ドップラーシフト生成装置
【課題】高周波信号に、電波状態のままで時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加すること。
【解決手段】指向性アンテナ6は、無線伝搬路8を経由して回転反射体1に向けて電波を送信する。回転反射体1および回転軸体2は、駆動手段により、回転軸3の回りを回転方向4の方向に回転する。このとき、回転反射体1は、螺旋形を成すために反射面は5に示す方向に移動する。回転反射体1に反射された電波は反射伝搬路9を経由して供試無線機10に受信される。
【解決手段】指向性アンテナ6は、無線伝搬路8を経由して回転反射体1に向けて電波を送信する。回転反射体1および回転軸体2は、駆動手段により、回転軸3の回りを回転方向4の方向に回転する。このとき、回転反射体1は、螺旋形を成すために反射面は5に示す方向に移動する。回転反射体1に反射された電波は反射伝搬路9を経由して供試無線機10に受信される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信および電波伝搬の試験に用いられるドップラーシフト生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数資源は自然界に存在する有用な通信手段の必須要素である。このため、ほぼ全ての周波数は利用が公的に制限されている。したがって、無線通信機器の研究・開発・製造においても電波暗室や電波遮蔽室などを用いて行うことが前提である。しかし、実際の無線機器が利用する電波伝搬環境は、フェージング効果やドップラー効果などの影響により、複雑で時々刻々変化する。
【0003】
このため、従来は、屋外環境を模すために、フェージングシミュレータなどを用いて試験を行ってきた(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
フェージングシミュレータは、送信出力を一旦サンプリング手段でデジタル化した後、ベースバンド信号を取り出してフェージング効果に相当する遅延波合成を施し、変調ならびに周波数変換を行い、原信号の搬送波周波数に戻すものである。
【0005】
特許文献2は、アレーアンテナ用フェージングシミュレータであり、アレーアンテナの各素子から出力される複数の到来波によるフェージング信号を模擬する模擬フェージング信号を発生するものである。
【0006】
このフェージングシミュレータでは、送り出すべき情報を送信信号発生器により生成し、アレーアンテナの素子数に等しい電波伝搬路を回路上に構成し、送出するものである。模擬フェージング信号として、到来波の入射方向の角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生させることにより、より実際に近い条件のもとで受信系と信号処理系とを含む受信装置の特性や機能の評価を実現可能とするように構成されている。
【0007】
角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生する手段は、アレーアンテナの素子と同数のDDS(ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ)、および、これらDDSのそれぞれに設定する位相と振幅とを更新する手段から構成され、実際に近い模擬フェージング信号を発生させることができる。
【0008】
この方法では、各DDSに設定する位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新することにより、現実的な模擬フェージング信号を発生することができる。さらに各DDSの出力と変調信号とをアナログ乗算することにより、より広ダイナミックレンジの模擬フェージング信号を発生させることができる。さらに、複数の到来波の入射方向の角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生する手段を複数備え、かつそれぞれから出力されるアレーアンテナの素子数と同数の出力信号を合成して対応の素子ごとに出力する信号合成手段を備えることにより、より実際的な模擬フェージング信号を発生させることができる。
【0009】
また、従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、DDS(ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ)等を用いて位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−298536号公報
【特許文献2】特開2002−325011号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】大國英徳,工藤栄亮, 安達文幸, "任意の多重波到来角分布のフェージング波を発生する周波数選択性フェージングシミュレータ," 第5回DSP教育者会議, pp.55-60, 2002年9月. 公開URL: http://www.mobile.ecei.tohoku.ac.jp/paper/pdf/rcs_2002/09_rcs_2002_sao.pdf(図2)
【非特許文献2】Agilent社Multipath Fading Simulator/Signature Test Set製品品番11757BのProduct Overview 掲載URL:[http://cp.literature.agilent.com/litweb/pdf/5091-1052EN.pdf]“Agilent 11757B Multipath Fading Simulator/Signature Test Set Product Overview”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、本来の搬送波周波数という高い周波数の上ではなく、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を施すため、本来の高周波信号が有する変調精度や周波数特性が、ドップラーシフト生成装置に内在する誤差や雑音で劣化する。さらに、従来のドップラーシフト生成装置は、周波数帯の異なる複数の高周波信号が存在する場合に対処できない。また、電波伝搬路は、無線通信システムにとって、ダウンリンクとアップリンクすなわち、無線基地局に代表されるネットワーク系から無線端末への伝搬と、無線端末から基地局への伝搬の双方に対してドップラー効果を必要とするが、従来のドップラーシフト生成装置は、前述のとおり、一旦通信を受信し、その成分を抽出した後にドップラーシフト効果なりフェージング効果を付加する、一方向の通信となるため、実態に即した試験環境を構築することが難しい。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高周波信号に、電波状態のままで時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができるドップラーシフト生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のドップラーシフト生成装置は、指向性アンテナから送信された指向性を有する電波に対してドップラーシフトを付加する生成装置であって、一つの回転軸周りに回転可能な回転軸体と、前記回転軸体に取り付けられ、前記電波を反射させる反射面が螺旋形を為し、前記反射面の半径方向が前記回転軸に対して約90度の角度を有する回転反射体と、前記回転軸体を所定の速度で回転させる駆動手段と、を具備する構成を採る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射面が螺旋形を為す高速回転体を備えることにより、高周波信号を高速回転体に反射させれば、電波状態の高周波信号に時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係るシステムの構造を示す図
【図2】本発明の実施の形態1のドップラーシフト生成装置の構造を示す図
【図3】本発明の実施の形態2のドップラーシフト生成装置の構造を示す図
【図4】本発明の実施の形態3に係るシステムの構造を示す図
【図5】本発明の実施の形態4に係るシステムの構造を示す図
【図6】本発明の実施の形態5に係るシステムの構造を示す図
【図7】図6に概念を示したマルチパスフェージング生成用のアンテナ群を含むマルチパスフェージング生成装置の構成を示した図
【図8】移動体と伝搬路との間の位置関係によるドップラーシフト周波数の関係を示す図
【図9】本発明の実施の形態6に係るシステムの構成を示す図
【図10】アンテナに生じるドップラーシフト周波数について説明する図
【図11】レイリーフェージングあるいはライスフェージングを生成する場合のシステム全体を示す図
【図12】都市環境本来の状況を考慮した場合のマルチパスフェージング生成システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るシステムの構成を示す図である。1は回転反射体、2は回転軸体、3は回転反射体1および回転軸体2の回転軸、4は回転反射体1および回転軸体2の回転方向、5は回転反射体1の反射面の移動方向を示す。6は回転反射体1に向けて指向性を有する電波(高周波信号)を送信する指向性アンテナ、7は指向性アンテナ6に接続する無線システムとの接続線、8は指向性アンテナ6から送信された電波が通過する無線伝搬路、9は無線伝搬路8を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、10は反射伝搬路を通過した電波を受信する供試無線機、11は電波暗室、12は指向性アンテナ6と供試無線機10との直接の無線結合を防ぐ手段を示す。
