ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物及びその利用
【課題】真核微生物においてコヘシン−ドッケリン結合を利用するタンパク質を取得する。
【解決手段】 ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物を、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備えるものとする。
【解決手段】 ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物を、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備えるものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の取得に関し、詳しくは、当該タンパク質を生産するための真核微生物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマス資源への期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを、エネルギー源やその他の原料として有効利用するためには、バイオマスを動物や微生物が容易に利用可能な炭素源に糖化することが必要である。
【0003】
典型的なバイオマスであるセルロースやヘミセルロースを利用するには、これらを糖化(分解)する優れたセルラーゼが必要である。こうしたセルラーゼ源として、一部の細菌が生産するセルロソームが着目されている。セルロソームは、細菌の細胞表層に形成されるセルラーゼとそのセルラーゼが結合する骨格タンパク質(スキャホールディンタンパク質)とのセルラーゼとの複合体である。スキャホールディンタンパク質は、コヘシンという部位を有するタンパク質であり、セルロソームは、スキャホールディンタンパク質中のコヘシンにセルラーゼが有するドッケリンというドメインを介してセルラーゼが結合して構成されることが知られている。こうしたセルロソームによれば、細菌細胞表層に多種のセルラーゼを高密度でかつ大量に提供することができる。
【0004】
遺伝子工学的に微生物の細胞表層に人工的なセルロソームを構築する試みもなされている(特許文献1)。特許文献1では、酵母の細胞表層に人工的なセルロソームに構築したことが開示されている。酵母の細胞表層にセルロソームを構築することで、セルロソームのセルラーゼがセルロースを分解し、その結果得られるグルコースを直ちに炭素源として酵母に利用させて有用物質を発酵生産できるというメリットがある。
【0005】
人工的なセルロソームの構築にあたっては、酵母などでセルラーゼを大量に分泌させることが好ましい。例えば、セルラーゼの分泌促進に関しては、N型糖鎖修飾酵素を複数個破壊することで分泌生産量が向上することが開示されている(特許文献2)。また、メタノール資化性酵母で抗体生産するのにあたり、O型糖鎖修飾酵素PMTの阻害剤を添加し培養することで、抗体の生産量および会合体形成能が向上することも開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−142260
【特許文献2】特開2006−280253
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Kuroda et al., Appl. Environ. Microbiol. 74(2), 446-453(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酵母などの真核微生物でも人工的にセルロソームを構築することができるが、より一層高機能なセルロソームの構築によって糖化能力の一層の向上が求められる。セルロソームにおけるスキャホールディンタンパク質とセルラーゼとの結合は、ドッケリン−コヘシンの結合性に依存すると考えられるが、セルラーゼやスキャホールディンタンパク質のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質において、ドッケリンとコヘシンとの間に作用する結合(ドッケリン−コヘシン結合)の能力(ドッケリン−コヘシン結合能力)を向上させるような試みは未だ行われていないし、そのような開示もなされていない。
【0009】
そこで、本明細書の開示は、酵母などの真核微生物を用いて、対コヘシン又は対ドッケリンへの結合性が向上したドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を取得することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、真核微生物に特有のシステムのなかでも糖鎖修飾に着目した。酵母などの真核微生物にあっては、いくつかの糖鎖修飾システムが存在している。宿主で発現させた外来性ドッケリンタンパク質への糖鎖修飾がコヘシンとの結合性に関与する可能性のほか、コヘシンタンパク質への糖鎖修飾がドッケリンとの結合性に関与する可能性についてもて検討した。その結果、特定の糖鎖修飾関連遺伝子を破壊することで、ドッケリンのコヘシンに対する結合性やコヘシンのドッケリンに対する結合性を向上させうるという知見を得た。本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本明細書の開示によれば、ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物であって、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備える、真核微生物が提供される。また、糖鎖修飾関連遺伝子ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11からなる群から選択される、前記真核微生物も提供される。前記タンパク質はドッケリンを有するタンパク質であって、前記ドッケリンを有するタンパク質はセルラーゼであってもよい。また、前記タンパク質はコヘシンを有するタンパク質であって、前記コヘシンを有するタンパク質は、スキャホールディンタンパク質であってもよい。また、前記真核微生物は、酵母であってもよい。
【0012】
さらに、以下の特徴;
(b)1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する、を備える前記真核微生物も提供される。前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、ドッケリンを有するタンパク質であってもよい。前記ドッケリンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、前記真核微生物も提供される。
【0013】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であってもよい。前記コヘシンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来することができる。
【0014】
本明細書の開示によれば、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法であって、1又は2以上の前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備える、方法が提供される。
【0015】
本明細書の開示によれば、タンパク質複合体の生産方法であって、ドッケリン−コヘシンを利用する1又は2以上の第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有するドッケリン−コヘシン結合を利用する1又は2以上の第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した前記第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備える、方法が提供される。
【0016】
上記生産方法においては、前記第1のタンパク質は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産されるものであってもよい。
【0017】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質のいずれか一方を、これらのタンパク質を生産する前記真核微生物に表層提示させてもよい。また、この場合、他方のタンパク質を当該他方のタンパク質を生産する前記真核微生物の細胞外に分泌発現させてもよい。
【0018】
前記一方のタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であり、前記他方のタンパク質は、記ドッケリンを有するタンパク質であってもよい。前記第1のタンパク質は、前記第2のタンパク質を生産する真核微生物において前記第2のタンパク質と同時発現されるものであってもよい
【0019】
本明細書の開示によれば、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有しドッケリンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し、発酵する工程、を備える、有用物質の生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】細胞表層提示用宿主酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図2】クローニングした各種のコヘシンを有するタンパク質遺伝子を示す図である。
【図3】各種コヘシンを有するタンパク質遺伝子を含むコヘシンを細胞表層提示する酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図4】ドッケリンタンパク質(セルラーゼ)を分泌生産する酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図5】40種類の糖鎖修飾酵素がそれぞれ破壊された酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質が結合した酵母におけるCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【図6】15種類の糖鎖修飾酵素がそれぞれ破壊された酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質の酵母における提示量の評価結果を示す図である。
【図7】複数個のコヘシンを有するタンパク質を細胞表層提示酵母に結合したALG6遺伝子破壊酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質のCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【図8】ALG6遺伝子破壊酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図9】C.cellulolyticum由来のドッケリン又はR. flavefaciens由来ドッケリンを含むドッケリン−セルラーゼタンパク質をコード化DNAをHXT遺伝子における相同組換えにより染色体導入するためのベクターを示す図である。
【図10】コヘシンタンパク質及びドッケリンタンパク質の同時発現ALG6非破壊又は破壊酵母におけるドッケリン−セルラーゼタンパク質の提示量の評価結果を示す図である。
【図11】コヘシンタンパク質及びドッケリンタンパク質の同時発現ALG6非破壊又は破壊酵母におけるドッケリン−セルラーゼタンパク質のCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書の開示は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産に関し、こうしたタンパク質の生産に適した真核微生物及びその生産方法、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の複合体の生産方法、有用物質の生産方法等に関する。
【0022】
酵母などの真核微生物においては、各種の糖鎖修飾に関与する酵素などの各種タンパク質が知られている。サッカロマイセス・セレビジエなど酵母における糖鎖修飾酵素は、おおよそ66種類知られている。このうち、遺伝子破壊しても生存できる糖鎖修飾酵素は44種類であり、破壊時に生育不可能な糖鎖修飾酵素4種類を含んでいる。本発明者らは、40種類の糖鎖修飾酵素の遺伝子がそれぞれ不活性化した酵母を取得し、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質であるドッケリンタンパク質やコヘシンタンパク質を生産させて、コヘシン又はドッケリンへの結合性に関して検討した。その結果、特定の15種類の糖鎖修飾酵素遺伝子の不活性化がドッケリンタンパク質等のコヘシン等への結合性向上に有効であることを見出した。これらの糖鎖修飾酵素又は遺伝子が、ドッケリン−コヘシン結合に関与する遺伝子であることはこれまで知られていなかった。
【0023】
本明細書の開示によれば、真核微生物の特定の糖鎖修飾関連遺伝子を不活性化することで、当該真核微生物にドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を合成させると、当該タンパク質の結合部位である対コヘシン又は対ドッケリンに対する結合性を向上させることができる。こうした結合能力の向上は、例えば、酵母などの真核微生物でドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を発現させ、これらのタンパク質の複合体を細胞外に集積化するのに極めて有効である。すなわち、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をより大きな集積量及び/又はより高い集積度(集積密度)で集積させたコヘシンタンパク質−ドッケリンタンパク質の複合体を得ることができる。
【0024】
ドッケリンタンパク質が、酵素活性など所定の活性を有するとき、当該ドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを接触させることにより、ドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを複合化して、その活性を高めることができる。例えば、コヘシンタンパク質が複数個のコヘシンを有し、ドッケリンタンパク質が1個のドッケリンを有する場合、コヘシンタンパク質上に複数のドッケリンタンパク質を集積化することができる。こうした複合体にあっては、大きな集積量やより高い集積度を得られるため、ドッケリンタンパク質の有する活性を効果的に高機能化することができる。
【0025】
例えば、セルラーゼ活性部位を有するドッケリンタンパク質と、1又は複数(好ましくは複数)のコヘシンを有するコヘシンタンパク質とを接触させて、コヘシンタンパク質上に複数個のドッケリンタンパク質を複合化することで、用いるセルラーゼの種類やその活性に大きく依存することなく、セルロースの分解能・糖化能が向上したセルラーゼ複合体(人工セルロソーム)を得ることができる。こうしたセルラーゼ複合体を真核微生物の細胞表層に構築した場合には、セルロース含有材料を直接分解糖化し、セルロースを炭素源として直接利用できる能力を真核微生物に付与することができる。例えば、ドッケリンタンパク質の集積先をコヘシンタンパク質とするとき、コヘシンタンパク質を、ドッケリンタンパク質を発現させた真核微生物で同時発現させてもよいし、別の真核微生物等から取得して表層が修飾される真核微生物の細胞表層に供給してもよい。以下、本明細書の開示について詳細に説明する。
【0026】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物)
本明細書に開示される真核微生物は、特定遺伝子が不活性化されている。こうした真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するための宿主細胞として用いることができる。この真核微生物を宿主細胞として用いて、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを当該ドッケリンタンパク質を発現可能に導入し保持させることで、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産させることができる。
