説明

ドップラーセンサ装置

【課題】 単純な構成で、商用電源の周波数を設定するため特別な回路を付加することなく、マイクロ波ドップラーセンサーに混入するノイズを除去を可能とし、高精度で検出対象物を検知する。
【解決手段】 ドップラーセンサ装置にドップラー信号の周波数スペクトルを出力して対象物の存在を判断する対象物判断手段を設け、対象物判断手段は、前記ドップラー信号出力の大きさが連続して所定値以下を検出すると、周波数スペクトルのピーク周波数から商用電源の周波数スペクトルを検出するとともに、検出した商用電源の周波数スペクトルは除外し前記対象物の存在を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波等を利用したドップラーセンサーによる移動体検出に係り、特に移動体のドップラー信号から電源周波数ノイズ除去するのに好適なドップラーセンサー装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来からドップラーセンサー装置を利用した装置として便器洗浄装置が知られており、マイクロ波による電波のドップラー効果を利用して、放尿時の尿流の速度を直接検知して、洗浄水の供給を開始するものが開発されている(例えば、特許文献1参照。) 。
【0003】
マイクロ波ドップラーセンサー装置の送信手段から出力されたマイクロ電波は、検出対象物に反射して、受信手段で受信される。このとき検出対象物が速度Vでドップラーセンサー装置に接近、離反している場合、送信した信号と受信した信号にうなりが生じ、それらの差分成分を抽出することでドップラー信号を得る。
【0004】
マイクロ波ドップラーセンサーから出力されるドップラー信号の周波数ΔFと、検出対象物の接近速度Vとの関係は、数式1であらわされることが知られている。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、
s:送信周波数(10.525GHz)
b:受信周波数
V:検出対象物の移動速度(m/s)
c:光速(m/s)
である。つまり、ドップラー信号の周波数スペクトルを解析してピーク周波数を求めれば、ピーク周波数から検出対象物の接近速度Vを推定することができる。ピーク周波数を求めるには、高速フーリエ変換による周波数スペクトラムの極大値から推察する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
例えば、送信周波数に10.525GHzを使用した場合、遠方より0.3m/sの速度で検出対象物がドップラーセンサーに近づくと、ドップラー信号検出手段に約21Hzの周波数の出力信号が生じる。逆に、例えばドップラー信号検出手段に30Hzの周波数の信号が得られたとき、検出対象物の接近速度は、±0.43m/sであることがわかる
【0008】
尿流を検知する方法において、ドップラーセンサの出力信号はアナログ信号で出力されるので、制御マイコンはA / D ポートから当該ドップラーセンサの出力信号を取り込み、マイコン内部でその信号強度を演算処理し、閾値以上の信号が一定時間継続すれば、尿流検知と見なし、電磁駆動のフラッシュバルブを作動させ、洗浄水を小便器内へ流すようになっている。
【0009】
特許文献1 に記載の便器においては、ドップラーセンサを利用した尿速度計が小便器の上部に設置され、検知用電波は便器下方に向かって発信されている。この便器に成人男性が放尿するとき、その尿流は便器の上方に位置し、尿流から尿速度計までの距離が比較的小さいので問題は生じない。
【0010】
ところが、この便器に身長の低い男児が放尿した場合、尿流が低い位置にあり尿速度計から尿流までの距離が大となるため、尿流を感知できないことがある。このような問題に対処するには、ドップラーセンサが発する電波の出力を上げて検知可能距離を伸ばせば良いのであるが、電波法の規制などにより、電波出力を一定値より上げることができないのが実状である。
【0011】
そこで、ドップラーセンサを便器下部に配置するとともに、検知用電波を斜め上方に向かって発信するようにしたものがある(例えば、特許文献3参照。)。このような小便器であれば、男児の低位置における尿流であってもドップラーセンサで捉えることが可能となる。
