説明

ドライアイススノー噴射装置およびドライアイススノーの噴射方法

【課題】液化炭酸ガスの無駄を抑えて、安定してドライアイススノーを生成して噴射させることができるドライアイススノー装置およびドライアイススノーの噴射方法を提供する。
【解決手段】真空断熱容器である炭酸ガス貯蔵容器を有し、冷却ユニットに設けられた圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力に基づいて炭酸ガスを冷却する制御を行なう制御ユニットを備えたドライアイススノー噴射装置と、炭酸ガスの冷却前の圧力に基づいて炭酸ガスを冷却する工程を含むドライアイススノーの噴射方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイススノー噴射装置およびドライアイススノーの噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば電子部品の洗浄には、洗浄後の乾燥が不要である等の理由から、ドライアイスの粒子(ドライアイススノー)を吹き付けて電子部品の表面に付着した異物等を除去するドライアイススノー噴射装置が利用されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、液化炭酸ガスが充填された液化炭酸ガス容器からの供給ラインおよび噴射用ガスが充填された噴射用ガス容器の供給ラインがそれぞれ接続された液化炭酸ガス供給ノズルにアダプタを介して接続された本体ノズルを有するドライアイススノー噴射装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載のドライアイススノー噴射装置においては、液化炭酸ガス容器から供給された液化炭酸ガスが、液化炭酸ガス供給ノズルに設けられた微小オリフィスから本体ノズルの筒部に噴射されて断熱膨張することによって冷却されてドライアイス粒子となり、本体ノズルからドライアイススノーとして噴射される。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のドライアイススノー噴射装置においては、液化炭酸ガスが液化炭酸ガス容器から取り出されて本体ノズルに導かれるまでの間に雰囲気等から入熱された場合に、液化炭酸ガスの温度が上昇して液化炭酸ガスの一部が気化した不安定な状態となる。このような不安定な状態で微小オリフィスから本体ノズルの筒部に液化炭酸ガスが噴射された場合には、ドライアイススノーが生成しにくく、ドライアイススノーを利用した洗浄に支障をきたすことがあった。
【0006】
そこで、たとえば特許文献2および特許文献3には、液化炭酸ガス容器から本体ノズルに液化炭酸ガスが導かれるまでの間に、冷却手段を設けて、液化炭酸ガスを過冷却状態とすることで、より安定的にドライアイススノーを生成する装置が記載されている。
【0007】
具体的には、特許文献2に記載のドライアイス噴射装置においては、ガス容器と噴射機との間に冷却機を設けて、噴射機に流入する液化炭酸ガスの温度がガス容器から取り出された液化炭酸ガスの温度に比べてたとえば2℃以上低くなるように調整される。
【0008】
また、特許文献3に記載のドライアイス製造装置においては、液化二酸化炭素を貯留する貯留容器から液化二酸化炭素を供給する供給管と、ドライアイス生成ノズルとの間に断熱した熱交換チャンバーが設られており、熱交換チャンバー内に、供給管の途中から分岐した分岐供給路に連結された噴出ノズルから液化二酸化炭素を噴出させて過冷却熱交換器を冷却して、液化二酸化炭素を過冷却状態とする装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録公報第2557383号
【特許文献2】特開2007−160244号公報
【特許文献3】特開2010−105837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載のドライアイス噴射装置においては、ガス容器から取り出された液化炭酸ガスの温度によって、噴射機に流入する液化炭酸ガスの冷却温度を制御している。しかしながら、ガス容器からたとえば−10℃等の低温の液化炭酸ガスを取り出す場合には、ガス容器から冷却機までの間に雰囲気等からの入熱によって液化炭酸ガスの温度が上昇して蒸発してしまうため、液化炭酸ガスの正確な温度を測定することができず、冷却機における冷却温度の制御を十分に行なうことができないという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のドライアイス製造装置においても、熱交換チャンバーの入口における液化炭酸ガスの温度と、熱交換チャンバーの出口における液化炭酸ガスの温度との温度差に基づいて、液化炭酸ガスの冷却温度を制御をしている。そのため、たとえばドライアイス製造装置の起動時および長時間停止後のように、供給管および温度計測部の温度が室温まで上昇している場合には、これらが冷却されるまで液化炭酸ガスを無駄に長時間流す必要があった。
