説明

ドネペジル塩酸塩の内用液剤

【課題】製造しやすく、服用が容易で、安全なドネペジル塩酸塩の内用液剤を提供する。
【解決手段】ドネペジル塩酸塩の内用液剤は、ドネペジル塩酸塩と、D−ソルビトールと、エデト酸カルシウム塩と、プロピレングリコールとを含有する。ドネペジル塩酸塩の濃度は1.0mg/mL以上5.0mg/mL以下である。D−ソルビトールの濃度は20w/v%以上60w/v%以下である。プロピレングリコールの濃度が5w/v%以上30w/v%以下である。また、ドネペジル塩酸塩の内用液剤のpHは3.0以上6.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはドネペジル塩酸塩を主成分として含む医療用医薬品である内用液剤に関し、特定的には、使い勝手のよい一回毎の用量が容器に分包充填されたドネペジル塩酸塩の医療用内用液剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドネペジル塩酸塩は、アルツハイマー病の治療薬であり、患者には経口的に投与されている。本剤の投与対象者であるアルツハイマー病の患者は高齢者である場合が多い。高齢者においてはアルツハイマー病の進行やアルツハイマー病以外に、老化や種々の他疾患の影響で、嚥下機能の低下の認められることが多い。嚥下機能の低下は嚥下障害と称されることが多い。嚥下障害の患者にとっては、通常の食物は勿論のこと、固形物である通常の錠剤やカプセル剤を飲み込むことが困難である。そこで、ドネペジル塩酸塩については通常の錠剤と細粒剤に加え、口腔内で唾液によって容易に崩壊し、流動物に変化することで、飲み込みを容易にする易崩壊性の口腔内崩壊錠が既に開発されている。
【0003】
しかし、嚥下障害の程度は病態や老化の進行によって差が大きい。細粒剤や易崩壊性製剤さえも服用が困難な患者も見られる。特に高齢者では唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾燥していることが多く、口腔内崩壊錠といえども口腔内では容易に崩壊せず、長時間口腔内に残留することが多々、経験される。細粒剤は水と共に服用することが必要であるが、水とともに服用することは、誤嚥の原因となることがある。また服用後、いつまでも細粒剤の一部が口腔内に残存し、異物感を訴えることがある。
【0004】
そのため、さらに服用が容易な形状のドネペジル塩酸塩製剤が求められている。最近になってドネペジル塩酸塩のゼリー剤が開発された。ゼリー剤とは、食品のゼリーに類似の物性を示すものであり、水分を多量に含み、少量ずつならば容易に飲み込むことができる。
【0005】
一方、嚥下障害が進行し、経口的な飲食物摂取がより困難になった患者では、鼻から細い管を胃に挿入する経鼻胃管や、体外から直接胃に穴をあけてチューブを挿入する「胃ろう」から液体状食品を胃に送り込む経管栄養法が採用される。このような患者に固形の内用薬物を投薬する場合には、錠剤を粉砕して少量ずつ経口的に投与する方法も採用される。さらに、粉砕した錠剤やカプセルから取り出した内容物を水に溶解・懸濁させたり、あるいは錠剤、カプセルをそのまま温水に懸濁させて経鼻胃管や胃ろうチューブから投与する方法が採られる。
【0006】
上述のドネペジル塩酸塩ゼリー剤は嚥下障害の患者に対する経口投与には便利である。しかし、細いチューブを用いて投与する場合には管内に詰まったり、管内壁に付着したりといった不都合が生じる。そのため、経鼻胃管や胃ろうの患者にとってチューブからの投薬には満足できる製剤ではなかった。
【0007】
このように、嚥下障害の患者にも容易に経口服用可能で、さらに経鼻胃管や胃ろうチューブを通した経管投与も可能なドネペジル塩酸塩製剤の開発が望まれている。
【0008】
上述の状況を鑑みると、ドネペジル塩酸塩の液状製剤が有用であると考えられる。但し、液状製剤については水のように粘度の低いものを嚥下障害患者に与えると、気管・気管支へ誤嚥し、むせることが知られている。場合によっては誤嚥性肺炎等を惹起することもある。一方、粘度が高すぎると抵抗が大きくなり、チューブからの投与には適さない。そのため、嚥下障害者のためには適度な粘性を有する液状製剤でなければならない。
【0009】
さらに、医療用医薬品とするためには長期間の保存安定性や光安定性を担保しなければならない。
【0010】
例えば、特開平11−106353号公報(特許文献1)には、塩酸ドネペジルと有機酸からなる光安定化した抗痴呆薬組成物が記載されている。
【0011】
特開2000−136134号公報(特許文献2)には、薬物の不快な味を軽減し、さらに沈殿、分解物の生成を抑制することを目的として、塩酸ドネペジル、ポリビニルピロリドンおよび/またはコポリビドン、プロピレングリコールおよび/またはD−ソルビトールからなる液剤が記載されている。
【0012】
特開2008−195714号公報(特許文献3)には、ドネペジルまたはその薬理学的に許容され得る塩を含有する医薬組成物であって、保存安定性が改善された医薬組成物を提供することを目的として、医薬組成物中にドネペジルまたはその薬理学的に許容され得る塩と天然高分子物質と、エデト酸塩をさらに含む医薬組成物が記載されている。
【0013】
また、ドネペジル塩酸塩製剤の特異な苦味や痺れ感(以下、苦味とする)を緩和する必要がある。ドネペジル塩酸塩液状製剤における味の改善法としてはアニオン性高分子を添加する方法や無水ケイ酸を使用する方法が挙げられる。