【0019】
図1を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。任意の無線システムからの接続線7と接続された指向性アンテナ6は、無線伝搬路8を経由して回転反射体1に向けて電波を送信する。回転反射体1および回転軸体2は、図示しない駆動手段により、回転軸3の回りを回転方向4の方向に回転する。このとき、回転反射体1は、らせん形(螺旋形)を成すために反射面は5に示す方向に移動する。回転反射体1に反射された電波は反射伝搬路9を経由して供試無線機11に受信される。これらの構成は電波暗室11内に置かれる。電波暗室11と無線結合の防止手段12とにより、所望の無線伝搬路以外の無線伝搬路の発生を防止する。
【0020】
図2は、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の構造を示す図である。なお、図2において、図1と共通する部分には図1と同一符号を付して説明を省略する。13は回転反射体1の回転半径、14は回転反射体1の反射面部分の径、15は回転反射体1の回転軸部分の径、16は回転反射体1のらせん形状が有するピッチ、17は回転反射体1の反射面の半径との法線方向、18は回転反射体1の回転軸と反射面法線方向との成す角度を示す。
【0021】
図2を用いて、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の作用を説明する。回転反射体1は、ピッチ16を有する螺旋形を有する。螺旋の効果により、反射面は回転反射体1が1回転するとピッチ16に相当する移動距離が与えられる。他方、回転反射体1の反射面は、反射面と回転軸3との成す角度18を直角にしている。このため反射体が供する移動距離は、そのまま無線伝搬路に対して伝搬路長変化として扱える。すなわち、反射面と回転軸3の成す角度18をθとし、ピッチ16をp(mm)とし、回転速度をr(回転/分)とすると、1時間当たりの反射面が示す移動距離l(mm)は、以下の式(1)で与えられる。ここで、式(1)の初項の数値「2」は、後述の図10に示すように電波の波源の反射面内の虚像が反射体の移動速度の2倍の速度で移動しているように作用することを意味する。
【数1】
【0022】
θ=90°であるので、移動距離l(mm)は、以下の式(2)となる。
【数2】
【0023】
今、ピッチpを50mm、回転速度rを15,000回/分とすると、反射面の移動距離lは、90,000,000mm、すなわち90kmとなる。これは回転反射体1により、電波伝搬路上で時速90kmの移動効果を生成することとなる。
【0024】
例えば、周波数1,000MHzの無変調波で考えると、ドップラーシフト周波数fdは以下の式(3)で与えられる。
【数3】
【0025】
また周波数を2,000MHとすれば、容易に166.6Hzのドップラーシフト周波数が得られるだけでなく、1,000MHzと2,000MHzの2種類の電波に対して同時に機能する。さらに、本方式は電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図1の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものである。
【0026】
このように、本実施の形態によれば、反射面が螺旋形を為す高速回転体を備えることにより、高周波信号を高速回転体に反射させれば、電波状態の高周波信号に時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができ、従来のドップラーシフト生成装置の前述の課題をすべて解決することができる。
【0027】
(実施の形態2)
上記本実施の形態1に示したドップラーシフト生成装置は、螺旋形の反射体を高速に回転することが必要である。この装置によれば、円盤の空気抵抗による発熱が、円盤を破壊する可能性がある。実施の形態2は、この課題を解決するものである。
【0028】
図3は、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の構造を示す図である。なお、図3において、図1あるいは図2と共通する部分には図1あるいは図2と同一符号を付して説明を省略する。21は第1の羽根、22は第2の羽根、23は第1の羽根21の第1の先端部と切り替わる第2の羽根22の先端部の間に存するピッチ、24は第1の羽根21の第2の先端部と切り替わる第2の羽根22の先端部の間に存するピッチを示す。
【0029】
図3を用いて本実施の形態のドップラーシフト生成装置の作用を説明する。図2に示したドップラーシフト生成装置は、ピッチ部すなわち円盤不連続部での段差が大きい。図3に示すドップラーシフト生成装置は、円盤を2枚の羽根に分割しており、ピッチ部での段差を図2に対して2分の1にすることができる。これにより、不連続部の断面に生成する空気流体抵抗を半減させることができる。さらに、本実施の形態では、分割数を増やすこともできる。分割数をn、ピッチ16をp(mm)とし、回転速度をr(回転/分)とすると、上記式(2)を次の式(4)に変形することができる。
【数4】
【0030】
この方法によれば、上記実施の形態1で必要な回転速度とピッチの積を同一にした上で、分割数により回転速度を低下させたり、ピッチ幅を少なくさせたりすることが自由にできるようになる。
【0031】
このように、本実施の形態によれば、反射回転体の生成する発熱を軽減することができる。
【0032】
(実施の形態3)
都市部における移動体でのドップラーシフト作用は、建造物等からの反射が移動体の前方だけでなく、後方からも到来することを考慮すべきである。実施の形態3は、この課題を解決する方法を提供する。図4は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図4において、図1と共通する部分には図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図4において、31は回転反射体、32は回転軸体、33は回転反射体31および回転軸体32の回転軸、34は回転反射体31および回転軸体32の回転方向、35は回転反射体31の反射面の移動方向を示す。36は回転反射体31に向けて指向性を有する電波(高周波信号)を送信する指向性アンテナ、37は指向性アンテナ6と指向性アンテナ36に接続する無線システムとの接続線7を接続するための分配器、38は指向性アンテナ36から送信された電波が通過する無線伝搬路、39は無線伝搬路38を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0034】
図4を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。任意の無線システムからの接続線7と接続された指向性アンテナ6と指向性アンテナ36は、それぞれの無線伝搬路8と無線伝搬路38により回転反射体1および回転反射体31に向けている。回転反射体31は、回転反射体1が有する反射面の移動方向5とは異なる移動方向35を有しており、回転反射体31により反射伝搬路39に生成されるドップラーシフト周波数は、回転反射体1により反射伝搬路9に生成されるドップラーシフト周波数に対して、相反した極性を有する。図4において、回転反射体1と回転反射体31は、同一形状をしており、それぞれの回転方向4と回転方向34を相反する方向にしてこれを実現している。これにより供試無線機10に到達する電波は、正負のドップラーシフト周波数を得る。
【0035】
なお、回転反射体1および回転反射体31の反射面のピッチ方向を相反するものとして、回転方向4および回転方向34を同一にすることによっても、供試無線機10に到達する電波は、正負のドップラーシフト周波数を得る。
【0036】
このように、本実施の形態によれば、都市部に発生することが多い正負のドップラーシフト作用を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図4の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1と同様である。
【0037】
(実施の形態4)
従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を施すものである。この方法では、周波数帯の異なる複数の高周波信号が存在する場合に対処できない。実施の形態4では、この従来の課題を解決する方法を提供する。図5は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図5において、図4と共通する部分には図4と同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
