説明

ドップラーシフト補正方法及びその機能を有する移動通信システム

【課題】高速移動車両がトンネル内を通過する際、車両内における携帯端末の受信品質の劣化を改善できる移動通信システムを提供する。
【解決手段】トンネル内に、基地局に接続された複数の通信用アンテナと、隣り合う通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて固有のスクランブルコード情報を送信する位置特定用の複数の補助アンテナとが設置される。携帯端末は、走行車両内にあって通信用アンテナと通信可能であると共に各補助アンテナを通過する度に補助アンテナに固有のスクランブルコード情報を受信する。携帯端末は、通信用アンテナを通過する度に受信される報知情報及び補助アンテナを通過する度に受信されるスクランブルコード情報から、トンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出したドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行う状態監視部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末を持つユーザが新幹線などの車両でトンネル内を高速走行した場合にトンネル内のアンテナ直下で発生する周波数誤差のタイミング及び誤差量を予測し補正するためのドップラーシフト補正方法及びその機能を有する移動通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のWCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)携帯端末では、対象となる基地局の周波数と携帯端末の周波数を一致させるためにAFC(Auto Frequency Control:自動周波数制御)方式が用いられている。具体的には、使用する無線周波数を維持するために基地局から送信されるシンボルパターンの周波数誤差から位相回転量を求め、それを基に発振器であるTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator:携帯端末の基準周波数を発振する電圧制御型発振器)の周波数を補正、調整するという機能である。なお、シンボルパターンは、主に共通チャネルであるCPICH(Common Pilot Channel)のパイロットシンボルが使用される。
【0003】
AFC方式を用いている携帯端末ではシンボルの誤差を監視することで周波数誤差を修正しているが、シンボルパターンはフェージング変動やレベル劣化により少なからず周波数誤差が生じている状況である。そのため誤差検出のための時間(更新周期)や誤差判定の閾値は、瞬時変動やごく微弱な変動に追随し過ぎないようにある程度大きな値を設定しておく必要がある。
【0004】
AFC方式を用いている携帯端末では基地局と携帯端末との間の周波数誤差を±コンマ数ppm以内に追い込むことが可能である。
【0005】
また移動状態で電波を受信する場合、一般に受信波にはドップラー周波数分のずれが生じることになるが、携帯端末が基地局直下を通過した場合、基地局アンテナの通過タイミングを境にドップラー周波数が正負方向に逆転する現象が発生する。
【0006】
トンネル内のような環境では上述のような基地局アンテナ直下を携帯端末が通過するシーンがあり、新幹線などの高速走行状態でアンテナ直下を通過した場合、ドップラー周波数切り替わりによる大きな周波数誤差(変動)が瞬時に発生することになる。
【0007】
従来のAFCは発生した周波数誤差を補正する機能であるため、瞬間的に大きな周波数誤差が発生した場合、周波数補正での追従に時間を要することになる。このため周波数誤差が補正されるまでの区間は周波数がずれた状態での受信となるため受信電界(品質)が著しく劣化することになり、最悪の場合通信切断に至る。
【0008】
現状の新幹線トンネル環境においては、携帯端末はトンネル内に設置されているアンテナの位置を把握できない、または通過タイミングを予測できない。このため周波数誤差の発生を検出してから補正する従来のAFC動作においては周波数誤差を補正しきれずに受信電界が劣化するという課題がある。
【0009】
ドップラー周波数切り替わりによる影響を解消する手法として、例えば特許文献1には、送信側でドップラーシフト分を補正する移動体通信システムが開示されている。具体的には、GPS衛星を利用して、移動局の移動速度や緯度、経度を測定し、あらかじめ位置測定しておいた基地局との方向を割り出してドップラーシフト分を計算し、この計算結果により送信機のローカル周波数を微調整することにより、基地局への送信波のドップラーシフト分を補正するようにしている。また、特許文献2には、移動端末が無線基地局に接近する側のセクタαと、無線基地局から遠ざかる側のセクタβとを区分し、各セクタ毎に通信周波数をオフセットしてドップラー周波数を打ち消させるようにした移動通信方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2001−119333号公報
【特許文献2】特開2001−308773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、新幹線のような高速移動車両がトンネル内を通過する際、車両内における携帯端末の受信品質の劣化を改善するための方法及び移動通信システムを提供することにある。
【0012】
本発明の他の課題は、上記の移動通信システムに適した携帯端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、トンネル内に車両の走行方向に関して複数の通信用アンテナを間隔をおいて設置すると共に隣り合う通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて位置特定用の複数の補助アンテナを設置し、各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報を、各補助アンテナからは当該補助アンテナ固有のコード情報をそれぞれ送信し、走行車両内の携帯端末は、前記通信用アンテナを通過する度に得られる報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に得られるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行うことを特徴とするドップラーシフト補正方法が提供される。
