ドア塗装用治具
【課題】センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供する。
【解決手段】スライドドア11の車両内側に、水平方向に回動可能なドア支持部2が取り付けられている。また、車両本体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心としてドア支持部2を回動可能に保持する回転部3を備える。ドア支持部2は、スライドドア11と接続する第1接続部4と、回転部3と接続する第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するよう構成されている。そして、スライドドア11が車両のドア開口部7を閉じる閉位置と、スライドドア11の後端部110が車両後方へ最も移動した開位置と、スライドドア11の後端部110が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、スライドドア11を移動可能に保持するよう構成されている。
【解決手段】スライドドア11の車両内側に、水平方向に回動可能なドア支持部2が取り付けられている。また、車両本体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心としてドア支持部2を回動可能に保持する回転部3を備える。ドア支持部2は、スライドドア11と接続する第1接続部4と、回転部3と接続する第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するよう構成されている。そして、スライドドア11が車両のドア開口部7を閉じる閉位置と、スライドドア11の後端部110が車両後方へ最も移動した開位置と、スライドドア11の後端部110が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、スライドドア11を移動可能に保持するよう構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のスライドドアを塗装する際に用いるドア塗装用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを仮固定するためのドア塗装用治具が知られている(下記特許文献参照)。
従来のドア塗装用治具の一例を図17に示す。同図に示すごとく、このドア塗装用治具90は、ヒンジ94によって開閉可能な2本のアーム95a,95bと、一方のアーム95aの先端に取り付けられたセンタローラ96とを備える。
【0003】
ドア塗装用治具90を用いる際には、車体のセンタレール93cに上記センタローラ96を嵌合し、他方のアーム95bをスライドドア91に固定する。また、スライドドア91の上部に取り付けたアッパローラ92aを車体のアッパレール93aに嵌合し、スライドドア91の下部に取り付けたロアローラ92bを車体のロアレール93bに嵌合する。そして、これらのローラ92a,92b,96によってスライドドア91を車両前後方向にスライド可能に支持するとともに、2本のアーム95a,95bの開閉によって、スライドドア91の後端部900が側方に開くようにしている。これにより、スライドドア91の内側や、車体のアッパレール93a付近,ロアレール93b付近も容易に塗装できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−262706号公報
【特許文献2】特開2007−120189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のドア塗装用治具90は、センタローラ96がセンタレール93cを滑走した際に、すでにセンタレール93cに塗装されていた塗装膜が剥がれると共にそのカスが飛散して車体側面に付着し、品質不良が発生する問題があった。そのため、センタレール93cから塗装膜のカスが飛散しにくいドア塗装用治具90が望まれていた。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアの車両内側に、水平方向に回動可能に取り付けられるドア支持部と、
上記車体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心として上記ドア支持部を回動可能に保持する回転部とを備え、
上記ドア支持部は、上記スライドドアと接続する第1接続部と、上記回転部と接続する第2接続部との間の距離が、上記スライドドアの移動に伴って変化するよう構成されており、
上記スライドドアが車両のドア開口部を閉じる閉位置と、上記スライドドアの後端部が車両後方へ最も移動した開位置と、上記スライドドアの後端部が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、該スライドドアを移動可能に保持するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアにおける室内側部分に取り付けられるドア側支持部と、
上記車体のドア開口部おける後方縁部近傍であって該ドア開口部に閉じた上記スライドドアよりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部と、
該車体側支持部と上記ドア側支持部とに架け渡すリンク部とを備え、
該リンク部は、その一端部が上記車体側支持部に設けた車体側軸部に対して回動可能に支持され、その他端部が上記ドア側支持部に設けたドア側軸部に対して回動可能に支持されており、
上記スライドドアの室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、上記ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持した状態において、上記スライドドアを、上記ドア開口部を閉じる閉位置から、上記リンク部を上記車体側軸部を中心に回動させることにより、上記各レールに対してスライドする上記各ローラを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置と、上記各レールに対して上記各ローラがスライドして車両後方へ移動した開位置とに連続して移動させるよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具にある(請求項6)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の作用効果につき説明する。
第1の発明のドア塗装用治具は、車両本体に固定配置された回転部と、該回転部とスライドドアとに接続されるドア支持部とを備える。
このようにすると、例えば、スライドドアの車両前側部分をローラで支持し、車両後側部分を、ドア支持部を介して回転部で支持することができる。そのため、従来(図17参照)のように、スライドドア91の車両後側部分を支持するために、センタローラ96をセンタレール93cに嵌合させる必要がなくなる。これにより、センタローラがセンタレールを滑走する際に塗装膜のカスが飛散して車両側面に付着する等の問題が無くなる。
【0010】
また、ドア塗装用治具を用いることにより、スライドドアの閉位置においては、スライドドアの室外側部分(アウターパネル)の塗装を行うことができ、スライドドアのワイド開き位置においては、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができ、スライドドアの開位置においては、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部における縁部の塗装を行うことができる。これにより、簡単な構造のドア塗装用治具によって、スライドドアの各部の塗装を容易に行うことができる。
【0011】
また、ドア支持部は、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されている。このようにすると、スライドドアを大きな角度で開くことが可能になる。そのため、スライドドアの内側等の塗装を行いやすくなる。
また、本発明は、スライドドアを大きな角度で開くことができるため、スライドドアの回転角度が異なる複数種類の車種に共通して使用することができる。
【0012】
以上のごとく、第1の発明によれば、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供することができる。
【0013】
次に、第2の発明の作用効果につき説明する。
第2の発明のドア塗装用治具は、上記ドア側支持部、車体側支持部及びリンク部を備えている。そして、スライドドア及びドア開口部の塗装を行う際には、スライドドアにおける上下の中間位置のローラ(センタローラ)を車体のセンタレールに支持させる代わりに、スライドドアにおける室内側部分にドア側支持部を取り付けると共に車体のドア開口部おける後方縁部近傍に車体側支持部を取り付け、車体側支持部とドア側支持部とにリンク部を架け渡す。また、スライドドアは、その室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持させておく。
【0014】
上記ドア塗装用治具の取り付けを行った後、スライドドアをドア開口部に対して閉じた閉位置においては、スライドドアの室外側部分(アウターパネル)の塗装を行うことができる。次いで、リンク部を車体側軸部を中心に回動させてスライドドアを移動させ、各レール(アッパレール及びロアレール)に対してスライドする各ローラを中心にスライドドアを車両側方へ開けて、スライドドアを傾斜開き位置にする。このとき、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができる。次いで、リンク部を車体側軸部を中心にさらに回動させ、各レール(アッパレール及びロアレール)に対して各ローラをさらにスライドさせて、スライドドアを車両後方へ移動した開位置にする。このとき、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部における縁部の塗装を行うことができる。
なお、塗装を行う順序は、上記順序に限られず、例えば、スライドドアの開位置、傾斜開き位置、閉位置の順に塗装を行うことができる。
【0015】
このように、スライドドアは、閉位置から傾斜開き位置及び開位置へと連続して移動させることができる。そのため、極めて簡単な構造のドア塗装用治具によって、スライドドアの各部の塗装を容易に行うことができる。