【0014】
例えば、特開2005−41887号公報(特許文献4)と特開平11−228450号公報(特許文献5)には、アニオン性高分子物質を含む、塩酸ドネペジルのシロップ剤またはゼリー剤が記載されている。
【0015】
特開平11−92402号公報(特許文献6)には、塩酸ドネペジルと、陽電荷を有する親水性物質と、アニオン性高分子物質を含有する製剤組成物が記載されている。また、製剤組成物としてシロップ剤を得るには、ソルビトール等の甘味剤を添加し得ることが記載されている。
【0016】
また、特開平11−106354号公報(特許文献7)には、塩酸ドネペジルに無水ケイ酸を配合した液剤が記載されている。また、液剤に、さらにソルビトール等の甘味剤を加えることができることが記載されている。
【0017】
国際公開第2005/097124号(特許文献8)には、ソルビトールとプロピレングリコールとを含有するドネペジル塩酸塩の経口液剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平11−106353号公報
【特許文献2】特開2000−136134号公報
【特許文献3】特開2008−195714号公報
【特許文献4】特開2005−41887号公報
【特許文献5】特開平11−228450号公報
【特許文献6】特開平11−92402号公報
【特許文献7】特開平11−106354号公報
【特許文献8】国際公開第2005/097124号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1〜3と特許文献8に記載の液剤や医薬組成物では、適切な粘度を有すること、長期間安定であること、かつ、苦味を呈さない液状であることを両立させることが難しい。
【0020】
また、特許文献4〜6に記載されているような、アニオン性高分子物質を含有する液剤については、次のような問題がある。すなわち、一般的にアニオン性高分子物質は粉末状を呈するため、液状製剤の製造においては溶解工程で手間取ることが多い。そのため製造工程が複雑になり、作業効率的に望ましいものではない。
【0021】
一方、特許文献7に記載されている液剤は無水ケイ酸を含有するが、無水ケイ酸は水不溶性であり、均一な内用液剤に処方する場合は沈殿を生じるため、避けるべき添加物である。
【0022】
そこで、この発明の目的は、従来の細粒剤や口腔内崩壊錠、ゼリー剤よりもさらに製造しやすく、服用が容易で、安全なドネペジル塩酸塩の内用液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、適切な粘度を有し、長期間安定で、かつ、苦味を呈さない液状のドネペジル塩酸塩製剤を提供するために、鋭意検討した。その結果、1.0mg/mL以上5.0mg/mL以下のドネペジル塩酸塩と、D−ソルビトール、プロピレングリコール、エデト酸カルシウム塩と、防腐剤とを含有する水溶液のpHを3.0から6.0に調整した製剤が有用であることを見出した。
【0024】
特に、ドネペジル塩酸塩濃度を1.0mg/mL以上とすることによって、臨床的に服用する液量が少量となり、嚥下障害のある患者にとっても服用の困難さを感じることが少なく都合がよい。一方、ドネペジル塩酸塩濃度を5.0mg/mL以上にすると、臨床用量の最低量である3mgを服用する場合には、0.6mL以下の液剤を容器から取り出し、服用することになる。しかしながら、一般的にそのような少量の液剤を正確に取り扱うことは容易ではない。
【0025】
ところで、患者の嚥下障害の有無や程度を見極める臨床的な試験法の1つに3mLの水を飲む試験法がある。このことから容易に推測できるように、たとえ嚥下障害があっても、3mL程度の液体ならば誤嚥しても重大な危険性はないものと考えられる。そのため、患者自身が1回に服用する内用液剤の用量としては、取り扱いが容易で、安全性に問題の少ない液量である0.6mL以上3.0mL以下程度が望ましいと考えられる。本発明者らは、このことを基に、以下の検討をした。
【0026】
(ドネペジル塩酸塩の濃度)
ドネペジル塩酸塩の臨床的な用法・用量は1日1回3mg以上10mg以下である。したがって、ドネペジル塩酸塩濃度が1.0mg/mL以下では、臨床使用量10mg/回に対応する薬物量を服用するためには10mL以上の内用液を服用する必要がある。しかし、高度な嚥下障害を呈する患者にとっては10mLの液体を安全に服用することは容易ではない。
【0027】
一方、ドネペジル塩酸塩濃度が5.0mg/mL以上の濃度では、臨床使用量3mg/回に対応する薬物量を服用するためには0.6mL以下の内用液を服用しなければならない。しかしながら、このような少量の液体を正確に服用することは健常人でも容易ではない。特にアルツハイマー病の患者は高齢者が多く、たとえ1回分毎に分包されている製剤であっても分包内に少量の服用残りがあったり、服用時にこぼしたりすることがあるために、正確に0.6mL以下の液体を服用することは困難である。
【0028】
以上のように、内用液のドネペジル塩酸塩濃度としては1.0mg/mL以上5mg/mL以下が適切である。さらに、ドネペジル塩酸塩濃度が2.0mg/mL以上4.0mg/mL以下であれば、臨床汎用量である5mg/回のドネペジル塩酸塩を服用する場合に、1.25mL以上2.5mL以下のドネペジル塩酸塩濃度内用液剤を服用すればよいこととなる。このように、ドネペジル塩酸塩濃度が2.0mg/mL以上4.0mg/mL以下のドネペジル塩酸塩内用液は1回の服用量が少量で済み、嚥下障害患者にも服用しやすい製剤と考えられる。