【0014】
本ドップラーシフト補正方法においては、前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報を含み、前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含む。
【0015】
本ドップラーシフト補正方法においてはまた、前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行う。
【0016】
本ドップラーシフト補正方法においては、前記トンネルモードへの移行条件として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかという条件を設定し、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0017】
本ドップラーシフト補正方法においてはまた、前記トンネルモードへの移行条件として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかという条件を設定し、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0018】
本発明によればまた、トンネル内に車両の走行方向に関して間隔をおいて設置され基地局に接続された複数の通信用アンテナと、隣り合う前記通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて設置され、固有のコード情報を送信する位置特定用の複数の補助アンテナと、前記通信用アンテナと通信可能であると共に前記各補助アンテナを通過する度に当該補助アンテナに固有の前記コード情報を受信する携帯端末とを含み、前記各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報を送信し、前記携帯端末は、前記走行車両内にあって前記トンネル内を走行中に、前記通信用アンテナを通過する度に受信される報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に受信されるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行う監視手段を備えることを特徴とする移動通信システムが提供される。
【0019】
本移動通信システムにおいては、前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報を含み、前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含む。
【0020】
本移動通信システムにおいてはまた、前記監視手段は、前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、前記監視手段はまた、前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行う。
【0021】
本移動通信システムにおいては、前記携帯端末がWCDMA携帯端末である場合、前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、当該携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかの判定を行い、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0022】
本移動通信システムにおいてはまた、前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかの判定を行い、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0023】
本発明によれば更に、トンネル内に車両の走行方向に関して間隔をおいて設置され基地局に接続された複数の通信用アンテナと、隣り合う前記通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて設置され、固有のコード情報を送信する位置特定用の複数の補助アンテナとを含む移動通信システムであって、前記各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報が送信される移動通信システムに適用可能な携帯端末であって、該携帯端末は、前記走行車両内にあって前記トンネル内を走行中に、前記通信用アンテナと通信可能であると共に前記各補助アンテナを通過する度に当該補助アンテナに固有の前記コード情報を受信し、前記携帯端末は、前記通信用アンテナを通過する度に受信される報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に受信されるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行う監視手段を備えることを特徴とする携帯端末が提供される。
【0024】
本携帯端末においては、前記各補助アンテナからは、前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報が送信され、前記各通信用アンテナからは、前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含む情報が送信される。
【0025】
本携帯端末においてはまた、前記監視手段は、前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、前記監視手段はまた、前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行う。
【0026】