【0012】
さらに、特許文献2および特許文献3に記載の装置においては、ドライアイススノーを長時間連続噴射させた際に液化炭酸ガス貯蔵容器の圧力が低下する等の理由により、噴射されたドライアイススノーの被処理物への衝突圧力(洗浄圧力)が変化するという問題もあった。
【0013】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、液化炭酸ガスの無駄を抑えて、安定してドライアイススノーを生成して噴射させることができるドライアイススノー装置およびドライアイススノーの噴射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、真空断熱容器である炭酸ガス貯蔵容器と、炭酸ガス貯蔵容器に連結された炭酸ガス供給路と、炭酸ガス供給路に設けられた冷却ユニットと、炭酸ガス供給路に設けられた圧力測定ユニットと、炭酸ガス供給路の冷却ユニットの下流側に設けられた温度測定ユニットと、炭酸ガス供給路の温度測定ユニットの下流側に設けられた液化炭酸ガス噴射ユニットと、冷却ユニット、圧力測定ユニット、温度測定ユニットおよび液化炭酸ガス噴射ユニットにそれぞれ接続された制御ユニットと、を備え、制御ユニットは、圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力に基づいて冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なうドライアイススノー噴射装置である。
【0015】
ここで、本発明のドライアイススノー噴射装置において、制御ユニットは、圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力における炭酸ガスの飽和温度Tと、温度測定ユニットで測定された温度T’とが、T’<Tの関係を満たすように冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なうことが好ましい。
【0016】
また、本発明のドライアイススノー噴射装置において、制御ユニットは、圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力がP1であるときの炭酸ガスの飽和温度T1と温度測定ユニットで測定された温度T1’と、圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力がP1よりも低いP2であるときの炭酸ガスの飽和温度T2と温度測定ユニットで測定された温度T2’とが、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なう
ことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明は、炭酸ガスの圧力を測定する工程と、炭酸ガスを冷却する工程と、冷却する工程の後に炭酸ガスを噴射する工程と、を含み、冷却する工程においては、測定された圧力における炭酸ガスの飽和温度Tと、冷却する工程後の炭酸ガスの温度T’とが、T’<Tの関係を満たすように炭酸ガスを冷却するドライアイススノーの噴射方法である。
【0018】
ここで、本発明のドライアイススノーの噴射方法において、冷却する工程においては、炭酸ガスの圧力がP1であるときの炭酸ガスの飽和温度T1と冷却する工程後の炭酸ガスの温度T1’と、炭酸ガスの圧力がP1よりも低いP2であるときの炭酸ガスの飽和温度T2と冷却する工程後の炭酸ガスの温度T2’とが、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように炭酸ガスを冷却することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液化炭酸ガスの無駄を抑えて、安定してドライアイススノーを生成して噴射させることができるドライアイススノー装置およびドライアイススノーの噴射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のドライアイススノー噴射装置の一例の模式的な構成を示す図である。