【0029】
また、ドネペジル塩酸塩濃度が2.0mg/mLであれば、10mg/回のドネペジル塩酸塩を服用する場合、1回の服用量は5mLである。10mg/回のドネペジル塩酸塩を服用する患者は高度のアルツハイマー病患者に限定されている。そのような患者には介護者が付き添って投薬することになると考えられる。そこで、どの家庭にもある大スプーンを用いて服用が可能な5mL程度までならば、誤嚥の危険性が低い利便性の高い製剤といえる。
【0030】
(ドネペジル塩酸塩の溶解性)
各種pHの希釈McIlvaine緩衝液を用いてドネペジル塩酸塩の飽和溶液を作製し、25℃の室内で、24時間攪拌後、0.2μmフィルターでろ過した。ろ液中のドネペジル塩酸塩濃度を超高速液体クロマトグラフィーで定量してドネペジル塩酸塩のpH−溶解度曲線を調べた。
【0031】
図1は、ドネペジル塩酸塩のpH−溶解度曲線を示す図である。図1に示すように、ドネペジル塩酸塩はpH2〜6付近において高い溶解度を示し、中性からアルカリ性では極めて低い溶解度であった。
【0032】
(ドネペジル塩酸塩の安定性)
次に、様々なpHのドネペジル塩酸塩溶液について、ドネペジル塩酸塩の熱安定性と光安定性とを調べた。ドネペジル塩酸塩の熱安定性を調べるために、各種pHで溶解したドネペジル塩酸塩溶液を白色のガラスアンプルに充填して、40℃で6ヶ月間保存した後にドネペジル塩酸塩の残存率を超高速液体クロマトグラフィー法(UPLC法)で測定した。また、光安定性を調べるために、各種pHで溶解したドネペジル塩酸塩溶液を白色のガラスアンプルに充填して、1800lxの光の照射下で2週間保存した後にドネペジル塩酸塩の残存率を超高速液体クロマトグラフィー法(UPLC法)で測定した。
【0033】
ドネペジル塩酸塩残存率は、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。検出器としては、紫外吸光光度計検出器(測定波長:271nm)を用いた。カラムは、内径3.0mm、長さ100mmのステンレス管に2.2μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したものを用いた。カラム温度は、40℃付近の一定温度とした。流量は、0.5mL/minとした。移動相としては、アセトニトリル・トリエチルアミンでpH3.0に調整したリン酸塩水溶液混液(76:24)を用いた。希釈液としては、アセトニトリル・水混液(1:4)を用いた。注入量は、10μLであった。
【0034】
図2は、様々なpHのドネペジル塩酸塩溶液について、40℃で6ヶ月間保存した後のドネペジル塩酸塩の残存率と、1800lxの光照射下で2週間保存した後のドネペジル塩酸塩の残存率を示す図である。
【0035】
図2に示すように、ドネペジル塩酸塩溶液は、熱に対してはpH6以下でドネペジル塩酸塩の高い残存率を示した。一方、1800lxの光の照射下で2週間保存した場合、pH4以上pH6以下の溶液については比較的安定であった。一方、それ以外のpHの溶液ではドネペジル塩酸塩の残存率が低く、光に対して不安定であることが示唆された。
【0036】
また、類縁物質の状況については、40℃で6ヶ月間保存した場合における総類縁物質生成量をUPLC法で測定した。
【0037】
類縁物質の生成量は、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。検出器としては、紫外吸光光度計検出器(測定波長:286nm)を用いた。カラムは、内径2.1mm、長さ100mmのステンレス管に1.7μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したものを用いた。カラム温度は、50℃付近の一定温度とした。流量は、0.5mL/minとした。移動相Aとしては、トリエチルアミンでpH6.5に調整した0.1%リン酸水溶液を用いた。移動相Bとしては、アセトニトリルを用いた。希釈液としては、アセトニトリル・水混液(1:1)を用いた。注入量は、5μLであった。
【0038】
グラジエント条件は、初期濃度をA90%、B10%とし、最初の6分間でAは90%から50%、Bは10%から50%、次の4分間、すなわち、6分から10分の間でAは50%から20%、Bは50%から80%、続いて10分から10.1分の間にAは20%から90%、Bは80%から10%、最後に、10.1分から12.5分の間にAは90%、Bは10%とするグラジエントを採用した。
【0039】
類縁物質の含量は、ドネペジルのピーク面積と類縁物質のピーク面積との比から算出した。
【0040】
図3は、様々なpHのドネペジル塩酸塩溶液について、50℃で2週間保存した場合の類縁物質の生成量を示す図である。
【0041】
図3に示すように、加熱によって生成する類縁物質を少なくするためには、ドネペジル塩酸塩溶液はpH3以上pH6以下の範囲が好ましいことがわかった。特に、pH4〜5の範囲では類縁物質の生成が少なかった。
【0042】
以上のように、図1の結果から、主薬の溶解性については、ドネペジル塩酸塩溶液はpH6以下が適していることがわかった。また、図2の残存率の結果から、主薬の安定性についてドネペジル塩酸塩溶液は光に暴露しない場合はpH3〜pH6の範囲が適していることがわかった。さらに図3の結果から、類縁物質の生成を抑制するためにもドネペジル塩酸塩溶液はpH3〜pH6が適していることがわかった。