【0012】
ところが、特許文献3に記載の小便器のように、ドップラーセンサを便器下部に配置し、電波を斜め上方へ発信すると、その延長線上に蛍光灯などがあった場合、蛍光灯が発するノイズがドップラーセンサの受信部に混入し、センサの出力信号にノイズの影響が出る。
【0013】
そこで、帯域通過フィルタの出力信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去手段を設けたことにより、蛍光灯などからのノイズによって誤動作することがなくなり、洗浄水の無駄をなくすことができるようにしたものがある(例えば、特許文献4 参照。)。
【0014】
蛍光灯が発するノイズは商用電源に起因するものであり、商用電源周波数を基本周波数とし、その第2次高調波、第3次高調波までがセンサーに影響を与える。特許文献4では、ノッチフィルタを用いて既知の周波数のノイズを除去する方法と、適応フィルタを用いて未知の周波数のノイズ除去を行う方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】実開平2−69760号公報
【特許文献2】特許3740696号(請求項2)
【特許文献3】特開2002−285626号公報(図5)
【特許文献4】特開2004−293216号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
商用電源の周波数は東日本であれば50Hz、西日本では60Hzと異なっており、特許文献4のノッチフィルタを用いる方法では、設置する地域によってフィルタ回路部品を変える必要があり、地域別に異なる製品を用意しなければならない。
【0017】
さらに、特許文献4の適応フィルタを用いる方法においては、未知の周期性ノイズを除去することが可能とはなるものの、ノイズの位相特性の変化や振幅の変換によっては、フィルタ係数の逐次修正が必要となる。適応フィルタの係数変更が収束し、ノイズ除去効果を発揮するまでに時間がかかる。収束係数μを大きくすることで、収束までの時間を短くできるが、それと引き替えにノイズ除去性能が劣化してしまう。
【0018】
また、周波数を分析する手段には特許文献2のように、高速フーリエによる周波数スペクトルの極大値によって求めることもできるが、あらかじめ周波数範囲全体を網羅するように周波数ステップを設定し、全周波数ステップについて信号パワーの計算するので、大量の計算負荷を要する。
【0019】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、商用電源の周波数を設定するため特別な回路を付加することなく、ノイズ除去開始までの準備時間も不要で、マイクロ波ドップラーセンサーに混入するノイズを除去する方法を提供するとともに、検出対象物を高精度で検知することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、対象物に向け高周波を発信する送信手段と、前記対象物からの前記高周波の反射を受信する受信手段と、前記受信手段の受信出力から前記対象物のドップラー信号を検出するドップラー信号検出手段と、前記ドップラー信号の周波数スペクトルを計算し、その計算結果に基いて対象物の存在を判断する対象物判断手段とを備えたドップラーセンサ装置において、前記対象物判断手段は、前記ドップラー信号出力の大きさが連続して所定値以下を検出すると、周波数スペクトルの算出結果のピーク周波数から商用電源の周波数を判定して記憶するとともに、前記ドップラー信号出力の大きさが所定値を越えたことを検出すると、そのドップラー信号出力の周波数スペクトルの算出結果から前記の記憶した商用電源の周波数の帯域信号を除外して前記対象物の存在を判断することを特徴とする。
【0021】
従って、検出対象物を検出していないドップラー信号出力の大きさが連続して所定値以下の時に、周波数スペクトルの算出結果のピーク周波数から商用電源の周波数を判定しているため、商用電源周波数を判定するために設置地域に合わせた特別な設定を行う部品を付加する必要がない。
