説明

ドップラーセンサ及び該ドップラーセンサを用いた照明器具

【課題】 誤検出が抑えられるドップラーセンサ及び該ドップラーセンサを用いた照明器具を提供する。
【解決手段】 ドップラー信号のスペクトルから所定の背景スペクトルを減じた差分スペクトルにおいて、強度が最も高い第1ピーク周波数を用いたスペクトル分析が行われる。すなわち、図1(b)のように第1ピーク周波数の次に強度が高い第2ピーク周波数と第1ピーク周波数との一方が他方の整数倍となった場合、周期的なノイズによる誤検出であって人体は存在しないと判定される。また、図1(c)のように強度の積分の値が第1ピーク周波数の低周波側において高周波側よりも低くなった場合、移動物体は雨滴であって人体は存在しないと判定される。そして、上記のいずれにも該当しない図1(a)のような場合にのみ、人体が存在すると判定される。上記動作により、周期的なノイズや雨滴による誤検出が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラーセンサ及び該ドップラーセンサを用いた照明器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体を検出するドップラーセンサが提供されている(例えば、特許文献1参照)。ドップラーセンサは、例えばミリ波のような電波(送信波)を検出範囲に送信(照射)するとともに、検出範囲で反射された電波(反射波)を受信することで、人体の移動速度に対応する周波数帯のドップラー信号を得て、このドップラー信号に基いて検出範囲内の人体の存否を判定するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
人体を検出するセンサしては他には例えば人体から放射される熱線を検出する熱線センサがあるが、ドップラーセンサは熱線センサに比べて遠距離の人体を検出することができるという利点があるため、天井が高い建物内で天井に取り付けられるような使用形態に適している。
【0004】
上記のようなドップラーセンサは、例えば、ドップラーセンサによる人体の検出に応じて光源の点灯・消灯を切り替える照明器具に用いられる。このような照明器具においては、光源の点灯・消灯の切り替えが手動で行われる場合に比べ、使用者が光源を消灯させる操作をし忘れることによる無駄な電力消費が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−191857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のドップラーセンサは、ドップラー信号における所定の複数の周波数の強度の合計値を所定の閾値と比較し、上記の合計値が上記の閾値を上回っていたときに人体が存在すると判定していた。
【0007】
しかしながら、人体以外の移動物体であっても上記の合計値が上記の閾値を上回って誤検出が発生することがあった。
【0008】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、誤検出が抑えられるドップラーセンサ及び該ドップラーセンサを用いた照明器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のドップラーセンサは、所定の検出範囲に電波を送信するとともに、前記検出範囲からの電波を受信し、送信に用いた送信信号と受信により得られた受信信号とからドップラー信号を生成して出力するドップラー信号生成部と、前記ドップラー信号のスペクトルから所定の背景スペクトルを減じた差分スペクトルにおいて強度が最も高い周波数である第1ピーク周波数を用いたスペクトル分析により前記検出範囲における人体の存否を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0010】
このドップラーセンサにおいて、前記判定部は、前記スペクトル分析において、前記第1ピーク周波数に対する低周波側と高周波側とでそれぞれ同じ幅の周波数帯について強度の積分を演算するとともに、前記積分の値が低周波側において高周波側よりも低くなった場合には、前記検出範囲に人体が存在しないと判定することが望ましい。
【0011】
このドップラーセンサにおいて、前記判定部は、前記スペクトル分析において、前記第1ピーク周波数と、前記差分スペクトルにおいて強度が2番目に高い周波数である第2ピーク周波数との一方が、他方の整数倍の周波数であった場合には、前記検出範囲に人体が存在しないと判定することが望ましい。
【0012】
本発明の照明器具は、上記いずれかのドップラーセンサと、前記判定部の判定結果に応じて電気的な光源を点灯させる光源駆動部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドップラー信号のスペクトルから所定の背景スペクトルを減じた差分スペクトルにおいて強度が最も高い周波数である第1ピーク周波数を用いたスペクトル分析により検出範囲における人体の存否が判定されるので、上記のようなスペクトル分析が行われない場合に比べて誤検出が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の実施形態における差分スペクトルの例を示す説明図であり、(a)は検出範囲に人体が存在すると判定される例を示し、(b)(c)はそれぞれ検出範囲に人体が存在しないと判定される例を示す。
【図2】同上を示すブロック図である。