【0043】
以上の結果から、ドネペジル塩酸塩内用液剤のpHは3以上6以下が適しており、さらにpH4以上pH5以下で遮光包装とすることが最も適していると結論された。
【0044】
(安定化剤のスクリーニング)
無機酸緩衝系(リン酸塩)をベース処方として、安定化剤のスクリーニングを行った。
【0045】
リン酸塩緩衝液を用いて0.2w/v%ドネペジル溶液(pH3.5 塩酸調整)を作製した。添加剤としては、ソルビトール、エタノール、プロピレングリコール、エデト酸カルシウム塩として具体的にはエデト酸カルシウム二ナトリウム(以後、EDTA・Caとする)、マクロゴール400を用いた。添加剤を加える場合には、EDTA・Caを除き、それぞれの添加剤の最終濃度が10w/v%になるように(EDTA・Caは0.1w/v%)添加した。その後、50℃で3週間保存した。3週間後に類縁物質を定量し、総類縁物質生成量を比較した。結果を表1に示す。表1において、「○」は、添加されている添加剤を示し、「−」は、添加されていない添加剤を示す。例えば、対照としたNo.1の試料においては、ドネペジル溶液を水に溶解したのみで、添加剤を添加しなかった。No.2の試料には、添加剤としてはソルビトールのみを添加した。No.10の試料には、添加剤としてソルビトール、エタノール、プロピレングリコールを添加した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、ソルビトール、エタノールおよびプロピレングリコールを単独で使用した場合において、総類縁物質含量が相対的に少なく、安定性が向上する効果が確認された。また、EDTA・Caを単独で使用した場合においても熱安定性の向上が見られた。一方、マクロゴール400を添加した場合には逆に、熱安定性を低下させることが示唆された。
【0048】
また、添加剤を組み合わせることにより、安定化を向上させる効果が示唆された。No.7〜11の試料は良好な安定性を示した。特に、EDTA・Caをソルビトール、プロピレングリコールと組み合わせて添加したNo.11の処方については、対照(No.1の試料)と比較して顕著な安定性の向上効果が観察された。
【0049】
さらに粘度と味覚の要因を加味して、防腐剤を含めた添加剤による安定性の効果の検討を行った。
【0050】
(D−ソルビトール濃度)
嚥下障害の患者にとっては、水のように粘度の低い液体を飲むことは容易ではなく、気管内へ誤嚥してしまうことの多いことが知られている。そのため、それらの患者を対象とした市販流動食の粘度は2〜20000mPa・sに設定されており、特に5〜100mPa・sのものが多い。ドネペジル塩酸塩内用液剤についても、嚥下障害の患者の服用を主としていること考えると、流動食と同程度の粘度である5〜100mPa・sが適している。一方で、胃ろうや経鼻胃管による経管投与の場合を考えると、極度に粘度の高い液体はチューブ内で詰まる危険性があり、細いチューブも容易に通過できるためにはできるだけ低い粘度であることが望ましく、総合的には5〜20mPa・sが適している。
【0051】
またドネペジル塩酸塩は特徴的な苦味を呈するため、甘味料等を添加することによる矯味が必要である。各種甘味料等を0.1〜10w/v%、または、微量のパラベン類を配合した場合における主薬の安定性について、60℃、10日間保存した場合に生成した類縁物質総量を検討する配合試験を実施した。
【0052】
図4は、各種の添加物を配合したドネペジル塩酸塩溶液を60℃で10日間保存したときの総類縁物質含有量を示す図である。
【0053】
図4に示すように、D−ソルビトール、エタノール、プロピレングリコール、パラベンメチルとパラベンプロピルについては類縁物質の生成量が少なく、安定性に悪影響を及ぼさないことが認められた。それらの中でもD−ソルビトールの矯味作用が良好であった。エタノールについては体質的にアルコールに対して耐性のない患者が存在することやプロピレングリコールは配合量が高くなると、特有の苦味を呈する。したがって、矯味剤としてはD−ソルビトールが最も適しているものと考えられた。
【0054】
さらに、上述のように5〜20mPa・sの粘度が最も好ましいものと考えられたことから、その粘度を付与する検討を行った。なお、粘度の測定は25℃室温下で、B型粘度計を使用して行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
増粘剤としてポビドンとD−ソルビトールについて検討したところ、ポビドンとD−ソルビトールを配合した場合には、処方1と処方3の両処方において目的とする粘度が得られた。しかしポビドンは水に溶け難く、溶解するには時間がかかることから、実際の製造においてはポビドンを使用しない方が望ましいと考えられた。
【0057】
一方、ポビドンを使用せず、D−ソルビトールを増やして40%とした場合(処方2)にも、8.0mPa・sの粘度が得られた。このことから、ポビドンを使用しなくても目的とする粘度の得られることが明らかにされた。
【0058】
以上の知見に基づいて、この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、次のように構成される。