本携帯端末においては、当該携帯端末がWCDMA携帯端末である場合、前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、当該携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかの判定を行い、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0027】
本携帯端末においてはまた、前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかの判定を行い、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしても良い。
【0028】
本発明においては、トンネル内に、通信用アンテナに加えて通過タイミング把握のための補助アンテナを設置することにより、走行車両内の携帯端末はその電波を受信して通信用アンテナのアンテナ通過タイミングを予測し、アンテナ通過のタイミングでドップラー周波数分の周波数補正を一気に行う。これにより従来の携帯端末で発生していた新幹線トンネル内でのアンテナ通過時の受信品質劣化を改善することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高速走行状態にて通信用アンテナ直下を通過する際のドップラー周波数の正負反転により発生する周波数変動に対して、携帯端末側で予め現象発生(アンテナ通過)のタイミングと現象発生時の周波数変動量(ドップラー周波数)を推定することが可能であり、アンテナ通過のタイミングで一気に周波数補正(ドップラーシフト補正)を実施することで可能である。これにより従来のAFC制御で発生していた周波数補正の追従区間(時間)での受信電界(受信品質)の劣化を回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明による移動通信システム及びこれにより実現されるドップラー周波数補正方法の実施形態について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明を実施するために、新幹線のような高速移動車両のトンネル内に設置されるアンテナの設置形態を示す。トンネル内には車両の進行方向に等間隔をおいて複数の通信用アンテナ11、12(便宜上、2個のみ図示)が設置されている。車両がトンネル内を走行中、車両内の携帯端末3はこれらの通信用アンテナ11、12を介してネットワークとの通信を行う。トンネル内のこれらの通信用アンテナ11、12は、一般的に1つの基地局から張り出したサブアンテナ的な位置付けであり、各通信用アンテナ11、12からは同じスクランブルコード(基地局を特定するコード)にてデータが送信されている。また通信用アンテナ11、12はトンネル内通信用のアンテナであるため、図1に示されるように、ある程度の範囲をカバーできるチルト角を持っている。勿論、隣り合う通信用アンテナの範囲は重なる部分ができるようにされる。
【0032】
本発明ではトンネル内に、通信用アンテナ11、12以外に位置特定のために使われるアンテナとして複数の補助アンテナ(便宜上、3個の補助アンテナのみ参照番号21、22、23を付す)が車両の進行方向に等間隔をおいて設置されている。これらの補助アンテナは位置特定用のアンテナであるため、間隔は通信用アンテナの間隔よりも短く、電波が送信される角度(範囲)も通信用アンテナに比べて非常に狭い。また補助アンテナから送信されるチャネルもCPICHのみで構成されており、DPCH(Dedicated Physical Channel)等のデータチャネルは送信されない。各補助アンテナは、通信用アンテナと同様、基地局に接続されても良いが、送信するスクランブルコード情報は固定であるため、基地局とは別の送信源から送られるスクランブルコード情報を送信するものであっても良い。
【0033】
補助アンテナには予め決められたスクランブルコードが割り当てられており、携帯端末3側は捕捉した補助アンテナのスクランブルコードにより現在の位置を特定することができる。補助アンテナのスクランブルコードの割り当ては、例えばトンネル入り口から補助アンテナ設置の順番でスクランブルコードが1つずつインクリメントされるように割り当てるなどである。つまり、図1を例とすると、補助アンテナ21:srcd 1E10、22:srcd 1E20、23:srcd 1E30、・・・などで、Srcdはスクランブルコードである。
【0034】
トンネル内で送信される通信用アンテナ11、12の基地局の報知情報には、自身(基地局)がトンネル内基地局であるかどうかを示すトンネル識別子、補助アンテナの割り当てスクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報などが付加されている。
【0035】
本発明で使用される携帯端末3の構成例を図2に示す。
【0036】
TCXO34は移動通信装置の基準周波数を発振する電圧制御型発振器である。無線部31はTCXO34より出力される基準周波数に対応した基準信号より内部のPLL(フェイズロックドループ)回路を用いて局所発振周波数を生成し、基地局から送信されてくる電波(伝送波)をベースバンド信号に変換する。デジタル信号処理部32は無線部31からのベースバンド信号に対しデジタル信号処理を行い信号を復調することで通信データを取得する。デジタル信号処理部32はまた、復調したシンボルデータと基地局から送信されるべきシンボルデータ(既知)とを比較することにより基地局と自身(携帯端末)との周波数誤差を検知可能である。デジタル信号処理部32は検知した周波数誤差情報をAFC部33に送信する。AFC部33はデジタル信号処理部32からの周波数誤差情報によりTCXO制御信号を生成しTCXO34を制御する。TCXO34ではAFC部33からのTCXO制御信号により再度基準周波数が決定される。
【0037】
以上が一般的なAFC制御を実現するための構成であり、このAFC制御を用いることによって携帯端末の基準周波数を基地局の基準周波数に一致させることが可能となる。
【0038】
本発明による携帯端末3は、通信のための周知の送受信機能を実現するための構成(図示省略)及び上記のAFC制御のための構成に、さらに状態監視部35を備える。状態監視部35は、特にトンネル内を高速走行中の車両内にある携帯端末3が通信を行う際に機能する。
【0039】