図5において、40は回転反射体1および回転反射体31に向けて指向性を有する電波を送信する指向性アンテナ、41は指向性アンテナ40に接続する第2の無線システムとの接続線、42は指向性アンテナ6から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、43は無線伝搬路42を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、44は指向性アンテナ6から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、45は無線伝搬路44を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路、46は指向性アンテナ40から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、47は無線伝搬路46を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、48は指向性アンテナ40から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、49は無線伝搬路48を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0039】
図5を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。一般にアンテナは周波数特性を有する。このため、複数種の周波数帯に対応した無線システムを構築するためには、周波数帯に対応したそれぞれのアンテナを用いることが自然である。いま、第1の周波数に指向性アンテナ6を、第2の周波数に指向性アンテナ40を対応させるとする。図5に示す本実施の形態のシステムでは、この2基の指向性アンテナのそれぞれが、無線伝搬路42、44、46および48を介して回転反射体1と回転反射体31に電波を送信する。回転反射体1と回転反射体31にて反射された電波は、それぞれ反射伝搬路43、45、47および49を介して、供試無線機10に受信される。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、異なる周波数帯の無線システムの電波に対して、同時に正負のドップラーシフト周波数を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図5の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1および実施の形態3と同様である。
【0041】
なお、図5のシステムにおいて、正負のドップラーシフト周波数の一方が不要の場合に、回転反射体を単一にすることも可能である。
【0042】
(実施の形態5)
都市部においては、建物反射が単純ではなく、複数の建物からの反射を考慮する必要がある。従来、複数の周波数帯の無線システムに対するマルチパスフェージング環境を擬似する手段の実現が困難であるという課題がある。本実施の形態は、この従来の課題に対して解決の方法を提供するものである。図6は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図6において、図5と共通する部分には図5と同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図6において、50は無線システムとの接続線7に接続された第1のマルチパスフェージング生成用のアンテナ群、51は第2の無線システムとの接続線41に接続された第2のマルチパスフェージング生成用のアンテナ群、52はアンテナ群50から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、53は無線伝搬路52を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、54はアンテナ群50から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、55は無線伝搬路54を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路、56はアンテナ群51から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、57は無線伝搬路56を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、58はアンテナ群51から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、59は無線伝搬路58を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0044】
図6を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。いま、第1の周波数にマルチパスフェージング生成用のアンテナ群50を、第2の周波数にアンテナ群51を対応させるとする。図6に示すシステムでは、この2群のアンテナ群のそれぞれが、無線伝搬路52、54、56および58を介して回転反射体1と回転反射体31に電波を送信する。回転反射体1と回転反射体31にて反射された電波は、それぞれ反射伝搬路53、55、57および59を介して、供試無線機10に受信される。
【0045】
図7は、図6に概念を示したマルチパスフェージング生成用のアンテナ群を含むマルチパスフェージング生成装置の構成を示した図である。図7において、61は図6における無線システムとの接続線7に相当する。62は分配器、63は電子制御可能な伝送量調整部、64は伝送量調整部63の伝送量調整素子、65はパスである伝搬路のそれぞれの遅延量調整部、66は遅延量調整部65の遅延量調整素子、67は伝搬路のアンテナ群、68はアンテナにより生成される電波伝搬路を示す。69は電子制御部、70は制御信号線である。
【0046】
図7を用いて、マルチパスフェージング生成方法を説明する。無線システムとの接続線61は、複数の伝搬路を模擬するために分配器62により複数の線路に分割される。この線路は伝送量調整部63接続され、伝送量調整部63を構成する伝送量調整素子64を通る、その各出力線路は遅延量調整部65に接続し、遅延量調整部65を構成する伝送量調整素子66によりそれぞれの遅延量が与えられる。図7においては、所望の遅延量に相当する線路長を有するケーブルで構成している。それぞれ遅延時間td1、td2、td3、td4、td5、td6、td7、td8を与える。遅延量調整部65の各出力線路は、線路数のアンテナを備えたアンテナ群67に接続されて、電波となり電波伝搬路68を形成する。以上により、電波伝搬路68においてマルチパスフェージング環境が構築される。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、異なる周波数帯の無線システムの電波に対して、同時に正負のドップラーシフト周波数を有するマルチパスフェージング環境を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図6の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1、実施の形態3および実施の形態4と同様である。
【0048】
なお、図6のシステムにおいて、正負のドップラーシフト周波数の一方が不要の場合に、回転反射体を単一にすることも可能である。
【0049】
(実施の形態6)
ここで、実際の屋外環境においては、図8に示すように、多重伝搬路すなわちマルチパスによる様々なドップラーシフト周波数が生成される。図8は、移動体と伝搬路との間の位置関係によるドップラーシフト周波数の関係を示す図である。
【0050】
図8において、移動体81が速度v(t)で進行し、電波伝搬路82が角度θにて到来したとすると、到来波の相対速度はv(t)cosθで与えられる。一般には異なる角度からの到来波が複数存在する。都市部では基地局から送信された電波が、建物などで反射、回折または散乱を受けて受信点に到達する場合が多い。この場合に、基地局からの直接波が見えない環境で移動しながら受信する場合に、到来波の合成波の振幅は、時間の関数において平均値が「0」で、等しい分散を持つ。これをレイリーフェージングと呼ぶ。レイリーフェージングは、受信波の振幅強度の確立分布がレイリー分布するために命名されたものである。理論的には、到来する受信波の数がNで、それぞれの振幅をai、位相をφiとすると、受信点での合成波の時間tに対する変動は、搬送波の角周波数をωcとして次の式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0051】
ここで、Nが十分に大きく、各到来波の振幅aiがほぼ等しく、位相φiがランダムであるとする。受信点を移動させてaiを観測すると、上記式(5)の振幅の正弦の合成値と振幅の余弦の合成値とは、平均値が「0」、等しい分散値の、互いに独立な正規分布を持つものとなる。このとき、受信振幅がRになる確率p(R)は次の式(6)で与えられる。
【数6】
【0052】
これは、受信点を移動して観測される、受信波の振幅レベルRの出現確率を表している。これがレイリー分布であり、受信波に対して或る振幅レベルRdを設定したとき、Rd以下となる累積確率分布はP(Rd)である(式(7)参照)。
【数7】
【0053】
これに対して、基地局が見える環境での多重伝搬路においては、ライスフェージングが生成される。基地局アンテナが見える、見通し内伝搬や、到来波の一つEoが他の波より非常に強いとき、受信振幅がRになる確率p(R)は次の式(8)で与えられる。これはライス(または仲上-ライス)分布と呼ばれる。なお、式(8)において、σ/2はEo以外の到来波の合成電力で、rはEoの電力とσ/2の比である。また、Io(x)は0次の変形ベッセル関数である。