【図2】図1に示すドライアイススノー噴射装置を用いたドライアイススノー噴射方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0022】
図1に、本発明のドライアイススノー噴射装置の一例の模式的な構成を示す。図1に示すドライアイススノー噴射装置は、液化炭酸ガスを貯蔵する液化炭酸ガス貯蔵容器1と、液化炭酸ガス貯蔵容器1に連結されて液化炭酸ガスの流路となる液化炭酸ガス供給路5とを備えている。また、液化炭酸ガス供給路5の上流側から下流側にかけて、液化炭酸ガスの圧力を測定するための圧力測定ユニット7と、液化炭酸ガスを冷却するための冷却ユニット11と、冷却ユニット11の通過後の液化炭酸ガスの温度を測定するための温度測定ユニット10と、たとえば開閉弁等の液化炭酸ガスを噴射させるための液化炭酸ガス噴射ユニット12とがこの順に設けられている。さらに、圧力測定ユニット7、温度測定ユニット10および液化炭酸ガス噴射ユニット12は、それぞれ、これらのユニットを制御するための制御ユニット8に接続されている。なお、圧力測定ユニット7は、冷却ユニット11の上流側ではなく下流側に設けられていてもよい。
【0023】
液化炭酸ガス供給路5には、冷却ユニット11の冷媒17の流路となる冷媒流路16が取り付けられており、冷媒流路16が取り付けられている液化炭酸ガス供給路5の冷却ゾーン9において、液化炭酸ガス3と冷媒17とが熱交換を行ない、液化炭酸ガス3が冷却される。
【0024】
液化炭酸ガス噴射ユニット12の下流側にはたとえばオリフィス等のドライアイススノーを発生させるための絞りユニット14が設けられている。絞りユニット14には液化炭酸ガスの噴射により生成したドライアイススノーを供給するためのドライアイススノー供給路15の一端が連結されており、ドライアイススノー供給路15の他端には噴射ノズル21が連結されている。ここで、ドライアイススノー供給路15の外周面は断熱材19で覆われており、ドライアイススノー供給路15を通過するドライアイススノーと外部雰囲気との熱交換が遮断されている。
【0025】
また、図1に示すドライアイススノー噴射装置は、噴射用ガスを貯蔵する噴射用ガス貯蔵容器2と、噴射用ガス貯蔵容器2に連結されて噴射用ガスの流路となる噴射用ガス供給路6とを備えており、噴射用ガス供給路6にはたとえば開閉弁等の噴射用ガスを噴射させるための噴射用ガス噴射ユニット13が設けられている。
【0026】
また、噴射用ガス噴射ユニット13の下流側にはヒーター付き噴射ガス用供給路20が設けられており、ヒーター付き噴射ガス用供給路20の下流側の端部は噴射ノズル21に取り付けられている。ここで、ヒーター付き噴射ガス用供給路20の外周面は断熱材22で覆われている。
【0027】
なお、液化炭酸ガス供給路5の一部、圧力測定ユニット7、制御ユニット8、冷却ユニット11、温度測定ユニット10、液化炭酸ガス噴射ユニット12、絞りユニット14、断熱材19の一部、噴射用ガス供給路6の一部および噴射用ガス噴射ユニット13は、それぞれ、図1に示すドライアイススノー噴射装置の外壁18の内部に収容されている。
【0028】
以下、図1に示すドライアイススノー噴射装置を用いて、ドライアイススノーを噴射させる方法の一例について説明する。
【0029】
まず、液化炭酸ガス貯蔵容器1から液化炭酸ガス供給路5に液化炭酸ガス3を供給する。そして、液化炭酸ガス貯蔵容器1から液化炭酸ガス供給路5に供給された液化炭酸ガス3は液化炭酸ガス供給路5を通って装置の外壁18の内部に進入し、圧力測定ユニット7によってその圧力が測定される。
【0030】
次に、圧力測定ユニット7を通過した液化炭酸ガスは冷却ゾーン9を通過する際に冷却され、冷却ゾーン9の下流側に設けられた温度測定ユニット10にてその温度が測定される。
【0031】
次に、温度測定ユニット10の通過後の液化炭酸ガス3は、液化炭酸ガス噴射ユニット12によって絞りユニット14を介してドライアイススノー供給路15に噴射される。絞りユニット14からドライアイススノー供給路15に噴射された液化炭酸ガス3は、ドライアイススノー供給路15内で膨張し、冷却されてドライアイススノーとなり、噴射ノズル21に導入される。
【0032】
また、噴射用ガス貯蔵容器2からの噴射用ガス4が噴射用ガス供給路6を通って噴射用ガス噴射ユニット13によってヒーター付き噴射ガス用供給路20に噴射され、ヒーター付き噴射ガス用供給路20によって噴射用ガス4の温度が調節されながら噴射ノズル21に導入される。なお、噴射用ガス4としては、たとえば、ドライエアー、窒素ガス、または炭酸ガス等の反応不活性のガスを用いることができる。
