼入れと同時に、主に上型(可動型)によって、円筒フランジ状のバーリング部23の頭頂部分が半径方向外向きに広がるように折り曲げられると共に、各折り曲げ片24がビーム本体部上面に重なるように幅方向内向きに折り曲げられる。その結果、図6(A)及び(B)に示すように、ビーム本体部10の両端部に対してブラケット部20を構成するブラケット用打抜き材21がカシメ結合される。なお、このプレス加工の際に、ブラケット部20の一部又は全部に若干の曲げ加工(付形)が同時に施されてもよい。こうして図7に示すように、ビーム本体部10の両端部に対してブラケット部20がカシメ結合されたドアインパクトビームが得られる。
【0032】
なお、本実施形態のドアインパクトビームは自動車のサイドドア内部に取り付けて使用される。具体的には図8及び図9に示すように、サイドドア30を構成するドアパネルのうちの車体内側に位置するドアインナパネル31の下半部周縁域に対して、ドアインパクトビームの各ブラケット部20をスポット溶接(32)することにより当該ビームが固定される。ドアインナパネル31にあっては、その下半部中央域はウインドウガラス等を収めるための凹部31aとなっているのに対し、ドアインナパネル31の下半部周縁域はやや盛り上がった段部31bを構成している。各ブラケット部20はこの段部31bに対してスポット溶接(32)される。その際、図9(A)及び(B)に示すように、各ブラケット部20のみならずビーム本体部10の各端部も、ドアインナパネルの段部31b上に重なるようにドアインパクトビームを配置することが好ましい。このような重なり配置を採用すれば、側面衝突時のドアインパクトビームに対する負荷が、ビーム本体部10からドアインナパネルの段部31bに直接伝達されることになるため、ビーム本体部10とブラケット部20との間のカシメ結合の強度が側面衝突時のドアインパクトビームの耐荷重性能に影響を及ぼす虞れが少なく、ドアインパクトビームはその想定された本来の性能を十分に発揮可能となる。
【0033】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、熱間プレス兼カシメ加工用のプレス型を用いたプレス加工によって、ビーム本体部10の付形及び焼入れ、並びに、バーリング部23及び折り曲げ片24をビーム本体部10上に重なるように折り曲げることによるビーム本体部10とブラケット部20とのカシメ結合が一回のプレスで同時達成される。つまり、熱間プレスによる付形及び焼入れ処理(ダイクエンチ成形)とカシメ加工とを1回の押圧操作で同時達成することができる。このため、従来例のような溶接工程を余分に必要とせず、従来よりも工程数の削減及び製造コストの低減を図ることができる。
【0034】
また、熱間プレス兼カシメ加工用のプレス型にビーム本体部用のブランク材11及びブラケット用打抜き材21をセットする際には、ブランク材11の係合孔13に打抜き材21のバーリング部23を嵌入させることで、両部材(11,21)間の相対位置決めが正確になるため、形状精度に優れたドアインパクトビームを成形することができる。
【0035】
本実施形態では、亜鉛メッキ鋼板からなるブラケット用打抜き材21は非加熱のままビーム本体部10用のブランク材11に対してカシメ結合されるため、製造過程で亜鉛メッキが高温にさらされて消失又は減少する虞れがない。従って、上記製造手順を経て製造されたドアインパクトビームの各ブラケット部20は、亜鉛メッキ鋼板本来の防錆特性を保持している。また、各ブラケット部20は、亜鉛メッキ鋼板を実質的に冷間プレス加工して得たものに過ぎず溶接性を損なうものではないので、ドアインナパネル31の段部31bに対するスポット溶接が容易である。
【0036】
本実施形態のドアインパクトビームによれば、車輌衝突時に耐荷重性が要求されるビーム本体部10については焼入れ処理がなされる一方、ドアへの取り付け介在部となるブラケット部20は防錆材である亜鉛メッキ鋼板で構成されている。それ故、本実施形態のドアインパクトビームは、ビーム本体部10における高強度と、ブラケット部20における優れた耐食性とを併せ持つことができる。また、焼入れ処理により高強度化されたビーム本体部10と防錆材で構成されたブラケット部20とはカシメにより結合されるため、溶接による結合時にありがちな技術的問題を生じない。
【0037】
従来のブラケット一体成形型のドアインパクトビームでは、特別な強度を必要としないブラケット部についてもビーム本体部と同じ板厚にせざるを得なかったが、本実施形態では、ブラケット部20の板厚をビーム本体部10の板厚よりも薄くすることもできる。それ故、ブラケット部20の肉薄化によるドアインパクトビーム全体の更なる軽量化を図ることも可能である。
【0038】
[変更例]:上記実施形態では、バーリング部23によるカシメ結合に加えて、折り曲げ片24によるカシメ結合をも併用したが、折り曲げ片24によるカシメ結合については省略されてもよい。
【0039】
[変更例]:上記実施形態ではバーリング部23及び折り曲げ片24を折り曲げることでカシメ結合を実現したが、折り曲げによって規則正しく変形させるというのではなく、これらの部位を圧潰すること(圧し潰すこと)により、例えば座屈のような不規則的な変形を生じさせてカシメ結合を実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ドアインパクトビームの製造手順の概要を示すフローチャート。
【図2】ブラケット用打抜き材の平面図。
【図3】(A)はブラケット用打抜き材の曲げ加工後の平面図、(B)は(A)のA−A線断面図。
【図4】ビーム本体部用ブランク材の両端部付近を示す平面図。
【図5】(A)はブラケット部用打抜き材とビーム本体部用ブランク材とを重ね合わせたときの平面図、(B)は(A)のB−B線断面図。