【数8】
【0054】
上記式(5)において受信点の移動速度をv(t)で与えると、角周波数ωcと位相φiを次の式(9)に示す関係にする必要がある。速度v(t)で走行する場合の角度θからの到来波の周波数ωcはωc(θ)の合成として表されるべきであることから、上記式(5)に式(9)を代入すると次の式(10)になる。
【数9】
【数10】
【0055】
式(10)は、様々な方角θと遅延時間から生じる位相φiによる係数項が主波cosωctおよびsinωctに乗ぜられていることを示す。ここで、式(10)において、ωc×v/cはドップラー周波数であり、ωc×(v/c)×cosωθiが各方角からのベクトル成分としてのドップラー周波数である。上記式(10)は、標準的な場合として、次の式(11)で表すことができる。
【数11】
【0056】
すなわち、レイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境を模擬するためには、単一のドップラー周波数の生成だけでは、シミュレーションが不十分である場合がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、上記実施の形態1等で説明した円盤型反射体を用いて、フェイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境が示す複数のドップラーシフト周波数を生成する場合について説明する。具体的には、上記実施の形態1等で説明した円盤型反射体へ、照射角度すなわち入射角と出射角の組が互いに異なる複数の電波を照射する。
【0058】
図9は、本実施の形態に係るシステムの構成を示す図である。図9に示すように、ドップラーシフト生成装置91は、回転反射体92と、回転反射体92に回転を与える回転手段93と、回転反射体92を収容する容器95と、を有する。なお、図9には、回転反射体92と回転手段93とを結ぶ回転軸94、回転反射体92の反射面の移動方向96、回転反射体92の反射面(反射に利用する部分)97、電波の伝搬路群98、伝搬路98と回転反射体92の軸とのなす角度(入射角)99が示されている。また、図9には、それぞれ異なる角度で電波を回転反射体92に照射し或いは受信する指向性アンテナ群101〜106、111〜116が示されている。
【0059】
以下、図9を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。いま、アンテナ101からの電波の伝搬路98は、入射角99を以って反射面97に入る。反射面97で反射された電波は、入射角99と等しい角度で反対方向に進みアンテナ111に入る。同様の原理で、アンテナ102からアンテナ112へ、アンテナ103からアンテナ113へ、アンテナ104からアンテナ114へ、アンテナ105からアンテナ115へ、アンテナ106からアンテナ116へ、それぞれ電波が到達する。
【0060】
このとき、反射面の速度はvとして、それぞれのアンテナに生じるドップラーシフト周波数について図10を用いて説明する。
【0061】
図10には、時刻t0における回転反射体の反射面の位置121、時刻t1における回転反射体の反射面の位置122、入射伝搬路123、入射伝搬路123に対する反射点124、入射伝搬路123に対する反射波伝搬路125、時刻t1における反射点126、時刻t1における入射路123に対する反射波伝搬路127、入射路123を形成するアンテナ128、反射波伝搬路125および127を収容するアンテナ129、アンテナ128の電波放射点130、入射伝搬路123の入射角131、反射波伝搬路125の反射角132、時刻t0における反射面121によるアンテナ128の電波放射点130の鏡像134、アンテナ128の時刻t0における鏡像135、時刻t1における電波放射点130の鏡像136、時刻t1におけるアンテナ128の鏡像137が示されている。
【0062】
入射波123は、時刻t0において、反射点124において反射され、反射波125となる。このとき、鏡像134は、鏡面(反射面)121からの法線方向lと等しい反対側に位置する。
【0063】
次に、時刻t0から時刻t1の間に反射面121から反射面122に移動すると、鏡像134は鏡像136に移動する。反射波を受信するアンテナ129から見ると、あたかも電波が鏡像アンテナから放射されているように見える。
【0064】
ここで、鏡像は、反射面の移動距離Lの2倍を移動するが、鏡像のアンテナ129に対する移動距離は、2Lcosθとなる。次の式(12)に示すように、時刻t0と時刻t1との差で除算することにより、鏡像アンテナのアンテナ129に対する移動速度が、求まる。
【数12】
【0065】
この式(12)から明らかなように、鏡像アンテナのアンテナ129に対する移動速度は、入射角度がゼロの時、すなわち反射面に垂直に入射した場合に対して、cosθだけ小さくなる。これは、図8に示した移動体と伝播路のなす角度とから成るドップラーシフト周波数の低下と全く同一効果が得られることを示している。
【0066】
すなわち、図9に示したように、互いに異なる入射角を有する電波を回転反射体の反射面で反射させれば、互いに異なるドップラーシフト周波数を生成することができることは明らかである。
【0067】
図11にレイリーフェージングあるいはライスフェージングを生成する場合のシステム全体を示す。図11は、図7に、本実施の形態の目的に沿う変更を加えたものである。なお、図11において、図7と共通する部分には、図7と同一の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0068】
図11には、図7に対して、新たに、マルチパスを形成するためのアンテナ群71、伝搬路72、反射波を収容するアンテナ群73、アンテナ群73で収容した反射波を合成する合成器74、合成器74の出力75が示されている。
【0069】
図9のアンテナ群101から106が図11のアンテナ71に対応し、図9の入射伝搬路群および反射伝搬路群が図11の伝搬路72に対応し、図9のアンテナ群111〜116が図11のアンテナ群74に対応する。従って、図11において、上記式(11)に対応する機能が具備されることが明らかである。
【0070】
図12に、都市環境本来の状況を考慮した場合のマルチパスフェージング生成システムを示す。なお、図12において、図11と共通する部分には、図11と同一の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0071】
図12には、図11に対して、新たに、マルチパスの電波強度と遅延量を調整した各パスの出力を束ねる合成器76、合成器76の出力をアンテナ群71に伝える手段77、アンテナ群71に合成器76の出力を分割する分配器78、アンテナ群それぞれに対応した電力調整を図る減衰器群79が示されている。
【0072】
すなわち、図12に示したマルチパスフェージング生成システムは、マルチパスで到来した電波群に対して、一律にレイリーフェージングもしくはライスフェージング化を施すものである。
【0073】
このように、本実施の形態によれば、互いに異なる入射角を有する電波を回転反射体の反射面で反射させることにより、互いに異なるドップラーシフト周波数を生成することができ、レイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境を模擬することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、無線通信および電波伝搬の試験に用いるに好適である。
【符号の説明】
【0075】
1,31 回転反射体
2,32 回転軸体
6,36 指向性アンテナ
10 供試無線機
50,51 アンテナ群
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信および電波伝搬の試験に用いられるドップラーシフト生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数資源は自然界に存在する有用な通信手段の必須要素である。このため、ほぼ全ての周波数は利用が公的に制限されている。したがって、無線通信機器の研究・開発・製造においても電波暗室や電波遮蔽室などを用いて行うことが前提である。しかし、実際の無線機器が利用する電波伝搬環境は、フェージング効果やドップラー効果などの影響により、複雑で時々刻々変化する。
【0003】
このため、従来は、屋外環境を模すために、フェージングシミュレータなどを用いて試験を行ってきた(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
フェージングシミュレータは、送信出力を一旦サンプリング手段でデジタル化した後、ベースバンド信号を取り出してフェージング効果に相当する遅延波合成を施し、変調ならびに周波数変換を行い、原信号の搬送波周波数に戻すものである。
【0005】
特許文献2は、アレーアンテナ用フェージングシミュレータであり、アレーアンテナの各素子から出力される複数の到来波によるフェージング信号を模擬する模擬フェージング信号を発生するものである。
【0006】