さらに、商用電源の周波数を記憶しておき、対象物が近づいてドップラー信号出力の大きさが所定値を越えたると電源ノイズを除去するので、適応フィルタのように連続的にノイズの変化に追従し、フィルタ係数を連続的に変化させる必要はなく、すぐにノイズ除去の効果を発揮することができる。このようにして。ドップラー信号から商用電源周波数に関連するノイズを容易に取り除くことができ、検知対象物を正確に検出することができる。
【0022】
また、好ましくは前記対象物判断手段は、パーティクルフィルターを使用してドップラー信号の周波数スペクトルを計算するものであって、前記パーティクルフィルターは、前記ドップラー信号出力の大きさが所定値を越えた目的周波数の周波数パワーを計算する複数のパーティクルを発生させる際に、前記の記憶した商用電源の基本周波数、ならびに基本周波数のN次高調波の周波数にはパーティクルを発生させないことを特徴とする。
従って、パーティクルフィルターを使用してドップラー信号の周波数スペクトルを計算する際に、問題となる電源ノイズ周波数の影響を選択的に取り除くことが可能となり、その周波数スペクトルを用いた対象物の検出精度を向上できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、商用電源の周波数判定を、対象物の判断と同じドップラー信号の周波数スペクトル検出手段を用いて行うことができるので、商用電源周波数を判定するために設置地域に合わせた特別な設定を行う部品を付加する必要がない。また、判定した電源周波数を記憶しておき対象物判断で利用するため、ドップラー信号から商用電源周波数に関連するノイズを容易に取り除くことができ、検知対象物を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のドップラーセンサ装置の構成図である。
【図2】本発明のドップラーセンサ装置を用いた便器洗浄装置のブロック図である。
【図3】人体の歩行時の周波数スペクトル図である。
【図4】検出対象物が無い状態の信号の周波数スペクトル図である。
【図5】人体接近時のドップラ信号の波形である。
【図6】周波数スペクトルから取り除く電源ノイズ周波数帯域を示す図である。
【図7】本発明の別実施形態のドップラーセンサ装置の構成図である。
【図8】パーティクル生成のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付図面を用いて、本発明の好ましい実施形態を説明する。図1は、本発明のドップラーセンサ装置の構成図であり、図2は、そのドップラーセンサ装置を用いた便器洗浄装置のブロック図である。
図2に示すように、便器装置10は、陶器製の小便器20と、給水部30と、排水部40と、給水制御装置50とを有する。小便器20は、使用者が小便をするものであり、上部覆い21と、尿及び洗浄水が流れるボール部22と、洗浄水の供給口23と、尿及び洗浄水の排水口24とを有する。上部覆い21には、本発明のドップラーセンサ装置としてのマイクロ波ドップラーセンサ60が外部に露出しない状態で内蔵される。ボール部22の上部覆い21の中央下部には排水口24が設けられて下部前面はリップ25により規定される。
【0026】
給水部30は、小便器20のボール部22内空間を洗浄するための水(洗浄水)を供給する給水管32と、この給水管32の中途部に配置されて小便器20への洗浄水の供給及びその停止を行うための開閉弁である電磁弁34とを有する。
【0027】
排水部40は、排水口24に接続された排水管42を有し、小便器20のボール部22を流れる尿や洗浄水を排水する。
【0028】
給水制御装置50は、マイクロ波ドップラーセンサ60と制御部70とを有する。マイクロ波ドップラーセンサ60は、小便器20の上部覆い21の内壁面の裏側に設けられた収納領域に取り付けられ、搬送波を送信し検出対象物で反射した受信波を検出する。本形態では、検出対象物は使用者や尿流である。マイクロ波ドップラーセンサ60は隠蔽されるので悪戯されにくい。
【0029】
マイクロ波ドップラーセンサ60が検出対象物である人体の接近を検出すると、制御部70は電磁弁34を開き、小便器20へ洗浄水を供給し、ボール部22の汚れの付着を防止するための前洗浄動作を行う。
【0030】