【0059】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、ドネペジル塩酸塩と、D−ソルビトールと、エデト酸カルシウム塩と、プロピレングリコールとを含有する。ドネペジル塩酸塩の濃度は1.0mg/mL以上5.0mg/mL以下である。D−ソルビトールの濃度は20w/v%以上60w/v%以下である。プロピレングリコールの濃度が5w/v%以上30w/v%以下である。また、ドネペジル塩酸塩の内用液剤のpHは3.0以上6.0以下である。
【0060】
D−ソルビトールは甘味作用を有することから、ドネペジル塩酸塩の内用液剤においてできるだけ高濃度であることが望まれる。しかしながら、ドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度が60w/v%以上の場合、開封して室内等に放置したときに結晶が析出しやすい。また、ドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度が20w/v%未満ではドネペジル塩酸塩の苦味を矯味できない。これらを勘案して、ドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度が20w/v%以上60w/v%以下である。
【0061】
ドネペジル塩酸塩の内用液剤には保存料を添加することが望ましい。保存料としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなど(以下、パラベン類とする)を有効濃度添加することが望ましい。一方、パラベン類は水に解け難い。そのため、実際の製造時にパラベン類を水にとかすことは手間のかかる作業となる。そこで、初めにパラベン類を水以外の易溶性の溶媒に溶解させる。このようにすることにより、ドネペジル塩酸塩の内用液剤の製造が容易になる。本発明による内用液剤に用いるパラベンの易溶性溶媒としては、配合性試験の結果、ドネペジル塩酸塩の安定性に影響を及ぼさないプロピレングリコールが適していると判断された。しかしながら、プロピレングリコールは30w/v%以上の高濃度では舌に収斂性の刺激を与える。そこで、ドネペジル塩酸塩の内用液剤中のプロピレングリコールの濃度は、パラベン類の溶解に十分な量であり、かつ味に悪影響を及ぼさない濃度として、5w/v%以上30w/v%以下である。
【0062】
また上述のように、主薬の溶解性については、ドネペジル塩酸塩溶液はpH6以下が適している。また、主薬の安定性についてドネペジル塩酸塩溶液は光に暴露しない場合はpH3〜pH6の範囲が適している。さらに、類縁物質の生成を抑制するためにもドネペジル塩酸塩溶液はpH3〜pH6が適している。そこで、ドネペジル塩酸塩の内用液剤のpHは3.0以上6.0以下である。
【0063】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤においては、エデト酸カルシウム塩の濃度が0.04mg/mL以上4.0mg/mL以下であることが好ましい。
【0064】
ドネペジル塩酸塩の内用液剤には保存のために保存料を添加することが望ましい。ドネペジル塩酸塩の内用液剤中の保存料の濃度は、有効性と安全性の観点から、一般的に医薬品の保存料として使用される範囲であることが望ましい。すなわち、ドネペジル塩酸塩の内用液剤中のエデト酸カルシウム塩の濃度が0.04mg/mL以上4.0mg/mL以下であることが好ましい。
【0065】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、および、パラオキシ安息香酸ブチルの少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0066】
ドネペジル塩酸塩の内用液剤には、長期間カビなどの発生を防止するために、保存料を添加することが望ましい。保存料としては、ドネペジル塩酸塩の安定性に影響を及ぼさず、味にも悪影響がなく、かつ医薬品の保存料として汎用されるものが望ましい。そこで、保存料としては医薬品に使用前例のある上述のパラベン類の少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0067】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、25℃における粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましい。
【0068】
嚥下が困難な患者に処方されることを目指している。嚥下障害の患者が服用し易い液体の粘度についての定説は見当たらないが、水(1mPa・s)はむせ易く、トロミをつけたお茶はむせが少ないといわれている。一般的な市販流動食は25℃における粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下のものが多い。それらの市販流動食が嚥下障害の患者に受け入れられていることを鑑み、それらの粘度に近いことが、有用と考えられる。そのため、5mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましい。
【0069】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、1回分の服用量が、金属箔ラミネートプラスチックフィルムまたは遮光性金属蒸着可塑性フィルムによって形成される包装体内に収容されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0070】