このフェージングシミュレータでは、送り出すべき情報を送信信号発生器により生成し、アレーアンテナの素子数に等しい電波伝搬路を回路上に構成し、送出するものである。模擬フェージング信号として、到来波の入射方向の角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生させることにより、より実際に近い条件のもとで受信系と信号処理系とを含む受信装置の特性や機能の評価を実現可能とするように構成されている。
【0007】
角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生する手段は、アレーアンテナの素子と同数のDDS(ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ)、および、これらDDSのそれぞれに設定する位相と振幅とを更新する手段から構成され、実際に近い模擬フェージング信号を発生させることができる。
【0008】
この方法では、各DDSに設定する位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新することにより、現実的な模擬フェージング信号を発生することができる。さらに各DDSの出力と変調信号とをアナログ乗算することにより、より広ダイナミックレンジの模擬フェージング信号を発生させることができる。さらに、複数の到来波の入射方向の角度広がりを持つ模擬フェージング信号を発生する手段を複数備え、かつそれぞれから出力されるアレーアンテナの素子数と同数の出力信号を合成して対応の素子ごとに出力する信号合成手段を備えることにより、より実際的な模擬フェージング信号を発生させることができる。
【0009】
また、従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、DDS(ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ)等を用いて位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−298536号公報
【特許文献2】特開2002−325011号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】大國英徳,工藤栄亮, 安達文幸, "任意の多重波到来角分布のフェージング波を発生する周波数選択性フェージングシミュレータ," 第5回DSP教育者会議, pp.55-60, 2002年9月. 公開URL: http://www.mobile.ecei.tohoku.ac.jp/paper/pdf/rcs_2002/09_rcs_2002_sao.pdf(図2)
【非特許文献2】Agilent社Multipath Fading Simulator/Signature Test Set製品品番11757BのProduct Overview 掲載URL:[http://cp.literature.agilent.com/litweb/pdf/5091-1052EN.pdf]“Agilent 11757B Multipath Fading Simulator/Signature Test Set Product Overview”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、本来の搬送波周波数という高い周波数の上ではなく、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を施すため、本来の高周波信号が有する変調精度や周波数特性が、ドップラーシフト生成装置に内在する誤差や雑音で劣化する。さらに、従来のドップラーシフト生成装置は、周波数帯の異なる複数の高周波信号が存在する場合に対処できない。また、電波伝搬路は、無線通信システムにとって、ダウンリンクとアップリンクすなわち、無線基地局に代表されるネットワーク系から無線端末への伝搬と、無線端末から基地局への伝搬の双方に対してドップラー効果を必要とするが、従来のドップラーシフト生成装置は、前述のとおり、一旦通信を受信し、その成分を抽出した後にドップラーシフト効果なりフェージング効果を付加する、一方向の通信となるため、実態に即した試験環境を構築することが難しい。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高周波信号に、電波状態のままで時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができるドップラーシフト生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のドップラーシフト生成装置は、指向性アンテナから送信された指向性を有する電波に対してドップラーシフトを付加する生成装置であって、一つの回転軸周りに回転可能な回転軸体と、前記回転軸体に取り付けられ、前記電波を反射させる反射面が螺旋形を為し、前記反射面の半径方向が前記回転軸に対して約90度の角度を有する回転反射体と、前記回転軸体を所定の速度で回転させる駆動手段と、を具備する構成を採る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射面が螺旋形を為す高速回転体を備えることにより、高周波信号を高速回転体に反射させれば、電波状態の高周波信号に時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係るシステムの構造を示す図
【図2】本発明の実施の形態1のドップラーシフト生成装置の構造を示す図
【図3】本発明の実施の形態2のドップラーシフト生成装置の構造を示す図
【図4】本発明の実施の形態3に係るシステムの構造を示す図
【図5】本発明の実施の形態4に係るシステムの構造を示す図
【図6】本発明の実施の形態5に係るシステムの構造を示す図
【図7】図6に概念を示したマルチパスフェージング生成用のアンテナ群を含むマルチパスフェージング生成装置の構成を示した図
【図8】移動体と伝搬路との間の位置関係によるドップラーシフト周波数の関係を示す図
【図9】本発明の実施の形態6に係るシステムの構成を示す図
【図10】アンテナに生じるドップラーシフト周波数について説明する図
【図11】レイリーフェージングあるいはライスフェージングを生成する場合のシステム全体を示す図
【図12】都市環境本来の状況を考慮した場合のマルチパスフェージング生成システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るシステムの構成を示す図である。1は回転反射体、2は回転軸体、3は回転反射体1および回転軸体2の回転軸、4は回転反射体1および回転軸体2の回転方向、5は回転反射体1の反射面の移動方向を示す。6は回転反射体1に向けて指向性を有する電波(高周波信号)を送信する指向性アンテナ、7は指向性アンテナ6に接続する無線システムとの接続線、8は指向性アンテナ6から送信された電波が通過する無線伝搬路、9は無線伝搬路8を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、10は反射伝搬路を通過した電波を受信する供試無線機、11は電波暗室、12は指向性アンテナ6と供試無線機10との直接の無線結合を防ぐ手段を示す。
【0019】
図1を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。任意の無線システムからの接続線7と接続された指向性アンテナ6は、無線伝搬路8を経由して回転反射体1に向けて電波を送信する。回転反射体1および回転軸体2は、図示しない駆動手段により、回転軸3の回りを回転方向4の方向に回転する。このとき、回転反射体1は、らせん形(螺旋形)を成すために反射面は5に示す方向に移動する。回転反射体1に反射された電波は反射伝搬路9を経由して供試無線機11に受信される。これらの構成は電波暗室11内に置かれる。電波暗室11と無線結合の防止手段12とにより、所望の無線伝搬路以外の無線伝搬路の発生を防止する。
【0020】
図2は、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の構造を示す図である。なお、図2において、図1と共通する部分には図1と同一符号を付して説明を省略する。13は回転反射体1の回転半径、14は回転反射体1の反射面部分の径、15は回転反射体1の回転軸部分の径、16は回転反射体1のらせん形状が有するピッチ、17は回転反射体1の反射面の半径との法線方向、18は回転反射体1の回転軸と反射面法線方向との成す角度を示す。
【0021】
図2を用いて、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の作用を説明する。回転反射体1は、ピッチ16を有する螺旋形を有する。螺旋の効果により、反射面は回転反射体1が1回転するとピッチ16に相当する移動距離が与えられる。他方、回転反射体1の反射面は、反射面と回転軸3との成す角度18を直角にしている。このため反射体が供する移動距離は、そのまま無線伝搬路に対して伝搬路長変化として扱える。すなわち、反射面と回転軸3の成す角度18をθとし、ピッチ16をp(mm)とし、回転速度をr(回転/分)とすると、1時間当たりの反射面が示す移動距離l(mm)は、以下の式(1)で与えられる。ここで、式(1)の初項の数値「2」は、後述の図10に示すように電波の波源の反射面内の虚像が反射体の移動速度の2倍の速度で移動しているように作用することを意味する。
【数1】
【0022】
θ=90°であるので、移動距離l(mm)は、以下の式(2)となる。
【数2】
【0023】