【0033】
そして、噴射ノズル21に導入されたドライアイススノーは、同じく噴射ノズル21に導入された噴射用ガス4とともに、噴射ノズル21の開口部から噴射される。
【0034】
ここで、図1に示すドライアイススノー噴射装置においては、制御ユニット8が、圧力測定ユニット7で測定された液化炭酸ガス3の圧力に基づいて冷却ユニット11により液化炭酸ガス3を冷却する制御を行なうことを特徴としている。
【0035】
図2に、図1に示すドライアイススノー噴射装置を用いたドライアイススノー噴射方法の一例のフローチャートを示す。まず、ステップS1に示すように、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力が圧力測定ユニット7で測定される。そして、圧力測定ユニット7で測定された液化炭酸ガス3の圧力の情報が圧力測定ユニット7から制御ユニット8に送信される。
【0036】
次に、ステップS2に示すように、制御ユニット8は、当該液化炭酸ガス3の圧力の情報から当該圧力における液化炭酸ガス3の飽和温度Tを算出する。
【0037】
次に、ステップS3に示すように、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’が温度測定ユニット10で測定される。そして、温度測定ユニット10で測定された、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’の情報が温度測定ユニット10から制御ユニット8に送信される。
【0038】
そして、ステップS4に示すように、制御ユニット8は、冷却ゾーン9の通過前の飽和温度Tと、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’とが、T’<Tの関係を満たしているかどうかを判断する。
【0039】
制御ユニット8がT’<Tの関係が満たされていないと判断した場合には、ステップS5に示されるように、制御ユニット8は、冷却ユニット11を操作して、液化炭酸ガス3の冷却を行ない、液化炭酸ガス3の温度を低下させる。なお、冷却ユニット11による液化炭酸ガス3の冷却温度は、たとえば冷却ユニット11から冷媒流路16に供給される冷媒17の増減によって調節することができる。また、冷却ゾーン9においては、液化炭酸ガス3の蒸発分を凝縮して液化炭酸ガス3に戻すこともできる。
【0040】
一方、制御ユニット8がT’<Tの関係が満たされていると判断した場合には、ステップS6に示されるように、制御ユニット8は、液化炭酸ガス噴射ユニット12を操作して絞りユニット14を介したドライアイススノー供給路15に液化炭酸ガス3を供給し、噴射ノズル21からドライアイススノーの噴射を行なうことができる。なお、液化炭酸ガス3の冷却温度は、圧力測定ユニット7で測定された液化炭酸ガス3の圧力から制御ユニット8で飽和温度Tを算出しなくても、予め制御ユニット8に液化炭酸ガス3の各圧力時の冷却温度がT’<Tの関係が満たされるような数値に設定して、プログラミングしておいても良い。
【0041】
以上のように、図1に示すドライアイススノー噴射装置においては、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の温度ではなく、液化炭酸ガス3の圧力に基づいて、液化炭酸ガス3の冷却温度を制御している。
【0042】
したがって、図1に示すドライアイススノー噴射装置においては、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3が液体の状態であっても、外部雰囲気からの入熱等によって蒸発して気体の状態であってもその圧力は監視することができる。そのため、装置の起動時および長時間停止後等の場合にも、監視される圧力に基づいて液化炭酸ガス3の冷却温度が制御されるため、液化炭酸ガス供給路5の冷却等のために液化炭酸ガスを長時間無駄に流す必要がない。
【0043】
また、監視される圧力に基づいて冷却ゾーン9において冷却される液化炭酸ガス3の温度をドライアイススノーの生成に適した温度に制御することができる。
【0044】
そのため、図1に示すドライアイススノー噴射装置においては、液化炭酸ガス3の無駄を抑えて、安定してドライアイススノーを生成して噴射させることができる。
【0045】