以上のように、この発明によれば、製造しやすく、服用が容易で、安全なドネペジル塩酸塩の内用液剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ドネペジル塩酸塩のpH−溶解度曲線を示す図である。
【図2】様々なpHのドネペジル塩酸塩溶液について、40℃で6ヶ月間保存した後のドネペジル塩酸塩の残存率と、1800lxの光照射下で2週間保存した後のドネペジル塩酸塩の残存率を示す図である。
【図3】様々なpHのドネペジル塩酸塩溶液について、類縁物質の生成量を示す図である。
【図4】甘味料等を添加したドネペジル塩酸塩溶液を60℃で10日間保存したときの総類縁物質含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
【0073】
この発明の一つの実施の形態のドネペジル塩酸塩の内用液剤は、ドネペジル塩酸塩と、D−ソルビトールと、エデト酸カルシウム塩と、プロピレングリコールとを含有する。ドネペジル塩酸塩の濃度は1.0mg/mL以上5.0mg/mL以下である。D−ソルビトールの濃度は20w/v%以上60w/v%以下である。プロピレングリコールの濃度が5w/v%以上30w/v%以下である。また、ドネペジル塩酸塩の内用液剤のpHは3.0以上6.0以下である。
【0074】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤においては、エデト酸カルシウム塩の濃度が0.04mg/mL以上4.0mg/mL以下であることが好ましい。
【0075】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、および、パラオキシ安息香酸ブチルの少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0076】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、25℃における粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましい。
【0077】
この発明に従ったドネペジル塩酸塩の内用液剤は、1回分の服用量が、金属箔ラミネートプラスチックフィルムまたは遮光性金属蒸着可塑性フィルムによって形成される包装体内に収容されていることが好ましい。金属箔ラミネートプラスチックフィルムとしては、例えば、アルミニュウムラミネートポリエチレンフィルムが用いられる。また、遮光性金属蒸着可塑性フィルムとしては、例えば、アルミニウムを蒸着させたプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の可塑性素材によって構成されるフィルムが用いられる。
【0078】
以上のように、この発明によれば、製造しやすく、服用が容易で、安全なドネペジル塩酸塩の内用液剤を提供することができる。
【実施例】
【0079】
本発明者らは主薬の物理化学的安定性、服用可能な味であるか、適度な粘度を有するかといった3点を指標として最適な処方を検討した。物理化学的安定性は超高速液体クロマトグラフィーで主薬残存量と類縁物質の生成を指標として検討した。各々の測定条件は前述の通りである。同時に析出物・沈澱の有無を肉眼的に観察した。味覚については後述のように官能的評価とした。粘度はB型回転粘度計で検討した。以下に実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0080】
(実施例1)
表3に示す処方でドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。すなわち、パラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピルをプロピレングリコールに溶解し、調製液Iを調製した。これとは別にリン酸2水素ナトリウム2水和物、エデト酸カルシウム二ナトリウム塩、スクラロース、ドネペジル塩酸塩を精製水約250mLに溶解し、さらにD−ソルビトール液を加えて調製液IIを調製した。調製液IIに調製液Iを加えた後にpHを測定しながらリン酸を加え、pH4.0に調整した。その後精製水を加え、全量を1Lとした。実施例1のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0081】
【表3】

【0082】
この内用液剤の粘度は8.1mPa・sであった。健康成人3名が各々、本品2.5mLを経口的に服用した場合に苦味はなく、容易に飲み下すことができた。さらに本品をアルミニュウムラミネートポリエチレンフィルムから構成されるスティック包装に充填し、40℃、4ヶ月間保存した後、ドネペジル塩酸塩と類縁物質の含有量測定した。ドネペジル塩酸塩含量は98.7%であり、総類縁物質は0.5%であった。
【0083】
そのため、実施例1によって得られたドネペジル塩酸塩のスティック包装内用液剤は医療上有用性の高い製剤であると考えられた。
【0084】
(比較例1)