さらに、小便が終わった後、使用者が小便器20から離れると、制御部70は電磁弁34を開き、小便器20へ洗浄水を供給し、ボール部22の本洗浄動作を行う。
【0031】
したがって、小便器20の洗浄動作においては、マイクロ波ドップラーセンサ60によって検出対象物である使用者の接近と離反を検知する。
【0032】
次に図1に基いて、本発明のドップラーセンサ装置であるマイクロ波ドップラーセンサ60について詳細に説明する。図1の1は検出対象物であり、例えばマイクロ波ドップラーセンサー60に接近する人体である。2は高周波としてのマイクロ波を送信する送信手段であり、3はマイクロ波を受信する受信手段である。送信手段2で送信されたマイクロ波は、検出対象物1で反射し、受信手段3で受信される。送信手段2は、例えば10.525GHzのマイクロ波の搬送波を送出する。ドップラー信号検出手段5では、送信部2から送信した搬送波の信号と、受信手段3で受信した信号の差分成分を抽出し、検出対象物1の速度に比例したうなりの成分であるドップラー周波数ΔFを得る。4は対象物判断手段であり、ドップラー信号検出手段5で得られたドップラー信号から対象物の判定を行うものである。
【0033】
図3に、人体の歩行時の周波数スペクトル図を示す。この図3は人体が歩行してマイクロ波ドップラーセンサー60に近づいている場合の、ドップラー信号検出手段5で得られた信号の周波数スペクトル検出手段6によって分析した周波数スペクトルである。ドップラー信号の主成分周波数であるドップラー周波数ΔFを求めるには、周波数スペクトルのピーク、すなわち最も大きな信号強度を持つ周波数を求める。図3では、30Hz付近にピーク周波数が見られるので、ドップラー信号の主成分周波数は30Hzである。この例で人体は、数1に示すドップラー周波数ΔFと検出対象物の移動速度Vとの関係式により、ドップラーセンサーに対し約±0.43m/sの速度で移動していると推定できる。
【0034】
ここで、ドップラー信号の主成分の周波数を推定するために周波数スペクトルを計算するための周波数スペクトル検出手段6には、DFTやFFTなどのフーリエ級数を用いた分析手法を用いることができる。この他にも、ウェーブレット関数や自己回帰モデルなどを用いて周波数スペクトル分析をすることもできる。周波数スペクトルのピークを求めるには、観測周波数群から信号強度が最大になる周波数を選択して良いし、自己回帰モデルから直接ピーク周波数を求めても良い。
【0035】
また、ドップラー信号には、商用電源周波数に起因するノイズが含まれている。発生源は、電源の整流回路や、天井にある蛍光灯の安定器などである。図4は、検出対象物が無い状態の信号の周波数スペクトル図であり、西日本地域に設置したマイクロ波ドップラーセンサ60の周波数スペクトル図である。図4のドップラー信号の周波数スペクトル図には、商用電源の基本周波数である周波数60Hz、3次高調波である180Hz、5次高調波である300Hzに大きなピーク、さらに2次高調波である120Hz、4次高調波である240Hzにも小さなピークが見られる。いずれも商用電源に由来する基本周波数60Hz、もしくはそのN次高調波の電源ノイズである。電源ノイズで影響がある周波数は最大でも3次高調波までと見てよい。
【0036】
検出対象物が人体の場合は、歩行スピードは約0.2m/sから1m/s程度であるので、そのドップラー周波数は数式1により、14Hzから70Hzとなる。例えば、電源周波数の基本周波数が60Hzであるとすると、それは人体の0.86m/sの速度の歩行に相当し、2次高調波である120Hzの信号は、1.7m/sの小走りに相当する。ドップラー信号に商用電源の50Hz、もしくは60Hzの電源ノイズが混入すると、歩行する人体と誤検知する可能性がある。ドップラー信号に電源ノイズが混入すれば、検出対象物の判定に影響を与えるので避ける必要がある。
【0037】
さて図5は、人体接近時のドップラ信号の波形であり、検出対象物である人体が遠方よりドップラーセンサーへ接近したときのドップラー信号の時系列信号である。人体が遠くにあるときは振幅が小さい無信号区間となっており、人体がセンサーに近づくにつれ、振幅は次第に大きくなり、信号の周波数スペクトルに基く人体検知が行える検出区間となる。