また、本発明においては、スライドドアにおける上下の中間位置のローラを車体のセンタレールに支持させる必要がなく、センタレールに付着した塗装膜がセンタローラによって剥がされて車体に付着する等の問題を解決することができる。
【0016】
以上のごとく、本発明によっても、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を、車両とともに車両後方から見た図。
【図2】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車内から見た斜視図。
【図3】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図4】図3のスライドドアを開位置にした平面図。
【図5】図3のスライドドアの開き方を説明するための平面図。
【図6】図3のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図7】実施例2における、ドア支持部の形状を変更したドア塗装用治具を車体とともに描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図8】図7のスライドドアを開位置にした平面図。
【図9】図7のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図10】実施例3における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図11】図10のスライドドアを開位置にした平面図。
【図12】図10のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図13】実施例4における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を、車両とともに車両後方から見た図。
【図14】実施例4における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図15】図14のスライドドアを傾斜開き位置にした平面図。
【図16】図14のスライドドアを開位置にした平面図。
【図17】従来例における、スライドドアに取り付けたドア塗装用治具。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述した第1、第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記ドア支持部は、上記スライドドアに回動可能に接続されたドア側部分と、上記回転部に接続された車両側部分と、上記ドア側部分と上記車両側部分とを接続する第1回動部材とを備え、上記ドア支持部は、上記ドア側部分と上記車両側部分との角度が変化することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることが好ましい(請求項2)。
このようにすると、ドア側部分と、車両側部分と、第1回動部材とからなるリンク機構により、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が、スライドドアの移動に伴って変化するドア支持部を、簡単に構成することができる。すなわち、第1回動部材を回転させて、ドア側部分と車両側部分との角度を変化させることにより、スライドドアを大きな角度で開くことができる。
【0019】
また、上記ドア支持部は、上記回転部において、上記回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材であり、該棒状部材の先端部が第2回動部材によって上記スライドドアに回動自在に接続されており、上記棒状部材は、上記回転部においてスライド移動することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることが好ましい(請求項3)。
このようにすると、棒状部材と回転部を使って、第1接続部と第2接続部との間の距離が、スライドドアの移動に伴って変化する構造を、簡単に構成することができる。すなわち、棒状部材をスライドさせ、回転部を回転することにより、棒状部材とスライドドアのなす角度を変化させることができ、スライドドアを大きな角度で開くことができる。
【0020】
また、上記第1回動部材又は第2回動部材はユニバーサルジョイントであることが好ましい(請求項4)。
このようにすると、スライドドアを開位置またはワイド開き位置に移動した際に、スライドドアの重量によってドア支持部にねじれが加わった場合でも、そのねじれをユニバーサルジョイントで吸収することができる。これにより、スライドドアをスムーズに開閉することが可能になる。
特に本発明では、スライドドアが開く角度が大きいため、スライドドアをワイド開き位置に移動した際にドア支持部にねじれが加わりやすい。そのため、ユニバーサルジョイントを用いることによる効果が大きい。
【0021】
また、上記スライドドアの上下に各々ローラが取り付けられており、該ローラを上記車体の上部及び下部に設けたレールにそれぞれ嵌合した状態で、該スライドドアをスライド可能に保持することが好ましい(請求項5)。
このようにすると、スライドドアに予め取り付けられているローラ(アッパローラとロアローラ)を使って、スライドドアの一端(車両前方部分)を支持することができる。また、スライドドアの他端(車両後方部分)は、ドア塗装用治具によって支持することができる。
【0022】
第2の発明において、上記リンク部は、上記スライドドアが上記開位置にあるときに、上記ドア開口部における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されていることが好ましい(請求項7)。
この場合には、車体側支持部における車体側軸部を、車体のドア開口部おける後方縁部近傍におけるより適切な位置に配設することができる。
【0023】
また、上記ドア側支持部は、上記スライドドアにおける室内側部分の前後方向の中間位置に取り付けられており、上記リンク部は、上記スライドドアが上記閉位置にあるときに、上記車体側軸部から室内側へ向く部分と上記ドア側軸部から室内側へ向く部分とを繋ぐ屈曲形状を有していることが好ましい(請求項8)。
この場合には、スライドドアを閉位置から傾斜開き位置及び開位置へと円滑に開くことができ、また、リンク部を簡単な形状で形成することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるドア塗装用治具につき、図1〜図6を用いて説明する。
図1、図2に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、車両のスライドドア11を塗装する際に、該スライドドア11を移動可能に保持する。
スライドドア11の車両内側に、水平方向に回動可能なドア支持部2が取り付けられている。
また、鉛直方向を向く回転軸線を中心としてドア支持部2を回動可能に保持する回転部3が、車体10に固定配置されている。
【0025】
図3〜図6に示すごとく、ドア支持部2は、スライドドア11と接続する第1接続部4と、回転部3と接続する第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するよう構成されている。
そして、スライドドア11が車両のドア開口部7を閉じる閉位置(図3参照)と、スライドドア11の後端部110が車両後方へ最も移動した開位置(図4参照)と、スライドドア11の後端部110が車両側方へ最も移動したワイド開き位置(図6参照)との間で、スライドドア11を移動可能に保持するよう構成されている。
以下、詳説する。
【0026】
図1に示すごとく、車体10は、ドア開口部7の上方にアッパレール13aを備え、ドア開口部7の下方にロアレール13bを備える。また、車体10の側面に、センタレール13cが形成されている。スライドドア11を塗装する際には、スライドドア11の車両前方上部に取り付けられたアッパローラ12aをアッパレール13aに嵌合し、スライドドア11の車両前方下部に取り付けられたロアローラ12bをロアレール13bに嵌合する。
また、センタレール13cには、ドア塗装時には何も嵌合しない。そして、スライドドア11の塗装後には、センタレール13cに嵌合させるローラをスライドドア11に取り付ける。
【0027】
一方、図2〜図6に示すごとく、ドア支持部2は、スライドドア11に回動可能に接続されたドア側部分20と、回転部3に接続された車両側部分21と、ドア側部分20と車両側部分21とを接続する第1回動部材61とを備える。ドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21との角度が変化することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
【0028】
図2に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、回転部3としてヒンジを使用している。このヒンジによって、ドア支持部2の車両側部分21を水平方向に回動可能に支持している。また、第1接続部4にもヒンジを使用しており、このヒンジによって、ドア側部分20を水平方向に回動可能に支持している。
また、本例のドア塗装用治具1は、第1回動部材61としてユニバーサルジョイント6を使用している。
なお、回転部3の配置位置は、車種によって適宜変更し得る。
【0029】
一方、図3に示すごとく、本例における車両側部分21は、ユニバーサルジョイント6に接続された直線部210と、回転部3に接続された湾曲部211とを備える。
回転部3は、ドア開口部7における後方縁部近傍であってドア開口部7に閉じたスライドドア11よりも室内側に位置する。車両側部分21は、スライドドア11が開位置にあるときに、ドア開口部7における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されている。
【0030】
スライドドア11は、ドア開口部7を閉じる閉位置から、回転部3を中心にドア支持部2の車両側部分21を回動させることにより、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドするアッパローラ12a及びロアローラ12bを中心に車両側方へ開いて、半開き状態Aを形成する。そして、半開き状態Aから第1回動部材61を中心にドア支持部2のドア側部分20を回動させることにより、スライドドア11をワイド開き位置に移動させる。また、ドア側部分20の回動を元に戻して、回転部3を中心にドア支持部2の車両側部分21をさらに回動させることにより、アッパレール13a及びロアレール13bに対してアッパローラ12a及びロアローラ12bがさらにスライドして、スライドドア11を開位置に移動させる。