【図3】同上における背景スペクトルの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態のドップラーセンサ1は、図2に示すように、所定の検出範囲に電波を送受信する送受信部2と、送受信部2の出力からドップラー信号を抽出するフィルタ部3と、フィルタ部3の出力を増幅する増幅部4と、増幅部4の出力をA/D変換するA/D変換部51と、A/D変換部51の出力に高速フーリエ変換(FFT)を施すことで上記のドップラー信号における周波数毎の強度分布(スペクトル)を生成するFFT部52と、FFT部52の出力に基いて検出範囲内における人体の存否を判定する判定部53とを備える。すなわち、送受信部2とフィルタ部3とでドップラー信号生成部が構成されている。A/D変換部51とFFT部52と判定部53とは1チップのマイコン5に集積化されている。FFT部52から判定部53へのスペクトルの入力は例えば定期的に行われる。
【0017】
送受信部2は、所定の周波数の送信信号を生成する発振器21と、送信信号が変換された電波である送信波を検出範囲に対して送信する送信アンテナ22と、送信アンテナ22から送信された送信波が検出範囲において反射された電波である反射波を受信して受信信号に変換する受信アンテナ23と、発振器21が出力した送信信号と受信アンテナ23が出力した受信信号とを混合した混合信号を後段のフィルタ部3に出力するミキサ24とを備える。上記のような送受信部2は周知技術で実現可能であるので、詳細な図示並びに説明は省略する。なお、上記のように送信アンテナ22と受信アンテナ23とを別体に設ける代わりに、例えば周知のサーキュレータを用いて1個のアンテナを送信と受信とに兼用してもよい。
【0018】
ここで、送受信部2が送信する電波の周波数をf0とおき、光速をcとおくと、送受信部2との間での距離の変化速度がv(m/s)であるような移動体に対応するドップラー周波数は2×v×f0/cである。例えば、送信信号の周波数が24GHzであって、送受信部2との間での距離の変化速度が2m/s以下であるような移動体を人体として検出したい場合を考える。すると、フィルタ部3においてカットされるべき周波数の上限値は、v=2m/s、f0=24×10Hz、c≒3×10m/sを上式に代入して、2×2×24×10/(3×10)=320(Hz)程度となる。ただし、本実施形態では、フィルタ部3でカットされる周波数の上限値は上記よりも高くされ、FFT部52の出力には、1Hz〜500Hzまで1Hz毎に、ドップラー信号における強度が示される。
【0019】
以下、本実施形態の特徴である、判定部53の動作について説明する。下記の動作は、FFT部52から判定部53にドップラー信号のスペクトルが入力される毎に行われる。
【0020】
判定部53には予め背景スペクトルが記憶されており、判定部53は、まず、FFT部52から入力されたドップラー信号のスペクトルから上記の背景スペクトルを減じ、得られたスペクトル(以下、「差分スペクトル」と呼ぶ。)を用いて判定を行う。ここで、背景スペクトルは、例えば、検出範囲に移動物体が存在しない状態でのドップラー信号のスペクトルである。背景スペクトルの例を図3に示す。
【0021】
さらに、判定部53には、検出範囲に移動物体が存在するか否かの判定に用いられる基準スペクトルが予め記憶されている。すなわち、判定部53は、差分スペクトルと基準スペクトルとに含まれる各周波数について、それぞれ差分スペクトルでの強度と基準スペクトルでの強度とを比較する。そして、判定部53は、上記の比較において、5個以上の周波数についてそれぞれ差分スペクトルでの強度が基準スペクトルでの強度を上回った場合に、検出範囲に移動物体が存在すると判定する。また、上記の比較において、差分スペクトルでの強度が基準スペクトルでの強度を上回るような周波数の個数が5個未満であった場合、判定部53は、検出範囲に移動物体が存在しないと判定し、つまり検出範囲に人体が存在しないと判定する。
【0022】
そして、検出範囲に移動物体が存在すると判定された場合、判定部53は、次に、差分スペクトルにおいて強度が最も高い周波数(以下、「第1ピーク周波数」と呼ぶ。)を用いたスペクトル分析により、上記の移動物体が人体か否かを判定する。すなわち、判定部53は、まず、第1ピーク周波数と、強度が2番目に高い周波数(以下、「第2ピーク周波数」と呼ぶ。)との一方が他方の整数倍の周波数であるか否かを判定する。言い換えると、判定部53は、2以上の整数Nに対して、第1ピーク周波数を第2ピーク周波数で除した値がN又は1/Nになるか否かを判定する。この結果、第1ピーク周波数と第2ピーク周波数との一方が他方の整数倍の周波数であった場合には、判定部53は、上記の移動物体は人体ではなく、検出範囲には人体が存在しないと判定する。これにより、例えば送風機のように周期的に動作する移動物体が人体として誤検出されることや、放電灯点灯装置などの電気機器が発生させる周期的な電磁ノイズに起因する誤検出が避けられる。上記動作により移動物体が人体ではないと判定される差分スペクトルの例を図1(b)に示す。図1(b)の例では、第1ピーク周波数は120Hzであり第2ピーク周波数は60Hzであって、第1ピーク周波数が第2ピーク周波数の整数倍(2倍)の周波数となっている。
【0023】
また、第1ピーク周波数と第2ピーク周波数との一方が他方の整数倍の周波数ではなかった場合、判定部53は、次に、差分スペクトルにおいて、第1ピーク周波数に対する低周波側と高周波側とでそれぞれ同じ幅の周波数帯について強度の積分を演算する。
【0024】
第1ピーク周波数をfmとおき、積分が行われる周波数帯の幅をXとおくと、低周波側の積分範囲はfm−Xからfmまでとなり、高周波側の積分範囲はfmからfm+Xまでとなる。上記の周波数帯の幅Xは可能な限り大きくされることが望ましい。例えば、差分スペクトルの範囲が1Hz〜500Hzである場合、第1ピーク周波数fmが250Hz以下であれば上記の周波数帯の幅Xは第1ピーク周波数fmと等しくされて低周波側の積分範囲に1Hzが含まれ、第1ピーク周波数fmが250Hz以上であれば上記の周波数帯の幅Xは500Hzから第1ピーク周波数fmを減じた幅500−fmとされて高周波側の積分範囲に500Hzが含まれる。