今、ピッチpを50mm、回転速度rを15,000回/分とすると、反射面の移動距離lは、90,000,000mm、すなわち90kmとなる。これは回転反射体1により、電波伝搬路上で時速90kmの移動効果を生成することとなる。
【0024】
例えば、周波数1,000MHzの無変調波で考えると、ドップラーシフト周波数fdは以下の式(3)で与えられる。
【数3】
【0025】
また周波数を2,000MHとすれば、容易に166.6Hzのドップラーシフト周波数が得られるだけでなく、1,000MHzと2,000MHzの2種類の電波に対して同時に機能する。さらに、本方式は電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図1の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものである。
【0026】
このように、本実施の形態によれば、反射面が螺旋形を為す高速回転体を備えることにより、高周波信号を高速回転体に反射させれば、電波状態の高周波信号に時系列的な速度差(ドップラーシフト効果)を付加することができ、従来のドップラーシフト生成装置の前述の課題をすべて解決することができる。
【0027】
(実施の形態2)
上記本実施の形態1に示したドップラーシフト生成装置は、螺旋形の反射体を高速に回転することが必要である。この装置によれば、円盤の空気抵抗による発熱が、円盤を破壊する可能性がある。実施の形態2は、この課題を解決するものである。
【0028】
図3は、本実施の形態のドップラーシフト生成装置の構造を示す図である。なお、図3において、図1あるいは図2と共通する部分には図1あるいは図2と同一符号を付して説明を省略する。21は第1の羽根、22は第2の羽根、23は第1の羽根21の第1の先端部と切り替わる第2の羽根22の先端部の間に存するピッチ、24は第1の羽根21の第2の先端部と切り替わる第2の羽根22の先端部の間に存するピッチを示す。
【0029】
図3を用いて本実施の形態のドップラーシフト生成装置の作用を説明する。図2に示したドップラーシフト生成装置は、ピッチ部すなわち円盤不連続部での段差が大きい。図3に示すドップラーシフト生成装置は、円盤を2枚の羽根に分割しており、ピッチ部での段差を図2に対して2分の1にすることができる。これにより、不連続部の断面に生成する空気流体抵抗を半減させることができる。さらに、本実施の形態では、分割数を増やすこともできる。分割数をn、ピッチ16をp(mm)とし、回転速度をr(回転/分)とすると、上記式(2)を次の式(4)に変形することができる。
【数4】
【0030】
この方法によれば、上記実施の形態1で必要な回転速度とピッチの積を同一にした上で、分割数により回転速度を低下させたり、ピッチ幅を少なくさせたりすることが自由にできるようになる。
【0031】
このように、本実施の形態によれば、反射回転体の生成する発熱を軽減することができる。
【0032】
(実施の形態3)
都市部における移動体でのドップラーシフト作用は、建造物等からの反射が移動体の前方だけでなく、後方からも到来することを考慮すべきである。実施の形態3は、この課題を解決する方法を提供する。図4は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図4において、図1と共通する部分には図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図4において、31は回転反射体、32は回転軸体、33は回転反射体31および回転軸体32の回転軸、34は回転反射体31および回転軸体32の回転方向、35は回転反射体31の反射面の移動方向を示す。36は回転反射体31に向けて指向性を有する電波(高周波信号)を送信する指向性アンテナ、37は指向性アンテナ6と指向性アンテナ36に接続する無線システムとの接続線7を接続するための分配器、38は指向性アンテナ36から送信された電波が通過する無線伝搬路、39は無線伝搬路38を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0034】
図4を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。任意の無線システムからの接続線7と接続された指向性アンテナ6と指向性アンテナ36は、それぞれの無線伝搬路8と無線伝搬路38により回転反射体1および回転反射体31に向けている。回転反射体31は、回転反射体1が有する反射面の移動方向5とは異なる移動方向35を有しており、回転反射体31により反射伝搬路39に生成されるドップラーシフト周波数は、回転反射体1により反射伝搬路9に生成されるドップラーシフト周波数に対して、相反した極性を有する。図4において、回転反射体1と回転反射体31は、同一形状をしており、それぞれの回転方向4と回転方向34を相反する方向にしてこれを実現している。これにより供試無線機10に到達する電波は、正負のドップラーシフト周波数を得る。
【0035】
なお、回転反射体1および回転反射体31の反射面のピッチ方向を相反するものとして、回転方向4および回転方向34を同一にすることによっても、供試無線機10に到達する電波は、正負のドップラーシフト周波数を得る。
【0036】
このように、本実施の形態によれば、都市部に発生することが多い正負のドップラーシフト作用を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図4の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1と同様である。
【0037】
(実施の形態4)
従来のドップラーシフト生成装置は、対象とする高周波信号を、一旦受信して検波ならびにA/D変換した後に、位相と振幅とを信号の最大ドップラー周波数のナイキスト条件を満足する周期で更新させ、そのディジタルデータをD/A変換し変調ならびに周波数変換を施すものである。この方法では、周波数帯の異なる複数の高周波信号が存在する場合に対処できない。実施の形態4では、この従来の課題を解決する方法を提供する。図5は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図5において、図4と共通する部分には図4と同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
図5において、40は回転反射体1および回転反射体31に向けて指向性を有する電波を送信する指向性アンテナ、41は指向性アンテナ40に接続する第2の無線システムとの接続線、42は指向性アンテナ6から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、43は無線伝搬路42を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、44は指向性アンテナ6から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、45は無線伝搬路44を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路、46は指向性アンテナ40から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、47は無線伝搬路46を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、48は指向性アンテナ40から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、49は無線伝搬路48を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0039】
図5を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。一般にアンテナは周波数特性を有する。このため、複数種の周波数帯に対応した無線システムを構築するためには、周波数帯に対応したそれぞれのアンテナを用いることが自然である。いま、第1の周波数に指向性アンテナ6を、第2の周波数に指向性アンテナ40を対応させるとする。図5に示す本実施の形態のシステムでは、この2基の指向性アンテナのそれぞれが、無線伝搬路42、44、46および48を介して回転反射体1と回転反射体31に電波を送信する。回転反射体1と回転反射体31にて反射された電波は、それぞれ反射伝搬路43、45、47および49を介して、供試無線機10に受信される。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、異なる周波数帯の無線システムの電波に対して、同時に正負のドップラーシフト周波数を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図5の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1および実施の形態3と同様である。
【0041】
なお、図5のシステムにおいて、正負のドップラーシフト周波数の一方が不要の場合に、回転反射体を単一にすることも可能である。
【0042】
(実施の形態5)