【0031】
塗装作業を行う際には、塗装用治具1を使って、スライドドア11を閉位置(図3)と、開位置(図4)と、ワイド開き位置(図6)との間で移動させ、スライドドア11を塗装する。閉位置(図3)においては、スライドドア11の車両外面を主に塗装する。また、開位置(図4)では、車体10の、レール13付近を主に塗装する。さらに、ワイド開き位置(図6)では、スライドドア11の車両内面を主に塗装する。
【0032】
スライドドア11を閉位置(図3)から開位置(図4)に移動させる際には、回転部3を中心に車両側部分21を右回りに回動させる。同時に、ユニバーサルジョイント6を中心にドア側部分20を車両側部分21に対して左回りに回動させる。これに伴い、ローラ12がレール13上を車両後方へ移動する。また、ローラ12を中心にして、スライドドア11が車両側部分21に対して左回りに回動する。これにより、図3の状態から図5の半開き状態Aを経て、図4に示すごとく、スライドドア11が開位置に移動する。
【0033】
また、スライドドア11を開位置からワイド開き位置に移動する場合には、まず、図4、図5に示すごとく、回転部3を中心として、車両側部分21を左回りに回動させる。同時に、ドア側部分20がスライドドア11に隣接した状態で、ローラ12を中心にスライドドア11を左回りに回動させる。これにより、図5に示すごとく、スライドドア11が半開き状態Aになる。
その後、図5に示すごとく、ユニバーサルジョイント6を中心にドア側部分20を車両側部分21に対して左回りに回動させる。これにより、ローラ12がレール13上を車両前方へ若干移動し、さらにこのローラ12を中心にしてスライドドア11が左回りに回動する。同時に第1接続部4が回動し、スライドドア11とドア側部分20との間の角度θが大きくなる。この結果、スライドドア11がワイド開き位置(図5のB、図6)に移動する。
【0034】
次に、本例のドア塗装用治具1の作用効果につき説明する。
本例のドア塗装用治具1は、図1、図2に示すごとく、車両本体に固定配置された回転部3と、該回転部3とスライドドア11とに接続されるドア支持部2とを備える。
このようにすると、スライドドア11の車両前側部分をローラ12等で支持し、車両後側部分を、ドア支持部2を介して回転部3で支持することができる。そのため、従来(図17参照)のように、スライドドア91の車両後側部分を支持するために、センタローラ96をセンタレール93cに嵌合させる必要がなくなる。これにより、センタローラ96がセンタレール93cを滑走する際に塗装膜のカスが飛散して車両側面に付着する等の問題が無くなる。
【0035】
また、ドア支持部2は、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。このようにすると、スライドドア11を大きな角度で開くことが可能になる。そのため、スライドドア11の内側等の塗装を行いやすくなる。
【0036】
また、本発明のドア塗装用治具1は、スライドドア11を大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の回転角度が異なる複数種類の車種に共通して使用することができる。
【0037】
また、図2に示すごとく、ドア支持部2は、ドア側部分20と、車両側部分21と、第1回動部材61を備える。そしてドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21との角度が変化することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
このようにすると、ドア側部分20と、車両側部分21と、第1回動部材61とからなるリンク機構により、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するドア支持部2を、簡単に構成することができる。すなわち、図5、図6に示すごとく、第1回動部材61を回転させて、ドア側部分20と車両側部分21との角度を変化させることにより、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。
【0038】
また、本例では、第1回動部材61として、ユニバーサルジョイント6を使用している。
このようにすると、スライドドア11を開位置またはワイド開き位置に移動した際に、スライドドア11の重量によってドア支持部2にねじれが加わった場合でも、そのねじれをユニバーサルジョイント6で吸収することができる。これにより、スライドドア11をスムーズに開閉することが可能になる。
特に本発明では、スライドドア11が開く角度が大きいため、スライドドア11をワイド開き位置に移動した際に発生するねじれが加わりやすい。そのため、ユニバーサルジョイント6を用いることによる効果が大きい。
【0039】
また、本例では、スライドドア11の上下に各々ローラ12a,12bが取り付けられており、該ローラ12a,12bを車体の上部及び下部に設けたレール13a,13bにそれぞれ嵌合した状態で、スライドドア11をスライド可能に保持している。
このようにすると、スライドドア11に予め取り付けられているローラ12(アッパローラ12aとロアローラ12b)を使って、スライドドア11の車両前側部分を支持することができる。そのため、スライドドア11に支持用の別の部品を取り付けなくても、スライドドアを支持できる。また、スライドドア11の車両後側部分は、ドア塗装用治具1によって支持することができる。
【0040】
以上のごとく、本例によれば、複数の車種に共通して使用することができ、スライドドア11を大きな角度で開くことができるとともに、センタレール13cから塗装膜が飛散しにくいドア塗装用治具1を提供することができる。
【0041】
(実施例2)
次に、本例のドア塗装用治具1の、ドア支持部2の形状を変形した例を図7〜図9に示す。このドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21とに分かれており、これらドア側部分20と車両側部分21とを第1回動部材61(ユニバーサルジョイント6)によって接続している。また、車両側部分21は直線状に形成され、回転部3は、レール13の車両後端部に固定配置されている。このドア塗装用治具1を用いることにより、スライドドア11を、閉位置(図7)と、開位置(図8)と、ワイド開き位置(図9)との間で移動可能に保持している。
その他、実施例1と同様の構成を有する。
【0042】
本例の作用効果について説明する。
図7〜図9に示すごとく、本例では、ドア側部分20と車両側部分21の間の角度を変化させることにより、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。そのため、ワイド開き位置(図9)において、スライドドア11の内側面を容易に塗装することができる。また、本例のドア塗装用治具1は大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の開く角度が異なる複数種類の車両において、共通して使用することができる。さらに、スライドドア11の重量の一部をドア支持部2と回転部3とで支持しているため、従来のように(図17参照)、治具のセンタローラをセンタレールに嵌合する必要がない。これにより、センタローラの走行に伴って、センタレールに付着した塗装が剥がれて塗装のカスが飛散する不具合を防止できる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0043】
(実施例3)
本例は、ドア支持部2の構成を変更した例である。図10〜図12に示すごとく、本例のドア支持部2は、回転部3において、回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材23である。この棒状部材23の先端部が、第2回動部材62によってスライドドア11に回動自在に接続されている。棒状部材23は、回転部3においてスライド移動することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
図10〜図12に示すごとく、回転部3の回転動作と、棒状部材23のスライド動作とによって、スライドドア11が、閉位置(図10)と、開位置(図11)と、ワイド開き位置(図12)との間で移動する。
また、本例では、第2回動部材62としてユニバーサルジョイント6を用いている。
【0044】
スライドドア11を閉位置(図10)から開位置(図11)に移動するためには、棒状部材2を、回転部3に対して車両外側にスライドさせる。これにより、ローラ12がレール13上を車両後方へ移動するとともに、ローラ12とユニバーサルジョイント6とが回動して、スライドドア11が棒状部材23に対して左回りに回転する。その結果、スライドドア11が開位置(図11)へ移動する。
【0045】
また、スライドドア11を開位置(図11)からワイド開き位置(図12)へ移動するためには、回転部3を左回りに回転するとともに、棒状部材23を車両内側へスライドさせる。これにより、ローラ12がレール13上を車両前方に移動する。また、ローラ12とユニバーサルジョイント6が回動して、スライドドア11が車両10に対して大きく開く。これにより、スライドドア11がワイド開き位置(図12)に移動する。
その他、実施例1と同様の構成を備える。
【0046】
本例の作用効果について説明する。
本例では図10〜図12に示すごとく、棒状部材23のスライド動作と、回転部3の回転動作とによって、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。そのため、ワイド開き位置(図12)において、スライドドア11の内側面を容易に塗装することが可能となる。また、本例のドア塗装用治具1は大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の開く角度が異なる複数種類の車両において、共通して使用することができる。さらに、スライドドア11の重量の一部を棒状部材23と回転部3とで支持しているため、従来のように(図17参照)、治具のセンタローラをセンタレールに嵌合する必要がない。これにより、センタローラの走行に伴って、センタレールに付着した塗装が剥がれて塗装のカスが飛散する不具合を防止できる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0047】