以下の表1に、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力P(MPaG)と、液化炭酸ガス3の圧力がPのときの飽和温度T(℃)と、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’(℃)との関係の一例を示す。ここで、冷却ゾーン9における液化炭酸ガス3の冷却温度は、たとえば−10℃〜−56.6℃とすることができる。
【0046】
【表1】

【0047】
また、ドライアイススノーの噴射に伴い、液化炭酸ガス貯蔵容器1から供給される液化炭酸ガス3の圧力は次第に低下していく。
【0048】
ここで、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力がP1であるときの液化炭酸ガス3の飽和温度をT1とし、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度をT1’とする。また、P1から圧力が低下した後の冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力がP2(P2<P1)であるときの液化炭酸ガス3の飽和温度をT2とし、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度をT2’とする。このとき、制御ユニット8は、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように、冷却ユニット11によって、液化炭酸ガス3を冷却する制御を行なうことが好ましい。これにより、ドライアイススノーの噴射に伴って、液化炭酸ガス貯蔵容器1から供給される液化炭酸ガス3の圧力が低下して流量が低下した場合であっても、その流量の低下に合わせて液化炭酸ガス3の冷却温度を下げることによってドライアイススノーの生成量の低下を抑えることができるため、継続的に安定してドライアイススノーを生成して噴射することができる。
【0049】
たとえば、以下の表2に示すように、液化炭酸ガス3の圧力P1が2.3MPaG(ゲージ圧)であるとき(飽和温度T1=−13.4℃)には、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T1’が−15℃となるように液化炭酸ガス3を冷却する。このとき、(T1’−T1)の絶対値である|T1’−T1|は1.6℃となる。
【0050】
一方、液化炭酸ガス3の圧力P2が1.5MPaGであるとき(飽和温度T2=−26.6℃)には、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T2’が−35℃となるように液化炭酸ガス3を冷却する。このとき、(T2’−T2)の絶対値である|T2’−T2|は8.4℃となる。
【0051】
【表2】

【0052】
また、液化炭酸ガス貯蔵容器1としては、たとえば、ボンベ(シリンダー)、LGC(可般式低温液化ガス容器)またはCE(コールドエバポレーター)などを用いることができる。なかでも、液化炭酸ガス貯蔵容器1としては、LGCまたはCEなどの大型の真空断熱容器を用いると、容器の交換頻度を大幅に減らすことができるため好ましい。なお、液化炭酸ガス貯蔵容器1として真空断熱容器を用いた場合に充填される液化炭酸ガスの圧力は、たとえば0.6MPaG〜2.45MPaGとすることができる。
【0053】
なお、本明細書において、「真空断熱容器」とは、容器の少なくとも一部に設けられた真空空間によって容器内外の熱の出入りを抑制することが可能な液化ガス貯蔵容器のことを意味する。また、液化炭酸ガス貯蔵容器1は、真空断熱容器に準ずる簡易断熱された容器でも良い。
【0054】
以下の表3に、液化炭酸ガス貯蔵容器1の種類と、液化炭酸ガス貯蔵容器1に充填された液化炭酸ガスの圧力(MPaG)と、液化炭酸ガス貯蔵容器1に充填された液化炭酸ガスの圧力における飽和温度(℃)との関係を示す。
【0055】
【表3】

【0056】
なお、本明細書においては、「液化炭酸ガス」と表記しているが、「液化炭酸ガス」はそのすべてが液化状態となっていることに限定されず、その一部が気化した状態となっている場合も含まれる。
【0057】
表4において、本発明のドライアイススノー噴射装置(実施例)と、特許文献2に記載のドライアイス噴射装置(比較例1)と、特許文献3に記載のドライアイス製造装置(比較例2)との正確な冷却制御が開始可能となるまでの時間を比較する。
【0058】
表4の実施例の欄には、本願の図1の装置を用いて、真空断熱容器である液化炭酸ガス貯蔵容器1から常温付近および−10℃以下のそれぞれの温度の液化炭酸ガス3を取り出し、液化炭酸ガス噴射ユニット12を閉めた状態で、制御ユニット8による冷却ユニット11の正確な冷却制御が開始可能となるまでの時間が示されている。