【0038】
無信号区間では、検出人体の周波数成分と電源周波数ノイズとのS/N比が低くなっており、検出人体の周波数成分よりも、商用電源周波数に起因するノイズの方が支配的になる。そこで図1の本発明の商用電源周波数スペクトル検出手段7では、ドップラー信号検出手段5からの信号の振幅に閾値を設け、振幅が連続して閾値を下回ったら電源ノイズが支配的であると判断し、周波数スペクトル検出手段6の信号からピーク周波数を求めて、商用電源周波数の判定を行う。
【0039】
国内においては、東日本地域が50Hz、西日本地域が60Hzであるので、図1の商用電源周波数スペクトル検出手段7は、例えば周波数スペクトルの中に50Hz±5%の範囲にピーク周波数があれば、商用電源の基本周波数は50Hzと判定し、60Hz±5%の範囲にピーク周波数があれば、商用電源の周波数は60Hzと判定する。よって、設置場所がどのような地域であっても、正しく商用電源の基本周波数を判別することができる。
【0040】
さらに、東日本地域であれば、図1の商用電源周波数スペクトル検出手段7は、ピーク周波数が第2次高調波である100Hz、第3次高調波成分である150Hzのうちのいずれかの近傍にあることで、商用電源の基本周波数が50Hzであると判定することもできる。また、西日本地域であれば、ピーク周波数が120Hz、180Hzのうちのいずれかの近傍にあることで基本周波数が60Hzであると判定できる。このように、第2次高調波、第3次高調波成分でも商用電源周波数の基本周波数を明確に判別することができる。
【0041】
以上の商用電源の基本周波数の判別は、電源通電直後、もしくはセンサーの設置直後に行う。なお、検出できた商用電源の基本周波数は、制御部70の不揮発性メモリ(図示せず)内に保存するようにする。電源通電後に基本周波数を決定するので、その後の対象物の判定動作では電源ノイズの位相や振幅などの特性が変わったとしても、再度電源周波数の推定をする必要はなく、検知対象物の判定を継続して行うことができる。
【0042】
次に、図1の商用電源周波数スペクトル除外手段8では、得られた電源周波数の基本周波数を元に、周波数スペクトル検出手段6の周波数スペクトルから電源ノイズ成分の除去を行う。除去を行う電源ノイズとは、商用電源周波数の基本周波数ならびにN次高調波である。
【0043】
図6に周波数スペクトルから取り除く電源ノイズ周波数帯域を示す。図6中のハッチング部分は、商用電源周波数が50Hzのときの、周波数スペクトルから取り除くべきマスク領域である。対象物が人体の場合、影響が出るノイズの周波数は、せいぜい基本周波数、その第2次高調波、第3次高調波成分まである。
【0044】
除外するには除外範囲を設け、例えば中心周波数の±5%以内を除外する。東日本地域であれば、基本周波数である48Hzから53Hz、第2次高調波である95Hzから105Hz、第3次高調波である143Hzから158Hzである。
【0045】
最後に、対象物の判定手段では、電源ノイズを除外した周波数スペクトルのピーク周波数から検出対象物の移動速度を求める。例えばピーク周波数から算出した速度が、約0.2m/sから1m/s程度であれば、検出対象物が歩行する人体であると検出する。さらに、ピーク周波数の信号パワーに閾値を設け、あらかじめ決められた時間以上、信号パワーが閾値上回る値を継続したときのみ、前記の算出した検出対象物の速度を採用するようにする。
【0046】
次に、図7を用いて本発明の別実施形態のドップラセンサ装置を説明する。ドップラー信号検出手段5で得られたドップラー信号は、パーティクルフィルターを用いたドップラー信号の周波数スペクトル検出手段106で分析される。パーティクルフィルターは、検出対象物の状態を推定する複数のパーティクルの分布を求めることによって、検出対象物を判定する手法として知られている。各パーティクルでは推定結果の尤度を求め、再選定と生成を繰り返すことで検出対象物の真値に近い分布に近づける。本発明においては、各パーティクルは検出対象物の移動速度、すなわちドップラー周波数の推定値(状態)を保持し、その周波数の信号パワーの大きさを尤度としているので、パーティクルの再選定と生成を繰り返すことで、パーティクルはしだいに、ドップラー周波数スペクトルのピーク周波数周辺に生成されるようになる。よって、パーティクル分布の重心求めることで、ドップラー周波数の推定値を得る。