デジタル信号処理部32は、データ復調により新しいセル(スクランブルコード)を検出した場合やセル移行により報知情報[BCCH(Broadcast Control Channel)データ]を受信した場合に状態監視部35にそれらの情報を送信する。状態監視部35では、デジタル信号処理部32から送られてくる各種データ(セル検出データ、報知情報)よりトンネル内の状態を判断し、トンネル内の通信用アンテナ通過のタイミングでドップラー周波数分に対応したAFC制御を行うようAFC部33に周波数誤差情報を送信する。
【0040】
AFC部33では状態監視部35からのドップラー周波数分に対応した周波数誤差情報よりTCXO制御信号を生成しTCXO34を制御する。状態監視部35からの周波数誤差情報は、デジタル信号処理部32からの周波数誤差情報より優先で処理される。
【0041】
次に、トンネル内走行時のドップラー周波数補正動作を説明する。以下では、携帯端末3を動作主体として説明するが、携帯端末3におけるドップラー周波数補正のための制御動作は、主に状態監視部35により実行される。携帯端末3は、その全体を制御するCPU(制御部、図示省略)を有しており、状態監視部35は制御部の一部機能として実現されても良い。
【0042】
携帯端末3は、トンネル内突入時にトンネル入り口に設置された最初の通信用アンテナから送信される報知情報を受信し、トンネル識別子を確認する。受信した報知情報のトンネル識別子が”トンネル内”であった場合、携帯端末3は報知情報内の補助アンテナ毎に割り当てられたスクランブルコード情報(補助アンテナ特定)、各補助アンテナの設置間隔情報(補助アンテナ間の距離)、通信用アンテナの位置情報(何番目に位置しているか)などを内部データとして記憶部(図示省略)に格納しトンネルモードに移行する。報知情報のトンネル識別子が”トンネル内”でなければ、トンネルモードに移行しない、もしくはトンネルモードから通常モードに移行する。
【0043】
携帯端末3がトンネル内を移動する際、各補助アンテナ通過付近で補助アンテナのスクランブルコードが検出される。補助アンテナからはCPICHデータが送信されているため、補助アンテナのスクランブルコードの検出は、通常のセル検出と同様である。携帯端末3は検出されたスクランブルコードと格納している補助アンテナ割り当てのスクランブルコード情報とを比較し、補助アンテナかどうかの判定と、どの位置(何番目)の補助アンテナかの特定を行う。
【0044】
補助アンテナのセル検出は通常のセル検出と同様に行われるが、検出されたセルが補助アンテナのスクランブルコードであった場合、セルリセレクション(待ち受け中)やセル追加(通信中)の対象とはしない。
【0045】
また補助アンテナからの電波は図1のように非常に狭い範囲で送信されているため、携帯端末で該当補助アンテナのセル(スクランブルコード)を検出している時間は非常に短い(通過時の前後付近のみ)。そのため携帯端末3はセル検出できたタイミングからその補助アンテナの通過タイミングを認識することが可能となる。
【0046】
携帯端末3は検出した複数の補助アンテナの通過タイミングと保有している補助アンテナ間の距離情報から現在の(補助アンテナ間での)移動速度を計算し、さらにそこから現在のドップラー周波数を算出することが可能である。また携帯端末3は算出した移動速度と通信用アンテナの位置情報より次の通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングに達した時点でドップラー周波数分だけAFC動作(ドップラー周波数補正動作)を実行する。
【0047】
これらの移動速度、ドップラー周波数、通信用アンテナの通過タイミング等の計算も状態監視部35にて実施される。
【0048】
状態監視部35の動作を図3のフローチャートにて説明する。以下の動作は、状態監視部35が記憶部に記憶されている制御プログラムを読み出し、この制御プログラムに基づいて動作を実行することで実現される。
【0049】
状態監視部35はデジタル信号処理部32からの報知情報においてトンネル識別子を確認する(ステップS1)。トンネル識別子が”トンネル内”の場合、報知情報に付加されている、前述の補助アンテナの割り当てスクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報などのデータを記憶部に格納してステップS2のトンネルモードに移行する。トンネルモード、通常モードの判定はデジタル信号処理部32から報知情報が送信されてくる度に実施される。
【0050】
トンネルモード状態では、デジタル信号処理部32から送られるセル検出データの待機状態にあり、待機中に通信用アンテナの通過タイミングがある場合は、状態監視部35は算出しているドップラー周波数分の周波数誤差情報をAFC部33に送信する。
【0051】
デジタル信号処理部32よりセル検出データを受信した場合(ステップS4)、状態監視部35は格納している補助アンテナのスクランブルコードから、検出されたセルのスクランブルコードの確認を行う(ステップS5)。検出されたセルが補助アンテナ用のスクランブルコードでなかった場合は再度セル検出データの待機状態(ステップS2)に移行し、補助アンテナであった場合は対応したスクランブルコードより補助アンテナの位置(順番)を確定する。
【0052】
また前回の補助アンテナ検出結果があった場合(ステップS6)はその補助アンテナの番号(順番)と今回検出の補助アンテナの番号の差分に補助アンテナの設置間隔を掛け合わせることでアンテナ間距離を割り出し各アンテナ検出タイミングから移動速度及びドップラー周波数を算出する(ステップS7)。そして、通信用アンテナの位置情報より現在位置から次に通過する通信用アンテナまでの距離、また算出した移動速度から通信用アンテナの通過タイミングを決定し、決定した通過タイミングに達する(ステップS3)とドップラー周波数分のAFC動作を実行する(ステップS8)。トンネル内にある間は補助アンテナを通過する度に上記の動作が繰り返され、通信用アンテナを通過する際にドップラー周波数補正動作が実行される。
【0053】
なお、トンネル入り口に最も近い最初の通信用アンテナについては、トンネル外の基地局との間で通信可能な状態にあるので、上記のドップラー周波数分のAFC動作を実行する必要は無い。
【0054】