【0059】
表4の比較例1の欄には、特許文献2の図1の冷却機と噴射機との間に絞り手段を設けた装置を用いて、ガス容器から所定温度の液化炭酸ガスを取り出し、絞り手段を開けた状態または閉めた状態で、正確な冷却制御が開始可能となるまでの時間が示されている。
【0060】
表4の比較例2の欄には、特許文献3の図1の装置を用いて、貯留容器から所定温度の液化炭酸ガスを取り出し、停止用電磁弁を開けた状態または閉めた状態で、正確な冷却制御が開始可能となるまでの時間が示されている。
【0061】
【表4】

【0062】
表4に示すように、実施例においては、圧力測定ユニット7に液化炭酸ガス3が流れてきた時点から正確な冷却制御が開始可能となるため、液化炭酸ガス噴射ユニット12を閉めてガス流れのない状態でも、液化炭酸ガス貯蔵容器1から液化炭酸ガス供給路5に取り出される液化炭酸ガスの温度が常温付近および−10℃以下のいずれの場合にも、瞬時(1秒以内)に正確な冷却制御が開始可能となる。
【0063】
また、実施例においては、当然のことながら、液化炭酸ガス噴射ユニット12を開けてガス流れのある場合には、瞬時(1秒以内)に正確な冷却制御が開始可能となる。
【0064】
したがって、実施例では、液化炭酸ガス噴射ユニット12を閉めた状態でガスを無駄に流さなくても、冷却温度の制御を開始することができるため、いつでもドライアイススノーを噴射可能な状態とすることができる。
【0065】
一方、比較例1においては、噴射機に流入する液化炭酸ガスの温度がガス容器から取り出された液化炭酸ガスの温度に比べてたとえば2℃以上低くなるように液化炭酸ガスの冷却が制御されることから、絞り手段を閉めてガス流れのない状態では、噴射機に流入する液化炭酸ガスの温度を測定できないため、正確な冷却制御を開始することができない。
【0066】
また、比較例1においては、絞り手段を開けてガス流れのある状態としたときには、温度センサに液化炭酸ガスが流れてきた時点から正確な冷却制御が開始可能となるため、ガス容器から取り出される液化炭酸ガスの温度が常温付近である場合には、正確な冷却制御が開始可能となるが、ガス容器から取り出される液化炭酸ガス流量が少なく温度センサへの到達前に液化炭酸ガスが蒸発してしまうため、正確な冷却制御を開始することができない。
【0067】
また、比較例2においては、停止用電磁弁を閉めてガス流れのない状態では、停止用電磁弁の下流側に設置されている噴出ノズルから液化二酸化炭素を噴出させることができないため、正確な冷却制御を開始することができない。
【0068】
また、比較例2においては、停止用電磁弁を開けてガス流れのある状態としたときには、温度センサに液化二酸化炭素が流れてきた時点から正確な冷却温度の制御が開始可能であるが、貯留容器から取り出した液化二酸化炭素の温度が常温付近である場合には、正確な冷却制御の開始が可能となるまで数十秒の時間がかかり、−10℃以下である場合にも温度センサに液化二酸化炭素が流れてきた時点から冷却温度の制御が開始可能であるが、液化二酸化炭素を大量に流して装置を冷却する必要があるために正確な冷却温度の制御を開始するまでには数十秒〜数分かかる。
【0069】
なお、表4の「ガス流れ」の欄において、「無」の表記は、液化炭酸ガス噴射ユニット12、絞り手段または停止用電磁弁が閉められて液化炭酸ガスの流れが無い場合を意味しており、「有」の表記は、液化炭酸ガス噴射ユニット12、絞り手段または停止用電磁弁が開けられて液化炭酸ガスの流れが有る場合を意味している。
【0070】
また、表4の「供給液化炭酸ガス温度」の欄には、液化炭酸ガス貯蔵容器1、ガス容器または貯留容器から取り出される液化炭酸ガスの温度が示されており、「不問」の表記はガスの温度に関わらず温度センサで液化炭酸ガスの温度が測定できないことを意味する。
【実施例】
【0071】
<実施例1>
図1に示すドライアイススノー噴射装置からドライアイススノーを富士写真フィルム(株)製の圧力測定フィルム(商品名:富士プレスケール)に噴射して、ドライアイススノーの衝突圧力を測定し、衝突圧力の最大差を算出した。
【0072】
(実験条件)
液化炭酸ガス貯蔵容器1:LGC
絞りユニット14:オリフィス
噴射用ガス4:ドライエアー、0.55MPaG、30℃
実験室温度:20〜25℃
具体的には、まず、真空断熱容器であるLGCからなる液化炭酸ガス貯蔵容器1から液化炭酸ガス供給路5に液化炭酸ガス3を供給した。そして、液化炭酸ガス貯蔵容器1から液化炭酸ガス供給路5に供給された液化炭酸ガス3の圧力Pを圧力測定ユニット7で測定し、制御ユニット8でその圧力Pのときの液化炭酸ガス3の飽和温度Tを算出した。表5に、圧力測定ユニット7で測定された液化炭酸ガス3の圧力P(MPaG)と、それぞれの圧力Pにおける飽和温度T(℃)とを示す。