【0027】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質)
本明細書に開示されるドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質とは、ドッケリンとコヘシンとの結合能力を利用可能に、ドッケリン及びコヘシンの少なくとも一方を有するタンパク質を包含している。典型的には、少なくとも一つのドッケリンを有するドッケリンタンパク質及び少なくとも一つのコヘシンを有するコヘシンタンパク質が挙げられる。また、ドッケリン−コヘシンタンパク質には、少なくとも一つのドッケリンと少なくとも一つのコヘシンとを有するタンパク質も含まれる。
【0028】
(ドッケリンタンパク質)
本明細書に開示されるドッケリンタンパク質は、セルロソームの構成タンパク質に由来する公知のドッケリンあるいはその改変体を含むことができる。ドッケリンとしては、セルロソーム構成タンパク質としてのセルラーゼの一部に備えられるドッケリンドメインが挙げられる。ドッケリンタンパク質は、真核微生物にとっては、本来的に内在していないため、外来タンパク質となる。
【0029】
ドッケリンタンパク質が有することのできるドッケリン(ドッケリンドメイン)としては、例えば、以下の表1に挙げられるセルロソーム生産微生物に由来して多数知られている。こうしたセルロソーム生産微生物のセルロソームの構成タンパク質に含まれるドッケリンドメインを適宜選択してあるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される細菌に由来するドッケリンが好ましく挙げられる。
【0030】
【表1】
【0031】
ドッケリンタンパク質におけるドッケリンは、集積化しようとするスキャホールディンタンパク質が由来するセルロソームと同種又同属のセルロソーム生産微生物に由来することが好ましい。セルロソームの構成タンパク質のドッケリンドメインは、同種又は同属のセルロソーム生産微生物におけるスキャホールディンタンパク質中のコヘシンドメインと結合性が高いからである。より好ましくは、ドッケリンドメインは、同種のセルロソーム生産微生物に由来する。
【0032】
ドッケリンタンパク質は、ドッケリン以外に活性部位を備えることができる。活性部位の種類は用途に応じて適宜決定される。ドッケリンタンパク質は、ドッケリンと活性部位とを適宜組み合わせた人工的なタンパク質であってもよい。また、例えば、セルロソームの構成タンパク質であるセルラーゼであって、ドッケリンを本来的に有するセルラーゼをそのままあるいは適宜改変して用いることもできる。
【0033】
ドッケリンタンパク質は、バイオマスに由来するセルロース含有材料の糖化利用に際しては、例えば、セルラーゼ等の各種酵素活性部位を備えることができる。こうした活性部位は、公知のセルラーゼにおける活性部位を適宜利用できる。セルラーゼとしては、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.74)、セロビオヒドロラーゼ(EC 3.2.1.91)及びβ−グルコシダーゼ(EC23.2.4.1、EC 3.2.1.21)が挙げられる。なお、セルラーゼは、そのアミノ酸配列の類似性に基づきGHF(Glycoside Hydrolase family)(http://www.cazy.org/fam/acc.gh.html)の13(5,6,7,8,9,10,12,44,45,48,51,61,74)のファミリーに分類されている。異なるファミリーに分類される同種又は異種のセルラーゼを組み合わせてもよい。
【0034】
セルラーゼとしては、特に限定しないが、それ自体活性の高いセルラーゼであることが好ましい。このようなセルラーゼとしては、例えば、ファネロケーテ(Phanerochaete)属菌、Trichoderma reeseiなどのトリコデルマ属(Trichoderma)菌、フザリウム属(Fusarium)菌、トレメテス属(Tremetes)菌、ペニシリウム属(Penicillium)菌、フミコーラ属(Humicola)菌、アクレモニウム属(Acremonium)菌、アスペルギルス属(Aspergillus)菌等の糸状菌の他に、クロストリジウム属(Clostridium)菌、シュードモナス属(Pseudomonas)菌、セルロモナス属(Cellulomonas)菌、ルミノコッカス属(Ruminococcus)菌、バチルス属(Bacillus)菌等の細菌、スルフォロバス属(Sulfolobus)菌等の始原菌、さらにストレプトマイセス属(Streptomyces)菌、サーモアクチノマイセス属(Thermoactinomyces)菌などの放射菌由来のセルラーゼが挙げられる。なお、こうしたセルラーゼ又はその活性部位は、人工的に改変されていてもよい。
【0035】
ドッケリンタンパク質は、バイオマスの有効利用を考慮したとき、ヘミセルラーゼ活性部位を備えていてもよい。さらに、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ及びラッカーゼなどのリグニン分解酵素が挙げられる。また、例えば、セルロース緩和タンパク質であるスウォレニンやエクスパンシン、セルロソームやセルラーゼの構成部分であるセルロース結合ドメイン(タンパク質)が挙げられる。また、キシラナーゼやヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。これらのタンパク質は、いずれもセルロースへのセルラーゼのアクセシビリティを向上させることができる。
【0036】
ドッケリンタンパク質は、真核微生物において細胞外分泌性を備えていることが好ましい。すなわち、真核微生物において分泌タンパク質として生産されるタンパク質であることが好ましい。セルラーゼなどの酵素は、本来的に細胞外分泌のためのシグナルを有していることが多い。ドッケリンタンパク質に細胞外分泌性を付与するには、公知の分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナルは、用いる真核微生物の種類に応じて適宜選択される。分泌シグナル等については後段にて説明する。
【0037】
(コヘシンタンパク質)
本明細書に開示されるコヘシンタンパク質は、ドッケリンを結合する1又は2以上のコヘシンを備えることができる。コヘシンは、セルロソーム生産微生物の形成するセルロソームにおけるタイプI骨格タンパク質に備えられる触媒活性のあるセルラーゼ等を非共有結合で結合するドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50、Demain, A. L., et al., Microbiol Mol. Biol Rev., 69(1), 124-54(2005), Doi, R. H., et al., J. Bacterol., 185(20), 5907-5914(2003)等)。コヘシンとしては、セルロソームのタイプI骨格タンパク質上のタイプIコヘシンドメイン、同タイプII骨格タンパク質上のタイプIIコヘシンドメイン及びタイプIII骨格タンパク質上のタイプIIIコヘシンドメインを用いることができる。こうした各種タイプのコヘシンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプのコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0038】
コヘシンタンパク質の備えるコヘシンとしては、例えば、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)の骨格タンパク質等のタイプI、タイプII及びタイプIIIコヘシンドメイン等を用いることができる。
【0039】
コヘシンタンパク質は、真核微生物において細胞外分泌性又は細胞表層提示性を備えていることが好ましい。すなわち、真核微生物において分泌タンパク質として生産されるタンパク質であることが好ましいほか、真核微生物の細胞表層に提示されるタンパク質であることが好ましい。コヘシンタンパク質に細胞外分泌性又は細胞表層提示性を付与するには、公知の分泌シグナルや表層提示用のシステムを用いることができる。
【0040】
コヘシンタンパク質は、セルロソーム生産微生物に由来する天然のコヘシン又はドッケリンタンパク質の結合性を有する限りそのコヘシンのアミノ酸配列において1又は2以上の変異(付加、挿入、欠失及び置換)を導入した改変コヘシンを備えていてもよい。コヘシンタンパク質は、こうしたコヘシン等を適当なインターバルを置いて複数個備えることもできる。コヘシンタンパク質の全体のアミノ酸配列や、コヘシン間のアミノ酸配列の種類や有無は、タイプI骨格タンパク質のアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列に適宜変異を導入した配列を利用できる。
【0041】
コヘシンタンパク質は、タイプI〜IIIから選択される骨格タンパク質のセルロース結合ドメイン(CBD)を有していることが好ましい。CBDは、各種骨格タンパク質において基質であるセルロースに結合するドメインとして知られている(前述粟冠ら)。セルロース結合ドメインは、1個又は2個以上有していてもよい。各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおけるCBDのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されている。これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0042】
当業者であればこのような各種ドメインを適宜有するコヘシンタンパク質を適当な宿主微生物で遺伝子組換え等により生産させることができる。こうした各種骨格タンパク質のコヘシンドメインを有するコヘシンタンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【0043】
(不活性化対象となる糖鎖修飾関連遺伝子)
本明細書に開示される真核微生物は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている。糖鎖修飾に関連する遺伝子は各種存在するが、真核微生物において、これら15種の遺伝子から選択される1種又は2種以上が不活性化されていることで、この真核微生物で生産するドッケリンタンパク質のコヘシンへの結合性やコヘシンタンパク質のドッケリンへの結合性を向上させることができる。
【0044】
これらの糖鎖修飾関連遺伝子は、酵母におけるN型糖鎖修飾及び/又はO型糖鎖修飾に関連している。したがって、複合化しようとするタンパク質に内在するあるいは付加したドッケリン及びコヘシン並びにこれらの近傍のいずれかにN型糖鎖修飾部位やO型糖鎖修飾部位があれば、これらの遺伝子群のいずれかを破壊することで、ドッケリン−コヘシン結合能力を向上させることができる。すなわち、ドッケリンタンパク質のコヘシン結合能力やコヘシンタンパク質のドッケリン結合能力を向上させることができる。これらの糖鎖修飾関連遺伝子の破壊によれば、例えば、ドッケリン−コヘシン結合性を1.5倍以上向上させることができる。なかでも、ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらのいずれかを破壊することでドッケリン−コヘシン結合能力を2倍以上向上させることができる。
【0045】
これらの各糖鎖修飾関連遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列については、特にS. cerevisiaeなどのサッカロマイセス属に関しては、サッカロマイセスゲノムデータベース(http://www.yeastgenome.org/)から取得することができる。また、サッカロマイセス属を含め、真核微生物におけるこれらの遺伝子については、米国国立衛生研究所HP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のブラストサーチサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)等において取得できる。また、酵母において上記各種遺伝子が破壊された株は、Open Biosystems社(米国)より入手することができる。
【0046】
本明細書において「遺伝子が不活性化されている」とは、当該遺伝子がコードするタンパク質の活性が抑制又は完全に阻害された状態をいう。例えば、当該遺伝子に対するなんからの操作によって、当該遺伝子の転写及び/又は翻訳が完全に又は部分的に阻害されて、当該遺伝子がコードするタンパク質が生産されないか若しくは量的に抑制されているか、又は前記タンパク質の本来の活性がない若しくは当該活性が低下した変異体タンパク質が生産されている態様が含まれる。さらには、当該遺伝子がコードするタンパク質の活性を阻害するような化合物が投与されている、又は転写や翻訳に必要なタンパク質等が不活性化されているなどの遺伝的改変が行われている態様も含まれる。
【0047】
本明細書に開示される真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を発現させた場合において、上記したように、その対コヘシン結合能力を向上させることができるが、対コヘシン結合能力の向上は、例えば、適当なコヘシンタンパク質に対してドッケリンタンパク質を供給して、その結合量を特定遺伝子が不活性化されていない以外は同一条件で取得した対照となるドッケリンタンパク質の結合量と比較することで評価できる。ドッケリンタンパク質の結合量は、例えば、ドッケリンタンパク質に蛍光タンパクドメインなどを付与するなどすることにより、コヘシンとの結合に関わったドッケリンタンパク質を検出可能とすることができる。
【0048】
対コヘシンへの結合能力の向上は、コヘシンタンパク質に結合したドッケリンタンパク質の活性を特異的な活性を測定してもよい。例えば、ドッケリンタンパク質がセルラーゼ活性部位を有するものであるときは、上記のごとくの対照ドッケリンタンパク質とそのセルラーゼ活性を比較してもよい。具体的には、例えば、ドッケリンタンパク質がエンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性部位を有するとき、採取した培養上清又はドッケリンタンパク質を表層提示した真核微生物につき、適当なセルラーゼ基質(カルボキシメチルセルロース、リン酸セルロース、結晶性セルロース等)と反応させて反応生成物量や基質量等を測定することで酵素活性を評価できる。反応温度、pH及び時間は、酵素の種類等において適宜設定することができる。なお、酵素反応の結果生じる還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)等の公知の方法を適宜採用すればよい。さらに、エンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性は、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロースを含有する固相体からなる評価領域に本発明としての可能性のある被験タンパク質を供給し、当該領域の固相体中のセルロースを分解させて、固相体中でセルロースが分解されて消失した領域(ハロー:固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)の大きさで評価することもできる。
【0049】
本明細書に開示される真核微生物は、同様にコヘシンタンパク質を発現させた場合において、その対ドッケリン結合能力を向上させることができる。その際には、ドッケリンタンパク質の対コヘシン結合能力の確認方法に準じて、コヘシンタンパク質の対ドッケリン結合能力を確認することができる。
【0050】
特定の糖鎖修飾関連遺伝子を不活性化するには、例えば、こうした内在性遺伝子をノックアウトすればよい。特定遺伝子のノックアウトは、当業者であれば容易に実施することができる。例えば、染色体上の特定遺伝子のタンパク質コード領域あるいはその近傍の領域と相同組換え可能な相同性配列を備えるDNA断片を準備し、真核細胞に導入して、細胞内で相同組換えを生じさせることにより実現することができる。ノックアウトのためのDNA断片の真核微生物への導入等については後述する。
【0051】
本明細書に開示される真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を、典型的には外来タンパク質として生産するのに好適な宿主微生物である。こうした真核微生物としては、特に限定されないで、例えば、公知の各種酵母を利用できる。後述するエタノール発酵等を考慮すると、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピヒア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0052】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物)