実施例1に記載した処方のなかで、D−ソルビトール液を200g(D−ソルビトールとして140g)に変更して、表4に示す処方で、実施例1と同様にドネペジル塩酸塩のスティック包装内用液剤を調製した。比較例1のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は14w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0085】
【表4】

【0086】
その結果、得られた内用液剤は苦味を呈し、粘度は3.4mPa・sと低い値であり、嚥下障害の患者にとって、必ずしも容易に服用できる製剤ではなかった。
【0087】
(比較例2)
表5に示すように、実施例1に記載した処方で、実施例1と同様の製造方法を用いて、ドネペジル塩酸塩のスティック包装内用液剤を調製した。10%水酸化ナトリウム溶液を用い、pHのみ7.0とした。比較例2のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0088】
【表5】

【0089】
本品は苦味等を呈することはなかったが、本品を40℃で3ヶ月間保存した結果、ドネペジル塩酸塩含量は95.3%、総類縁物質は3.4%であり、安定性に問題のあることが示唆された。
【0090】
(比較例3)
表6に示すように、実施例1に記載した処方で、実施例1と同様の製造方法を用いドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。但し、リン酸を用いpHのみ2.0とした。比較例3のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0091】
【表6】

【0092】
本品を40℃、3ヶ月間保存した結果、ドネペジル塩酸塩含量は95.1%、総類縁物質は2.9%であり、安定な製剤ではなかった。
【0093】
(比較例4)
表7に示すように、実施例1に記載した処方のなかでプロピレングリコールを40gとして、実施例1と同様にドネペジル塩酸塩のスティック包装内用液剤を調製した。但し、調製液Iの製造においてパラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピルの溶解が困難であり、それらは調製液IIとの混合時に45℃に加温、撹拌することで溶解させた。比較例4のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は4w/v%であった。
【0094】
【表7】

【0095】
得られた内用液剤を40℃で1ヶ月間保存し、類縁物質の生成量を検討した結果、総類縁物質が1.9%であり、保存安定性に問題のあることが示唆された。
【0096】
(比較例5)
表8に示すように、実施例1に記載した処方のなかで、プロピレングリコールを350gとし、実施例1と同様にドネペジル塩酸塩内用液剤を調製した。比較例5のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は35w/v%であった。
【0097】
【表8】

【0098】
その結果得られたドネペジル塩酸塩の内用液剤は強い苦味を呈し、経口的に内服するには不適当であると考えられた。
【0099】
(実施例2)
表3に記載した処方のなかで、プロピレングリコールを150gとし、D−ソルビトール液およびパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル配合量を変えた表9に示す処方で実施例1と同様にpH5.0のドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。実施例2のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は35w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は15w/v%であった。
【0100】
【表9】

【0101】
得られた内用液剤の粘度は7.4mPa・sであった。本品2.5mLを健康成人が経口的に服用した場合に僅かな苦味が感じられたが、容易に飲み下すことができた。
【0102】
さらに本品を室温で1年間保存した結果、ドネペジル塩酸塩含量は98.3%、総類縁物質は0.7%であり、医療上有用性の高い製剤であると考えられた。
【0103】
(比較例6)
表10に示すように、実施例1に記載した処方のなかでプロピレングリコール150gの全量をマクロゴール400に置き換えて、実施例1と同様にpH4.0のドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。比較例6のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であった。
【0104】
【表10】

【0105】
得られたドネペジル塩酸塩スティック包装内用液剤の安定性を検討した。その結果、40℃、3ヶ月保存で含量が93.7%となり、総類縁物質も4.5%に上昇し、医薬品として安定な製剤ではなかった。
【0106】
(実施例3)
表11に示すように、実施例1と同様に表3に記載した処方で、pHのみ3.0に調整したドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。実施例3のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0107】
【表11】

【0108】