(実施例4)
本例は、上記実施例1に示したドア側部分20、車両側部分21及び第1回動部材61から構成したドア支持部2の代わりに、図13〜図16に示すごとく、1つの剛体からなるリンク部27を用い、スライドドア11を閉位置Cから傾斜開き位置D及び開位置Eへ連続して移動させるよう構成した例である。
図14に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、スライドドア11における室内側部分115に取り付けられるドア側支持部25と、車体10のドア開口部7おける後方縁部71の近傍であってドア開口部7に閉じたスライドドア11よりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部26と、車体側支持部26とドア側支持部25とに架け渡すリンク部27とを備えている。
【0048】
リンク部27は、その一端部が車体側支持部26に設けた車体側軸部261に対して回動可能に支持され、その他端部がドア側支持部25に設けたドア側軸部251に対して回動可能に支持されている。
そして、ドア塗装用治具1は、スライドドア11の室内側部分115の前端部111の近傍の上下に設けた各ローラ12a,12bを、ドア開口部7における上下の縁部に設けたアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライド可能に支持させた状態において、図14に示すごとく、スライドドア11を、ドア開口部7を閉じる閉位置Cから、リンク部27を車体側軸部261を中心に回動させることにより、図15に示すごとく、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドする各ローラ12a,12bを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置Dと、図16に示すごとく、各レール13a,13bに対して各ローラ12a,12bがスライドして車両後方へ移動した開位置Eとに連続して移動させるよう構成されている。
図13〜図16においては、車両前方を矢印F、車両後方を矢印Rで示す。
【0049】
車体側支持部26における車体側軸部261とリンク部27の一端部、及びドア側支持部25におけるドア側軸部251とリンク部27の他端部は、いずれもヒンジピンとこのヒンジピンを受ける軸受穴とによって構成されている。リンク部27は、スライドドア11が開位置Eにあるときに、ドア開口部7における後方縁部71との干渉を避ける屈曲形状に形成されている。
ドア側支持部25は、スライドドア11における室内側部分115の前後方向の中間位置に取り付けられている。リンク部27は、スライドドア11が閉位置Cにあるときに、車体側軸部261から室内側へ向く部分271とドア側軸部251から室内側へ向く部分272とを繋ぐ屈曲形状を有している。なお、車体側軸部261をドア開口部7における後方縁部71に対する室内側に設けた場合には、リンク部27は、スライドドア11が開位置Eにあるときに、室外側から後方縁部71を回り込んで室内側の車体側軸部261に繋がる形状にすることができる。
【0050】
塗装時のスライドドア11は、ドア塗装用治具1によって、リンク部27が回動する際のリンク部27の一端部の回動軌跡に応じて、前端部111の近傍に設けた各ローラ12a,12bがアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドして、車体10のドア開口部7に対する水平方向の開き角度及び前後方向における位置が変化するよう構成されている。
【0051】
本例のドア塗装用治具1を用いてスライドドア11及びドア開口部7の塗装を行う際には、スライドドア11における上下の中間位置のセンタローラを車体10のセンタレール13cに支持させる代わりに、スライドドア11における室内側部分(インナーパネル)115にドア側支持部25を取り付けると共に車体10のドア開口部7おける後方縁部71の近傍に車体側支持部26を取り付け、車体側支持部26とドア側支持部25とにリンク部27を架け渡す。また、スライドドア11は、その室内側部分(インナーパネル)115の前端部111の近傍の上下に設けた各ローラ12a,12bを、ドア開口部7における上下の縁部に設けたアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライド可能に支持させておく。
【0052】
そして、ドア塗装用治具1の取り付けを行った後、図14に示すごとく、スライドドア11をドア開口部7に対して閉じた閉位置Cにおいては、スライドドア11の室外側部分116(アウターパネル)の塗装を行うことができる。次いで、図15に示すごとく、リンク部27を車体側軸部261を中心に回動させてスライドドア11を移動させ、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドする各ローラ12a,12bを中心にスライドドア11を車両側方へ開けて、スライドドア11を傾斜開き位置Dにする。このとき、スライドドア11の室内側部分115(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができる。次いで、図16に示すごとく、リンク部27を車体側軸部261を中心にさらに回動させ、アッパレール13a及びロアレール13bに対して各ローラ12a,12bをさらにスライドさせて、スライドドア11を車両後方へ移動した開位置Eにする。このとき、スライドドア11の室内側部分115(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部7の塗装を行うことができる。
【0053】
このように、スライドドア11は、閉位置Cから傾斜開き位置D及び開位置Eへと連続して移動させることができる。そのため、極めて簡単な構造のドア塗装用治具1によって、スライドドア11の各部の塗装を容易に行うことができる。
また、本例においては、スライドドア11におけるセンタローラを車体10のセンタレール13cに支持させる必要がなく、センタレール13cに付着した塗装膜がセンタローラによって剥がされて車体10に付着する等の問題を解決することができる。
【0054】
このように、本例ドア塗装用治具1によれば、センタレール13cから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア11及びドア開口部7における縁部の塗装を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ドア塗装用治具
10 車体
11 スライドドア
12 ローラ
13 レール
2 ドア支持部
23 棒状部材
3 回転部
4 第1接続部
5 第2接続部
6 ユニバーサルジョイント
61 第1回動部材
62 第2回動部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のスライドドアを塗装する際に用いるドア塗装用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを仮固定するためのドア塗装用治具が知られている(下記特許文献参照)。
従来のドア塗装用治具の一例を図17に示す。同図に示すごとく、このドア塗装用治具90は、ヒンジ94によって開閉可能な2本のアーム95a,95bと、一方のアーム95aの先端に取り付けられたセンタローラ96とを備える。
【0003】
ドア塗装用治具90を用いる際には、車体のセンタレール93cに上記センタローラ96を嵌合し、他方のアーム95bをスライドドア91に固定する。また、スライドドア91の上部に取り付けたアッパローラ92aを車体のアッパレール93aに嵌合し、スライドドア91の下部に取り付けたロアローラ92bを車体のロアレール93bに嵌合する。そして、これらのローラ92a,92b,96によってスライドドア91を車両前後方向にスライド可能に支持するとともに、2本のアーム95a,95bの開閉によって、スライドドア91の後端部900が側方に開くようにしている。これにより、スライドドア91の内側や、車体のアッパレール93a付近,ロアレール93b付近も容易に塗装できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−262706号公報
【特許文献2】特開2007−120189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のドア塗装用治具90は、センタローラ96がセンタレール93cを滑走した際に、すでにセンタレール93cに塗装されていた塗装膜が剥がれると共にそのカスが飛散して車体側面に付着し、品質不良が発生する問題があった。そのため、センタレール93cから塗装膜のカスが飛散しにくいドア塗装用治具90が望まれていた。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアの車両内側に、水平方向に回動可能に取り付けられるドア支持部と、
上記車体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心として上記ドア支持部を回動可能に保持する回転部とを備え、
上記ドア支持部は、上記スライドドアと接続する第1接続部と、上記回転部と接続する第2接続部との間の距離が、上記スライドドアの移動に伴って変化するよう構成されており、
上記スライドドアが車両のドア開口部を閉じる閉位置と、上記スライドドアの後端部が車両後方へ最も移動した開位置と、上記スライドドアの後端部が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、該スライドドアを移動可能に保持するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアにおける室内側部分に取り付けられるドア側支持部と、
上記車体のドア開口部おける後方縁部近傍であって該ドア開口部に閉じた上記スライドドアよりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部と、
該車体側支持部と上記ドア側支持部とに架け渡すリンク部とを備え、
該リンク部は、その一端部が上記車体側支持部に設けた車体側軸部に対して回動可能に支持され、その他端部が上記ドア側支持部に設けたドア側軸部に対して回動可能に支持されており、