本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のこうしたタンパク質に対応するDNAをそれぞれのタンパク質を発現可能に保持するものであってもよい。
【0053】
本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリンタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のドッケリンタンパク質をコードするDNAが当該ドッケリンタンパク質を発現可能に導入されて保持したものであってもよい。こうした真核微生物の生産するドッケリンタンパク質は、対コヘシン結合性とともに、当該タンパク質の有する活性部位の向上も期待できる。2以上のドッケリンタンパク質は、ドッケリンドメインの種類や個数、活性部位の形態において区別される。
【0054】
また、本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のコヘシンタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のコヘシンタンパク質をコードするDNAが当該コヘシンタンパク質を発現可能に導入されて保持したものであってもよい。また、コヘシンタンパク質のコヘシンは、ドッケリンタンパク質を集積対象として好ましい。したがって、こうした真核微生物は、細胞外においてコヘシンタンパク質に対してドッケリンタンパク質を集積化させるのに好ましい宿主となる。また、真核微生物において同時にドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを発現させることで、細胞外にコヘシンタンパク質とドッケリンタンパク質との複合体を構築できる。特に、コヘシンタンパク質を細胞表層提示させると、細胞表層においてこれらタンパク質の複合体を構築できる。なお、2以上のコヘシンタンパク質は、コヘシンドメインの種類や個数、活性部位の形態において区別される。
【0055】
さらに、本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリンタンパク質と1又は2以上のコヘシンタンパク質との双方を発現するものであってもよい。
【0056】
タンパク質をコードするコード化DNAは、宿主微生物内において当該タンパク質を発現可能に保持されていればよく、その保持形態は特に限定されない。例えば、宿主微生物で作動可能なプロモーターの制御下に連結されるとともに適切なターミネーターをその下流に有した状態で保持されている。プロモーターは、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。このような状態のDNAは、宿主染色体内に組み込まれた形態であってもよいし、宿主核内に保持される2μプラスミドや核外に保持されるプラスミドのような形態であってもよい。一般には、こうした外来DNAの導入に伴って、宿主において利用可能な選択マーカー遺伝子も同時に保持されている。
【0057】
真核微生物において生産するドッケリンタンパク質やコヘシンタンパク質に細胞外分泌性や細胞表層提示性を付与することが好ましい。なかでも、ドッケリンタンパク質には細胞外分泌性を付与することが好ましく、コヘシンタンパク質には、さらに細胞外に分泌させて細胞表層に提示させる細胞表層提示性を付与することが好ましい。細胞外分泌性を付与するには、分泌シグナルを付与することができる。分泌シグナルとしては、例えば、Rhizopus oryzaeやC. albicansのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナル、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダーなどが挙げられる。また、凝集性タンパク質あるいはその一部を用いることでタンパク質を真核微生物の表層に提示した状態に分泌させることができる。例えば、凝集性タンパク質であるα−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドがある。また、所望のタンパク質を細胞表層に提示するためのポリペプチドや手法は、WO01/79483号公報や、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されている。
【0058】
以上説明した本明細書に開示される宿主として真核微生物あるいはドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて作製することができる。例えば、酵母において特定の遺伝子が破壊された株は適宜入手できるほか、開示した特定の糖鎖修飾関連遺伝子から選択される1種又は2種以上の遺伝子を不活性化するためのベクターを、真核微生物に導入して不活性化してもよい。なお、こうしたベクター及びその構築方法は、当業者において周知であって、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に開示されている。また、ドッケリンタンパク質やスキャホールディンタンパク質を真核微生物において発現させるためのベクター及びその構築方法も、同様に、当業者において周知である。なお、ベクターの形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、2マイクロプラスミドなどの適当な酵母用ベクターの形態を採ることもできる。
【0059】
このようなベクターで真核微生物を形質転換することによって本明細書に開示される真核微生物を得ることができる。形質転換にあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。また、本明細書に開示される、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物は、特定の糖鎖修飾関連遺伝子の1種又は2種以上が破壊された真核微生物に対して、ドッケリンタンパク質及びコヘシンタンパク質などのドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の発現ベクターを導入することによって作製されるのが好ましい。
【0060】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法)
本明細書に開示されるドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法は、前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備えることができる。
ドッケリン−コヘシンタンパク質をコードするDNAを備えて当該タンパク質を発現可能であって、上記特定の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている真核微生物を培養することで、ドッケリン−コヘシン結合能力が向上したタンパク質を得ることができる。真核微生物の培養条件は、微生物の種類に応じて当業者であれば適宜設定することができる。また、液体培地を用いる液体培養が好ましいが、特に培養方法は限定されない。ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質が細胞外分泌性を有している場合には、培養工程で得られる培養上清に、当該タンパク質を取得できる。
【0061】
(タンパク質複合体の生産方法)
本明細書に開示されるタンパク質複合体の生産方法は、ドッケリン−コヘシンを利用する第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有するドッケリン−コヘシン結合を利用する第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備えることができる。ここで、第1のタンパク質及び第2のタンパク質は、両者がドッケリン−コヘシン結合による結合可能に、それぞれドッケリン及び/又はコヘシンを有していればよい。
【0062】
第1のタンパク質も、前記特定遺伝子が1又は2以上が不活性化され、第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産されるものであってもよい。こうすることで、第1のタンパク質も、ドッケリン−コヘシン結合能力が向上し、タンパク質複合体を形成しやすくなる。
【0063】
第1のタンパク質及び第2のタンパク質のいずれか一方を当該タンパク質を発現する真核微生物の細胞表層に提示させるようにしてもよい。この場合、他方のタンパク質を細胞外に分泌発現させることにより、前記一方のタンパク質を提示する真核微生物の表層にタンパク質複合体を提示できる。この場合、本方法は、細胞表層にタンパク質複合体を備える真核微生物の生産方法という形態を採ることとなる。
【0064】
第1のタンパク質と第2のタンパク質とを、本真核微生物で発現させる場合、別個の真核微生物において発現させてもよい。この場合、両タンパク質を細胞外に分泌発現させるようにすると、これらの微生物の同時培養により、細胞外でタンパク質複合体を構築できる。一方のタンパク質を細胞表層提示させ、他方を細胞外分泌させることで、これらの微生物の培養によって、真核微生物の細胞表層にタンパク質複合体を構築できる。なお、これらの微生物は、同時培養に適したものであることが好ましい。すなわち、近縁種あるいは同一種の真核微生物であることが好ましい。また、これらのタンパク質を1個の真核微生物において同時発現させてもよい。この場合、上記のようにそれぞれのタンパク質の細胞外への発現形態を選択することで、細胞外又は細胞表層にタンパク質複合体を構築できる。
【0065】
また、第1のタンパク質及び第2のタンパク質のいずれか一方を、複数のコヘシンを有するコヘシンタンパク質とし、他方を、第1のタンパク質の有するコヘシンの数よりも少ないドッケリン、好ましくは、1つのドッケリンを有するドッケリンタンパク質とすることで、コヘシンタンパク質上に複数個のドッケリンタンパク質を複合化したタンパク質複合体を得ることができる。さらに、この態様において、コヘシンタンパク質を真核微生物の細胞表層に提示発現させるように、ドッケリンタンパク質を真核微生物の細胞外分泌発現させることで、こうした複合体を真核微生物の表層に容易に提示できる。
【0066】
第1のタンパク質と第2のタンパク質とを接触させる方法は特に限定しない。タンパク質が変成しないpH、塩濃度、温度の液体中において、両者を混合等させればよい。両タンパク質がフリーなタンパク質として液体中に存在していてもよい。他方が細胞表層に提示された状態であってもよい。第1のタンパク質及び/又は第2のタンパク質を発現する真核微生物の培養液中であってもよい。
【0067】
ドッケリンタンパク質がセルラーゼ活性を有するとき、真核微生物の細胞表層にセルラーゼを集積させたタンパク質複合体を構築することができる。こうした真核微生物は、細胞表層でセルロース含有材料を分解糖化して得られるグルコースを炭素源として利用できる。
【0068】
(有用物質の生産方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有するドッケリンタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し発酵する工程、を備えることができる。この方法によれば、この真核微生物を用いてセルロース含有材料を直接分解糖化し、グルコース等として利用できることになる。前記発酵工程の実施により、用いた真核微生物が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。
【0069】
有用物質は、真核微生物がグルコースなどを発酵することにより得る生産物であり、真核微生物の種類によっても異なるし、発酵条件によっても異なる。有用物質としては特に限定しないが、酵母やその他の真核微生物がグルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母などの真核微生物におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して合成できるようになった本来の代謝物でない化合物であってもよい。有用物質としては、例えば、エタノールなどのほか、C3〜C5の低級アルコール、乳酸などの有機酸の他、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。有用物質の生産工程終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0070】
本方法に用いるセルラーゼ活性を有するドッケリンタンパク質は、2種類以上のセルラーゼ(例えば、エンドグルカナーゼとセロビオヒドロラーゼ等)活性をそれぞれ有する2種類以上を用いることが好ましい。ドッケリンタンパク質は、単一の真核微生物において同時発現させてもよいし、それぞれ独立して2以上の真核微生物において発現させてもよい。
【0071】
なお、セルロース含有材料は、D−グルコースがβ−1,4結合でグリコシド結合したβ−グルカンであるセルロースを含有する材料である。セルロース含有材料としては、セルロースを含有していればよく、どのような由来や形態であってもよい。したがって、セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、可溶性セルロース材料(非晶性セルロース材料)、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料が挙げられる。こうしたリグノセルロース系材料としては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。
【0072】
セルロース含有材料は、セルラーゼと接触させるのに先立ってセルラーゼによる分解を容易化するために適当な前処理等がなされていてもよい。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースを非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0073】
セルロース含有材料は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合により重合した重合体及びその誘導体を含んでいる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。
【0074】
なお、以上の各種の実施形態を通じて、真核微生物、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質、ドッケリンタンパク質、コヘシンタンパク質、糖鎖修飾関連遺伝子、セルラーゼ、セルロース含有材料等の用語が用いられる場合には、これらは本明細書中で定義された内容で共有して用いられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0076】
(細胞表層提示用宿主酵母の作製)
PCR法により常法に従い増幅後クローニングしたaga1遺伝子の上流にAAP1相同領域とHOR7プロモーター、下流にTdh3ターミネーターとHis3マーカーおよびAAP1相同領域を持つ、pAI-HOR7p-AGA1ベクター(図1)を作製した。このベクターを用いて酵母S.cerevisiae BY4741に形質転換を行い、aga1を細胞表層に大量提示する酵母BY-AGA1を取得した。
【実施例2】
【0077】
(コヘシンタンパク質を細胞表層提示する酵母の作製)
3種類のセルロソーム生産微生物からコヘシンタンパク質の要素であるコヘシンとCBD-コヘシン等をクローニングした(図2参照)。C.thermocellum由来の骨格タンパク質cipAの配列からコヘシン(Ctcoh)(配列番号1)とCBD-4コヘシン(CtCBD4coh)(配列番号2)をそれぞれPCR法により常法に従い増幅後クローニングした(図2(a))。同様に、C.cellulolyticum由来の骨格タンパク質cipCの配列からコヘシン(Cccoh)(配列番号3)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした(図2(b))。またR. flavefaciens由来骨格蛋白質ScaBの配列から、コヘシン(Rfcoh)(配列番号4)を遺伝子合成により取得した(図2(c))。
【0078】