都市部においては、建物反射が単純ではなく、複数の建物からの反射を考慮する必要がある。従来、複数の周波数帯の無線システムに対するマルチパスフェージング環境を擬似する手段の実現が困難であるという課題がある。本実施の形態は、この従来の課題に対して解決の方法を提供するものである。図6は、本実施の形態に係るシステムの構造を示す図である。なお、図6において、図5と共通する部分には図5と同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図6において、50は無線システムとの接続線7に接続された第1のマルチパスフェージング生成用のアンテナ群、51は第2の無線システムとの接続線41に接続された第2のマルチパスフェージング生成用のアンテナ群、52はアンテナ群50から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、53は無線伝搬路52を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、54はアンテナ群50から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、55は無線伝搬路54を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路、56はアンテナ群51から回転反射体1に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、57は無線伝搬路56を通過した電波が回転反射体1により反射された後に通過する反射伝搬路、58はアンテナ群51から回転反射体31に向けて送信された電波が通過する無線伝搬路、59は無線伝搬路58を通過した電波が回転反射体31により反射された後に通過する反射伝搬路を示す。
【0044】
図6を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。いま、第1の周波数にマルチパスフェージング生成用のアンテナ群50を、第2の周波数にアンテナ群51を対応させるとする。図6に示すシステムでは、この2群のアンテナ群のそれぞれが、無線伝搬路52、54、56および58を介して回転反射体1と回転反射体31に電波を送信する。回転反射体1と回転反射体31にて反射された電波は、それぞれ反射伝搬路53、55、57および59を介して、供試無線機10に受信される。
【0045】
図7は、図6に概念を示したマルチパスフェージング生成用のアンテナ群を含むマルチパスフェージング生成装置の構成を示した図である。図7において、61は図6における無線システムとの接続線7に相当する。62は分配器、63は電子制御可能な伝送量調整部、64は伝送量調整部63の伝送量調整素子、65はパスである伝搬路のそれぞれの遅延量調整部、66は遅延量調整部65の遅延量調整素子、67は伝搬路のアンテナ群、68はアンテナにより生成される電波伝搬路を示す。69は電子制御部、70は制御信号線である。
【0046】
図7を用いて、マルチパスフェージング生成方法を説明する。無線システムとの接続線61は、複数の伝搬路を模擬するために分配器62により複数の線路に分割される。この線路は伝送量調整部63接続され、伝送量調整部63を構成する伝送量調整素子64を通る、その各出力線路は遅延量調整部65に接続し、遅延量調整部65を構成する伝送量調整素子66によりそれぞれの遅延量が与えられる。図7においては、所望の遅延量に相当する線路長を有するケーブルで構成している。それぞれ遅延時間td1、td2、td3、td4、td5、td6、td7、td8を与える。遅延量調整部65の各出力線路は、線路数のアンテナを備えたアンテナ群67に接続されて、電波となり電波伝搬路68を形成する。以上により、電波伝搬路68においてマルチパスフェージング環境が構築される。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、異なる周波数帯の無線システムの電波に対して、同時に正負のドップラーシフト周波数を有するマルチパスフェージング環境を提供することができる。また、本方式が電波伝搬路の方向性を限定するものではなく、図6の伝搬路の矢印の向きと逆方向の伝搬に対しても、同時かつ同等にドップラーシフトを与えるものであることは、上記実施の形態1、実施の形態3および実施の形態4と同様である。
【0048】
なお、図6のシステムにおいて、正負のドップラーシフト周波数の一方が不要の場合に、回転反射体を単一にすることも可能である。
【0049】
(実施の形態6)
ここで、実際の屋外環境においては、図8に示すように、多重伝搬路すなわちマルチパスによる様々なドップラーシフト周波数が生成される。図8は、移動体と伝搬路との間の位置関係によるドップラーシフト周波数の関係を示す図である。
【0050】
図8において、移動体81が速度v(t)で進行し、電波伝搬路82が角度θにて到来したとすると、到来波の相対速度はv(t)cosθで与えられる。一般には異なる角度からの到来波が複数存在する。都市部では基地局から送信された電波が、建物などで反射、回折または散乱を受けて受信点に到達する場合が多い。この場合に、基地局からの直接波が見えない環境で移動しながら受信する場合に、到来波の合成波の振幅は、時間の関数において平均値が「0」で、等しい分散を持つ。これをレイリーフェージングと呼ぶ。レイリーフェージングは、受信波の振幅強度の確立分布がレイリー分布するために命名されたものである。理論的には、到来する受信波の数がNで、それぞれの振幅をai、位相をφiとすると、受信点での合成波の時間tに対する変動は、搬送波の角周波数をωcとして次の式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0051】
ここで、Nが十分に大きく、各到来波の振幅aiがほぼ等しく、位相φiがランダムであるとする。受信点を移動させてaiを観測すると、上記式(5)の振幅の正弦の合成値と振幅の余弦の合成値とは、平均値が「0」、等しい分散値の、互いに独立な正規分布を持つものとなる。このとき、受信振幅がRになる確率p(R)は次の式(6)で与えられる。
【数6】
【0052】
これは、受信点を移動して観測される、受信波の振幅レベルRの出現確率を表している。これがレイリー分布であり、受信波に対して或る振幅レベルRdを設定したとき、Rd以下となる累積確率分布はP(Rd)である(式(7)参照)。
【数7】
【0053】
これに対して、基地局が見える環境での多重伝搬路においては、ライスフェージングが生成される。基地局アンテナが見える、見通し内伝搬や、到来波の一つEoが他の波より非常に強いとき、受信振幅がRになる確率p(R)は次の式(8)で与えられる。これはライス(または仲上-ライス)分布と呼ばれる。なお、式(8)において、σ/2はEo以外の到来波の合成電力で、rはEoの電力とσ/2の比である。また、Io(x)は0次の変形ベッセル関数である。
【数8】
【0054】
上記式(5)において受信点の移動速度をv(t)で与えると、角周波数ωcと位相φiを次の式(9)に示す関係にする必要がある。速度v(t)で走行する場合の角度θからの到来波の周波数ωcはωc(θ)の合成として表されるべきであることから、上記式(5)に式(9)を代入すると次の式(10)になる。
【数9】
【数10】
【0055】
式(10)は、様々な方角θと遅延時間から生じる位相φiによる係数項が主波cosωctおよびsinωctに乗ぜられていることを示す。ここで、式(10)において、ωc×v/cはドップラー周波数であり、ωc×(v/c)×cosωθiが各方角からのベクトル成分としてのドップラー周波数である。上記式(10)は、標準的な場合として、次の式(11)で表すことができる。
【数11】
【0056】
すなわち、レイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境を模擬するためには、単一のドップラー周波数の生成だけでは、シミュレーションが不十分である場合がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、上記実施の形態1等で説明した円盤型反射体を用いて、フェイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境が示す複数のドップラーシフト周波数を生成する場合について説明する。具体的には、上記実施の形態1等で説明した円盤型反射体へ、照射角度すなわち入射角と出射角の組が互いに異なる複数の電波を照射する。
【0058】
図9は、本実施の形態に係るシステムの構成を示す図である。図9に示すように、ドップラーシフト生成装置91は、回転反射体92と、回転反射体92に回転を与える回転手段93と、回転反射体92を収容する容器95と、を有する。なお、図9には、回転反射体92と回転手段93とを結ぶ回転軸94、回転反射体92の反射面の移動方向96、回転反射体92の反射面(反射に利用する部分)97、電波の伝搬路群98、伝搬路98と回転反射体92の軸とのなす角度(入射角)99が示されている。また、図9には、それぞれ異なる角度で電波を回転反射体92に照射し或いは受信する指向性アンテナ群101〜106、111〜116が示されている。
【0059】
以下、図9を用いて、本実施の形態に係るシステムの作用を説明する。いま、アンテナ101からの電波の伝搬路98は、入射角99を以って反射面97に入る。反射面97で反射された電波は、入射角99と等しい角度で反対方向に進みアンテナ111に入る。同様の原理で、アンテナ102からアンテナ112へ、アンテナ103からアンテナ113へ、アンテナ104からアンテナ114へ、アンテナ105からアンテナ115へ、アンテナ106からアンテナ116へ、それぞれ電波が到達する。