上記スライドドアの室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、上記ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持した状態において、上記スライドドアを、上記ドア開口部を閉じる閉位置から、上記リンク部を上記車体側軸部を中心に回動させることにより、上記各レールに対してスライドする上記各ローラを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置と、上記各レールに対して上記各ローラがスライドして車両後方へ移動した開位置とに連続して移動させるよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具にある(請求項6)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の作用効果につき説明する。
第1の発明のドア塗装用治具は、車両本体に固定配置された回転部と、該回転部とスライドドアとに接続されるドア支持部とを備える。
このようにすると、例えば、スライドドアの車両前側部分をローラで支持し、車両後側部分を、ドア支持部を介して回転部で支持することができる。そのため、従来(図17参照)のように、スライドドア91の車両後側部分を支持するために、センタローラ96をセンタレール93cに嵌合させる必要がなくなる。これにより、センタローラがセンタレールを滑走する際に塗装膜のカスが飛散して車両側面に付着する等の問題が無くなる。
【0010】
また、ドア塗装用治具を用いることにより、スライドドアの閉位置においては、スライドドアの室外側部分(アウターパネル)の塗装を行うことができ、スライドドアのワイド開き位置においては、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができ、スライドドアの開位置においては、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部における縁部の塗装を行うことができる。これにより、簡単な構造のドア塗装用治具によって、スライドドアの各部の塗装を容易に行うことができる。
【0011】
また、ドア支持部は、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されている。このようにすると、スライドドアを大きな角度で開くことが可能になる。そのため、スライドドアの内側等の塗装を行いやすくなる。
また、本発明は、スライドドアを大きな角度で開くことができるため、スライドドアの回転角度が異なる複数種類の車種に共通して使用することができる。
【0012】
以上のごとく、第1の発明によれば、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供することができる。
【0013】
次に、第2の発明の作用効果につき説明する。
第2の発明のドア塗装用治具は、上記ドア側支持部、車体側支持部及びリンク部を備えている。そして、スライドドア及びドア開口部の塗装を行う際には、スライドドアにおける上下の中間位置のローラ(センタローラ)を車体のセンタレールに支持させる代わりに、スライドドアにおける室内側部分にドア側支持部を取り付けると共に車体のドア開口部おける後方縁部近傍に車体側支持部を取り付け、車体側支持部とドア側支持部とにリンク部を架け渡す。また、スライドドアは、その室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持させておく。
【0014】
上記ドア塗装用治具の取り付けを行った後、スライドドアをドア開口部に対して閉じた閉位置においては、スライドドアの室外側部分(アウターパネル)の塗装を行うことができる。次いで、リンク部を車体側軸部を中心に回動させてスライドドアを移動させ、各レール(アッパレール及びロアレール)に対してスライドする各ローラを中心にスライドドアを車両側方へ開けて、スライドドアを傾斜開き位置にする。このとき、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができる。次いで、リンク部を車体側軸部を中心にさらに回動させ、各レール(アッパレール及びロアレール)に対して各ローラをさらにスライドさせて、スライドドアを車両後方へ移動した開位置にする。このとき、スライドドアの室内側部分(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部における縁部の塗装を行うことができる。
なお、塗装を行う順序は、上記順序に限られず、例えば、スライドドアの開位置、傾斜開き位置、閉位置の順に塗装を行うことができる。
【0015】
このように、スライドドアは、閉位置から傾斜開き位置及び開位置へと連続して移動させることができる。そのため、極めて簡単な構造のドア塗装用治具によって、スライドドアの各部の塗装を容易に行うことができる。
また、本発明においては、スライドドアにおける上下の中間位置のローラを車体のセンタレールに支持させる必要がなく、センタレールに付着した塗装膜がセンタローラによって剥がされて車体に付着する等の問題を解決することができる。
【0016】
以上のごとく、本発明によっても、センタレールから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア及びドア開口部における縁部の塗装を容易に行うことができるドア塗装用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を、車両とともに車両後方から見た図。
【図2】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車内から見た斜視図。
【図3】実施例1における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図4】図3のスライドドアを開位置にした平面図。
【図5】図3のスライドドアの開き方を説明するための平面図。
【図6】図3のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図7】実施例2における、ドア支持部の形状を変更したドア塗装用治具を車体とともに描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図8】図7のスライドドアを開位置にした平面図。
【図9】図7のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図10】実施例3における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図11】図10のスライドドアを開位置にした平面図。
【図12】図10のスライドドアをワイド開き位置にした平面図。
【図13】実施例4における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を、車両とともに車両後方から見た図。
【図14】実施例4における、スライドドアを支持するドア塗装用治具を車体と共に描いた平面図であって、スライドドアを閉位置にしたもの。
【図15】図14のスライドドアを傾斜開き位置にした平面図。
【図16】図14のスライドドアを開位置にした平面図。
【図17】従来例における、スライドドアに取り付けたドア塗装用治具。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述した第1、第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記ドア支持部は、上記スライドドアに回動可能に接続されたドア側部分と、上記回転部に接続された車両側部分と、上記ドア側部分と上記車両側部分とを接続する第1回動部材とを備え、上記ドア支持部は、上記ドア側部分と上記車両側部分との角度が変化することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることが好ましい(請求項2)。
このようにすると、ドア側部分と、車両側部分と、第1回動部材とからなるリンク機構により、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が、スライドドアの移動に伴って変化するドア支持部を、簡単に構成することができる。すなわち、第1回動部材を回転させて、ドア側部分と車両側部分との角度を変化させることにより、スライドドアを大きな角度で開くことができる。
【0019】
また、上記ドア支持部は、上記回転部において、上記回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材であり、該棒状部材の先端部が第2回動部材によって上記スライドドアに回動自在に接続されており、上記棒状部材は、上記回転部においてスライド移動することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることが好ましい(請求項3)。
このようにすると、棒状部材と回転部を使って、第1接続部と第2接続部との間の距離が、スライドドアの移動に伴って変化する構造を、簡単に構成することができる。すなわち、棒状部材をスライドさせ、回転部を回転することにより、棒状部材とスライドドアのなす角度を変化させることができ、スライドドアを大きな角度で開くことができる。
【0020】
また、上記第1回動部材又は第2回動部材はユニバーサルジョイントであることが好ましい(請求項4)。
このようにすると、スライドドアを開位置またはワイド開き位置に移動した際に、スライドドアの重量によってドア支持部にねじれが加わった場合でも、そのねじれをユニバーサルジョイントで吸収することができる。これにより、スライドドアをスムーズに開閉することが可能になる。
特に本発明では、スライドドアが開く角度が大きいため、スライドドアをワイド開き位置に移動した際にドア支持部にねじれが加わりやすい。そのため、ユニバーサルジョイントを用いることによる効果が大きい。
【0021】
また、上記スライドドアの上下に各々ローラが取り付けられており、該ローラを上記車体の上部及び下部に設けたレールにそれぞれ嵌合した状態で、該スライドドアをスライド可能に保持することが好ましい(請求項5)。