取得したそれぞれの遺伝子の上流にADH3相同領域とHOR7プロモーター、下流にV5-tag、aga2、Tdh3ターミネーター、Leu2マーカーおよびADH3相同領域を持つ、pDL-HOR7p-CtCohAGA2ベクター、pDL-HOR7p-CtCBD4CohAGA2ベクター、pDL-HOR7p-CcCohAGA2ベクター、およびpDL-HOR7p-RfCohAGA2ベクターをそれぞれ作製した(図3)。これら各ベクターを実施例1で取得したBY-AGA1に導入して、C.thermocellum 由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母CtcohとCtCBD4coh、C.cellulolyticum由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母Cccoh、およびR. flavefaciens由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母Rfcohをそれぞれ取得した。
【実施例3】
【0079】
(ドッケリン−セルラーゼタンパク質の分泌生産する酵母の作製)
C.thermocellum のゲノムからCel8Aセルラーゼ遺伝子(配列番号5)とCel48Sドッケリン遺伝子(配列番号6)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。取得した遺伝子を接合し、上流にHis-tagが付加する形で2mmベクター(図4)に挿入し、2mm-Cel8A-Ctdocベクターを作製した。取得したベクターを酵母S.cerevisiae BY4741の表2に示す各糖鎖修飾酵素の破壊株(Open Biosystems社(米国))に導入して、各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母を取得した。
【0080】
【表2】
【実施例4】
【0081】
(コヘシンタンパク質細胞表層提示酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例2で取得した酵母CtcohをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=10の菌体を200ml集菌した。実施例3で取得した各株をYNB+2%カザミノ酸+2%グルコース培地で30℃、24時間培養しOD600=8の菌体を1.5ml集菌して培養上清を回収し、各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌液を取得した。集菌したCtcohを大過剰量の各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌液1mlで懸濁し、4℃、12時間静置することで細胞表層上でCel8A-CtdocとCtcohが再構成した酵母を取得した。この酵母をOD600=1、1ml相当量集菌し、50mM 酢酸緩衝液 pH6.0で洗浄後、1% CMC, 50mM 酢酸緩衝液pH6.0溶液に混合し、60℃でCMC分解反応を行った。反応後、TZアッセイにより、遊離還元糖を測定した。結果を図5に示す。
【0082】
図5に示すように、糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdocが結合した酵母の中にCMC分解活性の向上が認められるものを40種類中15種類見出した。すなわち、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, LG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2及びMNN11を見出した。
【実施例5】
【0083】
(コヘシンタンパク質細胞表層提示酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質の細胞表層提示量の評価)
実施例4で取得したCMC分解活性の向上が認められる糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdocが結合した酵母Ctcohを、OD600=0.5、62.5ml相当量集菌し、PBS溶液で洗浄を行い、PBS + 1mg/ml BSA + anti-His-FITC溶液と混合して4℃、30分間反応し、PBS溶液で2回洗浄後、Flow Cytometryで酵母細胞表層上のCelA提示量を評価した。結果を図6に示す。
【0084】
図6に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊することでCel8A提示量が向上している酵母を15種類中12種類見出した。すなわち、ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11を見出した。ドッケリンの骨格蛋白質への結合量の向上は、ドッケリンの対コヘシン結合性の向上及びドッケリンに存在する糖鎖修飾部位への巨大糖鎖の結合が解除されたことが示唆された。
【実施例6】
【0085】
(複数個のコヘシンを有するコヘシンタンパク質を細胞表層提示した酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例2で取得した酵母CtCBD4cohをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=10の菌体を200ml集菌した。実施例5で取得した12種類の糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母のうち10種類に対して、実施例4と同様の手順にて細胞表層上でCel8A-CtdocとCtCBD4cohを再構成し、CMC分解活性を評価した。結果を図7に示す。
【0086】
図7に示すように、4つのコヘシンとCBDを含む巨大な足場タンパク(スキャホールディン質)を持つ酵母に対してもドッケリンの糖鎖修飾解除が有効であることを証明できた。
【実施例7】
【0087】
(ALG6破壊酵母が分泌生産するドッケリン−セルラーゼタンパク質における糖鎖修飾状態の確認)
実施例3で取得した酵母のうちALG6破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母を、ジャーファーメンターを用い、YNB+2%カザミノ酸+2%グルコース培地で、通気0.5vvm、撹拌速度400rpm、pH5.0、30℃の条件で24時間培養した。遠心分離により培養上清を回収し、His-アフィニティーカラムでCel8A-Ctdocを精製し、SDS-PAGEにより分子量を評価した。結果を図8に示す。
【0088】
図8に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊していない酵母で生産したCel8A-Ctdoc(W:野生型)で見られる高分子領域のスメアなバンドと比較して、糖鎖修飾酵素のひとつであるALG6を破壊した酵母で生産したCel8A-Ctdocは分子量が大幅に減少しており、ALG6破壊によりCel8A-Ctdocに付加した巨大糖鎖修飾を解除できた事が示唆された。
【実施例8】
【0089】
(コヘシン−ドッケリン同時発現酵母の作製)
C.cellulolyticumのゲノムからCel5Aドッケリン遺伝子(配列番号7)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。また、R. flavefaciens由来ScaAの配列から、ScaAドッケリン遺伝子(配列番号8)を遺伝子合成により取得した。取得したそれぞれの遺伝子を実施例3で取得したC.thermocellum 由来Cel8Aセルラーゼ遺伝子と接合し、それぞれの上流にHXT3相同領域、HOR7プロモーターおよびHis-tag、下流にTdh3ターミネーター、URA3マーカーおよびHXT3相同領域を持つ、pXU-HOR7p-Cel8A-CcdocベクターとpXU-HOR7p-Cel8A-Rfdocベクター(図9)を作製した。これら各ベクターを実施例2で取得した2種類の酵母CccohとRfcohにそれぞれ導入して、C.cellulolyticum由来コヘシンとCel8Aを同時生産し細胞表層に提示する酵母Cccoh-Cel8A、およびR. flavefaciens由来コヘシンとCel8Aを同時生産し細胞表層に提示する酵母Rfcoh-Cel8Aを取得した。
【実施例9】
【0090】
(コヘシン−ドッケリン同時発現ALG6破壊酵母の作製)
酵母S.cerevisiae BY4741のALG6破壊株のゲノムから破壊領域遺伝子をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。取得した遺伝子を実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8AおよびRfcoh-Cel8Aに導入し、ALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8Aを取得した。
【実施例10】
【0091】
(コヘシン−ドッケリン同時発現酵母におけるドッケリンタンパク質の細胞表層提示量の評価)
実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8Aと酵母Rfcoh-Cel8A、および実施例9で取得したALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8Aを、それぞれ、YP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=0.5、62.5ml相当量集菌し、PBS溶液で1回洗浄を行い、PBS + 1mg/ml BSA + anti-His-FITC溶液と混合して4℃、30分間反応し、PBS溶液で2回洗浄後、Flow Cytometryで酵母細胞表層上のCelA提示量を評価した。結果を図10に示す。
【0092】
図10に示すように、C.cellulolyticum由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせ、R. flavefaciens由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせにおいて、いずれも、ALG6遺伝子を破壊することでCelA提示量の向上が認められた。C.cellulolyticum由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせは、コヘシン側においてのみN型糖修飾部位とO型糖鎖修飾部位が存在しており、ドッケリン側には修飾部位が存在していない。したがって、この組み合わせによる酵母においてCelA提示量が向上したということは、こうした遺伝子の破壊によってコヘシンへの糖鎖修飾を抑制又は回避させて、対ドッケリン結合能力が向上したことを支持している。
【実施例11】
【0093】
(コヘシン−ドッケリン同時発現ALG6破壊酵母におけるドッケリンタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8Aと酵母Rfcoh-Cel8A、および実施例9で取得したALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8AをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=1、1ml相当量集菌し、50mM 酢酸緩衝液 pH6.0溶液で洗浄後、1% CMC, 20mM 酢酸緩衝液pH6.0溶液に混合し、60℃でCMC分解反応を行った。結果を図11に示す。
【0094】
図11に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊することで、CMC分解活性の向上が認められ、酵母の糖化能力を向上させることが示された。CMC分解活性の向上の程度を考慮すると、糖鎖修飾関連遺伝子の破壊によって、ドッケリンタンパク質のセルラーゼ活性が向上していることがわかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の取得に関し、詳しくは、当該タンパク質を生産するための真核微生物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマス資源への期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを、エネルギー源やその他の原料として有効利用するためには、バイオマスを動物や微生物が容易に利用可能な炭素源に糖化することが必要である。
【0003】
典型的なバイオマスであるセルロースやヘミセルロースを利用するには、これらを糖化(分解)する優れたセルラーゼが必要である。こうしたセルラーゼ源として、一部の細菌が生産するセルロソームが着目されている。セルロソームは、細菌の細胞表層に形成されるセルラーゼとそのセルラーゼが結合する骨格タンパク質(スキャホールディンタンパク質)とのセルラーゼとの複合体である。スキャホールディンタンパク質は、コヘシンという部位を有するタンパク質であり、セルロソームは、スキャホールディンタンパク質中のコヘシンにセルラーゼが有するドッケリンというドメインを介してセルラーゼが結合して構成されることが知られている。こうしたセルロソームによれば、細菌細胞表層に多種のセルラーゼを高密度でかつ大量に提供することができる。
【0004】
遺伝子工学的に微生物の細胞表層に人工的なセルロソームを構築する試みもなされている(特許文献1)。特許文献1では、酵母の細胞表層に人工的なセルロソームに構築したことが開示されている。酵母の細胞表層にセルロソームを構築することで、セルロソームのセルラーゼがセルロースを分解し、その結果得られるグルコースを直ちに炭素源として酵母に利用させて有用物質を発酵生産できるというメリットがある。
【0005】
人工的なセルロソームの構築にあたっては、酵母などでセルラーゼを大量に分泌させることが好ましい。例えば、セルラーゼの分泌促進に関しては、N型糖鎖修飾酵素を複数個破壊することで分泌生産量が向上することが開示されている(特許文献2)。また、メタノール資化性酵母で抗体生産するのにあたり、O型糖鎖修飾酵素PMTの阻害剤を添加し培養することで、抗体の生産量および会合体形成能が向上することも開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−142260
【特許文献2】特開2006−280253
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Kuroda et al., Appl. Environ. Microbiol. 74(2), 446-453(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酵母などの真核微生物でも人工的にセルロソームを構築することができるが、より一層高機能なセルロソームの構築によって糖化能力の一層の向上が求められる。セルロソームにおけるスキャホールディンタンパク質とセルラーゼとの結合は、ドッケリン−コヘシンの結合性に依存すると考えられるが、セルラーゼやスキャホールディンタンパク質のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質において、ドッケリンとコヘシンとの間に作用する結合(ドッケリン−コヘシン結合)の能力(ドッケリン−コヘシン結合能力)を向上させるような試みは未だ行われていないし、そのような開示もなされていない。
【0009】
そこで、本明細書の開示は、酵母などの真核微生物を用いて、対コヘシン又は対ドッケリンへの結合性が向上したドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を取得することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、真核微生物に特有のシステムのなかでも糖鎖修飾に着目した。酵母などの真核微生物にあっては、いくつかの糖鎖修飾システムが存在している。宿主で発現させた外来性ドッケリンタンパク質への糖鎖修飾がコヘシンとの結合性に関与する可能性のほか、コヘシンタンパク質への糖鎖修飾がドッケリンとの結合性に関与する可能性についてもて検討した。その結果、特定の糖鎖修飾関連遺伝子を破壊することで、ドッケリンのコヘシンに対する結合性やコヘシンのドッケリンに対する結合性を向上させうるという知見を得た。本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本明細書の開示によれば、ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物であって、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備える、真核微生物が提供される。また、糖鎖修飾関連遺伝子ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11からなる群から選択される、前記真核微生物も提供される。前記タンパク質はドッケリンを有するタンパク質であって、前記ドッケリンを有するタンパク質はセルラーゼであってもよい。また、前記タンパク質はコヘシンを有するタンパク質であって、前記コヘシンを有するタンパク質は、スキャホールディンタンパク質であってもよい。また、前記真核微生物は、酵母であってもよい。