以上のように、高速走行状態にて通信用アンテナ直下を通過する際のドップラー周波数の正負反転により発生する周波数変動に対して、本発明では携帯端末側で予め現象発生(アンテナ通過)のタイミングと現象発生時の周波数変動量を推定することが可能であり、図4に示すようにアンテナ通過のタイミングで一気に周波数補正を実施することで可能である。それにより従来のAFC制御で発生していた周波数補正の追従区間(時間)での受信電界(受信品質)の劣化を回避することが可能となる。
【0055】
本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでは無く、以下のような例が考えられる。
【0056】
1.検出パス数をトンネルモード移行の条件とする。
【0057】
通信用アンテナ直下を通過する際に発生するドップラー周波数反転の影響は、一般的に直接波が優勢な環境(1パス状態)にて著しく、散乱波が多数存在するようなマルチパス環境下では、散乱波によるフェージングの影響により直接波のドップラー周波数反転による周波数変動が全体の周波数変動に影響しない状態となる。
【0058】
そのような場合、トンネル内の通信用アンテナ直下を通過時でも通常のAFCにて周波数補正が可能となるため、たとえ報知情報のトンネル識別子が”トンネル内“であってもトンネルモードに移行する必要が無い。そこで、トンネルモード移行の条件としてトンネル識別子の他に携帯端末3にて検出している有効パス数を加えることにより、有効パス数があらかじめ決められた閾値以上か未満かで携帯端末3が置かれている環境がマルチパス状態か直接波優勢の環境かを見極め、有効パス数があらかじめ決められた閾値以上であればトンネル識別子が検出されてもトンネルモードに移行せず、直接波優勢、つまり有効パス数があらかじめ決められた閾値未満の場合にトンネルモードを起動するようにしても良い。
【0059】
2.携帯端末3の移動速度をトンネルモード移行条件とする。
【0060】
携帯端末3が影響を受けるドップラー周波数は移動速度に依存しているため、移動速度が速ければそのドップラー周波数もより大きくなる。逆に、携帯端末3の移動速度が遅い場合はドップラー周波数による周波数のずれはさほど大きくないため、通信用アンテナ直下でのドップラー周波数の正負反転の現象があったとしても通常のAFC制御でも十分対応が可能である。つまり、周波数ずれによるレベル劣化の時間が短いため呼損(切断)等にまでには至らない。
【0061】
そのため携帯端末3にてトンネルモード移行条件に報知情報のトンネル識別子以外に移動速度閾値を設定することで、より本問題の環境に適したモード移行が可能となる。
【0062】
トンネルモード移行条件の例としては、以下のようになる。
【0063】
トンネル識別子:あり、及び移動速度:閾値以上でトンネルモードに移行。
【0064】
トンネル識別子:あり、及び移動速度:閾値未満でトンネルモードに移行せず。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、WCDMA無線システム及び携帯端末を利用可能な運行システム全般に適用可能であり、新幹線のような鉄道車両に限らず、トンネル内を高速で走行する可能性のある車両全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明を実施するために、新幹線のような高速移動車両のトンネル内に設置されるアンテナの設置形態を示す。
【図2】図2は、本発明において使用される携帯端末の主要構成について説明するためのブロック図である。
【図3】図3は、本発明による、トンネル内でのドップラー周波数補正動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、従来のAFC動作と、本発明によるドップラー周波数補正動作による周波数追従性について比較するための特性図である。
【符号の説明】
【0067】
3 携帯端末
11、12 通信用アンテナ
21、22、23 補助アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内に車両の走行方向に関して複数の通信用アンテナを間隔をおいて設置すると共に隣り合う通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて位置特定用の複数の補助アンテナを設置し、
各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報を、各補助アンテナからは当該補助アンテナ固有のコード情報をそれぞれ送信し、
走行車両内の携帯端末は、前記通信用アンテナを通過する度に得られる報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に得られるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行うことを特徴とするドップラーシフト補正方法。
【請求項2】
前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報を含み、
前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含むことを特徴とする請求項1に記載のドップラーシフト補正方法。
【請求項3】
前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、
前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行うことを特徴とする請求項2に記載のドップラーシフト補正方法。
【請求項4】
前記トンネルモードへの移行条件として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかという条件を設定し、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項3に記載のドップラーシフト補正方法。
【請求項5】
前記トンネルモードへの移行条件として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかという条件を設定し、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項3に記載のドップラーシフト補正方法。