【0073】
そして、圧力測定ユニット7を通過した液化炭酸ガス3を冷却ゾーン9で冷却し、冷却ゾーン9の下流側に設けられた温度測定ユニット10で冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’を測定した。表5に、それぞれの圧力Pにおける冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’(℃)を示す。
【0074】
ここで、実施例1においては、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’と、飽和温度Tとの差(T’−T)が−2℃となるように、制御ユニット8が冷却ユニット11を制御して液化炭酸ガス3の冷却を行なった。
【0075】
その後、液化炭酸ガス3を液化炭酸ガス噴射ユニット12から絞りユニット14を通してドライアイススノー供給路15に噴射し、ドライアイススノー供給路15内でドライアイススノーとして噴射ノズル21からドライエアーからなる噴射用ガス4とともに上記の圧力測定フィルムに対して垂直(距離20mm)に5秒間噴射した。
【0076】
そして、ドライアイススノー噴射後の圧力測定フィルムの色変化からドライアイススノーの衝突圧力(MPa)を測定し、衝突圧力の最大差(MPa)を算出した。その結果を表5に示す。
【0077】
表5に示すように、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度T’と、圧力Pに基づいて算出した飽和温度Tとの差(T’−T)が−2℃となるように液化炭酸ガス3の冷却の制御を行なった実施例1においては、冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力Pが2.3(MPaG)、1.9(MPaG)および1.5(MPaG)であるときの衝突圧力はそれぞれ41(MPa)、43(MPa)および45(MPa)であって、衝突圧力の最大差は4(MPa)であった。
【0078】
<実施例2>
冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力がP1、P2(P2<P1)であるときの飽和温度をそれぞれT1、T2とし、冷却ゾーン9の通過後の液化炭酸ガス3の温度をそれぞれT1’、T2’としたとき、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように、制御ユニット8が冷却ユニット11を制御して液化炭酸ガス3の冷却を行なったこと以外は実施例1と同様にして、ドライアイススノーの衝突圧力(MPa)を測定し、衝突圧力の最大差(MPa)を算出した。その結果を表5に示す。
【0079】
表5に示すように、上記のように液化炭酸ガス3の冷却を制御した実施例2においては冷却ゾーン9の通過前の液化炭酸ガス3の圧力Pが2.3(MPaG)、1.9(MPaG)および1.5(MPaG)であるときの衝突圧力はそれぞれ42(MPa)、42(MPa)および43(MPa)であって、衝突圧力の最大差は1(MPa)であった。
【0080】
<参考例>
冷却後の液化炭酸ガスの温度T’が−35℃で一定となるように液化炭酸ガスを冷却制御したこと以外は実施例2と同様にして実験を行なった。その結果を表5に示す。
【0081】
表5に示すように、参考例においては、冷却前の液化炭酸ガスの圧力Pが2.3(MPaG)、1.9(MPaG)および1.5(MPaG)であるときの衝突圧力はそれぞれ36(MPa)、40(MPa)および43(MPa)であって、衝突圧力の最大差は7(MPa)であった。
【0082】
【表5】

【0083】
<評価>
表5に示すように、実施例1および実施例2においては、参考例と比べて、ドライアイススノーをより安定的に生成して噴射することができた。これは、実施例1および実施例2においては、参考例と異なり、冷却前の液化炭酸ガスの圧力に基づいて適切な冷却制御を行なっているためと考えられる。
【0084】