【0012】
さらに、以下の特徴;
(b)1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する、を備える前記真核微生物も提供される。前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、ドッケリンを有するタンパク質であってもよい。前記ドッケリンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、前記真核微生物も提供される。
【0013】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であってもよい。前記コヘシンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来することができる。
【0014】
本明細書の開示によれば、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法であって、1又は2以上の前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備える、方法が提供される。
【0015】
本明細書の開示によれば、タンパク質複合体の生産方法であって、ドッケリン−コヘシンを利用する1又は2以上の第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有するドッケリン−コヘシン結合を利用する1又は2以上の第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した前記第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備える、方法が提供される。
【0016】
上記生産方法においては、前記第1のタンパク質は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産されるものであってもよい。
【0017】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質のいずれか一方を、これらのタンパク質を生産する前記真核微生物に表層提示させてもよい。また、この場合、他方のタンパク質を当該他方のタンパク質を生産する前記真核微生物の細胞外に分泌発現させてもよい。
【0018】
前記一方のタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であり、前記他方のタンパク質は、記ドッケリンを有するタンパク質であってもよい。前記第1のタンパク質は、前記第2のタンパク質を生産する真核微生物において前記第2のタンパク質と同時発現されるものであってもよい
【0019】
本明細書の開示によれば、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有しドッケリンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し、発酵する工程、を備える、有用物質の生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】細胞表層提示用宿主酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図2】クローニングした各種のコヘシンを有するタンパク質遺伝子を示す図である。
【図3】各種コヘシンを有するタンパク質遺伝子を含むコヘシンを細胞表層提示する酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図4】ドッケリンタンパク質(セルラーゼ)を分泌生産する酵母を作製するためのベクターを示す図である。
【図5】40種類の糖鎖修飾酵素がそれぞれ破壊された酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質が結合した酵母におけるCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【図6】15種類の糖鎖修飾酵素がそれぞれ破壊された酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質の酵母における提示量の評価結果を示す図である。
【図7】複数個のコヘシンを有するタンパク質を細胞表層提示酵母に結合したALG6遺伝子破壊酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質のCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【図8】ALG6遺伝子破壊酵母で分泌生産したドッケリン−セルラーゼタンパク質のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図9】C.cellulolyticum由来のドッケリン又はR. flavefaciens由来ドッケリンを含むドッケリン−セルラーゼタンパク質をコード化DNAをHXT遺伝子における相同組換えにより染色体導入するためのベクターを示す図である。
【図10】コヘシンタンパク質及びドッケリンタンパク質の同時発現ALG6非破壊又は破壊酵母におけるドッケリン−セルラーゼタンパク質の提示量の評価結果を示す図である。
【図11】コヘシンタンパク質及びドッケリンタンパク質の同時発現ALG6非破壊又は破壊酵母におけるドッケリン−セルラーゼタンパク質のCMC分解活性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書の開示は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産に関し、こうしたタンパク質の生産に適した真核微生物及びその生産方法、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の複合体の生産方法、有用物質の生産方法等に関する。
【0022】
酵母などの真核微生物においては、各種の糖鎖修飾に関与する酵素などの各種タンパク質が知られている。サッカロマイセス・セレビジエなど酵母における糖鎖修飾酵素は、おおよそ66種類知られている。このうち、遺伝子破壊しても生存できる糖鎖修飾酵素は44種類であり、破壊時に生育不可能な糖鎖修飾酵素4種類を含んでいる。本発明者らは、40種類の糖鎖修飾酵素の遺伝子がそれぞれ不活性化した酵母を取得し、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質であるドッケリンタンパク質やコヘシンタンパク質を生産させて、コヘシン又はドッケリンへの結合性に関して検討した。その結果、特定の15種類の糖鎖修飾酵素遺伝子の不活性化がドッケリンタンパク質等のコヘシン等への結合性向上に有効であることを見出した。これらの糖鎖修飾酵素又は遺伝子が、ドッケリン−コヘシン結合に関与する遺伝子であることはこれまで知られていなかった。
【0023】
本明細書の開示によれば、真核微生物の特定の糖鎖修飾関連遺伝子を不活性化することで、当該真核微生物にドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を合成させると、当該タンパク質の結合部位である対コヘシン又は対ドッケリンに対する結合性を向上させることができる。こうした結合能力の向上は、例えば、酵母などの真核微生物でドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を発現させ、これらのタンパク質の複合体を細胞外に集積化するのに極めて有効である。すなわち、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をより大きな集積量及び/又はより高い集積度(集積密度)で集積させたコヘシンタンパク質−ドッケリンタンパク質の複合体を得ることができる。
【0024】
ドッケリンタンパク質が、酵素活性など所定の活性を有するとき、当該ドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを接触させることにより、ドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを複合化して、その活性を高めることができる。例えば、コヘシンタンパク質が複数個のコヘシンを有し、ドッケリンタンパク質が1個のドッケリンを有する場合、コヘシンタンパク質上に複数のドッケリンタンパク質を集積化することができる。こうした複合体にあっては、大きな集積量やより高い集積度を得られるため、ドッケリンタンパク質の有する活性を効果的に高機能化することができる。
【0025】
例えば、セルラーゼ活性部位を有するドッケリンタンパク質と、1又は複数(好ましくは複数)のコヘシンを有するコヘシンタンパク質とを接触させて、コヘシンタンパク質上に複数個のドッケリンタンパク質を複合化することで、用いるセルラーゼの種類やその活性に大きく依存することなく、セルロースの分解能・糖化能が向上したセルラーゼ複合体(人工セルロソーム)を得ることができる。こうしたセルラーゼ複合体を真核微生物の細胞表層に構築した場合には、セルロース含有材料を直接分解糖化し、セルロースを炭素源として直接利用できる能力を真核微生物に付与することができる。例えば、ドッケリンタンパク質の集積先をコヘシンタンパク質とするとき、コヘシンタンパク質を、ドッケリンタンパク質を発現させた真核微生物で同時発現させてもよいし、別の真核微生物等から取得して表層が修飾される真核微生物の細胞表層に供給してもよい。以下、本明細書の開示について詳細に説明する。
【0026】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物)
本明細書に開示される真核微生物は、特定遺伝子が不活性化されている。こうした真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するための宿主細胞として用いることができる。この真核微生物を宿主細胞として用いて、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを当該ドッケリンタンパク質を発現可能に導入し保持させることで、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産させることができる。
【0027】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質)
本明細書に開示されるドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質とは、ドッケリンとコヘシンとの結合能力を利用可能に、ドッケリン及びコヘシンの少なくとも一方を有するタンパク質を包含している。典型的には、少なくとも一つのドッケリンを有するドッケリンタンパク質及び少なくとも一つのコヘシンを有するコヘシンタンパク質が挙げられる。また、ドッケリン−コヘシンタンパク質には、少なくとも一つのドッケリンと少なくとも一つのコヘシンとを有するタンパク質も含まれる。
【0028】
(ドッケリンタンパク質)
本明細書に開示されるドッケリンタンパク質は、セルロソームの構成タンパク質に由来する公知のドッケリンあるいはその改変体を含むことができる。ドッケリンとしては、セルロソーム構成タンパク質としてのセルラーゼの一部に備えられるドッケリンドメインが挙げられる。ドッケリンタンパク質は、真核微生物にとっては、本来的に内在していないため、外来タンパク質となる。
【0029】
ドッケリンタンパク質が有することのできるドッケリン(ドッケリンドメイン)としては、例えば、以下の表1に挙げられるセルロソーム生産微生物に由来して多数知られている。こうしたセルロソーム生産微生物のセルロソームの構成タンパク質に含まれるドッケリンドメインを適宜選択してあるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)からなる群から選択される細菌に由来するドッケリンが好ましく挙げられる。
【0030】
【表1】
【0031】
ドッケリンタンパク質におけるドッケリンは、集積化しようとするスキャホールディンタンパク質が由来するセルロソームと同種又同属のセルロソーム生産微生物に由来することが好ましい。セルロソームの構成タンパク質のドッケリンドメインは、同種又は同属のセルロソーム生産微生物におけるスキャホールディンタンパク質中のコヘシンドメインと結合性が高いからである。より好ましくは、ドッケリンドメインは、同種のセルロソーム生産微生物に由来する。
【0032】
ドッケリンタンパク質は、ドッケリン以外に活性部位を備えることができる。活性部位の種類は用途に応じて適宜決定される。ドッケリンタンパク質は、ドッケリンと活性部位とを適宜組み合わせた人工的なタンパク質であってもよい。また、例えば、セルロソームの構成タンパク質であるセルラーゼであって、ドッケリンを本来的に有するセルラーゼをそのままあるいは適宜改変して用いることもできる。
【0033】
ドッケリンタンパク質は、バイオマスに由来するセルロース含有材料の糖化利用に際しては、例えば、セルラーゼ等の各種酵素活性部位を備えることができる。こうした活性部位は、公知のセルラーゼにおける活性部位を適宜利用できる。セルラーゼとしては、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.74)、セロビオヒドロラーゼ(EC 3.2.1.91)及びβ−グルコシダーゼ(EC23.2.4.1、EC 3.2.1.21)が挙げられる。なお、セルラーゼは、そのアミノ酸配列の類似性に基づきGHF(Glycoside Hydrolase family)(http://www.cazy.org/fam/acc.gh.html)の13(5,6,7,8,9,10,12,44,45,48,51,61,74)のファミリーに分類されている。異なるファミリーに分類される同種又は異種のセルラーゼを組み合わせてもよい。
【0034】
セルラーゼとしては、特に限定しないが、それ自体活性の高いセルラーゼであることが好ましい。このようなセルラーゼとしては、例えば、ファネロケーテ(Phanerochaete)属菌、Trichoderma reeseiなどのトリコデルマ属(Trichoderma)菌、フザリウム属(Fusarium)菌、トレメテス属(Tremetes)菌、ペニシリウム属(Penicillium)菌、フミコーラ属(Humicola)菌、アクレモニウム属(Acremonium)菌、アスペルギルス属(Aspergillus)菌等の糸状菌の他に、クロストリジウム属(Clostridium)菌、シュードモナス属(Pseudomonas)菌、セルロモナス属(Cellulomonas)菌、ルミノコッカス属(Ruminococcus)菌、バチルス属(Bacillus)菌等の細菌、スルフォロバス属(Sulfolobus)菌等の始原菌、さらにストレプトマイセス属(Streptomyces)菌、サーモアクチノマイセス属(Thermoactinomyces)菌などの放射菌由来のセルラーゼが挙げられる。なお、こうしたセルラーゼ又はその活性部位は、人工的に改変されていてもよい。
【0035】
ドッケリンタンパク質は、バイオマスの有効利用を考慮したとき、ヘミセルラーゼ活性部位を備えていてもよい。さらに、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ及びラッカーゼなどのリグニン分解酵素が挙げられる。また、例えば、セルロース緩和タンパク質であるスウォレニンやエクスパンシン、セルロソームやセルラーゼの構成部分であるセルロース結合ドメイン(タンパク質)が挙げられる。また、キシラナーゼやヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。これらのタンパク質は、いずれもセルロースへのセルラーゼのアクセシビリティを向上させることができる。