【0060】
このとき、反射面の速度はvとして、それぞれのアンテナに生じるドップラーシフト周波数について図10を用いて説明する。
【0061】
図10には、時刻t0における回転反射体の反射面の位置121、時刻t1における回転反射体の反射面の位置122、入射伝搬路123、入射伝搬路123に対する反射点124、入射伝搬路123に対する反射波伝搬路125、時刻t1における反射点126、時刻t1における入射路123に対する反射波伝搬路127、入射路123を形成するアンテナ128、反射波伝搬路125および127を収容するアンテナ129、アンテナ128の電波放射点130、入射伝搬路123の入射角131、反射波伝搬路125の反射角132、時刻t0における反射面121によるアンテナ128の電波放射点130の鏡像134、アンテナ128の時刻t0における鏡像135、時刻t1における電波放射点130の鏡像136、時刻t1におけるアンテナ128の鏡像137が示されている。
【0062】
入射波123は、時刻t0において、反射点124において反射され、反射波125となる。このとき、鏡像134は、鏡面(反射面)121からの法線方向lと等しい反対側に位置する。
【0063】
次に、時刻t0から時刻t1の間に反射面121から反射面122に移動すると、鏡像134は鏡像136に移動する。反射波を受信するアンテナ129から見ると、あたかも電波が鏡像アンテナから放射されているように見える。
【0064】
ここで、鏡像は、反射面の移動距離Lの2倍を移動するが、鏡像のアンテナ129に対する移動距離は、2Lcosθとなる。次の式(12)に示すように、時刻t0と時刻t1との差で除算することにより、鏡像アンテナのアンテナ129に対する移動速度が、求まる。
【数12】
【0065】
この式(12)から明らかなように、鏡像アンテナのアンテナ129に対する移動速度は、入射角度がゼロの時、すなわち反射面に垂直に入射した場合に対して、cosθだけ小さくなる。これは、図8に示した移動体と伝播路のなす角度とから成るドップラーシフト周波数の低下と全く同一効果が得られることを示している。
【0066】
すなわち、図9に示したように、互いに異なる入射角を有する電波を回転反射体の反射面で反射させれば、互いに異なるドップラーシフト周波数を生成することができることは明らかである。
【0067】
図11にレイリーフェージングあるいはライスフェージングを生成する場合のシステム全体を示す。図11は、図7に、本実施の形態の目的に沿う変更を加えたものである。なお、図11において、図7と共通する部分には、図7と同一の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0068】
図11には、図7に対して、新たに、マルチパスを形成するためのアンテナ群71、伝搬路72、反射波を収容するアンテナ群73、アンテナ群73で収容した反射波を合成する合成器74、合成器74の出力75が示されている。
【0069】
図9のアンテナ群101から106が図11のアンテナ71に対応し、図9の入射伝搬路群および反射伝搬路群が図11の伝搬路72に対応し、図9のアンテナ群111〜116が図11のアンテナ群74に対応する。従って、図11において、上記式(11)に対応する機能が具備されることが明らかである。
【0070】
図12に、都市環境本来の状況を考慮した場合のマルチパスフェージング生成システムを示す。なお、図12において、図11と共通する部分には、図11と同一の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0071】
図12には、図11に対して、新たに、マルチパスの電波強度と遅延量を調整した各パスの出力を束ねる合成器76、合成器76の出力をアンテナ群71に伝える手段77、アンテナ群71に合成器76の出力を分割する分配器78、アンテナ群それぞれに対応した電力調整を図る減衰器群79が示されている。
【0072】
すなわち、図12に示したマルチパスフェージング生成システムは、マルチパスで到来した電波群に対して、一律にレイリーフェージングもしくはライスフェージング化を施すものである。
【0073】
このように、本実施の形態によれば、互いに異なる入射角を有する電波を回転反射体の反射面で反射させることにより、互いに異なるドップラーシフト周波数を生成することができ、レイリーフェージング環境あるいはライスフェージング環境を模擬することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、無線通信および電波伝搬の試験に用いるに好適である。
【符号の説明】
【0075】
1,31 回転反射体
2,32 回転軸体
6,36 指向性アンテナ
10 供試無線機
50,51 アンテナ群
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性アンテナから送信された指向性を有する電波に対してドップラーシフトを付加する生成装置であって、
一つの回転軸周りに回転可能な回転軸体と、
前記回転軸体に取り付けられ、前記電波を反射させる反射面が螺旋形を為し、前記反射面の半径方向が前記回転軸に対して約90度の角度を有する回転反射体と、
前記回転軸体を所定の速度で回転させる駆動手段と、
を具備するドップラーシフト生成装置。
【請求項2】
前記回転反射体は、複数に分割された形状を有する、請求項1に記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項3】
前記回転軸体および前記回転反射体からなる対を2つ有し、
前記駆動手段は、第1の回転反射体と第2の回転反射体が同一形状の場合に第1の回転軸体と第2の回転軸体とを相反する方向に回転させ、前記第1の回転反射体と前記第2の回転反射体の反射面のピッチ方向が相反するもので有る場合に前記第1の回転軸体と前記第2の回転軸体とを同一方向に回転させる、
請求項1に記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項4】
前記回転反射体は、周波数、変復調方式または通信方式の少なくとも一つが互いに異なる複数の装置から照射された複数の電波を反射させる、請求項1から請求項3のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項5】
前記回転反射体は、互いに異なる入射角により照射された複数の電波を反射させる、請求項1から請求項4のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置と、
複数の遅延手段と減衰量調整手段から成る遅延波群生成手段と、
を組み合わせたドップラーシフト生成装置。
【請求項1】
指向性アンテナから送信された指向性を有する電波に対してドップラーシフトを付加する生成装置であって、
一つの回転軸周りに回転可能な回転軸体と、
前記回転軸体に取り付けられ、前記電波を反射させる反射面が螺旋形を為し、前記反射面の半径方向が前記回転軸に対して約90度の角度を有する回転反射体と、
前記回転軸体を所定の速度で回転させる駆動手段と、
を具備するドップラーシフト生成装置。
【請求項2】
前記回転反射体は、複数に分割された形状を有する、請求項1に記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項3】
前記回転軸体および前記回転反射体からなる対を2つ有し、
前記駆動手段は、第1の回転反射体と第2の回転反射体が同一形状の場合に第1の回転軸体と第2の回転軸体とを相反する方向に回転させ、前記第1の回転反射体と前記第2の回転反射体の反射面のピッチ方向が相反するもので有る場合に前記第1の回転軸体と前記第2の回転軸体とを同一方向に回転させる、
請求項1に記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項4】
前記回転反射体は、周波数、変復調方式または通信方式の少なくとも一つが互いに異なる複数の装置から照射された複数の電波を反射させる、請求項1から請求項3のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項5】
前記回転反射体は、互いに異なる入射角により照射された複数の電波を反射させる、請求項1から請求項4のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のドップラーシフト生成装置と、
複数の遅延手段と減衰量調整手段から成る遅延波群生成手段と、
を組み合わせたドップラーシフト生成装置。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−183552(P2010−183552A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68677(P2009−68677)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(397065136)株式会社横須賀テレコムリサーチパーク (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(397065136)株式会社横須賀テレコムリサーチパーク (28)
【Fターム(参考)】
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