【0047】
図7の周波数パワー分析では、各パーティクル毎に前記信号パワーPwを計算する。
数式2に各パーティクルで計算を行うドップラー信号のパワーの計算式を示す。
【0048】
【数2】

【0049】
数式2は離散フーリエの式であって、X(jω)はドップラー信号に含まれる目的周波数ωkの信号パワー、ωは目的周波数、x(nT)はドップラー信号の時系列データ、fはサンプリング周波数である。
【0050】
さらに、数式3の絶対値計算から目的周波数の信号パワーPwを得る。XはXの実部、XはXの虚部である。
【0051】
【数3】

【0052】
図7のパーティクルの重み計算では、各パーティクルで得られた信号パワーPwから、数式4にて尤度評価する。
【0053】
【数4】

【0054】
βは尤度、c、mは対数で計算可能な範囲に収まるように設定する計算定数である。求めた尤度βは、数式5を用いて尤度全体の合計値が1になるように正規化し、各パーティクル毎に重みwとする。
【0055】
【数5】

【0056】
図7のパーティクルの選定では、パーティクルの重みwから、パーティクルを再選定する。パーティクルを選定するには、重み値wの大きなパーティクルほど高い確率で選定されるようにする。このことにより、重みwの大きなパーティクル、すなわちドップラー周波数スペクトルの信号強度が大きな、ピーク周波数付近のパーティクルほど優先的に選定されることになる。
【0057】
図7のパーティクルの重心計算では、選定された全パーティクルの周波数の重心を求める。得られた重心が検出対象物のドップラー信号の推定周波数となる。
【0058】
図7のパーティクルの生成では、再選定されたパーティクルを元に、次の時刻のパーティクルの分布を生成する。数式6に時刻のパーティクルの推定周波数を決定する式を示す。
【0059】
【数6】

【0060】
ωは現在時刻のパーティクルの推定周波数、ωt+1は生成する次の時刻のパーティクルの推定周波数であり、μはガウス分布である。検出対象物は、人などの移動物体なので移動速度が急激な変化することはない。よって、推定周波数のある時刻から次の時刻への変化は、ガウス分布に従う変動分のみとすることができる。
【0061】
前記生成したパーティクルから、再び周波数パワー分析を行い、前記手順を繰り返して新たな周波数のピーク周波数を得る。FFTやDFTなどの周波数分析手段では、検出したい周波数スペクトルのバンド幅を等間隔に分割し、それぞれの周波数で信号パワーの計算を行うので、必要とする周波数のピーク以外の、まったく関連の無い周波数も計算を行わなければならず無駄が生じる。また、FFTやDFTでより精度良くピーク周波数を得るためには、バンド幅の分割数を増やし、より多くの周波数ポイントで信号パワーを求める必要があり、さらに計算量が増えてしまう。一方、推定したいドップラー周波数は、理想的には一点の周波数であり、周波数スペクトルのピーク周波数以外は計算する必要がない。よって、本発明のパーティクル・フィルターを用いれば、ピーク周波数の近傍を集中的に分析し、ピーク周波数から離れた周波数の計算を無くすことができるので、ピーク周波数を精度良く求めるとともに、無駄な計算を減らすことができる。
【0062】
図7の商用電源周波数スペクトル検出手段では、ドップラー信号検出手段の信号の振幅を監視している。その振幅が閾値以下であれば無信号区間と判断し、前述のパーティクル・フィルターの重心計算から求めたドップラー周波数ピーク周波数から商用電源の基本周波数を推定する。例えば、商用電源周波数の基本周波数、第2次高調波、第3次高調波のいずれになるかで、商用電源の基本周波数を推定する。前述のピーク周波数が50Hz±5%、100Hz±5%、150Hz±5%のいずれかであれば、商用電源の波数は50Hzであるとし、60Hz±5%、120Hz±5%、180Hz±5%であれば商用電源の基本周波数は60Hzであるとする。
【0063】