このようにすると、スライドドアに予め取り付けられているローラ(アッパローラとロアローラ)を使って、スライドドアの一端(車両前方部分)を支持することができる。また、スライドドアの他端(車両後方部分)は、ドア塗装用治具によって支持することができる。
【0022】
第2の発明において、上記リンク部は、上記スライドドアが上記開位置にあるときに、上記ドア開口部における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されていることが好ましい(請求項7)。
この場合には、車体側支持部における車体側軸部を、車体のドア開口部おける後方縁部近傍におけるより適切な位置に配設することができる。
【0023】
また、上記ドア側支持部は、上記スライドドアにおける室内側部分の前後方向の中間位置に取り付けられており、上記リンク部は、上記スライドドアが上記閉位置にあるときに、上記車体側軸部から室内側へ向く部分と上記ドア側軸部から室内側へ向く部分とを繋ぐ屈曲形状を有していることが好ましい(請求項8)。
この場合には、スライドドアを閉位置から傾斜開き位置及び開位置へと円滑に開くことができ、また、リンク部を簡単な形状で形成することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるドア塗装用治具につき、図1〜図6を用いて説明する。
図1、図2に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、車両のスライドドア11を塗装する際に、該スライドドア11を移動可能に保持する。
スライドドア11の車両内側に、水平方向に回動可能なドア支持部2が取り付けられている。
また、鉛直方向を向く回転軸線を中心としてドア支持部2を回動可能に保持する回転部3が、車体10に固定配置されている。
【0025】
図3〜図6に示すごとく、ドア支持部2は、スライドドア11と接続する第1接続部4と、回転部3と接続する第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するよう構成されている。
そして、スライドドア11が車両のドア開口部7を閉じる閉位置(図3参照)と、スライドドア11の後端部110が車両後方へ最も移動した開位置(図4参照)と、スライドドア11の後端部110が車両側方へ最も移動したワイド開き位置(図6参照)との間で、スライドドア11を移動可能に保持するよう構成されている。
以下、詳説する。
【0026】
図1に示すごとく、車体10は、ドア開口部7の上方にアッパレール13aを備え、ドア開口部7の下方にロアレール13bを備える。また、車体10の側面に、センタレール13cが形成されている。スライドドア11を塗装する際には、スライドドア11の車両前方上部に取り付けられたアッパローラ12aをアッパレール13aに嵌合し、スライドドア11の車両前方下部に取り付けられたロアローラ12bをロアレール13bに嵌合する。
また、センタレール13cには、ドア塗装時には何も嵌合しない。そして、スライドドア11の塗装後には、センタレール13cに嵌合させるローラをスライドドア11に取り付ける。
【0027】
一方、図2〜図6に示すごとく、ドア支持部2は、スライドドア11に回動可能に接続されたドア側部分20と、回転部3に接続された車両側部分21と、ドア側部分20と車両側部分21とを接続する第1回動部材61とを備える。ドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21との角度が変化することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
【0028】
図2に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、回転部3としてヒンジを使用している。このヒンジによって、ドア支持部2の車両側部分21を水平方向に回動可能に支持している。また、第1接続部4にもヒンジを使用しており、このヒンジによって、ドア側部分20を水平方向に回動可能に支持している。
また、本例のドア塗装用治具1は、第1回動部材61としてユニバーサルジョイント6を使用している。
なお、回転部3の配置位置は、車種によって適宜変更し得る。
【0029】
一方、図3に示すごとく、本例における車両側部分21は、ユニバーサルジョイント6に接続された直線部210と、回転部3に接続された湾曲部211とを備える。
回転部3は、ドア開口部7における後方縁部近傍であってドア開口部7に閉じたスライドドア11よりも室内側に位置する。車両側部分21は、スライドドア11が開位置にあるときに、ドア開口部7における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されている。
【0030】
スライドドア11は、ドア開口部7を閉じる閉位置から、回転部3を中心にドア支持部2の車両側部分21を回動させることにより、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドするアッパローラ12a及びロアローラ12bを中心に車両側方へ開いて、半開き状態Aを形成する。そして、半開き状態Aから第1回動部材61を中心にドア支持部2のドア側部分20を回動させることにより、スライドドア11をワイド開き位置に移動させる。また、ドア側部分20の回動を元に戻して、回転部3を中心にドア支持部2の車両側部分21をさらに回動させることにより、アッパレール13a及びロアレール13bに対してアッパローラ12a及びロアローラ12bがさらにスライドして、スライドドア11を開位置に移動させる。
【0031】
塗装作業を行う際には、塗装用治具1を使って、スライドドア11を閉位置(図3)と、開位置(図4)と、ワイド開き位置(図6)との間で移動させ、スライドドア11を塗装する。閉位置(図3)においては、スライドドア11の車両外面を主に塗装する。また、開位置(図4)では、車体10の、レール13付近を主に塗装する。さらに、ワイド開き位置(図6)では、スライドドア11の車両内面を主に塗装する。
【0032】
スライドドア11を閉位置(図3)から開位置(図4)に移動させる際には、回転部3を中心に車両側部分21を右回りに回動させる。同時に、ユニバーサルジョイント6を中心にドア側部分20を車両側部分21に対して左回りに回動させる。これに伴い、ローラ12がレール13上を車両後方へ移動する。また、ローラ12を中心にして、スライドドア11が車両側部分21に対して左回りに回動する。これにより、図3の状態から図5の半開き状態Aを経て、図4に示すごとく、スライドドア11が開位置に移動する。
【0033】
また、スライドドア11を開位置からワイド開き位置に移動する場合には、まず、図4、図5に示すごとく、回転部3を中心として、車両側部分21を左回りに回動させる。同時に、ドア側部分20がスライドドア11に隣接した状態で、ローラ12を中心にスライドドア11を左回りに回動させる。これにより、図5に示すごとく、スライドドア11が半開き状態Aになる。
その後、図5に示すごとく、ユニバーサルジョイント6を中心にドア側部分20を車両側部分21に対して左回りに回動させる。これにより、ローラ12がレール13上を車両前方へ若干移動し、さらにこのローラ12を中心にしてスライドドア11が左回りに回動する。同時に第1接続部4が回動し、スライドドア11とドア側部分20との間の角度θが大きくなる。この結果、スライドドア11がワイド開き位置(図5のB、図6)に移動する。
【0034】
次に、本例のドア塗装用治具1の作用効果につき説明する。
本例のドア塗装用治具1は、図1、図2に示すごとく、車両本体に固定配置された回転部3と、該回転部3とスライドドア11とに接続されるドア支持部2とを備える。
このようにすると、スライドドア11の車両前側部分をローラ12等で支持し、車両後側部分を、ドア支持部2を介して回転部3で支持することができる。そのため、従来(図17参照)のように、スライドドア91の車両後側部分を支持するために、センタローラ96をセンタレール93cに嵌合させる必要がなくなる。これにより、センタローラ96がセンタレール93cを滑走する際に塗装膜のカスが飛散して車両側面に付着する等の問題が無くなる。
【0035】
また、ドア支持部2は、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。このようにすると、スライドドア11を大きな角度で開くことが可能になる。そのため、スライドドア11の内側等の塗装を行いやすくなる。
【0036】
また、本発明のドア塗装用治具1は、スライドドア11を大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の回転角度が異なる複数種類の車種に共通して使用することができる。
【0037】
また、図2に示すごとく、ドア支持部2は、ドア側部分20と、車両側部分21と、第1回動部材61を備える。そしてドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21との角度が変化することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
このようにすると、ドア側部分20と、車両側部分21と、第1回動部材61とからなるリンク機構により、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が、スライドドア11の移動に伴って変化するドア支持部2を、簡単に構成することができる。すなわち、図5、図6に示すごとく、第1回動部材61を回転させて、ドア側部分20と車両側部分21との角度を変化させることにより、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。
【0038】
また、本例では、第1回動部材61として、ユニバーサルジョイント6を使用している。
このようにすると、スライドドア11を開位置またはワイド開き位置に移動した際に、スライドドア11の重量によってドア支持部2にねじれが加わった場合でも、そのねじれをユニバーサルジョイント6で吸収することができる。これにより、スライドドア11をスムーズに開閉することが可能になる。
特に本発明では、スライドドア11が開く角度が大きいため、スライドドア11をワイド開き位置に移動した際に発生するねじれが加わりやすい。そのため、ユニバーサルジョイント6を用いることによる効果が大きい。
【0039】
また、本例では、スライドドア11の上下に各々ローラ12a,12bが取り付けられており、該ローラ12a,12bを車体の上部及び下部に設けたレール13a,13bにそれぞれ嵌合した状態で、スライドドア11をスライド可能に保持している。