【請求項6】
トンネル内に車両の走行方向に関して間隔をおいて設置され基地局に接続された複数の通信用アンテナと、
隣り合う前記通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて設置され、固有のコード情報を送信する位置特定用の複数の補助アンテナと、
前記通信用アンテナと通信可能であると共に前記各補助アンテナを通過する度に当該補助アンテナに固有の前記コード情報を受信する携帯端末とを含み、
前記各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報を送信し、
前記携帯端末は、前記走行車両内にあって前記トンネル内を走行中に、前記通信用アンテナを通過する度に受信される報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に受信されるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行う監視手段を備えることを特徴とする移動通信システム。
【請求項7】
前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報を含み、
前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含むことを特徴とする請求項6に記載の移動通信システム。
【請求項8】
前記監視手段は、前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、
前記監視手段はまた、前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行うことを特徴とする請求項7に記載の移動通信システム。
【請求項9】
前記携帯端末はWCDMA携帯端末であり、
前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、当該携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかの判定を行い、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項8に記載の移動通信システム。
【請求項10】
前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかの判定を行い、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項8に記載の移動通信システム。
【請求項11】
トンネル内に車両の走行方向に関して間隔をおいて設置され基地局に接続された複数の通信用アンテナと、隣り合う前記通信用アンテナの間にそれぞれ間隔をおいて設置され、固有のコード情報を送信する位置特定用の複数の補助アンテナとを含む移動通信システムであって、前記各通信用アンテナからはドップラーシフト補正のために必要な報知情報が送信される移動通信システムに適用可能な携帯端末であって、
該携帯端末は、前記走行車両内にあって前記トンネル内を走行中に、前記通信用アンテナと通信可能であると共に前記各補助アンテナを通過する度に当該補助アンテナに固有の前記コード情報を受信し、
前記携帯端末は、前記通信用アンテナを通過する度に受信される報知情報及び前記補助アンテナを通過する度に受信されるコード情報から、少なくともトンネル内での移動速度、ドップラー周波数、次に通過する前記通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで算出した前記ドップラー周波数によるドップラーシフト補正を行う監視手段を備えることを特徴とする携帯端末。
【請求項12】
前記各補助アンテナからは、前記補助アンテナ固有のコード情報として、補助アンテナ毎にあらかじめ割り当てられたスクランブルコード情報が送信され、
前記各通信用アンテナからは、前記報知情報として、トンネル内の通信用アンテナであることを示すトンネル識別子、すべての補助アンテナについての前記スクランブルコード情報、補助アンテナの設置間隔情報、通信用アンテナの位置情報を含む情報が送信されることを特徴とする請求項11に記載の携帯端末。
【請求項13】
前記監視手段は、前記トンネル識別子を検出すると前記ドップラーシフト補正を行うためのトンネルモードに移行し、
前記監視手段はまた、前記トンネルモードでは、隣り合う補助アンテナに関して検出した前記スクランブルコード情報の検出タイミングと前記設置間隔情報から前記走行車両の移動速度を算出すると共に、前記ドップラー周波数を算出し、更に算出した移動速度と前記通信用アンテナの位置情報から次に通過する通信用アンテナの通過タイミングを算出し、算出した通過タイミングで前記ドップラーシフト補正を行うことを特徴とする請求項12に記載の携帯端末。
【請求項14】
当該携帯端末はWCDMA携帯端末であり、
前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、当該携帯端末にて検出されている有効パス数があらかじめ決められた閾値未満であるかの判定を行い、前記有効パス数が前記あらかじめ決められた閾値以上であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項13に記載の携帯端末。
【請求項15】
前記監視手段は、前記トンネルモードへの移行の判定動作として、前記トンネル識別子の検出に加えて、前記走行車両の移動速度があらかじめ設定された閾値以上であるかの判定を行い、前記移動速度が前記あらかじめ設定された閾値未満であれば前記トンネル識別子が検出されても前記トンネルモードに移行しないようにしたことを特徴とする請求項13に記載の携帯端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−219541(P2008−219541A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55084(P2007−55084)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】