【図6】(A)はプレス加工後の平面図、(B)は(A)のC−C線断面図、(C)は(A)のD−D線断面図。
【図7】ドアインパクトビームの概略平面図。
【図8】ドアインパクトビームをドア内部に取り付けるときの配置状況を示す図。
【図9】(A)は図8中の二点鎖線で丸囲みした部分の拡大図、(B)は(A)のE−E線断面図。
【符号の説明】
【0041】
10…ビーム本体部、11…ブランク材(ビーム本体部用部材)、12…ブランク材端部、12a…ブランク材端部の幅方向両側縁部(係合部)、13…係合孔(係合部)、20…ブラケット部、21…ブラケット用打抜き材(ブラケット部用部材)、22…バーリング用孔、23…バーリング部(係合部)、24…折り曲げ片(係合部)、W…ブランク材端部の幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れ処理されたビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームにおいて、
前記ビーム本体部の各端部には前記ブラケット部との係合部が設けられており、
前記ブラケット部は防錆材で構成されると共に、当該ブラケット部には前記ビーム本体部の係合部に対応する係合部が設けられており、
前記ビーム本体部の係合部と前記ブラケット部の係合部とを係合させた状態で両係合部のうちの少なくとも一方を折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部とブラケット部とがカシメ結合されていることを特徴とするドアインパクトビーム。
【請求項2】
焼入れ処理されたビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームにおいて、
前記ビーム本体部の各端部には前記ブラケット部との係合孔が設けられており、
前記ブラケット部は防錆材で構成されると共に、当該ブラケット部には前記ビーム本体部の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部が設けられており、
前記ビーム本体部の係合孔に前記ブラケット部のバーリング部を嵌入させた状態で当該バーリング部を折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部に対してブラケット部がカシメ結合されていることを特徴とするドアインパクトビーム。
【請求項3】
前記ブラケット部には更に、前記ビーム本体部の端部の幅(W)に対応する距離だけ離れた一対の折り曲げ片が設けられており、このブラケット部の一対の折り曲げ片間にビーム本体部の端部を配置した状態で各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することにより、ビーム本体部に対してブラケット部がカシメ結合されていることを特徴とする請求項2に記載のドアインパクトビーム。
【請求項4】
ビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームを製造する方法であって、
焼入れ可能な鋼板から、両端部に係合孔をそれぞれ有するビーム本体部用部材を形成するビーム本体部準備工程と、
防錆鋼板から、前記ビーム本体部用部材の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部を有するブラケット部用部材を形成するブラケット部準備工程と、
前記ビーム本体部用部材を850℃以上の温度に加熱する加熱工程と、
850℃以上の高温状態にある前記ビーム本体部用部材の係合孔に非加熱の前記ブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させた状態で相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、前記バーリング部の折り曲げ又は圧潰によるビーム本体部とブラケット部とのカシメ結合を同時に行うプレス工程と
を備えてなることを特徴とするドアインパクトビームの製造方法。
【請求項5】
ビーム本体部及びその両端部に設けられたブラケット部を備えてなるドアインパクトビームを製造する方法であって、
焼入れ可能な鋼板から、両端部に係合孔をそれぞれ有するビーム本体部用部材を形成するビーム本体部準備工程と、
防錆鋼板から、前記ビーム本体部用部材の係合孔に嵌入可能な円筒フランジ状のバーリング部及び前記ビーム本体部用部材の端部の幅(W)に対応する距離だけ離れた一対の折り曲げ片を有するブラケット部用部材を形成するブラケット部準備工程と、
前記ビーム本体部用部材を850℃以上の温度に加熱する加熱工程と、
850℃以上の高温状態にある前記ビーム本体部用部材の係合孔に非加熱の前記ブラケット部用部材のバーリング部を嵌入させると共に、このブラケット部用部材の一対の折り曲げ片間にビーム本体部用部材の端部を配置した状態で相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すことにより、ビーム本体部の付形及び焼入れ、並びに、前記バーリング部及び各折り曲げ片をビーム本体部上に重なるように折り曲げる又は圧潰することによるビーム本体部とブラケット部とのカシメ結合を同時に行うプレス工程と
を備えてなることを特徴とするドアインパクトビームの製造方法。
【請求項6】
前記防錆鋼板は亜鉛メッキ鋼板であることを特徴とする請求項4又は5に記載のドアインパクトビームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−321405(P2006−321405A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147600(P2005−147600)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)