このようにすると、スライドドア11に予め取り付けられているローラ12(アッパローラ12aとロアローラ12b)を使って、スライドドア11の車両前側部分を支持することができる。そのため、スライドドア11に支持用の別の部品を取り付けなくても、スライドドアを支持できる。また、スライドドア11の車両後側部分は、ドア塗装用治具1によって支持することができる。
【0040】
以上のごとく、本例によれば、複数の車種に共通して使用することができ、スライドドア11を大きな角度で開くことができるとともに、センタレール13cから塗装膜が飛散しにくいドア塗装用治具1を提供することができる。
【0041】
(実施例2)
次に、本例のドア塗装用治具1の、ドア支持部2の形状を変形した例を図7〜図9に示す。このドア支持部2は、ドア側部分20と車両側部分21とに分かれており、これらドア側部分20と車両側部分21とを第1回動部材61(ユニバーサルジョイント6)によって接続している。また、車両側部分21は直線状に形成され、回転部3は、レール13の車両後端部に固定配置されている。このドア塗装用治具1を用いることにより、スライドドア11を、閉位置(図7)と、開位置(図8)と、ワイド開き位置(図9)との間で移動可能に保持している。
その他、実施例1と同様の構成を有する。
【0042】
本例の作用効果について説明する。
図7〜図9に示すごとく、本例では、ドア側部分20と車両側部分21の間の角度を変化させることにより、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。そのため、ワイド開き位置(図9)において、スライドドア11の内側面を容易に塗装することができる。また、本例のドア塗装用治具1は大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の開く角度が異なる複数種類の車両において、共通して使用することができる。さらに、スライドドア11の重量の一部をドア支持部2と回転部3とで支持しているため、従来のように(図17参照)、治具のセンタローラをセンタレールに嵌合する必要がない。これにより、センタローラの走行に伴って、センタレールに付着した塗装が剥がれて塗装のカスが飛散する不具合を防止できる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0043】
(実施例3)
本例は、ドア支持部2の構成を変更した例である。図10〜図12に示すごとく、本例のドア支持部2は、回転部3において、回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材23である。この棒状部材23の先端部が、第2回動部材62によってスライドドア11に回動自在に接続されている。棒状部材23は、回転部3においてスライド移動することによって、第1接続部4と第2接続部5との間の距離が変化するよう構成されている。
図10〜図12に示すごとく、回転部3の回転動作と、棒状部材23のスライド動作とによって、スライドドア11が、閉位置(図10)と、開位置(図11)と、ワイド開き位置(図12)との間で移動する。
また、本例では、第2回動部材62としてユニバーサルジョイント6を用いている。
【0044】
スライドドア11を閉位置(図10)から開位置(図11)に移動するためには、棒状部材2を、回転部3に対して車両外側にスライドさせる。これにより、ローラ12がレール13上を車両後方へ移動するとともに、ローラ12とユニバーサルジョイント6とが回動して、スライドドア11が棒状部材23に対して左回りに回転する。その結果、スライドドア11が開位置(図11)へ移動する。
【0045】
また、スライドドア11を開位置(図11)からワイド開き位置(図12)へ移動するためには、回転部3を左回りに回転するとともに、棒状部材23を車両内側へスライドさせる。これにより、ローラ12がレール13上を車両前方に移動する。また、ローラ12とユニバーサルジョイント6が回動して、スライドドア11が車両10に対して大きく開く。これにより、スライドドア11がワイド開き位置(図12)に移動する。
その他、実施例1と同様の構成を備える。
【0046】
本例の作用効果について説明する。
本例では図10〜図12に示すごとく、棒状部材23のスライド動作と、回転部3の回転動作とによって、スライドドア11を大きな角度で開くことができる。そのため、ワイド開き位置(図12)において、スライドドア11の内側面を容易に塗装することが可能となる。また、本例のドア塗装用治具1は大きな角度で開くことができるため、スライドドア11の開く角度が異なる複数種類の車両において、共通して使用することができる。さらに、スライドドア11の重量の一部を棒状部材23と回転部3とで支持しているため、従来のように(図17参照)、治具のセンタローラをセンタレールに嵌合する必要がない。これにより、センタローラの走行に伴って、センタレールに付着した塗装が剥がれて塗装のカスが飛散する不具合を防止できる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0047】
(実施例4)
本例は、上記実施例1に示したドア側部分20、車両側部分21及び第1回動部材61から構成したドア支持部2の代わりに、図13〜図16に示すごとく、1つの剛体からなるリンク部27を用い、スライドドア11を閉位置Cから傾斜開き位置D及び開位置Eへ連続して移動させるよう構成した例である。
図14に示すごとく、本例のドア塗装用治具1は、スライドドア11における室内側部分115に取り付けられるドア側支持部25と、車体10のドア開口部7おける後方縁部71の近傍であってドア開口部7に閉じたスライドドア11よりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部26と、車体側支持部26とドア側支持部25とに架け渡すリンク部27とを備えている。
【0048】
リンク部27は、その一端部が車体側支持部26に設けた車体側軸部261に対して回動可能に支持され、その他端部がドア側支持部25に設けたドア側軸部251に対して回動可能に支持されている。
そして、ドア塗装用治具1は、スライドドア11の室内側部分115の前端部111の近傍の上下に設けた各ローラ12a,12bを、ドア開口部7における上下の縁部に設けたアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライド可能に支持させた状態において、図14に示すごとく、スライドドア11を、ドア開口部7を閉じる閉位置Cから、リンク部27を車体側軸部261を中心に回動させることにより、図15に示すごとく、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドする各ローラ12a,12bを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置Dと、図16に示すごとく、各レール13a,13bに対して各ローラ12a,12bがスライドして車両後方へ移動した開位置Eとに連続して移動させるよう構成されている。
図13〜図16においては、車両前方を矢印F、車両後方を矢印Rで示す。
【0049】
車体側支持部26における車体側軸部261とリンク部27の一端部、及びドア側支持部25におけるドア側軸部251とリンク部27の他端部は、いずれもヒンジピンとこのヒンジピンを受ける軸受穴とによって構成されている。リンク部27は、スライドドア11が開位置Eにあるときに、ドア開口部7における後方縁部71との干渉を避ける屈曲形状に形成されている。
ドア側支持部25は、スライドドア11における室内側部分115の前後方向の中間位置に取り付けられている。リンク部27は、スライドドア11が閉位置Cにあるときに、車体側軸部261から室内側へ向く部分271とドア側軸部251から室内側へ向く部分272とを繋ぐ屈曲形状を有している。なお、車体側軸部261をドア開口部7における後方縁部71に対する室内側に設けた場合には、リンク部27は、スライドドア11が開位置Eにあるときに、室外側から後方縁部71を回り込んで室内側の車体側軸部261に繋がる形状にすることができる。
【0050】
塗装時のスライドドア11は、ドア塗装用治具1によって、リンク部27が回動する際のリンク部27の一端部の回動軌跡に応じて、前端部111の近傍に設けた各ローラ12a,12bがアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドして、車体10のドア開口部7に対する水平方向の開き角度及び前後方向における位置が変化するよう構成されている。
【0051】
本例のドア塗装用治具1を用いてスライドドア11及びドア開口部7の塗装を行う際には、スライドドア11における上下の中間位置のセンタローラを車体10のセンタレール13cに支持させる代わりに、スライドドア11における室内側部分(インナーパネル)115にドア側支持部25を取り付けると共に車体10のドア開口部7おける後方縁部71の近傍に車体側支持部26を取り付け、車体側支持部26とドア側支持部25とにリンク部27を架け渡す。また、スライドドア11は、その室内側部分(インナーパネル)115の前端部111の近傍の上下に設けた各ローラ12a,12bを、ドア開口部7における上下の縁部に設けたアッパレール13a及びロアレール13bに対してスライド可能に支持させておく。
【0052】
そして、ドア塗装用治具1の取り付けを行った後、図14に示すごとく、スライドドア11をドア開口部7に対して閉じた閉位置Cにおいては、スライドドア11の室外側部分116(アウターパネル)の塗装を行うことができる。次いで、図15に示すごとく、リンク部27を車体側軸部261を中心に回動させてスライドドア11を移動させ、アッパレール13a及びロアレール13bに対してスライドする各ローラ12a,12bを中心にスライドドア11を車両側方へ開けて、スライドドア11を傾斜開き位置Dにする。このとき、スライドドア11の室内側部分115(特にインナーパネルの後方側部分)の塗装を行うことができる。次いで、図16に示すごとく、リンク部27を車体側軸部261を中心にさらに回動させ、アッパレール13a及びロアレール13bに対して各ローラ12a,12bをさらにスライドさせて、スライドドア11を車両後方へ移動した開位置Eにする。このとき、スライドドア11の室内側部分115(特にインナーパネルの前方側部分)及びドア開口部7の塗装を行うことができる。