図8に、図7のパーティクルの生成のフローチャートを示す。最初に数式6に基づいて次のパーティクルの周波数ωt+1を求める。次に、変更したωt+1が基本周波数近傍かどうか判定する。例えば前述のように基本周波数が50Hzと判定されれば、変更した周波数が50Hz±5%の範囲にあるかどうかで判定する。範囲にあれば再度数式6に基づいて、次のパーティクルの周波数ωt+1を求める。同様に、変更した周波数が第2次高調波の近傍かどうかを判定し、範囲にあれば再度周波数ωt+1を求める。同様に、変更した周波数が第3次高調波の近傍かどうかを判定し、範囲にあれば再度周波数ωt+1を求める。第3次高調波でもなければ電源周波数に関わる周波数ではないので、現在の周波数ωt+1を次のパーティクル・フィルターの周波数として採用する。
【0064】
このうような構成にすることにより、商用電源周波数の基本周波数、第2次高調波、第3次高調波を除いた周波数帯域にパーティクルを生成するので、パーティクルの分布は電源のノイズを除いた周波数スペクトルを形成し、そのパーティクルの分布の重心を求めれば、電源ノイズの影響を取り除くことができるので、ドップラー信号に混入した電源ノイズを誤って、対象物の移動速度のピーク周波数と誤検知することを防止できる。
【0065】
また、商用電源周波数スペクトル除外手段は、基本周波数、その第2次高調波、第3次高調波のうちのどれか、もしくはすべての周波数成分を周波数スペクトルから除外する。どの高調波を除外するかは、周波数スペクトルや使用条件から判断する。例えば、元のドップラー信号の周波数スペクトルに第3次高調波だけが大きく見られる場合は、第3次高調波だけを除外するようにする。また、特定の動作をした場合だけに電源ノイズが発生し、ドップラー信号に影響を与えるのであれば、その動作をする時間の間だけ、該当するノイズ周波数を除外するようにしてもよい。除外する周波数範囲をなるべく少なくすることで、検出対象物のドップラー周波数を精度良く判定することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 検出対象物
2 送信手段
3 受信手段
4 対象物判断手段
10 便器装置
20 小便器
30 給水部
32 給水管
34 電磁弁
50 給水制御装置
60 マイクロ波ドップラーセンサ
70 制御部
104 対象物判断手段
106 パーティクルフィルターを用いた周波数スペクトル検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に向け高周波を発信する送信手段と、前記対象物からの前記高周波の反射を受信する受信手段と、前記受信手段の受信出力から前記対象物のドップラー信号を検出するドップラー信号検出手段と、前記ドップラー信号の周波数スペクトルを計算し、その計算結果に基いて対象物の存在を判断する対象物判断手段とを備えたドップラーセンサ装置において、
前記対象物判断手段は、前記ドップラー信号出力の大きさが連続して所定値以下を検出すると、周波数スペクトルの算出結果のピーク周波数から商用電源の周波数を判定して記憶するとともに、前記ドップラー信号出力の大きさが所定値を越えたことを検出すると、そのドップラー信号出力の周波数スペクトルの算出結果から前記の記憶した商用電源の周波数の帯域信号を除外して前記対象物の存在を判断することを特徴とするドップラーセンサ装置。
【請求項2】
前記対象物判断手段は、パーティクルフィルターを使用してドップラー信号の周波数スペクトルを計算するものであって、前記パーティクルフィルターは、前記ドップラー信号出力の大きさが所定値を越えた目的周波数の周波数パワーを計算する複数のパーティクルを発生させる際に、前記の記憶した商用電源の基本周波数、ならびに基本周波数のN次高調波の周波数にはパーティクルを発生させないことを特徴とする請求項1記載のドップラーセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−64558(P2011−64558A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215103(P2009−215103)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】