得られた内用液剤の粘度は8.0mPa・sであった。健康成人3名が各々、本品2.5mLを経口的に服用した場合に苦味はなく、容易に飲み下すことができた。さらに本品をアルミニュウムラミネートポリエチレンフィルムから構成されるスティック包装に充填し、40℃、4ヶ月間保存した結果、ドネペジル塩酸塩含量は97.7%であり、総類縁物質は0.9%であった。そのため、実施例3によって得られたドネペジル塩酸塩のスティック包装内用液剤は医療上有用性の高い製剤であると考えられた。
【0109】
(比較例7)
表12に示すように、実施例1の処方のなかでEDTA・Caのみ除いた製剤を実施例1と同様に調製することでpH4.0のドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。比較例7のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は40w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は10w/v%であった。
【0110】
【表12】

【0111】
得られたドネペジル塩酸塩スティック包装内用液剤の安定性を検討した。その結果、40℃、3ヶ月保存で総類縁物質が4.5%に上昇し、医薬品として安定な製剤ではなかった。
【0112】
(実施例4)
表13に記載した処方で実施例1と同様にドネペジル塩酸塩の内用液剤を調製した。実施例4のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は35w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は15w/v%であった。
【0113】
【表13】

【0114】
得られた内用液剤の粘度は18.5mPa・sであった。また本品2.5mLを健康成人が経口的に服用した場合に苦味はなく、容易に飲み下すことができた。さらに本品を40℃で2ヶ月間保存した結果、ドネペジル塩酸塩含量は98.7%、総類縁物質は0.4%であり、医療上有用性の高い製剤であると考えられた。
【0115】
(実施例5)
表14に示すように、同様にポビドン8.0gをキサンタンガム4.0gに置き換えた処方で検体を調製した。実施例5のドネペジル塩酸塩の内用液剤中のD−ソルビトールの濃度は35w/v%であり、プロピレングリコールの濃度は15w/v%であった。この場合、ポビドンを用いた実施例4と同様に、医療上有用性の高い製剤であると考えられた。
【0116】
【表14】

【0117】
以上のように、この発明によれば、嚥下障害を有する患者も服用し易く、安定性に優れたスティック包装ドネペジル塩酸塩内用液を調製することが可能となることがわかった。
【0118】
ドネペジル塩酸塩の内用液剤の収容容器として、たとえ遮光容器を適用した場合にも、実際の取り扱いでは大匙等に移して放置することも考えられる。
【0119】
実施例1〜5のドネペジル塩酸塩の内用液剤を、透明白色ガラスアンプルに充填して直射日光下および1800lx紫外線照射下で保存したところ、直射日光下では48時間後に、紫外線照射下では14日後には黄白色析出物が認められた。
【0120】
この結果から、ドネペジル塩酸塩内用液剤は、1回分の服用量が、アルミニュウムラミネートポリエチレンフィルムまたはアルミニウムを蒸着させたプラスチックフィルムによって形成される包装体内に収容されていることが好ましいことがわかった。
【0121】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドネペジル塩酸塩と、
D−ソルビトールと、
エデト酸カルシウム塩と、
プロピレングリコールとを含有し、
前記ドネペジル塩酸塩の濃度は1.0mg/mL以上5.0mg/mL以下であり、
前記D−ソルビトールの濃度が20w/v%以上60w/v%以下であり、
前記プロピレングリコールの濃度が5w/v%以上30w/v%以下であり、
pHが3.0以上6.0以下である、ドネペジル塩酸塩の内用液剤。
【請求項2】
前記エデト酸カルシウム塩の濃度が0.04mg/mL以上4.0mg/mL以下である、請求項1に記載のドネペジル塩酸塩の内用液剤。
【請求項3】
パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、および、パラオキシ安息香酸ブチルの少なくとも1つを含有する、請求項1または請求項2に記載のドネペジル塩酸塩の内用液剤。
【請求項4】
25℃における粘度が5mPa・s以上100mPa・sである、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のドネペジル塩酸塩の内用液剤。
【請求項5】
1回分の服用量が、金属箔ラミネートプラスチックフィルムまたは遮光性金属蒸着可塑性フィルムによって形成される包装体内に収容されている、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のドネペジル塩酸塩の内用液剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188383(P2012−188383A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53249(P2011−53249)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】