【0053】
このように、スライドドア11は、閉位置Cから傾斜開き位置D及び開位置Eへと連続して移動させることができる。そのため、極めて簡単な構造のドア塗装用治具1によって、スライドドア11の各部の塗装を容易に行うことができる。
また、本例においては、スライドドア11におけるセンタローラを車体10のセンタレール13cに支持させる必要がなく、センタレール13cに付着した塗装膜がセンタローラによって剥がされて車体10に付着する等の問題を解決することができる。
【0054】
このように、本例ドア塗装用治具1によれば、センタレール13cから塗装膜が飛散しにくいと共に、スライドドア11及びドア開口部7における縁部の塗装を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ドア塗装用治具
10 車体
11 スライドドア
12 ローラ
13 レール
2 ドア支持部
23 棒状部材
3 回転部
4 第1接続部
5 第2接続部
6 ユニバーサルジョイント
61 第1回動部材
62 第2回動部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアの車両内側に、水平方向に回動可能に取り付けられるドア支持部と、
上記車体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心として上記ドア支持部を回動可能に保持する回転部とを備え、
上記ドア支持部は、上記スライドドアと接続する第1接続部と、上記回転部と接続する第2接続部との間の距離が、上記スライドドアの移動に伴って変化するよう構成されており、
上記スライドドアが車両のドア開口部を閉じる閉位置と、上記スライドドアの後端部が車両後方へ最も移動した開位置と、上記スライドドアの後端部が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、該スライドドアを移動可能に保持するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項2】
請求項1において、上記ドア支持部は、上記スライドドアに回動可能に接続されたドア側部分と、上記回転部に接続された車両側部分と、上記ドア側部分と上記車両側部分とを接続する第1回動部材とを備え、
上記ドア支持部は、上記ドア側部分と上記車両側部分との角度が変化することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項3】
請求項1において、上記ドア支持部は、上記回転部において、上記回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材であり、該棒状部材の先端部が第2回動部材によって上記スライドドアに回動自在に接続されており、上記棒状部材は、上記回転部においてスライド移動することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、上記第1回動部材又は上記第2回動部材はユニバーサルジョイントであることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項において、上記スライドドアの上下に各々ローラが取り付けられており、該ローラを上記車体の上部及び下部に設けたレールにそれぞれ嵌合した状態で、該スライドドアをスライド可能に保持することを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項6】
車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアにおける室内側部分に取り付けられるドア側支持部と、
上記車体のドア開口部おける後方縁部近傍であって該ドア開口部に閉じた上記スライドドアよりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部と、
該車体側支持部と上記ドア側支持部とに架け渡すリンク部とを備え、
該リンク部は、その一端部が上記車体側支持部に設けた車体側軸部に対して回動可能に支持され、その他端部が上記ドア側支持部に設けたドア側軸部に対して回動可能に支持されており、
上記スライドドアの室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、上記ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持した状態において、上記スライドドアを、上記ドア開口部を閉じる閉位置から、上記リンク部を上記車体側軸部を中心に回動させることにより、上記各レールに対してスライドする上記各ローラを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置と、上記各レールに対して上記各ローラがスライドして車両後方へ移動した開位置とに連続して移動させるよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項7】
請求項6において、上記リンク部は、上記スライドドアが上記開位置にあるときに、上記ドア開口部における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項8】
請求項6又は7において、上記ドア側支持部は、上記スライドドアにおける室内側部分の前後方向の中間位置に取り付けられており、
上記リンク部は、上記スライドドアが上記閉位置にあるときに、上記車体側軸部から室内側へ向く部分と上記ドア側軸部から室内側へ向く部分とを繋ぐ屈曲形状を有していることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項1】
車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアの車両内側に、水平方向に回動可能に取り付けられるドア支持部と、
上記車体に固定配置され、鉛直方向を向く回転軸線を中心として上記ドア支持部を回動可能に保持する回転部とを備え、
上記ドア支持部は、上記スライドドアと接続する第1接続部と、上記回転部と接続する第2接続部との間の距離が、上記スライドドアの移動に伴って変化するよう構成されており、
上記スライドドアが車両のドア開口部を閉じる閉位置と、上記スライドドアの後端部が車両後方へ最も移動した開位置と、上記スライドドアの後端部が車両側方へ最も移動したワイド開き位置との間で、該スライドドアを移動可能に保持するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項2】
請求項1において、上記ドア支持部は、上記スライドドアに回動可能に接続されたドア側部分と、上記回転部に接続された車両側部分と、上記ドア側部分と上記車両側部分とを接続する第1回動部材とを備え、
上記ドア支持部は、上記ドア側部分と上記車両側部分との角度が変化することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項3】
請求項1において、上記ドア支持部は、上記回転部において、上記回転軸線に対して直交する方向にスライド移動可能に構成された棒状部材であり、該棒状部材の先端部が第2回動部材によって上記スライドドアに回動自在に接続されており、上記棒状部材は、上記回転部においてスライド移動することによって、上記第1接続部と上記第2接続部との間の距離が変化するよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、上記第1回動部材又は上記第2回動部材はユニバーサルジョイントであることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項において、上記スライドドアの上下に各々ローラが取り付けられており、該ローラを上記車体の上部及び下部に設けたレールにそれぞれ嵌合した状態で、該スライドドアをスライド可能に保持することを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項6】
車両のスライドドアを塗装する際に、該スライドドアを車体に対して移動可能に保持するドア塗装用治具であって、
上記スライドドアにおける室内側部分に取り付けられるドア側支持部と、
上記車体のドア開口部おける後方縁部近傍であって該ドア開口部に閉じた上記スライドドアよりも室内側の位置に取り付けられる車体側支持部と、
該車体側支持部と上記ドア側支持部とに架け渡すリンク部とを備え、
該リンク部は、その一端部が上記車体側支持部に設けた車体側軸部に対して回動可能に支持され、その他端部が上記ドア側支持部に設けたドア側軸部に対して回動可能に支持されており、
上記スライドドアの室内側部分の前端部近傍の上下に設けた各ローラを、上記ドア開口部における上下の縁部に設けた各レールに対してスライド可能に支持した状態において、上記スライドドアを、上記ドア開口部を閉じる閉位置から、上記リンク部を上記車体側軸部を中心に回動させることにより、上記各レールに対してスライドする上記各ローラを中心に車両側方へ開く傾斜開き位置と、上記各レールに対して上記各ローラがスライドして車両後方へ移動した開位置とに連続して移動させるよう構成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項7】
請求項6において、上記リンク部は、上記スライドドアが上記開位置にあるときに、上記ドア開口部における後方縁部との干渉を避ける屈曲形状に形成されていることを特徴とするドア塗装用治具。
【請求項8】
請求項6又は7において、上記ドア側支持部は、上記スライドドアにおける室内側部分の前後方向の中間位置に取り付けられており、
上記リンク部は、上記スライドドアが上記閉位置にあるときに、上記車体側軸部から室内側へ向く部分と上記ドア側軸部から室内側へ向く部分とを繋ぐ屈曲形状を有していることを特徴とするドア塗装用治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−116349(P2011−116349A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199125(P2010−199125)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】
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