【0036】
ドッケリンタンパク質は、真核微生物において細胞外分泌性を備えていることが好ましい。すなわち、真核微生物において分泌タンパク質として生産されるタンパク質であることが好ましい。セルラーゼなどの酵素は、本来的に細胞外分泌のためのシグナルを有していることが多い。ドッケリンタンパク質に細胞外分泌性を付与するには、公知の分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナルは、用いる真核微生物の種類に応じて適宜選択される。分泌シグナル等については後段にて説明する。
【0037】
(コヘシンタンパク質)
本明細書に開示されるコヘシンタンパク質は、ドッケリンを結合する1又は2以上のコヘシンを備えることができる。コヘシンは、セルロソーム生産微生物の形成するセルロソームにおけるタイプI骨格タンパク質に備えられる触媒活性のあるセルラーゼ等を非共有結合で結合するドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50、Demain, A. L., et al., Microbiol Mol. Biol Rev., 69(1), 124-54(2005), Doi, R. H., et al., J. Bacterol., 185(20), 5907-5914(2003)等)。コヘシンとしては、セルロソームのタイプI骨格タンパク質上のタイプIコヘシンドメイン、同タイプII骨格タンパク質上のタイプIIコヘシンドメイン及びタイプIII骨格タンパク質上のタイプIIIコヘシンドメインを用いることができる。こうした各種タイプのコヘシンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプのコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0038】
コヘシンタンパク質の備えるコヘシンとしては、例えば、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びルミノコッカス・フラヴファシエンス(Ruminococcus flavefacience)の骨格タンパク質等のタイプI、タイプII及びタイプIIIコヘシンドメイン等を用いることができる。
【0039】
コヘシンタンパク質は、真核微生物において細胞外分泌性又は細胞表層提示性を備えていることが好ましい。すなわち、真核微生物において分泌タンパク質として生産されるタンパク質であることが好ましいほか、真核微生物の細胞表層に提示されるタンパク質であることが好ましい。コヘシンタンパク質に細胞外分泌性又は細胞表層提示性を付与するには、公知の分泌シグナルや表層提示用のシステムを用いることができる。
【0040】
コヘシンタンパク質は、セルロソーム生産微生物に由来する天然のコヘシン又はドッケリンタンパク質の結合性を有する限りそのコヘシンのアミノ酸配列において1又は2以上の変異(付加、挿入、欠失及び置換)を導入した改変コヘシンを備えていてもよい。コヘシンタンパク質は、こうしたコヘシン等を適当なインターバルを置いて複数個備えることもできる。コヘシンタンパク質の全体のアミノ酸配列や、コヘシン間のアミノ酸配列の種類や有無は、タイプI骨格タンパク質のアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列に適宜変異を導入した配列を利用できる。
【0041】
コヘシンタンパク質は、タイプI〜IIIから選択される骨格タンパク質のセルロース結合ドメイン(CBD)を有していることが好ましい。CBDは、各種骨格タンパク質において基質であるセルロースに結合するドメインとして知られている(前述粟冠ら)。セルロース結合ドメインは、1個又は2個以上有していてもよい。各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおけるCBDのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されている。これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0042】
当業者であればこのような各種ドメインを適宜有するコヘシンタンパク質を適当な宿主微生物で遺伝子組換え等により生産させることができる。こうした各種骨格タンパク質のコヘシンドメインを有するコヘシンタンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【0043】
(不活性化対象となる糖鎖修飾関連遺伝子)
本明細書に開示される真核微生物は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている。糖鎖修飾に関連する遺伝子は各種存在するが、真核微生物において、これら15種の遺伝子から選択される1種又は2種以上が不活性化されていることで、この真核微生物で生産するドッケリンタンパク質のコヘシンへの結合性やコヘシンタンパク質のドッケリンへの結合性を向上させることができる。
【0044】
これらの糖鎖修飾関連遺伝子は、酵母におけるN型糖鎖修飾及び/又はO型糖鎖修飾に関連している。したがって、複合化しようとするタンパク質に内在するあるいは付加したドッケリン及びコヘシン並びにこれらの近傍のいずれかにN型糖鎖修飾部位やO型糖鎖修飾部位があれば、これらの遺伝子群のいずれかを破壊することで、ドッケリン−コヘシン結合能力を向上させることができる。すなわち、ドッケリンタンパク質のコヘシン結合能力やコヘシンタンパク質のドッケリン結合能力を向上させることができる。これらの糖鎖修飾関連遺伝子の破壊によれば、例えば、ドッケリン−コヘシン結合性を1.5倍以上向上させることができる。なかでも、ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらのいずれかを破壊することでドッケリン−コヘシン結合能力を2倍以上向上させることができる。
【0045】
これらの各糖鎖修飾関連遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列については、特にS. cerevisiaeなどのサッカロマイセス属に関しては、サッカロマイセスゲノムデータベース(http://www.yeastgenome.org/)から取得することができる。また、サッカロマイセス属を含め、真核微生物におけるこれらの遺伝子については、米国国立衛生研究所HP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のブラストサーチサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)等において取得できる。また、酵母において上記各種遺伝子が破壊された株は、Open Biosystems社(米国)より入手することができる。
【0046】
本明細書において「遺伝子が不活性化されている」とは、当該遺伝子がコードするタンパク質の活性が抑制又は完全に阻害された状態をいう。例えば、当該遺伝子に対するなんからの操作によって、当該遺伝子の転写及び/又は翻訳が完全に又は部分的に阻害されて、当該遺伝子がコードするタンパク質が生産されないか若しくは量的に抑制されているか、又は前記タンパク質の本来の活性がない若しくは当該活性が低下した変異体タンパク質が生産されている態様が含まれる。さらには、当該遺伝子がコードするタンパク質の活性を阻害するような化合物が投与されている、又は転写や翻訳に必要なタンパク質等が不活性化されているなどの遺伝的改変が行われている態様も含まれる。
【0047】
本明細書に開示される真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を発現させた場合において、上記したように、その対コヘシン結合能力を向上させることができるが、対コヘシン結合能力の向上は、例えば、適当なコヘシンタンパク質に対してドッケリンタンパク質を供給して、その結合量を特定遺伝子が不活性化されていない以外は同一条件で取得した対照となるドッケリンタンパク質の結合量と比較することで評価できる。ドッケリンタンパク質の結合量は、例えば、ドッケリンタンパク質に蛍光タンパクドメインなどを付与するなどすることにより、コヘシンとの結合に関わったドッケリンタンパク質を検出可能とすることができる。
【0048】
対コヘシンへの結合能力の向上は、コヘシンタンパク質に結合したドッケリンタンパク質の活性を特異的な活性を測定してもよい。例えば、ドッケリンタンパク質がセルラーゼ活性部位を有するものであるときは、上記のごとくの対照ドッケリンタンパク質とそのセルラーゼ活性を比較してもよい。具体的には、例えば、ドッケリンタンパク質がエンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性部位を有するとき、採取した培養上清又はドッケリンタンパク質を表層提示した真核微生物につき、適当なセルラーゼ基質(カルボキシメチルセルロース、リン酸セルロース、結晶性セルロース等)と反応させて反応生成物量や基質量等を測定することで酵素活性を評価できる。反応温度、pH及び時間は、酵素の種類等において適宜設定することができる。なお、酵素反応の結果生じる還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)等の公知の方法を適宜採用すればよい。さらに、エンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性は、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロースを含有する固相体からなる評価領域に本発明としての可能性のある被験タンパク質を供給し、当該領域の固相体中のセルロースを分解させて、固相体中でセルロースが分解されて消失した領域(ハロー:固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)の大きさで評価することもできる。
【0049】
本明細書に開示される真核微生物は、同様にコヘシンタンパク質を発現させた場合において、その対ドッケリン結合能力を向上させることができる。その際には、ドッケリンタンパク質の対コヘシン結合能力の確認方法に準じて、コヘシンタンパク質の対ドッケリン結合能力を確認することができる。
【0050】
特定の糖鎖修飾関連遺伝子を不活性化するには、例えば、こうした内在性遺伝子をノックアウトすればよい。特定遺伝子のノックアウトは、当業者であれば容易に実施することができる。例えば、染色体上の特定遺伝子のタンパク質コード領域あるいはその近傍の領域と相同組換え可能な相同性配列を備えるDNA断片を準備し、真核細胞に導入して、細胞内で相同組換えを生じさせることにより実現することができる。ノックアウトのためのDNA断片の真核微生物への導入等については後述する。
【0051】
本明細書に開示される真核微生物は、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を、典型的には外来タンパク質として生産するのに好適な宿主微生物である。こうした真核微生物としては、特に限定されないで、例えば、公知の各種酵母を利用できる。後述するエタノール発酵等を考慮すると、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピヒア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0052】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物)
本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のこうしたタンパク質に対応するDNAをそれぞれのタンパク質を発現可能に保持するものであってもよい。
【0053】
本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリンタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のドッケリンタンパク質をコードするDNAが当該ドッケリンタンパク質を発現可能に導入されて保持したものであってもよい。こうした真核微生物の生産するドッケリンタンパク質は、対コヘシン結合性とともに、当該タンパク質の有する活性部位の向上も期待できる。2以上のドッケリンタンパク質は、ドッケリンドメインの種類や個数、活性部位の形態において区別される。
【0054】
また、本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のコヘシンタンパク質を生産するものであってもよい。すなわち、1又は2以上のコヘシンタンパク質をコードするDNAが当該コヘシンタンパク質を発現可能に導入されて保持したものであってもよい。また、コヘシンタンパク質のコヘシンは、ドッケリンタンパク質を集積対象として好ましい。したがって、こうした真核微生物は、細胞外においてコヘシンタンパク質に対してドッケリンタンパク質を集積化させるのに好ましい宿主となる。また、真核微生物において同時にドッケリンタンパク質とコヘシンタンパク質とを発現させることで、細胞外にコヘシンタンパク質とドッケリンタンパク質との複合体を構築できる。特に、コヘシンタンパク質を細胞表層提示させると、細胞表層においてこれらタンパク質の複合体を構築できる。なお、2以上のコヘシンタンパク質は、コヘシンドメインの種類や個数、活性部位の形態において区別される。
【0055】
さらに、本明細書に開示される真核微生物は、1又は2以上のドッケリンタンパク質と1又は2以上のコヘシンタンパク質との双方を発現するものであってもよい。
【0056】
タンパク質をコードするコード化DNAは、宿主微生物内において当該タンパク質を発現可能に保持されていればよく、その保持形態は特に限定されない。例えば、宿主微生物で作動可能なプロモーターの制御下に連結されるとともに適切なターミネーターをその下流に有した状態で保持されている。プロモーターは、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。このような状態のDNAは、宿主染色体内に組み込まれた形態であってもよいし、宿主核内に保持される2μプラスミドや核外に保持されるプラスミドのような形態であってもよい。一般には、こうした外来DNAの導入に伴って、宿主において利用可能な選択マーカー遺伝子も同時に保持されている。
【0057】
真核微生物において生産するドッケリンタンパク質やコヘシンタンパク質に細胞外分泌性や細胞表層提示性を付与することが好ましい。なかでも、ドッケリンタンパク質には細胞外分泌性を付与することが好ましく、コヘシンタンパク質には、さらに細胞外に分泌させて細胞表層に提示させる細胞表層提示性を付与することが好ましい。細胞外分泌性を付与するには、分泌シグナルを付与することができる。分泌シグナルとしては、例えば、Rhizopus oryzaeやC. albicansのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナル、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダーなどが挙げられる。また、凝集性タンパク質あるいはその一部を用いることでタンパク質を真核微生物の表層に提示した状態に分泌させることができる。例えば、凝集性タンパク質であるα−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドがある。また、所望のタンパク質を細胞表層に提示するためのポリペプチドや手法は、WO01/79483号公報や、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されている。
【0058】
以上説明した本明細書に開示される宿主として真核微生物あるいはドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて作製することができる。例えば、酵母において特定の遺伝子が破壊された株は適宜入手できるほか、開示した特定の糖鎖修飾関連遺伝子から選択される1種又は2種以上の遺伝子を不活性化するためのベクターを、真核微生物に導入して不活性化してもよい。なお、こうしたベクター及びその構築方法は、当業者において周知であって、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に開示されている。また、ドッケリンタンパク質やスキャホールディンタンパク質を真核微生物において発現させるためのベクター及びその構築方法も、同様に、当業者において周知である。なお、ベクターの形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、2マイクロプラスミドなどの適当な酵母用ベクターの形態を採ることもできる。