【0025】
そして、上記の積分の値が第1ピーク周波数の低周波側において高周波側よりも低くなった場合には、判定部53は、上記の移動物体は人体ではなく、検出範囲には人体が存在しないと判定する。
【0026】
ここで、移動物体が人体である場合には、差分スペクトルは、人体全体の移動による比較的に高い周波数(例えば160Hz)の成分と、手足の動きによる比較的に低い周波数(例えば数十Hz〜百数十Hz)の成分とを含む。そして、強度としては人体全体の移動による成分が比較的に高くなるから、第1ピーク周波数は上記の比較的に高い周波数の成分に含まれる。従って、上記の積分の値は、第1ピーク周波数の低周波側において高周波側よりも高くなる。これに対し、雨滴においては上記の積分の値は第1ピーク周波数の低周波側において高周波側よりも低くなることが多い。つまり、上記動作により、雨滴が人体として誤検出されることが避けられる。上記動作により移動物体が人体ではないと判定される差分スペクトルの例を図1(c)に示す。図1(c)の例では第1ピーク周波数は約10Hzである。
【0027】
また、上記の積分の値が低周波側において高周波側よりも高くなった場合、判定部53は、上記の移動物体は人体であって検出範囲に人体が存在すると判定する。つまり、本実施形態では、差分スペクトルと基準スペクトルとの比較と、第1ピーク周波数と第2ピーク周波数との比較と、第1ピーク周波数に対する低周波側と高周波側との積分値の比較との、3つ全てにおいて条件が満たされたときにのみ検出範囲に人体が存在すると判定され、上記のうち1つ以上で条件が満たされなければ検出範囲に人体が存在しないと判定される。検出範囲に人体が存在すると判定される差分スペクトルの例を図1(a)に示す。
【0028】
そして、判定部53は、検出範囲に人体が存在すると判定されると、人体が検出されたことを示す信号(以下、「検出信号」と呼ぶ。)を出力する。検出信号は例えば電圧信号である。
【0029】
上記の検出信号は、例えば、判定部53の判定結果に応じて電気的な光源6を点灯させる光源駆動部7に入力される。光源6としては例えば発光ダイオードや蛍光灯といった周知の光源を用いることができる。光源6として発光ダイオードが用いられる場合には光源駆動部7としては周知の直流電源回路を用いることができ、光源6として蛍光灯が用いられる場合には光源駆動部7としては周知の電子安定器を用いることができる。また、光源駆動部7の動作としては、例えば、検出範囲に人体が存在するとの判定が判定部53によってされてから(つまり、検出信号が入力されてから)所定の制御遅れ時間が経過するまでは光源6を定格電力で点灯させ、検出範囲に人体が存在しないとの判定が判定部53によってされている状態(つまり、検出信号が入力されない状態)が上記の制御遅れ時間だけ継続したときに光源6を消灯させ又は光源6への出力電力を減少させるという動作が考えられる。ドップラーセンサ1と光源駆動部7とは、互いに信号を送受信する別体の装置に設けられていてもよいし、1個の照明器具にそれぞれ設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 ドップラーセンサ
2 送受信部(ドップラー信号生成部の一部)
3 フィルタ部(ドップラー信号生成部の一部)
6 光源
7 光源駆動部
53 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の検出範囲に電波を送信するとともに、前記検出範囲からの電波を受信し、送信に用いた送信信号と受信により得られた受信信号とからドップラー信号を生成して出力するドップラー信号生成部と、
前記ドップラー信号のスペクトルから所定の背景スペクトルを減じた差分スペクトルにおいて強度が最も高い周波数である第1ピーク周波数を用いたスペクトル分析により前記検出範囲における人体の存否を判定する判定部とを備えることを特徴とするドップラーセンサ。
【請求項2】
前記判定部は、前記スペクトル分析において、前記第1ピーク周波数に対する低周波側と高周波側とでそれぞれ同じ幅の周波数帯について強度の積分を演算するとともに、前記積分の値が低周波側において高周波側よりも低くなった場合には、前記検出範囲に人体が存在しないと判定することを特徴とする請求項1記載のドップラーセンサ。
【請求項3】
前記判定部は、前記スペクトル分析において、前記第1ピーク周波数と、前記差分スペクトルにおいて強度が2番目に高い周波数である第2ピーク周波数との一方が、他方の整数倍の周波数であった場合には、前記検出範囲に人体が存在しないと判定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のドップラーセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のドップラーセンサと、
前記判定部の判定結果に応じて電気的な光源を点灯させる光源駆動部とを備えることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−168048(P2012−168048A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30026(P2011−30026)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】