また、表5に示すように、実施例2においては、実施例1と比べて、ドライアイススノーをより安定的に生成して噴射することができた。これは、液化炭酸ガス貯蔵容器1内が低圧になるほど、液化炭酸ガス噴射ユニット12への液化炭酸ガスの流入量が減少するため、冷却温度を下げて過冷却度を上げることにより、ドライアイスの生成率が上がり、液化炭酸ガス貯蔵容器1内の圧力の変化に関わらずドライアイスの発生量をほぼ一定にすることができたことによるものと考えられる。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、ドライアイススノー噴射装置およびドライアイススノーの噴射方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 液化炭酸ガス貯蔵容器、2 噴射用ガス貯蔵容器、3 液化炭酸ガス、4 噴射用ガス、5 液化炭酸ガス供給路、6 噴射用ガス供給路、7 圧力測定ユニット、8 制御ユニット、9 冷却ゾーン、10 温度測定ユニット、11 冷却ユニット、12 液化炭酸ガス噴射ユニット、13 噴射用ガス噴射ユニット、14 絞りユニット、15 ドライアイススノー供給路、16 冷媒流路、17 冷媒、18 外壁、19 断熱材、20 ヒーター付き噴射ガス用供給路、21 噴射ノズル、22 断熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱容器である炭酸ガス貯蔵容器と、
前記炭酸ガス貯蔵容器に連結された炭酸ガス供給路と、
前記炭酸ガス供給路に設けられた冷却ユニットと、
前記炭酸ガス供給路に設けられた圧力測定ユニットと、
前記炭酸ガス供給路の前記冷却ユニットの下流側に設けられた温度測定ユニットと、
前記炭酸ガス供給路の前記温度測定ユニットの下流側に設けられた液化炭酸ガス噴射ユニットと、
前記冷却ユニット、前記圧力測定ユニット、前記温度測定ユニットおよび前記液化炭酸ガス噴射ユニットにそれぞれ接続された制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、前記圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力に基づいて前記冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なう、ドライアイススノー噴射装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力における炭酸ガスの飽和温度Tと、前記温度測定ユニットで測定された温度T’とが、T’<Tの関係を満たすように前記冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なう、請求項1に記載のドライアイススノー噴射装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、前記圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力がP1であるときの炭酸ガスの飽和温度T1と前記温度測定ユニットで測定された温度T1’と、前記圧力測定ユニットで測定された炭酸ガスの圧力が前記P1よりも低いP2であるときの炭酸ガスの飽和温度T2と前記温度測定ユニットで測定された温度T2’とが、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように前記冷却ユニットにより炭酸ガスを冷却する制御を行なう、請求項1または2に記載のドライアイススノー噴射装置。
【請求項4】
炭酸ガスの圧力を測定する工程と、
炭酸ガスを冷却する工程と、
前記冷却する工程の後に炭酸ガスを噴射する工程と、を含み、
前記冷却する工程においては、前記測定された圧力における炭酸ガスの飽和温度Tと、前記冷却する工程後の炭酸ガスの温度T’とが、T’<Tの関係を満たすように炭酸ガスを冷却する、ドライアイススノーの噴射方法。
【請求項5】
前記冷却する工程においては、
炭酸ガスの圧力がP1であるときの炭酸ガスの飽和温度T1と前記冷却する工程後の炭酸ガスの温度T1’と、炭酸ガスの圧力が前記P1よりも低いP2であるときの炭酸ガスの飽和温度T2と前記冷却する工程後の炭酸ガスの温度T2’とが、T1’<T1、かつT2’<T2、かつ|T1’−T1|<|T2’−T2|の関係を満たすように炭酸ガスを冷却する、請求項4に記載のドライアイススノーの噴射方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−78735(P2013−78735A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220695(P2011−220695)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】