【0059】
このようなベクターで真核微生物を形質転換することによって本明細書に開示される真核微生物を得ることができる。形質転換にあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。また、本明細書に開示される、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する真核微生物は、特定の糖鎖修飾関連遺伝子の1種又は2種以上が破壊された真核微生物に対して、ドッケリンタンパク質及びコヘシンタンパク質などのドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の発現ベクターを導入することによって作製されるのが好ましい。
【0060】
(ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法)
本明細書に開示されるドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法は、前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備えることができる。
ドッケリン−コヘシンタンパク質をコードするDNAを備えて当該タンパク質を発現可能であって、上記特定の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている真核微生物を培養することで、ドッケリン−コヘシン結合能力が向上したタンパク質を得ることができる。真核微生物の培養条件は、微生物の種類に応じて当業者であれば適宜設定することができる。また、液体培地を用いる液体培養が好ましいが、特に培養方法は限定されない。ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質が細胞外分泌性を有している場合には、培養工程で得られる培養上清に、当該タンパク質を取得できる。
【0061】
(タンパク質複合体の生産方法)
本明細書に開示されるタンパク質複合体の生産方法は、ドッケリン−コヘシンを利用する第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有するドッケリン−コヘシン結合を利用する第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備えることができる。ここで、第1のタンパク質及び第2のタンパク質は、両者がドッケリン−コヘシン結合による結合可能に、それぞれドッケリン及び/又はコヘシンを有していればよい。
【0062】
第1のタンパク質も、前記特定遺伝子が1又は2以上が不活性化され、第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産されるものであってもよい。こうすることで、第1のタンパク質も、ドッケリン−コヘシン結合能力が向上し、タンパク質複合体を形成しやすくなる。
【0063】
第1のタンパク質及び第2のタンパク質のいずれか一方を当該タンパク質を発現する真核微生物の細胞表層に提示させるようにしてもよい。この場合、他方のタンパク質を細胞外に分泌発現させることにより、前記一方のタンパク質を提示する真核微生物の表層にタンパク質複合体を提示できる。この場合、本方法は、細胞表層にタンパク質複合体を備える真核微生物の生産方法という形態を採ることとなる。
【0064】
第1のタンパク質と第2のタンパク質とを、本真核微生物で発現させる場合、別個の真核微生物において発現させてもよい。この場合、両タンパク質を細胞外に分泌発現させるようにすると、これらの微生物の同時培養により、細胞外でタンパク質複合体を構築できる。一方のタンパク質を細胞表層提示させ、他方を細胞外分泌させることで、これらの微生物の培養によって、真核微生物の細胞表層にタンパク質複合体を構築できる。なお、これらの微生物は、同時培養に適したものであることが好ましい。すなわち、近縁種あるいは同一種の真核微生物であることが好ましい。また、これらのタンパク質を1個の真核微生物において同時発現させてもよい。この場合、上記のようにそれぞれのタンパク質の細胞外への発現形態を選択することで、細胞外又は細胞表層にタンパク質複合体を構築できる。
【0065】
また、第1のタンパク質及び第2のタンパク質のいずれか一方を、複数のコヘシンを有するコヘシンタンパク質とし、他方を、第1のタンパク質の有するコヘシンの数よりも少ないドッケリン、好ましくは、1つのドッケリンを有するドッケリンタンパク質とすることで、コヘシンタンパク質上に複数個のドッケリンタンパク質を複合化したタンパク質複合体を得ることができる。さらに、この態様において、コヘシンタンパク質を真核微生物の細胞表層に提示発現させるように、ドッケリンタンパク質を真核微生物の細胞外分泌発現させることで、こうした複合体を真核微生物の表層に容易に提示できる。
【0066】
第1のタンパク質と第2のタンパク質とを接触させる方法は特に限定しない。タンパク質が変成しないpH、塩濃度、温度の液体中において、両者を混合等させればよい。両タンパク質がフリーなタンパク質として液体中に存在していてもよい。他方が細胞表層に提示された状態であってもよい。第1のタンパク質及び/又は第2のタンパク質を発現する真核微生物の培養液中であってもよい。
【0067】
ドッケリンタンパク質がセルラーゼ活性を有するとき、真核微生物の細胞表層にセルラーゼを集積させたタンパク質複合体を構築することができる。こうした真核微生物は、細胞表層でセルロース含有材料を分解糖化して得られるグルコースを炭素源として利用できる。
【0068】
(有用物質の生産方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有するドッケリンタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し発酵する工程、を備えることができる。この方法によれば、この真核微生物を用いてセルロース含有材料を直接分解糖化し、グルコース等として利用できることになる。前記発酵工程の実施により、用いた真核微生物が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。
【0069】
有用物質は、真核微生物がグルコースなどを発酵することにより得る生産物であり、真核微生物の種類によっても異なるし、発酵条件によっても異なる。有用物質としては特に限定しないが、酵母やその他の真核微生物がグルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母などの真核微生物におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して合成できるようになった本来の代謝物でない化合物であってもよい。有用物質としては、例えば、エタノールなどのほか、C3〜C5の低級アルコール、乳酸などの有機酸の他、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。有用物質の生産工程終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0070】
本方法に用いるセルラーゼ活性を有するドッケリンタンパク質は、2種類以上のセルラーゼ(例えば、エンドグルカナーゼとセロビオヒドロラーゼ等)活性をそれぞれ有する2種類以上を用いることが好ましい。ドッケリンタンパク質は、単一の真核微生物において同時発現させてもよいし、それぞれ独立して2以上の真核微生物において発現させてもよい。
【0071】
なお、セルロース含有材料は、D−グルコースがβ−1,4結合でグリコシド結合したβ−グルカンであるセルロースを含有する材料である。セルロース含有材料としては、セルロースを含有していればよく、どのような由来や形態であってもよい。したがって、セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、可溶性セルロース材料(非晶性セルロース材料)、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料が挙げられる。こうしたリグノセルロース系材料としては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。
【0072】
セルロース含有材料は、セルラーゼと接触させるのに先立ってセルラーゼによる分解を容易化するために適当な前処理等がなされていてもよい。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースを非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0073】
セルロース含有材料は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合により重合した重合体及びその誘導体を含んでいる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。
【0074】
なお、以上の各種の実施形態を通じて、真核微生物、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質、ドッケリンタンパク質、コヘシンタンパク質、糖鎖修飾関連遺伝子、セルラーゼ、セルロース含有材料等の用語が用いられる場合には、これらは本明細書中で定義された内容で共有して用いられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0076】
(細胞表層提示用宿主酵母の作製)
PCR法により常法に従い増幅後クローニングしたaga1遺伝子の上流にAAP1相同領域とHOR7プロモーター、下流にTdh3ターミネーターとHis3マーカーおよびAAP1相同領域を持つ、pAI-HOR7p-AGA1ベクター(図1)を作製した。このベクターを用いて酵母S.cerevisiae BY4741に形質転換を行い、aga1を細胞表層に大量提示する酵母BY-AGA1を取得した。
【実施例2】
【0077】
(コヘシンタンパク質を細胞表層提示する酵母の作製)
3種類のセルロソーム生産微生物からコヘシンタンパク質の要素であるコヘシンとCBD-コヘシン等をクローニングした(図2参照)。C.thermocellum由来の骨格タンパク質cipAの配列からコヘシン(Ctcoh)(配列番号1)とCBD-4コヘシン(CtCBD4coh)(配列番号2)をそれぞれPCR法により常法に従い増幅後クローニングした(図2(a))。同様に、C.cellulolyticum由来の骨格タンパク質cipCの配列からコヘシン(Cccoh)(配列番号3)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした(図2(b))。またR. flavefaciens由来骨格蛋白質ScaBの配列から、コヘシン(Rfcoh)(配列番号4)を遺伝子合成により取得した(図2(c))。
【0078】
取得したそれぞれの遺伝子の上流にADH3相同領域とHOR7プロモーター、下流にV5-tag、aga2、Tdh3ターミネーター、Leu2マーカーおよびADH3相同領域を持つ、pDL-HOR7p-CtCohAGA2ベクター、pDL-HOR7p-CtCBD4CohAGA2ベクター、pDL-HOR7p-CcCohAGA2ベクター、およびpDL-HOR7p-RfCohAGA2ベクターをそれぞれ作製した(図3)。これら各ベクターを実施例1で取得したBY-AGA1に導入して、C.thermocellum 由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母CtcohとCtCBD4coh、C.cellulolyticum由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母Cccoh、およびR. flavefaciens由来コヘシンを細胞表層に提示する酵母Rfcohをそれぞれ取得した。
【実施例3】
【0079】
(ドッケリン−セルラーゼタンパク質の分泌生産する酵母の作製)
C.thermocellum のゲノムからCel8Aセルラーゼ遺伝子(配列番号5)とCel48Sドッケリン遺伝子(配列番号6)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。取得した遺伝子を接合し、上流にHis-tagが付加する形で2mmベクター(図4)に挿入し、2mm-Cel8A-Ctdocベクターを作製した。取得したベクターを酵母S.cerevisiae BY4741の表2に示す各糖鎖修飾酵素の破壊株(Open Biosystems社(米国))に導入して、各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母を取得した。
【0080】
【表2】
【実施例4】
【0081】
(コヘシンタンパク質細胞表層提示酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例2で取得した酵母CtcohをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=10の菌体を200ml集菌した。実施例3で取得した各株をYNB+2%カザミノ酸+2%グルコース培地で30℃、24時間培養しOD600=8の菌体を1.5ml集菌して培養上清を回収し、各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌液を取得した。集菌したCtcohを大過剰量の各糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌液1mlで懸濁し、4℃、12時間静置することで細胞表層上でCel8A-CtdocとCtcohが再構成した酵母を取得した。この酵母をOD600=1、1ml相当量集菌し、50mM 酢酸緩衝液 pH6.0で洗浄後、1% CMC, 50mM 酢酸緩衝液pH6.0溶液に混合し、60℃でCMC分解反応を行った。反応後、TZアッセイにより、遊離還元糖を測定した。結果を図5に示す。
【0082】
図5に示すように、糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdocが結合した酵母の中にCMC分解活性の向上が認められるものを40種類中15種類見出した。すなわち、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, LG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2及びMNN11を見出した。
【実施例5】
【0083】
(コヘシンタンパク質細胞表層提示酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質の細胞表層提示量の評価)
実施例4で取得したCMC分解活性の向上が認められる糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdocが結合した酵母Ctcohを、OD600=0.5、62.5ml相当量集菌し、PBS溶液で洗浄を行い、PBS + 1mg/ml BSA + anti-His-FITC溶液と混合して4℃、30分間反応し、PBS溶液で2回洗浄後、Flow Cytometryで酵母細胞表層上のCelA提示量を評価した。結果を図6に示す。
【0084】
図6に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊することでCel8A提示量が向上している酵母を15種類中12種類見出した。すなわち、ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11を見出した。ドッケリンの骨格蛋白質への結合量の向上は、ドッケリンの対コヘシン結合性の向上及びドッケリンに存在する糖鎖修飾部位への巨大糖鎖の結合が解除されたことが示唆された。
【実施例6】
【0085】
(複数個のコヘシンを有するコヘシンタンパク質を細胞表層提示した酵母に結合させたドッケリン−セルラーゼタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例2で取得した酵母CtCBD4cohをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=10の菌体を200ml集菌した。実施例5で取得した12種類の糖鎖修飾酵素破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母のうち10種類に対して、実施例4と同様の手順にて細胞表層上でCel8A-CtdocとCtCBD4cohを再構成し、CMC分解活性を評価した。結果を図7に示す。
【0086】
図7に示すように、4つのコヘシンとCBDを含む巨大な足場タンパク(スキャホールディン質)を持つ酵母に対してもドッケリンの糖鎖修飾解除が有効であることを証明できた。
【実施例7】
【0087】
(ALG6破壊酵母が分泌生産するドッケリン−セルラーゼタンパク質における糖鎖修飾状態の確認)
実施例3で取得した酵母のうちALG6破壊Cel8A-Ctdoc分泌生産酵母を、ジャーファーメンターを用い、YNB+2%カザミノ酸+2%グルコース培地で、通気0.5vvm、撹拌速度400rpm、pH5.0、30℃の条件で24時間培養した。遠心分離により培養上清を回収し、His-アフィニティーカラムでCel8A-Ctdocを精製し、SDS-PAGEにより分子量を評価した。結果を図8に示す。
【0088】
図8に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊していない酵母で生産したCel8A-Ctdoc(W:野生型)で見られる高分子領域のスメアなバンドと比較して、糖鎖修飾酵素のひとつであるALG6を破壊した酵母で生産したCel8A-Ctdocは分子量が大幅に減少しており、ALG6破壊によりCel8A-Ctdocに付加した巨大糖鎖修飾を解除できた事が示唆された。
【実施例8】
【0089】
(コヘシン−ドッケリン同時発現酵母の作製)
C.cellulolyticumのゲノムからCel5Aドッケリン遺伝子(配列番号7)をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。また、R. flavefaciens由来ScaAの配列から、ScaAドッケリン遺伝子(配列番号8)を遺伝子合成により取得した。取得したそれぞれの遺伝子を実施例3で取得したC.thermocellum 由来Cel8Aセルラーゼ遺伝子と接合し、それぞれの上流にHXT3相同領域、HOR7プロモーターおよびHis-tag、下流にTdh3ターミネーター、URA3マーカーおよびHXT3相同領域を持つ、pXU-HOR7p-Cel8A-CcdocベクターとpXU-HOR7p-Cel8A-Rfdocベクター(図9)を作製した。これら各ベクターを実施例2で取得した2種類の酵母CccohとRfcohにそれぞれ導入して、C.cellulolyticum由来コヘシンとCel8Aを同時生産し細胞表層に提示する酵母Cccoh-Cel8A、およびR. flavefaciens由来コヘシンとCel8Aを同時生産し細胞表層に提示する酵母Rfcoh-Cel8Aを取得した。
【実施例9】
【0090】
(コヘシン−ドッケリン同時発現ALG6破壊酵母の作製)
酵母S.cerevisiae BY4741のALG6破壊株のゲノムから破壊領域遺伝子をPCR法により常法に従い増幅後クローニングした。取得した遺伝子を実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8AおよびRfcoh-Cel8Aに導入し、ALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8Aを取得した。
【実施例10】
【0091】
(コヘシン−ドッケリン同時発現酵母におけるドッケリンタンパク質の細胞表層提示量の評価)
実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8Aと酵母Rfcoh-Cel8A、および実施例9で取得したALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8Aを、それぞれ、YP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=0.5、62.5ml相当量集菌し、PBS溶液で1回洗浄を行い、PBS + 1mg/ml BSA + anti-His-FITC溶液と混合して4℃、30分間反応し、PBS溶液で2回洗浄後、Flow Cytometryで酵母細胞表層上のCelA提示量を評価した。結果を図10に示す。
【0092】
図10に示すように、C.cellulolyticum由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせ、R. flavefaciens由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせにおいて、いずれも、ALG6遺伝子を破壊することでCelA提示量の向上が認められた。C.cellulolyticum由来コヘシンと同由来のドッケリンとの組み合わせは、コヘシン側においてのみN型糖修飾部位とO型糖鎖修飾部位が存在しており、ドッケリン側には修飾部位が存在していない。したがって、この組み合わせによる酵母においてCelA提示量が向上したということは、こうした遺伝子の破壊によってコヘシンへの糖鎖修飾を抑制又は回避させて、対ドッケリン結合能力が向上したことを支持している。
【実施例11】
【0093】
(コヘシン−ドッケリン同時発現ALG6破壊酵母におけるドッケリンタンパク質のセルラーゼ活性の評価)
実施例8で取得した酵母Cccoh-Cel8Aと酵母Rfcoh-Cel8A、および実施例9で取得したALG6破壊酵母Cccoh-Cel8AとALG6破壊酵母Rfcoh-Cel8AをYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、OD600=1、1ml相当量集菌し、50mM 酢酸緩衝液 pH6.0溶液で洗浄後、1% CMC, 20mM 酢酸緩衝液pH6.0溶液に混合し、60℃でCMC分解反応を行った。結果を図11に示す。
【0094】
図11に示すように、糖鎖修飾酵素を破壊することで、CMC分解活性の向上が認められ、酵母の糖化能力を向上させることが示された。CMC分解活性の向上の程度を考慮すると、糖鎖修飾関連遺伝子の破壊によって、ドッケリンタンパク質のセルラーゼ活性が向上していることがわかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物であって、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備える、真核微生物。
【請求項2】
糖鎖関連修飾遺伝子ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11からなる群から選択される、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
さらに、以下の特徴;
(b)1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する、
を備える、請求項1又は2に記載の真核微生物。
【請求項4】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、ドッケリンを有するタンパク質であって、前記ドッケリンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びリゾプス・フラヴファシエンス(Rhizopus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、請求項1〜3のいずれかに記載の微生物。
【請求項5】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であって、前記コヘシンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びリゾプス・フラヴファシエンス(Rhizopus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、請求項1〜4のいずれかに記載の微生物。
【請求項6】
前記ドッケリンを含むタンパク質はセルラーゼである、請求項1〜5のいずれかに記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物は酵母である、請求項1〜6のいずれかに記載の微生物。
【請求項8】
ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法であって、
1又は2以上の前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備える、方法。
【請求項9】
タンパク質複合体の生産方法であって、
ドッケリン−コヘシンを利用する1又は2以上の第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有しドッケリン−コヘシン結合を利用する1又は2以上の第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した前記第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備える、方法。
【請求項10】
前記第1のタンパク質は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質のいずれか一方を、これらのタンパク質を生産する前記真核微生物に表層提示させる、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質の他方を、当該他方のタンパク質を生産する前記真核微生物の細胞外に分泌発現させる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記一方のタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であり、前記他方のタンパク質は、記ドッケリンを有するタンパク質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のタンパク質は、前記第2のタンパク質を生産する真核微生物において前記第2のタンパク質と同時発現される、請求項9〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有しドッケリンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し、発酵する工程、
を備える、有用物質の生産方法。
【請求項1】
ドッケリン−コヘシンの結合を利用するタンパク質を生産するための真核微生物であって、以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が破壊されている、を備える、真核微生物。
【請求項2】
糖鎖関連修飾遺伝子ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2,及びMNN11からなる群から選択される、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
さらに、以下の特徴;
(b)1又は2以上のドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質を生産する、
を備える、請求項1又は2に記載の真核微生物。
【請求項4】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、ドッケリンを有するタンパク質であって、前記ドッケリンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びリゾプス・フラヴファシエンス(Rhizopus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、請求項1〜3のいずれかに記載の微生物。
【請求項5】
前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であって、前記コヘシンは、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyicum)及びリゾプス・フラヴファシエンス(Rhizopus flavefacience)からなる群から選択される1又は2以上の微生物に由来する、請求項1〜4のいずれかに記載の微生物。
【請求項6】
前記ドッケリンを含むタンパク質はセルラーゼである、請求項1〜5のいずれかに記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物は酵母である、請求項1〜6のいずれかに記載の微生物。
【請求項8】
ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質の生産方法であって、
1又は2以上の前記ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質をコードするDNAを備え、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、真核微生物を培養して前記タンパク質を生産する工程、を備える、方法。
【請求項9】
タンパク質複合体の生産方法であって、
ドッケリン−コヘシンを利用する1又は2以上の第1のタンパク質と、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質とドッケリン−コヘシン結合で結合するドメインを有しドッケリン−コヘシン結合を利用する1又は2以上の第2のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産した前記第2のタンパク質と、を接触させることにより、前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質との複合体を取得する工程、を備える、方法。
【請求項10】
前記第1のタンパク質は、CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化され、前記第1のタンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物を用いて生産される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質のいずれか一方を、これらのタンパク質を生産する前記真核微生物に表層提示させる、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のタンパク質及び前記第2のタンパク質の他方を、当該他方のタンパク質を生産する前記真核微生物の細胞外に分泌発現させる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記一方のタンパク質は、コヘシンを有するタンパク質であり、前記他方のタンパク質は、記ドッケリンを有するタンパク質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のタンパク質は、前記第2のタンパク質を生産する真核微生物において前記第2のタンパク質と同時発現される、請求項9〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
以下の特徴;
(a)CAX4, ALG5, ALG3, ALG9, ALG12, ALG6, ALG8, DIE2, OST3, OST5, PMT1, PMT2, ANP1, MNN2,及びMNN11からなる群から選択される1又は2以上の糖鎖修飾関連遺伝子が不活性化されている、
(b)セルラーゼ活性を有しドッケリンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、及び
(c)コヘシンを有する1又は2以上のタンパク質を生産する、
を有する、真核微生物を用いてセルロース含有材料を糖化し、発酵する工程、
を備える、有用物質の生産方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−147360(P2011−147360A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9410(P2010−9410)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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